説明

ジペプチジルペプチダーゼI活性を評価するためのハイスループットアッセイ

ジペプチジルペプチダーゼI(DPPI)活性を調節する化合物のスクリーニング方法は、DPPIおよび化合物を含んでなる反応混合物にDPPIのペプチド基質を添加する段階(DPPIのペプチド基質は最低3アミノ酸を有しかつS−S部位に加えてDPPIの1結合部位に結合し);ならびに基質の分子量を測定する段階(基質の分子量の変化がDPPI活性の存在を示す)を含んでなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の交差引用
本出願は、2008年10月21日に出願された米国仮出願第61/107,046号(その内容はそっくりそのまま本明細書に引用することにより組み込まれる)に対する利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
1.発明の分野
本発明はハイスループット形式のジペプチジルペプチダーゼIのアゴニストおよびアンタゴニストを同定することを提供する。該方法は、標識を含まずかつジペプチジルペプチダーゼIの複数の基質結合部位に結合するペプチド基質を使用する。
【0003】
2.従来技術
ジペプチジルペプチダーゼI(DPPI)すなわちカテプシンCは、カテプシンB、K、H、L、OおよびSもまた包含するリソゾームのパパイン型システインプロテアーゼファミリーの1メンバーである(非特許文献1;非特許文献2)。このプロテアーゼファミリーは免疫および炎症細胞中のセリンプロテイナーゼを活性化する。
【0004】
DPPIの生理学的役割は、免疫および炎症細胞中のプロ酵素のN末端から2アミノ酸を1ジペプチジル単位として除去することにより不活性のプロ酵素を活性の酵素に転化することである(非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6;非特許文献7により総説される)。DPPIは、Tリンパ球およびナチュラルキラー細胞からのキマーゼ、トリプターゼ、カテプシンG、エラスターゼおよび好中球エラスターゼ、グランザイムAおよびB;ならびに関節リウマチプロテアーゼ(非特許文献8)を包含する多くのセリンプロテイナーゼを活性化する。DPPIにより活性化される該酵素すなわちセリンプロテアーゼは防御反応に必要とされる。加えて、調節されないDPPIは、慢性閉塞性肺疾患、パピヨン・ルフェーブル症候群、敗血症、関節炎および他の炎症性障害を包含する疾患と関連するプロテアーゼの過剰活性化を引き起こすことが示されている。従って、DPPIは治療的処置の潜在的標的である。
【0005】
DPPIは4個の同一の単量体からなることが提案されている。各単量体は、N末端除外ドメイン(exclusion domain)、活性化ペプチドおよびパパイン様ドメインに切断される前駆体ポリペプチドから産生される。該パパイン様ドメインがH鎖およびL鎖にさらに切断される。その後、N末端除外ドメイン、HおよびL鎖が単量体にフォールディングし、これが約200kDaの成熟DPPIに四量体化する(非特許文献9)。
【0006】
DPPIの最近の結晶化は、ジペプチジルタンパク質分解活性に関与する活性部位溝および基質結合部位を包含する数種の構造を同定した。基質結合部位はパパイン様構造の外部部分に存在しそして基質と水素結合を形成する。基質の切断される結合のN末端側の第一のアミノ酸に結合する部位はS結合部位と称され、N末端側の第二のアミノ酸に結合する部位がS結合部位と称される。さらに、基質の切断される結合のC末端側の第一のアミノ酸に結合する部位はS’結合部位と称され、また、C末端側の第二のアミノ酸に結合する部位はS’結合部位と称される、などである(非特許文献9;非特許文献10)。DPPI基質中の対応する部位はP、P、P’、P’などと称され、ここで基質のPはDPPIのS部位に結合し、基質のPはDPPIのSに結合し、そし
て基質のP’はDPPIのS’部位に結合する、などである。DPPIおよび6アミノ酸の基質の結合複合体の結晶学的結果に基づき、MolgaardらはDPPIがS−SおよびS’−S’基質結合部位を含有するモデルを提案している。DPPIはin vivoで228アミノ酸のヒトプロキマーゼのようなより大きい基質に結合するため;DPPIの基質結合部位は、S−S−S’−S18’に至るまでのS−S−S’−S’より多くを含有しうる。
【0007】
DPPIは潜在的治療標的であるため、DPPI活性を分析するための数種のアッセイが一般に使用されている(非特許文献11;(非特許文献12)。Gelmanらは、Gly−Phe−β−ナフチルアミドという標識ジペプチドを基質として使用し、そして分光蛍光光度計を用いて遊離β−ナフチルアミドの濃度を測定することによりDPPI活性を測定した。同様に、Tranらは7−アミノ−4−メチルクマリンで標識した数種のジペプチドをDPPI基質として使用し、そして分光蛍光光度計を用いて遊離メチルクマリンの濃度を測定することによりDPPI活性を測定した。Tranらは、Ala−Hph−7−アミノ−4−メチルクマリンというジペプチド基質が、該基質が生理学的でない残基Hph(ホモフェニルアラニン)を含有するとしてもDPPIの最良の基質であることを示している。
【0008】
蛍光標識をもつこれらの一般に使用されるペプチド基質はいくつかの問題を有する。第一に、該ジペプチド基質はSおよびS部位にのみ結合する。これは、SおよびS部位に加えて1結合部位に結合するin vivoの生物学的基質と比較して部分的すなわち不完全である。該不完全すなわち部分的結合は非特異的であることができ、そしてこれゆえに偽陽性若しくは陰性の化合物の同定につながりうる。また、付加的な蛍光検出段階がDPPI活性を検出するのに必要とされる。この付加的な段階は、該アッセイがハイスループット形式での使用に適合されることを困難にする。
【0009】
従って、DPPI活性を分析するための標識を含まずかつ生物学的に関連した基質を使用するアッセイを開発する必要性がなお存在する。また、薬物開発のための多数の化合物若しくは剤の効率的スクリーニングを可能にするためのハイスループット形式での使用に適するDPPIアッセイを開発する必要性も存在する。
【0010】
標識を含まない技術が、酵素反応を分析するために質量分析系と組合せられている。Querciaら(非特許文献13)は、複数反応のモニタリングで質量分析を使用してキナーゼAKTI/PKBα阻害剤を同定している。同様に、Forbesら(非特許文献14)は、複数反応のモニタリングで質量分析を使用して96ウェルプレートでホスホルチジルセリン(phosphortidylserine)デカルボキシラーゼを評価している。ハイスループット形式での質量分析検出系はDPPI活性を分析するのに応用されていない。
【0011】
本出願はDPPI活性のアッセイ方法を提供する。該方法は、生物学的に関連するアミノ酸配列および結合特異性を含んでなる標識を含まないペプチド基質を利用する。該アッセイは質量分析系を使用して検出することができ、また、処理時間を短縮しかつ化合物をスクリーニングするために望ましいスループットを増大させるハイスループット形式で操作しうる。該方法は、薬物開発のためのフラグメントに基づく化合物の示差的追跡(differential tracking)、および機能研究のため他のジペプチジルタンパク質分解反応を評価するのにもまた有用である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】BoumaとGruber、1996、Biochem.Biophys.Acta 113:350−358
【非特許文献2】Turkら、2000、Biochem.Biophys.Acta 1477:98−111
【非特許文献3】Caughey,G.H.、2002、Molecular Immunology 38:1353−1357
【非特許文献4】Woltersら、2001、J.Biol.Chem.276:18551−18556
【非特許文献5】McGuireら、1993、J.Biol.Chem.268:2458−2467
【非特許文献6】PhamとLey、1999、Proc.Natl.Acad.Sci.96:8627−8632
【非特許文献7】Phamら、2004、J.Immunol.173:7277−7281
【非特許文献8】Adkisonら、2002、J.Clin.Invest.109:363−371
【非特許文献9】Turkら、2001 EMBO J.、20:6570−6582
【非特許文献10】Molgaardら、2007、Biochem.J.、401:645−650
【非特許文献11】Gelmanら、J.Clin.Invest.1980、65:1398−1406
【非特許文献12】Tranら、Arch.Biochem.Biophys.2002、403:160−170
【非特許文献13】Querciaら、J.Biomol.Screen.12:473−480、2007
【非特許文献14】Forbesら、J.Biomol.Screen.11:628−634、2007
【発明の概要】
【0013】
[発明の要約]
本出願の一目的はDPPI活性を調節する化合物のスクリーニング方法を提供することである。該方法は、DPPIおよび化合物を含んでなる反応混合物にDPPIの基質を添加する段階(該基質は3ないし100アミノ酸を有しかつS−S部位に加えてDPPIの1結合部位に結合し)、ならびに基質の分子量の変化ならびに/若しくは基質および生成物の質量比の変化を測定する段階(基質の分子量若しくは質量比の変化はDPPI活性の存在を示す)を含んでなる。
【0014】
本発明の一態様によれば、化合物は2−(ピペリジン−1−イルカルボニル)フェノール若しくは2−(ピペリジン−1−イルカルボニル)アニリンでありうる。
【0015】
別の目的は、DPPI活性を調節する化合物をスクリーニングするのに有用な標識を含まないDPPI基質を提供することである。例示的DPPI基質は配列番号1〜7より成る群から選択されうる。DPPI基質は好ましくは20アミノ酸を有するペプチドを含みうる。DPPI基質は好ましくは標識を含まない。
【0016】
本発明の他の目的および特徴は、付随する図面とともに考慮される以下の詳細な記述から明らかになるであろう。しかしながら、該図面は単に具体的説明の目的上設計され、そして本発明の制限の定義として設計されておらず、そのために付属される請求の範囲に言及がなされるべきであることが理解されるべきである。該図面は必ずしも原寸に比例して描かれていないこと、ならびに、別の方法で示されない限り、それらは本明細書に記述さ
れる構造および手順を概念的に具体的に説明することのみを意図していることがさらに理解されるべきである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[発明の詳細な記述]
ジペプチジルペプチダーゼI(DPPI)のアゴニスト若しくはアンタゴニストの存在下でDPPIの活性を検出するため、DPPIの基質として使用するペプチドを、反応混合物が反応緩衝液、DPPIのアゴニスト若しくはアンタゴニスト、DPPIおよび基質を含有するような反応混合物に添加する。PIPES、HEPES、リン酸ナトリウムの緩衝系、若しくはpKaが約7.0であるいずれかの緩衝系をDPPIアッセイに使用し得る。HEPES緩衝系が好ましい。例えば、10×反応緩衝液はpH7.0の500mM HEPES、1M NaClおよび0.05%Tween−20である。当業者に公知の他の緩衝系もまた使用しうる。反応前に、DTT若しくはグルタチオンを1×反応緩衝液に2mMの最終濃度まで添加する。
【0018】
DPPIは、商業的供給源から得ることができるか、組換えDNA技術により製造しうるか、または当業者に公知の方法により細胞から単離若しくは精製しうる。
【0019】
DPPIのS−S基質結合部位より多くに結合する最低3アミノ酸、好ましくは5ないし100アミノ酸および最も好ましくは10ないし50アミノ酸のいかなるペプチドも、DPPIのタンパク質分解活性を検出するための基質として使用しうる。該ペプチド基質の基質結合部位の数は3ないし100、好ましくは5ないし50および最も好ましくは6ないし20でありうる。従って、該ペプチド基質は、S−S基質結合部位、ならびにS’−S98’、好ましくはS’−S48’および最も好ましくはS’−S’の最低1個の付加的な基質結合部位でDPPIに結合する。
【0020】
本出願のペプチド基質はいずれかの蛍光発生若しくは色素産生剤で標識若しくは修飾されていない。該ペプチド基質は、化学的に合成しうるか、組換えDNA技術を使用して発現させうるか、または当業者に公知の方法により細胞から単離若しくは精製しうる。
本明細書で使用されるところのポリペプチドという用語は、ペプチド結合若しくは改変されたペプチド結合すなわちペプチドアイソスターにより相互に結合された3個若しくはそれ以上のアミノ酸を指す。ポリペプチドは、一般にペプチド、オリゴペプチド若しくはオリゴマーと称される短い鎖および一般にタンパク質と称されるより長い鎖の双方を指す。ポリペプチドは20種の天然に存在するアミノ酸以外のアミノ酸を含有しうる。ポリペプチドは、翻訳後プロセシングのような天然の過程、若しくは当該技術分野で公知である化学修飾技術のいずれかにより改変されたアミノ酸配列を包含する。こうした改変は研究論文に十分に記述されている。改変は、ペプチドバックボーン、アミノ酸側鎖およびアミノ若しくはカルボキシル末端を包含するポリペプチド中のどこにも存在しうる。
【0021】
5〜50μl、好ましくは10若しくは20μlの反応容量を、実験室で一般に使用されるチューブ若しくはプレートに分注し、そして基質ターンオーバーを測定することによりDPPI活性についてアッセイする。本明細書で使用されるところの基質ターンオーバーは、基質の量の減少および生成物の量のその後の増加を指す。基質ターンオーバーは基質および生成物の分子質量をモニターすることにより測定しうる。質量分析系が好ましい。例として、基質および生成物の濃度は、当業者に既知のAgilent Chemstationソフトウエアを伴うAgilent MSDなどを使用する単一イオンモニタリング(single ion monitoring)(SIM)技術により測定し得る。データをAgilent ChemstationおよびBioTrove Rapidfire Integratorを使用して解析した。該アッセイは化合物試験について10%未満の基質ターンオーバーを許容するよう設計した。
【0022】
一般的な酵素反応の平衡を下に具体的に説明する。すなわち
【化1】

ここでEは酵素であり、Sは該酵素の基質であり、そしてPは該反応の生成物である。
【0023】
該平衡は、本出願のペプチド基質を用いるDPPIアッセイにおけるジペプチジルタンパク質分解反応を具体的に説明するように改変される。すなわち
【化2】

【0024】
開始される場合、DPPIは、20アミノ酸G−E−I−I−G−G−T−E−C−K−P−H−S−R−P−Y−M−A−Y−Lを有するペプチド基質のN末端から2アミノ酸G−EすなわちGly−Gluを切断かつ除去する。これは187Daの差違を伴う2,224Daから2,037へのペプチド基質の分子量若しくは質量の変化をもたらす。該反応におけるペプチド基質の分子量若しくは質量は単一イオンモニタリングを使用する質量分析により検出しうる。SIMにより検出されるペプチド基質の変化すなわち差違は1,112amu(原子質量単位)から1,018.5amuまでである。これを使用して基質ターンオーバーの値を決定しうる。
【0025】
初期速度条件下での基質ターンオーバーの速度の時点で、DPPIおよびペプチド基質の反応速度定数は、以下の式(I)、すなわち

Y=VMAX((X+Et+K)−((((Et+X+K)−(4XEt))0.5))/(2Et)

ここで
Yは基質ターンオーバーの濃度であり
Xは基質濃度であり
EtはDPPI濃度であり
は1/2VMAXでの基質濃度であり
MAXは基質飽和での基質ターンオーバーである、
を使用して計算される。
【0026】
DPPI活性を調節する試験化合物をスクリーニングするため、DPPI活性の阻害を、以下の式、すなわち

陽性対照中の基質ターンオーバーの量:
【数1】

試験化合物を含有するサンプル中の基質ターンオーバーの量:
【数2】

阻害パーセント=
【数3】

若しくは
(1−((サンプルの基質ターンオーバー(μM))×(陽性対照の基質ターンオーバー(μM))−1)×100
ここで
[S]は基質の濃度(μM)であり
SIMはサンプル中の基質のSIM(amuからの曲線下面積)であり
SIMSPCは陽性対照サンプル中の基質のSIM(amuからの曲線下面積)であり
SIMはサンプル中の生成物のSIM(amuからの曲線下面積)であり
SIMPCは陽性対照の生成物のSIM(amuからの曲線下面積)であり
SIMSPCは陽性対照サンプル中の基質のSIM(amuからの曲線下面積)であり
SIMNCは陰性対照の生成物のSIM(amuからの曲線下面積)であり
SIMSNCは陰性対照の基質のSIM(amuからの曲線下面積)であり、
ここで、陽性対照はいかなる試験化合物も含まない反応であり、陰性対照はDPPI若しくは基質を含まない反応であり、サンプルは試験化合物を含有する反応である、
を使用して計算しうる。
【0027】
候補化合物が同定される場合、該候補化合物によるDPPI阻害のIC50を、式(II)、すなわち
【数4】

ここで
はサンプルの正味の基質ターンオーバー信号であり
は陽性対照の正味の基質ターンオーバー信号であり
minは陰性対照の正味のSIM信号であり、
Iは候補化合物の濃度であり、
ここで、陽性対照はいかなる試験化合物も含まない反応であり、かつ、陰性対照はDPPI若しくは基質を含まない反応である、
を使用して計算する。
【0028】
上述されたアッセイは、試験化合物をスクリーニングし、およびDPPIの活性を調節する候補化合物を同定するためのハイスループット形式で使用しうる。こうした場合、反
応混合物を最初に96若しくは386ウェルプレートのような複数のウェルを含有するマイクロタイタープレートに分注し、その後、該プレートを、各プレートの各ウェル中の反応を読み取って数値データを生成する質量分析などのような検出系に負荷する。
【0029】
従って、その好ましい一態様に適用されるところの本発明の基礎的な新規の特徴が示されかつ記述されかつ指摘された一方、具体的に説明される化合物、方法および装置の形式および詳細ならびにそれらの操作における多様な省略および置換ならびに変更が、本発明の技術思想から離れることなく当業者によりなされうることが理解されるであろう。例えば、同一の結果を達成するために実質的に同一の方法で実質的に同一の機能を果たす要素および/若しくは方法段階の全部の組合せが本発明の範囲内にあることを明らかに意図している。さらに、本発明のいずれかの開示される形式若しくは態様とともに示されかつ/若しくは記述される構造および/若しくは要素および/若しくは方法段階が、設計の選択の一般的問題として、いかなる他の開示若しくは記述若しくは示唆される形式若しくは態様にも取り込まれうることが認識されるべきである。従って、それに付属する請求の範囲の範囲により示されるとおりにのみ制限されることを意図している。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】20−mer基質(A)およびジペプチド基質(B)との反応のDPPIの反応速度定数の初期速度分析。(A)約2nMのDPPIをGEIIGGTECKPHSRPYMAYLという20−mer基質との反応で使用し、そして、質量分析系を使用して該反応をモニターした。(B)約0.4nMのDPPIをGR−α−メチルクマリンのジペプチド基質との反応で使用し、そして、E=460nmおよびE=380nmでの蛍光をモニターする速度に基づく形式を使用して該反応をモニターした。初期速度は、7%未満の基質ターンオーバーが達成された反応速度データから採用する。
【図2】ジペプチド基質(A)および20−merペプチド基質(B)を使用する2種の試験化合物を用いるDPPI調節活性の評価。(A)約0.4nMのDPPIおよび約10μMのジペプチド基質GR−α−メチルクマリンを速度に基づく形式で使用し、そしてE=460nmおよびE=380nmでの蛍光でモニターした。(B)約2nMのDPPIおよび20μMの20−merペプチド基質GEIIGGTECKPHSRPYMAYLを反応で使用し、そして質量分析系でモニターした。2−(ピペリジン−1−イルカルボニル)フェノールを黒四角により表し、また、2−(ピペリジン−1−イルカルボニル)アニリンを黒丸で表す。R値は≧0.95である。
【実施例1】
【0031】
10×HEPES緩衝系およびジペプチジルプロテイナーゼIの調製
pH7.0の500mM HEPES、1M NaClおよび0.05%Tween−20の10×反応緩衝液を調製した。反応前に、DTT若しくは他の適する還元剤を、pH7の50mM HEPES、100mM NaClおよび0.005%Tween−20の1×反応緩衝液に2mMの最終濃度まで添加した。10若しくは20μlの反応容量を、DPP−1活性のため384ウェルのポリプロピレン製プレートに分注した。
【0032】
DPPIはLauritzenら(1998、Protein Expr.Purif
14、434−442)(その内容はそっくりそのまま引用することにより本明細書に組み込まれる)によるHi5昆虫細胞中のバキュロウイルス系を使用して過剰発現させかつ精製した。DPPI前駆体をコードする組換えバキュロウイルスをバキュロウイルス発現系(Invitrogen、カリフォルニア州カールズバッド)の説明書に従って製造した。簡潔には、ヒトおよびマウスDDP前駆体のcDNAを含有する組換えバキュロウイルスをHi5昆虫細胞にトランスフェクトした。トランスフェクション後約4〜5日後
に培地を収集し、そしてブチル−セファロース(GE Healthcare)クロマトグラフィーをpH4.5で使用してDPPI前駆体を精製した。DPPIを含有する画分を合わせ、そして完全な活性化までpH7.0で2日間透析した。分泌および活性化の間にシグナル配列および活性化ペプチドが切断分離され、そして完全に活性化された酵素をもたらした。透析されたヘテロ三量体かつ活性のDPPIをQ−セファロース(GE Healthcare)でさらに精製し、限外濾過(Amicon、Ultra−15、10000MWCO、Millipore)により濃縮し、そして20mMビス−トリス/HCl、pH7.0、0.1M NaCl、2mM DTTおよび2mM EDTAの最終緩衝液中で透析した。全部の精製および透析段階は4℃で実施した。DPPIを分注し、液体窒素中で急速凍結しかつ−80℃で保存した。3種の鎖の正しいN末端をN末端配列決定により確認した。
【実施例2】
【0033】
DPPIの複数の基質結合部位に結合するペプチド基質の設計
ヒトキマーゼ、カテプシンG、エラスターゼおよびトリプターゼのN末端ペプチド配列を下のとおり整列した。
【化3】

【0034】
GEIIGGTECKPHSRPYMAYL(配列番号1)、NH−GEIIGGTECKPHSRPYMAYK−COOH(配列番号2)、NH−GEIIGG−COOH(配列番号3)およびNH−GEIIGGTE−COOH(配列番号4)のペプチドをDPPI基質として選択した。該基質、およびNH−IIGGTECKPHSRPYMAYL−COOH(配列番号8)、NH−IIGGTECKPHSRPYMAYK−COOH(配列番号9)、NH−IIGG−COOH(配列番号10)およびNH−IIGGTE−COOH(配列番号11)の対応する生成物ペプチドを合成し(AnaSpec、カリフォルニア州サンノゼ)そしてMilli−Q水に溶解した。ペプチド基質およびそれらの生成物の単一イオンモニタリング(SIM)を表1に記述した。
【表1】

【0035】
当業者は、他のペプチド配列、例えばNH−GEIIGGTECK−COOH(配列番号5)、NH−GEIIGGTECKPH−COOH(配列番号6)およびNH
GEIIGGXEAKPHSRPYMV−YL−COOH(配列番号7)(ここでXはいずれかの天然の若しくは改変アミノ酸である)のペプチドを、本明細書に記述される方法の基質として使用し得ることを認識するであろう。
【実施例3】
【0036】
ペプチド基質を用いるDPPIアッセイ
NH2−GEIIGGTECKPHSRPYMAYL−COOH(配列番号1)の20−mer基質ペプチドおよび18−mer生成物ペプチド(NH2−IIGGTECKPHSRPYMAYL−COOH(配列番号8)の標準曲線を、単一イオンモニタリング検出を使用する質量分析系により生成した。
【0037】
約2nMのDPPIを、50mM HEPES(pH7.0)、100mM NaCl、0.005%Tween−20および2mMのDTT若しくはGSHの反応緩衝液中約0.5、1、2、4、8、16、32、64、90、128、150μMの20−mer基質とインキュベートした。該反応を約27℃でインキュベートし、そして0、2、5、10、20、30、45、60、75、90および120分の複数の時点で約1/10容量の2%トリフルオロ酢酸で終結させた。クエンチした反応の約10μlのアリコートを、Cカートリッジを用いるRapidFire(BioTrove、マサチューセッツ州ウォバーン)により基質ターンオーバーを検出するのに使用した。反応をカートリッジに負荷し、これを0.1%ギ酸+0.02%TFAの固定相で平衡化し、そして90%MeCN+0.1%ギ酸+0.02%TFAの移動相で1分あたり約1mlで展開した。SIM 1112amu(原子質量単位)の20−mer基質およびSIM 1019の対応する18−mer生成物を陽イオンモードモニタリングのAgilent 1100シリーズLCMSD(カリフォルニア州サンタクララ)を使用してモニターした。
【0038】
初期反応速度は7%未満の基質ターンオーバーが達成された反応速度データから採用した。図1に示されるところの結果は、基質ターンオーバーが双曲線として表されうることを示した。K、Kcatおよび二次速度定数の値はそれぞれ約62μM、1.15sec−1および1.95×10−1sec−1であることが計算された(表2)。これらの値が、DPPIアッセイで試験化合物を評価するための設定条件となった。
【実施例4】
【0039】
ジペプチドおよびペプチド基質を使用する速度に基づくDPPIアッセイ
DPPIの活性を、α−メチルクマリン(AMC)で標識したジペプチド基質Gly−Arg若しくは配列番号1の20−merペプチド基質いずれかを用いて分析した。ジペプチド基質について、約0.4nMのDPPIを、50mM Hepes(pH7.0)、100mM NaCl、0.005%Tween−20および2mMのDTT若しくはGSHの10μlの反応緩衝液中で約1、2、5、10、25、50、100、150、300、600μMのジペプチド基質とインキュベートした。蛍光(E=380nm、E=460nm)を、Safire II(Tecan、スイス)を使用して約0から10分まで連続してモニターしてDPPI活性を測定した。20−merペプチド基質の条件は上述されたと同一であった。
【0040】
いずれかの基質を用いるDPPIアッセイの反応速度定数を表2に示した。20−mer基質ペプチドを含有する反応のkcatおよび二次速度定数双方の値は、標識ジペプチドを含有する反応のものと比較して低下した。該結果は、20−mer基質が、律速段階である生成物解離によることがありそうである異なる反応速度機構を有することを示す。20−mer基質を用いる反応の生成物はN末端の2−merペプチドおよびC末端の18−merペプチドを包含する。該18−mer生成物ペプチドはジペプチド基質を使用して検査し得ないDPPI結合部位に結合する。これは、ジペプチド基質を使用するDP
PIアッセイが、試験される化合物の効力についての十分な情報を提供しないかもしれないことを示唆する。
【表2】

【実施例5】
【0041】
DPPI活性を調節する試験化合物のスクリーニング
2種のフラグメント化合物すなわち2−(ピペリジン−1−イルカルボニル)フェノールおよび2−(ピペリジン−1−イルカルボニル)アニリンを、DPPIを調節するそれらの活性について評価した。約0.1mMないし約100mMの化合物の希釈系列を100%DMSO中で作成した。約1μlの試験化合物および約8μlの約3.75nMのDPP−1を384ウェルのポリプロピレン製プレート(Greiner Bio−One
North America Inc.、ノースカロライナ州モンロー)に添加した。タンパク質分解反応を約1μlの200μM基質の添加により開始した。該反応を27℃で60分間インキュベートし、そして約25μlの0.1%ギ酸+0.02%TFAの添加で終結させた。クエンチした反応の約10μlのアリコートを、実施例3および4に記述されるとおりRapidFireTMにより分析した。
【0042】
実験5の結果を図2に要約した。ジペプチド基質との反応において、いずれの化合物も10mMという高濃度ででさえDPPI活性に影響を及ぼさなかった。しかしながら、20−mer基質との反応において双方の化合物がDPPI活性を濃度依存性の様式で調節した。片対数プロット分析は、2−(ピペリジン−1−イルカルボニル)フェノールおよび2−(ピペリジン−1−イルカルボニル)アニリンのIC50値がそれぞれ約0.1mMおよび約1mMであったことを示した。以前に、これらの化合物はDPPI活性を調節することが示されていない。
【0043】
本出願は、DPPI基質として標識を含まないペプチドを好ましく使用するDPPI活性のアッセイ方法を提供する。該方法は、一般に使用される標識ジペプチド基質と比較していくつかの利点を有する。例えば、標識を含まない基質は改変されない化合物の直接検出を提供し、ならびに標識および二次検出系による制限を排除する。また、標識を含まない基質はハイスループット形式に容易に適合される。加えて、該ペプチド基質は細胞中の生理学的標的のものと類似の、DPPI活性部位に対する結合特異性を有する。さらに、増大される結合特異性は、活性部位のS−S領域の外側を結合する化合物を評価若しくは同定することを見込む。該化合物はS−Sに加えてS’ないしS’のような活性部位に結合し、対数的におよび特異性を増大する。
【図1A】

【図1B】

【図2A】

【図2B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジペプチジルペプチダーゼI(DPPI)活性を調節する化合物のスクリーニング方法であって、
a.ジペプチジルペプチダーゼI(DPPI)および前記化合物を含んでなる反応混合物にDPPIの基質を添加する段階であって、DPPIの前記基質は最低3アミノ酸を含んでなりかつS−S部位に加えてDPPIの1結合部位に結合し;ならびに
b.前記基質および生成物の分子量および/若しくは質量比の変化を測定する段階
を含んでなり、
前記基質の分子量の減少が前記DPPI活性の存在を示す、上記方法。
【請求項2】
前記基質が標識を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記基質が3から100までのアミノ酸を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記基質が約10から約50までのアミノ酸を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記基質が配列番号1〜7より成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記基質が配列番号1である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記化合物が2−(ピペリジン−1−イルカルボニル)フェノールである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記化合物が2−(ピペリジン−1−イルカルボニル)アニリンである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
配列番号1〜7より成る群から選択されるDPPI基質。
【請求項10】
配列番号1のDPPI基質。

【公表番号】特表2012−506240(P2012−506240A)
【公表日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−532351(P2011−532351)
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【国際出願番号】PCT/US2009/061509
【国際公開番号】WO2010/048306
【国際公開日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【出願人】(505121394)ジヨンソン・アンド・ジヨンソン・フアーマシユーチカル・リサーチ・アンド・デベロツプメント・エルエルシー (5)
【Fターム(参考)】