説明

スクロール圧縮機

【課題】いかなる運転状態においてもスラスト摺動損失を最も小さくでき、かつ油溜まりの油を確実に吸い上げられる構造とし、軸受部分等の損傷を防ぐことができるスクロール圧縮機を提供する。
【解決手段】スクロール圧縮機1は、第1給油通路91と、第2給油通路92と、可変絞り機構95とを備えている。第1給油通路91は、可動スクロール26内部に形成され、クランクピン17b内部の給油孔17aから吸い上げた油の一部を可動スクロール26と固定スクロール24との接触面84に給油する。第2給油通路92は、クランク軸17内部に形成され、給油孔17aとクランク軸17周囲の軸受面との間を連通する。
可変絞り機構95は、第1給油通路91に設けられ、給油孔17の内部の圧力と第1給油通路91の出口側の接触面84付近の圧力との圧力差が所定の差圧よりも小さいときには、流路抵抗を大きくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開2004―3525号)のスクロール圧縮機は、ケーシング内部の圧力差を利用した給油、いわゆる差圧給油を行う。給油通路は、ケーシング底部の油溜まりからクランク軸内の軸方向に向けて開いているクランク軸の軸方向に延びる給油孔と、その給油孔に連通する第1給油通路および第2給油通路とを有している。
【0003】
第1給油通路は、可動スクロールの鏡板内部に形成され、高圧側の給油孔から低圧側のスラスト摺動部分へ延びる通路である。スラスト摺動部分は、可動スクロールと固定スクロールとがスラスト方向(この場合、クランク軸の軸方向)に接触した部分である。また、第2給油通路は、クランク軸上端の偏心したクランクピンから半径方向に延びる通路である。
【0004】
したがって、スラスト摺合部分への給油は、可動スクロールの鏡板内部に形成された半径方向に延びる第1給油通路により給油する。それとともに、各軸受への給油は、軸方向の給油孔から半径方向に延びる第2給油通路により給油する。
【0005】
また、運転差圧により可動スクロールを固定スクロールに押し付けつつ、高圧油をスラスト面へ導き、その高圧油により可動スクロールを固定スクロールから押し返す構造となっているため、スラスト摺動損失を低減する事ができる構成となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のようなスクロール圧縮機の構成では、軸方向に延びる給油孔を介して、それぞれ半径方向に延びる第1給油通路と第2給油通路とが連通した構成であるが、第1給油通路には、運転状態に応じて、流路抵抗を規制したり、調整する構造になっていない。また、第1給油通路と第2給油通路の流路抵抗の大きさの関係が規制されていない。
【0007】
このため、圧縮機運転中における給油孔の内部の圧力と第1給油通路の出口側の接触面付近の圧力との圧力差、すなわち運転差圧が小さい場合には、可動スクロールを押し付ける力が小さく、加えて高圧の油による押し返す力が付加されるため、可動スクロールの挙動が不安定になり、性能が低下する。
【0008】
一方、運転差圧が大きい場合には、可動スクロールを押し付ける力が過大となり、スラスト軸受の摺動損失が増え、性能が低下する。
【0009】
また、流路抵抗が軸受隙間よりも第1給油通路の方が大きいと、ケーシング内部の差圧を利用して油溜まりから油を吸い上げる前に、第2給油通路からケーシング内の高圧ガスを吸い上げ、第1給油通路へ流してしまうおそれがある。この場合、油溜まりの油が給油孔を通して第1給油通路および第2給油通路まで吸い上げることができず、各軸受への給油ができなくなり、その結果、油切れによって軸受部分等を損傷するおそれがある。
【0010】
本発明の課題は、いかなる運転状態においてもスラスト摺動損失を最も小さくでき、かつ油溜まりの油を確実に吸い上げられる構造とし、軸受部分等の損傷を防ぐことができるスクロール圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1発明のスクロール圧縮機は、可動スクロールと、固定スクロールと、クランク軸と、第1給油通路と、第2給油通路と、可変絞り機構とを備えている、可動スクロールは、平板状の鏡板の一方の面に螺旋状のラップが設けられ、他方の面に円筒状のボスが設けられている。固定スクロールは、平板状の鏡板の一方の面に可動スクロールラップと組み合わされて圧縮室を形成する螺旋状のラップが設けられている。クランク軸は、可動スクロールのボスに回転自在に連結されるクランクピンを有し、軸方向に給油孔が貫通して形成されている。第1給油通路は、可動スクロール内部に形成され、クランクピン内部の給油孔から吸い上げた油の一部を可動スクロールと固定スクロールとの接触面に給油する。第2給油通路は、クランク軸内部に形成され、給油孔とクランク軸周囲の軸受面との間を連通する。可変絞り機構は、第1給油通路に設けられ、給油孔の内部の圧力と第1給油通路の出口側の接触面付近の圧力との圧力差が所定の差圧よりも小さいときには、流路抵抗を大きくする。
【0012】
ここでは、給油孔の内部の圧力と第1給油通路の出口側の前記接触面付近の圧力との圧力差が所定の差圧よりも小さいときには、スクロールの接触面に給油する第1給油通路に設けられた可変絞り機構が流路抵抗を大きくする。これにより、運転差圧が小さいときに、高圧の油による押し返しの荷重を小さくでき、可動スクロールを固定スクロールに確実に押し付ける事ができ、性能低下を防止する事ができる。
【0013】
第2発明のスクロール圧縮機は、第1発明のスクロール圧縮機であって、可変絞り機構は、可動絞り部材と、駆動部とを有している。可動絞り部材は、第1給油通路の内部に往復移動自在に挿入され、外周面に螺旋状に延びる螺旋状流路が形成されている。駆動部は、可動絞り部材を駆動する。第1給油通路は、可動絞り部材が配置された区間と出口部分とが分岐している。可動絞り部材は、第1給油通路の出口部分と螺旋状流路の途中に長く重なる第1位置と、短く重なる第2位置との間を往復移動できる。圧力差が所定の差圧よりも小さいときには、駆動部で発生する駆動力によって、可動絞り部材は、第2位置へ移動し、流路抵抗は大きくなる。圧力差が所定の差圧以上のときには、可動絞り部材は、第1位置へ移動し、流路抵抗は小さくなる。
【0014】
ここでは、可動絞り部材は、第1給油通路の内部に往復移動自在に挿入され、外周面に螺旋状に延びる螺旋状流路が形成されており、しかも、可動絞り部材は、第1給油通路の出口部分と螺旋状流路の途中に長く重なる第1位置と短く重なる第2位置との間を往復移動できるので、圧力差が所定の差圧よりも小さいときには、流路抵抗を確実に大きくすることが可能であり、高圧の油による押し返しの荷重を確実に小さくできる。
【0015】
第3発明のスクロール圧縮機は、第2発明のスクロール圧縮機であって、駆動部は、可動絞り部材を第1位置から第2位置へ向けて移動させる向きへ弾性力を与える弾性部材を有する。
【0016】
ここでは、駆動部が可動絞り部材を第1位置から第2位置へ向けて移動させる向きへ弾性力を与える弾性部材を有するので、外部に動力源を必要とせず、構造が簡単であり、メンテナンスも容易であり、信頼性も高い。
【0017】
第4発明のスクロール圧縮機は、第2発明のスクロール圧縮機であって、駆動部は、電動モータを有する。
【0018】
ここでは、駆動部が電動モータを有するので、圧力差が所定の差圧よりも小さいときには、流路抵抗をより確実に大きくすることが可能である。
【0019】
第5発明のスクロール圧縮機は、第2発明のスクロール圧縮機であって、駆動部は、電磁石を有する。
【0020】
ここでは、駆動部が電磁石を有するので、圧力差が所定の差圧よりも小さいときには、流路抵抗をより確実に大きくすることが可能である。
【0021】
第6発明のスクロール圧縮機は、第2発明から第4発明のいずれかのスクロール圧縮機であって、第1給油通路のうち少なくとも可動絞り部材が配置されている区間は、可動スクロールの鏡板の内部において、鏡板の半径方向に沿って延びている。
【0022】
ここでは、第1給油通路のうち少なくとも可動絞り部材が配置されている区間が可動スクロールの鏡板の内部において、鏡板の半径方向に沿って延びているので、スクロール圧縮機が通常の運転回転数になったときに、可動絞り部材が遠心力を受けて絞りが小さい第1位置に確実に移動させることが可能である。
【0023】
第7発明のスクロール圧縮機は、第1発明から第6発明のスクロール圧縮機であって、可変絞り機構の水力直径が、クランク軸を支持する各軸受部分の水力直径よりも小さくなるように設定されている。すなわち、流路抵抗が軸受隙間よりも第1給油通路の方が小さい事を特徴とする。その結果、各軸受へ給油する第2給油通路からガスを吸い上げることを防ぎ、各軸受部分への給油をより安定して確保することが可能である。
【発明の効果】
【0024】
第1発明によれば、運転差圧が小さいときに、可動スクロールを確実に固定スクロールに押し付ける事ができるため、可動スクロールの挙動が不安定になることによる、性能低下の不具合を解消する事ができる。
【0025】
第2発明によれば、圧力差が所定の差圧よりも小さいときには、流路抵抗を確実に大きくすることが可能であり、高圧の油による押し返しの荷重を確実に小さくでき、可動スクロールを確実に固定スクロールに押し付ける事ができる。このため、可動スクロールの挙動が安定し、性能の低下を防止する事ができる。
【0026】
第3発明によれば、外部に動力源を必要とせず、構造が簡単であり、メンテナンスも容易であり、信頼性も高い。
【0027】
第4発明によれば、確実に可動スクロールを固定スクロールに押し付ける事ができ、性能低下を防止する事ができる。
【0028】
第5発明によれば、確実に可動スクロールを固定スクロールに押し付ける事ができ、性能低下を防止する事ができる。
【0029】
第6発明によれば、スクロール圧縮機が通常の運転回転数になったときに、可動絞り部材が遠心力を受けて絞りが小さい第1位置に確実に移動させることができる。
【0030】
第7発明によれば、各軸受けへ給油する第2給油通路からガスを吸い上げてスクロールの接触面へ給油する第1給油通路へ抜けることを防ぎ、各軸受部分への給油できなくなる不具合を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1実施形態に係わるスクロール圧縮機の縦断面図。
【図2】図1の第1給油通路および第2給油通路を示す断面図。
【図3】図1の可動絞り機構の拡大図であり、可動絞り部材が第1位置の状態の図。
【図4】図1の可動絞り機構の拡大図であり、可動絞り部材が第2位置の状態の図。
【図5】図3の可動絞り部材の正面図。
【図6】図5の可動絞り部材の螺旋状流路を示す拡大断面図。
【図7】図1のクランクピンおよびその軸受部分の拡大断面図。
【図8】本発明の第2実施形態に係わる可動絞り機構の拡大図であり、可動絞り部材が第1位置の状態の図。
【図9】本発明の第2実施形態に係わる可動絞り機構の拡大図であり、可動絞り部材が第2位置の状態の図。
【図10】本発明の第3実施形態に係わる可動絞り機構の拡大図であり、可動絞り部材が第1位置の状態の図。
【図11】本発明の第3実施形態に係わる可動絞り機構の拡大図であり、可動絞り部材が第2位置の状態の図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
つぎに本発明のスクロール圧縮機の実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0033】
〔第1の実施形態〕
図1に示されるスクロール圧縮機1は、高低圧ドーム型のスクロール圧縮機であり、蒸発器や、凝縮器、膨張機構などと共に冷媒回路を構成し、その冷媒回路中の冷媒ガスを圧縮する役割を担うものである。
【0034】
スクロール圧縮機1は、主に、縦長円筒状の密閉ドーム型の本体ケーシング10、スクロール圧縮機構15、駆動軸であるクランク軸17、可動絞り機構95、オルダムリング39、モータ16、下部主軸受60、吸入管19、吐出管20と、油戻しガイド71と、油分離板73とから構成されている。以下、このスクロール圧縮機1の構成部品についてそれぞれ詳述していく。
【0035】
〔スクロール圧縮機1の構成部品の詳細〕
(1)本体ケーシング
本体ケーシング10は、縦長の密閉容器であり、略円筒状の胴部ケーシング部11と、胴部ケーシング部11の上端部に気密状に溶接される椀状の上壁部12と、胴部ケーシング部11の下端部に気密状に溶接される椀状の底壁部13とを有する。そして、この本体ケーシング10には、主に、冷媒ガスを圧縮するスクロール圧縮機構15と、スクロール圧縮機構15の下方に配置されるモータ16とが収容されている。このスクロール圧縮機構15とモータ16とは、本体ケーシング10内を上下方向に延びるように配置されるクランク軸17によって連結されている。そして、この結果、スクロール圧縮機構15とモータ16との間には、間隙空間18が生じる。
【0036】
(2)スクロール圧縮機構
スクロール圧縮機構15は、図1に示されるように、主に、ハウジング23と、ハウジング23の上方に密着して配置される固定スクロール24と、固定スクロール24に噛合する可動スクロール26とから構成されている。
【0037】
以下、このスクロール圧縮機構15の構成部品についてそれぞれ詳述していく。
【0038】
a)固定スクロール
固定スクロール24は、図1に示されるように、主に、平板状の鏡板24aと、鏡板24aの下面に形成された渦巻き状(インボリュート状)のラップ24bとから構成されている。
【0039】
鏡板24aには、後述する圧縮室40に連通する吐出口41が鏡板24aの略中心に貫通して形成されている。吐出口41は、鏡板24aの中央部分において上下方向に延びるように形成されている。
【0040】
吐出口41は、鏡板24aの上面に形成されている。拡大凹部42は、鏡板24aの上面に凹設された水平方向に広がる凹部により構成されている。そして、固定スクロール24の上面には、この拡大凹部42を塞ぐように蓋体44がボルト44aにより締結固定されている。そして、拡大凹部42に蓋体44が覆い被せられることによりスクロール圧縮機構15の運転音を消音させる膨張室からなるマフラー空間45が形成されている。固定スクロール24と蓋体44とは、図示しないパッキンを介して密着させることによりシールされている。
【0041】
b)可動スクロール
可動スクロール26は、図1に示されるように、主に、鏡板26aと、鏡板26aの上面に形成された渦巻き状(インボリュート状)のラップ26bと、鏡板26aの下面に形成された軸受部であるボス26cと、鏡板26aの両端部に形成される溝部26dとから構成されている。
【0042】
可動スクロール26は、クランク軸17の先端のクランクピン17bの外側に回転自在に連結されるボス26cを有している。
【0043】
可動スクロール26は、溝部26dにオルダムリング39が嵌め込まれることによりハウジング23に支持される。また、ボス26cにはクランク軸17の上端のクランクピン17bが挿入されている。可動スクロール26は、このようにスクロール圧縮機構15に組み込まれることによってクランク軸17の回転により自転することなくハウジング23内を公転する。そして、可動スクロール26のラップ26bは固定スクロール24のラップ24bに噛合させられており、両ラップ24b,26bの接触部の間には圧縮室40が形成されている。そして、この圧縮室40では、可動スクロール26の公転に伴い、両ラップ24b,26b間の容積が中心に向かって収縮する。本実施形態に係るスクロール圧縮機1では、このようにして冷媒ガスを圧縮するようになっている。
【0044】
また、図1〜2に示されるように、可動スクロール26内部には、クランクピン17b内部の給油孔17aから吸い上げた油の一部を可動スクロール26と固定スクロール24との接触面84に給油する第1給油通路91が形成されている。
【0045】
第1給油通路91は、可動スクロール26の鏡板26aの内部において半径方向に沿って延び、内側端部がボス26c内部に連通している。なお、第1給油通路91の外側端部は、シール部材83によって封止されている。さらに、鏡板26aの内部には、鏡板26aの厚さ方向に延びる出口部分91bが、可動スクロール26の鏡板26aと固定スクロール24の鏡板24aの接触面84に向かって貫通して形成されている。
【0046】
したがって、油溜まりPの油は、本体ケーシング10内部における差圧(具体的には、油溜まりP部空間、ハウジング23下部の間隙空間18内部、上部のクランク室31内部のガス圧(高圧)と可動スクロール26と固定スクロール24との接触面84のガス圧(低圧)との差圧)により、クランク軸17の内部を軸方向に貫通する給油孔17aを通して上昇し、可動スクロール26のボス26c内部におけるクランク軸17上部の後述する第1空間Aに一旦溜められる。第1空間Aに溜められた油は、可動スクロール26の鏡板26aの内部に半径方向に形成された第1給油通路91に流れる。さらに、油が第1空間Aよりも低圧側である第1給油通路91の出口部分91bへ流れることにより、可動スクロール26の鏡板26aと固定スクロール24の鏡板24aの接触面84に給油することができる。
【0047】
また、可動スクロール26のボス26cの内周面には、軸受メタル87が嵌め込まれている。
【0048】
c)ハウジング
ハウジング23は、その外周面において周方向の全体に亘って胴部ケーシング部11に圧入固定されている。つまり、胴部ケーシング部11とハウジング23とは全周に亘って気密状に密着されている。このため、本体ケーシング10の内部は、ハウジング23下方の高圧空間28とハウジング23上方の低圧空間29とに区画されていることになる。また、このハウジング23には、上端面が固定スクロール24の下端面と密着するように、固定スクロール24がボルト(図示せず)により締結固定されている。また、このハウジング23には、上面中央に凹設されたクランク室31と、下面中央から下方に延設された軸受部32とが形成されている。そして、この軸受部32には、上下方向に貫通する軸受孔33が形成されており、この軸受孔33にクランク軸17が軸受メタル34を介して回転自在に嵌入されている。また、ハウジング23には、クランク室31(すなわち、後述する周方向空間B)から外周面に通じる油通路35が形成されている。油通路35を通して、クランク室31(周方向空間B)内部の油を、本体ケーシング10下部の油溜まりPへ戻すことが可能である。
【0049】
さらに、ハウジング23の上面には、シールリング89が設けられ、可動スクロール26の鏡板26aとの隙間からのガス洩れを防止し、クランク室31(周方向空間B)内部の高圧を保つことが可能である。
【0050】
d)その他
また、このスクロール圧縮機構15には、図示されていないが、固定スクロール24の吐出口41から出た冷媒ガスを、ハウジング23の外周付近に形成された上下に延びる連絡通路を通って、間隙空間18へ流出させる。間隙空間18に流出した冷媒ガスは、その一部がモータ16の固定子51の外周面に形成されたコアカット部などを通って、モータ16下部へ下降した後、他のコアカット部などを通って上昇して間隙空間18へ戻り、その後、間隙空間18を胴部ケーシング部11の内周に沿って旋回する他の冷媒ガスと合わさって、吐出管20から本体ケーシング10外に吐出される。
【0051】
(3)クランク軸
クランク軸17は、モータ16の駆動力をスクロール圧縮機構15へ伝達する駆動軸であり、クランク軸17の内部には、クランク軸17の軸方向に貫通して給油孔17aが形成されている。給油孔17aはクランク軸に対して一部分、偏芯した構成としても良い。
【0052】
クランク軸17は、ハウジング23の軸受部32および下部主軸受60によって本体ケーシング10内部に回転自在に支持されている。クランク軸17の中間部分は、モータ16の回転子52に同心状に連結されている。
【0053】
また、クランク軸17の上端には、クランク軸17の中間部分から偏心してクランクピン17bが設けられている。クランクピン17bは、可動スクロール26のボス26cに挿入されている。これにより、クランク軸17がモータ16の駆動力により回転することにより、可動スクロール26は公転運動をすることが可能である。
【0054】
また、クランク軸17のクランクピン17bの内部には、軸方向に延びる給油孔17aとクランク軸17周囲の軸受面との間を連通する第2給油通路92が形成されており、クランクピン17b外周の摺動面に給油できるようになっている。
【0055】
さらに、クランク軸17において、ハウジング23の軸受孔33にはめ込まれた軸受メタル34と対向する部分には、給油孔17aとクランク軸17周囲の軸受面との間を連通する第3給油通路93が形成されており、クランク軸17外周の摺動面に給油できるようになっている。
【0056】
同様に、クランク軸17において、下部主軸受60の軸受孔61にはめ込まれた軸受メタル62と対向する部分には、給油孔17aとクランク軸17周囲の軸受面との間を連通する第4給油通路94が形成されており、クランク軸17外周の摺動面に給油できるようになっている。
【0057】
油溜まりPの油は、上述するように、油溜まりP部空間、ハウジング23下部の間隙空間18内部、上部のクランク室31内部のガス圧(高圧)と可動スクロール26と固定スクロール24との接触面84のガス圧(低圧)との差圧により、クランク軸17の給油孔17aを通して吸い上げられる。
【0058】
また、給油孔17内部の圧力は、ハウジング23下部の間隙空間18内部のガス圧とほぼ同じである。
【0059】
図1〜2に示されるように、可動スクロール26のボス26c内部におけるクランク軸17先端のクランクピン17b上部には第1空間Aが形成され、ボス26c外部の第2空間Bがそれぞれ形成されている。
【0060】
(4)可動絞り機構
可動絞り機構95は、可動スクロール26内部の第1給油通路91の油の流量を調整する機構である。この可動絞り機構95は、給油孔17内部の圧力(すなわち、それとほぼ同程度のハウジング23下部の間隙空間18内部のガス圧)と上部の第1給油通路91の出口側の接触面84付近のガス圧との差圧が所定の差圧よりも小さいときには、流路抵抗を大きくするように調整する。
【0061】
これにより、運転差圧が小さいときに生じる不具合、具体的には、確実に可動スクロールを固定スクロールに押し付ける事ができ、性能低下を防止する事ができる。
【0062】
可変絞り機構95は、具体的には、図3〜に示されるように、可動絞り部材96と、バネ97とを有している。
【0063】
可動絞り部材96は、第1給油通路91の内径よりもわずかに小さい外径を有する円柱状の部材である。第1給油通路91の内部に往復移動自在に挿入され、その外周面に螺旋状に延びる螺旋状流路98が形成されている。
【0064】
バネ97は、可動絞り部材96を駆動する本発明の駆動部に相当し、第1給油通路91の奥端であるシール部材83に接触した状態で取り付けられている。
【0065】
バネ97は、可動絞り部材96を後述する第1位置I(図3参照)から第2位置II(
図4参照)へ向けて移動させる向きへ弾性力を与える弾性部材であり、第1給油通路91内部にコンパクトに収納可能なコイルバネが用いられている。
【0066】
バネ97の弾性力は、給油孔17内部の圧力と上部の第1給油通路91の出口側の接触面84付近のガス圧との差圧が所定の差圧以上のときに、可動絞り部材96の両端における差圧がバネ97の弾性力よりも勝り、図3のようにバネ97が縮められるように設定されている。
【0067】
第1給油通路91は、図3〜4に示されるように、可動絞り部材96が配置された半径方向区間91aと出口部分91bとが分岐している。
【0068】
可動絞り部材96は、第1給油通路91の出口部分91bと螺旋状流路98の途中に長く重なる第1位置I(図3参照)と、短く重なる第2位置II(図4参照)との間を往復
移動できる。なお、ここでいう第1位置Iにおける「長く重なる」とは、第2位置IIの場合よりも相対的に長く重なることであり、第2位置IIにおける「短く重なる」とは、第1位置Iの場合よりも相対的に短く重なることである。
【0069】
これにより、2種類の絞り通路、すなわち、可動絞り部材96の第1位置Iにおける油の流路として用いられる絞り通路I(図3参照)と、その絞り通路Iよりも短い第2位置IIにおける絞り通路II(図4参照)との間で切り替えることが可能である。
【0070】
この可動絞り機構95は、給油孔17内部の圧力と上部の第1給油通路91の出口側の接触面84付近のガス圧との差圧が所定の差圧以上であるとき、可動絞り部材96は、その可動絞り部材96の両端における差圧がバネ97の弾性力に勝るので、図3の長く重なる第I位置へ移動している。このときの第1給油通路91内部の流路抵抗は、後述する図
4の第2位置IIの場合と比較して小さくなる。差圧が比較的大きいので固定スクロール24に可動スクロール26を押し付ける力が大きくなるが、可動スクロール26に対する高圧の油による押し返し力が比較的大きくなるため、スラスト摺動損失が低減され、性能が向上する。
【0071】
一方、給油孔17内部の圧力と上部の第1給油通路91の出口側の接触面84付近のガス圧との差圧が所定の差圧よりも小さいときには、バネ97の弾性力が駆動力となって、可動絞り部材96は、図4の第2位置IIへ移動する。
【0072】
このときの第1給油通路91内部の流路抵抗は、前述する図3の第1位置Iの場合と比較して大きくなる。差圧が比較的小さいので固定スクロール24に可動スクロール26を押し付ける力が小さくなるが、可動スクロール24に対する高圧の油による押し返し力が比較的小さくなるため、可動スクロール24の挙動が安定し、性能が向上する。
【0073】
ここで、第1給油通路91のうち少なくとも可動絞り部材96が配置されている半径方向区間91aは、可動スクロール26の鏡板26aの内部において、鏡板26aの半径方向に沿って延びている。このため、スクロール圧縮機1が比較的高速側の運転状態になったときに、可動絞り部材96が遠心力を受けて油の流量の絞りが小さくなる第1位置Iに
確実に移動させることが可能である。
【0074】
<可動絞り部材の水力直径について>
また、図6〜7に示されるように、本実施形態のスクロール圧縮機1では、第1給油通路91が高圧側(間隙空間18)からそれよりも低い圧力の側(接触面84、低圧空間29)に通じており、しかも、半径方向断面における各軸受部分(すなわち、ボス26c、軸受部32、軸受メタル62)の水力直径に対して、絞り通路である可動絞り部材96の螺旋状流路98の水力直径(絞り水力直径)が一番大きくなっており、流路抵抗が小さくなっている。
【0075】
ここで、水力直径とは、流体が流れる複雑な形状の通路を等価直径に変換することにより流れやすさを比較することができる値である。
【0076】
具体的には、水力直径D=4×通路面積S/通路周長L(式1)
で表される(式1)で求められる。
【0077】
本実施形態では、高圧油がクランク軸17の軸方向に貫通している給油孔17aを確実に流れやすくするためには、螺旋状流路98の絞り水力直径を0.4 以上に設定されるのが好ましい。
【0078】
より好ましくは、絞り水力直径に対して相対的に軸受隙間部(すなわち、ボス26c、軸受部32、軸受メタル62における各軸受部分とクランク軸17との隙間の部分)へガスを流れにくくして各軸受部分への確実な給油を確保するために、各軸受部分の水力直径である軸受水力直径が0.4 より小さい値になるように設定されるのが好ましい。
【0079】
ここで、図6に示されるように、螺旋状流路98の通路面積S1は、螺旋状流路98の断面積のことであり、螺旋状流路98の通路周長L1とは、螺旋状流路98の通路面積S1の周囲の長さである。したがって、螺旋状流路98の水力直径である絞り水力直径D1は、
絞り水力直径D1=4×通路面積S1/通路周長L1(式2)
となる。この絞り水力直径D1が0.4以上になるように、通路面積S1および通路周長L1を設計すれば、高圧油がクランク軸17の軸方向に貫通している給油孔17aを確実に流れやすくすることが可能である。
【0080】
一方、例えば、クランク軸17の軸受部分の水力直径D2を求める場合には、図7に示されるように、通路面積S2は、可動スクロール26のボス26cの内径d1、クランク軸17のクランクピン17bの外径d2より、
S2=(π/4)×(d12―d22) (式3)となり、
通路周長L2は、L2=π×(d1+d2) (式4)となる。
【0081】
その結果、軸受水力直径D2は、
軸受水力直径D2=4×通路面積S2/通路周長L2(式5)
となる。この軸受水力直径D2が0.4よりも小さくなるように、通路面積S2および通路周長L2を設計すれば、絞り水力直径よりも相対的に小さいため軸受隙間部へガスを流れにくく設定でき各軸受部分への確実な給油を確保することが可能である。
【0082】
例えば、軸受水力直径D2は、絞り水力直径D1よりも3〜6倍程度になるように設定すれば、軸受隙間部へガスを流れにくくでき、クランク軸17の軸方向に貫通している給油孔17aへ油を確実に流し、各軸受へ十分給油する事が可能となる。
【0083】
(5)オルダムリング
オルダムリング39は、上述したように、可動スクロール26の自転運動を防止するための部材であって、ハウジング23に形成されるオルダム溝(図示せず)に嵌め込まれている。なお、このオルダム溝は、長円形状の溝であって、ハウジング23において互いに対向する位置に配設されている。
【0084】
(6)モータ
モータ16は、本実施形態においてDCインバータモータであって、主に、本体ケーシング10の内壁面に固定された環状の固定子51と、固定子51の内側に僅かな隙間(エアギャップ通路)をもって回転自在に収容された回転子52とから構成されている。
【0085】
固定子51には、ティース部に銅線が巻回されており、上方および下方にコイルエンド53が形成されている。また、固定子51の外周面には、固定子51の上端面から下端面に亘り且つ周方向に所定間隔をおいて複数個所に切欠形成されているコアカット部が設けられている。そして、このコアカット部により、胴部ケーシング部11と固定子51との間に上下方向に延びるモータ冷却通路55が形成されている。
【0086】
また、図1に示されるように、固定子51と本体ケーシング10との間には、油の下降が可能な油戻し流路74が形成されている。油戻し通路74は、固定子51の外周面に形成された鉛直方向に延びる溝状のコアカット部51aによって構成されている。
【0087】
回転子52は、上下方向に延びるように胴部ケーシング部11の軸心に配置されたクランク軸17を介してスクロール圧縮機構15の可動スクロール26に駆動連結されている。
【0088】
(7)下部主軸受
下部主軸受60は、モータ16の下方の下部空間に配設されている。この下部主軸受60は、胴部ケーシング部11に固定されるとともにクランク軸17の下端側軸受を構成し、クランク軸17を支持している。
【0089】
(8)吸入管
吸入管19は、冷媒回路の冷媒をスクロール圧縮機構15に導くためのものであって、本体ケーシング10の上壁部12に気密状に嵌入されている。吸入管19は、低圧空間29を上下方向に貫通すると共に、内端部が固定スクロール24に嵌入されている。
【0090】
(9)吐出管
吐出管20は、本体ケーシング10内の冷媒を本体ケーシング10外に吐出させるためのものであって、本体ケーシング10の胴部ケーシング部11に気密状に嵌入されている。
【0091】
(10)油戻しガイド
図1に示されるように、油戻しガイド71は、ハウジング23の油通路35と油戻し流路74の上部開口74aとの間を連通させる流路71aを有する部材である。油戻しガイド71は、金属薄板等で流路71aが成形されており、ハウジング23とモータ16との間に配置されるように、胴体ケーシング部11の内面に固定されている。
【0092】
(11)油分離板
図1に示されるように、油分離板73は、本体ケーシング10内部における固定子51の下方に配置され、下降する冷媒ガスから油を分離する板状の部材である。油分離板73は、下部主軸受60の下面側に固定されている。油分離板73は、油戻し流路74の下部開口74bの下方の部分は、部分的に切り欠かれている。
【0093】
〔スクロール圧縮機1の運転動作〕
つぎに、スクロール圧縮機1の運転動作について図1を参照しながら簡単に説明する。まず、モータ16が駆動されると、クランク軸17が回転し、可動スクロール26が自転することなく公転運転を行う。すると、低圧の冷媒ガスが、吸入管19を通って圧縮室40の周縁側から圧縮室40に吸引され、圧縮室40の容積変化に伴って圧縮され、高圧の冷媒ガスとなる。そして、この高圧の冷媒ガスは、圧縮室40の中央部から吐出口41を通ってマフラー空間45へ吐出され、その後、ハウジング23の連絡通路(図示せず)を通って間隙空間18へ流出し、そして、この冷媒ガスは、一部が分流して胴部ケーシング部11内周面に沿って円周方向に流れる。なお、このとき、冷媒ガスに混入している潤滑油が分離される。一方、分流した冷媒ガスの他部は、モータ冷却通路55を下側に向かって流れ、モータ下部空間にまで流れた後、反転して固定子51と回転子52との間のエアギャップ通路、または他のモータ冷却通路55を上方に向かって流れる。その後、上昇した冷媒ガスは、他の冷媒ガスと間隙空間18で合流し、吐出管20から、本体ケーシング10外に吐出される。そして、本体ケーシング10外に吐出された冷媒ガスは、冷媒回路を循環した後、再度吸入管19を通ってスクロール圧縮機構15に吸入されて圧縮される。
【0094】
また、スクロール圧縮機1は、本体ケーシング10内部において、ハウジング23上下の差圧により、油溜まりPの油を吸い上げ、クランク軸17から給油孔17aおよび第2給油通路92を通して、クランクピン17bとボス26cとの間隙へ給油する。それとともに、可動スクロール26内部の第1空間A、第1給油通路91およびその出口部分91bを介して、接触面84に給油することができる(図2の矢印参照)。また、ハウジング23の軸受部32への給油は、クランク軸17内部の給油孔17aから分岐した第3給油通路93を通して給油される。更に下部主軸受60の軸受メタル62への給油は、クランク軸17内部の給油孔17aから分岐した第4給油通路94を通して給油される。
【0095】
ここで、給油孔17内部の圧力と上部の第1給油通路91の出口側の接触面84付近のガス圧との差圧が所定の差圧よりも小さいときには、バネ97で発生する駆動力によって、可動絞り部材96は、図4の第2位置IIへ移動し、流路抵抗を大きくする。これにより、差圧よりも小さいときには、固定スクロール24に可動スクロール26を押し付ける力が小さくなるが、可動スクロール26に対する高圧の油による押し返し力が比較的小さくなるため、可動スクロール26の挙動が安定し、性能が向上する。
【0096】
一方、スクロール圧縮機1が差圧の大きい運転状態では、給油孔17内部の圧力と上部の第1給油通路91の出口側の接触面84付近のガス圧との差圧が所定の差圧以上であるので、このときには、可動絞り部材96は、その可動絞り部材96の両端における差圧がバネ97の弾性力に勝るので、図3の長く重なる第I位置へ移動しており、流路抵抗を小さくする。これにより、差圧が比較的大きいときには、固定スクロール24に可動スクロール26を押し付ける力が大きくなるが、可動スクロール26に対する高圧の油による押し返し力が比較的大きくなるため、スラスト摺動損失が低減され、性能が向上する。
【0097】
<第1の実施形態の特徴>
(1)
第1の実施形態のスクロール圧縮機1では、また、給油孔17内部の圧力と上部の第1給油通路91の出口側の接触面84付近のガス圧との差圧が所定の差圧よりも小さいときには、バネ97の弾性力が駆動力となって、可動絞り部材96は、図4の第2位置IIへ移動し、流路抵抗を大きくする。これにより、差圧が小さいときに、高圧の油による押し返しの荷重を小さくでき、可動スクロール26を固定スクロール24に確実に押し付ける事ができ、性能低下を防止する事ができる。
【0098】
(2)
第1の実施形態のスクロール圧縮機1では、可動絞り部材96は、第1給油通路91の内部に往復移動自在に挿入され、外周面に螺旋状に延びる螺旋状流路98が形成されており、しかも、可動絞り部材96は、第1給油通路91の出口部分91bと螺旋状流路98の途中に長く重なる第1位置Iと、第2位置Iとの間を往復移動できる。これにより、給油孔17内部の圧力と上部の第1給油通路91の出口側の接触面84付近のガス圧との差圧が所定の差圧よりも小さいときには、流路抵抗を確実に大きくすることが可能である。その結果、差圧が小さいときに、高圧の油による押し返しの荷重を小さくでき、可動スクロール26を固定スクロール24に確実に押し付ける事ができ、性能低下を防止する事ができる。
【0099】
(3)
第1の実施形態のスクロール圧縮機1では、可動絞り部材96を駆動する駆動部としてバネ97を用いているので、外部に動力源を必要とせず、構造が簡単であり、メンテナンスも容易であり、信頼性も高い。
【0100】
(4)
また、第1の実施形態のスクロール圧縮機1では、第1給油通路91のうち少なくとも可動絞り部材96が配置されている半径方向区間91aは、可動スクロール26の鏡板26aの内部において、鏡板26aの半径方向に沿って延びているので、スクロール圧縮機1が比較的高速側の運転状態になったときに、可動絞り部材96が遠心力を受けて油の流量の絞りが小さくなる第1位置Iに確実に移動させることが可能である。
【0101】
<第1の実施形態の変形例>
(A)
第1の実施形態のスクロール圧縮機1では、可動絞り部材96を前記第1位置Iから第
2位置IIへ向けて移動させる向きへ弾性力を与える弾性部材としてバネ97を例に挙げて説明したが、その他の弾性部材として、バネだけでなく、空気バネ、油圧ダンパのような弾性力を与えることが可能な手段であれば種々適用可能である。この場合も、外部に動力源を必要とせず、メンテナンスも容易である。
【0102】
〔第2の実施形態〕
上記第1の実施形態では、可動絞り部材96を駆動する駆動部としてバネ97などの弾性部材を例にあげて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の駆動部を採用することも可能である。
【0103】
第2実施形態のスクロール圧縮機では、図8〜9に示されるように、可動絞り部材96を駆動する駆動部として、電動モータ101を備えている。そして、電動モータ101の回転駆動力を変換するために、電動モータ101の駆動軸に固定されたピニオンギア101、および可動絞り部材96に固定されたラック103を備えている。さらに、給油孔17内部または間隙空間18の圧力を測定するためのセンサ105、上部の第1給油通路91の出口側の接触面84付近または低圧空間29のガス圧を測定するためのセンサ106、およびセンサ105およびセンサ106によって測定されたそれらの圧力の差圧に基づいて電動モータ101を制御するコントローラ104を備えている。
【0104】
なお、図8の第1位置Iのときには、ラック103の先端部は、シール部材83aの孔
83aに挿入されるような構成としても良い。
【0105】
その他の構成については、第1の実施形態のスクロール圧縮機1の構成と共通しているので、ここでは省略する。
【0106】
<第2実施形態の特徴>
(1)
給油孔17内部の圧力と上部の第1給油通路91の出口側の接触面84付近のガス圧との差圧が所定の差圧よりも小さいときには、それらの圧力の差圧に基づいて電動モータ101を駆動させ、その駆動力により、可動絞り部材96は、図9の第2位置IIへ移動させ、流路抵抗を大きくする。これにより、差圧が小さいときに、高圧の油による押し返しの荷重を小さくでき、可動スクロール26を固定スクロール24に確実に押し付ける事ができ、性能低下を防止する事ができる。
【0107】
一方、給油孔17内部の圧力と上部の第1給油通路91の出口側の接触面84付近のガス圧との差圧が所定の差圧以上のときには、それらの圧力の差圧に基づいて電動モータ101を駆動させ、その駆動力により、図8の長く重なる第I位置へ移動させ、流路抵抗を小さくする。これにより差圧が比較的大きいときには、固定スクロール24に可動スクロール26を押し付ける力が大きくなるが、可動スクロール24に対する高圧の油による押し返し力が比較的大きくなるため、スラスト摺動損失が低減され、性能が向上する。
【0108】
(2)
このような電動モータ101を用いた電動制御を行うことにより、所定の差圧の設定を任意に変更して、精度良く可動絞り部材96の動きを制御できる。
【0109】
(3)
また、第2の実施形態のスクロール圧縮機1では、第1実施形態と同様に、第1給油通路91のうち少なくとも可動絞り部材96が配置されている半径方向区間91aは、可動スクロール26の鏡板26aの内部において、鏡板26aの半径方向に沿って延びているので、スクロール圧縮機1が比較的高速側の運転状態における運転回転数になったときに、可動絞り部材96が遠心力を受けて油の流量の絞りが小さくなる第1位置Iにより確実
に移動させることが可能である。
【0110】
〔第3の実施形態〕
さらに、第3実施形態のスクロール圧縮機では、可動絞り部材96を駆動するさらに他の駆動部として、図10〜11に示されるように、可動絞り部材96を駆動する駆動部として、電磁石201を備えている。
【0111】
電磁石201は、ソレノイドコイル202と、ソレノイドコイル202で発生する磁力により移動する永久磁石203とを有する。永久磁石203は、可動絞り部材96に対して棒状部材204により連結されている。
【0112】
さらに、第3実施形態のスクロール圧縮機では、第2実施形態の場合と同様に、給油孔17内部または間隙空間18の圧力を測定するためのセンサ206、上部の第1給油通路91の出口側の接触面84付近または低圧空間29のガス圧を測定するためのセンサ207、およびセンサ206およびセンサ207によって測定されたそれらの圧力の差圧に基づいて電動モータ101を制御するコントローラ205を備えている。
【0113】
その他の構成については、第1の実施形態のスクロール圧縮機1の構成と共通しているので、ここでは省略する。
【0114】
<第3実施形態の特徴>
(1)
給油孔17内部の圧力または間隙空間18と上部の第1給油通路91の出口側の接触面84付近または低圧空間29のガス圧との差圧が所定の差圧よりも小さいときには、それらの圧力の差圧に基づいて電磁石201を駆動させ、その駆動力により、可動絞り部材96は、図11の第2位置IIへ移動させ、流路抵抗を大きくする。これにより、差圧が小さいときに、高圧の油による押し返しの荷重を小さくでき、可動スクロール26を固定スクロール24に確実に押し付ける事ができ、性能低下を防止する事ができる。
【0115】
一方、スクロール圧縮機1が比較的高速側の運転状態では、給油孔17内部の圧力と上部の第1給油通路91の出口側の接触面84付近のガス圧との差圧が所定の差圧以上であるので、このときには、それらの圧力の差圧に基づいて電磁石201を駆動させ、その駆動力により、図10の長く重なる第I位置へ移動させ、流路抵抗を小さくする。このため、差圧が比較的大きいときには、固定スクロール24に可動スクロール26を押し付ける力が大きくなるが、可動スクロール24に対する高圧の油による押し返し力が比較的大きくなるため、スラスト摺動損失が低減され、性能が向上する。
【0116】
(2)
このような電磁石201を用いた電動制御を行うことにより、所定の差圧の設定を任意に変更して、精度良く可動絞り部材96の動きを制御できる。
【0117】
(3)
また、第3の実施形態のスクロール圧縮機1では、第1実施形態と同様に、第1給油通路91のうち少なくとも可動絞り部材96が配置されている半径方向区間91aは、可動スクロール26の鏡板26aの内部において、鏡板26aの半径方向に沿って延びているので、スクロール圧縮機1が比較的高速側の運転状態における運転回転数になったときに、可動絞り部材96が遠心力を受けて油の流量の絞りが小さくなる第1位置Iにより確実に移動させることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明は、クランク軸に給油孔を有するスクロール圧縮機に種々適用することが可能である。
【符号の説明】
【0119】
1 スクロール圧縮機
17 クランク軸
17a 給油孔
17b クランクピン
26 可動スクロール
26a 鏡板
26b ラップ
26c ボス
84 接触面
91 第1給油通路
91a 出口部分
92 第2給油通路
95 可変絞り機構
96 可動絞り部材
97 バネ(弾性部材)
98 螺旋状流路
101 電動モータ
201 電磁石
【先行技術文献】
【特許文献】
【0120】
【特許文献1】特開2004―3525号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の鏡板(26a)の一方の面に螺旋状のラップ(26b)が設けられ、他方の面に円筒状のボス(26c)が設けられた可動スクロール(26)と、
平板状の鏡板(24a)の一方の面に前記可動スクロール(26)のラップ(26b)と組み合わされて圧縮室(40)を形成する螺旋状のラップ(24b)が設けられた固定スクロール(24)と、
前記可動スクロール(26)のボス(26c)に回転自在に連結されるクランクピン(17b)を有し、軸方向に給油孔(17a)が貫通して形成されたクランク軸(17)と、
前記可動スクロール(26)内部に形成され、前記クランクピン(17b)内部の給油孔(17a)から吸い上げた油の一部を前記可動スクロール(26)と前記固定スクロール(24)との接触面(84)に給油する第1給油通路(91)と、
前記クランク軸(17)内部に形成され、前記給油孔(17a)と前記クランク軸(17)周囲の軸受面との間を連通する第2給油通路(92)と、
前記第1給油通路(91)に設けられ、前記給油孔(17)の内部の圧力と前記第1給油通路(91)の出口側の前記接触面(84)付近の圧力との圧力差が所定の差圧よりも小さいときには、流路抵抗を大きくする可変絞り機構(95)と
を備えている、
スクロール圧縮機(1)。
【請求項2】
前記可変絞り機構(95)は、
前記第1給油通路(91)の内部に往復移動自在に挿入され、外周面に螺旋状に延びる螺旋状流路(98)が形成された可動絞り部材(96)と、
前記可動絞り部材(96)を駆動する駆動部と
を有しており、
前記第1給油通路(91)は、前記可動絞り部材(96)が配置された区間(91a)と出口部分(91b)とが分岐しており、
前記可動絞り部材(96)は、前記第1給油通路(91)の出口部分(91b)と前記螺旋状流路(98)の途中に長く重なる第1位置と、短く重なる第2位置との間を往復移動でき、
前記圧力差が所定の差圧よりも小さいときには、前記駆動部で発生する駆動力によって、前記可動絞り部材(96)は、前記第2位置へ移動し、
前記圧力差が所定の差圧以上のときには、前記可動絞り部材(96)は、前記第1位置へ移動する、
請求項1に記載のスクロール圧縮機(1)。
【請求項3】
前記駆動部は、前記可動絞り部材(96)を前記第1位置から第2位置へ向けて移動させる向きへ弾性力を与える弾性部材(97)を有する、
請求項2に記載のスクロール圧縮機(1)。
【請求項4】
前記駆動部は、電動モータ(101)を有する、
請求項2に記載のスクロール圧縮機(1)。
【請求項5】
前記駆動部は、電磁石(201)を有する、
請求項2に記載のスクロール圧縮機(1)。
【請求項6】
前記第1給油通路(91)のうち少なくとも前記可動絞り部材(96)が配置されている区間(91a)は、前記可動スクロールの鏡板(26a)の内部において、前記鏡板(26a)の半径方向に沿って延びている、
請求項2から4のいずれかに記載のスクロール圧縮機(1)。
【請求項7】
前記可変絞り機構(95)の水力直径が、前記クランク軸(17)を支持する各軸受部分の水力直径よりも小さくなるように設定されている事を特徴とする、請求項1〜6に記載のスクロール圧縮機(1)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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