説明

ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン誘導体の製造方法、アミノジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン、及びその使用

【課題】リン原子上において窒素化合物で置換されている(6H)−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン誘導体の簡単で経済的な製造法、およびそれ自体の提供。
【解決手段】商業的に入手できるが比較的不活性な6H−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシド(II)とアミン(R4-NH2)とを反応させ、式(Iω)の(6H)−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン誘導体を合成する。


(式中、R1、R2は、同一か又は異なり、水素、又はアルキル基など、R4はアルキル基などを示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、商業的に入手できる6H−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシドを用いる、リン原子上において窒素化合物で置換されている(6H)−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリンの一般的な合成に関する。これらの窒素含有(6H)−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリンは、更なる合成のための反応性出発物質として、又は難燃剤として、或いは安定剤として用いることができる。
【背景技術】
【0002】
6−アルキルアミノ−(6H)−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリンの単一の公知の製造法は、アミンによる6−クロロ−(6H)−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリンの転化である。
【0003】
【化1】

【0004】
この方法はEP−0005441−B1及びJP−54138565に記載されている。
6−アルキルアミノ−(6H)−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリンを合成するための公知の方法においては、6−クロロ−(6H)−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリンが出発物質として必要である。これらの塩素含有オキサホスホリンは、6H−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシド:式IIの製造における中間生成物である。しかしながら、これらは加水分解に対して非常に感受性であり、そうでなければそれほど安定ではなく、したがって一般的に単離されずにその製造の直後に6H−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシド:IIに転化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】EP−0005441−B1
【特許文献2】JP−54138565
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、商業的に入手できるが比較的不活性の6H−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシド:IIから出発して、簡単で経済的な方法で、リン原子上において窒素化合物で置換されている(6H)−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン誘導体Iを製造することを可能にする方法を開発することである。この方法においては、コストの高い試薬は必要でなく、使用できない副生成物は生成しない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、請求項1の特徴を有する窒素含有ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン誘導体:Iの製造方法、請求項13の特徴を有するアミノジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン:VII、並びに請求項15の特徴を有する製造方法の生成物の使用に関して達成される。それぞれの従属項は、それによって有利な展開を表す。
【0008】
したがって、本発明によれば、
一般式I:
【0009】
【化2】

【0010】
のジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン誘導体の製造方法であって、
一般式II:
【0011】
【化3】

【0012】
の6H−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシドを、(α)一般式III:
Z−A (III)
の第1級アミン、第2級アミン、アミン誘導体、及び/又はヒドラジン誘導体と反応させる;
(一般式I、II、及びIIIにおいて、それぞれ互いに独立して、
x及びyは、0、1、2、3、又は4であり;
及びRは、同一か又は異なり、水素、線状又は分岐のC〜C22アルキル基、線状又は分岐のC〜C22オキサ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、チオアリール基、チオアルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルケニル基、線状又は分岐のC〜C22アルキニル基、線状又は分岐のC〜C22ヒドロキシアルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルコキシカルボニルアルキル基、C〜C12シクロアルキル基、C〜C14アリール基、C〜C22アラルキル基、C〜C22アルキルアリール基、場合によっては置換されているピペリジン−4−イル基、及び/又はハロゲン原子を意味し;
Aは、第1級アミン基、同じか又は混合して置換されている第2級アミン基、複素環式アミン基、又はヒドラジン誘導体基であり;
Zは、水素、リチウム、ナトリウム、又はカリウムである)
ことを特徴とする上記方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
アルキルスルホニル又はアリールスルホニル基は、−SO−アルキル又は−SO−アリール基とも呼ぶ。
オキサ基という用語によって、例えば−O−アルキル又は−O−アリールのような橋架原子として酸素原子を有する基が理解される。
【0014】
商業的に入手できる6H−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシド:IIを用いるアミン及び/又はヒドラジンの直接転化による窒素含有(6H)−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン誘導体:Iの製造は、今日まで知られていない。
【0015】
新しい合成法においては、商業的に入手できる6H−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシド:IIを用いて開始することができる。転化は、対応するアミン及び/又はヒドラジン又はその誘導体との直接反応によって行われ、更なる試薬は必要ない。
【0016】
本発明においては、プロセスが、最新技術において必要な三価の塩素化リン化合物の代わりに五価のリン化合物で開始されることも同様に有利である。これに関し、反応は特異的に制御することができ、一般に三価のリン化学系において頻度を増して生成するような副生成物を回避することができる。
【0017】
アミン基及び/又はヒドラジン誘導体基(式I又は式IIIの基A)は6個以下の窒素原子を含んでいてよい。
式I又は式IIIの好ましいアミン基Aは、一般式IV:
【0018】
【化4】

【0019】
(式中、
は、水素、線状又は分岐のC〜C22アルキル基、線状又は分岐のC〜C22オキサ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、チオアリール基、チオアルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルケニル基、線状又は分岐のC〜C22アルキニル基、線状又は分岐のC〜C22ヒドロキシアルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルコキシカルボニルアルキル基、C〜C12シクロアルキル基、C〜C14アリール基、C〜C22アラルキル基、C〜C22アルキルアリール基、又は場合によっては置換されているピペリジン−4−イル基を意味し;
は、線状又は分岐のC〜C22アルキル基、線状又は分岐のC〜C22オキサ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、チオアリール基、チオアルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルケニル基、線状又は分岐のC〜C22アルキニル基、線状又は分岐のC〜C22ヒドロキシアルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルコキシカルボニルアルキル基、C〜C12シクロアルキル基、C〜C14アリール基、C〜C22アラルキル基、C〜C22アルキルアリール基、又は場合によっては置換されているピペリジン−4−イル基を意味する)
によって表される。
【0020】
それに代えて、又はそれに加えて、ヒドラジン誘導体基を同様に有利に用いることができ、ここでは(式I又は式IIIの)基Aは好ましくは、一般式V:
【0021】
【化5】

【0022】
(式中、
及びRは上記に示す意味を有し;
は、水素、線状又は分岐のC〜C22アルキル基、線状又は分岐のC〜C22オキサ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、チオアリール基、チオアルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルケニル基、線状又は分岐のC〜C22アルキニル基、線状又は分岐のC〜C22ヒドロキシアルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルコキシカルボニルアルキル基、C〜C12シクロアルキル基、C〜C14アリール基、C〜C22アラルキル基、C〜C22アルキルアリール基、又は場合によっては置換されているピペリジン−4−イル基を意味する)
の基を表す。
【0023】
本発明にかかる反応は溶媒を用いずに行うことができるが、不活性非プロトン性溶媒中で行うこともでき、ここで溶媒は、特にリグロイン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、スルホラン、アセトニトリル、ジオキサン、ジ−n−ブチルエーテル、1,2−ジクロロエタン、ジメチルスルホキシド、酢酸エステル、メチルエチルケトン、ニトロベンゼン、ニトロメタン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、トリクロロエタン、及び/又はこれらの混合物を含む群から選択される。
【0024】
ここで、一般式IIIのアミン及び/又はヒドラジン誘導体を式IIのオキサホスホリンオキシドに対するモル質量比で用いることのできる混合比は、例えば1:1〜50:1、好ましくは1:1〜20:1、特に好ましくは1:1〜10:1である。
【0025】
一般式II又はIIIの反応成分は、それぞれ幾つかに分けて反応混合物に加えることができる。
好ましくは、式IIの6H−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシドは粉末として用いる。ここで、粉末の平均粒径は、0.1〜0.4mm、好ましくは0.2〜0.3mmである。
【0026】
更なる有利な態様においては、反応は10〜200℃の間、好ましくは20〜120℃の間の温度で行う。
粗生成物は、115〜160℃、好ましくは125〜145℃において、4mbar未満、好ましくは1mbar未満の圧力における蒸留によって精製する。
【0027】
請求項1にしたがう本発明にかかる反応(α)においては、一般式VI:
【0028】
【化6】

【0029】
(式中、R、R、A、x、及びyは上記に示す意味を有する)
の開鎖副生成物が生成する可能性がある。ここでは、この副生成物を例えば濾過又は遠心分離によって反応混合物から分離し、熱分解(反応(β))によって式IIのオキサホスホリンオキシドを、また水分離によって式IIIの化合物をそれから回収することが特に有利である。
【0030】
ここで、熱分解を80〜280℃の間、好ましくは100〜200℃の間の温度で行うと有利である。
ここで同様に、熱分解を減圧下、特に100mbar未満、好ましくは15mbar未満、特に好ましくは0.01〜10mbarの圧力で行うと有利である。減圧という用語によっては常圧未満の圧力が理解される。
【0031】
ここで特に経済的及び環境的な観点からは、少なくとも熱分解(反応(β))中に生成する式IIのオキサホスホリンオキシド、好ましくは熱分解中に生成する式IIのオキサホスホリンオキシド及び式IIIの窒素化合物の両方を、抽出物としてプロセスに再び供給すると有利である。
【0032】
2つの反応(α)及び(β)を組み合わせると、水がプロセスの唯一の副生成物である。
本発明によれば、一般式I:
【0033】
【化7】

【0034】
(式中、R、R、x、y、及びAは上記に示す意味を有する)
の窒素含有ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリンも提供される。
好ましい変法においては、一般式VII:
【0035】
【化8】

【0036】
(式中、R、R、R、x、及びyは上記に示す意味を有する)
の窒素含有ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリンが提供される。
ここで、この窒素含有ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリンは、6H−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシド:IIと第1級アミン:IVとの反応から生成し、特に上記記載の方法にしたがって製造することができる。
【0037】
式I又は式VIIにしたがう窒素含有ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリンは、プラスチック材料及び/又はエラストマー用の難燃剤、及び/又は酸素、光、暖気、及び/又は熱の影響による損傷に対する安定剤として用いられる。
【0038】
以下の態様、反応式、及び実施例を参照して本発明をより詳細に説明するが、本発明はここで示す特定のパラメーターに限定されない。
【実施例】
【0039】
反応(α)及び(β)の概略的な実施例:
リン原子上において窒素化合物で置換されている(6H)−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリンの製造は、例えば、反応媒体として不活性の非プロトン性溶媒を用いて、商業的に入手できる6H−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシド:IIを第1級脂肪族アミン:IIIωで転化させることによって行うことができる。
【0040】
第1の反応(α)は、6H−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシド:IIを第1級脂肪族アミン(IIIω)で、半分は6−アルキルアミノ−(6H)−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン:Iω、半分は6H−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシドの対応するアルキルアンモニウム塩:VIωに転化させることを含む。
【0041】
【化9】

【0042】
(式中、R、R、及びRは上記に示す意味を有する)
第2の反応(β)である熱分解においては、反応式(β)にしたがって、一緒に生成した6H−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシドのアルキルアンモニウム塩:VIωを、真空下で加熱することによって分解する。これにより、6H−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシド:II及び第1級アミンが回収される。
【0043】
【化10】

【0044】
(式中、R、R、及びRは上記に示す意味を有する)
これらの物質(II又はIIIω)は、6−アルキルアミノ−(6H)−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン:Iωの合成のために再び用いることができる。出発物質の回収を行う場合には、6H−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシド:IIを完全に6−アルキルアミノ−(6H)−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン:Iωに転化させることができ、水だけが廃棄生成物として生成する。全転化は、この場合には反応式(γ)によって示すことができる。
【0045】
【化11】

【0046】
試験実施例:
1.6H−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシド:IIaからの6−N(1−プロピルアミノ)−(6H)−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン:Ia:
【0047】
【化12】

【0048】
頑丈な撹拌装置、還流冷却器、固体物質を添加するための装置、不活性ガス移送管、温度計、及び加熱浴を取り付けた4Lのフラスコ内において、1600mLのn−ヘプタン及び9.0モル(532g、740mL)の1−プロピルアミン(IIIa)の混合物を45℃に加熱した。次に、激しく撹拌しながら0.267モル(57.64g)の6H−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシド:IIaを加えた。この出発物質は、約0.25mmの平均粒径を有する粉末として用いた。固体物質の第1の添加の後、温度を45℃において更に45分間保持し、激しく撹拌すると、粒子は粘稠な液滴に転化した。次に、4gの種晶(1−プロピルアンモニウム−(2−ヒドロキシ−ビフェニル−2−イル)ホスフィネート:VIa)を加えた。次に、反応混合物を10分以内で52〜53℃に加熱し、このレベルにおいて更に10分間保持し、次に47℃に冷却した。更に激しく撹拌を行うと、液滴から粒状の固体物質が生成した。47℃において45分後、出発物質:IIaの第2の部分(0.267モル;57.64)を加え、それぞれ45分後に固体物質の第3又は第4の添加を行った(それぞれ0.267モル又は57.64g)。それぞれ35分の間隔でIIaの残りの4つの部分を加え(それぞれ0.267モル又は57.64g)、温度を53℃に徐々に上昇させた。この2時間20分間において、更に3.0モル(177g;246mL)の1−プロピルアミン(IIIa)も滴下した。得られた懸濁液を53℃において更に2時間、更に約20℃において5時間撹拌した。これに続いて、過剰の1−プロピルアミン(IIIa)を留去した。次に、300mLのn−ヘプタンを加え、熱を供給しないで更に1時間撹拌した。その後、ガラスフリットを用いて湿分を排除しながら粒状の固体物質:VIaを濾別し、フィルターケーキをそれぞれ150mLのn−ヘプタンで2回すすいだ。ここで、濾液を合わせて蒸留装置中に移し、溶媒を留去した。蒸留残渣として粘稠の明黄色の液体が得られ、これは98〜99モル%以下の生成物:Iaを含んでいた。この粗生成物を高真空(0.1mbar)下で蒸留した。135〜138℃において化合物Iaが無色の油状液として留出した。収量:247g又は理論量の45%。
【0049】
1H-NMR (DMSO-d6, 250MHz); δ= 0.52-0.63 (t, 3H); 0.97-1.24 (m, 2H); 2.43-2.60 (m, 2H); 4.72-4.83 (q, 1H); 7.06-7.20 (m, 2H); 7.28-7.38 (m, 1H); 7.40-7.50 (m, 1H); 7.50-7.60 (m, 2H); 8.0-8.09 (m, 2H);
13C-NMR (DMSO-d6, 63MHz); δ=11.29; 25.70; 25.75; 46.55; 46.69; 120.73; 122.80; 123.33; 123.49; 123.71; 125.39; 127.62; 127.82; 129.84; 130.60; 130.71; 131.42; 133.14; 133.23; 133.54; 133.58; 150.94; 151.07;
31P-NMR (DMSO-d6):δ=79.18。
【0050】
シフトδの詳細はそれぞれppmである。
固体物質:VIaは、真空下で加熱することによって分解することができ、出発物質:IIa及び1−プロピルアミンが回収され、更に水が生成する。以下においてこれを説明する。
【0051】
熱分解によるフィルターケーキからの6H−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシド:IIaの回収:
6−プロピルアミノ−(6H)−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン:Iaの合成中に生成した貧溶解性の固体物質:VIaを、45分間で165℃に加熱し、圧力を約5mbarにゆっくりと低下させた。化合物の熱分解が開始したら直ぐに、固体物質が溶融し、発泡を制限するために撹拌を開始した。熱分解中に生成する化合物である1−プロピルアミン(IIIa)及び水を真空トラップ中で凝縮した。分解プロセスを完了させるために溶融体を165℃及び5mbarにおいて更に90分間撹拌し、真空を解除した後、金属皿中に注ぎ入れた。これは冷却中に固化して密な固体物質が形成され、これをまずは粗粉砕し、次に粉砕して粉末を形成した。かくして得られた白色の粉末は99モル%以下の6H−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシド:IIaを含んでおり、更なる精製なしに6−N(1−プロピルアミノ−(6H)−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン:Iaの合成のために用いることができた。
【0052】
2.6H−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシド:IIaからの6−N(1−ブチルアミノ)−(6H)−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン:Ib:
【0053】
【化13】

【0054】
撹拌装置、不活性ガス移送管を有する還流冷却器、温度計、及び加熱浴を取り付けた、窒素又はアルゴンを充填した500mLのフラスコ内に、0.2モル(43.23g)の6H−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシド:IIa及び0.6モル(44g;59mL)の1−ブチルアミン(IIIb)を連続して加えた。2つの物質は最初はパルプ様の懸濁液を形成し、これを徐々に加熱すると撹拌することができた。約1時間中に、粉末として加えた固体出発物質が溶解し、黄色の明澄な液体が生成した。外部からの熱の供給を行わずに75分後において、温度が55℃に上昇し、このレベルにおいて更に30分間保持し、次に約20℃に低下させた。ここで、真空下で過剰の1−ブチルアミン(IIIb)を留去し、冷却した受容容器内に回収した。フラスコ内に殆ど無色の粘稠な残渣が残留した。これを100mLのn−ヘプタンと一緒に70℃に加熱した。室温に冷却した後、基体からデカントすることによって明澄な溶液を分離し、溶媒を留去した。蒸留残渣として明黄色の液体が得られた。この粗生成物を高真空(0.1mbar)下で蒸留した。137〜142℃において、化合物Ibが、98モル%の純度を有する無色の油状液として留出した。
【0055】
収量:20g又は理論量の37%。
1H-NMR (DMSO-d6, 250MHz); δ= 0.55-0.68 (t, 3H); 0.82-1.17 (m, 4H); 2.22-2.38 (m, 2H); 4.72-4.83 (q, 1H); 7.05-7.22 (m, 2H); 7.30-7.38 (m, 1H); 7.42-7.51 (m, 1H); 7.51-7.60 (m, 2H); 8.08-8.12 (m, 2H);
13C-NMR (DMSO-d6, 63MHz); δ=13.75; 19.27; 34.58; 34.65; 44.05; 44.18; 120.66; 122.80; 123.36; 123.45; 123.67; 125.41; 127.64; 129.81; 130.62; 130.71; 131.42; 132.96; 133.05; 133.61; 151.03; 151.16;
31P-NMR (DMSO-d6):δ=79.09。
【0056】
シフトδの詳細はそれぞれppmである。
3.(6H)−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシド:IIaからの6−(N−イソプロピルアミノ)−(6H)−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン:Ic:
【0057】
【化14】

【0058】
撹拌装置、不活性ガス移送管を有する還流冷却器、温度計、及び加熱浴を取り付けた1Lのフラスコ内において、150mLのトルエン、150mLのn−ヘプタン、及び1モル(59g;86mL)のイソプロピルアミン(IIIc)の混合物を45℃に加熱した。次に、粉末に粉砕した0.125モル(27g)の6H−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシド:IIaを加えた。出発物質IIaの更に三つの部分(それぞれ0.125mL又は27g)をそれぞれ1時間の間隔で加え、混合物の温度を徐々に50℃に上昇させた。その後、0.5モル(30g;43mL)のアミン(IIIc)を加え、得られた懸濁液を更に1.5時間撹拌した。次に、温度を54℃に上昇させ、このレベルにおいて1.5時間保持した。この時間中に基体は大部分溶解した。加熱を停止した後、反応フラスコを不活性ガス下に12時間保持すると、粘稠な基体が形成された。ここで、上澄み溶液をデカントし、不完全真空(a partial vacuum)下でその出発体積の約1/3に濃縮した。得られたパルプ様の残渣に150mLのn−ヘプタンを加え、この混合物を約50℃に加熱した。冷却した後、微粒懸濁液をガラスフリットを通して湿分を排除しながら濾過し、フィルターケーキ(N−イソプロピルアンモニウム−(2’−ヒドロキシビフェニル−2−イル)ホスフィネート:VIc)をそれぞれ30mLのn−ヘプタンで2回すすいだ。この固体物質:VIcは真空下で加熱することによって分解することができ、出発物質である6H−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシド:IIa及びイソプロピルアミン並びに水が解離した。ここで、合わせた濾液から揮発性成分を留去した。生成物Icが約93モル%の割合を有する油状の残渣が残留した。この粗生成物を高真空(約0.1mbar)下で蒸留した。130〜133℃において、化合物Icが無色の油状液として留出した。これは、98モル%の純度で得られた。
【0059】
収量:40g又は理論量の31%。
1H-NMR (DMSO-d6, 250MHz); δ= 0.66-0.78 (m, 6H); 2.77-2.98 (m, 1H); 4.521-4.61 (q, 1H); 6.96-7.10 (m, 2H); 7.22-7.29 (m, 1H); 7.30-7.40 (m, 1H); 7.40-7.51 (m, 2H); 7.91-7.99 (m, 2H);
31P-NMR (DMSO-d6):δ=75.14。
【0060】
シフトδの詳細はそれぞれppmである。
4.6H−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシド:IIaからの6−(N−アリルアミノ)−(6H−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン:Id:
【0061】
【化15】

【0062】
撹拌装置、不活性ガス移送管を有する還流冷却器、温度計、及び加熱浴を取り付けた1Lのフラスコ内において、150mLのトルエン、150mLのn−ヘプタン、及び1モル(57g;75mL)のアリルアミン(IIId)の混合物を45℃に加熱した。次に、粉末に粉砕した0.125モル(27g)の6H−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシド:IIaを撹拌しながら加えた。出発物質IIaの3つの更なる部分をそれぞれ1時間の間隔で加え、温度を50℃に徐々に上昇させた。次に、温度を変化させないで混合物を更に1時間撹拌した。その後、得られた懸濁液に0.5モル(30g;43mL)のアリルアミン(IIId)を加え、次に55℃に加熱した。温度を55℃において更に3時間保持し、最後に約20℃に低下させ、撹拌を中断なしに行った。冷却した後、反応フラスコを不活性ガス下に12時間保持した。続いて、上澄み液であるアリルアミン(IIId)を留去した。得られた微粒懸濁液を、ガラスフリットを通して湿分を排除しながら濾過し、フィルターケーキ(N−アルキルアンモニウム−(2’−ヒドロキシ−ビフェニル−2−イル)ホスフィネート:VId)をそれぞれ30mLのn−ヘプタンで2回すすいだ。この固体物質VIdは真空下で加熱することによって分解することができ、出発物質IIa及びアリルアミンIIIdが回収され、水が生成した。ここで、合わせた濾液から揮発性成分を留去した。蒸留残渣を150mLのn−ヘプタンと一緒に50℃に加熱すると、乳濁状の混合物が生成した。室温に冷却した後、後者から固体基体が徐々に沈殿し、これから基体のデカントを行った。真空下において溶液からn−ヘプタンを留去した。生成物Idが約96モル%の割合を有する油状残渣が残留した。真空蒸留を用いて生成物の純度を99モル%に上昇させることができた。化合物Idは、約0.1mbarの圧力で130〜133℃において留出した。
【0063】
収量:36g又は理論量の28%。
1H-NMR (DMSO-d6, 250MHz); δ= 3.26-3.40 (m, 2H); 4.85-4.97 (m, 3H); 5.53-5.70 (m, 1H); 7.16-7.28 (t, 2H); 7.37-7.44 (m, 1H); 7.44-7.56 (m, 1H); 7.57-7.73 (m, 2H); 8.03-8.14 (m, 2H);
31P-NMR (DMSO-d6):δ=79.84。
【0064】
シフトδの詳細はそれぞれppmである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式I:
【化1】

のジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン誘導体の製造方法であって、
一般式II:
【化2】

の6H−ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン−6−オキシドを、(α)一般式III:
Z−A
式III
の第1級若しくは第2級アミン、アミン誘導体、及び/又はヒドラジン誘導体と反応させる;
(一般式I、II、及びIIIにおいて、それぞれ互いに独立して、
x及びyは、0、1、2、3、又は4であり;
及びRは、同一か又は異なり、水素、線状又は分岐のC〜C22アルキル基、線状又は分岐のC〜C22オキサ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、チオアリール基、チオアルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルケニル基、線状又は分岐のC〜C22アルキニル基、線状又は分岐のC〜C22ヒドロキシアルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルコキシカルボニルアルキル基、C〜C12シクロアルキル基、C〜C14アリール基、C〜C22アラルキル基、C〜C22アルキルアリール基、場合によっては置換されているピペリジン−4−イル基、及び/又はハロゲン原子を意味し;
Aは、第1級アミン基、同じか又は混合して置換されている第2級アミン基、複素環式アミン基、又はヒドラジン誘導体基であり;
Zは、水素、リチウム、ナトリウム、又はカリウムである)
ことを特徴とする上記方法。
【請求項2】
アミン基及び/又はヒドラジン誘導体基Aが6個以下の窒素原子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アミン基Aが、一般式IV:
【化3】

(式中、
は、水素、線状又は分岐のC〜C22アルキル基、線状又は分岐のC〜C22オキサ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、チオアリール基、チオアルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルケニル基、線状又は分岐のC〜C22アルキニル基、線状又は分岐のC〜C22ヒドロキシアルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルコキシカルボニルアルキル基、C〜C12シクロアルキル基、C〜C14アリール基、C〜C22アラルキル基、C〜C22アルキルアリール基、又は場合によっては置換されているピペリジン−4−イル基を意味し;
は、線状又は分岐のC〜C22アルキル基、線状又は分岐のC〜C22オキサ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、チオアリール基、チオアルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルケニル基、線状又は分岐のC〜C22アルキニル基、線状又は分岐のC〜C22ヒドロキシアルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルコキシカルボニルアルキル基、C〜C12シクロアルキル基、C〜C14アリール基、C〜C22アラルキル基、C〜C22アルキルアリール基、又は場合によっては置換されているピペリジン−4−イル基を意味する)
の基を表す、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ヒドラジン誘導体基Aが、一般式V:
【化4】

(式中、
及びRは上記に示す意味を有し;
は、水素、線状又は分岐のC〜C22アルキル基、線状又は分岐のC〜C22オキサ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、チオアリール基、チオアルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルケニル基、線状又は分岐のC〜C22アルキニル基、線状又は分岐のC〜C22ヒドロキシアルキル基、線状又は分岐のC〜C22アルコキシカルボニルアルキル基、C〜C12シクロアルキル基、C〜C14アリール基、C〜C22アラルキル基、C〜C22アルキルアリール基、又は場合によっては置換されているピペリジン−4−イル基を意味する)
の基である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
反応を、不活性非プロトン性溶媒中、特にリグロイン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、スルホラン、アセトニトリル、ジオキサン、ジ−n−ブチルエーテル、1,2−ジクロロエタン、ジメチルスルホキシド、酢酸エステル、メチルエチルケトン、ニトロベンゼン、ニトロメタン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、トリクロロエタン、及び/又はこれらの混合物を含む群から選択される溶媒中で行う、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
式IIIの第1級アミン、第2級アミン、アミン誘導体、及び/又はヒドラジン誘導体を、1:1〜50:1、好ましくは1:1〜20:1、特に好ましくは1:1〜10:1の式IIのオキサホスホリンオキシドに対するモル質量比で用いる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
反応を10〜200℃の間、好ましくは20〜120℃の間の温度で行う、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
一般式VI:
【化5】

(式中、R、R、A、x、及びyは上記に示す意味を有する)
の反応中に生成する副生成物を反応混合物から分離し、それから式IIのオキサホスホリンオキシドを熱分解によって回収し、また式IIIの化合物を水分離によって回収する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
熱分解を、80〜280℃の間、好ましくは100〜200℃の間の温度で行う、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
熱分解を、減圧下、特に100mbar未満、好ましくは15mbar未満の圧力において行う、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも式IIのオキサホスホリンオキシド、好ましくは式IIのオキサホスホリンオキシド及び式IIIのアミンを反応に再び供給する、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
一般式I:
【化6】

(式中、R、R、x、y、及びAは上記に示す意味を有する)
の窒素含有ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン。
【請求項13】
一般式VII:
【化7】

(式中、R、R、R、x、及びyは上記に示す意味を有する)
の窒素含有ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法にしたがって製造することができる、請求項12又は13に記載のジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリン。
【請求項15】
プラスチック材料及び/又はエラストマー用の難燃剤、及び/又は酸素、光、暖気、及び/又は熱の影響による損傷に対する安定剤としての、請求項1〜11のいずれかに記載の方法によって製造することができる窒素含有ジベンズ[c,e][1,2]−オキサホスホリンの使用。

【公開番号】特開2010−47568(P2010−47568A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−183229(P2009−183229)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(508375468)エーエムジー−パテント・アクチェンゲゼルシャフト (9)
【Fターム(参考)】