説明

スクロール圧縮機

【課題】運転時にはラップ接点の隙間が大きくなる箇所と小さくなる箇所があり、ラップ側面の径方向隙間での冷媒漏れの抑制が不十分であった。
【解決手段】旋回スクロールラップ13aの内壁側と固定スクロールラップ12aの外壁側とが接触するか、旋回スクロールラップ13aの外壁側と固定スクロールラップ12aの内壁側とが接触するか、のいずれかとなるように圧縮室を構成して、ラップ同士が接触しない側の旋回スクロールラップ13aの壁面或いは固定スクロールラップ12aの壁面の粗さを、それぞれ接触する側の旋回スクロールラップ13aの壁面或いは固定スクロールラップ12aの壁面の粗さに比べて大きくすることによって、ラップが接触する側の壁面では、径方向隙間の冷媒漏れを防ぎ、ラップが接触しない側の壁面では、表面粗さを粗くすることによって通路抵抗を大きくして冷媒漏れを防ぐ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷暖房空調装置や冷蔵庫等の冷却装置、あるいはヒートポンプ式の給湯装置等に用いられるスクロール圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、冷凍空調機や冷凍機に用いられるスクロール圧縮機は、一般に、鏡板から渦巻きラップが立ち上がる固定スクロール及び旋回スクロールを噛み合わせて双方間に圧縮室を形成し、旋回スクロールを自転拘束機構による自転の拘束のもとに円軌道に沿って旋回させたとき、圧縮室が容積を変えながら移動することで吸入、圧縮、吐出を行うものである。ここで、図9に従来のスクロール圧縮機の圧縮途中の冷媒漏れの経路について示す。スクロール圧縮機については、図9(a)に示すラップ先端の軸方向隙間での冷媒漏れと、図9(b)に示すラップ側面(壁面)の径方向隙間での冷媒漏れ、の主に2つの漏れ経路が存在する。それぞれの隙間に対する冷媒漏れを防ぐ従来技術について説明する。
【0003】
まず、ラップ先端の軸方向隙間での冷媒漏れ抑制技術について述べる。作動流体は旋回スクロール13の旋回運動に伴い徐々に圧縮され、中心部に向かうに従い高圧状態となるため、旋回スクロール13には固定スクロール12から引き離される方向に離反力が働く。その結果、旋回スクロール13と固定スクロール12のラップ先端に隙間が生じるため圧縮途中の漏れが発生し、性能悪化を引き起こしてしまう。この対策として、旋回スクロール13の背面に設けた背圧室29に高圧と低圧の中間圧力を印加させ、固定スクロール12からの離反を防止する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
図10は特許文献1に記載された従来のスクロール圧縮機の圧縮機構部の断面図である。なお、図中の符号については、特許文献1に示されているものを用いて説明する。旋回スクロール3の鏡板3bに設けられ、圧縮室側に開口する圧縮室側開口端22cから背圧室に開口する背圧室側開口端22bへ連通する連絡通路22を備え、旋回スクロール3の旋回運動に伴い、圧縮室側開口端22cが固定スクロール2の鏡板2bで開閉されることで連絡通路22の連通及び閉塞が行われる。この連通及び閉塞の動作により、背圧室の圧力を所定の圧力(=中間圧力)に維持している。この結果、旋回スクロール3が固定スクロール2に適度に押し付けられることによってラップ先端の軸方向隙間が最小に保たれるので、冷媒漏れを防ぐことができる。
【0005】
さらに、圧縮室側開口端22cが旋回スクロール3の旋回運動に伴い、固定スクロール2のスラスト面と吸入室に連通する圧縮室を周期的に移動することで、旋回スクロール3の外側に形成される圧縮室に間欠的に給油を行っており、給油されたオイルがこの圧縮室のシールの役割を果たし、作動流体の軸方向隙間と同時に径方向隙間についても冷媒漏れが抑えられ、圧縮効率の低下を抑制している。
【0006】
次に、ラップ側面の径方向隙間での冷媒漏れ抑制技術について述べる。図11と図12は、特許文献2に記載された従来のスクロール圧縮機の圧縮機構部の断面図である。なお、図中の符号については、特許文献2に示されているものを用いて説明する。クランク軸2の上端部には、偏心部2aが設けられている。そしてこの偏心部2aに、バランスウエイト201c付のスライドブッシュ201が偏心部2aと隙間を持つように遊嵌されている。このスライドブッシュ201は、偏心部2aに遊嵌可能な筒部201aと、偏心部2aの偏心方向と逆側の筒部201a外周に取付けられたバランスウエイト201cとを有している。このスライドブッシュ201を介在してクランク軸2の回転力は圧縮要素CFに伝達可能である。
【0007】
ここでスライドブッシュ201の役割は以下のとおりである。圧縮要素CF内の2つの圧縮室間で冷媒の漏れがないように区切るためには、2つの圧縮室の間において旋回スクロール3と固定スクロール4との各渦巻状歯部3b、4b同士が隙間なく当接している必要がある。スライドブッシュ201はクランク軸2の偏心部2aに隙間を持って嵌められている(遊嵌されている)ため、圧縮室内のガス力により旋回スクロール3をスライド可能とすることができ、それにより2つの圧縮室間で旋回スクロール3と固定スクロール4との各渦巻状歯部3b、4b同士を隙間なく当接させることができる。つまり、スライドブッシュ201は、クランク軸2の偏心部2aに遊嵌されることで、圧縮室間で冷媒の漏れがないよう旋回スクロール3をスライド可能とする役割をなしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−270697号公報
【特許文献2】特開平4−175486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
スクロール圧縮機の圧縮機構部の組立時において、両スクロール部品のラップ同士は複数のラップ接点を有し、且つラップ接点における隙間は均一或いは接触している。ここで、ラップ接点とは、固定スクロール及び旋回スクロールを噛み合わせて双方間に圧縮室を形成したときに、ラップ同士の距離が最も近くなる場所を指すものと定義する。図3にラップ接点の位置と名称の定義を示す。図3に示すような部品全体を捉えたマクロ的スケールではラップ同士は全て同時に接触しているように見える。しかしながらミクロ的スケールで考えると、運転時において旋回スクロールと固定スクロールの部材温度が異なるので、一部のラップ接点のみが接触し、その他のラップ接点については微小な隙間が存在することが予想され、その隙間からは冷媒の漏れが発生する。しかしながら、上記従来技術では、運転時の旋回スクロールと固定スクロールのラップ接点のそのような隙間に関しては何らの開示もなく、対応技術などの示唆もされていない。
【0010】
ラップ先端の軸方向隙間での冷媒漏れ抑制に関する上記従来技術では、旋回スクロールが固定スクロールの軸方向に適度に押し付けられることによって、ラップ先端の軸方向隙間を最小にすることができるが、運転時のラップ接点の隙間に着眼し、同時にラップ側面の径方向隙間でのシール効果を高めることに関した技術は何ら開示されていない。
【0011】
また、ラップ側面の径方向隙間での冷媒漏れ抑制に関する上記従来技術では、旋回スクロールのラップを固定スクロールのラップに接触させようとしたときに、運転時には一部のラップ接点のみが接触することに関して何ら開示されていない。実際の運転時には、全てのラップ接点を同時に接触させることは困難であり、冷媒漏れによる漏れ損失の増大を招いていた。また、軸受内部にスライドブッシュを挿入できるように軸受径を大きく構成する必要があるので、軸受部での摺動損失の増大や、部品点数の増大によるコスト増を招いたりしていた。
【0012】
本発明は前記従来の課題を解決するもので、運転時のラップ接点の隙間を考慮して圧縮途中の冷媒漏れを効果的に防ぎ、高効率なスクロール圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記従来の課題を解決するために、本発明のスクロール圧縮機は、旋回スクロールラップの内壁側と固定スクロールラップの外壁側とが接触するか、前記旋回スクロールラップ
の外壁側と前記固定スクロールラップの内壁側とが接触するか、のいずれかとなるように圧縮室を構成して、少なくとも、前記ラップ同士が接触しない側の前記旋回スクロールラップの壁面の粗さを接触する側の前記旋回スクロールラップの壁面の粗さに比べて大きくする、或いは、前記ラップ同士が接触しない側の前記固定スクロールラップの壁面の粗さを接触する側の前記固定スクロールラップの壁面の粗さに比べて大きくするように構成したものである。これによって、ラップ同士が接触する側の壁面では、径方向隙間を小さくすることによって冷媒漏れを防ぎ、ラップ同士が接触しない側の壁面では、表面粗さを接触する側より大きくすることによって通路抵抗を大きくして冷媒漏れを防ぐことができるので、高効率なスクロール圧縮機を提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のスクロール圧縮機は、旋回スクロールラップと固定スクロールラップとの接触の仕方によって壁面の表面粗さを適正に構成することにより、高効率を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態におけるスクロール圧縮機の縦断面図
【図2】本発明の実施の形態におけるスクロール圧縮機の圧縮機構部の断面図
【図3】本発明の実施の形態におけるラップ接点の位置と名称を示す図
【図4】本発明の実施の形態における運転時の温度を考慮したラップ接点の隙間変化の特性図
【図5】本発明の実施の形態における運転時の温度と基礎円半径違いを考慮したラップ接点の隙間変化の特性図
【図6】本発明の実施の形態における運転時の温度と熱膨張係数違いを考慮したラップ接点の隙間変化の特性図
【図7】ムーディー線図と本発明の実施の形態における実験結果の特性図
【図8】本発明の実施の形態におけるスクロール圧縮機の固定スクロールと旋回スクロールを噛み合わせて旋回させた状態の変化を示す断面図
【図9】(a)スクロール圧縮機のラップ先端の軸方向隙間での冷媒漏れ経路の模式図(b)スクロール圧縮機のラップ側面の径方向隙間での冷媒漏れ経路の模式図
【図10】特許文献1における従来のスクロール圧縮機の圧縮機構部の断面図
【図11】特許文献2における従来のスクロール圧縮機の圧縮機構部の断面図
【図12】図11のA−A断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
第1の発明は、鏡板から渦巻き状のラップが立ち上がる固定スクロール及び旋回スクロールの前記ラップ同士を噛み合わせて双方間に圧縮室を形成し、自転拘束機構による規制により旋回スクロールが円軌道に沿って所定の旋回半径で旋回させたときに、圧縮室が容積を変えながら中心に向かって移動することで、作動流体の吸入、圧縮、吐出の一連の動作を行うスクロール圧縮機において、旋回スクロールラップの内壁側と固定スクロールラップの外壁側とが接触するか、旋回スクロールラップの外壁側と固定スクロールラップの内壁側とが接触するか、のいずれかとなるように構成して、少なくとも、ラップ同士が接触しない側の旋回スクロールラップの壁面の粗さを接触する側の記旋回スクロールラップの壁面の粗さに比べて大きくする、或いは、ラップ同士が接触しない側の固定スクロールラップの壁面の粗さを接触する側の固定スクロールラップの壁面の粗さに比べて大きくするように構成したものである。これによって、ラップ同士が接触する側の壁面では、表面粗さを相応に小さくすることによって径方向隙間の冷媒漏れを防ぎ、ラップ同士が接触しない側の壁面では、表面粗さを接触する側より大きくすることによって通路抵抗を大きくして冷媒漏れを防ぐことができるので、高効率なスクロール圧縮機を提供することができる。
【0017】
第2の発明は、特に、第1の発明の、ラップをインボリュート曲線で構成し、旋回スクロールラップのインボリュート曲線の基礎円半径が、固定スクロールラップのインボリュート曲線の基礎円半径と異なるようにするもので、旋回スクロールラップの基礎円半径を固定スクロールラップの基礎円半径よりも大きくした場合は、ラップ同士が接触する側を旋回スクロールラップの外壁側と固定スクロールラップの内壁側とにすることができる。また、旋回スクロールラップの基礎円半径を固定スクロールラップの基礎円半径よりも小さくした場合は、ラップ同士が接触する側を旋回スクロールラップの内壁側と固定スクロールラップの外壁側とにすることができる。これによって、ラップ同士が接触する側の壁面を選択的にコントロールすることができる。
【0018】
第3の発明は、特に第1または第2の発明の、旋回スクロール及び固定スクロールを形成する材料の熱膨張係数が異なるようにするもので、旋回スクロールを形成する材料を例えばアルミ系金属、固定スクロールを形成する材料を例えば鉄系金属で構成すると、アルミ系金属の方が鉄系金属よりも熱膨張係数が高いので、ラップ同士が接触する側を旋回スクロールのラップの外壁側と固定スクロールラップの内壁側とにすることができる。また、旋回スクロールを形成する材料を例えば鉄系金属、固定スクロールを形成する材料を例えばアルミ系金属で構成すると、ラップ同士が接触する側を旋回スクロールのラップの内壁側と固定スクロールラップの外壁側とにすることができる。これによって、ラップが接触する側の壁面を選択的にコントロールすることができる。
【0019】
第4の発明は、特に第1〜3のいずれか1つの発明の、ラップが接触しない側に形成される圧縮室への給油量を、ラップが接触する側に形成される圧縮室への給油量に対して多くすることによって、シール効果を高めて冷媒漏れをより効果的に防ぐことができる。
【0020】
第5の発明は、特に第1〜5のいずれか1つの発明の、作動流体としての冷媒を二酸化炭素とすることによって、圧縮途中の差圧が大きい場合でも冷媒漏れをより効果的に防ぐことができる。
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0022】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態におけるスクロール圧縮機の縦断面図、図2は図1の圧縮機構部の断面図である。以下、スクロール圧縮機について、その動作、作用を説明する。
【0023】
図1、図2に示すように、本発明のスクロール圧縮機は、密閉容器1内に溶接や焼き嵌めなどして固定したクランク軸4の主軸受部材11と、この主軸受部材11上にボルト止めした固定スクロール12との間に、固定スクロール12と噛み合う旋回スクロール13を挟み込んでスクロール式の圧縮機構2を構成し、旋回スクロール13と主軸受部材11との間に旋回スクロール13の自転を防止して円軌道運動するように案内するオルダムリングなどによる自転拘束機構14を設けて、クランク軸4の上端にある偏心軸部4aにて旋回スクロール13を偏心駆動することにより旋回スクロール13を円軌道運動させ、これにより固定スクロール12と旋回スクロール13との間に形成している圧縮室15が外周側から中央部に移動しながら小さくなるのを利用して、密閉容器1外に通じた吸入パイプ16及び固定スクロール12の外周部の吸入室17から冷媒ガスを吸入して圧縮していき、所定圧以上になった冷媒ガスは固定スクロール12の中央部の吐出口18からリード弁19を押し開いて密閉容器1内に吐出させることを繰り返す。
【0024】
また旋回スクロール13の背面13eには、高圧領域30と、高圧と低圧の中間圧に設
定された背圧室29とが形成されている。この背面13eの圧力付加により旋回スクロール13は固定スクロール12に安定的に押しつけられ、漏れを低減するとともに安定して円軌道運動を行うことができる。
【0025】
圧縮機運転中は、クランク軸4の下端にはポンプ25が設けられ、スクロール圧縮機と同時に駆動される。これによりポンプ25は密閉容器1の底部に設けられたオイル溜め20にあるオイル6を吸い上げて、オイルフィルタ等で異物を除去した後、クランク軸4内を通縦しているオイル供給穴26を通じて圧縮機構2に供給する。このときの供給圧は、スクロール圧縮機の吐出圧力とほぼ同等であり、旋回スクロール13に対する背圧源ともなる。これにより、旋回スクロール13は固定スクロール12から離れたり片当たりしたりするようなことはなく、所定の圧縮機能を安定して発揮する。
【0026】
このように供給されたオイル6の一部は、供給圧や自重によって、偏心軸部4aと旋回スクロール13との嵌合部、クランク軸4と主軸受部材11との間の軸受部66に進入してそれぞれの部分を潤滑した後落下し、オイル溜め20へ戻る。
【0027】
図3に固定スクロールラップ12aと旋回スクロールラップ13aとを噛み合わせて双方間に圧縮室15を形成したときの、ラップ接点の位置と名称の定義を示す。一般的に、スクロール圧縮機のラップの巻き数は2〜3以上あるために、図3に示すようにラップ接点は3〜5箇所以上は同時に存在する。本実施の形態1における説明においては、図3に示す名称の定義に従い、旋回スクロールラップ13aの外壁13a1側に形成される接点を外壁接点、内壁13a2側に形成される接点を内壁接点と呼ぶことにする。また、旋回スクロール13の中心部に近い接点から1,2,3と番号を付与した。
【0028】
図4〜6に、クランク軸4の回転角度(クランク角度)毎に運転時のラップ接点における隙間変化を示す。図4〜6において、計算条件は二酸化炭素冷媒を用いたヒートポンプ給湯機の定格運転条件である。また、運転時のラップ接点における隙間変化は、組立時のラップ接点の隙間を基準(=0)としたときの、運転時のラップ接点の隙間変化を示している。縦軸において、プラスの値は隙間が拡大することを、マイナスの値は隙間が縮小することを意味している。以下、それぞれの図について順に考察する。
【0029】
図4は運転時の温度を考慮したときのラップ接点の隙間変化を示す。実施の形態におけるスクロール圧縮機は、密閉容器1内が高温かつ高圧の吐出ガスで満たされるので、固定スクロール12の方が旋回スクロール13よりも温度が高くなる。結果として、内壁側接点(内壁接点2)においてラップ接点の隙間が小さくなる。反対に外壁側接点については、ラップ接点の隙間が大きくなることが分かる。
【0030】
図5については、運転時の温度及び旋回スクロールラップ13aの基礎円半径を固定スクロールラップ12aの基礎円半径より0.034%小さく構成したときのラップ接点の隙間変化を示す。図5を見ても分かるように、基礎円半径を変化させることによって、選択的に内壁13a2側のラップ接点の隙間を小さくすることができる。反対に、旋回スクロールラップ13aの基礎円半径を固定スクロールラップ12aの基礎円半径より大きくすると(図示せず)、選択的に外壁13a1側のラップ接点の隙間を小さくすることができる。
【0031】
図6については、運転時の温度及び旋回スクロール13を形成する材料をアルミ系金属、固定スクロール12を形成する材料を鉄系金属で構成することによって、熱膨張係数の異なる材料を採用した場合のラップ接点の隙間変化を示す。図6を見ても分かるように、旋回スクロール13が固定スクロール12よりも熱膨張するために、選択的に外壁13a1側のラップ接点の隙間を縮小することが可能となる。反対に、旋回スクロール13を形
成する材料を鉄系金属、固定スクロール12を形成する材料をアルミ系金属で構成することによって(図示せず)、選択的に内壁13a2側のラップ接点の隙間を小さくすることができる。
【0032】
なお、密閉容器1内が高温で高圧の吐出ガスで満たされている場合だけではなく、低温で低圧の吸入ガスで満たされている場合や、定格運転条件以外の運転条件、冷媒を変更した場合の運転条件等についても、基礎円半径の変化量や、熱膨張係数の異なる金属を組み合わせを調整することによって、選択的に旋回スクロールラップ13aの外壁13a1側或いは内壁13a2側のラップ接点の隙間を小さくすることができる。結果として、ラップ接点の隙間が接触することとなり、冷媒漏れを低減することができる。
【0033】
一方、旋回スクロールラップ13aの外壁13a1側のラップ接点の隙間を選択的に小さくして接触させた場合には、反対側である旋回スクロールラップ13aの内壁13a2側のラップ接点の隙間が大きくなる。また、旋回スクロールラップ13aの内壁13a2側のラップ接点の隙間を選択的に小さくして接触させた場合には、反対側である旋回スクロールラップ13aの外壁13a1側のラップ接点の隙間が大きくなる。
【0034】
これらの構成によって、ラップ接点の隙間が大きくなる方での冷媒漏れを防ぐ方法について説明する。一般的に、Darcy−Weisbachの式として良く知られているように、隙間(管路)を通る流量は、
△p=λ・(L/d)・(ρ・u/2) ・・・(1)
で表される。ここで、Δpは差圧、λは管路摩擦係数、Lは流路長さ、dは管路直径、ρは流体密度、uは流体の流速である。
【0035】
次に管路摩擦係数λと粗さの関係について示す。図7にレイノルズ数を横軸に縦軸左に管路摩擦係数λ、縦軸右に粗さを示す平均突起高さを管路直径で除した相対粗度を示す(ムーディー線図)。この図7において、粗さが大きくなれば管路摩擦係数λも大きくなることを示し、式(1)から隙間(管路)を通る流量も減らすことができる。
【0036】
次に、スクロール圧縮機の径方向隙間に関しても、図7に示すDarcy−Weisbachの式に示される関係が適応可能かどうかについて検証を行った。スクロール圧縮機の径方向隙間の形状を模した実験装置によって管路摩擦係数λを測定した。ここで、スクロール圧縮機の径方向隙間は矩形なので、水力学的に等価な直径である水力直径として径方向隙間を置換した。図7にラップ隙間δa=10μmのときの管路摩擦係数λを同時にプロットした。また、オイルを混入させた場合の管路摩擦係数λについても同時に測定した。混入率は2.8%である。これらの結果を見ても分かるように、スクロール圧縮機における漏れ通路にもDarcy−Weisbachの式が適応可能であること、オイルを混入させることで管路摩擦係数λを大きくすることができること、がわかった。
【0037】
以上の結果より、ラップ同士が接触しない側の旋回スクロールラップ13aの壁面の粗さを接触する側の旋回スクロールラップ13aの壁面の粗さに比べて大きくする、或いはラップ同士が接触しない側の固定スクロールラップ12aの壁面の粗さを接触する側の固定スクロールラップ12aの壁面の粗さに比べて大きくすることによって、通路抵抗を大きくして冷媒漏れを防ぐことができる。
【0038】
前述のように、粗さを粗くすることによって冷媒漏れを防ぐことができるのであれば、ラップが接触する側の壁面のラップ接点についても、加工精度が原因で生じる微小な隙間が存在するので、粗さを粗くすることによってより冷媒漏れを防ぐことができる。しかしながら、ラップが接触する側の壁面の隙間は十分小さく冷媒漏れを防ぐ効果が小さいことに加えて、ラップが接触する際の摩擦抵抗による損失が増大し、かえってスクロール圧縮
機全体の効率低下を招いてしまう。以上より、ラップ同士が接触しない側の旋回スクロールラップ13aの壁面或いは固定スクロールラップ12aの壁面の粗さを、それぞれラップ同士が接触する側の旋回スクロールラップ13aの壁面或いは固定スクロールラップ12aの壁面の粗さに比べて大きくする必要がある。
【0039】
次に、表面粗さが粗い方に給油することによってより冷媒漏れを防ぐことができることに着目し、旋回スクロールラップ13aの外壁13a1側に形成される圧縮室15及び内壁13a2側に形成される圧縮室15のどちらか一方に選択的に給油量を多くする具体的な構成について説明する。
【0040】
旋回スクロール13には、背圧室29に一開口端55a、旋回スクロール13のラップ先端13cに他方の開口端55bを有する経路55が形成されている。図8は固定スクロール12に旋回スクロール13を噛み合わせた状態であり、位相を90度ずつずらした図である。例えば図8に示す構成の場合、経路55の他方の開口端55bを、固定スクロール12のラップ底面12cに形成された2つの凹部12d,12eに周期的に開口させることによって、第1及び第2の経路の間欠的な連通を実現している。
【0041】
図8の(b)の状態で開口端55bが凹部12dに開口しており、この状態では、旋回スクロールラップ13aの外側に形成される外側圧縮室15aと背圧室29とが連通する第1の経路が形成され、第1の経路を通って、背圧室29から外側圧縮室15aへとオイルが供給される。(d)の状態で開口端55bが凹部12eに開口しており、この状態では、旋回スクロールラップ13aの内側に形成される内側圧縮室15bと背圧室29とが連通する第2の経路が形成され、第2の経路を通って、背圧室29から内側圧縮室15bへとオイルが供給される。これに対し(a)(c)では、開口端55bが2つの凹部12d,12eに開口していないため、背圧室29から圧縮室へとオイルが供給されることはない。
【0042】
以上のことから、背圧室29内のオイル6は、第1及び第2の経路を通って圧縮室15へと導かれ、圧縮途中の漏れを防ぐことができる。ここで、開口端55bの大きさと位置、2つの凹部12d,12eの大きさと位置を調整して、第1の経路が連通する比率と、第2の経路が連通する比率とを調整することが可能となる。つまり、旋回スクロールラップ13aの外側に形成される外側圧縮室15aと旋回スクロールラップ13aの内側に形成される内側圧縮室15bのどちらか一方の給油量を多くする構成が可能となる。
【0043】
最後に作動流体を、高圧冷媒、例えば二酸化炭素とした場合、圧縮途中の差圧が大きい場合でも、冷媒漏れをより効果的に防ぐことができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上のように、本発明にかかるスクロール圧縮機は、ラップが接触しない側の旋回スクロールの壁面或いは固定スクロールの壁面の粗さを、それぞれラップが接触する側の旋回スクロールの壁面或いは固定スクロールの壁面の粗さに比べて大きくしたものである。これによって、ラップが接触する側の壁面では、径方向隙間を縮小することによって冷媒漏れを防ぎ、ラップが接触しない側の壁面では、表面粗さを粗くすることによって通路抵抗を大きくして冷媒漏れを防ぐことができるので、高効率なスクロール圧縮機を提供することができる。よって、作動流体を冷媒と限ることなく、空気、ヘリウムを作動流体とするスクロール圧縮機や、膨張機も含むスクロール流体機械の用途にも適用できる。
【符号の説明】
【0045】
12 固定スクロール
12a 固定スクロールラップ
12c ラップ溝底面
12d 凹部
12e 凹部
13 旋回スクロール
13a 旋回スクロールラップ
13c ラップ先端
13e 背面
14 自転拘束機構
15 圧縮室
15a 旋回スクロールのラップ外側圧縮室
15b 旋回スクロールのラップ内側圧縮室
29 背圧室
30 高圧領域
54 第4の経路
54a 開口端(高圧領域側)
54b 開口端(背圧室側)
55 第1及び第2の経路
55a 開口端(背圧室側)
55b 開口端(圧縮室側)
56 第3の経路
56a 開口端(高圧領域側)
56b 開口端(吸入室側)
56c 絞り部(断面積縮小による)
56d 絞り部(隙間による)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鏡板から渦巻き状のラップが立ち上がる固定スクロール及び旋回スクロールの前記ラップ同士を噛み合わせて双方間に圧縮室を形成し、自転拘束機構による規制により前記旋回スクロールが円軌道に沿って所定の旋回半径で旋回させたときに、前記圧縮室が容積を変えながら中心に向かって移動することで、作動流体の吸入、圧縮、吐出の一連の動作を行うスクロール圧縮機において、旋回スクロールラップの内壁側と固定スクロールラップの外壁側とが接触するか、前記旋回スクロールラップの外壁側と前記固定スクロールラップの内壁側とが接触するか、のいずれかとなるように構成して、少なくとも、前記ラップ同士が接触しない側の前記旋回スクロールラップの壁面の粗さを接触する側の前記旋回スクロールラップの壁面の粗さに比べて大きくする、或いは、前記ラップ同士が接触しない側の前記固定スクロールラップの壁面の粗さを接触する側の前記固定スクロールラップの壁面の粗さに比べて大きくするように構成したことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】
前記ラップをインボリュート曲線で構成し、前記旋回スクロールの前記ラップのインボリュート曲線の基礎円半径が、前記固定スクロールの前記ラップのインボリュート曲線の基礎円半径と異なることを特徴とする請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
前記旋回スクロール及び前記固定スクロールを形成する材料の熱膨張係数が異なることを特徴とする請求項1または2に記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
前記ラップが接触しない側に形成される前記圧縮室への給油量を、前記ラップが接触する側に形成される前記圧縮室への給油量に対して多くしたことを特徴とする請求項1から3のうちいずれか一項に記載のスクロール圧縮機。
【請求項5】
前記作動流体としての冷媒を二酸化炭素としたことを特徴とする請求項1から4のうちいずれか一項に記載のスクロール圧縮機。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図1】
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【図3】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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