説明

スクリーン刷版及びスクリーン印刷法

【課題】本発明の目的は、導体パターンにクレータが発生することを抑制できるスクリーン刷版及びスクリーン印刷法を提供することである。
【解決手段】導体パターンをセラミックグリーンシート上にスクリーン印刷法により形成する際に用いられるスクリーン刷版。刷版本体11には、導体パターンを形成するための孔12であって、直線状領域14a,14bと該直線状領域14a,14bを接続する屈曲領域16とからなる孔12が設けられている。屈曲領域16には孔12を分断する架橋18が設けられている。直線状領域14a,14bには孔12を分断する架橋18が設けられていない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリーン刷版及びスクリーン印刷法に関し、より特定的には、導体パターンを面上に形成する際に用いられるスクリーン刷版及びスクリーン印刷法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のスクリーン刷版としては、例えば、特許文献1に記載のスクリーン刷版が知られている。以下に、図面を参照しながら特許文献1に記載のスクリーン刷版について説明する。図8は、特許文献1に記載のスクリーン刷版500の斜視図である。
【0003】
特許文献1に記載のスクリーン刷版500では、シート材からなるスクリーン刷版500のスキージ当接面503に、ペーストを導入するペースト導入穴502を開口し、このペースト導入穴502に連通し、印刷パターンに合わせて印刷面側507に開口したペースト吐出穴506を形成する。また、複数のペースト導入穴502の開口面積、及び、隣接するペースト導入穴502との間隔504を略等しくしている。特許文献1によれば、スクリーン刷版500に形成すべきパターンの微細化にともなう印刷にじみ・かすれを抑制し、印刷パターンの寸法ばらつきを抑え、ペースト塗布膜の制御を可能にできると説明されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のスクリーン刷版500は、形成された導体パターンに大きな窪み(以下、クレータと称す)が形成されるという問題を有する。より詳細には、スクリーン刷版500は、図8に示すように、ペースト導入穴502間に複数の架橋が等間隔に設けられている。このような架橋が設けられていると、ペースト導入穴502から導入されたペーストが、架橋の下側まで十分に回りこまないおそれがある。そのため、ペースト導入穴502の直下における導体パターンの厚みと、架橋の直下における導体パターンの厚みとの間に差が発生してしまう。すなわち、導体パターンにクレータが形成されてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−219529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、導体パターンにクレータが発生することを抑制できるスクリーン刷版及びスクリーン印刷法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態に係るスクリーン刷版は、導体パターンを面上にスクリーン印刷法により形成する際に用いられるスクリーン刷版であって、前記導体パターンを形成するための孔であって、複数の直線状領域と該複数の直線状領域を接続する屈曲領域とからなる孔が設けられている刷版本体を備え、前記屈曲領域には前記孔を分断する架橋が設けられており、前記直線状領域には前記孔を分断する前記架橋が設けられていないこと、を特徴とする。
【0008】
本発明の一形態に係るスクリーン印刷法は、面上に導体パターンを印刷するスクリーン印刷法であって、前記スクリーン刷版を前記面上に配置する第1の工程と、前記スクリーン刷版の表面上にペーストを供給する第2の工程と、前記スクリーン刷版の表面にスキージを摺動させることにより、前記孔を介して前記ペーストを前記面に塗布する第3の工程と、を備えていること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、導体パターンにクレータが発生することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態に係るスクリーン刷版の斜視図である。
【図2】図1のスクリーン刷版の拡大図である。
【図3】図3(a)は、図2のスクリーン刷版のA−Aにおける断面構造図である。図3(b)は、図2のスクリーン刷版の印刷時でのA−Aにおける断面構造図である。
【図4】セラミックグリーンシートに導体パターンが形成される過程を示した図である。
【図5】オフコンタクト印刷によりセラミックグリーンシートに導体パターンが形成される過程を示した図である。
【図6】比較例に係るスクリーン刷版の斜視図である。
【図7】図7(a)は、第1の実施例に係るスクリーン印刷法により形成された導体パターンを撮影した図であり、図7(b)は、比較例に係るスクリーン印刷法により形成された導体パターンを撮影した図である。
【図8】特許文献1に記載のスクリーン刷版の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の一実施形態に係るスクリーン刷版及びスクリーン印刷法について説明する。
【0012】
(スクリーン刷版の構造)
まず、スクリーン刷版の構造について図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係るスクリーン刷版10の斜視図である。図2は、図1のスクリーン刷版10の拡大図である。図3(a)は、図2のスクリーン刷版のA−Aにおける断面構造図である。図3(b)は、図2のスクリーン刷版の印刷時でのA−Aにおける断面構造図である。
【0013】
スクリーン刷版10は、導体パターン(例えば、コイル導体)をセラミックグリーンシートの主面上にスクリーン印刷により形成する際に用いられる。スクリーン刷版10は、図1に示すように、マトリクス状に配列された孔12が設けられている刷版本体11を備えている。
【0014】
刷版本体11は、例えば、ステンレススチール状にレジスト膜を形成しエレクトロフォーミングすることにより作製され、図2及び図3に示すように、表面S1及び裏面S2を有する長方形状の板である。以下では、刷版本体11の表面S1の法線方向をz軸方向と定義し、刷版本体11の長辺に沿った方向をx軸方向と定義し、刷版本体11の短辺に沿った方向をy軸方向と定義する。
【0015】
孔12は、図1及び図2に示すように、z軸方向から平面視したときに、L字型をなしており、刷版本体11の表面S1と裏面S2とを繋ぐように刷版本体11を貫通している。そして、該孔12には、導電性ペーストが充填されることにより、孔12の形状に従ったL字型の導体パターンが形成される。
【0016】
ここで、孔12についてより詳細に説明する。孔12は、図2に示すように、2本の直線状領域14a,14b及び1つの屈曲領域16からなる。直線状領域14aは、z軸方向から平面視したときに、y軸方向に延在している領域である。直線状領域14bは、z軸方向から平面視したときに、x軸方向に延在している領域である。屈曲領域16は、直線状領域14a,14bを接続する領域であり、中心角が90度である円弧状をなしている。屈曲領域16は、直線状領域14aのy軸方向の負方向側の端部と、直線状領域14bのx軸方向の負方向側の端部とを接続している。
【0017】
また、図3(a)に示すように、刷版本体11の表面S1における孔12の線幅W1が、刷版本体11の裏面S2における孔12の線幅W2よりも狭くなるように、刷版本体11の孔12の内周面19に段差20が設けられている。以下では、孔12において、表面S1から段差20までの間の領域を、導入領域30と呼び、裏面S2から段差20までの間の領域を、吐出領域32と呼ぶ。
【0018】
導入領域30は、図3(a)に示すように、表面S1上の導電性ペーストがスキージにより孔12内に注入されるために、表面S1において開口している。吐出領域32は、図3(a)に示すように、導入領域30と繋がっており、裏面S2において開口している。吐出領域32は、図3(b)に示すように、導入領域30を介して注入された導電性ペーストがセラミックグリーンシート50上において長方形状の断面を有する導体パターン60に成形される領域である。すなわち、導体パターン60は、段差20及び内周面19に接触することにより成形される。
【0019】
以上のような構成を有するスクリーン刷版10は、導体パターン60にクレータが発生することを抑制するための構造を有している。より詳細には、スクリーン刷版10では、図2に示すように、屈曲領域16には、孔12を分断する架橋18が設けられている。一方、直線状領域14a,14bには、孔12を分断する架橋18が設けられていない。架橋18は、刷版本体11の一部であり、孔12を形成している互いに対向する外縁同士を繋ぐ部材である。これにより、孔12は、z軸方向から平面視したときに、2つに分断されている。
【0020】
ただし、孔12の導入領域30は、図2に示すように、架橋18により分断されているのに対して、孔12の吐出領域32は、架橋18により分断されていない。すなわち、架橋18は、刷版本体11の表面S1近傍にのみ設けられ、刷版本体11の裏面S2近傍には設けられていない。これは、吐出領域32に架橋18が設けられると、導体パターン60が架橋18により分断されてしまうためである。
【0021】
(スクリーン印刷法について)
次に、前記スクリーン刷版10を用いたスクリーン印刷法について図面を参照しながら説明する。図4は、セラミックグリーンシート50に導体パターン60が形成される過程を示した図である。
【0022】
まず、セラミックグリーンシート50を準備する。具体的には、酸化第二鉄(Fe23)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニッケル(NiO)及び酸化銅(CuO)をそれぞれ、48.0mol%、29.5mol%、14.5mol%及び8.0mol%の比率で秤量したそれぞれの材料を原材料としてボールミルに投入し、湿式調合を行う。得られた混合物を乾燥してから粉砕し、得られた粉末を700℃で2時間仮焼する。得られた仮焼粉末をボールミルにて16時間かけて湿式粉砕した後、乾燥してから解砕して、フェライトセラミック粉末を得る。
【0023】
このフェライトセラミック粉末に対して結合剤(酢酸ビニル、水溶性アクリル等)と可塑剤、湿潤材及び分散剤を加えてボールミルで混合を行い、その後、減圧により脱泡を行う。得られたセラミックスラリーをドクターブレード法により、キャリアシート上にシート状に形成して乾燥させ、10μmの厚さを有するセラミックグリーンシート50を作製する。
【0024】
次に、セラミックグリーンシート50を印刷ステージ100上に載置する。更に、スクリーン刷版10をセラミックグリーンシート50上に配置する。この際、図4(a)に示すように、スクリーン刷版10の裏面S2をセラミックグリーンシート50に接触させて配置する。
【0025】
ここで、スクリーン印刷法に用いたスクリーン刷版10の各部のサイズについて説明する。導入領域30の線幅W1を18μmとし、導入領域30の高さH1を8μmとした。また、吐出領域32の線幅W2を28μmとし、吐出領域32の高さH2を19μmとした。
【0026】
次に、図4(a)に示すように、スクリーン刷版10の表面S1上に導電性ペースト52を供給する。導電性ペースト52は、不純物元素の割合が0.1%以下であるAg粉末と、ワニスと、溶剤(オイゲノール)とからなる。導電性ペースト52は、Agを85重量%の割合で含有している。
【0027】
次に、図4(a)に示すように、スクリーン刷版10の表面S1にスキージ102を摺動させる。この際、x軸方向の正方向側に向かってスキージ102を移動させる。これにより、導電性ペースト52は、孔12内に注入される。そして、孔12を介して導電性ペースト52がセラミックグリーンシート50上に塗布される。その結果、孔12の形状に倣った形状を有するL字型の導電パターンが形成される。
【0028】
スキージ102の摺動を終了すると、スクリーン刷版10のx軸方向の正方向側の端部及び負方向側の端部を保持する。そして、スクリーン刷版10からセラミックグリーンシート50を剥離する。具体的には、図4(b)に示すように、スクリーン刷版10からセラミックグリーンシート50をx軸方向の負方向側から正方向側へと剥離していく。以上の工程を経て、セラミックグリーンシート50上に導体パターン60が形成される。
【0029】
この後、導体パターン60が形成されたセラミックグリーンシート50を積層及び圧着することにより、マザー積層体を作製する。更に、マザー積層体を個別の積層体にカットした後、積層体を焼成する。最後に、積層体に外部電極を形成する。これにより、チップコイルが完成する。ただし、セラミックグリーンシート50の積層工程以降の工程は、一般的な工程と同じであるので詳細な説明を省略する。
【0030】
(効果)
以上のようなスクリーン刷版10によれば、導体パターン60にクレータが発生することを抑制できる。より詳細には、スクリーン刷版500は、図8に示すように、ペースト導入穴502間に等間隔に複数の架橋が設けられている。このような架橋が設けられていると、ペースト導入穴502から導入されたペーストが、架橋の下側まで十分に回りこまないおそれがある。そのため、ペースト導入穴502の直下における導体パターンの厚みと、架橋の直下における導体パターンの厚みとの間に差が発生してしまう。すなわち、導体パターンにクレータが形成されてしまう。
【0031】
一方、スクリーン刷版10では、図2に示すように、屈曲領域16にのみ架橋18が設けられ、直線状領域14a,14bには架橋18が設けられていない。これにより、スクリーン刷版10では、スクリーン刷版500に比べて、架橋18の数を減らすことができる。その結果、導体パターン60にクレータが発生することを抑制できる。
【0032】
なお、スクリーン刷版10では、屈曲領域16に架橋18が設けられている。そのため、以下に説明するように、導体パターン60の屈曲領域16には、クレータは発生しにくい。スクリーン印刷法において、導電性ペースト52は、直線状領域14a,14bよりも屈曲領域16に溜まりやすい。これは、屈曲領域16では、スキージ102の摺動時に、直線状領域14a,14bの2方向から導電性ペースト52が進入してくるためである。よって、導体パターン60の屈曲領域16の厚さは、導体パターン60の直線状領域14a,14bの厚さに比べて大きくなる。よって、スクリーン刷版10において、屈曲領域16に架橋18が設けられたとしても、導体パターン60の屈曲領域16にクレータが発生しにくい。
【0033】
また、スクリーン刷版10では、架橋18が設けられているので、刷版本体11の強度が確保される。
【0034】
また、スクリーン刷版10を用いたスクリーン印刷法によれば、所望の線幅を有する導体パターン60を精度よく形成することができる。より詳細には、スクリーン刷版10を用いたスクリーン印刷法によれば、コンタクト印刷によって導電性ペースト52を塗布している。コンタクト印刷とは、図4(a)に示すように、スクリーン刷版10の裏面S2をセラミックグリーンシート50に接触させた状態で、導電性ペースト52を塗布する印刷方法である。一方、導電性ペースト52を塗布する印刷方法としては、例えば、オフコンタクト印刷がある。図5は、オフコンタクト印刷によりセラミックグリーンシート50に導体パターン60が形成される過程を示した図である。オフコンタクト印刷は、図5に示すように、スクリーン刷版10の裏面S2をセラミックグリーンシート50から離した状態で、導電性ペースト52を塗布する印刷方法である。
【0035】
ここで、オフコンタクト印刷では、図5に示すように、スキージ102によりスクリーン刷版10をセラミックグリーンシート50に対して押さえつけている。そのため、スクリーン刷版10の孔12の形状が歪んでしまう。その結果、オフコンタクト印刷では、所望の線幅を有する導体パターン60を精度よく形成することが困難である。
【0036】
一方、コンタクト印刷では、図4(a)に示すように、スクリーン刷版10がセラミックグリーンシート50に密着している。そのため、スクリーン刷版10の孔12の形状が歪みにくい。その結果、コンタクト印刷では、所望の線幅を有する導体パターン60を精度よく形成することができる。ただし、スクリーン刷版10を用いてオフコンタクト印刷により導体パターン60を印刷することを妨げない。すなわち、スクリーン刷版10を用いたスクリーン印刷において、オフコンタクト印刷よりもコンタクト印刷が好ましいことを意味している。
【0037】
また、スクリーン刷版10を用いたスクリーン印刷法によれば、所望の厚さを有する導体パターン60を精度よく形成することができる。より詳細には、オフコンタクト印刷では、図5に示すように、スキージ102によりスクリーン刷版10をセラミックグリーンシート50に対して押さえつけている。そのため、スクリーン刷版10が伸びるので、スキージ102により押さえつけられている部分において、スクリーン刷版10の厚さが薄くなってしまう。その結果、オフコンタクト印刷では、所望の厚さを有する導体パターン60を精度よく形成することが困難である。
【0038】
一方、コンタクト印刷では、図4(a)に示すように、スクリーン刷版10がセラミックグリーンシート50に密着している。そのため、スクリーン刷版10が伸びることはない。その結果、コンタクト印刷では、所望の厚さを有する導体パターン60を精度よく形成することができる。ただし、スクリーン刷版10を用いてオフコンタクト印刷により導体パターン60を印刷することを妨げない。すなわち、スクリーン刷版10を用いたスクリーン印刷において、オフコンタクト印刷よりもコンタクト印刷が好ましいことを意味している。
【0039】
また、スクリーン刷版10を用いたスクリーン印刷法によれば、以下の理由によっても、所望の線幅及び厚さを有する導体パターン60を精度よく形成することができる。より詳細には、オフコンタクト印刷では、図5に示すように、導電性ペースト52が塗布されている位置においてのみ、スクリーン刷版10とセラミックグリーンシート50とが接触している。そのため、導体パターン60は、導電性ペースト52が塗布された直後に、スキージ102の移動に伴って、スクリーン刷版10から離脱する。すなわち、導体パターン60は、十分に乾燥する前に、スクリーン刷版10から離脱してしまう。よって、導体パターン60がスクリーン刷版10から離脱する際に、導体パターン60ににじみが発生するおそれがある。そのため、オフコンタクト印刷では、所望の線幅及び厚さを有する導体パターン60を精度よく形成することが困難である。
【0040】
一方、コンタクト印刷では、図4(a)に示すように、スクリーン刷版10がセラミックグリーンシート50に密着している。そのため、導体パターン60が十分に乾燥してから、スクリーン刷版10からセラミックグリーンシート50を剥離することができる。その結果、導体パターン60がスクリーン刷版10から離脱する際に、導体パターン60ににじみが発生するおそれが少ない。そのため、オフコンタクト印刷では、所望の線幅及び厚さを有する導体パターン60を精度よく形成することができる。ただし、スクリーン刷版10を用いてオフコンタクト印刷により導体パターン60を印刷することを妨げない。すなわち、スクリーン刷版10を用いたスクリーン印刷において、オフコンタクト印刷よりもコンタクト印刷が好ましいことを意味している。
【0041】
また、スクリーン刷版10を用いたスクリーン印刷法によれば、以下の理由によっても、所望の線幅及び厚さを有する導体パターン60を精度よく形成することができる。より詳細には、導体パターン60は、スキージ102の移動方向の上流側から下流側へと順に形成されていくので、スキージ102の移動方向の上流側から下流側へと順に乾燥していく。そのため、図4(b)に示すように、スクリーン刷版10からセラミックグリーンシート50を、スキージ102の移動方向の上流側から下流側に向かって剥離することにより、乾燥状態にある導体パターン60から順にスクリーン刷版10から離脱していくようになる。その結果、スクリーン刷版10からセラミックグリーンシート50を剥離する際に、導体パターン60が型崩れすることが抑制される。
【0042】
更に、スクリーン刷版10を用いたスクリーン印刷法によれば、コンタクト印刷により導体パターン60が印刷されているため、スクリーン刷版10が撓まない。その結果、スクリーン刷版10にかかる負荷を軽減できるため、スクリーン刷版10の劣化を抑制することができる。
【0043】
(実験)
本願発明者は、スクリーン刷版10及びスクリーン刷版10を用いたスクリーン印刷法が奏する効果をより明確にするために、以下に説明する実験を行った。以下に、図面を参照しながら、実験について説明する。図6は、比較例に係るスクリーン刷版210の斜視図である。スクリーン刷版210は、直線状領域214a,214bにおいて複数の架橋218が設けられている。また、表1は実験結果を示した表である。
【0044】
【表1】

【0045】
本願発明者は、第1の実施例ないし第7の実施例に係るスクリーン印刷法及び比較例に係るスクリーン印刷法により8通りの導体パターン60の形成を行った。具体的には、導入領域30の高さH1及び吐出領域の高さH2が異なる6種類のスクリーン刷版10を準備した。そして、表1に示すように、第1の実施例ないし第6の実施例では、6種類のスクリーン刷版を用いて、コンタクト印刷により導体パターン60を形成した。また、第7の実施例では、第2の実施例と同じスクリーン刷版10を用いて、オフコンタクト印刷により導体パターン60を形成した。更に、本願発明者は、比較例では、図6に示すスクリーン刷版210を用いて、コンタクト印刷により導体パターン60を形成した。なお、第1の実施例ないし第7の実施例に係るスクリーン印刷法及び比較例に係るスクリーン印刷法により、100個ずつ導体パターン60を形成した。また、第1の実施例ないし第7の実施例に係るスクリーン印刷法及び比較例に係るスクリーン印刷法では、導体パターン60の線幅及び厚さの目標値をそれぞれ、30μm及び14μmに設定した。
【0046】
以上のように形成された導体パターン60において、本願発明者は、凹凸の大きさ、クレータ発生率、線幅、厚さ及び断線発生率を調べた。凹凸の大きさは、導体パターン60のクレータ以外の部分における表面の凹凸の最大値である。凹凸の大きさは、キーエンス社のVK−8510を用いて測定した。クレータ発生率は、クレータが1つ以上発生した導体パターン60の割合を示している。線幅及び厚さは、導体パターン60の線幅及び厚さである。断線発生率は、以下に説明するサージ試験において断線が発生した割合である。
【0047】
サージ試験として、前記第1実施例ないし第6実施例、比較例の方法で導体パターンを形成した積層インダクタを用意し、IEC61000−4−2に規定の試験方法により、放電コンデンサ150pF及び放電抵抗330Ωの条件で、0.1秒間隔で30kVの電圧を30回印加して接触放電を行った。
【0048】
以上の実験によれば、スクリーン刷版10を用いた第1の実施例ないし第6の実施例に係るスクリーン印刷法では、スクリーン刷版210を用いた比較例に係るスクリーン印刷法に比べて、クレータの発生率が低くなっていることが分かる。すなわち、架橋18を孔12の屈曲領域16にのみ設けることにより、クレータの発生を抑制できることが分かる。
【0049】
図7(a)は、第1の実施例に係るスクリーン印刷法により形成された導体パターン60を撮影した図であり、図7(b)は、比較例に係るスクリーン印刷法により形成された導体パターン60を撮影した図である。図7(a)に示すように、第1の実施例に係るスクリーン印刷法により形成された導体パターン60では、クレータが発生していないのに対して、図7(b)に示すように、比較例に係るスクリーン印刷法により形成された導体パターン60では、クレータが発生していることが分かる。よって、図7(a)及び図7(b)からも、架橋18を孔12の屈曲領域16にのみ設けることにより、クレータの発生を抑制できることが分かる。
【0050】
更に、第1の実施例ないし第4の実施例に係るスクリーン印刷法では、クレータの発生率が0%である。一方、第5の実施例及び第6の実施例に係るスクリーン印刷では、クレータの発生率は11%及び4%である。したがって、導入領域30の高さH1は、3μm以上9μm以下であることが好ましく、吐出領域32の高さH2は、19μm以上30μm以下であることが好ましいことが分かる。
【0051】
また、コンタクト印刷が用いられた第2の実施例に係るスクリーン印刷法では、凹凸の大きさが1μmであり、線幅が約30μmであり、厚さが約14μmである。一方、オフコンタクト印刷が用いられた第7の実施例に係るスクリーン印刷法では、凹凸の大きさが4μmであり、線幅が約38μmであり、厚さが約10μmである。すなわち、コンタクト印刷により導体パターン60が形成された場合の方が、オフコンタクト印刷により導体パターン60が形成された場合よりも、精度よく導体パターン60が形成されていることが分かる。
【0052】
また、第1の実施例ないし第4の実施例に係るスクリーン印刷法では、断線発生率は0%であった。一方、第5の実施例、第6の実施例及び比較例に係るスクリーン印刷法では、断線発生率は13%、9%及び20%であった。これは、第5の実施例、第6の実施例及び比較例に係るスクリーン印刷法により形成された導体パターン60では、クレータが発生したためである。このように、クレータが発生すると、導体パターン60の厚さが小さくなる部分が形成される。その結果、導体パターン60の抵抗が部分的に大きくなってしまい、断線が発生しやすくなる。すなわち、クレータの発生を抑制することにより、導体パターン60において断線が発生することを抑制できることが分かる。
【0053】
なお、第5の実施例及び第6の実施例に係るスクリーン印刷法により形成された導体パターン60では、クレータが発生することにより、断線が発生している。ただし、第5の実施例及び第6の実施例に係るスクリーン印刷法により形成された導体パターン60では、比較例に係るスクリーン印刷法により形成された導体パターン60よりも、クレータの発生率が低いので、断線発生率も低くなっている。よって、第5の実施例及び第6の実施例に係るスクリーン印刷法も、本発明から除外されているわけではない。
【0054】
また、第7の実施例に係るスクリーン印刷法により形成された導体パターン60では、線幅及び厚さが目標値からずれているために、断線発生率が高くなっている。しかしながら、クレータの発生率は、0%である。よって、オフコンタクト印刷が用いられた第7の実施例に係るスクリーン印刷法も、本発明から除外されているわけではない。
【0055】
(その他の実施形態)
以上のように構成されたスクリーン刷版10及びスクリーン印刷法は、前記実施形態に示したものに限らず、その要旨の範囲内において変更可能である。例えば、スクリーン刷版10は、3本以上の直線状領域14を有していてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上のように、本発明は、スクリーン刷版及びスクリーン印刷法に有用であり、特に、導体パターンにクレータが発生することを抑制できる点において優れている。
【符号の説明】
【0057】
10 スクリーン刷版
11 刷版本体
12 孔
14a,14b 直線状領域
16 屈曲領域
18 架橋
19 内周面
20 段差
30 導入領域
32 吐出領域
50 セラミックグリーンシート
52 導電性ペースト
60 導体パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体パターンを面上にスクリーン印刷法により形成する際に用いられるスクリーン刷版であって、
前記導体パターンを形成するための孔であって、複数の直線状領域と該複数の直線状領域を接続する屈曲領域とからなる孔が設けられている刷版本体を備え、
前記屈曲領域には前記孔を分断する架橋が設けられており、
前記直線状領域には前記孔を分断する前記架橋が設けられていないこと、
を特徴とするスクリーン刷版。
【請求項2】
前記刷版本体の表面における前記孔の線幅が、該刷版本体の裏面における該孔の線幅よりも狭くなるように、該刷版本体の該孔の内周面には段差が設けられていること、
を特徴とする請求項1に記載のスクリーン刷版。
【請求項3】
前記刷版本体の表面から前記段差までの距離は、3μm以上9μm以下であり、
前記刷版本体の裏面から前記段差までの距離は、19μm以上30μm以下であること、
を特徴とする請求項2に記載のスクリーン刷版。
【請求項4】
前記孔は、前記刷版本体の裏面から前記段差までの間の領域においては、前記架橋によって分断されていないこと、
を特徴とする請求項2又は請求項3のいずれかに記載のスクリーン刷版。
【請求項5】
面上に導体パターンを印刷するスクリーン印刷法であって、
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のスクリーン刷版を前記面上に配置する第1の工程と、
前記スクリーン刷版の表面上にペーストを供給する第2の工程と、
前記スクリーン刷版の表面にスキージを摺動させることにより、前記孔を介して前記ペーストを前記面に塗布する第3の工程と、
を備えていること、
を特徴とするスクリーン印刷法。
【請求項6】
前記第1の工程では、前記スクリーン刷版を前記面上に接触させて配置すること、
を特徴とする請求項5に記載のスクリーン印刷法。
【請求項7】
前記第3の工程では、所定方向に向かって前記スキージを移動させ、
前記面は、セラミックグリーンシートの主面であり、
前記スクリーン印刷法は、
前記スクリーン刷版から前記セラミックグリーンシートを前記所定方向の上流側から下流側に向かって剥離する第4の工程を、
更に備えていること、
を特徴とする請求項5又は請求項6のいずれかに記載のスクリーン印刷法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−201120(P2011−201120A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70238(P2010−70238)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】