説明

スクリーニング方法およびスクリーニング装置

【課題】 適正な形態特徴量を用いてより精度の高い薬剤スクリーニングを行う。
【解決手段】 顕微鏡により取得した細胞画像を解析し、細胞画像中の各細胞の形態的な特徴を表す形態特徴量として、細胞の輪郭の円C,Cからのずれ量をパラメータ化した値を評価し、この評価に基づいて薬剤スクリーニングを行うスクリーニング方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理を用いたスクリーニング方法およびスクリーニング装置に関し、特に、顕微鏡により取得された細胞画像に関して、細胞の形態的な変化を比較するスクリーニング方法およびスクリーニング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
様々な薬剤の効果を評価し、特に有効な薬剤を探索することを一般に薬剤スクリーニングと称する。特に、生細胞を使った薬剤スクリーニングにおいては、薬剤を投与した後、適当な刺激を培養細胞に与え、刺激を与えていない細胞との差異を定量化することにより、薬剤効果を測定する。これら薬剤スクリーニングにおいて、各処理は人間により行われるのが通常である。
【0003】
しかしながら、薬剤スクリーニングの、細胞の観察により薬効を評価する段階は、通常人間の作業によって実施されるが、大量の薬剤を探索するスクリーニングにおいては、実験者の負担がかなり大きいため、自動化することが課題となっている。細胞の画像を解析する方法については、例えば、特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2001−269195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動化は、細胞画像を取得する段階と、取得した細胞画像を解析する段階に分けることができる。細胞画像の解析は、適当な画像処理方法を用いて、細胞の特徴量を抽出し、異なる条件下の細胞画像での特徴量値を比較することによって行われる。
しかしながら、プログラム処理過程でノイズの除去ができない場合が多いなどの理由で、薬剤効果の評価精度が高くない場合が多いという課題がある。
【0005】
細胞形態の特徴量抽出においては、精度良く正確に特徴量を取得することが第一の課題である。精度とは、第一に取得のための解析段階の精度であり、これは、解析ソフトウェアのプログラムなどに原因がある場合が多く、また、薬効に対する精度という考えもあり、これは特徴量が薬効をうまく表現していないなどの場合である。本来薬の効果があるはずなのに、特徴量では効果の差が出ないなどの場合には、精度が低いといえるが、これは実験系の設定の仕方などに依存する精度である。
【0006】
形態特徴量の精度が低くなる原因としては、さらに、細胞画像中に含まれる生細胞以外の物質による画像ノイズを特徴量に含めてしまうということが第一の原因であり、特徴量の定義・選択が適切ではないことが次にあげられる。
【0007】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、適正な形態特徴量を用いてより精度の高い薬剤スクリーニングを行うことができるスクリーニング方法およびスクリーニング装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、顕微鏡により取得した細胞画像を解析し、細胞画像中の各細胞の形態的な特徴を表す形態特徴量として、細胞の輪郭の円からのずれ量をパラメータ化した値を評価し、この評価に基づいて薬剤スクリーニングを行うスクリーニング方法を提供する。
また、本発明においては、前記形態特徴量として、細胞の輪郭の内接円または外接円の少なくともいずれかからのズレ量をパラメータ化した値を評価することとしてもよい。
これらにより、細胞の中心部分の大きさや、全体の形の歪み、さらに細胞の空間的な広がりなどを統一的に把握することができ、細胞の形態変化を効率的に精度良く表現することができる。
【0009】
また、本発明は、顕微鏡により取得した複数の細胞画像から構築した3次元画像を解析し、細胞画像中の各細胞の形態的な特徴を表す形態特徴量として、細胞の輪郭の球からのずれ量をパラメータ化した値を評価し、この評価に基づいて薬剤スクリーニングを行うスクリーニング方法を提供する。
【0010】
上記発明においては、前記形態特徴量として、細胞の輪郭の内接球または外接球の少なくともいずれかからのズレ量をパラメータ化した値を評価することとしてもよい。
また、上記発明においては、前記形態特徴量に基づいて、画像中の細胞を生細胞または死細胞のいずれかに判定して評価に使用することが好ましい。
なお、この判定に際し、細胞は画像取得前に固定されていても良いことは言うまでもない。
さらに、上記発明においては、細胞画像中に選択されたいずれかの領域に対して解析を行い、パラメータ化した値に基づいて、これら領域を細胞体、環状構造をもつ細胞の突起、細胞以外の細胞の死骸または気泡に分類することが好ましい。
【0011】
また、上記発明においては、分類された細胞以外の画像情報を定量化し、定量化された細胞以外の画像情報を用いて、細胞に対する薬剤スクリーニングの統計結果を補正することが好ましい。
実際、細胞にダメージを与え、一部の細胞を死滅させるような系では、生きている細胞あるいは細胞としての形状をある程度保存している死細胞の総数などの量だけでなく、断片化した細胞の死骸など細胞画像中に存在する細胞以外の画像情報を定量化し、細胞のみを対象とした画像解析結果の付加情報として用いることで、細胞解析の精度があがる。
【0012】
さらに、上記発明においては、細胞の形態の変化を、細胞がダメージを受けたことに起因すると推定し、薬剤による細胞保護作用を定量化することとしてもよい。
細胞を使った薬剤スクリーニングの対象となる薬剤の種類の主なものとしては、細胞を保護し細胞のダメージを軽減させるものや、細胞の活性化をコントロールし、分裂を抑制したりあるいは成長を促進させたりする作用のある薬剤などがある。
【0013】
細胞はダメージを受け死に至る過程において、一般にその形状は丸くなり、突起などの外部器官は収縮する。さらに完全に死滅する段階においては、通常の細胞と比較してかなり小さくなる。
細胞を保護する薬剤の薬効は、一定のダメージに対して細胞の死んだ数と生き残っている細胞の数の比や、あるいは、さらに詳細な薬効を表現する特徴量として、細胞の真円度などがある。
【0014】
一方、薬剤のなんらかの効果により活性化されている細胞は、例えば、外節器官が増大し成長したり、培養プレート上での細胞自体の運動により形状が丸から楕円などの複雑な形状へと変化したりする状態が観察される。
【0015】
また、上記発明においては、細胞の形態の円からの歪みを細胞の運動に起因するものとして解釈し、前記形態特徴量を薬剤の細胞に対する活性化を測る指標として用いることとしてもよい。
【0016】
さらに、上記発明においては、神経細胞のスクリーニング方法において、分類された管状構造をもつ各細胞の突起の情報を形態特徴量として用い、管状構造の総量が細胞が受けたダメージと相関するということを推定し、薬剤効果の定量化を行うこととしてもよい。
【0017】
また、上記発明においては、複数の種類によって構成される細胞サンプルを用いることとしてもよい。
【0018】
さらに、上記発明においては、注目する細胞種および他の細胞種について同様な評価を行うこととしてもよい。
【0019】
また、本発明は、細胞に照明光を照射する照明手段と、細胞から発せられる光を検出して画像情報を取得する画像情報入力手段と、該画像情報入力手段により取得された画像情報において、各細胞の形態的な特徴を表す形態特徴量をパラメータ化する画像情報処理手段と、該画像情報処理手段によりパラメータ化された形態特徴量を評価し、細胞に対する薬剤スクリーニングを行う評価手段と、該評価手段による薬剤スクリーニングの結果を出力表示する出力手段とを備えるスクリーニング装置を提供する。
【0020】
上記発明においては、前記評価手段が、前記形態特徴量として、円または球からの細胞の輪郭のズレ量を用いることが好ましい。
また、上記発明においては、前記評価手段が、前記形態特徴量に基づいて、各細胞の生死を判別することが好ましい。
さらに、上記発明においては、複数種の細胞サンプルを用い、注目する細胞種および他の細胞種について同様の評価を行うこととしてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、適正な形態特徴量を用いてより精度の高い薬剤スクリーニングを行うことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態に係るスクリーニング方法およびスクリーニング装置について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係るスクリーニング方法および装置の説明を行う前に、細胞の画像解析方法について説明する。
【0023】
(細胞解析概要)
薬剤スクリーニングなどの細胞を観察する実験系で、細胞画像解析を自動化する方法について考える。
ここでの、画像解析の目的は、画像上の個々の細胞位置を特定し、各細胞の特徴量を抽出すること、さらにこれら特徴量に対し適切な統計的処理を施すことで、複数の細胞画像を比較する手段を提供することにある。
【0024】
解析処理の流れを図1を参照して説明する。まず、対象とする細胞を培養する(S1)。次に染色などの適当な前処理を行い可視化の準備を行う(S2)。なお、必要に応じて細胞の固定が行われる。これら細胞試料を顕微鏡などの光学系に設定し撮像を行う(S3)。撮像した細胞画像のデジタル化を行いコンピュータなどに保存する(S4)。これら画像をコンピュータ上で処理解析する(S5)。
【0025】
次に各処理段階について説明する。
(前処理)
適当な方法で培養された細胞に、撮像のための処理を施す。
撮像のための処理とは、蛍光物質を投与するなどである。これらの処理により細胞の可視化が行われる。
【0026】
(光学系・撮像系・データ保存)
光学系においては、適当な波長の光を細胞に当てることにより観察を行う。このとき、適当なカメラを光学系に設定し、撮影を行う。撮像系は通常、CCDなどを使い像をデジタル化し、パソコンなどにデータとして保存しておく。
【0027】
上記の方法で取得した細胞画像は、カラーまたは単色の像である。像は、1000×1000などの上下左右に幅をもったデータとして保存される。像の上の各点には、位置を表す座標が振り分けられ、各点は、各色の輝度を持つ。
座標(x、y)の輝度は、例えば、「230」のように表現されデジタルデータとして保存される。
【0028】
(画像解析の概要)
画像解析は、これらのデジタルデータをパソコン上のソフト・プログラムなどで適当な処理を行い解析する方法である。
特に、細胞を使った画像解析においては、細胞を認識することが第1の目的となるが、細胞の認識は、通常、実験者によって直接行われる。
【0029】
実験の種類によって異なるが、一般的には、顕微鏡画像(あるいは顕微鏡の視野)を観察しその画像中に「細胞が存在するかどうか」、「細胞が存在する場合、細胞の位置はどこにあるか」、「画像中に含まれる細胞の数はいくつか」、「画像中の細胞の種類はいくつあるか」、「特定の種類の細胞はいくつあるか」、「各細胞の大きさはどの程度あるか」などを認識し、記録し、実験のためのデータを提供する。
【0030】
これらデータに対し統計的処理を施し各細胞画像の撮像条件、細胞の培養条件と関連付け様々な解釈を行うことが可能である。特に、薬剤による形態の違いを検出することで、化合物を初めとする薬剤などのスクリーニングを行うことが可能である。
【0031】
(化合物スクリーニング)
細胞を使った実験は様々な目的の元に行われるが、ここでは特に細胞をベースにした化合物スクリーニングを例にとって、実験の目的及び流れを簡単に説明する。
【0032】
細胞ベースの化合物スクリーニングは、効果のある薬剤を見つけることを目的とするもので、適当な化合物などをターゲットにする細胞に投与し、これら化合物が細胞に及ぼす影響を定量化することにより行われる。
さらに、これらの定量化されたデータは、複数の化合物の場合と比較され、これらいくつかの化合物の中から、細胞に及ぼす影響の大きいもの、効果のあるものを発見することを目的として行われる。
【0033】
(スクリーニングの手順)
サンプルとなる細胞は、図2に示されるように、まず、通常いくつかのグループ(細胞群G1〜GN)に分類される(S11)。
例えば、化合物の細胞に及ぼす効果を測定する実験系においては、化合物を加えた細胞群G1等ものと、そうではない細胞群GNとに分けられる。
顕微鏡などの適当な光学系を用いて、これら分類されたグループごとに撮像される(S12)。
通常、各グループごとに複数枚の撮像を行い、また各画像には適当な数(数十程度)の細胞が含まれている。
【0034】
次に、上記方法で撮像し保存された細胞画像を解析する。
細胞画像の解析により画像中に存在している細胞の位置、また各細胞の発光量や大きさ突起の有無など特徴量を抽出する。
細胞の特徴量は、このグループごと、あるいは画像ごとに平均化されあるいは分布を解析され、グループ間の差異を検出し、化合物を導入された・導入されないなどのグループの条件と比較し検討される(S13)。
【0035】
(課題の詳細)
実際の薬剤スクリーニングにおいては、しかしながら、薬剤効果の評価精度が高くない場合が多いという課題がある。
【0036】
(特徴量抽出の定義、選択の間違い例)
この原因として第1に考えられることは、細胞形態の特徴量抽出処理じたいが精度の低い解析になっているなどである。
【0037】
形態特徴量の精度が低くなる原因としては、細胞の形態の特徴を表す量として、設定された特徴量の定義・選択がそもそも適切ではないことがまず挙げられる。
例えば、細胞形態量として、細胞の大きさを抽出する場合を考え、特徴量が適切に細胞形態に対応していない例をあげる。
「細胞の大きさ」として、通常、細胞Aの境界上でもっとも距離の大きい2点間の距離Lを大きさとして定義する方法がある。この方法によれば、例えば、図3にあるような細胞Aが特定の方向に伸びている場合、適切に細胞Aの大きさを表現しているとは言えない。
【0038】
特に、細胞Aの形状が円に近くない、歪んだものが多い場合、細胞Aの大きさを正確に見積もることは難しい。上の例はこのような場合に該当すると考えられるが、この実験系では、細胞Aの大きさの定義が細胞の実際の形状と一致せず適切ではないといえる。
【0039】
(ノイズ除去方法など処理方法に起因する精度の問題)
細胞画像中に含まれる生細胞以外の物質による画像ノイズを特徴量に含めてしまうということが、細胞特徴量の測定精度を下げる第2の原因として挙げられる。このことを、特に、細胞を保護する作用のある薬剤を探すスクリーニングを例にとって説明する。
【0040】
このようなスクリーニングの例としては、培養細胞に対して、細胞の半分程度が死滅するような刺激を与える系が考えられる。この培養細胞の系に薬剤投与することによって細胞の生存率がどれだけ上がるかによって細胞の保護作用を評価する方法が考えられる。ここで、細胞の生存率は、生きている細胞の数を直接比較することによって行われる。
この方法で問題になるのは、刺激によって一部死んだ細胞が培養プレートや培養液中に残っている場合があるということである。
【0041】
これら細胞の死骸を除去するには、例えば培養細胞を顕微鏡で観察する前に洗浄するなどの操作が必要である。
実際の実験処理過程においては、このような1つの処理が付け加わることで時間とコストが増すことになる。このことは大量の薬剤サンプルを解析対象にするような薬剤スクリーニングにおいては好ましいことではない。
このような事情から、上のようなスクリーニング系では、細胞の画像中に生細胞と細胞の死骸が混在しているとして精度の高い解析処理方法を考えなくてはならない。
【0042】
以上のような課題の解決方法として、本実施形態に係るスクリーニング方法を以下に説明する。
本実施形態に係るスクリーニング方法においては、まず、細胞Aの形態を表現する形態特徴量として、細胞Aの輪郭形状の円または球からのずれ量を使用する。
【0043】
細胞Aは刺激を受けることによって、死滅するが、この過程は細胞Aの連続した形態的な変化を生じさせる。一般に刺激を受けて死滅に近づいた細胞Aは、活性を失うなどの理由により丸くなる。
【0044】
逆に、活発に活動を行っている細胞Aの形は、通常、円形または球形を標準としてかなりの歪みを生じている。
よって、細胞Aの形態特徴量として、円または球からのずれ量を採用することにより、その生死判定、活性度の推定を行うことができると考える。
【0045】
具体的には以下のような方法で形態的特徴量の抽出を行う。
まず、画像処理により細胞Aの境界を抽出し、さらに、図4に示されるように、細胞Aの境界の最大半径の内接円Cおよび最小半径の外接円Cを取得する。ここで、円の半径、円に含まれる領域に対する細胞領域の面積比などを細胞Aの形態特徴量とする。
特に細胞が3次元的に重なっている場合を考える(図8参照)。この図の中で矢印をつけた細胞を取り出して解析する場合、細胞の3次元での解析が必要になる。
【0046】
3次元で立体的に細胞Aを解析する場合、3次元の細胞A像は、撮像系で、プレートなど対象そのものを上下方向に微小に変化させ、ほぼ連続的に2次元画像を取得し、このデータをもとに構成される。
このような場合、図5に示されるように、細胞Aの各横断面A〜Aのうち、細胞Aの中心を通る断面に対して上記の方法で解析を行うことにより、ダメージなど上で説明したパラメータの定量化を行うことができる。
【0047】
ここで、細胞Aの中心を通る断面とは、各細胞Aの上下方向に異なる位置の断面について得られた各2次元画像に対して、内接円CI1〜CINがもっとも大きい上下方向位置を通過する水平断面であると定義される。
【0048】
(円と細胞の特徴)
これらの形態特徴量からは、細胞Aの中心部分の大きさ、つまり実質的な細胞Aの大きさや、上記領域の面積比からは全体の形の歪み、さらに外接円の半径の大きさから細胞Aの空間的な広がりなどを統一的に把握することができ、細胞Aの形態変化を効率的に精度良く表現することができる。
【0049】
この方法によって、例えば、図4のように歪んだ細胞Aに対してもその実質的な部分であると考えられる内接円C内に含まれる中心部分と特定することができ、単純に長さLを取った場合と比較して、細胞Aの活動などを実際により近い値で評価することができる。
【0050】
また、本実施形態に係るスクリーニング方法によれば、各細胞Aの生死を判断することができる。
さらにこの方法を使うことによって、突起などの特定の細胞器官の検出や、細胞の死骸や死骸断片、あるいは、気泡などノイズといわれるものなど、様々に分類することができる。
【0051】
画像を上記方法から複数の領域に分割し、細胞体に対応した領域、細胞の突起に対応した領域、あるいは細胞の死骸など生細胞に含まれない領域などに分類する具体的な方法は、下記の通りである。
【0052】
例えば、細胞体などは楕円に近い形態をとるものが多い。この場合、内接円Cと外接円Cの半径は、数倍程度におさまることから、判断できる。
また、例えば細胞の突起など、一般に管状構造をとる細胞の部分構造が多く見られるが、この場合、内接円Cが小さく、外接円Cは大きいので、これらの半径比率は大きい。
【0053】
また、細胞死の過程で、細胞は突起が徐々に収縮し全体として真円に近づいていく。よって死んだ細胞あるいは死につつある細胞は上記内接円Cと外接円Cとの半径比率はほぼ1に近い値をとり、さらに内接円Cの半径も小さい。
以上のような方法により、これら内接円C、外接円Cを使って定義した特徴量により、細胞を分類することが可能になる。
【0054】
さらにこれらの特徴量は以下のように解釈することによって、直接薬剤の効果を表す指標として用いることができる。
細胞は刺激によるダメージを受けると、収縮するという特徴があることから、細胞の形態の円からの歪みを細胞が受けたダメージとして解釈すれば薬剤の保護作用の指標として用いることができる。
【0055】
また、細胞の運動活性が高い場合細胞の境界の形状の変化の度合いが大きいと考えられるので、細胞の形態の円からの歪みを細胞の運動に起因するものとして解釈した場合、薬剤の細胞に対する活性化を測る指標として用いることができる。
【0056】
薬剤スクリーニングは様々なカテゴリーが考えられる。例えば、細胞を保護する薬剤、あるいは細胞を活性化させ成長を促進したり分裂を促進させる薬剤などである。
これら薬剤の各カテゴリに対してスクリーニング方法、細胞解析方法は異なるが、いずれの場合にも本発明の解析方法を適用することができる。
【0057】
細胞を保護する薬剤の場合、生きている細胞の数と死んだ細胞の数の比率が、薬効を表現する第一の指標になる。これは、今回の方法により画像中の細胞の生死を判定し分類し、各細胞の数をカウントし、これらの比を取ることで測定することができる。
【0058】
一方、細胞を活性化させるあるいは、細胞の活性化を抑える作用のある薬剤の場合、死ぬ細胞が多い場合そもそも薬剤としては適切ではなく候補から除外される。ここで例えば、細胞の活性を表現する指標は、細胞体や細胞核がどれだけ楕円に近づくかというようなものである。具体的には下記のような処理が考えられる。
【0059】
この処理はまず、画像中の領域を細胞と推定される部分領域と細胞以外、細胞の死骸断片などと推定される領域に分類し、死骸領域が細胞領域と比較して大きい場合、薬剤候補から除かれ、さらに、細胞領域内で、細胞の中心に存在し大部分を構成している細胞体とその他突起などの外節領域とに分類し、特に細胞体領域の楕円度を求め、平均化などの作業で各画像、各実験条件ごとに定量化を行い、それぞれの薬効を数値化する。
【0060】
よって、上記記載のスクリーニング方法は、細胞保護作用のある薬剤の薬効定量や、細胞活性化作用のある薬剤の薬効定量など様々な薬剤スクリーニング系に適用することができる。
【0061】
また、本実施形態においては、通常の細胞画像処理では考慮に入れられることのない、細胞以外の画像情報を使って、特徴量の補正を行う。
【0062】
(ノイズ含有画像の処理方法)
前述の細胞にダメージを与える系においては、細胞の一部は死ぬことになるが、これら死細胞の死骸は画像中に残っている場合が多く、系に固有のノイズ発生要因となって、細胞特徴量解析の精度を下げる原因となっている。
【0063】
通常の解析においては、細胞の死骸などの細胞以外の画像情報は、適当な関数処理などにより除去されるのが普通である。
【0064】
一方、本実施形態に係るスクリーニング方法においては、これら通常除去される画像情報を使って特徴量の補正を行う。
例えば、細胞の数をカウントし細胞保護作用の指標とするような前述した系においては、細胞の数があらかじめ厳密にコントロールされているとは限らない。そのため、同一カテゴリ内の、つまり似た条件の、細胞画像を多く観察することによって全体の細胞数を平均化させ、画像中の細胞数のばらつきを抑えるという方法が取られる。
【0065】
しかしながら、細胞スクリーニングにおいてこのような方法で平均化し補正することは、実験の解析時間を増やすことになるので好ましい補正方法ではない。
本実施形態においては、例えば、細胞の死骸の数で細胞の総数を割ることによって、刺激を与える以前の細胞数に対して死滅あるいは生存している細胞の割合を正しく見積もることができる。
【0066】
また、このように数に関する補正だけでなく、例えば、形態の歪みを使って細胞のダメージを評価する場合、死滅した細胞の総数ないし死滅した細胞領域の総面積は、ともに細胞のダメージに対応した特徴量である。
よって、これらを比較、あるいは平均化することにより細胞の受けたダメージ量を補正し、実際の細胞ダメージにより近い値を与えることができる。
【0067】
以上のように、細胞以外の画像情報を定量化し、細胞のみを対象とした画像解析結果の付加情報として用いて、スクリーニングを行うことにより、細胞解析の精度があがることが期待できる。
【0068】
また、特に神経細胞を使ったスクリーニングを行う場合、通常の細胞に比べ、より特異な形態をしていることから、スクリーニングが難しくなる場合がある。
例えば、神経細胞の管状構造をもつ突起の総延長を形態を表現する特徴量とする系を考える場合、突起の総延長は細胞によってばらつきが大きい、あるいは、薬剤などの影響を受けやすい、あるいは細胞体に比べて画像解析的に検出しにくいなどの特徴があるため、解析処理の結果には大きな誤差が含まれている場合が多いと考えられる。
【0069】
このような場合に対して、細胞の死骸などの情報を用いることにより、二つの細胞ダメージ指標を得ることになり、より適切な値を導き出すことができ、全体としてスクリーニングの精度が上がると期待できる。
【0070】
また、薬剤投与などの適当な処理を施した細胞を観察するこのような実験系において、は、薬剤の種類、量などだけでなく、培養条件も結果を左右する重要な要因になる場合が多いと考えられる。
細胞は一般的に、相互作用を行っていると考えられ、またこの相互作用は同一の細胞種間だけにとどまらず、異なる複数細胞種間でも行われていると考えられる。
【0071】
ところで、複数細胞種を一緒に培養したサンプルを観察する場合、まず複数の細胞種を見分ける処理を行う必要がある。
細胞種を分類する方法としては、各細胞の形態の違いや染色の違いなどの定性的なものから、あるいは蛍光量などの定量的な違いなどから判断する方法などが考えられる。
【0072】
これらの処理を行った後、上記、単一の細胞種を対象として行っている解析と同じ手順で特徴量抽出などを行い、薬剤に対する変化などを定量化する。
サンプルの細胞を、細胞種などのカテゴリ分類して、各カテゴリの特徴量の変化などを記録することにより、より詳細にデータの解釈を行うことができ、たとえば有効な薬剤の探索により効果を発揮すると期待できる。
【0073】
また、複数細胞種を培養する際、細胞の混在比率などによって結果が異なることも予想されるので、これらの情報、混在比率などもあわせて利用する。
また、細胞の比率だけでなく、各細胞種の薬剤への反応の違いを比較することにより、たとえばより正確な薬剤の探索を行うことができると期待できる。
【0074】
これらの情報の利用方法は、たとえば細胞の死骸を使って補正する方法と同様なものである。
例えば、細胞群G1と細胞群G2の二つの細胞種を含む系で、薬剤投与後一定刺激を与えることにより、細胞群G1の60%が死滅し、細胞群G2の10%が死滅したという結果を得たとする。この場合、例えば、この薬剤は細胞群G2を選択的に保護する役割がある、などと解釈することができる。
一般には、このように、異なる細胞種間の結果を比較することにより、より詳細な解析を行うことができると期待できる。
【0075】
次に、本発明の一実施形態に係るスクリーニング装置について図6を参照して説明する。
図6に本実施形態に係るスクリーニング装置1の全体構成を示す。本実施形態に係るスクリーニング装置1は、励起光を発生する光源2を含む照明光学系3と、観察対象の動植物等の細胞を含む試料Bを配置したプレート4を載置する位置決めステージ5と、試料Bから発せられた蛍光を撮像するCCDカメラ6を含む受光光学系7と、CCDカメラ6により取得された画像を処理して形態的特徴量を抽出する画像処理部と、抽出された形態的特徴量を用いて薬剤スクリーニングを行うスクリーニング部とを備えている。
【0076】
照明光学系3には、光源2からの励起光を試料Bに照射するコンデンサレンズ9が備えられている。
位置決めステージ5は、試料Bに焦点を合わせるようにプレート4を移動させることができるようになっている。
【0077】
受光光学系7には、特定の波長帯域の蛍光を透過させる光学特性を有するフィルタ8が備えられている。フィルタ8は交換可能となっており、透過させる波長帯域に応じて交換することができるようになっている。
【0078】
画像処理部およびスクリーニング部は、コンピュータ10のようにコンピュータプログラムによって作動する汎用的な処理装置が用いられている。コンピュータ10には、画像処理部として機能させるためのコンピュータプログラム、例えば、細胞中心抽出処理、中心点吟味処理、細胞境界抽出処理、個々の細胞の特徴量抽出処理、細胞の総数抽出処理などの機能を実現させるものがインストールされている。また、コンピュータ10には、スクリーニング部として機能させるために、本実施形態に係るスクリーニング方法を実施するコンピュータプログラムもインストールされている。
【0079】
本実施形態に係るスクリーニング装置1を用いて薬剤スクリーニングを行うには、図7に示されるように、まず、プレート4上に細胞サンプル等の試料Bを用意する。細胞サンプル準備工程S21においては、観察の対象となる各種条件下で試料Bを準備する。次いで、染色、発光のためのサンプル操作工程S22において、適当な染色方法、発光させる操作を試料Bに対して行う。そして、サンプル設置工程S23においては、このようにして準備されたプレート4を位置決めステージ5に固定し、位置決めステージ5の作動により、観察位置合わせおよび焦点位置合わせ操作を行い、光源2から励起光を細胞サンプルBに向けて照射する。
【0080】
励起光を照射された試料Bからは、蛍光が発せられるので、発せられた蛍光を対物レンズ11で集め、所定の波長帯域の蛍光のみをフィルタ8によって選別し、画像撮像工程S24において、CCDカメラ6によって撮像する。また、必要に応じて、試料Bを固定したままフィルタ8を交換するなど種々の撮像条件を変更し(S25)で撮像を行う。あるいは、必要に応じて撮像位置を変更して(S26)撮像を行う。
【0081】
CCDカメラにより取得された蛍光画像情報は、画像処理部に送られ、画像処理工程S27が行われる。
画像処理工程S27においては、まず、各画像の個々の細胞の中心となる点が抽出される(S271)。また、抽出された中心点が吟味され、細胞の中心点として不適切なものが除かれた、適切な細胞中心点が抽出される(S272)。続いて、これらの細胞中心点を囲む最も適切な細胞の境界を抽出する(S273)。そして、得られた細胞境界を用いて、上述したスクリーニング方法、すなわち、個々の細胞の形態的特徴量の抽出や細胞の総数を算出を行い(S28)、これに基づいて薬剤スクリーニングを実施する(S29)。
【0082】
このように、本実施形態に係るスクリーニング方法および装置によれば、細胞を使った薬剤スクリーニングを高い精度で実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】画像解析処理の流れを示すフローチャートである。
【図2】スクリーニングの手順を示すフローチャートである。
【図3】従来のスクリーニングにおける特徴量の抽出方法の一例を説明する図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るスクリーニング方法における特徴量の抽出方法を説明する図である。
【図5】図4のスクリーニング方法において、3次元的な解析を行う場合の特徴量の抽出方法を説明する図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るスクリーニング装置を示す模式図である。
【図7】図6のスクリーニング装置を用いたスクリーニング手順を説明するフローチャートである。
【図8】図4のスクリーニング方法において、3次元的な解析を行う必要がある場合を説明する図である。
【符号の説明】
【0084】
A 細胞
,CI1〜CIN 内接円
,CO1〜CON 外接円
1 スクリーニング装置
3 照明光学系(照明手段)
6 CCDカメラ(画像情報入力手段)
10 コンピュータ(スクリーニング部、評価手段、画像処理部、画像情報処理手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微鏡により取得した細胞画像を解析し、
細胞画像中の各細胞の形態的な特徴を表す形態特徴量として、細胞の輪郭の円からのずれ量をパラメータ化した値を評価し、
この評価に基づいて薬剤スクリーニングを行うスクリーニング方法。
【請求項2】
前記形態特徴量として、細胞の輪郭の内接円または外接円の少なくともいずれかからのズレ量をパラメータ化した値を評価する請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
顕微鏡により取得した複数の細胞画像から構築した3次元画像を解析し、
細胞画像中の各細胞の形態的な特徴を表す形態特徴量として、細胞の輪郭の球からのずれ量をパラメータ化した値を評価し、
この評価に基づいて薬剤スクリーニングを行うスクリーニング方法。
【請求項4】
前記形態特徴量として、細胞の輪郭の内接球または外接球の少なくともいずれかからのズレ量をパラメータ化した値を評価する請求項3に記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
前記形態特徴量に基づいて、画像中の細胞を生細胞または死細胞のいずれかに判定して評価に使用する請求項1から請求項4のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
細胞画像中に選択されたいずれかの領域に対して解析を行い、
パラメータ化した値に基づいて、これら領域を細胞体、環状構造をもつ細胞の突起、細胞以外の細胞の死骸または気泡に分類する請求項1から請求項5のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
分類された細胞以外の画像情報を定量化し、
定量化された細胞以外の画像情報を用いて、細胞に対する薬剤スクリーニングの統計結果を補正する請求項6に記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
細胞の形態の変化を、細胞がダメージを受けたことに起因すると推定し、薬剤による細胞保護作用を定量化する請求項7に記載のスクリーニング方法。
【請求項9】
細胞の形態の円からの歪みを細胞の運動に起因するものとして解釈し、
前記形態特徴量を薬剤の細胞に対する活性化を測る指標として用いる請求項1から請求項4のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項10】
神経細胞のスクリーニング方法において、
分類された管状構造をもつ各細胞の突起の情報を形態特徴量として用い、
管状構造の総量が細胞が受けたダメージと相関するということを推定し、
薬剤効果の定量化を行う請求項6に記載のスクリーニング方法。
【請求項11】
複数の種類によって構成される細胞サンプルを用いる請求項1から請求項10のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項12】
注目する細胞種および他の細胞種について同様な評価を行う請求項11に記載のスクリーニング方法。
【請求項13】
細胞に照明光を照射する照明手段と、
細胞から発せられる光を検出して画像情報を取得する画像情報入力手段と、
該画像情報入力手段により取得された画像情報において、各細胞の形態的な特徴を表す形態特徴量をパラメータ化する画像情報処理手段と、
該画像情報処理手段によりパラメータ化された形態特徴量を評価し、細胞に対する薬剤スクリーニングを行う評価手段と、
該評価手段による薬剤スクリーニングの結果を出力表示する出力手段とを備えるスクリーニング装置。
【請求項14】
前記評価手段が、前記形態特徴量として、円または球からの細胞の輪郭のズレ量を用いる請求項13に記載のスクリーニング装置。
【請求項15】
前記評価手段が、前記形態特徴量に基づいて、各細胞の生死を判別する請求項13または請求項14に記載のスクリーニング装置。
【請求項16】
複数種の細胞サンプルを用い、注目する細胞種および他の細胞種について同様の評価を行う請求項13から請求項15のいずれかに記載のスクリーニング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−20449(P2007−20449A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−205574(P2005−205574)
【出願日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】