説明

スキャナ装置

【課題】ミラーの倒れを検出することにより、反射させる光の光路の位置決め精度を向上させると共にミラーの回転角度を高精度に検出すること。
【解決手段】角度検出器4を2組(角度検出器4がガラス円盤22とセンサヘッド23とから構成されるロータリ型のレーザエンコーダの場合は、ガラス円盤22を1個とセンサヘッド23を2個)設け、2個の角度検出器4の検出方向をミラー5の反射面に垂直の方向かつ回転軸16の軸線Oに対して対称に配置し、2個の角度検出器4の出力の差からミラー5の倒れを検出する。また、2個の角度検出器4の出力の和からミラー5の回転角度を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸に支持されたミラーを位置決めして光を所望の位置に反射させるスキャナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化・高機能化により、プリント基板の高密度化が進んでいる。これに伴いレーザ加工機には加工精度に対する要求が急速に高まっている。なかでもスキャナ装置は、加工精度に大きく影響を与える装置である。
【0003】
図5は、プリント基板穴明け用レーザ加工機におけるスキャナ装置の構成を示すブロック図、図6はスキャナの断面図である。また、図7は図6におけるA矢視図であり、ケースは断面して示している。
【0004】
スキャナ装置はスキャナ100とスキャナ制御装置200とから構成されている。上位制御装置1は、NCプログラムを解釈して、レーザビーム2を位置決めすべき対象物上の位置に応じて、スキャナ制御装置200に目標位置決め角度3を指令する。
【0005】
スキャナ制御装置200は、指令された目標位置決め角度3に基づいて目標軌道を計算し、刻々のレーザビームの目標位置をリアルタイムで計算する。そして、レーザビームの目標位置とスキャナ100に取り付けられた角度検出器4とから出力されるミラー5の現在位置(偏向角)6との差に基づいてモータに駆動電流7を供給する。上記の処理を一定のサンプル周期毎に繰り返すことにより、ミラー5を目標位置に接近させる。そして、位置決めが完了すると、スキャナ制御装置200は位置決め完了信号8を上位制御装置1に送る。上位制御装置1は位置決め完了信号8を受信すると、図示を省略するレーザ発振器に指令を送り、パルス状のレーザビーム2を出力させる。出力されたレーザビーム2はFθレンズ9を介して対象物の加工位置に照射され、プリント基板の導体層間を接続するための穴をあける(特許文献1)。
【0006】
図6に示すように、スキャナ100の可動コイル15は、方形に形成され、一方の相対する2辺が回転軸16の回転の軸線と平行になるようにして、他方の相対する2辺の中央部が回転軸16に保持されている。可動コイル15は、回転軸16の軸線と平行に配置された一対の永久磁石17によって形成される磁力線の方向が回転軸16の軸線に直交する方向の磁界中に配置されている。軸受18と軸受19は、可動コイル15の両側で、回転軸16を回転自在に支持している。可動コイル15と永久磁石17とで電磁アクチュエータ(以下、「モータ」という。)を構成している。ミラーマウンタ20は、直方体部と円筒部とから構成されている。そして、円筒部の中心部に形成された穴が回転軸16に嵌合し、図示を省略するねじにより回転軸16に固定されている。ミラー5は、ミラーマウンタ20の直方体部の側面に形成された溝に嵌合し、ミラーマウンタ20に接着されている。円筒形のハブ21は中心部に形成された穴が回転軸16に嵌合し、図示を省略するねじにより回転軸16に固定されている。センサヘッド23と組み合わされることによりロータリ型のレーザエンコーダ(すなわち、角度検出器4)を構成するガラス円盤22は、ハブ21の側面に接着されている。センサヘッド23は、ガラス円盤22表面の回折格子と対向するようにして、ケース24に固定されている。
【0007】
図7に示すように、ガラス円盤22表面の回折格子22kは円周方向に一様に配置されており、センサヘッド23は回転軸16の一方の側(図示の場合は左側)に配置されている。そして、回転軸16を揺動させてミラー5の向きを変えることにより、ミラー5に入射するレーザビーム2の出射方向を変える(特許文献2)。
【0008】
ミラー2が軸方向に傾くことを予防するため、ミラー2の軸方向の両側を支持するものもある。(特許文献3)
【特許文献1】特開2002−137074号公報
【特許文献2】特開2002−6255号公報
【特許文献3】特開2002−296533号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ミラーの位置決めの高精度化を阻害する要因の一つにミラーの軸方向の傾き(倒れ。以下、単に「ミラーの倒れ」という。)がある。ミラーの倒れは回転軸に発生する曲げ振動に伴って発生する。しかし、上記特許文献1〜3のいずれも、ミラーの倒れを検出する技術については開示されていない。
【0010】
なお、特許文献3の技術を採用した場合であっても、軸受けの磨耗等による経年変化により、回転軸に発生する曲げ振動に伴ってミラーの倒れが発生する。
【0011】
本発明の目的は、ミラーの倒れを検出することにより、反射させる光の光路の位置決め精度を向上させると共にミラーの回転角度を高精度に検出することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
図1はミラーの倒れを模式的に説明する図であり、図6と同じものまたは同一機能のものは同一の符号を付して重複する説明を省略する。同図において、(a)は倒れが発生していない状態を、(b)は倒れが発生している場合を、(c)はミラーの倒れとガラス円盤22の倒れとの関係を示している。
【0013】
同図(a)に示すように、例えば、スキャナが停止状態にある場合、回転軸の軸線Oは直線であり、ミラー5の反射面5aは軸線Oと平行である。しかし、回転数が増加した場合、同図(b)に示すように、回転軸16は曲線状に変形し、この変形に伴ってミラー5には角度αの倒れが発生する。本発明者は、ミラー5に倒れが発生する場合、ガラス円盤22にも倒れが発生することを見いだした。そして、ミラー5の倒れ角度αとガラス円盤22の倒れ角度βとの関係を調べた結果、同図(c)に示すように、倒れ角度αが倒れ角度βに比例することを見いだした。
【0014】
以上の知見に基づき、上記課題を解決するため、本発明の第1の手段は、光を反射するミラーと、回転軸に支持された前記ミラーを回動させるモータと、前記ミラーの回転角度を検出する角度検出器と、目標値と前記角度検出器の出力信号とを比較して前記モータを駆動する制御手段とを備え、前記ミラーの位置を前記目標値に位置決めするスキャナ装置において、前記角度検出器を2個設け、前記2個の前記角度検出器の検出方向をミラーの反射面に垂直の方向かつ前記回転軸の軸線に対して対称に配置し、前記2個の角度検出器の出力の差から前記ミラーの倒れを検出することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の第2の手段は、光を反射するミラーと、回転軸に支持された前記ミラーを回動させるモータと、前記ミラーの回転角度を検出する角度検出器と、目標値と前記角度検出器の出力信号とを比較して前記モータを駆動する制御手段とを備え、前記ミラーの位置を前記目標値に位置決めするスキャナ装置において、前記角度検出器を2個設け、前記2個の前記角度検出器の検出方向をミラーの反射面に垂直の方向かつ前記回転軸の軸線に対して対称に配置し、前記2個の角度検出器の出力の和から前記ミラーの回転角度を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
ミラーの倒れを検出できるので、例えば、本発明に係るスキャナ装置をプリント基板穴明け用レーザ加工機に適用した場合、加工精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図2は、本発明に係るスキャナ制御装置のブロック線図であり、図5と同じものまたは同一機能のものは同一の符号を付して重複する説明を省略する。なお、このスキャナ制御装置200は図示を省略するマイクロプロセッサを用いたディジタル制御ファームウェアで実現されており、サーボ補償器50、倒れ検出器51および加算器52に関する処理は、前記マイクロプロセッサが実行するプログラムの一部に記述されている。そして、一定サンプル周期毎の離散的な時刻(以下、「離散的時刻」と呼ぶ。)において処理演算が実行される。また、角度検出器4は離散的時刻ごとに角度検出データを出力する。離散的時刻が開始されると、加算器52は上位制御1から指令された位置指令データである目標位置決め角度3から角度検出器4で検出された角度検出データ6を減算し、その結果を追従誤差53としてサーボ補償器50に出力する。サーボ補償器50は演算結果をDA変換器54に出力し、DA変換器54はサーボ補償器50の出力をアナログ値に変換する。このアナログ値は電流指令値であり、電流制御回路55はこの電流指令値に追従するように駆動電流7をモータのコイル15に供給する。また、倒れ検出器51にも角度検出器4の出力が入力される(倒れ検出器51の動作については後述する)。そして、上記の処理を一定サンプル周期毎に繰り返すことにより、ミラー5を目標位置に位置決めする。
【0018】
次に、倒れ検出器51について説明する。
【0019】
図3は、本発明におけるスキャナ100をセンサヘッド23が配置されている側から見た図である。
【0020】
センサヘッド23は回転軸16に対して左右に各1個配置されている。以下、左側に配置されているセンサヘッド23をセンサヘッド23L、右側に配置されているセンサヘッド23をセンサヘッド23Rと呼ぶ。センサヘッド23L、23Rは検出方向が回転範囲の中心位置(ミラー5の揺動角度を±θ度とするとき、0度の位置である。以下、「基準位置」という。)においたミラー5の反射面に垂直の方向かつ回転軸16の軸線Oに対して点対称に配置されている。なお、角度θは10〜15度程度である。センサヘッド23L、23Rの検出角度は時計回り方向がプラス、反時計回り方向がマイナスである。
【0021】
次に、本発明の動作を説明する。
【0022】
図4は本発明の動作を説明する図である。
【0023】
いま、ミラー5が角度をf(t)回転した時に、曲げ振動によりガラス円盤22が回転軸16と共に図4の上方に距離hだけ移動した(倒れた)とする。この場合、センサヘッド23L、23Rは固定されているので、ガラス円盤22に対して相対的に下がる。すなわち、ガラス円盤22上の回折格子23kはセンサヘッド23L、23Rよりも距離hだけ下方のセンサヘッド23Lm、23Rmにより回転角度を検出される。距離hに相当する回転角度がg(t)であるとすると、図示の場合、センサヘッド23Lの出力値Xa(t)およびセンサヘッド23Rの出力値Xb(t)はそれぞれ式1,2で表される。
【0024】
Xa(t)=f(t)+g(t) ・・・(式1)
Xb(t)=f(t)−g(t) ・・・(式2)
倒れ振動検出器51は、一定のサンプル周期毎に出力値Xa(t)と出力値Xb(t)との差Y(t)(ただし、Y(t)=2g(t))を求める。この動作(倒れ2g(t)を採取する動作)をある期間(ここでは、ある位置から次の位置に移動するまでの期間である。)繰り返す。そして、採取した期間内における最大値と最小値との差を求め、求めた差を倒れの振幅値とし、振幅値がしきい値を超えている場合は、信号を出力する。したがって、本発明に係るスキャナ装置をレーザ加工機に適用する場合は、倒れ振動検出器51から信号が出力された場合は、加工を中止するように構成することができる。
【0025】
また、出力値Xa(t)と出力値Xb(t)との和W(t)(ただし、W(t)=2f(t))を求めることにより、ミラー5の倒れをキャンセルすることができるので、ミラー5の回転角度を正確に知ることができる。
【0026】
この実施形態の場合、ガラス円盤22を共用できるので、センサヘッド23だけを2個設ければよく、構成を簡単にできる。
【0027】
なお、倒れ2g(t)の値はミラー5の回転位置により誤差が発生するが、ミラー5が回転する範囲は、図示の状態から±15度程度であるので、無視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】ミラーの倒れを模式的に説明する図である。
【図2】本発明に係るスキャナ制御装置のブロック線図である。
【図3】本発明に係るスキャナをセンサヘッド側から見た図である。
【図4】本発明の動作を説明する図である。
【図5】プリント基板穴明け用レーザ加工機における従来のスキャナ装置の構成を示すブロック図である。
【図6】従来のスキャナの断面図である。
【図7】図6におけるA矢視図である。
【符号の説明】
【0029】
4 角度検出器
22 ガラス円盤
23 センサヘッド
5 ミラー
16 回転軸
O 回転軸の軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工用のレーザビームが入射するミラーと、前記ミラーを支持する回転軸を回動させるモータと、前記ミラーの回転角度を検出する角度検出器と、前記ミラー目標位置決め角度と前記角度検出器の出力信号で示される角度とを比較して前記モータを駆動する制御手段とを備え、前記ミラーの位置を前記目標位置決め角度に位置決めするスキャナ装置において、
前記角度検出器を2個設け、
前記2個の前記角度検出器の検出方向をミラーの反射面に垂直の方向かつ前記回転軸の軸線に対して対称に配置し、
前記2個の角度検出器の出力の差から前記ミラーの倒れを検出する
ことを特徴とするスキャナ装置。
【請求項2】
検出された前記ミラーの倒れが予め定める許容値を超えた場合は信号を出力することを特徴とする請求項1に記載のスキャナ装置。
【請求項3】
加工用のレーザビームが入射するミラーと、前記ミラーを支持する回転軸を回動させるモータと、前記ミラーの回転角度を検出する角度検出器と、前記ミラー目標位置決め角度と前記角度検出器の出力信号で示される角度とを比較して前記モータを駆動する制御手段とを備え、前記ミラーの位置を前記目標位置決め角度に位置決めするスキャナ装置において、
前記角度検出器を2個設け、
前記2個の前記角度検出器の検出方向をミラーの反射面に垂直の方向かつ前記回転軸の軸線に対して対称に配置し、
前記2個の角度検出器の出力の和から前記ミラーの回転角度を検出する
ことを特徴とするスキャナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−258559(P2009−258559A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−110309(P2008−110309)
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【出願人】(000233332)日立ビアメカニクス株式会社 (237)
【Fターム(参考)】