説明

スイッチ用可動接点

【課題】高荷重試験や実際の使用時において、接触片の必要以上の変形を防止し、接触片の復帰不良を未然に防止する。
【解決手段】導電性ばね板材をドーム形状に湾曲させて反転復帰可能な接触片(2)とすると共に、接触片(2)の凸面(3)の中央にドーム形状の凸側に突出する剛性付与用の膨出部(5)を形成し、この膨出部(5)の周囲の同心円上で接触片(2)の凹面(4)にドーム形状の凹側に突出する小さな突起により複数の接点(6)を形成し、さらに、膨出部(5)の中心と各接点(6)とを結ぶ直線上で膨出部(5)の周縁部分を中心の方向に窪ませて、膨出部(5)の凸側面に変形防止用の窪み部(7)を形成して、スイッチ用可動接点(1)を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種機器の信号入力部に組み込まれるスイッチ、特に、スイッチ用クリック機能付きドーム状の可動接点の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、この種のドーム状の可動接点を開示している。その可動接点は、ドーム状の接触片の中央に、円筒突部を形成している。そのような従来の可動接点では、中央の円筒突部に高荷重、例えば10kgの静荷重1分、20kgの静荷重5秒または40kgの静荷重1秒が作用すると、円筒突部が偏平に変形してしまい、ドーム状の可動接点全体が外側に張り出すように拡径方向に変形し、もとに戻らなくなる現象、すなわち復帰不良が発生していた。
【0003】
特に、円筒突部の周縁がなだらかな曲面によって形成され、円筒突部の周辺に固定接点に接触する小さな突起状の接点が形成されているとき、可動接点は、高荷重を受けて拡径方向に変形するとき、小さな突起状の接点を支点として、反転復帰可能な限界を越えて大きく変形してしまうため、復帰不良も多発し易くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−322974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の解決課題は、高荷重試験や実際の使用時において、ドーム形状の接触片の必要以上の変形を防止し、接触片の復帰不良を未然に防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題のもとに、本発明は、導電性ばね板材をドーム形状に湾曲させて反転復帰可能な接触片とし、この接触片の凸面の中央にドーム形状の凸側に突出する膨出部を形成し、この膨出部の周囲の同心円上で接触片の凹面にドーム形状の凹側に突出する小さな突起により複数の接点を形成し、さらに膨出部の中心と各接点とを結ぶ直線上で膨出部の周縁部分を中心の方向に窪ませて、膨出部の凸側面に変形防止用の窪み部を形成することによって、スイッチ用可動接点を構成している(請求項1)。
【0007】
膨出部は、円、楕円、矩形、多角形として形成され(請求項2)、また、窪み部は、円弧状または角状として形成される(請求項3)。接点および窪み部は、接触片の中心に対して等しい角度のもとに合計3ないし4個形成されている(請求項4)。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るスイッチ用可動接点では、接触片の中央の膨出部の周縁に変形防止用の窪み部が形成されており、高荷重や大きな力が膨出部に作用したとき、その時の力が窪み部の存在によって分散するために、接触片の外側に張り出すような大きな変形が少なくなること、また、接触片の弾性変形のときに、接点より外周域での接触片の必要以上の変形が抑えられるため、接触片の反転動作による復帰不良が未然に回避できること、などの特有の効果が得られる(請求項1)。
【0009】
接触片の外形の変化に応じて、膨出部は円、楕円、矩形、多角形などとして柔軟に対応できる(請求項2)。円弧状または角状の窪みによって、力の分散が有効に行える(請求項3)。接点および窪み部が接触片の中心に対して等しい角度のもとに合計3ないし4個形成されていると、偏心荷重・力や垂直荷重以外の荷重・力に対しても、接触片の弾性変形が安定し、スイッチ動作が確実となる(請求項4)。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係るスイッチ用可動接点の拡大平面図である。
【図2】本発明に係るスイッチ用可動接点の一部断面の拡大側面図であり、断面は図1の矢印Aでの半断面に相当する。
【図3】本発明に係るスイッチ用可動接点の動作状態の一部断面の拡大側面図であり、断面は図1の矢印Aでの半断面に相当する。
【図4】本発明に係るスイッチ用可動接点の窪み部の作用効果の説明図である。
【図5】本発明に係るスイッチ用可動接点の膨出部および窪み部の他の例の要部の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1および図2において、本発明に係るスイッチ用可動接点1は、ほぼ円形の導電性ばね材をドーム形状に湾曲させて反転復帰可能な接触片2として構成されている。導電性ばね材は、厚み0.04〜0.1mmの程度の例えば円形銀またはニッケルメッキのステンレス板などであり、その大きさは、携帯電話の操作スイッチであれば、直径3〜6mm程度である。なお、接触片2は、円形の導電性ばね材に限らず、組み込み対象に応じて適当な形状、例えば楕円形、小判形、菱形、矩形の導電性ばね材、さらに菱形、矩形の角部分を円弧または直線で切り落とした形状の導電性ばね材により構成することもできる。
【0012】
接触片2は、接触片2の凸面3の中央にドーム形状の凸側に突出する例えば円錐台形の膨出部5を絞り加工により有しており、この膨出部5の周囲の同心円上で接触片2の凹面4にドーム形状の凹側に突出する小さな突起により複数の接点6を形成している。なお、接触片2の円形の2点鎖線は、接触片2の異なる曲面の稜線2aを示しており、この稜線2aは、接触片2の反転動作ときの折れ曲がり線となる。
【0013】
膨出部5は、接触片2の中央部分に剛性を付与し、その部分で荷重や操作力などの外力を受け止めるために、必要な大きさとして形成されており、円錐台形のほかに、楕円、矩形、多角形の台形として形成することもできる。なお、接点6は、絞り加工により形成できるが、好ましくは半打ち抜き加工(ハーフカット加工)により材料の厚みの1/3程度のみを剪断して形成されている。接点6の形成数は、一例として接触片2の中心角90度ごとに形成され、合計4個となっている。
【0014】
そして、本発明は、上記のスイッチ用可動接点1において、特徴的な構成として、膨出部5の中心と各接点6とを結ぶ直線つまり半径線上で、膨出部5の周縁部分を中心の方向に円弧状として窪ませて、膨出部5の凸側面に変形防止用の窪み部7を形成している。なお、窪み部7の領域での凹側面は、凹面4の延長面となっている。窪み部7は、膨出部5で外力を受けるときに、膨出部5の偏平状の変形を防止ために、接点6の位置に対応し合計4個設けられており、円弧状の他に、角状として形成される。
【0015】
図2および図3に想像線で例示するように、スイッチ用可動接点1は、携帯電話などのスイッチ基板8に向き合うように組み込まれる。組み込み状態で、通常、接触片2の凹面4は、外周端の部分で接触面9に電気的に常時接触しており、接触片2の接点6は、スイッチ基板8の固定接点10に離れて向き合っている。
【0016】
高荷重試験、あるいはスイッチ操作の時に、スイッチ用可動接点1の膨出部5に矢印方向の大きな力が作用すると、ドーム形状の接触片2は、このときの大きな力を受けて、クリック動作のもとに中央部分で、スイッチ基板8に接近するように弾性変形し、凹面4の外周端部分で接触面9に対して接触を維持したまま、接点6を固定接点10に接触させ、接触面9と固定接点10との間を電気的に導通状態とする。
【0017】
なお、接点6が中心角90度ごとに形成されておれば、荷重や力が膨出部5の頂点面に対して垂直に作用しないとき、あるいは荷重や力が接触片2の中心に対して偏心位置に作用したときに、スイッチ用可動接点1は、4個の接点6と固定接点10との接触により、最終的にスイッチ基板8に対して平面的に平行な状態となり、接触面9と固定接点10との間を確実に導通状態とする。
【0018】
スイッチ用可動接点1の膨出部5に矢印方向の高荷重や大きな力が作用すると、膨出部5は、高荷重や大きな力の作用点から放射方向の力を受け、偏平に変形しようとする。しかし、膨出部5の外周縁は、同心円でなく窪み部7の存在によって、放射方向の力は、窪み部7の位置で分散する。このため、放射方向の力は、ドーム形状の接触片2を偏平に変形させる力として弱くなる。この結果、膨出部5の窪み部7は、膨出部5に対して変形防止に作用し、接触片2に対しても偏平な変形を抑制することになる。
【0019】
スイッチ用可動接点1の膨出部5に矢印方向の荷重や力が作用しなくなると、ドーム形状の接触片2は、クリック動作のもとに導電性ばね材の弾性により元の状態に復帰し、接触面9と固定接点10との間を電気的に不導通の状態とする。
【0020】
図4は、膨出部5の中心と各接点6とを結ぶ直線上で、窪み部7の作用および効果を窪み部7の有無と対比しながら線図として示している。図4において、本発明のスイッチ用可動接点1によると、膨出部5の外周縁つまり窪み部7の奥部分から接点6までの直線上の距離L1は、窪み部7のない例での同じ大きさの膨出部5の外周縁から接点6までの直線上の距離L2よりも長くなっている。このため、膨出部5の下縁が荷重または力を受けてスイッチ基板8の方向に変位Sだけ移動したとき、本発明のスイッチ用可動接点1によると、接触片2は、支点となっている接点6よりも外周のある位置で変位S1であるが、窪み部7のない例によれば、接触片2は、同じ位置で変位S1よりも大きな変位S2となり、反転復帰できない領域に入り易くなる。
【0021】
なお、窪み部7のない例において、膨出部5の外形が小さければ、膨出部5の外周縁から接点6までの距離L2は、膨出部5の外周縁つまり窪み部7の奥部分から接点6までの距離L1と等しく、または小さくできる。しかし、膨出部5の外形が小さいと、接触片2の中央部分で必要充分な剛性が得られなくため、膨出部5の外形は、充分な剛性を確保できるほどの大きさでなければならない。このような観点からみれば、窪み部7は、接触片2の中央部分で剛性確保のために、膨出部5を必要な大きさにしたことにともなって、接点6を通る接触片2の半径線上で、膨出部5の外周縁つまり窪み部7の奥部分から接点6までの距離L1を大きくするためのものとも言える。
【0022】
このように、本発明のスイッチ用可動接点1によれば、接触片2の弾性変形のときに、突起状の各接点6を支点として接点6より外周域での接触片2の変形が抑えられるため、接触片2の必要以上の反転動作による復帰不良が未然に回避できる。
【0023】
次に図5は、スイッチ用可動接点1の膨出部5および窪み部7の他の例を示している。図5の(1)は、膨出部5を四角形とし、窪み部7を四角形の各辺に形成し、接点6を中心角90度として合計4個とする例である。図5の(2)は、膨出部5を円形とし、窪み部7を中心角120度として合計3個形成し、接点6を合計3個とする例である。さらに図5の(3)は、膨出部5を三角形とし、窪み部7および接点6を三角形の角辺に対応させて合計3個とする例である。
【0024】
図5の(2)および図5の(3)のように、接点6が中心角120度ごとに形成されていても、荷重や力が膨出部5の頂点面に対して垂直に作用しないとき、あるいは荷重や力が接触片2の中心に対して偏心位置に作用したときに、スイッチ用可動接点1は、3個の接点6と固定接点10との接触により、最終的にスイッチ基板8に対して平面的に平行な状態となり、接触面9と固定接点10との間を確実に導通状態とする。なお、接触面9と固定接点10と接触時における安定性は、3個の接点6よりも4個の接点6の方がより安定する。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明に係るスイッチ用可動接点1は、各種電気機器、例えばオーディオ機器、ビデオ機器、通信機器、測定器、その他の電気機器、カメラなどの光学機器にプッシュスイッチとして広く用いられほか、携帯電話などの用途で、スイッキ基板に対して粘着シートに貼り付けて、薄型のシート状のスイッチとして利用される。
【符号の説明】
【0026】
1 スイッチ用可動接点
2 接触片 2a 稜線
3 凸面
4 凹面
5 膨出部
6 接点
7 窪み部
8 スイッチ基板
9 接触面
10 固定接点
L1、L2 距離
S、S1、S2 変位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性ばね板材をドーム形状に湾曲させて反転復帰可能な接触片(2)とすると共に、接触片(2)の凸面(3)の中央にドーム形状の凸側に突出する剛性付与用の膨出部(5)を形成し、この膨出部(5)の周囲の同心円上で接触片(2)の凹面(4)にドーム形状の凹側に突出する小さな突起により複数の接点(6)を形成し、さらに膨出部(5)の中心と各接点(6)とを結ぶ直線上で膨出部(5)の周縁部分を中心の方向に窪ませて、膨出部(5)の凸側面に変形防止用の窪み部(7)を形成する、ことを特徴とするスイッチ用可動接点(1)。
【請求項2】
膨出部(5)を、円、楕円、矩形、多角形のうちいずれか1つにより形成する、ことを特徴とする請求項1記載のスイッチ用可動接点(1)。
【請求項3】
窪み部(7)を、円弧状または角状として形成する、ことを特徴とする請求項1または請求項2記載のスイッチ用可動接点(1)。
【請求項4】
接点(6)および窪み部(7)を、接触片(2)の中心に対して等しい角度のもとに合計3ないし4個形成する、ことを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載のスイッチ用可動接点(1)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−124079(P2012−124079A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275304(P2010−275304)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(391011696)不二電子工業株式会社 (23)
【Fターム(参考)】