説明

スクリーン印刷用版およびその製造方法

【課題】金属メッシュの表面における光の反射を抑制、防止して、金属メッシュに付与した感光性樹脂乳剤を露光、現像する工程を経て製造されるスクリーン印刷用版の微細図形解像性を向上させる。
【解決手段】少なくともその表面がNiまたはNiを含む材料からなる金属メッシュの表面に、NiまたはNiを含む材料と有機酸との反応物からなり、感光性樹脂乳剤の感光波長帯の光の反射率を低下させる反射防止膜を形成する。
反射防止膜として、金属メッシュの表面とアクリルポリマー由来の有機酸との反応物からなり、紫外線の反射率を低下させる反射防止膜を形成する。
金属メッシュの表面を、アクリルポリマーとジアゾ架橋剤とを用いて、NiまたはNiを含む材料とアクリルポリマー由来の有機酸との反応物からなる反射防止膜を形成し、反射防止膜が形成された金属メッシュの所定の領域に感光性樹脂乳剤を付与した後、露光、現像を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、スクリーン印刷法により、導電性ペーストなどの印刷材を所定のパターンで、セラミックグリーンシートなどの印刷対象物に印刷する際に用いられるスクリーン印刷用版およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スクリーン印刷法は、スクリーンメッシュに所定のパターンの印刷用ペーストを通過させない樹脂膜を形成したスクリーン印刷用版を用いて、スクリーンメッシュの樹脂膜のないスクリーン部分から導電性ペーストなどの印刷材を押し出して印刷を行う方法である。
そして、スクリーン印刷用版は、通常、アルミニウムなどからなる版枠に、スクリーンメッシュを張設し、これに水溶性の感光性樹脂組成物(感光性樹脂乳剤)の被膜を形成し、紫外線照射によって光架橋させた後、水現像あるいはアルカリ現像することにより製造されている。
【0003】
ところで、上述のようなスクリーン印刷に用いられるスクリーン印刷用版としては、例えば、以下のような構成のものが提案されている。
【0004】
(1)ステンレス鋼の細い線材を経糸および緯糸に用いて製織された紗状織物の少なくとも片面を、金属の酸化物、窒化物もしくは炭化物又はフッ化マグネシウムからなる紫外線反射防止膜で被覆した印刷用スクリーン紗(特許文献1参照)。
(2)多数の微小な開口を有する金属製のスクリーンの構成部材表面に、感光性乳剤層の感光波長帯近傍の光の反射率を低下させるような処理を施したスクリーン印刷用マスク(特許文献2参照)。
(3)金属微細線を編んで形成したスクリーンの表面に、光反射を減少させる着色処理を施して反射防止を行うように構成されたもの(特許文献3参照)。
【0005】
これらの従来のスクリーン印刷用版においては、いずれも露光時の、シャドー部への紫外線入射を抑制、防止して、スクリーン印刷用版の微細図形解像性を向上させ、微細版の形成を可能にするため、スクリーンに紫外線反射防止加工が施されている。
【0006】
すなわち、図を用いて模式的に説明すると、図3(a),(b)に示すように、金属メッシュ(スクリーン)101に紫外線反射防止処理が施されていない場合、金属メッシュ101に感光性乳剤102を塗布した状態で、印刷パターンに対応するパターン原版103を介して紫外線を照射すると、金属メッシュ101の表面で紫外線が反射して、シャドー部に入射し、図3(b)に示すように、現像後のスクリーン印刷用版の微細図形解像性が低下する。
【0007】
これに対し、図4(a),(b)に示すように、金属メッシュ101に紫外線反射防止処理101’が施されていると、金属メッシュ101に感光性乳剤102を塗布した状態で、印刷パターンに対応するパターン原版103を介して紫外線を照射した場合に、金属メッシュ101の表面における紫外線の反射が抑制、防止され、シャドー部への紫外線の入射が抑制され、その結果として、図4(b)に示すように、現像後のスクリーン印刷用版の微細図形解像性が向上する。
【0008】
しかしながら、上記(1)の特許文献1のスクリーン印刷用版においては、反射防止膜がスパッタなどの物理蒸着法により形成されるものであるため、真空チャンバーなどの装置が必要になり、設備コストが増大するばかりでなく、製造プロセスが複雑化して生産性が低下し、製造コストの増大を招くという問題点がある。
さらに、線材(メッシュ線材)の表面に反射防止膜を形成することから、メッシュ線の径が大きくなるため、導電性ペーストなどの印刷材の抜けが悪くなり、印刷性が低下するという問題点がある。
また、反射防止膜は、スパッタなどの物理蒸着法で付着させているだけであることから、メッシュ線材との接合力が低く、反射防止膜がスキージとの摩擦で脱落し、印刷パターン中に混入するおそれがあり、信頼性が低いという問題点がある。
【0009】
また、上記(2)の特許文献2ではスクリーン印刷用版を製造するにあたって、ポリビニール系樹脂に紫外線を吸収する染料を添加し、塗布することにより紫外線吸収膜を形成する例が挙げられているが、この方法の場合、薄く均一に塗布することが困難で、紫外線吸収膜の厚みが薄い場合には十分な紫外線吸収効果を得ることができず、また、紫外線吸収膜の厚みが厚い場合にはメッシュ線径の増大による印刷性劣化が起こるという問題点がある。
また、上記(1)の特許文献1の場合と同様に、ポリビニール系樹脂に紫外線を吸収する染料を添加し、塗布することにより紫外線吸収膜を形成するようにしているので、紫外線吸収膜とメッシュ線材との接合力が低く、反射防止膜がスキージの摩擦で脱落し、印刷パターン中に混入するおそれがあり、信頼性が低いという問題点がある。
【0010】
さらに、上記(3)の特許文献3の構成の場合、光反射を減少させる着色処理をめっきにより行うようにしているため、めっき廃液などが生じ、環境への負荷が大きいという問題がある。
また、めっきによりメッシュ線径が大きくなるため、場合によっては印刷性の低下を招くという問題点がある。
【特許文献1】特開2003−19874号公報
【特許文献2】特開平6−219071号公報
【特許文献3】特開平9−123631号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本願発明は、上記課題を解決するものであり、メッシュ線径を大きくすることなく金属メッシュの表面における光の反射を抑制、防止して、金属メッシュに付与した感光性樹脂乳剤を露光および現像する工程を経て製造されるスクリーン印刷用版の微細図形解像性を向上させることを目的とし、微細図形解像性に優れたスクリーン印刷用版、および、該スクリーン印刷用版を効率よく製造することが可能なスクリーン印刷用版の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本願請求項1のスクリーン印刷用版は、
少なくともその表面がNiまたはNiを含む材料からなる金属メッシュと、前記金属メッシュの開口の少なくとも一部が非貫通状態となるように付与された、露光および現像後の感光性樹脂乳剤からなるパターン形成用樹脂とを備えたスクリーン印刷用版であって、
前記金属メッシュの表面には、前記NiまたはNiを含む材料と有機酸との反応物からなり、前記感光性樹脂乳剤の感光波長帯の光の反射率を低下させる反射防止膜が形成されていること
を特徴としている。
【0013】
また、請求項2のスクリーン印刷用版は、請求項1の発明の構成において、前記反射防止膜が、前記金属メッシュの表面とアクリルポリマー由来の有機酸との反応物からなるものであり、紫外線の反射率を低下させるものであることを特徴としている。
【0014】
また、請求項3のスクリーン印刷用版の製造方法は、
少なくともその表面がNiまたはNiを含む材料からなる金属メッシュの表面を、アクリルポリマーとジアゾ架橋剤とを用いて、前記NiまたはNiを含む材料と前記アクリルポリマー由来の有機酸との反応物とすることにより、前記金属メッシュに感光性樹脂乳剤の感光波長帯の光の反射率を低下させる反射防止膜を形成する工程と、
前記反射防止膜が形成された前記金属メッシュの所定の領域に感光性樹脂乳剤を付与する工程と、
前記金属メッシュに付与された前記感光性樹脂乳剤を所定のパターンで露光する工程と、
露光後の感光性樹脂乳剤を現像し、印刷領域となる貫通領域と、非印刷領域となる非貫通領域とを備えたスクリーン印刷用版を得る工程と
を具備することを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本願発明(請求項1)のスクリーン印刷用版は、少なくともその表面がNiまたはNiを含む材料からなる金属メッシュの表面に、NiまたはNiを含む材料と有機酸との反応物からなり、感光性樹脂乳剤の感光波長帯の光の反射率を低下させる反射防止膜が形成されているため、金属メッシュの表面における、感光性樹脂乳剤の感光波長帯の光の反射を抑制、防止することが可能になる。したがって、金属メッシュに付与した感光性樹脂乳剤を、露光および現像する工程を経てスクリーン印刷用版を製造する場合において、露光時の、金属メッシュの表面における光の反射を抑制、防止して、微細図形解像性に優れたスクリーン印刷用版を効率よく製造することが可能になる。
【0016】
すなわち、本願発明のスクリーン印刷用版においては、金属メッシュ表面に、Niの有機酸塩が形成されており、この有機酸塩により、金属メッシュの表面が褐色あるいは黒色となることから、紫外線などの光の反射を効果的に防止することが可能になる。
【0017】
また、請求項2のスクリーン印刷用版のように、請求項1の発明の構成において、反射防止膜が、金属メッシュの表面とアクリルポリマー由来の有機酸との反応物からなるものであり、紫外線の反射率を低下させるものであることを特徴としているので、感光性樹脂乳剤の感光波長帯の光の反射しにくい反射防止膜をより確実に形成することが可能になり、本願発明をさらに実効あらしめることができる。
なお、金属メッシュの表面とアクリルポリマー由来の有機酸との反応物としては、主として金属メッシュを構成するNiなどの金属のアクリル酸塩が形成されることになる。そして、Niのアクリル酸塩は褐色もしくは黒色を呈することから、感光性樹脂乳剤の感光波長帯の光(通常は紫外線)のより反射しにくい反射防止膜を確実に形成することが可能になる。
したがって、請求項2のスクリーン印刷用版の発明によれば、露光時の紫外線の反射を効率よく抑制することが可能な反射防止膜を確実に形成して、微細図形解像性に優れ、高精度の印刷パターンを得ることが可能なスクリーン印刷用版を提供することができる。
【0018】
また、請求項3のスクリーン印刷用版の製造方法は、少なくともその表面がNiまたはNiを含む材料からなる金属メッシュの表面を、アクリルポリマーとジアゾ架橋剤とを用いて、前記NiまたはNiを含む材料と前記アクリルポリマー由来の有機酸との反応物とすることにより、前記金属メッシュに感光性樹脂乳剤の感光波長帯の光の反射率を低下させる反射防止膜を形成し、この反射防止膜が形成された金属メッシュの所定の領域に感光性樹脂乳剤を付与した後、金属メッシュに付与された感光性樹脂乳剤を所定のパターンで露光し、露光後の感光性樹脂乳剤を現像して、印刷領域となる貫通領域と、非印刷領域となる非貫通領域とを備えたスクリーン印刷用版を得るようにしているので、露光時の、金属メッシュの表面における光の反射を抑制、防止して、微細図形解像性に優れたスクリーン印刷用版を効率よく製造することが可能になる。
【0019】
なお、本願発明において、アクリルポリマーとジアゾ架橋剤とを用いて処理するようにしているのは、金属メッシュの表面の金属と有機酸の反応を速やかに進めるためである。
すなわち、金属の有機酸塩を形成するには、基本的には、金属とアクリル酸などの有機酸を反応させればよいのであるが、単にアクリル酸を含む液体を金属メッシュに塗布したり、塗布した状態で、例えば40℃に加熱したりするだけでは、金属とアクリル酸との反応は生起せず、反射防止膜を形成することは困難である。ところが、アクリルポリマーにジアゾ架橋剤を添加した場合、金属メッシュの表面との反応性を向上させることが可能になり、例えば40℃に加熱するというような簡単な処理操作で、金属メッシュの表面に、Niなどの金属とアクリル酸などの有機酸との反応物からなる反射防止膜を確実に形成することができる。
【0020】
なお、より具体的には、アクリルポリマーをポリビニルアルコール水溶液中に乳化分散し、これにジアゾ架橋剤を添加したものを金属メッシュの表面に塗布した後、所定の温度に加熱することにより、さらに効率よく金属メッシュの表面に反射防止膜を形成することが可能になる。
【0021】
また、請求項3のスクリーン印刷用版の製造方法においては、反射防止機能を有する材料を金属メッシュに塗布するのではなく、金属メッシュの表面と、アクリルポリマー由来の有機酸とを反応させて、金属メッシュの表面自体を、金属メッシュを構成するNiなどの金属の有機酸塩(アクリル酸塩)とし、これを反射防止膜として機能させるようにしているので、反射防止膜が金属メッシュの表面に強固に固着し、スクリーン印刷を行う際にスキージによる摩擦を受けても容易に脱落することはなく、高い信頼性を実現することができる。
【0022】
また、上述のように、少なくともその表面がNiまたはNiを含む材料からなる金属メッシュの表面をアクリルポリマーとジアゾ架橋剤とを用いて、前記NiまたはNiを含む材料と前記アクリルポリマー由来の有機酸との反応物とする、すなわち、金属メッシュの表面自体を改質することにより反射防止膜を形成するようにしているので、金属メッシュの開口率が処理前後でほとんど変化せず、印刷時にペーストが通りにくくなるような懸念もない。
【0023】
また、本願発明のスクリーン印刷用版の製造方法によれば、スパッタなどの真空蒸着法により反射防止膜を形成する場合に必要となるような真空チャンバーや、めっき法により反射防止膜を形成する場合に必要となるようなめっき装置などの特別な設備を必要とせず、設備コストを抑え、製造コストの低減を図ることが可能になる。
また、めっき法により反射防止膜を形成する場合に比べ、重金属を含む廃液の排出などがなく、環境への負荷を低くすることができる。
【0024】
なお、本願発明のスクリーン印刷用版の製造方法は、感光性樹脂乳剤が、露光した領域が現像後に残存するネガ型、露光しなかった領域が現像後に残存するポジ型のいずれである場合にも適用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に本願発明の実施例を示して、本願発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0026】
[版枠へのスクリーンメッシュの貼り付け]
まず、金属製のスクリーンメッシュ(金属メッシュ)を、所定のテンションがかかるような状態で印刷用版枠に貼り付ける。
この実施例では、金属メッシュとして、以下の条件を備え、かつ、表面にNiめっきが施された金属メッシュを用いた。
(a)構成材料:SUS304ステンレス(Fe−18Cr−8Ni)
(b)メッシュ粗さ:400メッシュ
(c)金属メッシュを構成する線材の線径:18μm
(d)金属メッシュの表面のNiめっき膜厚:0.5μm
【0027】
なお、本願発明において、金属メッシュの条件はこれに限られるものではなく、メッシュ粗さ(メッシュ数)、線径などを変えた仕様の異なる金属メッシュを用いることも可能である。
また、金属メッシュは、線材の段階で表面にNiめっきが施されたものであってもよく、また、金属メッシュの段階で表面にNiめっきが施されたものであってもよい。
さらに、金属メッシュとしては、線材を用いずに、電鋳により形成されたものを用いることも可能である。
【0028】
[反射防止膜の形成]
次に、上述のようにして、版枠に貼り付けた金属メッシュに、感光性樹脂乳剤が感応する感光波長帯の紫外線の反射を防止するための反射防止膜を形成した。以下に、反射防止膜の形成方法について説明する。
【0029】
まず、処理液として、ポリビニルアルコール水溶液中に、アクリルポリマーを乳化分散した液体に、ジアゾ架橋剤を添加して、PH1.5〜2.5に調整したものを用意した。
【0030】
なお、処理液を構成する各成分の配合割合は以下の通りである。
(a)ポリビニルアルコール溶液(PVA:15重量%):49重量部
(b)アクリルポリマー :42重量部
(c)ジアゾ架橋剤水溶液(ジアゾ架橋剤10重量%) :9重量部
ここで、アクリルポリマーとしては、アクリル酸エステル共重合体を用いた。
また、ジアゾ架橋剤としては、ホルムアルデヒド縮重合型の硫酸型ジアゾ樹脂を用いた。
【0031】
それから、版枠に貼り付けた金属メッシュに上述の処理液を塗布した後、40℃に加熱して1時間保持し、金属メッシュの表面に、反射防止膜としての機能を果たす有機酸塩(この実施例では主として、金属メッシュ表面に施されたNiめっきに由来するNiのアクリル酸塩)を形成させた。なお、この処理により、金属メッシュは褐色ないしは黒色に変化する。
このようにして、反射防止膜としての機能を果たす有機酸塩を金属メッシュの表面に形成した後、処理液を水で洗い流した。
【0032】
なお、この実施例で、上述のような配合の処理液を用いたのは、メッシュ表面の金属と有機酸の反応を速やかに進めるためである。
すなわち、金属の有機酸塩を形成するには、金属とアクリル酸などの有機酸を反応させればよいが、単にアクリル酸を含む液体を金属メッシュに塗布したり、例えば、塗布した状態で40℃に加熱したりするだけでは、反応は生起せず、反射防止膜を形成することは事実上不可能である。
【0033】
一方、上述のように、アクリルポリマーにジアゾ架橋剤を添加した処理液を用いることにより、金属メッシュの表面との反応性を向上させることが可能になり、例えば40℃で1時間加熱というような、極めて容易な方法で金属メッシュの表面に効率よくしかも確実に反射防止膜を形成することができる。
【0034】
[感光性樹脂乳剤の塗布]
上述のようにして、表面に紫外線を反射させる反射防止膜を形成した金属メッシュに、感光性樹脂乳剤塗布用のバケットなどを用いて、所定厚となるように感光性樹脂乳剤を塗布する。この実施例では、感光性樹脂乳剤の塗布厚を10μmとした。ただし、感光性樹脂乳剤の塗布厚は10μmに限られるものではなく、用途や使用条件などを考慮して、種々の厚みとすることができる。
また、感光性樹脂乳剤の塗布は、公知の種々の方法、例えば、液状の感光性樹脂乳剤を金属メッシュに直接塗布する直接法、フィルムに塗布した感光性乳剤を露光および現像して生成された樹脂膜を金属メッシュに転写する間接法、感光性樹脂が塗布された感光フィルムを裏面側から感光性樹脂乳剤で金属メッシュに貼り付けて露光および現像する直間法などの方法で行うことができる。
【0035】
[感光性樹脂乳剤の露光]
それから、別途用意しておいた、印刷パターンに対応するパターン原版を、上述の感光性樹脂乳剤塗布済みのスクリーン印刷用版の基板面側に密着するように保持し、メッシュ粗さ、感光性樹脂乳剤の塗布厚などの仕様毎に決まる最適露光量で紫外線の露光を行う。なお、この実施例では、最適露光量670mJ/cm2で露光を行った。
【0036】
[感光性樹脂乳剤の現像・乾燥]
次に、市販のスクリーン印刷用版現像装置を用いて、露光後のスクリーン印刷用版の現像を行い、オーブンで十分に乾燥させることにより、Niを含む材料からなる金属メッシュと、金属メッシュの開口の少なくとも一部が非貫通状態となるように付与された、露光、現像後の感光性樹脂乳剤(パターン形成用樹脂)とを備えたスクリーン印刷用版を得た。
【0037】
それから、このようにして製造したスクリーン印刷用版(実施例1)について、微細図形解像性を評価した。その結果を表1に示す。
【0038】
また、比較のため、反射防止膜を設けないことを除いて、上記実施例に準じる方法で製造したスクリーン印刷用版(比較例1)を用意し、微細図形解像性を評価した。その結果を表1に併せて示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1に示すように、最小解像線幅は、従来の紫外線の反射防止膜を備えていないスクリーン印刷用版を用いた場合に40μmであったものが、この実施例1のスクリーン印刷用版を用いた場合には12μmとなり、実施例1のスクリーン印刷用版においては、反射防止膜の効果により、微細図形の解像性が向上することが確認された。
【0041】
また、図1に、実施例1のスクリーン印刷用版の、十分に解像されている12μmライン部の顕微鏡写真を示すとともに、図2に、比較例1のスクリーン印刷用版の、十分に解像できていない12μmライン部の顕微鏡写真を示す。
図1、2は、スクリーン印刷版を光源の上に設置し、その状態で開口部を通して透過してきた光を観察したものであり、白く見えているのが透過してきた光で、開口している箇所に対応している。
【0042】
図2に示すように、反射防止膜が形成されていない比較例1のスクリーン印刷用版の場合、露光時にシャドー部へ紫外線が入射し、シャドー部の感光性樹脂乳剤が光硬化してしまうため、印刷領域(貫通領域)10となるべき領域以外の非印刷領域(非貫通領域)20でのみ、金属メッシュ1の隙間2に充填されるべき感光性樹脂乳剤(パターン形成用樹脂)3が、印刷領域(貫通領域)10である12μmライン部10aに残存し、12μmライン部10aが十分に解像されていないことがわかる。
【0043】
これに対し、図1に示すように、反射防止膜が形成されている実施例1のスクリーン印刷用版の場合、露光時のシャドー部への紫外線入射がないため、印刷領域(貫通領域)10となるべき領域以外の非印刷領域(非貫通領域)20でのみ、感光性樹脂乳剤(パターン形成用樹脂)3が、金属メッシュ1の隙間2に充填されており、印刷領域(貫通領域)10である12μmライン部10aが十分に解像されていることがわかる。
【0044】
また、上記実施例1および比較例1のスクリーン印刷用版を用いて、導電性ペーストを印刷し、印刷性を調べた。その結果を表2に示す。
さらに、金属メッシュに、上述の特許文献3の方法に準じる方法により、黒色めっきを施した金属メッシュを用いて作製した比較例2のスクリーン印刷用版についても同様にして導電性ペーストを印刷し、印刷性を調べた。その結果を表2に併せて示す。
なお、この比較例2のスクリーン印刷用版は、黒色のめっき膜である反射防止膜が金属メッシュの表面に厚く形成され、金属メッシュを構成する線材の径(メッシュ線径)が大きくなっているものである。
【0045】
【表2】

【0046】
表2に示すように、反射防止膜が形成されていない比較例1のスクリーン印刷用版を用いた場合、線幅が40μmのラインを印刷した場合には良好な印刷性を示したが、線幅が20μmと細くなると、印刷時に断線やかすれなどの発生が認められ、印刷性に問題があることが確認された。
【0047】
また、比較例2の、黒色のめっき膜である反射防止膜が金属メッシュの表面に厚く形成され、金属メッシュを構成する線材の径が大きくなっているスクリーン印刷用版を用いた場合、線幅が40μm、および、20μmのいずれの場合にも、断線が生じ、良好な印刷を行うことができなかった。これは、メッシュ線径増大による導電性ペーストの抜けの悪さにより印刷性が劣化したことによるものであると考えられる。
【0048】
これに対し、実施例1のスクリーン印刷用版を用いた場合、線幅が40μm、および、20μmのいずれ場合にも、断線やかすれなどの問題は発生せず、良好な印刷を行うことができた。また、その他の問題も生じず、反射防止膜による印刷性劣化の問題もないことがわかった。
【0049】
上記実施例より、本願発明によれば、処理剤の塗布、加熱、洗い流しという簡単な工程により、金属メッシュの表面に薄く、均一で、紫外線の反射防止機能に優れた反射防止膜を形成することが可能になり、この反射防止膜の効果により、露光時の原版シャドー部への紫外線の入射を抑制、防止して、微細図形解像性に優れたスクリーン印刷用版を効率よく製造できることが確認された。
すなわち、反射防止膜を設けていない金属メッシュを用いた場合、金属メッシュ表面の反射により、シャドー部へ紫外線が入射し、所望の微細パターンを解像することはできないが、本願発明の方法により反射防止膜を形成するようにした場合、シャドー部への紫外線入射を抑制、防止して、目詰りを防止しつつ、所望の(原版通りの)微細パターンを解像することが可能になる。
【0050】
なお、上記実施例では、金属メッシュとして、ステンレスからなり、表面にNiめっきが施された金属メッシュを用いたが、Niを含むステンレス製の金属メッシュを、その表面にNiめっきを施すことなく、そのまま使用することも可能である。ただし、Niで被覆した金属メッシュを用いた場合の方が、反射防止効果の大きい反射防止膜を形成することができるという実験結果もあり、反射防止効果を重視する場合には、Niで被覆された金属メッシュを用いることが望ましい。
【0051】
また、上記実施例では、導電性ペーストを印刷するためのスクリーン印刷用版を例にとって説明したが、本願発明は、印刷材の種類に特別の制約はなく、誘電体ペーストや抵抗体ペースト、さらにはセラミックスラリー(セラミックペースト)など種々の材料を印刷する場合に適用することが可能である。
【0052】
また、本願発明はさらにその他の点においても上記実施例に限定されるものではなく、金属メッシュを構成するNiを含む材料の種類、スクリーン印刷用版の具体的な印刷パターンの形状、感光性樹脂乳剤の種類、反射防止膜となる、金属の有機酸塩を構成する有機酸の種類、金属メッシュの表面に反射防止膜を形成するために用いられる、アクリルポリマーとジアゾ架橋剤を含む処理液の具体的な組成、感光性樹脂乳剤の露光条件や現像条件などに関し、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本願発明によれば、処理剤の塗布、加熱、洗い流しという簡単な工程により、金属メッシュの表面に薄く、均一で、紫外線の反射防止機能に優れた反射防止膜を形成することが可能になり、この反射防止膜の効果により、露光時の原版シャドー部への紫外線の入射を抑制、防止して、微細図形解像性に優れたスクリーン印刷用版を効率よく製造できる。
したがって、本願発明は、導電性ペーストなどをセラミックグリ−ンシートやセラミック基板に印刷する際に用いられるスクリーン印刷用版の分野、特にパターン面積が小さい場合や、パターン中に幅の狭い部分がある場合など、高いパターン精度(解像度)が要求されるようなスクリーン印刷用版の分野に広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本願発明の実施例にかかるスクリーン印刷用版の要部の顕微鏡写真である。
【図2】比較例1にかかるスクリーン印刷用版の要部の顕微鏡写真である。
【図3】金属メッシュに紫外線反射防止処理が施されていない場合のスクリーン印刷用版の製造工程を示す図であって、(a)は露光工程を示す図、(b)は現像後の状態を示す図である。
【図4】金属メッシュに紫外線反射防止処理が施されている場合のスクリーン印刷用版の製造工程を示す図であって、(a)は露光工程を示す図、(b)は現像後の状態を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1 金属メッシュ
2 金属メッシュの隙間
3 感光性樹脂乳剤(パターン形成用樹脂)
10 印刷領域(貫通領域)
10a 12μmライン部
20 非印刷領域(非貫通領域)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともその表面がNiまたはNiを含む材料からなる金属メッシュと、前記金属メッシュの開口の少なくとも一部が非貫通状態となるように付与された、露光および現像後の感光性樹脂乳剤からなるパターン形成用樹脂とを備えたスクリーン印刷用版であって、
前記金属メッシュの表面には、前記NiまたはNiを含む材料と有機酸との反応物からなり、前記感光性樹脂乳剤の感光波長帯の光の反射率を低下させる反射防止膜が形成されていること
を特徴とする、スクリーン印刷用版。
【請求項2】
前記反射防止膜が、前記金属メッシュの表面とアクリルポリマー由来の有機酸との反応物からなるものであり、紫外線の反射率を低下させるものであることを特徴とする、請求項1記載のスクリーン印刷用版。
【請求項3】
少なくともその表面がNiまたはNiを含む材料からなる金属メッシュの表面を、アクリルポリマーとジアゾ架橋剤とを用いて、前記NiまたはNiを含む材料と前記アクリルポリマー由来の有機酸との反応物とすることにより、前記金属メッシュに感光性樹脂乳剤の感光波長帯の光の反射率を低下させる反射防止膜を形成する工程と、
前記反射防止膜が形成された前記金属メッシュの所定の領域に感光性樹脂乳剤を付与する工程と、
前記金属メッシュに付与された前記感光性樹脂乳剤を所定のパターンで露光する工程と、
露光後の感光性樹脂乳剤を現像し、印刷領域となる貫通領域と、非印刷領域となる非貫通領域とを備えたスクリーン印刷用版を得る工程と
を具備することを特徴とする、スクリーン印刷用版の製造方法。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−334058(P2007−334058A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−166594(P2006−166594)
【出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】