説明

スクリーン印刷装置、発光装置の製造方法および製造装置

【課題】 気泡の発生を防止して平坦で欠損のない膜が得られ、かつ印刷動作、スクリーンメッシュ剥離動作が円滑に行えるスクリーン印刷装置、この種のスクリーン印刷装置を用いた発光装置の製造方法および製造装置を提供する。
【解決手段】 本発明のスクリーン印刷装置は、基台上に配置した基板200の上方にスクリーンメッシュ51を配置してスキージ53により塗布材料をパターン印刷する印刷動作と、印刷動作の後に基板200からスクリーンメッシュ51を剥離する剥離動作とを行うものであり、剥離動作時の雰囲気圧力が印刷動作時の雰囲気圧力よりも高く設定されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリーン印刷装置、発光装置の製造方法および製造装置に関し、特に有機エレクトロルミネッセンス装置(以下、有機EL装置と称する)の緩衝層等の形成に用いて好適なスクリーン印刷装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、発光機能層を備えた有機エレクトロルミネッセンス装置(以下、有機EL装置と称する)が知られている。このような有機EL装置は、無機材料からなる陽極と陰極との間に有機発光層を備えた構成が一般的である。さらに、正孔注入性や電子注入性を向上させるために、無機陽極と有機発光層との間に有機材料からなる正孔注入層を配置した構成や、有機発光層と無機陰極の間に電子注入層を配置した構成が提案されている。ここで、電子を放出しやすい材料特性を有する電子注入層は、大気中の存在する水分と反応しやすく、水と反応することによって電子注入効果が低下し、ダークスポットと呼ばれる発光しない部分が形成されてしまい、発光素子としての寿命が短くなってしまう。したがって、このような有機EL装置の分野においては、水分や酸素等に対する耐久性向上が課題となっている。
【0003】
このような課題を解決するために、表示装置の基板にガラスや金属の蓋を取り付けて水分等を封止する方法が一般的に採用されてきた。ところが、近年では、表示装置の大型化、軽量薄型化に対応するために、発光素子上に透明でガスバリア性に優れた珪素窒化物、珪素酸化物、セラミックス等の薄膜を高密度プラズマ成膜法(例えばイオンプレーティング、ECRプラズマスパッタ、ECRプラズマCVD、表面波プラズマCVD、ICP−CVD等)により成膜させる薄膜封止と呼ばれる技術が用いられている(例えば特許文献1〜4)。このような技術を利用しガスバリア層を形成することにより、水分を完全に遮断して薄膜形成することが可能となっている。
【0004】
ところで、これらのガスバリア層には、水分遮断性を発現させるために高密度で非常に硬い無機膜が用いられる。そのため、当該薄膜の表面に凹凸部や急峻な段差があると、外部応力が集中し、クラックや剥離等が生じてしまう虞があった。そこで、このような応力に起因するクラックや剥離を抑制するため、ガスバリア層との密着性を向上させるとともに、平坦化を実現するための緩衝層をガスバリア層の下地に配置することが考えられた。このような緩衝層としては、平坦性や柔軟性を有するとともに、応力を吸収する性質を有している材料が好ましく、有機高分子材料が好適である。
【特許文献1】特開平9−185994号公報
【特許文献2】特開2001−284041号公報
【特許文献3】特開2000−223264号公報
【特許文献4】特開2003−17244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者は、上記の特許文献に記載されたガスバリア層や緩衝層を追加してもなお、十分な発光特性や発光寿命が得られないこと、非発光領域が生じてしまうこと、などを確認した。特に緩衝層の形成の際に、緩衝層の平坦性を確保する目的で貼り合わせ接着剤のように基板に対して加重をかけて押し広げることも難しく、気泡等を発生させることなく平坦で欠損のない緩衝層を容易に形成できる塗布プロセスが望まれている。これはガスバリア層の高品質化にとっても極めて重要な問題である。
【0006】
本発明者は、この種の緩衝層の形成に真空スクリーン印刷法を用いる方法を既に出願している。上述したように、有機EL装置の構成要素は未封止の状態では水分による劣化が極めて大きいため、真空(減圧)雰囲気でスクリーン印刷を行うことにより基板表面や緩衝層材料に吸着した水分を除去することができる。また、真空雰囲気で緩衝層を形成すると、塗布時に気泡(この場合は真空気泡)が発生することが避けられないが、その気泡を窒素パージ等の方法で加圧して消滅させることもできる。このようにして平坦性が高く、欠陥のない薄膜の有機緩衝層を比較的容易に形成することができる。しかしながら、このような真空スクリーン印刷法でも平坦性の向上、欠陥の低減が未だ不十分であり、更なる改善が望まれている。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、気泡の発生を防止して平坦で欠陥のない膜が得られるスクリーン印刷装置、およびこの種のスクリーン印刷装置を用いた発光装置の製造方法、および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明のスクリーン印刷装置は、減圧雰囲気でスクリーン印刷を行うスクリーン印刷装置であって、基台上に配置した被印刷基板の上方にスクリーンメッシュを配置してスキージにより塗布材料をパターン印刷する印刷動作と、前記印刷動作の後に前記基板から前記スクリーンメッシュを剥離する剥離動作とを行うものであり、前記剥離動作時の雰囲気圧力が前記印刷動作時の雰囲気圧力よりも高く設定されていることを特徴とする。
【0009】
本発明者は、真空スクリーン法においてスキージによる材料の塗布を行った際に、塗布材料がローリングを起こすことで材料中に大量の気泡が巻き込まれて残留し、このままスクリーンメッシュを剥離すると気泡が引き伸ばされて弾け、クレーター状の欠陥が発生することを発見した。そこで、上記本発明のスクリーン印刷装置の構成に想到した。この構成によれば、剥離動作時の雰囲気圧力が印刷動作時の雰囲気圧力よりも高く設定されているため、印刷工程と剥離工程との間に圧力差が生じ、この圧力差により材料が加圧され、印刷時に材料が巻き込んだ気泡を消滅させることができる。その結果、スクリーンメッシュ剥離時に気泡が再度発生したとしてもその気泡をより小さく制御することで気泡が弾け難くなり、クレーター状の欠陥の発生を抑えることができ、膜の平坦性を向上させることができる。
【0010】
さらに、本発明のスクリーン印刷装置は、剥離動作後の雰囲気圧力が剥離動作時の雰囲気圧力よりも高く設定されていることが望ましい。
この構成によれば、上述したようなスクリーンメッシュ剥離時に発生した小さな気泡を再度消滅させることができ、欠陥の発生がより防止されるとともに平坦性をより向上させることができる。
【0011】
また、内部の圧力が調整可能とされた印刷室と、ゲートバルブを介して前記印刷室に接続されるとともに内部の圧力が前記印刷室とは独立して調整可能とされた圧力置換室とを具備する構成とすることが望ましい。
この構成によれば、印刷室とは独立して内部圧力が調整可能とされた圧力置換室を具備しているので、印刷室内において減圧雰囲気でスクリーン印刷を行う際に室内の減圧状態を維持したまま複数枚の被印刷基板を搬入、搬出することができ、生産性に優れた装置を実現することができる。
【0012】
本発明の発光装置の製造方法は、上記本発明のスクリーン印刷装置を用いて有機樹脂膜を形成する工程を具備したことを特徴とする。
この構成によれば、平坦性が高く、欠陥のない薄膜の有機樹脂膜を形成することができるので、品質に優れた発光装置を製造することができる。
【0013】
より具体的には、前記有機樹脂膜によって電極とガスバリア層との間に介在する緩衝層を形成することができる。
この構成によれば、有機樹脂膜によってガスバリア層との密着性が向上するとともに、下地の平坦化が図れ、信頼性の高いガスバリア層を備えた発光装置を製造することができる。
【0014】
また、有機樹脂膜の材料がエポキシ化合物を主成分とし、室温における粘度が1000〜10000mPa・sの範囲であり、硬化後の有機樹脂膜からなる緩衝層の層厚が3〜10μmの範囲であることが望ましい。
【0015】
ここで、スクリーン印刷法においては、あまりにも低粘度化された材料や溶媒によって希釈した材料を塗布すると、マスクと基板間のにじみや浸透等が起こり、形状の保持が難しい。また、あまりにも高粘度化された材料は、表面にマスクの凹凸形状や気泡が残留して平坦化が難しいという問題がある。したがって、スクリーン印刷を行う場合には、好適な形状保持と表面の平坦化を実現するために、塗布材料がある範囲の粘度を有することが好ましい。
【0016】
そこで、本発明者は、粘度が1000mPa・s以下であると、緩衝層の形状保持が困難で十分な膜厚が得られないことを確認した。また、印刷時に気泡が弾けてクレータが生じ易くなり、均一な膜が得られないという問題が見出された。また、ダークスポットが顕著に生じてしまうことが確認された。また、10000mPa・s以上となると、緩衝層中に残留している大きな気泡が消え難くなり、また、膜厚が必要以上に厚くなるとともに、側面端部の低角度状態を確保することができないことを確認した。例えば、真空中で塗布形成した後に圧力を上昇させると、塗布材料が低粘度の場合には気泡が極微小になるものの、塗布材料が高粘度の場合には大きな気泡が残留しやすいため、気泡が小さくなりきらずにその形状が保持されてしまい、膜中の気泡が消えずに残留痕が生じてしまう。また、粘度が高くなると膜厚も必要以上に厚くなり、側面端部の角度も大きく急峻になってしまう。
【0017】
そこで、塗布材料の室温粘度を1000〜10000mPa・sの範囲に設定することで、上記の問題を解決し、緩衝層の形状保持、表面の平坦化、気泡の極微小化、側面端部の低角度化を実現でき、ダークスポットの発生も抑制できる。
また、緩衝層の膜厚を3〜10μmの範囲にすることで、緩衝層の形状保持、表面の平坦化、気泡の極微小化、側面端部の低角度化を確実に実現することができ、ダークスポットの発生を抑制できる。
【0018】
本発明の発光装置の製造装置は、電極とガスバリア層との間に介在する緩衝層を備えた発光装置の製造工程に用い、減圧雰囲気でスクリーン印刷を行うことにより前記緩衝層を形成する発光装置の製造装置であって、基台上に配置した被印刷基板の上方にスクリーンメッシュを配置してスキージにより前記緩衝層の構成材料をパターン印刷する印刷動作と、前記印刷動作の後に前記基板から前記スクリーンメッシュを剥離する剥離動作とを行うものであり、前記剥離動作時の雰囲気圧力が前記印刷動作時の雰囲気圧力よりも高く設定されていることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、剥離動作時の雰囲気圧力が印刷動作時の雰囲気圧力よりも高く設定されているため、印刷工程と剥離工程との間に圧力差が生じ、この圧力差により材料が加圧され、印刷時に材料が巻き込んだ気泡を消滅させることができる。その結果、スクリーンメッシュ剥離時に気泡が再度発生したとしてもその気泡をより小さく制御することで気泡が弾け難くなり、クレーター状の欠陥の発生を抑えることができ、膜の平坦性を向上させることができる。その結果、信頼性の高い緩衝層およびガスバリア層を備えた発光装置を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
[第1の実施の形態]
以下、本発明のスクリーン印刷装置、有機EL装置の製造方法、および有機EL装置の第1の実施の形態について図面を参照して説明する。
なお、以下の説明では、有機EL装置の構成要素を認識しやすくするため、各々の縮尺を異ならせている。
【0021】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る有機EL装置の配線構造を示す図である。
この有機EL装置は、スイッチング素子として薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor、以下、TFTと略記する)を用いたアクティブマトリクス型の有機EL装置である。
図1に示すように、有機EL装置1は、複数の走査線101と、各走査線101に対して直角に交差する方向に延びる複数の信号線102と、各信号線102に並列に延びる複数の電源線103とがそれぞれ配線された構成を有するとともに、これら走査線101と信号線102とに囲まれた領域が画素領域Xとなる。
信号線102には、シフトレジスタ、レベルシフタ、ビデオライン及びアナログスイッチを備えるデータ線駆動回路100が接続されている。また、走査線101には、シフトレジスタ及びレベルシフタを備える走査線駆動回路80が接続されている。
【0022】
さらに、画素領域Xの各々には、走査線101を介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング用TFT112と、このスイッチング用TFT112を介して信号線102から供給される画素信号を保持する保持容量113と、保持容量113によって保持された画素信号がゲート電極に供給される駆動用TFT123と、この駆動用TFT123を介して電源線103に電気的に接続したときに電源線103から駆動電流が流れ込む画素電極23と、この画素電極23と陰極50との間に挟み込まれた発光機能層110とが設けられている。画素電極23と陰極50と発光機能層110により、発光素子が構成される。
【0023】
この有機EL装置1によれば、走査線101が駆動されてスイッチング用TFT112がオン状態になると、そのときの信号線102の電位が保持容量113に保持され、保持容量113の状態に応じて駆動用TFT123のオン・オフ状態が決まる。そして、駆動用TFT123のチャネルを介して電源線103から画素電極23に電流が流れ、さらに発光機能層110(または有機発光層60)を介して陰極50に電流が流れる。発光機能層110は、これを流れる電流量に応じて発光する。
【0024】
次に、有機EL装置1の具体的な構成について図2〜図6を参照して説明する。
ここで、図2は、有機EL装置1の構成を示す模式図である。また、図3は図2のA−B方向の構成を示す有機EL装置1の断面図であり、図4は図2のC−D方向の構成を示す有機EL装置1の断面図である。また、図5は、図3の要部を示す断面拡大図である。図6は、図2の要部を示す平面拡大図である。
【0025】
有機EL装置1は、図2に示すように、電気絶縁性を備えた基板20と、スイッチング用TFT(図示せず)に接続された画素電極が基板20上にマトリックス状に配置されてなる画素電極域(図示せず)と、画素電極域の周囲に配置されるとともに各画素電極に接続される電源線(図示せず)と、少なくとも画素電極域上に位置する平面視ほぼ矩形の画素部3(図2中一点鎖線枠内)とを具備して構成されたアクティブマトリクス型のものである。なお、本発明においては、基板20とこれの上に形成されるスイッチング用TFTや各種回路、及び層間絶縁膜などを含めて、基体と称している。(図3、4中では符号200で示している。)
【0026】
画素部3は、中央部分の実発光領域4(図2中二点鎖線枠内)と、実発光領域4の周囲に配置されたダミー領域5(一点鎖線および二点鎖線の間の領域)とに区画される。実発光領域4には、それぞれ画素電極を有する発光領域R、G、BがA−B方向およびC−D方向にそれぞれ離間してマトリックス状に配置されている。また、実発光領域4の図2中両側には、走査線駆動回路80、80が配置されている。
【0027】
走査線駆動回路80および検査回路90は、その駆動電圧が、所定の電源部から駆動電圧導通部310(図3参照)および駆動電圧導通部340(図4参照)を介して印加されるように構成されている。また、これら走査線駆動回路80および検査回路90への駆動制御信号および駆動電圧は、この有機EL装置1の作動制御を行う所定のメインドライバなどから駆動制御信号導通部320(図3参照)および駆動電圧導通部350(図4参照)を介して送信および印加される。
【0028】
本実施形態の有機EL装置1は、カラー表示を行うべく、各有機発光層が、その発光波長帯域が光の三原色にそれぞれ対応して形成されている。有機発光層として、発光波長帯域が赤色に対応した赤色有機発光層、緑色に対応した緑色有機発光層、青色に対応した青色有機EL層をそれぞれに対応する発光領域R、G、Bに設け、これら3つの発光領域R、G、Bをもってカラー表示を行う1画素が構成される。
【0029】
また、有機EL装置1は、図3、図4に示すように、基体200上に画素電極23と発光機能層110と陰極50とを備えた発光素子を多数形成し、さらにこれらを覆って緩衝層210、有機密着層220、ガスバリア層30等が形成されたものである。画素電極23は発光素子毎に設けられ、陰極50は複数の発光素子に共通に設けられており、画素電極23を個々駆動することにより発光素子がそれぞれ発光する。なお、発光機能層110は、主に有機発光層(有機エレクトロルミネッセンス層)60であり、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層などのキャリア注入層またはキャリア輸送層を備えるもの、更には、正孔阻止層(ホールブロッキング層)、電子阻止層(エレクトロン阻止層)を備えるものであってもよい。
【0030】
基体200を構成する基板20としては、トップエミッション型の有機EL装置の場合、この基板20の対向側であるガスバリア層30側から発光光を取り出す構成であるので、透明基板及び不透明基板のいずれも用いることができる。不透明基板としては、例えばアルミナ等のセラミックス、ステンレススチール等の金属シートに表面酸化などの絶縁処理を施したもの、また熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂、さらにはそのフィルム(プラスチックフィルム)などが挙げられる。また、ボトムエミッション型の有機EL装置の場合には、基板20側から発光光を取り出す構成であるので、基板20としては、透明あるいは半透明のものが採用される。例えば、ガラス、石英、樹脂(プラスチック、プラスチックフィルム)等が挙げられ、特にガラス基板が好適に用いられる。なお、本実施形態では、ガスバリア層30側から発光光を取り出すトップエミッション型とし、よって基板20としては上述した不透明基板、例えば不透明のプラスチックフィルムなどが用いられる。
【0031】
また、基板20上には、画素電極23を駆動するための駆動用TFT123などを含む回路部11が形成されており、その上に発光素子が多数設けられている。発光素子は、陽極として機能する画素電極23と、この画素電極23からの正孔を注入/輸送する正孔輸送層70と、電気光学物質の一つである有機EL物質を備える有機発光層60と、陰極50とが順に形成されたことによって構成されたものである。このような構成のもとに、発光素子はその有機発光層60において、正孔輸送層70から注入された正孔と陰極50からの電子とが結合することにより発光する。なお、本実施形態においては、正孔輸送層70は有機発光層60の発光機能を誘引させる機能を有するものであることから、発光機能層110の一部として機能する。
【0032】
画素電極23は、本実施形態ではトップエミッション型であることから透明である必要がないため、導電材料を適宜用いることができる。
正孔輸送層70の形成材料としては、例えばポリチオフェン誘導体、ポリピロール誘導体など、またはそれらのドーピング体などが用いられる。具体的には、3,4−ポリエチレンジオシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT/PSS)の分散液、すなわち、分散媒としてのポリスチレンスルフォン酸に3,4−ポリエチレンジオシチオフェンを分散させ、さらにこれを水に分散させた分散液などを用いて正孔輸送層70を形成することができる。
【0033】
有機発光層60を形成するための材料としては、蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の発光材料を用いることができる。具体的には、(ポリ)フルオレン誘導体(PF)、(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリチオフェン誘導体、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)などのポリシラン系などが好適に用いられる。また、これらの高分子材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素などの高分子系材料や、ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドン等の低分子材料をドープして用いることもできる。
なお、上述した高分子材料に代えて、従来公知の低分子材料を用いることもできる。また、必要に応じて、このような有機発光層60の上に電子注入層を形成してもよい。ここで、電子注入層は有機発光層60の発光機能を誘引させる機能を有するものであることから、発光機能層110の一部として機能する。
【0034】
陰極50は、図3〜図6に示すように、実発光領域4およびダミー領域5の総面積より広い面積を備え、それぞれを覆うように形成されたもので、有機発光層60と有機隔壁層221の上面、さらには有機隔壁層221の外側部を形成する壁面を覆った状態で基体200上に形成されたものである。なお、この陰極50は、図4に示すように、有機隔壁層221の外側で基体200の外周部に形成された陰極用配線に接続されている。この陰極用配線にはフレキシブル基板が接続されており、これによって、陰極50は、陰極用配線を介してフレキシブル基板上の図示しない駆動IC(駆動回路)に接続されている。
【0035】
陰極50を形成するための材料としては、本実施形態はトップエミッション型であることから光透過性である必要があり、透明導電材料が用いられる。透明導電材料としてはITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)が好適とされるが、これ以外にも、例えば酸化インジウム・酸化亜鉛系アモルファス透明導電膜(Indium Zinc Oxide:IZO/アイ・ゼット・オー)(登録商標)等を用いることができる。なお、本実施形態ではITOを用いるものとする。
【0036】
また、陰極50は、電子注入効果の大きい材料が好適に用いられる。例えば、カルシウムやマグネシウム、ナトリウム、リチウム金属、又はこれらの金属化合物である。金属化合物としては、フッ化カルシウム等の金属フッ化物や酸化リチウム等の金属酸化物、アセチルアセトナトカルシウム等の有機金属錯体が該当する。また、これらの材料だけでは、電気抵抗が大きく電極として機能しないため、アルミニウムや金、銀、銅などの金属層やITO、酸化錫などの金属酸化物導電層との積層体と組み合わせて用いてもよい。なお、本実施形態では、フッ化リチウムとマグネシウム−銀合金、ITOの積層体を、透明性が得られる膜厚に調整して用いるものとする。
【0037】
陰極50の上層部には、陰極保護層55が形成されている。陰極保護層55は、緩衝層形成に用いるスクリーンメッシュが接触する際に陰極50の損傷を防ぎ、また、陰極表面を被覆して最表面の表面エネルギーを上げることで、緩衝層材料の塗布形成時の平坦性や消泡性、密着性、側面端部の低角度化を目的として設けられるものである。陰極保護層55は、透明性が高い無機酸化物を主成分とする絶縁性の高い層であり、自身が表面エネルギーの高い材料、または形成後に酸素プラズマ処理等により最表面の表面エネルギーを高めたものが好ましい。陰極保護層55の膜厚としては、有機隔壁層221による凹凸が存在する表面に形成するため、有機隔壁層221の熱伸縮によって破壊や剥離することなく、また、膜自身が持つ圧縮(引張)応力によって有機発光層60及び陰極50の剥離を促進しないように、ガスバリア層に比べて薄い10〜200nmの膜厚を有するのがよい。陰極保護層55の材料例としては、珪素酸化物や珪素酸窒化物などの珪素酸化物や、酸化チタン等の金属酸化物などの無機酸化物により形成されたものが挙げられる。なお、陰極保護層55は、基体200の外周部の絶縁層284上まで形成されている。
【0038】
陰極保護層55の上層部には、有機隔壁層221よりも広い範囲で、かつ陰極50を覆った状態で緩衝層210が設けられている。緩衝層210は、有機隔壁層221の形状の影響により、凸凹状に形成された陰極50の凸凹部分を埋めるように配置され、さらにその上面は略平坦に形成される。このような緩衝層210は、後述するように塗布(印刷)工程と熱硬化工程とによって形成される。このような緩衝層210は、基体200側から発生する反りや体積膨張により発生する応力を緩和し、熱伸縮しやすい不安定な有機隔壁層221や陰極50からの剥離を防止する機能を有する。また、緩衝層210の上面が略平坦化されるので、緩衝層210上に形成される硬い被膜からなるガスバリア層30も平坦化されるので、応力が集中する部位がなくなり、これにより、ガスバリア層30のクラックや剥離、欠損の発生を防止する。
【0039】
次に、緩衝層210の具体的な材料(塗布材料)について説明する。
硬化前の原料主成分としては、減圧真空下で印刷形成するために、流動性に優れ、かつ溶媒成分がない、全てが高分子骨格の原料となる有機化合物材料である必要があり、好ましくはエポキシ基を有する分子量3000以下のエポキシモノマー/オリゴマーが用いられる(モノマーの定義:分子量1000以下、オリゴマーの定義:分子量1000〜3000)。例えば、ビスフェノールA型エポキシオリゴマーやビスフェノールF型エポキシオリゴマー、フェノールノボラック型エポキシオリゴマー、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキセニルメチル-3',4'-エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ε-カプロラクトン変性3,4-エポキシシクロヘキシルメチル3',4'-エポキシシクロヘキサンカルボキレートなどがあり、これらが単独もしくは複数組み合わされて用いられる。
【0040】
また、エポキシモノマー/オリゴマーと反応する硬化剤としては、電気絶縁性や接着性に優れ、かつ硬度が高く強靭で耐熱性に優れる硬化被膜を形成するものが良く、透明性に優れ、かつ硬化のばらつきの少ない付加重合型がよい。例えば、3−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、メチル−3,6−エンドメチレン−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物などの酸無水物系硬化剤が好ましい。さらに、酸無水物の反応(開環)を促進する反応促進剤として1,6−ヘキサンジオールなど分子量が大きく揮発しにくいアルコール類を添加することで低温硬化しやすくなる。これらの硬化は60〜100℃の範囲の加熱で行われ、その硬化被膜はエステル結合を持つ高分子となる。
【0041】
また、ジエチレントリアミンやトリエチレンテトラアミンなどの脂肪族アミンや、ジアミノジフェニルメタンやジアミノジフェニルスルホンなどの芳香族アミン、光重合開始剤などを補助硬化剤として添加することで、より低温で硬化しやすくさせてもよい。さらに、陰極50やガスバリア層30との密着性を向上させるシランカップリング剤や、イソシアネート化合物などの捕水剤、フッ素化合物など塗布材料の表面エネルギーを低下させて濡れ性を上げる平坦化剤、硬化時の収縮を防ぐ微粒子などの添加剤が全量1%以下に微量添加されていても良い。このような緩衝層210を形成するための材料の粘性は、室温(25℃)で1000〜10000mPa・sの粘度範囲であることが好ましく、本実施形態においては、3000mPa・sの粘度に設定されている。
【0042】
ここで、図5を参照し、緩衝層210の側面端部の構造について説明する。
図5は、図3における緩衝層210の側面端部を示す拡大図である。図5に示すように、緩衝層210は、陰極保護層55上に形成されており、その側面端部においては陰極保護層55の表面と接触角αで接触している。ここで、接触角αは30°以下であり、5°〜20°程度であることがより好ましい。この接触角αは、塗布後の加熱プロセスによる軟化工程や緩衝層材料自身の粘度調整、平坦化剤等の添加、陰極保護層の表面エネルギーの増加によって達成される。このように緩衝層210が形成されることにより、緩衝層210の上層に形成される有機密着層220やガスバリア層30は緩衝層210の形状に倣って形成され、有機隔壁層221が熱伸縮によって体積変化した際にも、側面端部のガスバリア層にかかる応力を分散して破壊を防ぐことができる。また、接触角αが急峻な角度、例えば80°程度となっている場合では、その稜部に形成されたガスバリア層30の膜厚が他の部分よりも薄くなってしまうが、接触角αが5°〜20°程度であることから、緩衝層210上に均一な膜厚でガスバリア層30が形成される。
【0043】
さらに、緩衝層210の上層部には、有機密着層220が形成されている。
有機密着層220は、緩衝層210の表面に酸化処理が施されて形成された表面エネルギー(極性)の高い薄膜である。有機密着層220の組成としては、酸素原子の含有量が緩衝層210よりも多くなっている。また、有機密着層220は、薄膜であることが好ましく、膜厚は10nm以下がよい。これらは、ガスバリア層形成の直前に、減圧雰囲気下で緩衝層210の最表面を酸素プラズマ処理等によって薄膜を形成することが好ましい。このような有機密着層220の形成工程を経て、緩衝層210の表面洗浄が行われるとともに、緩衝層210とガスバリア層30の界面の密着性が向上する。
【0044】
さらに、有機密着層220の上層部には、ガスバリア層30が形成されている。
ガスバリア層30は、絶縁層284に接触し、有機密着層220上に形成されるものである。ガスバリア層30は、緩衝層210とその内側の陰極50や有機発光層60に酸素や水分が浸入するのを防止するためのもので、これにより、発光劣化等を抑えるようにしたものである。また、ガスバリア層30は、例えば耐水性、耐熱性に優れる無機化合物からなるもので、好ましくは珪素化合物、すなわち珪素窒化物や珪素酸窒化物、珪素酸化物などによって形成される。これにより、ガスバリア層30は、透明な薄膜となる。さらに、水蒸気などのガスを遮断するために緻密で欠陥の無い被膜にする必要があり、低温で緻密な膜を形成できる高密度プラズマ成膜法であるプラズマCVD法やECRプラズマスパッタ法、イオンプレーティング法を用いて形成するのが好適である。このようにガスバリア層30が珪素化合物から形成されることで、ガスバリア層30が耐水性、耐熱性に優れる欠陥のない緻密な層となり、酸素や水分に対するバリア性がより良好になる。また、ガスバリア層30は、膜密度が2.3〜3.0g/cmの膜質を有していることが好ましい。なお、ガスバリア層30としては、珪素化合物以外の材料を採用してもよく、例えばアルミナや酸化タンタル、酸化チタン、さらには他のセラミックスなどから形成してもよい。
【0045】
また、ガスバリア層30の膜厚は、300〜700nmの範囲に設定されている。本実施形態では、特に400nmとしている。ガスバリア層の膜厚が300nmよりも小さい場合では十分なガスバリア性を得ることができず、また、700nmよりも大きい場合ではガスバリア層30に内部応力が蓄積してクラックの発生原因となる。また、経済効率を考えると800nm以下がよい。したがって、上記の範囲で膜厚を規定することにより、ガスバリア性と耐クラック性とを共に実現したガスバリア層となる。また、特に400〜600nmの膜厚にすることで、ガスバリア性と耐クラック性とを向上させることができる。
【0046】
さらに、ガスバリア層30の上層部には、ガスバリア層30を覆う保護層204が設けられている。この保護層204は、緩衝層210やガスバリア層30の保護をするためのもので、ガスバリア層30側に設けられた接着層205と表面保護基板206とから構成されている。接着層205は、表面保護基板206より柔軟でガラス転移点の低い材料からなる接着剤によって形成され、ガスバリア層30上に表面保護基板206を固定するものである。その材料としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、ポリオレフィン樹脂等の透明樹脂材料が好ましく、透明で安価なアクリル樹脂が好適に用いられる。また、接着層205は、表面保護基板206に予め形成されたものであってもよく、ガスバリア層30上に圧着して接着してもよい。また、接着層205は、透明樹脂材料が好ましい。また、低温で硬化させるため硬化剤を添加する2液混合型の材料によって形成されたものでもよい。
【0047】
なお、このような接着層205には、シランカップリング剤またはアルコキシシランを添加しておくのが好ましく、このようにすれば、形成される接着層205とガスバリア層30との密着性がより良好になり、機械的衝撃に対する緩衝機能が高くなる。また、特にガスバリア層30が珪素化合物で形成されている場合などでは、シランカップリング剤やアルコキシシランによってこのガスバリア層30との密着性を向上させることができ、ガスバリア性を高めることができる。
【0048】
表面保護基板206は、接着層205上に設けられ、保護層204の表面側を構成するものであり、外傷防止、耐圧性や耐摩耗性、外部光反射防止性、ガスバリア性、紫外線遮断性などの機能の少なくとも一つを有する部材である。表面保護基板206の材質は、ガラスまたは透明プラスチック(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリイミドなど)が採用される。また、表面保護基板206には、紫外線遮断/吸収層や光反射防止層、放熱層、レンズやミラーなどの光学構造が設けられていてもよい。また、これ以外の材料として、DLC(ダイアモンドライクカーボン)材を採用してもよい。なお、この例の有機EL装置においては、トップエミッション型にする場合に表面保護基板206、接着層205をともに透光性のものにする必要があるが、ボトムエミッション型とする場合にはその必要はない。
【0049】
このように構成された有機EL装置1においては、ガスバリア層30と緩衝層210との総厚が従来よりも薄くなっている。具体的には、図5に示すように、絶縁層284の表面から表面保護基板206までの間隔Tを15μm程度にすることができる。したがって、本実施形態の有機EL装置1においては、厚膜化を行わずに、薄膜の封止構造を実現できる。
【0050】
次に、図6を参照し、有機EL装置1の平面構造について説明する。
図6は、図2の基板端部の拡大平面図であるが、陰極50,緩衝層210,およびガスバリア層30のみを示している。なお、有機EL装置1の他の構成は、図1〜図5に示すように形成されているものとする。
【0051】
図6に示すように、有機EL装置1は、基板20上において、陰極50からなる陰極形成領域50ARと、緩衝層210からなる緩衝層形成領域(緩衝層の平面パターン)210ARと、ガスバリア層30からなるガスバリア層形成領域30ARと、順に重なり合って構成されている。さらに、陰極形成領域50ARの面積よりも、緩衝層形成領域210ARの面積が大きく、緩衝層形成領域210ARの面積よりも、ガスバリア層形成領域30ARの面積が大きくなっている(50AR<210AR<30AR)。これによって、陰極周縁部50Eは緩衝層210によって被覆され、緩衝層周縁部(周縁部)210Eはガスバリア層30によって被覆されている。従って、ガスバリア層周縁部30Eは、周縁部50E,210E,30Eの中でも最も最外周に位置している。
【0052】
ここで、図6の紙面縦方向(以下、Y方向と称する)及び紙面左右方向(以下、X方向と称する)においては、各方向に向けて緩衝層周縁部210Eは波形状に形成されている。また、陰極周縁部50E及びガスバリア層周縁部30Eは、直線状に形成されている。周縁部50E,30Eの間において、緩衝層周縁部210Eは、波形ピッチpは約0.01〜0.2mm程度、振れ幅t1は約0.01〜0.1mm程度に形成されている。なお、振れ幅t1は、必ずしも均一である必要はなく、この範囲内であればよい。
【0053】
また、緩衝層周縁部210Eが最もガスバリア層周縁部30Eの側に近づく位置をW2とする場合、当該位置W2とガスバリア層周縁部30Eとの幅t2は、約0.2〜2mm程度で形成されている。また、緩衝層周縁部210Eが最も陰極周縁部50Eの側に近づく位置をW3とする場合、当該位置W3と陰極周縁部50Eとの幅t3は、約0.1〜1mm程度で形成されている。よって、振れ幅t1、及び幅t2,t3の最小値の和は、0.4mmよりも少ない値となる。したがって、緩衝層210及びガスバリア層30による陰極50に対する封止構造は、0.4mm以下の封止幅で形成することが可能となる。
【0054】
(有機EL装置の製造方法)
次に、本実施形態に係る有機EL装置1の製造方法の一例を、図7〜図10を参照して説明する。図7、図8に示す各断面図は、図2中のA−B線の断面図に対応した図である。図9は緩衝層を形成するための真空スクリーン印刷装置の概略構成図、図10は真空スクリーン印刷工程の工程断面図である。
なお、基板20の表面に回路部11を形成する工程については、従来技術と変わらないので説明を省略する。
【0055】
まず、図7Aに示すように、表面に回路部11が形成された基板20の全面を覆うように画素電極23となる透明導電膜を形成した後、この透明導電膜をパターニングする。これによって、第2層間絶縁層284のコンタクトホール23aを介してドレイン電極244と導通する画素電極23が形成される。また、これと同時に、ダミー領域において、画素電極23と同一材料からなるダミーパターン26も形成する。なお、図3および図4では、これら画素電極23、ダミーパターン26を総称して画素電極23としている。ダミーパターン26は、第2層間絶縁層284を介して下層のメタル配線へ接続しない構成とされる。
【0056】
次いで、図7Bに示すように、画素電極23、ダミーパターン26上、および第2層間絶縁膜284上に絶縁層である親液性制御層25を形成する。なお、画素電極23上においては一部が開口するように親液性制御層25を形成し、開口部25a(図3も参照)において画素電極23からの正孔移動が可能とされている。逆に、開口部25aを設けないダミーパターン26においては、絶縁層(親液性制御層)25が正孔移動遮蔽層となって正孔移動が生じないものとされている。続いて、親液性制御層25において、異なる2つの画素電極23の間に位置して形成された凹状部に不図示の遮光膜(ブラックマトリックス)を形成する。具体的には、親液性制御層25の凹状部に対してスパッタリング法でクロムを成膜する。
【0057】
そして、図7Cに示すように、親液性制御層25の所定位置、詳しくは上述した遮光膜を覆うように有機隔壁層221を形成する。具体的な有機隔壁層の形成方法としては、例えばアクリル樹脂、ポリイミド樹脂などのレジストを溶媒に溶解したものをスピンコート法、ディップコート法などの各種塗布法により塗布して有機質層を形成する。なお、有機質層の構成材料は、後述するインクの溶媒に溶解せず、しかもエッチングなどによってパターニングし易いものであればどのようなものでもよい。さらに、有機質層をフォトリソグラフィ技術、エッチング技術を用いてパターニングし、開口部221aを有する有機隔壁層221を形成する。
【0058】
次いで、有機隔壁層221の表面に、親液性を示す領域と撥液性を示す領域とを形成する。本実施形態においてはプラズマ処理によって各領域を形成する。具体的には、プラズマ処理を、予備加熱工程と、有機隔壁層221の上面および開口部221aの壁面ならびに画素電極23の電極面23c、親液性制御層25の上面をそれぞれ親液性にする親インク化工程と、有機隔壁層211の上面および開口部221aの壁面を撥液性にする撥インク化工程と、冷却工程とで構成する。
【0059】
すなわち、基体200を所定温度、例えば70〜80℃程度に加熱し、次いで親インク化工程として大気雰囲気中で酸素を反応ガスとするプラズマ処理(Oプラズマ処理)を行う。次いで、撥インク化工程として大気雰囲気中で4フッ化メタンを反応ガスとするプラズマ処理(CFプラズマ処理)を行い、その後、プラズマ処理時に加熱された基材を室温まで冷却することで、親液性および撥液性が所定の箇所に付与されることとなる。
なお、このCFプラズマ処理においては、画素電極23の電極面23cおよび親液性制御層25についても多少の影響を受けるが、画素電極23の材料であるITOおよび親液性制御層25の構成材料であるSiO、TiOなどはフッ素に対する親和性に乏しいため、親インク化工程で付与された水酸基がフッ素基で置換されることがなく、親液性が保たれる。
【0060】
次いで、画素電極23上に正孔輸送層70を形成する。この正孔輸送層形成工程では、例えばインクジェット法等の液滴吐出法やスピンコート法などにより、正孔輸送層材料を電極面23c上に塗布し、その後、乾燥処理および熱処理を行う。正孔輸送層材料を例えばインクジェット法で選択的に塗布する場合には、インクジェットヘッド(図示略)に正孔輸送層材料を充填し、インクジェットヘッドの吐出ノズルを親液性制御層25に形成された開口部25a内に位置する電極面23cに対向させ、インクジェットヘッドと基板200とを相対移動させながら、吐出ノズルから1滴当たりの液量が制御された液滴を電極面23cに吐出する。次に、吐出後の液滴を乾燥処理し、正孔輸送層材料に含まれる分散媒や溶媒を蒸発させることにより、正孔輸送層70を形成する。
【0061】
ここで、吐出ノズルから吐出された液滴は、親液性処理がなされた電極面23c上で広がり、親液性制御層25の開口部25a内に満たされる。その一方で、撥インク処理された有機隔壁層221の上面では、液滴がはじかれて付着しない。したがって、液滴が所定の吐出位置から外れて有機隔壁層221の上面に吐出されたとしても、上面が液滴で濡れることがなく、弾かれた液滴が親液性制御層25の開口部25a内に転がり込む。なお、この正孔輸送層形成工程以降は、正孔輸送層70および有機発光層60の酸化を防止すべく、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気などの不活性ガス雰囲気で行うのが好ましい。
【0062】
次いで、正孔輸送層70上に有機発光層60を形成する。この発光層形成工程では、例えばインクジェット法により発光層形成材料を正孔輸送層70上に吐出し、その後、乾燥処理および熱処理を行う。この発光層形成工程では、正孔輸送層70の再溶解を防止するため、発光層形成材料に用いる溶媒として、正孔輸送層70に対して不溶な無極性溶媒を用いる。なお、この発光層形成工程では、インクジェット法によって例えば青色(B)の発光層形成材料を青色の発光領域に選択的に塗布し、乾燥処理した後、同様にして緑色(G)、赤色(R)についてそれぞれその発光領域に選択的に塗布し、乾燥処理する。また必要に応じて、このような有機発光層60の上に電子注入層を形成してもよい。
【0063】
次いで、図8Aに示すように、有機発光層60上に陰極50を形成する。この陰極形成工程では、例えば真空蒸着法やイオンプレーティング法等の物理成膜法により金属や導電性酸化物を成膜して陰極50とする。次に、陰極50上に陰極保護層55を形成する。陰極保護層55を形成する方法としては、例えばプラズマCVD法、ECRスパッタ法、イオンプレーティング法等の高密度プラズマ成膜法が採用される。また、陰極保護層55は、有機隔壁層221及び陰極50を完全に被覆するため、基体200の外周部の絶縁層284上まで形成する。陰極保護層55は、真空雰囲気下において形成され、その圧力は0.1〜10Pa程度に設定される。また、陰極保護層55の最表面は酸素プラズマ処理等により表面エネルギーを高めておくことで、その後の緩衝層の平坦性と側面端部の低角度化がしやすくなる。
【0064】
次に、図8Bに示すように、陰極保護層55上に緩衝層210、有機密着層220を順次形成する。
ここで、図9〜図10を参照し、緩衝層210の形成方法について詳述する。
図9は、緩衝層210の形成に用いる真空スクリーン印刷装置の概略構成図である。
本実施形態の真空スクリーン印刷装置41は、この図に示すように、印刷室42と加熱室43とを備えており、印刷室42の前段、印刷室42と加熱室43との間、および加熱室43の後段には第1,第2,第3基板搬送室44,45,46が備えられている。なお、図示はしていないが、隣接する各室の間にはゲートバルブが装入されている。印刷室42にはポンプ47および窒素ガス等のパージ用配管48が接続されており、各室が独立して内部圧力を制御でき、所望の圧力でスクリーン印刷が行える構成となっている。一方、加熱室43内には、大気圧雰囲気での加熱処理を行う多段式のオーブン54が設置されており、ポンプやパージ用配管は接続されていない。
【0065】
また、3つの基板搬送室44,45,46のうち、印刷室42の前段および後段にあたる第1,第2基板搬送室44,45にも、ポンプ47およびパージ用配管48が接続されており、各室が独立して内部圧力を制御できる構成となっている。すなわち、第1,第2基板搬送室44,45はロードロック室(圧力置換室)として機能するものである。この構成のため、印刷室42内において減圧雰囲気でスクリーン印刷を行う際に室内の減圧状態を維持したまま複数枚の基板を搬入、搬出することができ、量産性に優れた真空スクリーン印刷装置を実現することができる。
【0066】
印刷室42の内部には、基板200(被印刷基板)を保持して昇降可能なステージ49(基台)と、所定のパターンを印刷するためのスクリーンメッシュ51と、スクリーンメッシュ51上に印刷材料を均し広げるためのスクレッパ52と、スクリーンメッシュ51上の印刷材料を基板200に転写するためのスキージ53とが設置されている。基板200は、第1基板搬送室44、印刷室42、第2基板搬送室45、加熱室43、第3基板搬送室46の順に搬送され、処理が行われるため、図9において基板200の搬送方向は紙面の左右方向である。各室内および各室間での基板200の搬送機構としては、例えばころ搬送、ベルト搬送、ロボットアーム等の周知の手段を用いることができる。これに対して、スクレッパ52とスキージ53は、基板搬送方向とは直交する方向、すなわちスクリーンメッシュ51上を紙面を貫通する方向に移動する構成になっている。ただし、図9においては、図示の都合上、スクレッパ52とスキージ53を紙面の左右方向に並べて描いている。
【0067】
次に、上記構成の真空スクリーン印刷装置41を用いて、減圧雰囲気下でスクリーン印刷を行う手順を詳細に説明する。スクリーン印刷法は、減圧雰囲気下で塗布が可能な方法であるため、比較的中〜高粘度の塗布液の使用を得意とする方式である。特に、スクリーン印刷法は、スキージの加圧移動により塗出制御が簡便で、スクリーンメッシュの使用により膜厚均一性およびパターニング性に優れる、という利点を有している。
まず最初に、図10Aに示すように、陰極保護層55まで形成した基板200を第1基板搬送室44に搬入し、第1基板搬送室44内および印刷室42内を所定の圧力に減圧した後、基板200を印刷室42内に搬入し、図10Bに示すように、スクリーンメッシュ51に対して位置合わせする。ここで、スクリーンメッシュ51の非塗布部には、材料を塗布しない部分を被覆する撥液性の乳剤層51nが形成されている。また、スクリーンメッシュ51のパターン形状は、図6の緩衝層周縁部210Eを波形状に形成するための型が形成されたものとなっている。
【0068】
次に、基板200を位置合わせした後、ステージ49上に保持する。基板200をステージ49に保持する方法としては、例えば真空吸着を用いることができる。そして、図10Cに示すように、第1回目の圧力調整工程として、スクリーンメッシュ51上に緩衝層材料を滴下する前に、印刷室42内を10〜1000Paの圧力に調整する。
次に、図10Dに示すように、スクリーンメッシュ51の一端(乳剤層51n上)に硬化前の緩衝層材料Kをディスペンサノズル等によって所定量滴下する。
緩衝層材料Kには、上述したようにエポキシモノマー/オリゴマー材料に硬化剤、反応促進剤を混合した材料を使用する。これらの材料は塗布前に混合されてから用いられるが、混合後の粘度としては、室温(25℃)で500〜20000mPa・sの粘度範囲であることがよい。これよりも粘度が低い場合では、スクリーンメッシュ51からの液だれや乳剤層51n上へのはみ出しが起こり、膜厚安定性やパターニング性が悪くなる。また、これよりも粘度が高い場合では、平坦性が悪くなるためにメッシュ痕が残留し、またメッシュ離脱時に巻き込む気泡が大きく成長するため、クレーター状の塗布抜けが発生しやすく、消泡工程後でも気泡が残留しやすくなる。
【0069】
更に、緩衝層材料Kの粘度としては、上記500〜20000mPa・sの範囲の中でも特に1000〜10000mPa・sの範囲であることが好ましい。粘度を10000mPa・sよりも低くすることで、気泡の残留をさらに抑制することができる。また、1000mPa・sよりも高くすることで、スクリーン印刷工程において気泡が弾け難く、そして、クレーター状の欠陥が生じ難くなる。これによって、均一な膜を得ることが可能となる。また、後述するように、ダークスポットの発生を確実に抑制できる。したがって、材料の室温粘度を上記のように設定することで、緩衝層の形状保持、表面の平坦化、気泡の極微小化、側面端部の低角度化を確実に実現することができ、ダークスポットの発生を抑制することができる。
【0070】
また、緩衝層210の膜厚は、平坦化と、凹凸によって生じる応力の緩和を実現できるように有機隔壁層211の高さよりも厚くする必要があり、例えば3〜10μm程度が好ましい。これらの粘度と膜厚制御は、接触角の形成にも影響し、30°以下を達成するためにも重要である。応力はないことが好ましいが、わずかに引張応力が生じてもよい。膜密度は、極力応力を少なくするため比較的密度の低い多孔質な膜であることが好ましく、0.8〜1.8g/cmが好適である。
【0071】
次に、図10Eに示すように、スキージ53をスクリーンメッシュ51上で一辺側から他辺側に移動させ、緩衝層材料Kをスクリーンメッシュ51上に広げつつ、基板200上に押し込み、パターンを転写する。なお、スクリーンメッシュ51を基板200上に配置した際、スクリーンメッシュ51が基板200に完全に接触していてもよいし、間隔が1mm程度空いていてもよい。間隔が空いている場合でもスキージ53で材料を押し込んだ後は材料を介してスクリーンメッシュ51と基板200とは実質的に接触することになり、コンタクト方式のスクリーン印刷となる。したがって、後述するスクリーンメッシュの剥離工程が必要となる。
【0072】
またこの際、緩衝層材料Kがローリングしながら塗布されるため、材料中に気泡が混入する。そのため、図10Fに示すように、第2回目の圧力調整工程として印刷室42内を2000〜5000Paの圧力に調整した上で所定時間保持し、気泡を除去する。すなわち、印刷室42内への窒素ガスのパージにより第1回目の調整圧力である10〜1000Paから2000〜5000Paに圧力を上げる。この気泡は真空気泡であるから、圧力を上げることによって気泡をつぶし、消滅させることができる。
【0073】
次に、図10Gに示すように、基板200からスクリーンメッシュ51を剥離する。この際、図示していないが、例えば基板200の一辺側でスキージ53をステージ49に押し当てた状態でステージ49を下降させ、スクリーンメッシュ51からステージ49を離間させると、スキージ53を押し当てた箇所が支点となって反対側の辺からスクリーンメッシュ51の剥離が始まる。実際にスクリーンメッシュ51の剥離動作を行う際には、特に印刷室42内の圧力を3000〜4000Paに調整することが望ましい。その理由は、剥離時には基板200がスクリーンメッシュ51に引っ張られ、ステージ53から基板200を引き剥がそうとする大きな力が加わるが、この時点で印刷室42内の圧力が3000〜4000Pa以上であれば、真空吸着によって基板200がステージ49上に確実に固定され、スクリーンメッシュ51の剥離を支障なく行うことができるからである。
【0074】
その後、図10Hに示すように、ステージ49の下降を続け、スクリーンメッシュ51が基板200から完全に離れたところで剥離が終了する。
次に、図10Iに示すように、緩衝層材料Kの印刷が終了した基板200を第2基板搬送室45に搬入した後、図10Jに示すように、基板200を第2基板搬送室45内に保持した状態で、第3回目の調整圧力として第2基板搬送室45内を大気圧とした上で所定時間保持し、気泡を除去する。すなわち、第2基板搬送室45内への窒素ガスのパージにより第2基板搬送室45内を大気圧とし、基板周囲の雰囲気を第2回目の調整圧力である2000〜5000Paから大気圧にまで上昇させる。
【0075】
次に、図10Kに示すように、基板200を第2基板搬送室45から加熱室に搬入した後、窒素ガス雰囲気下において緩衝層材料Kに60〜100℃の加熱処理を施す。これにより、緩衝層材料Kが硬化する。このような硬化工程を施すことにより、硬化前の緩衝層材料Kに含まれるエポキシモノマー/オリゴマー材料と硬化剤、反応促進剤とが反応し、エポキシモノマー/オリゴマーが三次元架橋し、ポリマーのエポキシ樹脂が形成される。また、加熱処理を施すことにより、このような硬化現象が生じるだけでなく、緩衝層材料Kの側面端部の形状がだれてエッジの角度が20°以下になり、最終的な緩衝層210の形状となる。
【0076】
次に、図8Bに示すように、緩衝層210の表面に有機密着層220を形成する。具体的には、酸素ガスとアルゴンなどの不活性ガスを混合して発生させた減圧プラズマ雰囲気に緩衝層210の表面を暴露することで、緩衝層210の表面が酸化した酸化層が形成される。具体的な成膜条件としては、高密度プラズマ発生装置を利用し、酸素ガス:アルゴンガス=1:4の比で混合し、真空度0.6Pa、暴露時間30秒間としている。このような酸化層の形成により、緩衝層210の表面の洗浄も行われる。
【0077】
次に、図8Cに示すように、有機密着層220の表面にガスバリア層30を形成する。ガスバリア層30の膜厚は、上記のように300〜700nmの範囲に設定され、本実施形態では400nmとしている。ガスバリア層30は、0.1〜10Pa雰囲気の減圧高密度プラズマ成膜法等により形成される珪素化合物であり、主に珪素酸化物または珪素酸窒化物、珪素窒化物からなる透明な薄膜が好ましい。また、小さな分子の水蒸気を完全に遮断するために緻密性を持たせており、膜密度は、2.3/cm以上であることが好ましい。
【0078】
ガスバリア層30の具体的な形成方法としては、低温で緻密な膜を形成できる高密度プラズマ成膜法であるプラズマCVD法やイオンプレーティング法、ECRプラズマスパッタ法を用いて形成するのが好適である。また、上記の高密度プラズマ成膜法による形成工程は、100nmを成膜単位とする成膜工程と冷却工程とを繰り返すことによって行う。例えば、400nmの膜厚を一括して成膜する場合では、成膜装置内に発生するプラズマの輻射熱が加わり、これが蓄積されることで発光機能層の劣化原因となる。これに対して、100nm成膜後に冷却し、さらに100nm成膜後の冷却、さらにその後に100nmを成膜という順に成膜工程と冷却工程と繰り返すことによって、熱による発光機能層の劣化を抑制しつつ、ガスバリア層30を形成することができる。このように珪素化合物からなるガスバリア層30が形成されることで、ガスバリア層30は、欠陥のない緻密な層となって酸素や水分に対するバリア性がより良好になる。また、ガスバリア層30は、膜密度2.3〜3.0g/cmの膜質を有していることが好ましい。
【0079】
次に、ガスバリア層30上に接着層205と表面保護基板206からなる保護層204を設ける。接着層205は、ディスペンサーやスリットコート法などによりガスバリア層30上に略均一に塗布され、その上に表面保護基板206が貼り合わされる。
以上の工程を経て、本実施形態の有機EL装置1が完成する。
【0080】
本実施形態によれば、スクリーンメッシュ剥離時の雰囲気圧力が2000〜5000Paであり、印刷動作時の雰囲気圧力である10〜1000Paよりも高く設定されているため、印刷工程と剥離工程との間に圧力差が生じ、この圧力差により緩衝層材料Kが加圧され、印刷時に材料が巻き込んだ気泡を消滅させることができる。その結果、スクリーンメッシュ剥離時に気泡が再度発生したとしてもその気泡をより小さく制御することで気泡が弾けなくなり、クレーター状の欠陥の発生を抑えることができ、膜の平坦性を向上させることができる。さらに、剥離動作後に雰囲気圧力を大気圧としており、剥離動作時の雰囲気圧力よりも高く設定されているため、スクリーンメッシュ剥離時に発生した小さな気泡も再度消滅させることができ、欠陥の発生がより防止され、平坦性をより向上させることができる。
【0081】
[第2の実施の形態]
以下、本発明の第2の実施の形態に係る有機EL装置について説明する。
本実施形態においては、先の第1実施形態と同一構成には同一符号を付して説明を省略する。
図11は、本実施形態の有機EL装置の断面構造を示す模式断面図である。図11においては、R、G、Bの各画素領域のみを示しているが、実際には図3や図4のように複数の画素領域が有機EL装置における実発光領域4の全面に形成されているものとする。
本実施形態は、有機発光層として白色に発光する白色有機発光層60Wを採用したこと、および、表面保護基板としてカラーフィルタ基板を採用したことが、先の第1実施形態と相違している。
【0082】
図11に示すように、本実施形態の有機EL装置1Aにおいては、白色に発光する白色有機発光層60Wを発光機能層110として備えている。また、第1実施形態のように、R、G、Bに形成し分ける必要がないので、発光機能層110が有機隔壁層221を跨ぐように各画素電極23上に形成されていてもよい。また、カラーフィルタ基板207は、基板本体207A上に赤色着色層208R、緑色着色層208G、青色着色層208B、およびブラックマトリクス209が形成されたものである。また、着色層208R、208G、208B、およびブラックマトリクス209の形成面が基板2に向けて対向配置されているため、これらは接着層205に接触して固定されている。また、基板本体207Aの材質は、第1実施形態の表面保護基板206と同様のものを採用することができる。
【0083】
また、着色層208R,208G,208Bの各々は画素電極23上の白色有機発光層60Wに対向して配置されており、白色有機発光層60Wの発光光は、着色層208R,208G,208Bの各々を透過することで、赤色光、緑色光、青色光の各色光を観察者側に出射するようになっている。したがって、本実施形態の有機EL装置1Aにおいては、白色有機発光層60Wの発光光を利用し、かつ、複数色の着色層208を有するカラーフィルタ基板207によってカラー表示を行うようになっている。
【0084】
また、着色層208R,208G,208Bと白色有機発光層60Wとの距離は、白色有機発光層60Wの発光光が対向する着色層のみに出射するように、できるだけ短い距離とすることが要求される。これは、その距離が長い場合では、白色有機発光層60Wの発光光が隣接する着色層に対して出射される可能性が高くなるためであり、これを抑制するためにその距離を短くすることが好ましい。
【0085】
そして、本実施形態では、ガスバリア層30や緩衝層210によって、薄膜の封止構造を実現している。図11においては、絶縁層284の表面からカラーフィルタ基板207までの間隔Tを15μm程度に実現している。したがって、白色有機発光層60Wと着色層208R,208G,208Bとの距離は短いものとなっている。これにより、白色有機発光層60Wの発光光は、対向する着色層のみに出射することとなり、隣接する着色層に発光光が漏れてしまうのを抑制することができる。これにより混色を抑制することができる。
【0086】
また、本実施形態では、単色の白色有機発光層60Wを利用しているので、R、G、B毎に有機発光層を形成し分ける必要がない。具体的には、低分子系の白色有機発光層を形成するマスク蒸着工程や、高分子系の白色有機発光層を形成する液滴吐出工程等において、1種類の白色有機発光層を1工程で形成するだけでよいので、R、G、B毎の有機発光層を形成し分ける場合と比較して製造工程が容易になる。
【0087】
本実施形態では、白色有機発光層60Wが着色層208R,208G,208Bの各々に発光光を照射するものとなっているが、白色有機発光層60Wに代えて、第1実施形態と同様のR、G、Bの各色有機発光層60R,60G,60Bを採用してもよい。この場合、同色の着色層と有機発光層とを対向配置させた構成となる。この構成においては、着色層208R,208G,208Bによって、各色有機発光層の発光光の色補正を行うことができる。
【0088】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば上記の実施形態では、トップエミッション型の有機EL装置を例にして説明したが、本発明はこれに限定されることなく、ボトムエミッション型にも、また、両側に発光光を出射するタイプのものにも適用可能である。また、ボトムエミッション型、あるいは両側に発光光を出射するタイプのものとした場合、基体に形成するスイッチング用TFTや駆動用TFTについては発光素子の直下ではなく、親液性制御層および有機隔壁層の直下に形成するようにし、開口率を高めるのが好ましい。本発明の有機EL装置は、大型テレビジョン、公共交通機関の広告媒体、モバイル表示体、車載用モニター、プリンターヘッド光源などの薄型軽量化が求められる用途に好適なものである。
【実施例1】
【0089】
本発明者は、上記実施形態で述べた真空スクリーン印刷装置を用いて実際に緩衝層材料の印刷を行い、気泡の発生状況を評価した。その評価結果について報告する。
製造条件は以下の通りである。サイズが200mm×230mmのガラス基板を用い、印刷領域は120mm×220mmの長方形の領域とした。塗布材料は、エポキシオリゴマーと酸無水物硬化剤との混合物(室温での粘度:5000mPa・s)を用いた。スクリーンメッシュは、枠サイズが900mm×900mm、メッシュ部がステンレス紗の♯500(mesh/inch)、線径が23μmのものを用いた。スキージは、硬度80の平型スキージを用い、スキージ押し込み量を0.38mm、スキージ移動速度を50mm/sとした。また、印刷後の硬化条件は、大気圧、窒素雰囲気下、80℃で2時間とした。
【0090】
実施例1のサンプルは、基板−スクリーンメッシュ間の距離を0mmとし、スキージ移動時の雰囲気圧力を1000Pa、スクリーンメッシュ剥離時の雰囲気圧力を3500Pa、加圧室(上記実施形態でいうところの第2基板搬送室)の圧力を大気圧、とした。実施例2のサンプルは、スキージ移動時の雰囲気圧力を100Paとした点のみが実施例1と異なり、他の条件は実施例1と同一とした。これに対して、比較例1のサンプルは、スキージ移動時の雰囲気圧力をスクリーンメッシュ剥離時と同様、3500Paとし、すなわち、スキージ移動時とスクリーンメッシュ剥離時とで圧力差がない状態とした。それ以外の条件は実施例1と同一である。比較例2のサンプルは、基板−スクリーンメッシュ間の距離を3mmとし、基板とスクリーンメッシュとを接触させない、いわゆる非コンタクト方式を採用した。スキージ移動時の雰囲気圧力は実施例1と同様、1000Paとした。比較例3のサンプルは、スキージ移動時の雰囲気圧力を1000Pa、スクリーンメッシュ剥離時の雰囲気圧力を1000Paとし、スキージ移動時とスクリーンメッシュ剥離時とで圧力差がない状態とした。
以上のサンプルについて、硬化後の材料の膜厚と塗布外観(気泡の発生状況)を評価した。評価結果を[表1]に示す。
【0091】
【表1】

【0092】
硬化後の材料の膜厚に関しては、各サンプルともに3〜5μm程度の範囲に収まり、実施例と比較例で大きな差がなく、所望の膜厚が得られることがわかった。それに対して、気泡の発生状況については実施例と比較例とで大きな差異が見られた。実施例1,2では硬化後に気泡が発見できなかったのに対し、比較例1では気泡が若干残留し、比較例2ではクレーター状の欠陥が発見された。また、比較例3では基板がスクリーンメッシュに密着してしまい、剥離ができなかった。
【0093】
この理由は、実施例1,2では、スクリーンメッシュ剥離時の雰囲気圧力をスキージ移動時の雰囲気圧力よりも高くしたことでこれらの工程間で圧力差が生じ、印刷時に発生した気泡を小さく制御でき、次工程で圧力をさらに大気圧に上げることでその小さい気泡をつぶすことができたからと考えられる。これに対して、比較例1では、スクリーンメッシュ剥離時とスキージ移動時とで圧力差がないため、印刷時に発生した気泡が大きいまま残り、次工程で圧力を大気圧に上げてもその気泡をつぶしきれなかったからと考えられる。また、比較例2は非コンタクト方式であり、この方式では印刷後の材料中に大きな気泡が巻き込まれた状態となり、その気泡が後の加圧工程で破裂し、クレーター欠陥になると考えられる。また、比較例3のように、スクリーンメッシュ剥離時の雰囲気圧力を1000Paとした場合には、基板の真空吸着が効かず、基板がステージに固定されないためにスクリーンメッシュの剥離ができなかった。このように、本発明の方法によれば、気泡を十分に低減した平坦性の高い薄膜が得られることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の第1実施形態の有機EL装置の配線構造を示す等価回路図である。
【図2】同、有機EL装置の構成を示す全体平面図である。
【図3】図2のA−B線に沿う断面図である。
【図4】図2のC−D線に沿う断面図である。
【図5】図3の要部を示す拡大断面図である。
【図6】図2の要部を示す拡大平面図である。
【図7】同、有機EL装置の製造方法を示す工程断面図である。
【図8】同、工程断面図の続きである。
【図9】同、有機EL装置の製造に用いる真空スクリーン印刷装置の概略構成図である。
【図10】同、印刷装置を用いて緩衝層を形成する工程を説明するための図である。
【図11】本発明の第2実施形態に係る有機EL装置の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0095】
1,1A…有機EL装置、20…基板、30…ガスバリア層、41…真空スクリーン印刷装置、42…印刷室、43…加熱室、49…ステージ(基台)、51…スクリーンメッシュ、53…スキージ、60…有機発光層、110…発光機能層、200…基体、210…緩衝層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧雰囲気でスクリーン印刷を行うスクリーン印刷装置であって、
基台上に配置した被印刷基板の上方にスクリーンメッシュを配置してスキージにより塗布材料をパターン印刷する印刷動作と、前記印刷動作の後に前記基板から前記スクリーンメッシュを剥離する剥離動作とを行うものであり、
前記剥離動作時の雰囲気圧力が前記印刷動作時の雰囲気圧力よりも高く設定されていることを特徴とするスクリーン印刷装置。
【請求項2】
前記剥離動作後の雰囲気圧力が前記剥離動作時の雰囲気圧力よりも高く設定されていることを特徴とする請求項1に記載のスクリーン印刷装置。
【請求項3】
内部の圧力が調整可能とされた印刷室と、ゲートバルブを介して前記印刷室に接続されるとともに内部の圧力が前記印刷室とは独立して調整可能とされた圧力置換室とを具備したことを特徴とする請求項1または2に記載のスクリーン印刷装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載のスクリーン印刷装置を用いて有機樹脂膜を形成する工程を具備したことを特徴とする発光装置の製造方法。
【請求項5】
前記有機樹脂膜によって電極とガスバリア層との間に介在する緩衝層を形成することを特徴とする請求項4に記載の発光装置の製造方法。
【請求項6】
前記有機樹脂膜の材料がエポキシ化合物を主成分とし、室温における粘度が1000〜10000mPa・sの範囲であり、硬化後の有機樹脂膜からなる前記緩衝層の層厚が3〜10μmの範囲であることを特徴とする請求項5に記載の発光装置の製造方法。
【請求項7】
電極とガスバリア層との間に介在する緩衝層を備えた発光装置の製造工程に用い、減圧雰囲気でスクリーン印刷を行うことにより前記緩衝層を形成する発光装置の製造装置であって、
基台上に配置した被印刷基板の上方にスクリーンメッシュを配置してスキージにより前記緩衝層の構成材料をパターン印刷する印刷動作と、前記印刷動作の後に前記基板から前記スクリーンメッシュを剥離する剥離動作とを行うものであり、
前記剥離動作時の雰囲気圧力が前記印刷動作時の雰囲気圧力よりも高く設定されていることを特徴とする発光装置の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−69548(P2007−69548A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−261707(P2005−261707)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】