説明

スクランブラ、スクランブル処理方法及びプログラム

【課題】簡素な操作でデータ列にスクランブルを施し、また、機能チャネルの内容が変化したときにも簡単な処理でスクランブルを施す。
【解決手段】パターン生成部11にて生成されたスクランブルパターンを構成する2進数ビット列に含まれる各ビットのビット値に対応して、正値あるいは負値の乗算値を乗算値決定部12によって決定する。乗算処理部13は、絶対値が等しい所定の正値と負値の組を値域に含んだ多値シンボルで構成されるシンボルデータ列における各シンボル値を表すシンボルデータと、乗算値決定部12にて決定された乗算値との乗算を実行する。このとき、乗算処理部13は、1シンボル分のシンボルデータと、スクランブルパターンに含まれる1ビットのビット値に対応して決定された乗算値との乗算を、シンボルデータ列が表すシンボル数に達するまで、順次に実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクランブラ、スクランブル処理方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば4値FSK(Frequency Shift Keying)変調などといった多値デジタル変調方式を用いて通信を行うときには、一時的に2値(または通常よりも少ない値)の変調とすることにより、重要なビット要素におけるユークリッド距離を、比較的に重要でない他のビット要素に比べてなるべく大きく取るようにすることがある。こうした処理を施すことで、伝送する対象のデータに誤り訂正を施したのと実質的に同等の機能を持たせることができる。
【0003】
また、変調の偏りによるエネルギーの集中を避けることや、情報に秘匿性を持たせることなどを目的として、伝送路上のデータにスクランブルをかけることが多い。このようにデータにスクランブルをかけることで、例えば元の情報データが全て同じ値(具体的な一例として、全て“0”を示すデータ)であるときにも、変調信号を擬似ノイズ(PN;Pseudo Noise)のように分散させることができる。従来、データにスクランブルをかける際には、対象となる情報データと、予め用意されたビット列であるスクランブルパターンとの排他的論理和(ExOR)を、論理演算回路などにより求めていた(例えば非特許文献1)。ここで、スクランブルパターンは、PN符号系列などとして生成することが多い。そして、PN符号の生成器に与える初期値をスクランブルコードとして可変に設定することで、様々なスクランブルパターンを生成できるように設計することが一般的である。
【0004】
一例として、同期ワードや、機能チャネルとなる情報データ集合から構成されるフレーム構造のデータ伝送方式において、1フレーム中における所定のデータ列に対してスクランブルをかける手順について説明する。ここで、同期ワードは、復号の際のタイミング信号となり、情報データ集合は、例えば音声データや通信制御用のデータなどのように、機能毎に分類されたデータの集合である。
【0005】
この場合、1つのフレームに含ませる機能チャネル毎に独立に誤り訂正符号化が施された後、各機能チャネルを1つに合成してフレームの組立を行い、非スクランブル状態のフレームが完成してから、所定のデータ列とスクランブルパターンとの排他的論理和を求めることで、伝送用のデータ列を作成する。こうして作成した伝送用のデータ列は、シンボルデータに変換された後、変調用データとして搬送波の変調などに用いられ、伝送路上に送出される。伝送データを受信する側では、伝送データの復調を行った後、スクランブルをかけたときと逆の手順となるデスクランブルを施すことで、元の情報データ集合などを復元することができる。
【0006】
このように、1フレームを構成するデータ列に対するスクランブルは、シンボルデータへの変換が行われる直前にて各ビット値に対して施されることになる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】社団法人電波産業会著「狭帯域デジタル通信方式(SCPC/FDMA) 標準規格 ARIB STD−T61 1.0版 第2分冊」、平成11年5月27日、p.142−143
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のように重要なビット要素におけるユークリッド距離を他のビット要素に比べて大きく取るためには、シンボルデータにおける各データの配置が重要となる。そのため、従来のように、シンボルデータへの変換が行われる以前の各ビット値に対してスクランブルを施してしまうと、重要なビット要素におけるユークリッド距離を十分に大きく取ることが困難になる。
【0009】
そこで、データ列に対してスクランブルを施した後に、重要なビット要素に該当する部分に所定の処理を施すことで、その部分の誤り耐性を向上させることが考えられる。もっとも、この場合には、一度フレームの組立を行った後に再び機能チャネル毎に処理を行う必要がある。そのため、例えば音声データが通信制御用のデータに変更された場合のように、機能チャネルの内容が変化して重要なビット要素の位置が変更されたときには、処理が煩雑になるという問題がある。
【0010】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたものであり、多値変調方式を利用して誤り耐性を向上させるときに、簡素な操作でデータ列に対してスクランブルを施し、また、機能チャネルの内容が変化したときにも簡単な処理でスクランブルを施すことができるスクランブラなどを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、この発明の第1の観点に係るスクランブラは、
スクランブルパターンを生成するパターン生成手段と、
前記パターン生成手段によって生成されたスクランブルパターンを構成する2進数ビット列に含まれる各ビットのビット値に対応して、正値あるいは負値の乗算値を決定する乗算値決定手段と、
重要度の高低が予め定められたデータの供給を受けて、重要度が高いビットデータの各ビットを分割して冗長ビットデータを付加する一方で、重要度が低いビットデータについては所定ビット数で分割することにより、絶対値が等しい所定の正値と負値を値域に少なくとも1組含んだ多値シンボルの列を表すシンボルデータ列を生成するシンボルデータ生成手段と、
前記シンボルデータと、前記乗算値決定手段によってスクランブルパターンにおける各ビットのビット値に対応して決定された乗算値との乗算を実行する乗算処理手段とを備える、
ことを特徴とする。
【0012】
前記乗算値決定手段は、スクランブルパターンに含まれるビット値が反転作用値として予め定めたビット値であるときに、−1を乗算値に決定し、前記スクランブルパターンに含まれるビット値が非反転作用値として予め定めたビット値であるときに、+1を乗算値に決定してもよい。
【0013】
この発明の第2の観点に係るスクランブル処理方法は、
データ処理装置によるスクランブル処理方法であって、
スクランブルパターンを生成するパターン生成ステップと、
前記パターン生成ステップにて生成したスクランブルパターンを構成する2進数ビット列に含まれる各ビットのビット値に対応して、正値あるいは負値の乗算値を決定する乗算値決定ステップと、
重要度の高低が予め定められたデータの供給を受けて、重要度が高いビットデータの各ビットを分割して冗長ビットデータを付加する一方で、重要度が低いビットデータについては所定ビット数で分割することにより、絶対値が等しい所定の正値と負値を値域に少なくとも1組含んだ多値シンボルの列を表すシンボルデータ列を生成するシンボルデータ生成ステップと、
前記シンボルデータと、前記乗算値決定ステップにてスクランブルパターンにおける各ビットのビット値に対応して決定した乗算値との乗算を実行する乗算処理ステップとを備える、
ことを特徴とする。
【0014】
この発明の第3の観点に係るプログラムは、
コンピュータに、
スクランブルパターンを生成するパターン生成ステップと、
前記パターン生成ステップにて生成したスクランブルパターンを構成する2進数ビット列に含まれる各ビットのビット値に対応して、正値あるいは負値の乗算値を決定する乗算値決定ステップと、
重要度の高低が予め定められたデータの供給を受けて、重要度が高いビットデータの各ビットを分割して冗長ビットデータを付加する一方で、重要度が低いビットデータについては所定ビット数で分割することにより、絶対値が等しい所定の正値と負値を値域に少なくとも1組含んだ多値シンボルの列を表すシンボルデータ列を生成するシンボルデータ生成ステップと、
前記シンボルデータと、前記乗算値決定ステップにてスクランブルパターンにおける各ビットのビット値に対応して決定した乗算値との乗算を実行する乗算処理ステップと、
を含む処理を実行させる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、簡素な操作でデータ列に対してスクランブルを施し、また、機能チャネルの内容が変化したときにも簡単な処理でスクランブルを施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係るスクランブラの一構成例を示す図である。
【図2】スクランブラにて実行される処理の一例を示すフローチャートである。
【図3】図2に示すステップS102及びステップS103の処理を実現するためのプログラムの一例を示す図である。
【図4】スクランブラが適用される送受信機を含んだ送受信システムの構成例を示す図である。
【図5】情報データにインターリーブを施す処理を模式的に示す図である。
【図6】ベースバンド信号が形成するアイパターンの一例を示す図である。
【図7】スクランブラの各部位における出力値の具体的な一例を示す図である。
【図8】ベースバンド信号を生成する動作の具体的な一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面を参照して、この発明の実施の形態に係るスクランブラについて詳細に説明する。
【0018】
図1は、この発明の実施の形態に係るスクランブラ100の一構成例を示す図である。図1に示す各構成は、例えば4値FSK(Frequency Shift Keying)変調などといった多値変調方式を用いて通信を行う通信機器に搭載されたLSI(Large Scale Integration)などのマイクロコンピュータシステムにおいて、CPU(Central Processing Unit)もしくはDSP(Digital Signal Processor)などから構成されたデータ処理装置がROM(Read Only Memory)に予め格納されたプログラムを実行することでソフトウェアにより実現されたものや、FPGA(Field-Programmable Gate Array)もしくはASIC(Application Specific Integrated Circuit)などを用いて構成されたハードウェアのデータ処理装置により実現されたもの、あるいは、所定のハードウェア構成とソフトウェア構成とを組み合わせたデータ処理装置によって実現されたものなどであればよい。図1に示すように、スクランブラ100は、データ入力部10と、パターン生成部11と、乗算値決定部12と、乗算処理部13と、データ出力部14とを備えている。
【0019】
データ入力部10は、スクランブルを施す対象となるデータ列を、スクランブル対象データとして外部からスクランブラ100へと取り込む。ここで、データ入力部10が取り込むデータ列は、絶対値が等しい所定の正値と負値を値域に少なくとも1組含んだ多値シンボルで構成されるシンボルデータ列である。このようなシンボルデータ列の具体的な一例としては、シンボル値が(+3)、(+1)、(−1)、(−3)の各値を取り得るシンボルデータ列であればよい。このシンボルデータ列では、絶対値が3である正値(+3)及び負値(−3)と、絶対値が1である正値(+1)及び負値(−1)の2組を、値域に含んでいることになる。データ入力部10は、例えば所定のフレームバッファやメモリなどに格納されたフレーム構造を有するデータのうちから、スクランブルを施す対象となる所定領域のデータを1シンボル分ずつ順次に読み出して、乗算処理部13に供給してもよい。
【0020】
パターン生成部11は、例えばPN符号を生成するための論理回路などから構成され、“1”及び“0”の2進数ビット列からなるスクランブルパターンを生成する。パターン生成部11にて生成されたスクランブルパターンは、例えば1ビットずつ順次に、乗算値決定部12へと供給される。
【0021】
乗算値決定部12は、パターン生成部11にて生成されたスクランブルパターンを構成する2進数ビット列に含まれる各ビットにおけるビット値に対応して、スクランブル対象データに対してスクランブルを施すために用いる乗算値を決定する。ここで、乗算値決定部12は、スクランブルパターンを構成する2進数ビット列に含まれる各ビットにおけるビット値に対応して、正値あるいは負値の乗算値を決定する。具体的な一例として、乗算値決定部12は、スクランブルパターン内の各ビットに対応して、ビット値が“1”であれば“+1”を乗算値に決定し、ビット値が“0”であれば“−1”を乗算値に決定する。すなわち、乗算値決定部12は、スクランブルパターンに含まれる2進数の各ビットにおける値が予め非反転作用値として規定した値(例えば“1”)であるときに、乗算値を正値である“+1”に決定し、スクランブルパターンに含まれる各ビットにおける値が予め反転作用値として規定した値(例えば“0”)であるときに、乗算値を負値である“−1”に決定する。乗算値決定部12によって決定された乗算値は、乗算処理部13に通知される。
【0022】
乗算処理部13は、データ入力部10から供給されたシンボルデータ列に含まれる各シンボルデータと、乗算値決定部12によって決定された乗算値との乗算を実行する。乗算処理部13での乗算により得られたデータは、データ出力部14によって、例えばデータ入力部10が読み出したフレームバッファのアドレスに格納するなどして、スクランブルが施されたデータとしてスクランブラ100から出力される。
【0023】
次に、上記構成を有するスクランブラ100の動作について説明する。図2は、スクランブラ100にて実行される処理の一例を示すフローチャートである。図2に示す処理が開始されると、まず、データ入力部10は、多値シンボルにシンボル化されたデータ(シンボルデータ)を、スクランブル対象データとして外部からスクランブラ100へと入力する(ステップS100)。また、パターン生成部11は、スクランブルパターンとなるPN符号系列などを生成する(ステップS101)。
【0024】
乗算値決定部12は、例えばステップS101にてパターン生成部11により生成されたスクランブルパターンが1ビットずつ順次に供給されたときに、その供給されたビットの値に対応して、スクランブル対象データであるシンボルデータにスクランブルを施すための乗算値を決定する(ステップS102)。続いて、乗算処理部13は、ステップS100にてデータ入力部10により取り込まれたスクランブル対象データと、ステップS102にて乗算値決定部12により決定された乗算値との乗算を実行する(ステップS103)。このとき、乗算処理部13は、1シンボル分のスクランブル対象データと、スクランブルパターンに含まれる1ビットのビット値に対応して決定された乗算値との乗算を、スクランブル対象データが表すシンボル数に達するまで、順次に実行する。
【0025】
例えば、データ入力部10から乗算処理部13に供給されるNシンボル分のシンボルデータ(スクランブル対象データ)をIn[i](Nは自然数、また、0≦i<N)とし、乗算処理部13からデータ出力部14へと送られるNシンボル分のシンボルデータをOut[i]とする。また、パターン生成部11から乗算値決定部12に供給されるNビットのスクランブルパターンをS[i]とする。この場合、ステップS102及びステップS103の処理は、例えばCPUを備えたマイクロコンピュータシステムが、図3に示すようなプログラムを実行することで実現可能である。なお、図3に示すプログラムは、プログラミング言語としてC言語を用いた場合のソースプログラムを示している。
【0026】
乗算処理部13が乗算を実行したことにより得られた値を示すデータは、スクランブルが施されたシンボルデータとして、データ出力部14によりスクランブラ100から出力される(ステップS104)。なお、図2に示す各ステップの処理は、いずれか1つの処理のみが逐次に選択されて実行されなければならないものではなく、スクランブラ100の各部位が処理を分担することで、複数の処理が並行して実行されてもよい。
【0027】
以上のような構成及び動作を実現するスクランブラ100は、例えば図4に示すような送受信システムを構成する送受信機101及び102などに適用することができる。以下に、スクランブラ100を送受信機101及び102に適用した具体例について説明する。
【0028】
送受信機101及び102は、互いに実質的に同一の構成を有しており、外部のパケット網などを含む外部の伝送路110を介して、例えば音声や画像を示す情報データの送受信を、両者相互の間で行うものである。送受信機101及び102はそれぞれ、送信装置20と、受信装置30とを備えている。送信装置20は、例えば所定周波数を有する搬送波に対して4値FSK変調などの多値変調を施した被変調波信号を生成し、伝送路110を介して相手先の受信装置30に宛てて送信する。受信装置30は、送信元の送信装置20から伝送路110を介して伝送された被変調波信号を受信して、音声や画像を示す情報データなどを復元する。
【0029】
送受信機101及び102の送信装置20は、それぞれ、図4に示すように、前述したスクランブラ100の他に、情報データ生成部21と、インターリーブ処理部22と、ベースバンド信号生成部23と、変調部24と、高周波出力部25とを備えている。また、送受信機101及び102の受信装置30は、それぞれ、図4に示すように、高周波入力部31と、復調部32と、シンボル判定部33と、デスクランブラ34と、デインターリーブ処理部35と、情報データ復元部36とを備えている。
【0030】
情報データ生成部21は、例えば外部環境や外部装置から取り込んだ音声や画像を示す情報データを生成する。あるいは、情報データ生成部21は、所定の記憶装置に予め記憶された情報データを読み出すことにより、情報データを出力するものであってもよい。ここで、情報データ生成部21にて生成される情報データは、複数のフレームの列に分解されていてもよい。例えば、各々のフレームは、音声や画像を一定の周期(例えば20ミリ秒毎)で区切って得られる音声波形や画素データを表す音声データや画像データからなる。
【0031】
また、情報データ生成部21は、各々のフレームに含まれる情報データを、予め定められた所定の手順に従って、重要度が高いビットデータと、重要度が低いビットデータとに分類する。具体的な一例として、音声を符号化して得られる44ビットのデータ(符号化音声データ)のうちで、所定の基準に従って特定される聴覚上の重要度が最も高い18ビットの部分データは、重要度が高いビットデータである最重要音声データに分類される。その一方で、符号化音声データのうちで最重要音声データに次いで聴覚上の重要度が高い26ビットの部分データは、重要度が低いビットデータである非保護音声データに分類される。
【0032】
1フレームの情報データとしては、最重要音声データや非保護音声データの他に、23ビットの保護用データや、5ビットの誤り検出用データなどが含まれている。誤り検出用データは、重要度が高いビットデータに分類される。保護用データは、18ビットの音声保護用データと、5ビットの誤り検出用データ保護用データとを含んでいる。保護用データを構成する各ビットの値は、いずれも“1”であればよい。
【0033】
インターリーブ処理部22は、情報データ生成部21にて生成された情報データにインターリーブを施す。この際、インターリーブ処理部22は、情報データ生成部21から受けた情報データに基づいて、4値FSK変調におけるシンボルに相当する2ビットのシンボルデータを生成する。
【0034】
より詳細には、重要度が高いビットデータについては、保護されるデータであるとして、図5(A)に示すように、各ビットを分割する。そして、図5(B)に示すように、保護用データを構成する各ビットとを1対1に結合することにより、2ビットのデータを生成する。このとき生成するデータにおいては、保護用データを構成する方のビットが下位ビットとなるように結合すればよい。これに対して、重要度が低いビットデータについては、保護されないデータであるとして、図5(A)に示すように、2ビットを1組として分割する。インターリーブ処理部22は、図5(C)に示すように、保護されるデータに対する分割処理及び冗長ビットデータの付加処理で得られた2ビットデータと、保護されないデータに対する分割処理で得られた2ビットデータとが交互に並ぶ部分を含むような所定の順序で、ベースバンド信号生成部23へとシンボルデータ列を供給する。
【0035】
ベースバンド信号生成部23は、インターリーブ処理部22から供給されたシンボルデータ列を、4値のルートナイキストFSK変調に用いられるベースバンド信号へと変換する。例えば、ベースバンド信号生成部23にて生成されるベースバンド信号は、図6に示すようなアイパターンを形成可能にする。図6に示すベースバンド信号は、1シンボル区間(シンボル1個分の情報を表す区間)内の一定の位相の点(ナイキスト点)で、瞬時値が4個の値のいずれかへと収束する。これらの4個の値(シンボル値)は、大きい方から2番目の値を(+1)とすると、大きい方から順に(+3)、(+1)、(−1)、(−3)の各値をとって等間隔で並ぶものである。なお、ベースバンド信号生成部23にて生成される信号そのものは、シンボルデータ列を形成するインパルス信号等のデジタル信号であればよく、この信号の帯域制限を行うことにより、図6に示すようなベースバンド信号となり得るものであればよい。
【0036】
例えば、ベースバンド信号生成部23は、図6に示すように、シンボルデータ列に含まれるシンボル“11”(値“11”を有する2ビットデータ)を、シンボル値が(−3)であるシンボル区間へと変換し、シンボル“10”を、シンボル値が(−1)であるシンボル区間へと変換し、シンボル“00”を、シンボル値が(+1)であるシンボル区間へと変換し、シンボル“01”を、シンボル値が(+3)であるシンボル区間へと変換する。この変換により、4種類のシンボルは、シンボル値が高い順(又は低い順)に配列した場合に、隣り合うシンボル間のハミング距離がいずれも1となるグレイ符号の系列をなすようになる。また、この変換により、下位1桁が“1”であるシンボルに対応して、シンボル値が(−3)又は(+3)であるシンボル区間が形成される。
【0037】
ここで、保護用データを構成する各ビットの値がいずれも“1”であることから、重要度が高いビットデータを含んだシンボルは、いずれも、シンボル値が(+3)又は(−3)であるシンボル区間へと変換される。すなわち、重要度が高いビットデータに冗長ビットデータとしての保護用データを付加することで得られたシンボルのシンボル値は、互いに異なる2個のシンボルのシンボル値の差の最小値が、冗長ビットデータを付加せずにシンボルを生成した場合における最小値よりも大きくなるように設定されている。すなわち、保護されるデータにおけるユークリッド距離は、保護されないデータに比べて大きくなるように設定されている。図6に示す具体的な一例では、冗長ビットデータを付加することで得られたシンボルのシンボル値は、値域の最大値又は最小値を取り得るのに対して、冗長ビットデータを付加せずに得られたシンボルのシンボル値は、値域に含まれる全ての値を取り得る。
【0038】
このように重要度が高いビットデータには冗長ビットデータとして保護用データを付加することで、取り得るシンボル値が限定される一方で、シンボル値の間隔(ユークリッド距離)が実質的に拡大されている。これにより、信号対雑音比を向上させることができる。また、インターリーブ処理部22での処理により、重要度が高いビットデータを含んだシンボルデータに対応するシンボル区間と、重要度が低いビットデータを含んだシンボルデータに対応するシンボル区間とが交互に並ぶ部分を含むことになる。これにより、重要度が高いビットデータがベースバンド信号内にて分散され、被変調波信号が伝送中にフェージング等の影響を受けた場合でも、重要度が高いビットデータが多数まとめて欠落する危険性を低下させることができる。
【0039】
こうしてベースバンド信号生成部23にて生成されたベースバンド信号は、スクランブラ100へと供給される。スクランブラ100は、例えば1シンボル分及びスクランブルパターンの1ビット分ずつ順次に、図2に示すような処理を実行することにより、ベースバンド信号に対してスクランブルを施す。スクランブラ100にてスクランブルが施されたベースバンド信号は、変調部24に供給される。変調部24は、スクランブラ100にてスクランブルされたベースバンド信号に帯域制限を行ってもよい。そして、この信号を用いて搬送波を周波数変調(4値FSK変調)する。このときに得られた被変調波信号は、高周波出力部25へと供給される。高周波出力部25は、変調部24から供給された被変調波信号の電力増幅などを行って、伝送路110へと送出する。
【0040】
受信装置30において、高周波入力部31は、伝送路110を介して受信した信号の増幅を行うなどして、復調部32に供給する。復調部32は、高周波入力部31から供給された受信信号を検波することにより、ベースバンド信号を復元する。このベースバンド信号は、シンボル判定部33に供給される。
【0041】
シンボル判定部33は、復調部32から受けたベースバンド信号の各ナイキスト点における瞬時値に基づいて、それぞれのナイキスト点を含むシンボル区間が表すシンボルを判定する。この判定結果に基づいて、スクランブルが施されたシンボルデータ列を再生する。このときに再生されたシンボルデータ列は、デスクランブラ34に供給される。
【0042】
デスクランブラ34は、シンボル判定部33から受けたシンボルデータ列に対して、スクランブラ100と同様にスクランブルパターンに対応した乗算値との乗算を実行することにより、インターリーブ処理部22によりインターリーブが施された状態のシンボルデータ列を再生する。こうしてデスクランブラ34により再生されたシンボルデータ列は、デインターリーブ処理部35に供給される。
【0043】
デインターリーブ処理部35は、デスクランブラ34から受けたシンボルデータ列にインターリーブ処理部22とは逆手順の処理を施すことで、情報データ列を再生する。例えば、デインターリーブ処理部35は、フレーム内での各々のシンボルの順序に基づいて、各シンボルデータが重要度の高いビットデータに分類されるのか、重要度の低いビットデータに分類されるのかを判定する。このときに重要度の高いビットデータに分類されたシンボルデータについては、例えば上位1ビットと下位1ビットとに分離して、上位1ビットのデータを抽出する。これに対して、重要度の低いビットデータに分類されたシンボルデータについては、2ビットデータ全体を抽出する。こうして抽出したデータを互いに対応付けて、情報データ復元部36に供給する。
【0044】
情報データ復元部36は、デインターリーブ処理部35から受けたデータ列を情報データとして構成して復元する。例えば、情報データ復元部36は、デインターリーブ処理部35から受けたデータ列と情報データとの対応関係を記述したルックアップテーブルを有しており、このテーブルを参照することで、デインターリーブ処理部35から受けたデータ列に対応する情報データを復元する。
【0045】
以上に述べたようなスクランブラ100が適用された送信装置20において、ベースバンド信号生成部23からスクランブラ100に、図7(A)に示すようなシンボルデータが供給されたものとする。ここで、図7(A)に示すようなシンボルデータにスクランブルを施すことなく、ベースバンド信号の帯域制限を行った場合には、図8(A)に示すような波形のベースバンド信号が得られる。図8(A)に示すような波形のベースバンド信号では、信号レベルが正の領域に偏っている。このため、変調部24による変調に偏りが生じ、被変調波信号においてエネルギーの集中が発生することになる。
【0046】
そこで、スクランブラ100では、パターン生成部11が、例えば図7(B)に示すようなスクランブルパターンを生成する。このスクランブルパターンに対応して、乗算値決定部12は、例えば図7(C)に示すような乗算値を決定して、乗算処理部13に通知する。乗算処理部13は、図7(A)に示すようなシンボルデータにおける各シンボル値と、図7(C)に示すような各乗算値との乗算を実行する。この乗算結果に基づいて、データ出力部14は、例えば図7(D)に示すような出力シンボルを示すシンボルデータを、ベースバンド信号生成部23へと送出する。
【0047】
こうしてスクランブルが施された後のシンボルデータについて、ベースバンド信号の帯域制限を行った場合には、図8(B)に示すような波形のベースバンド信号が得られる。図8(B)に示すような波形のベースバンド信号では、信号レベルが正負双方の領域に分散している。これにより、変調部24による変調での偏りをなくすことができ、被変調波信号におけるエネルギーを分散させることができる。また、スクランブルが施された後のシンボルデータは、スクランブルが施される前のシンボルデータとは大きく異なっている。そして、受信側の受信装置30では、送信側の送信装置20が備えるパターン生成部11にて生成されたスクランブルパターンを知ることができなければ、シンボルデータを正しく復元することができない。これにより、情報の秘匿性を確保することができる。
【0048】
以上説明したように、この発明によれば、パターン生成部11にて生成されたスクランブルパターンを構成する2進数ビット列に含まれる各ビットのビット値に対応して、“+1”あるいは“−1”といった、正値あるいは負値の乗算値を決定する。そして、乗算処理部13は、例えば(+3)、(+1)、(−1)、(−3)といった、絶対値が等しい所定の正値と負値の組を値域に含んだ多値シンボルで構成されるシンボルデータ列における各シンボル値を表すシンボルデータと、乗算値決定部12にて決定された乗算値との乗算を実行する。これにより、シンボル値に対する乗算値の乗算という簡単な操作により、シンボルデータ列にスクランブルを施すことができる。また、ビット単位ではなくシンボル単位で乗算を実行するので、例えば音声データが通信制御用のデータに変更された場合のように、機能チャネルの内容が変化して重要なビット要素の位置が変更されたときであっても、処理内容を変更することなく簡単な処理でスクランブルを施すことができる。
【0049】
なお、上記実施の形態では、多値変調方式として4値のルートナイキストFSK変調方式を用いるものとして説明したが、これに限定されるものではなく、例えば4値以上の多値変調方式や、PSK(Phase Shift Keying)変調方式などのように、任意の多値変調方式を用いる場合にも適用することができる。
【0050】
また、本発明に係るスクランブラ100は、専用のシステムによらず、通常のコンピュータシステムを用いて実現可能である。例えば、多値変調方式を用いて通信を行う通信機器に搭載されたマイクロコンピュータシステムに、上述のスクランブラ100としての構成及び機能を実現するためのプログラムを格納した記録媒体(例えば光ディスク、光磁気ディスク、磁気ディスク、ICメモリなど)から、該プログラムをインストールする。これにより、上述の処理を実行するスクランブラ100を構成することができる。
【0051】
さらに、例えば、電気通信ネットワーク上の情報処理装置(例えばサーバ装置)に、これらのプログラムをアップロードし、通信回線を介して配信してもよく、また、これらのプログラムを表す電気信号により搬送波を変調し、得られた被変調波信号を伝送して、この被変調波信号を受信した装置が復調を行って該プログラムを取得するようにしてもよい。そして、これらのプログラムを起動し、所定のOS(Operating System)の制御下に、他のアプリケーションプログラムと同様に実行することにより、上述の処理を実行することができる。
【0052】
なお、OSが処理の一部を分担する場合、あるいはOSが本発明の構成要素の一部を形成するような場合には、その部分をのぞいたプログラムを記録媒体に格納してもよい。この場合も、本発明では、コンピュータが実行する各機能又はステップを実行するためのプログラムが記録媒体に格納されているものとする。
【符号の説明】
【0053】
10 データ入力部
11 パターン生成部
12 乗算値決定部
13 乗算処理部
14 データ出力部
20 送信装置
21 情報データ生成部
22 インターリーブ処理部
23 ベースバンド信号生成部
24 変調部
25 高周波出力部
30 受信装置
31 高周波入力部
32 復調部
33 シンボル判定部
34 デスクランブラ
35 デインターリーブ処理部
36 情報データ復元部
100 スクランブラ
101、102 送受信機
110 伝送路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクランブルパターンを生成するパターン生成手段と、
前記パターン生成手段によって生成されたスクランブルパターンを構成する2進数ビット列に含まれる各ビットのビット値に対応して、正値あるいは負値の乗算値を決定する乗算値決定手段と、
重要度の高低が予め定められたデータの供給を受けて、重要度が高いビットデータの各ビットを分割して冗長ビットデータを付加する一方で、重要度が低いビットデータについては所定ビット数で分割することにより、絶対値が等しい所定の正値と負値を値域に少なくとも1組含んだ多値シンボルの列を表すシンボルデータ列を生成するシンボルデータ生成手段と、
前記シンボルデータと、前記乗算値決定手段によってスクランブルパターンにおける各ビットのビット値に対応して決定された乗算値との乗算を実行する乗算処理手段とを備える、
ことを特徴とするスクランブラ。
【請求項2】
前記乗算値決定手段は、スクランブルパターンに含まれるビット値が反転作用値として予め定めたビット値であるときに、−1を乗算値に決定し、前記スクランブルパターンに含まれるビット値が非反転作用値として予め定めたビット値であるときに、+1を乗算値に決定する、
ことを特徴とする請求項1に記載のスクランブラ。
【請求項3】
データ処理装置によるスクランブル処理方法であって、
スクランブルパターンを生成するパターン生成ステップと、
前記パターン生成ステップにて生成したスクランブルパターンを構成する2進数ビット列に含まれる各ビットのビット値に対応して、正値あるいは負値の乗算値を決定する乗算値決定ステップと、
重要度の高低が予め定められたデータの供給を受けて、重要度が高いビットデータの各ビットを分割して冗長ビットデータを付加する一方で、重要度が低いビットデータについては所定ビット数で分割することにより、絶対値が等しい所定の正値と負値を値域に少なくとも1組含んだ多値シンボルの列を表すシンボルデータ列を生成するシンボルデータ生成ステップと、
前記シンボルデータと、前記乗算値決定ステップにてスクランブルパターンにおける各ビットのビット値に対応して決定した乗算値との乗算を実行する乗算処理ステップとを備える、
ことを特徴とするスクランブル処理方法。
【請求項4】
コンピュータに、
スクランブルパターンを生成するパターン生成ステップと、
前記パターン生成ステップにて生成したスクランブルパターンを構成する2進数ビット列に含まれる各ビットのビット値に対応して、正値あるいは負値の乗算値を決定する乗算値決定ステップと、
重要度の高低が予め定められたデータの供給を受けて、重要度が高いビットデータの各ビットを分割して冗長ビットデータを付加する一方で、重要度が低いビットデータについては所定ビット数で分割することにより、絶対値が等しい所定の正値と負値を値域に少なくとも1組含んだ多値シンボルの列を表すシンボルデータ列を生成するシンボルデータ生成ステップと、
前記シンボルデータと、前記乗算値決定ステップにてスクランブルパターンにおける各ビットのビット値に対応して決定した乗算値との乗算を実行する乗算処理ステップと、
を含む処理を実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−178390(P2010−178390A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112865(P2010−112865)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【分割の表示】特願2004−287157(P2004−287157)の分割
【原出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000003595)株式会社ケンウッド (1,981)
【Fターム(参考)】