説明

スクロール圧縮機

【課題】軸受けへの給油を確実に行ってスクロール圧縮機の信頼性を向上させる。
【解決手段】スクロール圧縮機(10)には、ケーシング(15)内の油溜まり(18)から駆動軸(60)の軸受けへ冷凍機油を供給するための軸受用給油通路(70)が形成される。固定スクロール(30)の固定側スラスト摺動面(35)には、接続用通路(86)及びキャピラリチューブ(87)を介してケーシング(15)内の油溜まり(18)だけに連通する油溝(80)が形成されている。軸受用給油通路(70)と油溝(80)とは連通しないため、可動スクロール(40)が傾いて油溝(80)の圧力が低下しても、軸受用給油通路(70)の圧力は低下せず、軸受用給油通路(70)から駆動軸(60)の軸受けへ冷凍機油が供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール圧縮機の信頼性の向上策に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、スクロール圧縮機は、冷媒や空気などを圧縮するために広く利用されている。例えば、特許文献1には、全密閉型のスクロール圧縮機が開示されている。ここでは、特許文献1に開示されたスクロール圧縮機(500)の構造について、図9を参照しながら説明する。
【0003】
このスクロール圧縮機(500)では、縦長円筒状のケーシング(510)に圧縮機構(520)及び電動機(515)が収容されている。圧縮機構(520)は、電動機(515)の上方に配置され、駆動軸(550)を介して電動機(515)に連結されている。
【0004】
圧縮機構(520)は、固定スクロール(525)と、可動スクロール(530)と、ハウジング(540)とを備えている。可動スクロール(530)の鏡板部(531)では、その前面にラップ(532)が突設され、その背面に円筒部(533)が突設されている。圧縮機構(520)では、可動スクロール(530)のラップ(532)が固定スクロール(525)のラップ(526)と噛み合うことで圧縮室(521)が形成される。また、可動スクロール(530)の鏡板部(531)のスラスト摺動面(536)が、固定スクロール(525)のスラスト摺動面(527)と摺接する。可動スクロール(530)の円筒部(533)には、駆動軸(550)の偏心部(551)が挿入されている。駆動軸(550)が回転すると、可動スクロール(530)が公転運動を行い、圧縮室(521)へ吸入された冷媒が圧縮される。
【0005】
このスクロール圧縮機(500)では、駆動軸(550)に給油通路(555)が形成されている。ケーシング(510)の底部から給油通路(555)へ流入した潤滑油は、第1分岐通路(556)や第2分岐通路(557)から軸受部へ供給される。また、給油通路(555)を流れる潤滑油の一部は、偏心部(551)の上端に開口する給油通路(555)の終端から流出する。
【0006】
可動スクロール(530)の鏡板部(531)の前面には、圧縮室(521)内の冷媒圧力が作用する。このため、圧縮室(521)内の冷媒圧力が上昇すると、可動スクロール(530)が押し下げられて圧縮室(521)の気密性が低下する。
【0007】
一方、このスクロール圧縮機(500)では、ハウジング(540)と可動スクロール(530)の間にシールリング(541)が設けられている。シールリング(541)の内側の圧力は、給油通路(555)の終端から流出した潤滑油の圧力(従って、圧縮機構(520)から吐出された冷媒の圧力)と実質的に等しくなる。このため、可動スクロール(530)は、鏡板部(531)の背面に作用する圧力によって、上方へ押し上げられる。その結果、可動スクロール(530)が固定スクロール(525)に押し付けられ、圧縮室(521)の気密性が確保される。
【0008】
ところが、可動スクロール(530)が固定スクロール(525)に押し付ける力が強くなり過ぎる場合がある。この力が強くなり過ぎると、可動スクロール(530)のスラスト摺動面(536)と固定スクロール(525)のスラスト摺動面(527)に発生する摩擦力が大きくなり、電動機(515)の消費電力が増加してしまう。
【0009】
一方、このスクロール圧縮機(500)では、可動スクロール(530)の鏡板部(531)に、油溝(534)と連通路(535)を形成している。油溝(534)は、鏡板部(531)のスラスト摺動面(536)に開口する凹溝であって、ラップ(532)の周囲を囲うように形成されている。
【0010】
この油溝(534)は、連通路(535)を介して円筒部(533)の内部空間と連通している。従って、油溝(534)内の圧力は、給油通路(555)の終端から流出した潤滑油の圧力と実質的に等しくなる。油溝(534)に隣接する圧縮室(521)の圧力は、圧縮室(521)へ吸入される低圧冷媒の圧力と同程度であり、油溝(534)の圧力よりも低い。このため、油溝(534)と圧縮室(521)の圧力差によって、スラスト摺動面(527,536)へ充分な量の潤滑油が供給される。その結果、可動スクロール(530)のスラスト摺動面(536)と固定スクロール(525)のスラスト摺動面(527)に発生する摩擦力が小さくなり、電動機(515)の消費電力が低く抑えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3731068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
スクロール圧縮機(500)の可動スクロール(530)では、鏡板部(531)の前面から突出したラップ(532)に圧縮室(521)の内圧が作用し、鏡板部(531)の背面から突出した円筒部(533)に駆動軸(550)からの荷重が作用する。ラップ(532)に作用するガス圧と円筒部(533)に作用する荷重とは、それぞれの作用線が可動スクロール(530)の軸方向と直交し且つ互いに交わらない。このため、可動スクロール(530)には、可動スクロール(530)を傾けようとするモーメントが作用する。
【0013】
鏡板部(531)の背面に作用する圧力(具体的には、シールリング(541)の内側の圧力)が充分に高ければ、可動スクロール(530)が固定スクロール(525)に強く押し付けられるため、モーメントが作用しても可動スクロール(530)が傾くことはない。しかし、鏡板部(531)の背面に作用する圧力がそれほど高くならない運転状態(例えば、圧縮機構(520)から吐出される冷媒の圧力が非常に低い運転状態)では、可動スクロール(530)が傾き、可動スクロール(530)のスラスト摺動面(536)と固定スクロール(525)のスラスト摺動面(527)のクリアランスが拡大する場合がある。そして、図9に示すスクロール圧縮機(500)において、これらスラスト摺動面(527,536)のクリアランスが拡大すると、油溝(534)内の圧力が急激に低下するおそれがある。
【0014】
図9に示す従来のスクロール圧縮機(500)において、油溝(534)は、連通路(535)や給油通路(555)を介して圧縮機構(520)の軸受部と連通している。このため、可動スクロール(530)が傾いて油溝(534)内の圧力が急激に低下すると、油溝(534)に連通する給油通路(555)の圧力が低下し、潤滑油が軸受部から分岐通路(556,557)を通って給油通路(555)へ逆流するおそれがある。そして、軸受部から給油通路(555)へ潤滑油が逆流すると、軸受部の潤滑が不充分となり、焼き付き等のトラブルを招くおそれがあった。
【0015】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、スクロール圧縮機の信頼性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
第1の発明は、ケーシング(15)と、該ケーシング(15)に収容され、固定スクロール(30)及び可動スクロール(40)を有する圧縮機構(20)と、上記ケーシング(15)に収容され、上記可動スクロール(40)に係合する駆動軸(60)とを備え、上記圧縮機構(20)は、圧縮した流体を上記ケーシング(15)内に吐出すると共に、上記可動スクロール(40)を上記固定スクロール(30)に押し付けるための押付け力を発生させるように構成されているスクロール圧縮機を対象とする。そして、上記可動スクロール(40)の鏡板部(41)と上記固定スクロール(30)とには、互いに摺接する可動側スラスト摺動面(45)と固定側スラスト摺動面(35)とが形成され、上記可動側スラスト摺動面(45)又は上記固定側スラスト摺動面(35)には、潤滑油が流入する油溝(80)が形成され、上記油溝(80)とは非連通であり、上記圧縮機構(20)に設けられた上記駆動軸(60)の軸受けに上記ケーシング(15)内の油溜まり(18)の潤滑油を供給する軸受用給油通路(70)と、上記油溝(80)を上記ケーシング(15)内の油溜まり(18)に接続する溝用連通路(85)とを備えるものである。
【0017】
第1の発明では、駆動軸(60)によって可動スクロール(40)が駆動されると、圧縮機構(20)へ流体が吸入されて圧縮される。圧縮機構(20)は、圧縮した流体をケーシング(15)内に吐出する。このため、ケーシング(15)内に貯留された潤滑油の圧力は、圧縮機構(20)から吐出された流体の圧力と実質的に等しくなる。ケーシング(15)内の潤滑油は、軸受用給油通路(70)を通って圧縮機構(20)の軸受けに供給される。
【0018】
第1の発明の圧縮機構(20)では、圧縮室の気密性を確保するために、可動スクロール(40)が固定スクロール(30)に押し付けられる。また、可動スクロール(40)の可動側スラスト摺動面(45)と、固定スクロール(30)の固定側スラスト摺動面(35)が互いに摺動する。圧縮機構(20)では、可動側スラスト摺動面(45)又は固定側スラスト摺動面(35)に油溝(80)が形成される。油溝(80)は、溝用連通路(85)を介してケーシング(15)内の油溜まり(18)と連通する。このため、油溝(80)内の潤滑油の圧力は、ケーシング(15)内に貯留された潤滑油の圧力と実質的に等しくなる。油溜まり(18)から溝用連通路(85)を通って油溝(80)へ流入した潤滑油は、可動側スラスト摺動面(45)と固定側スラスト摺動面(35)に供給される。
【0019】
第1の発明の圧縮機構(20)では、可動スクロール(40)が傾く場合がある。この場合には、可動側スラスト摺動面(45)と固定側スラスト摺動面(35)のクリアランスが拡大し、その結果、油溝(80)の圧力が急激に低下することがある。一方、この発明において、軸受用給油通路(70)は、油溝(80)とは非連通状態となっている。このため、油溝(80)の圧力が急激に低下しても、軸受用給油通路(70)の圧力は変化しない。
【0020】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記軸受用給油通路(70)には、上記駆動軸(60)によって駆動され、上記ケーシング(15)内の油溜まり(18)から潤滑油を吸い込んで吐出する給油ポンプ(75)が設けられ、上記溝用連通路(85)は、上記ケーシング(15)内の油溜まり(18)と上記油溝(80)の圧力差だけによって潤滑油が流通するように構成されたものである。
【0021】
第2の発明において、圧縮機構(20)の運転中に可動スクロール(40)が傾いて油溝(80)の圧力が低下すると、油溜まり(18)の潤滑油は、ケーシング(15)内の油溜まり(18)と油溝(80)の圧力差に起因して、溝用連通路(85)を油溝(80)へ向かって流れる。一方、軸受用給油通路(70)に給油ポンプ(75)が設けられる。給油ポンプ(75)は、駆動軸(60)によって駆動され、ケーシング(15)内の油溜まり(18)から潤滑油を吸い込んで吐出する。圧縮機構(20)の軸受けには、給油ポンプ(75)から吐出された潤滑油が供給される。
【0022】
第3の発明は、上記第2の発明において、上記溝用連通路(85)には、潤滑油の流量を制限するための絞り部が設けられるものである。
【0023】
圧縮機構(20)の運転中に可動スクロール(40)が傾くと、可動側スラスト摺動面(45)と固定側スラスト摺動面(35)のクリアランスが拡大する。このため、油溝(80)から潤滑油が流出し易くなり、溝用連通路(85)における潤滑油の流量が多くなり過ぎるおそれがある。
【0024】
これに対し、第3の発明では、溝用連通路(85)に絞り部が設けられる。そして、可動側スラスト摺動面(45)と固定側スラスト摺動面(35)のクリアランスが拡大した状態でも、溝用連通路(85)における潤滑油の流量は、絞り部によって制限される。
【0025】
第4の発明は、上記第3の発明において、上記絞り部は、上記溝用連通路(85)内に挿入され、外周部に潤滑油を流すための螺旋溝(89e)が形成された棒状部材(89)によって構成されている。
【0026】
第4の発明では、溝用連通路(85)に螺旋溝(89e)が形成された棒状部材(89)を挿入することにより、溝用連通路(85)内の棒状部材(89)の外周側に螺旋状の狭通路が形成される。これにより、溝用連通路(85)に流入した潤滑油は、棒状部材(89)の外周側に形成された螺旋状の狭通路において流量が制限される。
【0027】
第5の発明は、第4の発明において、上記溝用連通路(85)の複数箇所に、上記棒状部材(89)が設けられている。
【0028】
第5の発明では、溝用連通路(85)内の複数箇所に絞り部を構成する棒状部材(89)を設けることとした。ここで、溝用連通路(85)内に一つしか棒状部材(89)を設けない場合、潤滑油の流量を十分に制限するためにはある程度の狭流路の長さが必要になり、棒状部材(89)を長く形成しなければならなくなる。しかし、上述のように溝用連通路(85)内の複数箇所に棒状部材(89)を設けることにより、一つの棒状部材(89)の長さが短くても、狭通路の合計長さは長くなる。
【0029】
第6の発明は、第5の発明において、上記圧縮機構(20)とは別個に設けられて上記駆動軸(60)を回転自在に支持する軸受け(55)を備え、上記軸受け(55)と上記固定スクロール(30)とには、上記溝用連通路(85)の一部を形成する連通孔(83,81)がそれぞれ形成され、上記各連通孔(83,81)に上記棒状部材(89)が設けられている。
【0030】
第6の発明では、軸受け(55)と固定スクロール(30)とには、溝用連通路(85)の一部を形成する連通孔(83,81)がそれぞれ形成され、各連通孔(83,81)に絞り部を構成する棒状部材(89)がそれぞれ設けられている。そのため、軸受け(55)又は固定スクロール(30)のいずれかに一つの棒状部材(89)を設ける場合、潤滑油の流量を十分に制限するためにはある程度の狭流路の長さが必要になり、棒状部材(89)及び棒状部材(89)が設けられる連通孔を長く形成しなければならなくなる。しかし、上述のように軸受け(55)と固定スクロール(30)との両方に連通孔(83,81)を形成してそれぞれに棒状部材(89)を設けることにより、一つの棒状部材(89)及び連通孔(83,81)の長さが短くても、狭通路の合計長さは長くなる。
【0031】
第7の発明は、第1乃至第6のいずれか一つの発明において、上記駆動軸(60)を回転駆動する電動機(50)と、上記ケーシング(15)と上記電動機(50)との間に設けられて上記溝用連通路(85)の一部を形成する連絡管(84)とを備え、上記連絡管(84)は、樹脂材料によって形成された樹脂配管又は外周面が樹脂材料によって被覆された金属配管によって構成されている。
【0032】
第7の発明では、ケーシング(15)と電動機(50)との間に、溝用連通路(85)の一部を形成する連絡管(84)が設けられている。
【0033】
ところで、電動機(50)の側方に金属製の配管を設ける場合、絶縁が確保される距離だけ電動機(50)から離す必要がある。そのため、電動機(50)と配管との距離分だけケーシング(15)の径を大きくしなければならなかった。
【0034】
これに対し、第7の発明では、連絡管(84)が樹脂材料によって形成された樹脂配管又は外周面が樹脂材料によって被覆された金属配管によって構成されている。そのため、連絡管(84)を電動機(50)から離して設けなくても、絶縁を確保することができる。
【0035】
第8の発明は、上記第1乃至第7のいずれか一つの発明において、上記溝用連通路(85)の潤滑油の流入口(88)は、上記軸受用給油通路(70)の潤滑油の流入口(76)よりも上方に形成されているものである。
【0036】
ケーシング(15)内の油溜まり(18)から油溝(80)を介して可動側スラスト摺動面(45)と固定側スラスト摺動面(35)に供給された潤滑油の一部は、圧縮室内に流入し、圧縮冷媒と共にケーシング(15)の外部へ吐出されてしまう。このため、ケーシング(15)内の油溜まり(18)では、潤滑油量が減少して油面が低下してゆく。ケーシング(15)内の油溜まり(18)の油面が軸受用給油通路(70)の潤滑油の流入口(76)及び溝用連通路(85)の潤滑油の流入口(88)よりも低下すると、油溜まり(18)から駆動軸(60)の軸受け及び油溝(80)に潤滑油を供給することができなくなる。
【0037】
駆動軸(60)の軸受けへの潤滑油の供給量が不足すると、軸受けが焼き付いて損傷するおそれがある。一方、油溝(80)への給油が不足すると、可動スクロール(40)の可動側スラスト摺動面(45)と固定スクロール(30)の固定側スラスト摺動面(35)に発生する摩擦力が増大して電動機の消費電力が増大するおそれがある。
【0038】
ここで、駆動軸(60)の軸受けへの潤滑油の供給量不足は、短時間であっても軸受けを致命的に損傷させて圧縮機が正常に稼働しなくなるおそれがある。一方、溝用連通路(85)を介した油溝(80)への潤滑油の供給量の不足は、短時間であればスラスト摺動面(35,45)のシール不足によって一時的に性能は低下するものの致命的な損傷を負うことがない。つまり、駆動軸(60)の軸受けへの給油不足は、油溝(80)への給油不足に比べて早急に手立てを講じる必要がある。
【0039】
これに対し、第8の発明では、溝用連通路(85)の潤滑油の流入口(88)が軸受用給油通路(70)の潤滑油の流入口(76)よりも上方に形成されている。そのため、ケーシング(15)内の油溜まり(18)の潤滑油量が減少すると、まず、油溜まり(18)の油面が溝用連通路(85)の流入口(88)を下回り、油溝(80)へ潤滑油が供給されなくなる。その結果、潤滑油が冷媒と共にケーシング(15)の外部へ吐出される量が少なくなり、ケーシング(15)内の油溜まり(18)の油面の低下が抑制される。
【発明の効果】
【0040】
上記第1の発明では、可動スクロール(40)の可動側スラスト摺動面(45)、又は固定スクロール(30)の固定側スラスト摺動面(35)に、油溝(80)が形成されている。また、圧縮機構(20)の軸受けに潤滑油を供給する軸受用給油通路(70)は、この油溝(80)とは非連通状態となっている。このため、圧縮機構(20)の運転中に可動スクロール(40)が傾いて油溝(80)の圧力が急激に低下しても、軸受用給油通路(70)の圧力は変化しない。
【0041】
ここで、仮に油溝(80)と軸受用給油通路(70)が互いに連通しているとすると、油溝(80)の圧力が急激に低下したときには、それに伴って軸受用給油通路(70)の圧力も低下する。そして、軸受用給油通路(70)の圧力が低下すると、圧縮機構(20)の軸受けから軸受用給油通路(70)へ潤滑油が逆流し、軸受けを潤滑するための潤滑油が不足するおそれがある。
【0042】
これに対し、上記第1の発明では、軸受用給油通路(70)が油溝(80)と連通しておらず、油溝(80)の圧力が急激に低下しても、軸受用給油通路(70)の圧力は変化しない。従って、上記第1の発明によれば、可動スクロール(40)が傾いて油溝(80)の圧力が急激に低下した場合でも、圧縮機構(20)の軸受けから軸受用給油通路(70)へ潤滑油が逆流することはなく、軸受用給油通路(70)を通じて圧縮機構(20)の軸受けに潤滑油を確実に供給し続けることができる。その結果、圧縮機構(20)の軸受けの潤滑を常に確実に行うことができ、焼き付き等のトラブルを未然に防いでスクロール圧縮機(10)の信頼性を向上させることができる。
【0043】
第2の発明では、駆動軸(60)によって駆動される給油ポンプ(75)から吐出された潤滑油が、油溝(80)とは連通しない軸受用給油通路(70)を通って、圧縮機構(20)の軸受けに供給される。このため、圧縮機構(20)の運転中に可動スクロール(40)が傾いて油溝(80)の圧力が急激に低下した状態でも、圧縮機構(20)の軸受けに潤滑油を安定して供給することができる。従って、この発明によれば、油溝(80)の圧力とは無関係に潤滑油を圧縮機構(20)の軸受けへ確実に供給でき、スクロール圧縮機(10)の信頼性を向上させることができる。
【0044】
上記第3の発明では、溝用連通路(85)に絞り部が設けられる。このため、可動スクロール(40)が傾いて可動側スラスト摺動面(45)と固定側スラスト摺動面(35)のクリアランスが拡大した状態でも、溝用連通路(85)における潤滑油の流量は、絞り部によって制限される。
【0045】
ここで、圧縮機構(20)の運転中に可動スクロール(40)が傾くと、可動側スラスト摺動面(45)と固定側スラスト摺動面(35)の隙間を潤滑油が通過する際の圧力損失が小さくなり、スラスト摺動面(35,45)に作用する圧力が油溝(80)の潤滑油の圧力と同程度にまで上昇する場合がある。その場合には、可動スクロール(40)を固定スクロール(30)から引き離そうとする力が大きくなり、圧縮室(521)の気密性が低下するおそれがある。
【0046】
これに対し、第3の発明では、溝用連通路(85)に絞り部が設けられており、可動スクロール(40)が傾いた状態でも、溝用連通路(85)から油溝(80)へ流入する潤滑油の流量が低く抑えられ、油溝(80)の圧力が低く抑えられる。従って、圧縮機構(20)の運転中に可動スクロール(40)が傾いた場合でも、スラスト摺動面(35,45)に作用する圧力は低く抑えられ、可動スクロール(40)を固定スクロール(30)から引き離そうとする力が過大になることはない。一方、可動スクロール(40)には、可動スクロール(40)を固定スクロール(30)に押し付けるための押付け力が作用している。このため、圧縮機構(20)の運転中に傾いた可動スクロール(40)は、この押付け力を受けて速やかに元の姿勢に戻る。従って、この発明によれば、圧縮機構(20)の運転中に傾いた可動スクロール(40)を速やかに元の姿勢に戻すことができ、圧縮室(521)の気密性が確保してスクロール圧縮機(10)の性能低下を抑えることができる。
【0047】
上記第4の発明では、溝用連通路(85)内に外周部に螺旋溝(89e)が形成された棒状部材(89)を挿入するだけで、溝用連通路(85)における潤滑油の流量を制限する絞り部を容易に形成することができる。また、棒状部材(89)の外周部の螺旋溝(89e)の断面形状を変更するだけで溝用連通路(85)の通路断面積を容易に変更することができる。つまり、絞り部を上記棒状部材(89)によって構成することにより、設計自由度が向上し、容易に設計を変更することができる。
【0048】
また、上述のように外周部に螺旋溝(89e)が形成された棒状部材(89)によって溝用連通路(85)における潤滑油の流量を制限する絞り部を構成する場合、十分な絞り効果を得るためには、螺旋溝(89e)によって形成される狭通路の長さを或程度長くすることが必要となる。しかし、棒状部材(89)の長さを長くして狭通路の長さを長くすると、棒状部材(89)を設置するために長いスペースが必要となる上、設置作業に手間取るおそれがある。
【0049】
これに対し、第5の発明では、溝用連通路(85)内の複数箇所に絞り部を構成する棒状部材(89)を設けることとしたため、一つの棒状部材(89)の長さが短くても狭通路の合計長さを長くすることができる。よって、溝用連通路(85)における潤滑油の流量を十分に制限することができる。言い換えると、溝用連通路(85)内の複数箇所に棒状部材(89)を設けることにより、各棒状部材(89)の長さを短くすることができる。従って、棒状部材(89)を設置するために長いスペースを確保する必要がなく、棒状部材(89)の設置を容易に行うことができる。
【0050】
上記第6の発明では、軸受け(55)と固定スクロール(30)との両方に溝用連通路(85)の一部を形成する連通孔(83,81)を形成してそれぞれに絞り部を構成する棒状部材(89)を設けることとしたため、一つの棒状部材(89)及び連通孔(83,81)の長さが短くても狭通路の合計長さを長くすることができる。よって、溝用連通路(85)における潤滑油の流量を十分に制限することができる。言い換えると、軸受け(55)と固定スクロール(30)との両方に連通孔(83,81)を形成してそれぞれに棒状部材(89)を設けることにより、各棒状部材(89)の長さを短くすることができる。従って、棒状部材(89)を設置するために長いスペースを確保する必要がなく、棒状部材(89)の設置を容易に行うことができる。
【0051】
上記第7の発明では、ケーシング(15)と電動機(50)との間に設けられて、溝用連通路(85)の一部を形成する連絡管(84)を、樹脂材料によって形成された樹脂配管又は外周面が樹脂材料によって被覆された金属配管によって構成することとした。これにより、連絡管(84)を電動機(50)から離して設けなくても絶縁を確保することができるため、ケーシング(15)の径を小さくすることができる。つまり、スクロール圧縮機の小型化を図ることができる。
【0052】
上記第8の発明では、溝用連通路(85)の潤滑油の流入口(88)が軸受用給油通路(70)の潤滑油の流入口(76)よりも上方に設けられている。このため、ケーシング(15)内の油溜まり(18)の油面が低下しても、まず、油溝(80)へ潤滑油が供給されなくなることにより、冷媒と共にケーシング(15)の外部へ吐出される潤滑油量が低減される。その結果、ケーシング(15)内の油溜まり(18)の油面の低下が抑制される。従って、第8の発明によれば、ケーシング(15)内の油溜まり(18)の油面が低下し始めても、油溝(80)への給油を停止することによって油面の低下を抑制することができる。その結果、ケーシング(15)内の油溜まり(18)の油面が軸受用給油通路(70)の潤滑油の流入口(76)よりも下方の位置まで低下しないように油面の低下を抑制することができ、駆動軸(60)の軸受けへの給油を確保することができる。つまり、駆動軸(60)の軸受けへの給油を油溝(80)への給油よりも優先させることによって駆動軸(60)の軸受けの焼き付きによる軸受けの致命的な損傷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実施形態1のスクロール圧縮機の全体の構造を示す縦断面図である。
【図2】実施形態1のスクロール圧縮機の要部の構造を示す縦断面図である。
【図3】実施形態1のスクロール圧縮機の圧縮機構の構造を示す横断面図である。
【図4】実施形態2のスクロール圧縮機の要部の構造を示す縦断面図である。
【図5】実施形態3のスクロール圧縮機の全体の構造を示す縦断面図である。
【図6】実施形態3のスクロール圧縮機の第1及び第2接続用通路の構造を示す縦断面図である。
【図7】実施形態3のスクロール圧縮機の第3接続用通路の構造を示す縦断面図である。
【図8】実施形態3のスクロール圧縮機の連絡管の構造を示す縦断面図である。
【図9】従来のスクロール圧縮機の要部の構造を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0055】
《発明の実施形態1》
本発明の実施形態1について説明する。本実施形態のスクロール圧縮機(10)は、全密閉圧縮機である。このスクロール圧縮機(10)は、冷凍サイクルを行う冷媒回路に接続され、冷媒回路の冷媒を吸入して圧縮する。
【0056】
〈スクロール圧縮機の全体構成〉
図1に示すように、スクロール圧縮機(10)では、ケーシング(15)の内部空間に、圧縮機構(20)と、電動機(50)と、下部軸受部材(55)と、駆動軸(60)とが収容されている。ケーシング(15)は、縦長の円筒状に形成された密閉容器である。ケーシング(15)の内部空間では、上から下へ向かって順に、圧縮機構(20)と電動機(50)と下部軸受部材(55)とが配置されている。また、駆動軸(60)は、その軸方向がケーシング(15)の高さ方向に沿う姿勢で配置されている。なお、圧縮機構(20)の詳細な構造については、後述する。
【0057】
ケーシング(15)には、吸入管(16)と吐出管(17)とが取り付けられている。吸入管(16)及び吐出管(17)は、何れもケーシング(15)を貫通している。吸入管(16)は、圧縮機構(20)に接続されている。吐出管(17)は、ケーシング(15)の内部空間における電動機(50)と圧縮機構(20)の間の部分に開口している。
【0058】
下部軸受部材(55)は、中央円筒部(56)とアーム部(57)とを備えている。図1では一つしか図示されていないが、下部軸受部材(55)には、三つのアーム部(57)が設けられている。中央円筒部(56)は、概ね円筒状に形成されている。各アーム部(57)は、中央円筒部(56)の外周面から外側へ延びている。下部軸受部材(55)では、三つのアーム部(57)が概ね等角度間隔で配置されている。各アーム部(57)の突端部は、ケーシング(15)に固定されている。中央円筒部(56)の上端付近には、軸受メタル(58)が挿入されている。この軸受メタル(58)には、後述する駆動軸(60)の副ジャーナル部(67)が挿通されている。中央円筒部(56)は、副ジャーナル部(67)を支持するジャーナル軸受を構成している。
【0059】
電動機(50)は、固定子(51)と回転子(52)とを備えている。固定子(51)は、ケーシング(15)に固定されている。回転子(52)は、固定子(51)と同軸に配置されている。この回転子(52)には、後述する駆動軸(60)の主軸部(61)が挿通されている。
【0060】
駆動軸(60)には、主軸部(61)と、バランスウェイト部(62)と、偏心部(63)とが形成されている。バランスウェイト部(62)は、主軸部(61)の軸方向の途中に配置されている。主軸部(61)は、バランスウェイト部(62)よりも下側の部分が電動機(50)の回転子(52)を貫通している。また、主軸部(61)では、バランスウェイト部(62)よりも上側の部分が主ジャーナル部(64)を構成し、回転子(52)を貫通する部分よりも下側に副ジャーナル部(67)が形成されている。主ジャーナル部(64)は、ハウジング(25)の中央膨出部(27)に設けられた軸受メタル(28)に挿通されている。副ジャーナル部(67)は、下部軸受部材(55)の中央円筒部(56)に設けられた軸受メタル(58)に挿通されている。
【0061】
偏心部(63)は、主ジャーナル部(64)よりも小径の円柱状に形成され、主ジャーナル部(64)の上端面に突設されている。偏心部(63)の軸心は、主ジャーナル部(64)の軸心(即ち、主軸部(61)の軸心)と平行で、且つ主ジャーナル部(64)の軸心に対して偏心している。偏心部(63)は、可動スクロール(40)の円筒部(43)に設けられた軸受メタル(44)に挿入されている。
【0062】
駆動軸(60)には、給油通路(77)が形成されている。この給油通路(77)は、一つの主通路(74)と三つの分岐通路(71〜73)とを備えている。主通路(74)は、駆動軸(60)の軸心に沿って延びており、その一端が主軸部(61)の下端に、その他端が偏心部(63)の上端面に、それぞれ開口している。第1分岐通路(71)は、偏心部(63)に形成されている。この第1分岐通路(71)は、主通路(74)から偏心部(63)の半径方向の外側に延びており、偏心部(63)の外周面に開口している。第2分岐通路(72)は、主ジャーナル部(64)に形成されている。この第2分岐通路(72)は、主通路(74)から主ジャーナル部(64)の半径方向の外側に延びており、主ジャーナル部(64)の外周面に開口している。第3分岐通路(73)は、副ジャーナル部(67)に形成されている。この第3分岐通路(73)は、主通路(74)から副ジャーナル部(67)の半径方向の外側に延びており、副ジャーナル部(67)の外周面に開口している。
【0063】
駆動軸(60)の下端には、給油ポンプ(75)が取り付けられている。給油ポンプ(75)は、駆動軸(60)によって駆動されるトロコイドポンプである。この給油ポンプ(75)は、給油通路(77)の主通路(74)の始端付近に配置されている。また、給油ポンプ(75)は、下端に下方に向かって開口して潤滑油である冷凍機油を吸い込む吸込口(76)が形成されている。なお、給油ポンプ(75)は、トロコイドポンプに限定されるものではなく、駆動軸(60)によって駆動される容積型ポンプであればよい。従って、給油ポンプ(75)は、例えばギアポンプであってもよい。給油ポンプ(75)と給油通路(77)は、後述する圧縮機構(20)のジャーナル軸受に冷凍機油を供給する軸受用給油通路(70)を構成している。また、給油ポンプ(75)の吸込口(76)は軸受用給油通路(70)の冷凍機油の流入口を構成している。
【0064】
ケーシング(15)の底部には、潤滑油である冷凍機油が貯留されている。つまり、ケーシング(15)の底部には、油溜まり(18)が形成されている。駆動軸(60)が回転すると、給油ポンプ(75)が油溜まり(18)から冷凍機油を吸い込んで吐出し、給油ポンプ(75)から吐出された冷凍機油が主通路(74)を流れる。主通路(74)を流れる冷凍機油は、下部軸受部材(55)や圧縮機構(20)と駆動軸(60)の摺動箇所へ供給される。給油ポンプ(75)は容積型ポンプであるため、主通路(74)における冷凍機油の流量は、駆動軸(60)の回転速度に比例する。
【0065】
〈圧縮機構の構成〉
図2にも示すように、圧縮機構(20)は、ハウジング(25)と、固定スクロール(30)と、可動スクロール(40)とを備えている。また、圧縮機構(20)には、可動スクロール(40)の自転運動を規制するためのオルダム継手(24)が設けられている。
【0066】
ハウジング(25)は、厚肉の円板状に形成されており、その外周縁部がケーシング(15)に固定されている。ハウジング(25)の中央部には、中央凹部(26)と、環状凸部(29)とが形成されている。中央凹部(26)は、ハウジング(25)の上面に開口する円柱状の窪みである。環状凸部(29)は、中央凹部(26)の外周に沿って形成され、ハウジング(25)の上面から突出している。環状凸部(29)の突端面は、平坦面となっている。環状凸部(29)の突端面には、その周方向に沿ってリング状の凹溝が形成されており、この凹溝にシールリング(29a)が嵌め込まれている。
【0067】
ハウジング(25)には、中央膨出部(27)が形成されている。中央膨出部(27)は、中央凹部(26)の下側に位置して下方へ膨出している。中央膨出部(27)には、中央膨出部(27)を上下に貫通する貫通孔が形成されており、この貫通孔に軸受メタル(28)が挿入されている。中央膨出部(27)の軸受メタル(28)には、駆動軸(60)の主ジャーナル部(64)が挿通されている。そして、中央膨出部(27)は、主ジャーナル部(64)を支持するジャーナル軸受を構成している。
【0068】
ハウジング(25)の上には、固定スクロール(30)と可動スクロール(40)とが載置されている。固定スクロール(30)は、ボルト等によってハウジング(25)に固定されている。一方、可動スクロール(40)は、オルダム継手(24)を介してハウジング(25)に係合しており、ハウジング(25)に対して相対的に移動可能となっている。この可動スクロール(40)は、駆動軸(60)に係合して公転運動を行う。
【0069】
可動スクロール(40)は、可動側鏡板部(41)と、可動側ラップ(42)と、円筒部(43)とを一体に形成した部材である。可動側鏡板部(41)は、円板状に形成されている。可動側ラップ(42)は、渦巻き壁状に形成されており、可動側鏡板部(41)の前面(図1及び図2における上面)に突設されている。円筒部(43)は、円筒状に形成され、可動側鏡板部(41)の背面(図1及び図2における下面)に突設されている。
【0070】
可動スクロール(40)の可動側鏡板部(41)の背面は、ハウジング(25)の環状凸部(29)に設けられたシールリング(29a)と摺接する。一方、可動スクロール(40)の円筒部(43)は、ハウジング(25)の中央凹部(26)へ上方から挿入されている。円筒部(43)には、軸受メタル(44)が挿入されている。円筒部(43)の軸受メタル(44)には、後述する駆動軸(60)の偏心部(63)が下方から挿入されている。円筒部(43)は、偏心部(63)と摺動するジャーナル軸受を構成している。
【0071】
固定スクロール(30)は、固定側鏡板部(31)と、固定側ラップ(32)と、外周部(33)とを一体に形成した部材である。固定側鏡板部(31)は、円板状に形成されている。固定側ラップ(32)は、渦巻き壁状に形成されており、固定側鏡板部(31)の前面(図1及び図2における下面)に突設されている。外周部(33)は、固定側鏡板部(31)の外周部(33)から下方へ延びる厚肉のリング状に形成され、固定側ラップ(32)の周囲を囲っている。
【0072】
固定側鏡板部(31)には、吐出ポート(22)が形成されている。吐出ポート(22)は、固定側鏡板部(31)の中央付近に形成された貫通孔であって、固定側鏡板部(31)を厚さ方向に貫通している。また、固定側鏡板部(31)の外周付近には、吸入管(16)が挿入されている。
【0073】
圧縮機構(20)には、吐出ガス通路(23)が形成されている。この吐出ガス通路(23)は、その始端が吐出ポート(22)に連通している。図示しないが、吐出ガス通路(23)は、固定スクロール(30)からハウジング(25)に亘って形成されており、その他端がハウジング(25)の下面に開口している。
【0074】
圧縮機構(20)において、固定スクロール(30)と可動スクロール(40)は、固定側鏡板部(31)の前面と可動側鏡板部(41)の前面が互いに向かい合い、固定側ラップ(32)と可動側ラップ(42)が互いに噛み合うように配置されている。そして、圧縮機構(20)では、固定側ラップ(32)と可動側ラップ(42)とが互いに噛み合うことによって、複数の圧縮室(21)が形成される。
【0075】
また、圧縮機構(20)では、可動スクロール(40)の可動側鏡板部(41)と固定スクロール(30)の外周部(33)が互いに摺接する。具体的に、可動側鏡板部(41)では、その前面(図1及び図2における上面)のうち可動側ラップ(42)よりも外周側の部分が、固定スクロール(30)と摺接する可動側スラスト摺動面(45)となっている。一方、固定スクロール(30)の外周部(33)は、その突端面(図1及び図2における下面)が、可動スクロール(40)の可動側スラスト摺動面(45)と摺接する。外周部(33)では、その突端面のうち可動側スラスト摺動面(45)と摺接する部分が、固定側スラスト摺動面(35)となっている。
【0076】
図2及び図3に示すように、固定スクロール(30)の外周部(33)には、油溝(80)と接続用通路(86)とが形成されている。油溝(80)は、外周部(33)の固定側スラスト摺動面(35)に形成された凹溝であって、固定側ラップ(32)の周囲を囲うリング状に形成されている。接続用通路(86)の一端は、油溝(80)に連通している。接続用通路(86)は、その一端から外周部(33)の外周へ向かって延びる通路である。接続用通路(86)の他端付近には、後述するキャピラリチューブ(87)が接続されている。接続用通路(86)とキャピラリチューブ(87)は、溝用連通路(85)を構成している。
【0077】
キャピラリチューブ(87)は、内径が0.5〜1.0mm程度の細い銅管であって、絞り部を構成している。このキャピラリチューブ(87)は、ケーシング(15)の内面に沿って設けられている。具体的に、キャピラリチューブ(87)の上端部は、ハウジング(25)に形成された貫通孔に挿通され、固定スクロール(30)の外周部(33)に挿入されて接続用通路(86)に連通している。キャピラリチューブ(87)は、電動機(50)の固定子(51)に形成されたコアカット部に挿通され、油溜まり(18)にまで延びている。つまり、キャピラリチューブ(87)の下端は、ケーシング(15)の底部に貯留された冷凍機油に浸かっている。
【0078】
また、キャピラリチューブ(87)の下端開口(88)は、溝用連通路(85)に冷凍機油を流入させる流入口を構成している。このキャピラリチューブ(87)の下端開口(88)は、給油ポンプ(75)の吸込口(76)よりも上方に形成されている。本実施形態では、キャピラリチューブ(87)の下端開口(88)は、給油ポンプ(75)の吸込口(76)よりも10mm程度上方の高さ位置に形成されている。つまり、溝用連通路(85)の流入口は、軸受用給油通路(70)の冷凍機油の流入口よりも上方に形成されている。
【0079】
本実施形態において、接続用通路(86)とキャピラリチューブ(87)とで構成された溝用連通路(85)は、油溝(80)をケーシング(15)内の油溜まり(18)だけに接続している。従って、本実施形態において、駆動軸(60)に形成された給油通路(77)は、固定スクロール(30)に形成された油溝(80)とは非連通状態となっている。つまり、軸受用給油通路(70)が油溝(80)と非連通状態となっている。
【0080】
−運転動作−
スクロール圧縮機(10)の運転動作について説明する。
【0081】
〈冷媒を圧縮する動作〉
スクロール圧縮機(10)において、電動機(50)へ通電すると、駆動軸(60)によって可動スクロール(40)が駆動される。可動スクロール(40)は、その自転運動がオルダム継手(24)によって規制されており、自転運動は行わずに公転運動だけを行う。
【0082】
可動スクロール(40)が公転運動を行うと、吸入管(16)を通って圧縮機構(20)へ流入した低圧のガス冷媒が、固定側ラップ(32)及び可動側ラップ(42)の外周側端部付近から圧縮室(21)へ吸入される。可動スクロール(40)が更に移動すると、圧縮室(21)が吸入管(16)から遮断された閉じきり状態となり、その後、圧縮室(21)は、固定側ラップ(32)及び可動側ラップ(42)に沿ってそれらの内周側端部へ向かって移動してゆく。その過程で圧縮室(21)の容積が次第に減少し、圧縮室(21)内のガス冷媒が圧縮されてゆく。
【0083】
可動スクロール(40)の移動に伴って圧縮室(21)の容積が次第に縮小してゆくと、やがて圧縮室(21)は吐出ポート(22)に連通する。そして、圧縮室(21)内で圧縮された冷媒(即ち、高圧のガス冷媒)は、吐出ポート(22)を通って吐出ガス通路(23)へ流入し、その後にケーシング(15)の内部空間へ吐出される。ケーシング(15)の内部空間において、圧縮機構(20)から吐出された高圧のガス冷媒は、一旦は電動機(50)の固定子(51)よりも下方へ導かれ、その後に回転子(52)と固定子(51)の隙間などを通って上方へ流れ、吐出管(17)を通ってケーシング(15)の外部へ流出してゆく。
【0084】
ケーシング(15)の内部空間のうちハウジング(25)よりも下方の部分では、圧縮機構(20)から吐出された高圧ガス冷媒が流通しており、その圧力は高圧ガス冷媒の圧力と実質的に等しくなっている。従って、ケーシング(15)内の油溜まり(18)に貯留された冷凍機油の圧力も、高圧ガス冷媒の圧力と実質的に等しくなっている。
【0085】
一方、ケーシング(15)の内部空間のうちハウジング(25)よりも上方の部分は、図示しないが吸入管(16)と連通しており、その圧力が圧縮機構(20)へ吸入される低圧ガス冷媒の圧力と同程度となっている。従って、圧縮機構(20)では、可動スクロール(40)の可動側鏡板部(41)の外周付近の空間の圧力も、低圧ガス冷媒の圧力と同程度となっている。
【0086】
〈圧縮機構に対する給油動作〉
スクロール圧縮機(10)の運転中には、回転する駆動軸(60)によって給油ポンプ(75)が駆動され、ケーシング(15)の底部に貯留された冷凍機油が給油通路(77)の主通路(74)へ吸い上げられる。主通路(74)を流れる冷凍機油は、その一部が各分岐通路(71〜73)へ流入し、残りが主通路(74)の上端から流出する。
【0087】
第1分岐通路(71)へ流入した冷凍機油は、偏心部(63)と軸受メタル(44)の隙間へ供給され、偏心部(63)と軸受メタル(44)の潤滑や冷却に利用される。第2分岐通路(72)へ流入した冷凍機油は、主ジャーナル部(64)と軸受メタル(28)の隙間へ供給され、主ジャーナル部(64)と軸受メタル(28)の潤滑や冷却に利用される。第3分岐通路(73)へ流入した冷凍機油は、副ジャーナル部(67)と軸受メタル(58)の隙間へ供給され、副ジャーナル部(67)と軸受メタル(58)の潤滑や冷却に利用される。また、圧縮機構(20)では、可動スクロール(40)とオルダム継手(24)の摺動部分や、可動スクロール(40)と固定スクロール(30)の摺動部分にも冷凍機油が供給される。
【0088】
〈可動スクロールを押し付ける動作〉
本実施形態の圧縮機構(20)は、ケーシング(15)内の油溜まり(18)から供給された冷凍機油を利用して、可動スクロール(40)を固定スクロール(30)へ押し付けるように構成されている。
【0089】
具体的に、圧縮機構(20)では、可動側鏡板部(41)の背面がシールリング(29a)と摺接している。シールリング(29a)の内側に位置する中央凹部(26)には、給油通路(77)の主通路(74)の終端から流出した冷凍機油が存在する。この冷凍機油の圧力は、油溜まり(18)の冷凍機油の圧力と同程度となっている。そして、可動スクロール(40)では、可動側鏡板部(41)の背面のうちシールリング(29a)の内側に位置する部分と、円筒部(43)の表面とに、主通路(74)から流出した冷凍機油の圧力が作用する。このため、可動スクロール(40)には、固定スクロール(30)側へ向かう方向の力(本実施形態では上向きの力)である押付け力が作用する。その結果、圧縮機構(20)の運転中にも可動スクロール(40)が固定スクロール(30)に押し付けられた状態となり、圧縮室(21)の気密性が確保される。
【0090】
ところが、可動スクロール(40)に作用する押付け力が強くなり過ぎる場合がある。押付け力が強くなり過ぎると、可動スクロール(40)と固定スクロール(30)の間に作用する摩擦力が大きくなり、電動機(50)の消費電力が増加してしまう。
【0091】
これに対し、本実施形態のスクロール圧縮機(10)では、溝用連通路(85)を介して油溝(80)がケーシング(15)内の油溜まり(18)と連通しており、油溝(80)が高圧の冷凍機油で満たされた状態となっている。一方、油溝(80)に隣接する圧縮室(21)(即ち、ラップ(32,42)の最外周付近に形成された圧縮室(21))の圧力は、圧縮室(21)へ吸入される低圧冷媒の圧力と同程度であり、油溝(80)内の冷凍機油の圧力よりも低い。このため、油溝(80)内の冷凍機油は、可動側スラスト摺動面(45)と固定側スラスト摺動面(35)の隙間へ少しずつ流出し、これらスラスト摺動面(35,45)の潤滑に利用される。
【0092】
このように、本実施形態のスクロール圧縮機(10)では、可動側スラスト摺動面(45)と固定側スラスト摺動面(35)の隙間へ冷凍機油が確実に供給される。このため、可動スクロール(40)が固定スクロール(30)に強く押し付けられた状態でも、可動側スラスト摺動面(45)と固定側スラスト摺動面(35)に発生する摩擦力が過大になることはない。
【0093】
〈可動スクロールが傾いたときの動作〉
スクロール圧縮機(10)の可動スクロール(40)では、可動側鏡板部(41)の前面から突出した可動側ラップ(42)に圧縮室(21)の内圧が作用し、可動側鏡板部(41)の背面から突出した円筒部(43)に偏心部(63)からの荷重が作用する。可動側ラップ(42)に作用するガス圧と円筒部(43)に作用する荷重とは、それぞれの作用線が可動スクロール(40)の軸方向と直交し且つ互いに交わらない。このため、圧縮機構(20)の運転中には、可動スクロール(40)を傾けようとするモーメントが発生する。そして、可動スクロール(40)に作用する押付け力が充分に大きければ、このようなモーメントが作用しても可動スクロール(40)が傾くことはない。
【0094】
ところが、押付け力が充分に得られない運転状態では、可動スクロール(40)が傾き、可動側スラスト摺動面(45)と固定側スラスト摺動面(35)のクリアランスが拡大する場合がある。例えば、圧縮機構(20)へ吸入される低圧ガス冷媒と圧縮機構(20)から吐出された高圧ガス冷媒の圧力差が小さい運転状態や、駆動軸(60)の回転速度が非常に低くなる(例えば毎秒10〜20回転程度となる)運転状態では、充分な押付け力が得られないおそれがある。
【0095】
上述したように、圧縮機構(20)では、可動側鏡板部(41)の外周付近の空間の圧力が、圧縮機構(20)へ吸入される低圧ガス冷媒の圧力と同程度となっている。一方、可動スクロール(40)が傾いて可動側スラスト摺動面(45)と固定側スラスト摺動面(35)のクリアランスが拡大すると、これらスラスト摺動面(35,45)の隙間における冷凍機油の流通抵抗が小さくなる。このため、可動スクロール(40)が傾くと、油溝(80)から可動側鏡板部(41)の外周付近の空間へ多量の冷凍機油が噴出するおそれがある。
【0096】
また、可動スクロール(40)が傾くと、可動側スラスト摺動面(45)と固定側スラスト摺動面(35)の隙間を冷凍機油が通過する際の圧力損失が小さくなり、スラスト摺動面(35,45)に作用する圧力が油溝(80)の冷凍機油の圧力と同程度にまで上昇する場合がある。その場合には、可動スクロール(40)を固定スクロール(30)から引き離そうとする力が大きくなり、圧縮室(521)の気密性が低下するおそれがある。
【0097】
これに対し、本実施形態のスクロール圧縮機(10)では、溝用連通路(85)にキャピラリチューブ(87)が設けられている。そして、可動スクロール(40)が傾いて可動側スラスト摺動面(45)と固定側スラスト摺動面(35)のクリアランスが拡大した状態でも、溝用連通路(85)における冷凍機油の流量は、キャピラリチューブ(87)によって制限される。
【0098】
このように、本実施形態の圧縮機構(20)では、可動スクロール(40)が傾いた状態でも、溝用連通路(85)から油溝(80)へ流入する冷凍機油の流量が低く抑えられ、油溝(80)の圧力が低く抑えられる。従って、圧縮機構(20)の運転中に可動スクロール(40)が傾いた場合でも、スラスト摺動面(35,45)に作用する圧力は低く抑えられ、可動スクロール(40)を固定スクロール(30)から引き離そうとする力が過大になることはない。一方、可動スクロール(40)には、可動スクロール(40)を固定スクロール(30)に押し付けるための押付け力が作用している。このため、圧縮機構(20)の運転中に傾いた可動スクロール(40)は、この押付け力を受けて速やかに元の姿勢に戻る。
【0099】
ここで、冷凍機油が溝用連通路(85)の一端から他端に至るまでの圧力損失が低すぎる場合において、可動スクロール(40)が傾いて油溝(80)の圧力が低下すると、溝用連通路(85)における冷凍機油の流量が急激に増加し、溝用連通路(85)の終端から多量の冷凍機油が噴出することになる。一方、冷凍機油が溝用連通路(85)の一端から他端に至るまでの圧力損失が高すぎると、可動スクロール(40)の傾きが解消されてから油溝(80)の圧力が充分に上昇するまでに要する時間が長くなり、可動側スラスト摺動面(45)と固定側スラスト摺動面(35)の隙間への冷凍機油の供給量が不足するおそれがある。
【0100】
そこで、本実施形態では、溝用連通路(85)を接続用通路(86)とキャピラリチューブ(87)によって構成している。そして、本実施形態では、冷凍機油が溝用連通路(85)の一端から他端に至るまでの圧力損失が適切な値となるように、キャピラリチューブ(87)の内径や長さが設定される。
【0101】
〈油溜まりの油面の低下を抑制する動作〉
上述のように本実施形態のスクロール圧縮機(10)では、油溝(80)内の冷凍機油は、可動側スラスト摺動面(45)と固定側スラスト摺動面(35)の隙間へ少しずつ流出してこれらスラスト摺動面(35,45)の潤滑に利用される。潤滑に利用された冷凍機油の一部は、油溝(80)に隣接する圧縮室(21)内に流入し、ガス冷媒と共にケーシング(15)の内部空間へ吐出されて該内部空間に飛散する。ケーシング(15)の内部空間に飛散した冷凍機油は、ガス冷媒と共に一旦は電動機(50)の固定子(51)よりも下方へ導かれ、一部は落下して油溜まり(18)に溜まる一方、残りはガス冷媒と共に回転子(52)と固定子(51)の隙間などを通って上方へ流れ、吐出管(17)を通ってケーシング(15)の外部へ吐出されてゆく。
【0102】
上述のようにしてガス冷媒と共にケーシング(15)の外部へ吐出された冷凍機油は、冷媒と共にスクロール圧縮機(10)が接続される冷媒回路を循環して再びスクロール圧縮機(10)に吸入される。スクロール圧縮機(10)に吸入された冷凍機油は、圧縮されたガス冷媒と共にケーシング(15)の内部空間に吐出され、一部がケーシング(15)内の油溜まり(18)に返送される。
【0103】
ところで、運転状態によっては、スクロール圧縮機(10)のケーシング(15)内に冷凍機油が返送されにくくなることがある。例えば、蒸発器の温度が低いと冷凍機油の粘性が増大して冷凍機油が蒸発器に溜まりやすくなり、スクロール圧縮機(10)に返送されにくくなる。このような運転状態が続くと、ケーシング(15)内からガス冷媒と共に吐出される冷凍機油量がケーシング(15)内へ返送される冷凍機油量よりも多くなって油溜まり(18)の冷凍機油量が減少し、油面が低下してゆく。そして、ケーシング(15)内の油溜まり(18)の油面が給油ポンプ(75)の吸込口(76)(軸受用給油通路(70)の冷凍機油の流入口)及びキャピラリチューブ(87)の下端開口(88)(溝用連通路(85)の冷凍機油の流入口)よりも低下してしまうと、油溜まり(18)から圧縮機構(20)のジャーナル軸受及び油溝(80)に冷凍機油を供給することができなくなる。
【0104】
圧縮機構(20)のジャーナル軸受への冷凍機油の供給量が不足すると、ジャーナル軸受が焼き付きによって損傷するおそれがある。一方、油溝(80)への給油が不足すると、可動スクロール(40)の可動側スラスト摺動面(45)と固定スクロール(30)の固定側スラスト摺動面(35)に発生する摩擦力が増大して電動機の消費電力が増大するおそれがある。
【0105】
ここで、駆動軸(60)の軸受けへの冷凍機油の供給量不足は、短時間であってもジャーナル軸受を致命的に損傷させて圧縮機が正常に稼働しなくなるおそれがある。一方、油溝(80)への冷凍機油の供給量不足は、短時間であればスラスト摺動面(35,45)のシール不足によって一時的に性能は低下するものの致命的な損傷を負うことがない。つまり、圧縮機構(20)のジャーナル軸受への給油不足は、油溝(80)への給油不足に比べて早急に手立てを講じる必要がある。
【0106】
これに対し、本実施形態のスクロール圧縮機(10)では、溝用連通路(85)の冷凍機油の流入口であるキャピラリチューブ(87)の下端開口(88)が軸受用給油通路(70)の冷凍機油の流入口である給油ポンプ(75)の吸込口(76)よりも上方に設けられている。これにより、ケーシング(15)内の油溜まり(18)の冷凍機油量が減少すると、まず、油溜まり(18)の油面がキャピラリチューブ(87)の下端開口(88)を下回り、油溝(80)へ冷凍機油が供給されなくなる。このように、ケーシング(15)内の油溜まり(18)の油面が低下しても、まず、油溝(80)へ冷凍機油が供給されなくなることにより、冷媒と共にケーシング(15)の外部へ吐出される冷凍機油量が低減される。その結果、ケーシング(15)の外部へ吐出される冷凍機油量がケーシング(15)内に返送される冷凍機油量を上回り、ケーシング(15)内の油溜まり(18)の油面の低下が抑制される。これにより、ケーシング(15)内の油溜まり(18)の油面が軸受用給油通路(70)の吸込口(76)よりも下方の位置まで低下しないように油面の低下を抑制することができ、圧縮機構(20)のジャーナル軸受への給油が確保される。
【0107】
−実施形態1の効果−
本実施形態では、固定スクロール(30)の固定側スラスト摺動面(35)に油溝(80)が形成されている。また、圧縮機構(20)のジャーナル軸受に冷凍機油を供給する軸受用給油通路(70)は、この油溝(80)とは非連通状態となっている。このため、圧縮機構(20)の運転中に可動スクロール(40)が傾いて油溝(80)の圧力が急激に低下しても、軸受用給油通路(70)の圧力は変化しない。
【0108】
ここで、仮に油溝(80)と軸受用給油通路(70)が互いに連通しているとすると、油溝(80)の圧力が急激に低下したときには、それに伴って軸受用給油通路(70)の圧力も低下する。そして、軸受用給油通路(70)の圧力が低下すると、圧縮機構(20)のジャーナル軸受から軸受用給油通路(70)へ冷凍機油が逆流し、ジャーナル軸受を潤滑するための冷凍機油が不足するおそれがある。
【0109】
これに対し、本実施形態では、軸受用給油通路(70)が油溝(80)と連通しておらず、油溝(80)の圧力が急激に低下しても、軸受用給油通路(70)の圧力は変化しない。従って、本実施形態によれば、可動スクロール(40)が傾いて油溝(80)の圧力が急激に低下した場合でも、圧縮機構(20)のジャーナル軸受から軸受用給油通路(70)へ冷凍機油が逆流することはなく、軸受用給油通路(70)を通じて圧縮機構(20)のジャーナル軸受に冷凍機油を確実に供給し続けることができる。その結果、圧縮機構(20)のジャーナル軸受の潤滑を常に確実に行うことができ、焼き付き等のトラブルを未然に防いでスクロール圧縮機(10)の信頼性を向上させることができる。
【0110】
また、本実施形態では、駆動軸(60)によって駆動される給油ポンプ(75)から吐出された冷凍機油が、油溝(80)とは連通しない軸受用給油通路(70)を通って、圧縮機構(20)のジャーナル軸受に供給される。このため、圧縮機構(20)の運転中に可動スクロール(40)が傾いて油溝(80)の圧力が急激に低下した状態でも、圧縮機構(20)の軸受けに冷凍機油を安定して供給することができる。従って、本実施形態によれば、油溝(80)の圧力とは無関係に冷凍機油を圧縮機構(20)のジャーナル軸受へ確実に供給でき、ジャーナル軸受の焼き付き等のトラブルを確実に回避できる。
【0111】
上述したように、冷凍機油が溝用連通路(85)の一端から他端に至るまでの圧力損失が低すぎる場合は、可動スクロール(40)が傾いて可動側スラスト摺動面(45)と固定側スラスト摺動面(35)のクリアランスが拡大すると、溝用連通路(85)の終端から多量の冷凍機油が噴出する。また、冷凍機油が溝用連通路(85)の一端から他端に至るまでの圧力損失が高すぎる場合は、可動スクロール(40)の傾きが解消されてから油溝(80)の圧力が充分に上昇するまでの時間が長くなり、可動側スラスト摺動面(45)と固定側スラスト摺動面(35)の隙間への冷凍機油の供給量が不足するおそれがある。
【0112】
これに対し、本実施形態では、溝用連通路(85)の一部をキャピラリチューブ(87)で構成し、冷凍機油が溝用連通路(85)の一端から他端に至るまでの圧力損失を適切な値に設定している。このため、可動スクロール(40)が傾いた状態においても、溝用連通路(85)における冷凍機油の流量が過剰になるのを未然に防ぐことができる。その結果、可動スクロール(40)が傾いた場合でも、溝用連通路(85)から油溝(80)へ流入する冷凍機油の流量を制限することによって油溝(80)の圧力を低く抑えることができ、傾いた可動スクロール(40)を元の姿勢に速やかに戻すことができる。また、可動スクロール(40)が元の姿勢に戻った場合には、油溝(80)の圧力を速やかに上昇させて可動側スラスト摺動面(45)と固定側スラスト摺動面(35)の隙間への給油量を確保することができる。
【0113】
本実施形態のスクロール圧縮機(10)では、溝用連通路(85)の冷凍機油の流入口であるキャピラリチューブ(87)の下端開口(88)が軸受用給油通路(70)の冷凍機油の流入口である給油ポンプ(75)の吸込口(76)よりも上方に設けられている。そのため、ケーシング(15)内の油溜まり(18)の油面が低下しても、まず、油溝(80)へ冷凍機油が供給されなくなることにより、冷媒と共にケーシング(15)の外部へ吐出される冷凍機油量が低減される。その結果、ケーシング(15)の外部へ吐出される冷凍機油量がケーシング(15)内に返送される冷凍機油量を上回り、ケーシング(15)内の油溜まり(18)の油面の低下が抑制される。従って、本実施形態のスクロール圧縮機(10)によれば、ケーシング(15)内の油溜まり(18)の油面が低下し始めても、油溝(80)への冷凍機油の供給を停止することによって油溜まり(18)の油面が給油ポンプ(75)の流入口(88)よりも下方の位置まで低下しないように油面の低下を抑制することができ、圧縮機構(20)のジャーナル軸受への給油を確保することができる。つまり、圧縮機構(20)のジャーナル軸受への給油を油溝(80)への給油よりも優先させることによってジャーナル軸受の致命的な損傷を防止することができる。
【0114】
《発明の実施形態2》
本発明の実施形態2について説明する。ここでは、本実施形態のスクロール圧縮機(10)について、上記実施形態1と異なる点を説明する。
【0115】
図4に示すように、本実施形態の圧縮機構(20)では、固定スクロール(30)ではなく可動スクロール(40)に油溝(80)が形成されている。具体的に、本実施形態の油溝(80)は、可動スクロール(40)の可動側鏡板部(41)に形成されている。この油溝(80)は、可動側鏡板部(41)の可動側スラスト摺動面(45)に形成された凹溝であって、可動側ラップ(42)の周囲を囲むようなリング状に形成されている。また、本実施形態では、固定スクロール(30)の固定側スラスト摺動面(35)に、接続用通路(86)の終端が開口している。この接続用通路(86)の終端は、可動スクロール(40)が移動しても油溝(80)と連通し続けることができるように、幅広に形成されている。
【0116】
本実施形態では、上記実施形態1と同様に、軸受用給油通路(70)が油溝(80)と非連通状態となり、ケーシング(15)内の油溜まり(18)と油溝(80)の圧力差だけに起因して冷凍機油が溝用連通路(85)を流れ、溝用連通路(85)の一部がキャピラリチューブ(87)で構成されている。従って、本実施形態によれば、上記実施形態1と同様の効果が得られる。
【0117】
《発明の実施形態3》
本発明の実施形態3について説明する。ここでは、本実施形態のスクロール圧縮機(10)について、上記実施形態1と異なる点を説明する。
【0118】
図5に示すように、本実施形態では、下部軸受部材(55)の中央円筒部(56)の構成が実施形態1と異なっている。具体的には、中央円筒部(56)は、駆動軸(60)の下端部を構成する副軸部(67)の上端から下端に亘って沿うように形成されている。また、中央円筒部(56)の上端部には凹部が形成され、該凹部に転がり軸受(54)が設けられている。この転がり軸受(54)には、駆動軸(60)の副軸部(67)が挿通されている。このような構成により、中央円筒部(56)は、副軸部(67)を支持する副軸受を構成している。
【0119】
また、本実施形態では、溝用連通路(85)が、固定スクロール(30)に形成された第1接続用通路(81)と、ハウジング(25)に形成された第2接続用通路(82)と、下部軸受部材(55)に形成された第3接続用通路(83)と、第2接続用通路(82)と第3接続用通路(83)とを連結する連絡管(84)とによって構成されている。
【0120】
図6に示すように、第1接続用通路(81)は、固定スクロール(30)の外周部(33)に形成され、該外周部(33)の内縁部において上下に延びる内縦連通孔(81a)と、上記外周部(33)において径方向に延びる横連通孔(81b)と、上記外周部(33)の外縁部において上下に延びる外縦連通孔(81c)とを有している。
【0121】
内縦連通孔(81a)は、上端が固定側鏡板部(31)の上面において開口する一方、下端が固定側スラスト摺動面(35)に形成された油溝(80)において開口している。内縦連通孔(81a)の上側端部を形成する壁部には雌ネジ(81d)が形成されている。内縦連通孔(81a)には、後述する棒状部材(89)が設けられ、内縦連通孔(81a)の上端部は棒状部材(89)の頭部(89d)によって閉塞される。
【0122】
横連通孔(81b)は、内縦連通孔(81a)の雌ネジ(81d)の直ぐ下方の位置から径方向外側に延び、外側端は固定スクロール(30)の外周面に開口している。なお、横連通孔(81b)の外側端の開口は、栓部材によって閉塞されている。
【0123】
外縦連通孔(81c)は、横連通孔(81b)の外側端の僅かに内側寄りの位置から下方に向かって延び、下端は固定スクロール(30)の下端面に開口している。
【0124】
このような構成により、内縦連通孔(81a)と横連通孔(81b)と外縦連通孔(81c)とは順に連通して油溝(80)と固定スクロール(30)の下端面とを繋ぐ第1接続用通路(81)を構成する。
【0125】
第2接続用通路(82)は、ハウジング(25)の外周部において上下に延びるように形成されている。第2接続用通路(82)の上端は、ハウジング(25)の上端面に開口し、第1接続用通路(81)の外縦連通孔(81c)に対応して第1接続用通路(81)と連通するように形成されている。一方、第2接続用通路(82)の下端は、ハウジング(25)の下端面に開口している。また、第2接続用通路(82)は、上記第1接続用通路(81)の外縦連通孔(81c)よりも僅かに大径に形成されると共に、下端部が他の部分よりも僅かに小径に形成されている。該小径部分には、後述する連絡管(84)の上端部(84a)と接続管(91)の上側部分(91b)とが圧入される。このような構成により、第2接続用通路(82)は、第1接続用通路(81)と連絡管(84)とを繋いでいる。
【0126】
図7に示すように、第3接続用通路(83)は、下部軸受部材(55)の中央円筒部(56)において上下に延びる内縦連通孔(83a)と、中央円筒部(56)からアーム部(57)に亘って径方向に延びる横連通孔(83b)と、アーム部(57)の外縁部において上下に延びる外縦連通孔(83c)とを有している。
【0127】
内縦連通孔(83a)は、上端が凹部に繋がり、該凹部に設けられる転がり軸受(54)の下方において開口する一方、下端が油溜まり(18)に位置する中央円筒部(56)の下端に開口している。また、内縦連通孔(83a)の上側端部を形成する壁面は、雌ネジ(83d)に形成されている。内縦連通孔(83a)には、後述する棒状部材(89)が設けられ、内縦連通孔(83a)の上端部は棒状部材(89)の頭部(89d)によって閉塞される。
【0128】
横連通孔(83b)は、内縦連通孔(83a)の上側端部を形成する雌ネジ(83d)の直ぐ下方の位置から径方向外側に延び、外側端はアーム部(57)の外周面に開口している。なお、横連通孔(83b)の外側端の開口は、栓部材によって閉塞されている。外縦連通孔(83c)は、上端がアーム部(57)の上端面に開口する一方、下端がアーム部(57)の下端面に開口し、横連通孔(83b)の外側端の僅かに内側寄りの位置で該横連通孔(83b)と連通している。
【0129】
外縦連通孔(83c)の上部には連絡管(84)の下端部(84b)が挿入される一方、下端の開口は、栓部材によって閉塞されている。また、外縦連通孔(83c)の上側端部は、中程の本体部分よりも大径な大径部に形成されている。該大径部は、その上側半分が下側半分よりもさらに大径に形成され、下側半分にはOリング(92)が設置され、上側半分には押さえ部材(93)の突出部(93a)が挿入されている。
【0130】
押さえ部材(93)は、連絡管(84)が挿通される挿通孔(93b)とボルトが挿通されるボルト孔(93c)とが形成された金属の板状片によって構成されている。押さえ部材(93)の挿通孔(93b)の周壁部の下端部は、他の部分よりも下方に突出した突出部(93a)に構成されている。押さえ部材(93)は、突出部(93a)がOリング(92)を押さえるように外縦連通孔(83c)の大径部に挿入された状態で、ボルト孔(93c)に挿通されたボルトによって下部軸受部材(55)のアーム部(57)に締結されている。このような押さえ部材(93)によって外縦連通孔(83c)に押さえ付けられたOリング(92)の内部に連絡管(84)が挿通されることにより、ケーシング(15)の内部空間と外縦連通孔(83c)との間がシールされる。
【0131】
このような構成により、内縦連通孔(83a)と横連通孔(83b)と外縦連通孔(83c)とは、順に連通して油溜まり(18)と連絡管(84)とを繋ぐ第3接続用通路(83)を構成する。
【0132】
連絡管(84)は、樹脂材料によって形成された樹脂配管によって構成されている。図8に示すように、連絡管(84)は、上端部(84a)が中程の本体部分よりも大径に形成される一方、下端部(84b)が本体部分よりも小径に形成されている。大径に形成された上端部(84a)には、ステンレス鋼によって形成された接続管(91)の下側部分(91a)が圧入されている。
【0133】
接続管(91)は、軸方向中央より下方の下側部分(91a)が上方の上側部分(91b)よりも小径に形成されている。具体的には、接続管(91)は、下側部分(91a)の外径が連絡管(84)の上端部(84a)の内径よりも僅かに大径に且つ連絡管(84)の上端部(84a)の外径よりも小径に形成される一方、上側部分(91b)の外径が連絡管(84)の上端部(84a)の外径に略等しくなるように形成されている。
【0134】
図6に示すように、接続管(91)の下側部分(91a)が圧入された連絡管(84)の上端部(84a)は、第2接続用通路(82)の下端部の小径部分に圧入されている。そのため、連絡管(84)の上端部(84a)と接続管(91)の上側部分(91b)とが第2接続用通路(82)の下端部の小径部分の壁面に当接し、ケーシング(15)の内部空間と第2接続用通路(82)との間がこの二つの部材によってシールされる。これにより、第2接続用通路(82)は、ケーシング(15)の内部空間と連通することなく、接続管(91)を介して連絡管(84)の内部と連通している。
【0135】
一方、図7に示すように、連絡管(84)の下端部(84b)は、第3接続用通路(83)の外縦連通孔(83c)の上部に挿入されている。具体的には、連絡管(84)の下端部(84b)は、押さえ部材(93)の挿通孔(93b)とOリング(92)の内側に挿通され、先端が第3接続用通路(83)の外縦連通孔(83c)の横連通孔(83b)との連通部付近に位置している。このように連絡管(84)がOリング(92)の内側に挿通されて第3接続用通路(83)の外縦連通孔(83c)に挿入されることにより、第3接続用通路(83)は、ケーシング(15)の内部空間と連通することなく、連絡管(84)の内部と連通している。
【0136】
図6及び図7に拡大して示すように、第1接続用通路(81)の内縦連通孔(81a)及び第3接続用通路(83)の内縦連通孔(83a)のそれぞれに設けられた棒状部材(89)は、先端側から基端側に向かって連続して形成された本体部(89a)と小径部(89b)とネジ部(89c)と頭部(89d)とを有している。
【0137】
本体部(89a)は、円柱形状の棒状体によって構成され、外周部に幅が0.5〜1.0mm程度の細い螺旋溝(89e)が形成されている。このような構成の本体部(89a)により、各内縦連通孔(81a,83a)を形成する壁面との間に螺旋状の狭通路が形成される。小径部(89b)は、各内縦連通孔(81a,83a)よりも小径に形成され、各内縦連通孔(81a,83a)を形成する壁面との間に環状の通路を形成する。この環状の通路には、各横連通孔(81b,83b)の内側端が開口している。ネジ部(89c)は、円柱形状の棒状体によって構成され、外周部に各内縦連通孔(81a,83a)の上側端部を形成する雌ネジ(81d,83d)に螺合する雄ネジが形成されている。頭部(89d)は、各内縦連通孔(81a,83a)よりも大径な円板状に形成されている。
【0138】
上述のような棒状部材(89)により、該棒状部材(89)が設けられた各内縦連通孔(81a,83a)には、本体部(89a)によって螺旋状の狭通路が形成される。これにより、各内縦連通孔(81a,83a)に流入した冷凍機油は、棒状部材(89)の外周側に形成された螺旋状の狭通路において流量が制限される。つまり、棒状部材(89)は、溝用連通路(85)における冷凍機油の流量を制限するための絞り部を構成する。
【0139】
また、本実施形態では、第1〜第3接続用通路(81〜83)と連絡管(84)とで構成された溝用連通路(85)は、油溝(80)をケーシング(15)内の油溜まり(18)だけに接続している。従って、本実施形態においても、上記実施形態1と同様に、駆動軸(60)に形成された給油通路(77)は、固定スクロール(30)に形成された油溝(80)とは非連通状態となっている。つまり、軸受用給油通路(70)が油溝(80)と非連通状態となり、ケーシング(15)内の油溜まり(18)と油溝(80)の圧力差だけに起因して冷凍機油が溝用連通路(85)を流れる。
【0140】
具体的には、油溜まり(81)の冷凍機油は、第3接続用通路(83)、連絡管(84)、第2接続用通路(82)、第1接続用通路(81)の順に溝用連通路(858)を流れ、油溝(80)に供給される。これにより、油溝(80)が高圧の冷凍機油で満たされた状態となり、該油溝(80)内の冷凍機油が、可動側スラスト摺動面(45)と固定側スラスト摺動面(35)の隙間へ少しずつ流出し、これらスラスト摺動面(35,45)の潤滑に利用される。
【0141】
このように、本実施形態においても、可動側スラスト摺動面(45)と固定側スラスト摺動面(35)の隙間へ冷凍機油が確実に供給される。このため、可動スクロール(40)が固定スクロール(30)に強く押し付けられた状態でも、可動側スラスト摺動面(45)と固定側スラスト摺動面(35)に発生する摩擦力が過大になることはない。
【0142】
また、本実施形態においても、溝用連通路(85)には、冷凍機油の流量を制限する絞り部となる棒状部材(89)が設けられている。そのため、本実施形態においても、可動スクロール(40)が傾いて可動側スラスト摺動面(45)と固定側スラスト摺動面(35)のクリアランスが拡大した状態でも、溝用連通路(85)に流入した冷凍機油は、棒状部材(89)の外周側に形成された螺旋状の狭通路において流量が制限される。
【0143】
このように、本実施形態においても、可動スクロール(40)が傾いた状態でも、溝用連通路(85)から油溝(80)へ流入する冷凍機油の流量が低く抑えられ、油溝(80)の圧力が低く抑えられる。従って、圧縮機構(20)の運転中に可動スクロール(40)が傾いた場合でも、スラスト摺動面(35,45)に作用する圧力は低く抑えられ、可動スクロール(40)を固定スクロール(30)から引き離そうとする力が過大になることはない。一方、可動スクロール(40)には、可動スクロール(40)を固定スクロール(30)に押し付けるための押付け力が作用している。このため、圧縮機構(20)の運転中に傾いた可動スクロール(40)は、この押付け力を受けて速やかに元の姿勢に戻る。従って、本実施形態によっても、上記実施形態1と同様の効果が得られる。
【0144】
また、本実施形態によれば、溝用連通路(85)内に外周部に螺旋溝(89e)が形成された棒状部材(89)を挿入するだけで、溝用連通路(85)における冷凍機油の流量を制限する絞り部を容易に形成することができる。また、棒状部材(89)の外周部の螺旋溝(89e)の断面形状を変更するだけで溝用連通路(85)の通路断面積を容易に変更することができる。つまり、絞り部を上記棒状部材(89)によって構成することにより、設計自由度が向上し、容易に設計を変更することができる。
【0145】
また、上述のように外周部に螺旋溝(89e)が形成された棒状部材(89)によって溝用連通路(85)における冷凍機油の流量を制限する絞り部を構成する場合、十分な絞り効果を得るためには、螺旋溝(89e)によって形成される狭通路の長さを或程度長くすることが必要となる。しかし、棒状部材(89)の長さを長くして狭通路の長さを長くすると、棒状部材(89)を設置するために長いスペースが必要となる上、設置作業に手間取るおそれがある。
【0146】
これに対し、本実施形態では、溝用連通路(85)内の複数箇所に絞り部を構成する棒状部材(89)を設けることとしたため、一つの棒状部材(89)の長さが短くても狭通路の合計長さを長くすることができる。よって、溝用連通路(85)における潤滑油の流量を十分に制限することができる。言い換えると、溝用連通路(85)内の複数箇所に棒状部材(89)を設けることにより、各棒状部材(89)の長さを短くすることができる。従って、棒状部材(89)を設置するために長いスペースを確保する必要がなく、棒状部材(89)の設置を容易に行うことができる。
【0147】
さらに、本実施形態では、下部軸受け部材(55)と固定スクロール(30)との両方に溝用連通路(85)の一部を形成する連通孔となる第3接続用通路(83)及び第1接続用通路(81)を形成し、それぞれに絞り部を構成する棒状部材(89)を設けることとしたため、一つの棒状部材(89)及び連通孔(第3接続用通路(83)及び第1接続用通路(81))の長さが短くても狭通路の合計長さを長くすることができる。よって、溝用連通路(85)における冷凍機油の流量を十分に制限することができる。言い換えると、下部軸受け部材(55)と固定スクロール(30)との両方に連通孔(第3接続用通路(83)及び第1接続用通路(81))を形成してそれぞれに棒状部材(89)を設けることにより、各棒状部材(89)の長さを短くすることができる。従って、棒状部材(89)を設置するために長いスペースを確保する必要がなく、棒状部材(89)の設置を容易に行うことができる。
【0148】
また、本実施形態では、溝用連通路(85)の一部を形成する連絡管(84)が、ケーシング(15)と電動機(50)との間に設けられている。このような電動機(50)の側方に設けられる連絡管(84)が金属製の配管である場合、絶縁が確保される距離だけ電動機(50)から離す必要があり、電動機(50)と配管との距離分だけケーシング(15)の径を大きくしなければならない。しかしながら、本実施形態では、電動機(50)の側方に設けられる連絡管(84)が、樹脂材料によって形成された樹脂配管によって構成されている。そのため、連絡管(84)を電動機(50)から離して設けなくても絶縁を確保することができる。従って、ケーシング(15)の径を小さくすることができる。つまり、スクロール圧縮機の小型化を図ることができる。
【0149】
なお、連絡管(84)は、上述のように全てを樹脂材料によって形成するのではなく、金属配管の外周面のみを樹脂材料によって被覆したものによって構成することとしてもよい。
【0150】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0151】
以上説明したように、本発明は、冷媒等を圧縮するスクロール圧縮機について有用である。
【符号の説明】
【0152】
10 スクロール圧縮機
15 ケーシング
18 油溜まり
20 圧縮機構
30 固定スクロール
35 固定側スラスト摺動面
40 可動スクロール
41 可動側鏡板部(鏡板部)
45 可動側スラスト摺動面
60 駆動軸
70 給油通路(軸受用給油通路)
75 給油ポンプ
80 油溝
85 溝用連通路
87 キャピラリチューブ(絞り部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング(15)と、該ケーシング(15)に収容され、固定スクロール(30)及び可動スクロール(40)を有する圧縮機構(20)と、上記ケーシング(15)に収容され、上記可動スクロール(40)に係合する駆動軸(60)とを備え、
上記圧縮機構(20)は、圧縮した流体を上記ケーシング(15)内に吐出すると共に、上記可動スクロール(40)を上記固定スクロール(30)に押し付けるための押付け力を発生させるように構成されているスクロール圧縮機であって、
上記可動スクロール(40)の鏡板部(41)と上記固定スクロール(30)とには、互いに摺接する可動側スラスト摺動面(45)と固定側スラスト摺動面(35)とが形成され、
上記可動側スラスト摺動面(45)又は上記固定側スラスト摺動面(35)には、潤滑油が流入する油溝(80)が形成され、
上記油溝(80)とは非連通であり、上記圧縮機構(20)に設けられた上記駆動軸(60)の軸受けに上記ケーシング(15)内の油溜まり(18)の潤滑油を供給する軸受用給油通路(70)と、
上記油溝(80)を上記ケーシング(15)内の油溜まり(18)に接続する溝用連通路(85)とを備えている
ことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】
請求項1において、
上記軸受用給油通路(70)には、上記駆動軸(60)によって駆動され、上記ケーシング(15)内の油溜まり(18)から潤滑油を吸い込んで吐出する給油ポンプ(75)が設けられ、
上記溝用連通路(85)は、上記ケーシング(15)内の油溜まり(18)と上記油溝(80)の圧力差だけによって潤滑油が流通するように構成されている
ことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項3】
請求項2において、
上記溝用連通路(85)には、潤滑油の流量を制限するための絞り部が設けられている
ことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項4】
請求項3において、
上記絞り部は、上記溝用連通路(85)内に挿入され、外周部に潤滑油を流すための螺旋溝(89e)が形成された棒状部材(89)によって形成されている
ことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項5】
請求項4において、
上記溝用連通路(85)の複数箇所に、上記棒状部材(89)が設けられている
ことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項6】
請求項5において、
上記圧縮機構(20)とは別個に設けられて上記駆動軸(60)を回転自在に支持する軸受け(55)を備え、
上記軸受け(55)と上記固定スクロール(30)とには、上記溝用連通路(85)の一部を形成する連通孔(83,81)がそれぞれ形成され、
上記各連通孔(83,81)に上記棒状部材(89)が設けられている
ことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一つにおいて、
上記駆動軸(60)を回転駆動する電動機(50)と、
上記ケーシング(15)と上記電動機(50)との間に設けられて上記溝用連通路(85)の一部を形成する連絡管(84)とを備え、
上記連絡管(84)は、樹脂材料によって形成された樹脂配管又は外周面が樹脂材料によって被覆された金属配管によって構成されている
ことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一つにおいて、
上記溝用連通路(85)の潤滑油の流入口(88)は、上記軸受用給油通路(70)の潤滑油の吸込口(76)よりも上方に形成されている
ことを特徴とするスクロール圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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