説明

スイッチング装置及びその制御方法

【課題】負荷を安定に制御できるスイッチング装置を提供する。

【解決手段】スイッチング素子(2)と、前記スイッチング素子をPWM制御する制御回路(8)と、を有し、前記スイッチング素子のスイッチング動作により入力電力を負荷に供給するスイッチング装置であって、
前記制御回路が、前記PWM制御のデューティ比率の保持とリセットとを周期的に繰り返し、前記スイッチング装置が異常状態になる直前と異常状態から正常状態に復帰した直後とにおいて、同一のデューティ比率でスイッチング素子をPWM制御することを特徴とするスイッチング装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング装置に関し、特に異常検知機能及び保護機能を備えるスイッチング装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されるスイッチング装置は、負荷としてのソレノイドに流れる負荷電流を検出し、マイコンから入力される制御目標値と負荷電流との偏差を小さくするようにスイッチング素子をPWM制御するソレノイド駆動装置である。
【0003】
このようなスイッチング装置は、負荷及びスイッチング装置の破壊を防止するために異常検知機能及び保護機能を備えることが知られている。異常検知機能は、負荷の過電流、過電圧又は過熱を検知するものであり、これらの異常状態を検知したときに保護機能を動作させる。保護機能は、スイッチング素子のPWM制御を停止させるものや、或いは予め設定された最小デューティ(オン幅)比率でPWM制御を行うものが知られている。
【0004】
図3を用いて、従来のスイッチング装置の動作を説明する。
【0005】
図3は、従来のスイッチング装置の動作を示すフローチャートである。
まず、ステップS101では、スイッチング装置は通常動作を行う。即ち、制御回路は、ソレノイドに電力を供給するためにスイッチング素子のPWM制御を行う。また、制御回路は、例えばソレノイドに流れる負荷電流を検出して、負荷電流が所望の大きさになるように駆動信号のデューティ(オン幅)比率を変調する。
【0006】
ステップS102では、制御回路は、異常検知機能によってスイッチング装置が異常状態であるか否かを調べる。スイッチング装置が異常状態であれば、ステップS103において制御回路は、保護機能が働きPWM制御を停止させるか、或いは予め設定された最小デューティ比率でPWM制御を行う。一方、スイッチング装置が正常状態であれば、ステップS101において引き続き、スイッチング装置は通常動作を行う。
【0007】
ステップS104では、制御回路は、異常検知機能によってスイッチング装置の異常状態が解除され正常状態に移行したか否かを調べる。スイッチング装置が正常状態であれば、ステップS105において保護機能が停止し、制御回路はPWM制御を再開する。一方、スイッチング装置が異常状態であれば、ステップS103において引き続き保護機能が働き、制御回路は異常状態に応じたPWM制御を行う。
【0008】
ステップS106では、ステップS101と同様に、スイッチング装置は通常動作を行う。
【0009】
このように、従来の異常検知機能及び保護機能を備えるスイッチング装置は、異常状態に応じてスイッチング素子を制御することにより、スイッチング装置及び負荷の破壊を防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開第2000−114039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、従来のスイッチング装置は、図3のステップS105でスイッチング素子のPWM制御が再開してからステップS106の通常動作に至るまでの間、駆動信号のデューティ比率を最小から最適値まで徐々に変調するための調整時間を必要とする。
【0012】
さらに、スイッチングノイズや外来ノイズにより制御回路が異常状態を誤検知した場合は、PWM制御の停止時間は瞬時的であるにも関わらず、デューティ比率の調整時間が必要である。このため、従来のスイッチング装置は、通常動作に復帰する際に負荷を安定に駆動できないという問題があった。
【0013】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものである。従って、本発明は、負荷を安定に駆動できるスイッチング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記のような課題を解決するために、請求項1記載の発明は、
スイッチング素子と、前記スイッチング素子をPWM制御する制御回路と、を有し、前記スイッチング素子のスイッチング動作により入力電力を負荷に供給するスイッチング装置であって、
前記制御回路が、前記PWM制御のデューティ情報の保持とリセットとを周期的に繰り返し、前記スイッチング装置が異常状態になる直前と異常状態から正常状態に復帰した直後とにおいて、同一のデューティ情報に基づきスイッチング素子をPWM制御することを特徴とする。
また、請求項7記載の発明は、
スイッチング素子と、前記スイッチング素子を制御する制御回路と、を有し、前記スイッチング素子のスイッチング動作により入力電圧を負荷に供給するスイッチング装置の制御方法であって、
前記スイッチング装置が正常状態のとき前記スイッチング素子のデューティ情報を周期的に保持及びリセットし、且つ、前記スイッチング装置が異常状態のとき前記リセットを休止し、且つ、前記スイッチング装置が異常状態から正常状態に復帰した直後に保持した前記デューティ情報に基づいてスイッチング素子を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るスイッチング装置及びその制御方法によれば、負荷を安定に制御できるスイッチング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係るスイッチング装置の構成を示す回路構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係るスイッチング装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】従来のスイッチング装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、現実のものとは異なる。
【0018】
図1を用いて、本発明の実施形態に係るスイッチング装置100の構成について説明する。
本実施形態における異常状態とは、スイッチングノイズや外来ノイズにより制御回路が異常状態を誤検知した場合も含むこととする。
図1に示す本実施形態に係るスイッチング装置100は、直流電圧出力手段としてのバッテリ1と、負荷としてのソレノイド6とバッテリ1との間を開閉するスイッチング素子2と、ソレノイド6に流れる負荷電流を検出する電流検出手段(電力検出手段)3と、保護機能を有し電流検出手段3の出力とマイコン7から入力される制御目標値とに応じてスイッチング素子2をPWM制御する駆動手段4と、スイッチング装置100の異常状態を検知する異常検知手段5と、を備える。電流検出手段3と駆動手段4と異常検知手段5とは、制御回路8を構成する。
【0019】
バッテリ1は、充電式電池から成り、直流電圧をスイッチング素子2のドレイン端子及び制御回路8に出力する。なお、バッテリ1に代わり、商用電源を整流して直流電圧を出力するように構成した回路を設けても良い。
【0020】
スイッチング素子2は、MOSFETから成り、ドレイン端子がバッテリ1に接続され、制御回路8からゲート端子に入力されるゲート駆動信号に応じて、ソース端子から電流検出手段3を介してソレノイド6に断続的に直流電圧を出力する。なお、スイッチング素子2として、バイポーラトランジスタやIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)などを用いることができる。
【0021】
電流検出手段3は、電流検出抵抗31と、電流検出アンプ32と、を備える。電流検出抵抗31の一端は、スイッチング素子2のソース端子と電流検出アンプ32非反転入力端子と回生ダイオード9のカソードとに接続され、他端は、ソレノイド6の一端と電流検出アンプ32の反転入力端子とに接続される。電流検出抵抗31は、ソレノイド6に流れる負荷電流を検出し、電圧信号に変換して電流検出アンプ32に出力する。電流検出アンプ32は、反転入力端子と非反転入力端子とに入力される電圧信号を増幅し、検出信号として駆動手段4の第1の入力端子に出力する。
【0022】
駆動手段4は、保護機能を有する演算回路41と、ドライバ回路42と、を備える。演算回路41は、マイコン7から入力されるクロック信号に同期して、電流検出手段3から第1の入力端子に入力される検出信号とマイコン7から第2の入力端子に入力される制御目標値とから、ゲート駆動信号のデューティ(オン幅)比率を演算し、演算結果に基づくPWM信号をドライバ回路42に出力する。演算回路41の第3乃至第5の入力端子は異常検知手段5の出力端子に接続され、出力端子はドライバ回路42に接続される。ドライバ回路42は、図示しないチャージポンプ回路により昇圧された直流電圧が印加され、演算回路41の出力をゲート駆動信号としてスイッチング素子2のゲート端子に出力する。
【0023】
演算回路41は、例えばデジタル回路で構成され、PWM信号のデューティ情報(演算結果)の保持及びリセットを周期的に繰り返し、異常検知手段5の出力に応じてリセットを休止する保持手段及びリセット手段(図示せず)を有する。スイッチング装置100が正常状態にあるとき、保持手段及びリセット手段は、マイコン7から入力されるクロック信号に同期して、デューティ情報のリセットと保持とを周期的に行う。一方、スイッチング装置100が異常状態にあるとき、保持手段は異常状態になる直前のデューティ情報を保持し、リセット手段はリセット動作を休止する。即ち、スイッチング装置100の異常時におけるデューティ情報(演算結果)は、電流検出手段3の検出信号とマイコン7の制御目標値とに影響されず一定となる。また、このとき演算回路41は、保護機能が働きPWM信号の出力を停止するか、或いは予め設定された最小のデューティ比率となるPWM信号をドライバ回路42に出力する。
【0024】
異常検知手段5は、バッテリ1から直流電圧が供給され、スイッチング装置100の異常状態を検知すると、異常状態に応じた異常信号を演算回路41の第3乃至第5の入力端子に出力する。本実施形態に係る異常検知手段5は、スイッチング装置100及びソレノイド6の破壊を防止するため、過電流検知機能OCP(Over Current Protection)、過電圧検知機能OVP(Over Voltage Protection)及び過熱検知機能TSD(Thermal Shut−Down)を有する。例えば、過電流検知機能は、電流検出手段3の検出信号の値が所定値よりも大きいときに過電流異常として、異常信号を演算回路41の第3の入力端子に出力する。また、過電圧検知機能は、図示しない電圧検出手段の検出信号の値に応じて異常信号を演算回路41の第4の入力端子に出力する。また、過熱検知機能は、スイッチング素子2又は制御回路8の温度に応じて異常信号を演算回路41の第5の入力端子に出力する。これらの異常信号が演算回路41に入力されると、上述のように、演算回路41はデューティ情報のリセットを休止するとともに保護機能を動作させる。
【0025】
ソレノイド6は、その一端が電流検出抵抗31の他端に接続され、他端はグランドに接続される。ソレノイド6は、負荷電流の大きさに応じて所定の変位量を得ることができる。
【0026】
マイコン7は、駆動手段4に制御目標値及び制御クロック信号を出力する。
【0027】
回生ダイオード9は、アノードがグランドに接続され、カソードが電流検出抵抗31を介してソレノイド6の一端に接続される。
【0028】
次に、図2を用いて、本実施形態に係るスイッチング装置100の動作について説明する。
【0029】
図2は、図1に示す本発明に係るスイッチング装置100の動作を示すフローチャートである。
まず、ステップS1では、スイッチング装置100は通常動作を行う。即ち、バッテリ1の直流電圧が制御回路8に印加されると、駆動手段4は、通常動作として、ソレノイド6に電力を供給するためにスイッチング素子2のPWM制御を開始し、H(高)レベルとL(低)レベルとを交互に繰り返すパルス信号であるゲート駆動信号を出力する。また、演算回路41が、電流検出手段3の検出信号をマイコン7の制御目標値に近づけるようにゲート駆動信号のデューティ(オン幅)比率を変調する。
【0030】
ステップS2では、演算回路41の保持手段及びリセット手段は、マイコン7から入力されるクロック信号に同期して、デューティ情報(演算結果)のリセットと保持とを周期的に繰り返す。
【0031】
ステップS3では、異常検知手段5は、スイッチング装置100及びソレノイド6が異常状態であるか否かを調べる。スイッチング装置100及びソレノイド6が正常状態であれば、ステップS2において引き続き、スイッチング装置100は通常動作を行う。一方、スイッチング装置100及びソレノイド6が異常状態であれば、ステップS4において、異常検知手段5の異常信号に応じて演算回路41はデューティ情報のリセットを休止する。詳細には演算回路41の保持手段は、異常状態となる直前のデューティ情報を保持する。さらにこのとき、ステップS5において駆動手段4は、異常検知手段5の異常信号に応じてスイッチング素子2のPWM制御を行う。より詳細には、過電圧(OVP)及び過熱(TSD)の異常信号が演算回路41に入力されたときは、演算回路41はPWM信号の出力を停止し、駆動手段4はスイッチング素子2のPWM制御を停止する。また、過電流の異常信号が演算回路41に入力されたときは、演算回路41は予め設定された最小のデューティ比率となるPWM信号をドライバ回路42に出力し、駆動手段4はスイッチング素子2をPWM制御する。
【0032】
ステップS6では、異常検知手段5は、スイッチング装置100及びソレノイド6の異常状態が解除されたか否かを調べる。スイッチング装置100及びソレノイド6が正常状態であれば、ステップS7において制御回路8は、保持手段が保持しているデューティ情報に基づきPWM制御を再開する。このとき、制御回路8は、スイッチング装置100及びソレノイド6が異常状態になる直前と等しい値から最適値まで徐々にゲート駆動信号のデューティ比率を変調する。さらにステップS8において演算回路41は、ステップS2と同様にデューティ情報(演算結果)のリセットと保持とを周期的に繰り返す。一方、スイッチング装置100及びソレノイド6が異常状態であれば、ステップS5において継続して駆動手段4が異常検知手段5の異常信号に応じてスイッチング素子2のPWM制御を行う。
【0033】
ステップS9では、ステップS1と同様に、スイッチング装置100は通常動作を行う。
【0034】
本発明の実施形態に係るスイッチング装置100は、このような動作により、スイッチング装置100及びソレノイド6の破壊を防止するとともに、スイッチング装置100及びソレノイド6が異常状態から正常状態に復帰した直後、異常状態となる直前のデューティ(オン幅)比率でPWM制御を再開させることができる。
【0035】
本実施例に係るスイッチング装置100は、以下の効果を有する。
(1)異常検知手段5がスイッチング装置100及びソレノイド6の異常状態を検知し、駆動手段4が異常信号に応じてスイッチング素子2のPWM制御を行うため、スイッチング装置100及びソレノイド6の破壊を防止することができる。
(2)最小デューティ比率でPWM制御を再開する場合に比べ、異常状態から正常状態への復帰時におけるデューティ比率の調整時間を短縮し、通常動作へ素早く移行することができる。
(3)ノイズにより制御回路8が異常状態を誤検知した場合、デューティ比率の変動が非常に小さいため、デューティ比率の調整時間が殆ど発生しない。従って、ノイズによる制御精度の低下を防止することができる。
【0036】
以上、本発明の実施形態の一例について説明したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。例えば、本発明は、ソレノイド以外を負荷とするスイッチング装置、或いは負荷電圧を検出して制御するスイッチング装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 バッテリ
2 スイッチング素子
3 電流検出手段
4 駆動手段
5 異常検知手段
6 ソレノイド
7 マイコン
8 制御回路
9 回生ダイオード
31 電流検出抵抗
32 電流検出アンプ
41 演算回路
42 ドライバ回路
100 スイッチング装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子と、前記スイッチング素子をPWM制御する制御回路と、を有し、前記スイッチング素子のスイッチング動作により入力電力を負荷に供給するスイッチング装置であって、
前記制御回路が、前記PWM制御のデューティ情報の保持とリセットとを周期的に繰り返し、前記スイッチング装置が異常状態になる直前と異常状態から正常状態に復帰した直後とにおいて、同一のデューティ情報に基づきスイッチング素子をPWM制御することを特徴とするスイッチング装置。
【請求項2】
前記異常状態において、前記制御回路が、前記デューティ情報のリセットを休止することを特徴とする請求項1記載のスイッチング装置。
【請求項3】
前記制御回路が、前記デューティ情報を周期的に保持する保持手段と、前記保持手段が保持する前記デューティ情報を周期的にリセットするリセット手段と、前記スイッチング装置の異常状態を検知する異常検知手段と、を備え、
前記制御回路が、前記スイッチング装置が前記異常状態から正常状態に復帰した直後に、前記保持手段が保持する前記デューティ情報に基づいてスイッチング素子をPWM制御することを特徴とする請求項1又は2記載のスイッチング装置。
【請求項4】
前記負荷がソレノイドであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のスイッチング装置。
【請求項5】
前記制御回路が、前記負荷に流れる電流を制御するために電流検出手段を備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のスイッチング装置。
【請求項6】
前記入力電圧が、バッテリから入力される直流電圧であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載のスイッチング装置。
【請求項7】
スイッチング素子と、前記スイッチング素子を制御する制御回路と、を有し、前記スイッチング素子のスイッチング動作により入力電圧を負荷に供給するスイッチング装置の制御方法であって、
前記スイッチング装置が正常状態のとき前記スイッチング素子のデューティ情報を周期的に保持及びリセットし、且つ、前記スイッチング装置が異常状態のとき前記リセットを休止し、且つ、前記スイッチング装置が異常状態から正常状態に復帰した直後に保持した前記デューティ情報に基づいてスイッチング素子を制御することを特徴とするスイッチング装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−279122(P2010−279122A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127694(P2009−127694)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000106276)サンケン電気株式会社 (982)
【Fターム(参考)】