説明

ジョグゾーンのない光ファイバコイル

【課題】光ファイバコイル組立体とそれを巻回する方法を提供すること。
【解決手段】光ファイバコイル組立体とそれを巻回する方法は、従来の光ファイバコイル組立体の中に見られコイルを脆弱にする傾向があるジョグゾーンを除去するように構成された光ファイバコイルを含む。光ファイバコイル組立体はコイルの少なくとも2つの層を含む。第1層は、第1回転方向に且つ第1直線方向に円筒状に巻回され、互いに実質的に平行に配置され且つ第1直線方向にわたって延在するコイル直径を含む。第1リード部分は、第1層の端部から、巻回された第1層によって画定された開口を通って延在する。第2層は、それが反対の回転方向に巻回されることを除いて第1層と同様な方法で形成される。第1または第2層の巻回工程にそれぞれ一致するさらなる層が含まれてもよい。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
従来、光ファイバジャイロスコープに使用される光ファイバコイルのための巻回工程は、いわゆる「ジョグ(jog)ゾーン」または「交差(cross−over)ゾーン」領域を含んでおり、このゾーンは、ファイバが互いに平行に並べられるのではなく互いに交差する、巻回パターンの各層内の領域である。一般に、ジョグゾーンは巻回された光ファイバコイルの最も脆弱な領域であり、最も脆弱な領域とは、巻回された光ファイバコイルが機械的、熱的、光学的に弱いことを意味する。
【0002】
光ファイバジャイロスコープに使用される光ファイバコイルのための1つのタイプの巻回工程は、米国特許第6005665号(いわゆる‘665号特許)に説明されている。‘665号特許は、別段「ジョグゾーン」として知られる、改良された巻線移行区間を有する光ファイバジャイロスコープを説明している。改良されたジョグゾーンは、光ファイバコイル中のマイクロベンドおよびクロス結合による損失を低減する。損失の低減によって、光ファイバコイルの回転速度のより正確な測定が可能になり、一方、光ファイバジャイロスコープの中での誤った読み取り値の原因となり得る望ましくない位相ずれを最小化する。さらに、‘665号特許は、光ファイバコイルのジョグゾーンはコイルの全体の巻線のうちの5%〜10%だけで構成されるべきであることを教示している。
【0003】
光ファイバジャイロスコープは、航空機および宇宙機で使用されるものなど、特に航法システムの回転検出に使用される。光ファイバジャイロスコープは、それらが有する慣性回転速度の感知における高レベルの正確性と信頼性のために望ましいものである。
【0004】
光ファイバジャイロスコープ技術は業界でよく知られている。光ファイバジャイロスコープの中では、レーザーまたは或る他の光源からの光が光ファイバカップラによって2つの別々のビームに分割され、次いで、光ファイバの多重に巻かれたコイルの2つの端部に結合される。光ファイバケーブルは市場で市販されている多くの標準型で構成されてもよい。2つのファイバ端部から出てくる光は光ファイバカップラによって結合され光検出器で検出される。
【0005】
光ファイバジャイロスコープは、光ファイバケーブルのコイルを回って反対方向に伝播する光ビーム間で回転により誘起された位相ずれを検出することによって、回転速度を感知する。典型的には、反対方向に伝播するビーム間の位相差に対応して検出された信号は、何らかの形態の位相変調を受ける。光検出器は、変調された光ビームを光ファイバコイルの回転速度に対応した電気信号に変換する。信号は処理されて、発生した光ファイバのコイルの正確な回転速度に関する直接の表示を提供する。
【0006】
光ファイバジャイロスコープの単なる物理的回転以外の物理的現象が、反対方向に伝播する光ビーム間の位相差の原因になることがある。最も一般的ないくつかの性能を制限する現象には、巻回されたコイル中のファイバ内のマイクロベンド、コイル中での光の偏光クロス結合、および最も著しくはコイルの巻回工程に帰因する不整合性が含まれる。
【0007】
光ファイバコイル中の対称点と光ファイバコイルの中心軸との間のマイクロベンドまたは任意の非直交関係による損失は、外部の温度変動によって悪化する。温度勾配が光ファイバコイルの中を貫くと、温度の変化がファイバを形成している材料の屈折率変化を引き起こす。ファイバ屈折率の非対称的変化は、コイルを通過する光の回転ビームの時計回りと反時計回りの光路との間の位相ずれを引き起こす。また、コイル内での偏波状態のクロス結合が望ましくない位相ずれを引き起こすこともある。
【0008】
さらに、コイルの巻回工程がより難しくなると、コイルを巻回するために使用される機械は、ファイバに過剰なストレスを加えずに正確な巻回パターンを自動的に製作し維持することがより困難になる。巻回の不十分なコイルは、上記で論じた損失および偏波クロス結合をもたらす恐れがある。これらの外部現象がジャイロスコープに持ち込まれると、望ましくない位相ずれまたは損失によって、光ファイバジャイロスコープは、回転速度の誤った読み取り値に変える誤った測定値を指示するようになる。
【0009】
これらの損失および位相ずれの最大の誘因は、各ターンが次のターンまたは巻回に移行するコイル領域、すなわち上記で「ジョグゾーン」または「交差ゾーン」と呼んだ領域、で生じる。従来ではジョグゾーンの長さが最小になるように維持されてきた。
【特許文献1】米国特許第6005665号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、一般に、光ファイバコイルの巻回工程に一般的に伴うジョグまたは交差ゾーンを実質的に除去し、好適には完全に除去するように構成された光ファイバコイルの巻回パターンに関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の1つの態様において、光ファイバコイル組立体は、第1回転方向に且つ第1直線方向に円筒状に巻回された連続的な光ファイバコイルの第1層であって、互いに実質的に平行に配置され且つ第1直線方向全体に実質的にわたって延在するコイル直径を有し、第1層の端部から延び、円筒状に巻回された第1層によって画定された円筒状の開口を通って戻る第1リード部分を有する第1層と、第2回転方向に且つ第1直線方向に円筒状に巻回された連続的な光ファイバコイルの第2層であって、互いに実質的に平行に配置され且つ第2直線方向全体に実質的にわたって延在し、さらに第1層の上に配置されたコイル直径を有し、第2層の端部から延び、円筒状に巻回された第1層によって画定された円筒状の開口を通って戻る第2リード部分を有する第2層と、を含む。
【0012】
本発明の他の態様において、光ファイバコイル組立体を巻回するための方法は、第1層を構成するコイル直径が互いに実質的に平行に配置され且つ第1直線方向全体に実質的にわたって延在するように、連続的な光ファイバコイルの第1層を第1回転方向に且つ第1直線方向に円筒状に巻回するステップと、第1リード部分を第1層の端部から、円筒状に巻回された第1層によって画定された円筒状の開口を通って経路設定するステップと、第2層を構成するコイル直径が互いに実質的に平行に配置され且つ第1直線方向全体に実質的にわたって延在するように、連続的な光ファイバコイルの第2層を第2回転方向に且つ第1直線方向に円筒状に巻回するステップと、第2リード部分を第2層の端部から円筒状に巻回された第1層によって画定された円筒状の開口を通って経路設定するステップと、を含む。
【0013】
本発明のさらなる他の態様において、光ファイバコイル組立体を有する光ファイバジャイロスコープは、第1層および第2層を有する光ファイバコイルと、第1回転方向に且つ第1直線方向に円筒状に巻回された第1層であって、互いに実質的に平行に配置され且つ第1直線方向全体に実質的にわたって延在するコイル直径を有し、第1層の端部から延び、円筒状に巻回された第1層によって画定された円筒状の開口を通って戻る第1リード部分を有する第1層と、第2回転方向に且つ第1直線方向に円筒状に巻回された第2層であって、互いに実質的に平行に配置され且つ第2直線方向全体に実質的にわたって延在し、さらに第1層の上に配置されたコイル直径を有し、第2層の端部から延び、円筒状に巻回された第1層によって画定された円筒状の開口を通って戻る第2リード部分を有する第2層と、を含む。
【0014】
次に、本発明の好適な実施形態および代替の実施形態を以下の図面を参照してより詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下の説明では、本発明の様々な実施形態の完全な理解を提供するためにある特定の詳細を記載している。しかし、当業者は、本発明がこれらの詳細がなくても実施でき、またはこれらの詳細の様々な組合せを使用して実施できることを理解されよう。他の場合には、本発明の実施形態の不必要に曖昧な説明を避けるために、光ファイバジャイロスコープおよび光ファイバコイルに関連するよく知られた構成および方法は、光ファイバコイルに関連した巻回工程および方法を含めて、詳細に図示または説明しなくてよいであろう。
【0016】
以下の説明は、全体として、光ファイバジャイロスコープのための「ジョグゾーン」のない光ファイバコイル、および、ジョグゾーンを除去するための光ファイバコイルの巻回方法を対象としている。本発明の少なくとも1つの態様の1つの目的は、巻回工程中の光ファイバコイルの部分の交差を除去することである。他の目的は、巻回される光ファイバコイルの全ての層で且つ円筒構造の端から端までにわたって、光ファイバコイルの連続的で並列な巻回を保証することである。上記の目的に照らして、光ファイバコイルを、例えば、エンドツーエンドパターン、四重パターン、八極パターンなどの所望のパターンを含むがこれらに限定されない多様な巻回パターンで巻回できる。有利には、ジョグゾーンのない光ファイバコイルを形成することによって、改良された機械的構造とより均一な熱特性とが保証され、光ファイバジャイロスコープに同様の、または向上した光学性能をもたらすことができる。
【0017】
図1に、例示の実施形態による、スプールまたはマンドレル104の上に巻回された光ファイバコイル102を有する光ファイバコイル組立体100を示す。1つの実施形態で、光ファイバコイル組立体100は、光ファイバジャイロスコープなどの戦略的航法グレードのジャイロスコープに使用される。光ファイバコイル102は、「ジョグゾーン」または「交差領域」が少なくとも実質的に取り除かれるようにスプール104の上に巻回される。注意を喚起するならば、ジョグゾーンは上記の背景技術の項で説明しており、また、米国特許第6005665号でも開示されている。光ファイバコイル102はスプール軸106の周りに巻回される。光ファイバコイル102の巻回工程およびジョグゾーンの除去について以下に詳細に説明する。
【0018】
マンドレル104は、径方向に延在する側面フランジ110の間に延在する実質的に円筒状の本体108を含む。各フランジ110は、巻回工程中に光ファイバコイル102の部分を受け入れるためのフランジの切り欠き領域112を含む。1つの実施形態において、光ファイバコイル102が本体108の上に完全に巻回され、巻回された光ファイバコイル102が注入レジン材料で十分に封止され硬化された後で、マンドレル104を光ファイバコイル組立体100から取り外すことができる。例として、マンドレル104は、例えばコイル102を溶融させない温度で溶融することができる融点を持った材料で作成することができる。
【0019】
図2に、1つの層または段208の中の各コイルの直径206が断面図に見られるように隣接するコイルの直径206と実質的に平行になるようにスプールまたはマンドレル204の上に巻回された光ファイバコイル202を有する、他の光ファイバコイル組立体200の断面図を示す。段208の数および特定の段のコイル直径206の数は、所望の巻回パターンのタイプに依存する。
【0020】
巻回工程、および、したがってジョグゾーンの除去は、光ファイバコイル202を2つの独立したフィーダースプール(図示せず)から巻き取ることによって達成できる。光ファイバコイル202の中点210をマンドレル204の上に配置し、マンドレル204の円筒状本体212の上に近接させて配置した第1段または最初の段208aを形成するために、コイル202を第1フィーダースプール(図示せず)から第1回転方向(例えば時計回り(CW)または反時計回り(CCW))に且つ第1直線方向(例えば、左から右または右から左)に巻回する。例として、例示の実施形態におけるコイル202の巻回は、マンドレル204の左手側から始まり、したがって、コイル202は矢印214で示すように左から右に巻回される。したがって、巻回されたコイル202の直線方向214はマンドレル204の中心軸216に実質的に平行である。全てのコイル直径206が第1段208aを形成するように配置されると、次いで、コイル202は、フランジの切り欠き領域112(図1)を通り、マンドレル204の中央の開口218を通って繰り出されまたは送られ、次に、第2段208bが形成されている間、静止して保持される。所望の巻線パターンにより決定できるファイバ間隔220の大きさは巻回工程の期間にわたって維持される。
【0021】
第一段208aが形成された後で、第2フィーダースプール(図示せず)が、コイル202を第一段208aとは反対の回転方向にしかし同じ直線方向214に巻回する。好適には、第2段208bは、第1段208aによって形成された溝の中に巻回される。第1段208aと同様に、第2段208bは一方のフランジから反対側のフランジまでマンドレル204の円筒状本体212の端から端まで巻回される。分かりやすくするために、第1段208aのコイル直径206は任意の断面パターンなしで示されており、一方、第2段208bのコイル直径206は網かけして示されている。上述したように、異なる断面パターンは、第1段208aと第2段208bとが反対の回転方向に巻回されていることを表す。第2段208bの完了次第、コイル202はフランジの切り欠き領域112(図1)を通り、次にマンドレル204の中央の開口218を通って繰り出されまたは送られる。この時点で、第3段208cを第1段208aと同様な方法で形成でき、次いで、第4段(図示せず)を第2段208bと同様な方法で形成でき、以下同様である。別な言い方をすれば、巻回される層208は、所望の数の層208に達するまで繰り返すことができる。コイル202の経路設定は、マンドレル204の少なくとも円筒状本体212を確実に取り外しできるように制御できる。有利には、得られる光ファイバ組立体200はジョグゾーンのない光ファイバコイル202を含む。
【0022】
本発明の好適な実施形態を例示し説明したが、上述したように、本発明の精神および範囲から逸脱することなく多くの変更を行なうことができる。したがって、本発明の範囲は好適な実施形態の開示によっては制限されない。そうではなく、本発明は、以下に続く特許請求の範囲を参照することによって全体的に決定されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の例示の実施形態による、マンドレル上の巻回された光ファイバコイルを有する光ファイバコイル組立体の斜視図である。
【図2】本発明の例示の実施形態による、マンドレルの上に配置された複数層を備えた巻回された光ファイバコイルを有する他の光ファイバコイル組立体の断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回転方向に且つ第1直線方向に円筒状に巻回された連続的な光ファイバコイルの第1層であって、互いに実質的に平行に配置され且つ前記第1直線方向全体に実質的にわたって延在するコイル直径を有し、第1層の端部から延び、円筒状に巻回された第1層によって画定された円筒状の開口を通って戻る第1リード部分を有する第1層と、
第2回転方向に且つ前記第1直線方向に円筒状に巻回された連続的な光ファイバコイルの第2層であって、互いに実質的に平行に配置され且つ第2直線方向全体に実質的にわたって延在し、さらに前記第1層の上に配置されたコイル直径を有し、第2層の端部から延び、円筒状に巻回された層によって画定された円筒状の開口を通って戻る第2リード部分を有する第2層と
を備えた光ファイバコイル組立体。
【請求項2】
光ファイバコイル組立体を巻回する方法であって、
第1層を構成するコイル直径が互いに実質的に平行に配置され且つ第1直線方向全体に実質的にわたって延在するように、連続的な光ファイバコイルの前記第1層を第1回転方向に且つ前記第1直線方向に円筒状に巻回するステップと、
前記光ファイバコイルの第1リード部分を、前記第1層の端部から、前記円筒状に巻回された第1層によって画定された円筒状の開口を通って経路設定するステップと、
第2層を構成するコイル直径が互いに実質的に平行に配置され且つ前記第1直線方向全体に実質的にわたって延在するように、前記連続的な光ファイバコイルの前記第2層を第2回転方向に且つ前記第1直線方向に円筒状に巻回するステップと、
前記光ファイバコイルの第2リード部分を、前記第2層の端部から、前記円筒状に巻回された第1層によって画定された前記円筒状の開口を通って経路設定するステップと、
を含む方法。
【請求項3】
光ファイバコイル組立体を有する光ファイバジャイロスコープであって、
第1層および第2層を有する光ファイバコイルと、
第1回転方向に且つ第1直線方向に円筒状に巻回された前記第1層であって、互いに実質的に平行に配置され且つ前記第1直線方向全体に実質的にわたって延在するコイル直径を有し、前記第1層の端部から延び、前記円筒状に巻回された第1層によって画定された円筒状の開口を通って戻る第1リード部分を有する前記第1層と、
第2回転方向に且つ前記第1直線方向に円筒状に巻回された前記第2層であって、互いに実質的に平行に配置され且つ第2直線方向全体に実質的にわたって延在し、さらに前記第1層の上に配置されたコイル直径を有し、前記第2層の端部から延び、前記円筒状に巻回された第1層によって画定された円筒状の開口を通って戻る第2リード部分を有する前記第2層と
を備えたジャイロスコープ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−122677(P2009−122677A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−291229(P2008−291229)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】