説明

スクロール圧縮機

【課題】スクロール圧縮機において、低資源かつ低コストで、十分に潤滑された状態で摺動されるスラスト軸受部を実現する。
【解決手段】スラスト軸受部を、揺動スクロール3とフレーム12の底部12aとの間に配設されたリング状のスラストプレート15と、揺動スクロール3の台板3aの底面の外周側に下方に突き出る状態で形成されたリング状のスラスト面とで構成する。揺動スクロール3の公転運動により、スラスト面がスラストプレート15からはみ出す面積が常に存在し、はみ出した面は油で満たされた空間に露出した後、再びスラストプレート15と摺動する。この動作が、1秒間に回転数と同数回繰り返されることにより、揺動スクロール3のスラスト面とスラストプレート15が潤滑された状態で摺動される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空調機および冷凍機等に利用されるスクロール圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、スクロール圧縮機では、揺動スクロールのスラスト面の摩耗や焼きつきを防止するため、フレームにすべり軸受を取り付け、揺動スクロールのスラスト面と摺動させる構造を採用している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
以下、特許文献1に記載された従来のスラスト軸受の構成について説明する。スラスト軸受は鋼の裏金付きの、例えばアルミ合金、鉛青銅合金などのすべり軸受で構成されており、フレームにリベットで取り付けられている。またスラスト軸受はリング状をしており、揺動スクロールの底面との摺動面すなわち上面には、内周側から外周側に向けて放射状に複数本の油溝が等間隔に設けられている。油溝の断面形状はほぼ矩形であって、角部は曲面となるように面取りされ、R状にダレ部を設けて摺動面の全面に油がいきわたりやすいようになっている。
【0004】
上述の従来のスラスト軸受は、スラスト面の摩耗や焼きつきの防止に有効である反面、フレームにリベットで取り付けているため、部品数が多くなり、またすべり軸受への油溝の加工やリベット孔の加工が難しく、コストアップの原因となっていた。
【0005】
これに対し、スラスト軸受を設けず、揺動スクロール自体を摺動性の良いアルミ合金などで構成し、台板の底面をスラスト軸受とすることが考えられる。しかしこのようにした場合、アルミ合金製の揺動スクロールの線膨張係数が鋳鉄製の固定スクロールに対し異なるため、圧縮機の運転中に圧縮部の温度が上昇すると、固定スクロールと揺動スクロールとの間に隙間が生じて冷媒ガスが漏れるという問題がある。
【0006】
さらに、固定スクロールと揺動スクロールを両方ともアルミ合金で構成することも考えられるが、この場合、鋳鉄に比較して強度が弱いことから、渦巻の歯厚を厚くしなければならず、また線膨張係数が大きいため運転可能な温度範囲が狭くなる。よって、固定スクロールと揺動スクロールを両方アルミ合金で構成することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平6−105079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、第一の目的は、低資源かつ低コストの構造で、十分に潤滑された状態で摺動されるスラスト軸受部を得ることである。
【0009】
また第二の目的は、揺動スクロールを固定スクロールと同素材で構成でき、圧縮部の温度上昇による漏れ隙間の発生しないスクロール圧縮機を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、この発明にかかるスクロール圧縮機は、密閉形のシェル内の上部に設けられ、台板上に渦巻歯が形成された固定スクロールと、固定スクロールとともに圧縮部を構成し、台板上に渦巻歯が形成され、底面の中心部に揺動軸受を有するボス部が形成された揺動スクロールと、揺動軸受を介して揺動スクロールを軸支する偏心軸部が上端に形成され、電動機により回転駆動される主軸と、有底円筒状をなし、外周がシェルの内周面に固着され、揺動スクロールを挟んで、開放側上端面に前記固定スクロールの台板が当接固定され、底部に前記主軸を回転自在に支承する主軸受が形成されたフレームと、を備えたスクロール圧縮機において、
揺動スクロールとフレームの底部との間に、リング状のスラストプレートが配設され、かつ揺動スクロールの台板の底面の外周側に下方に突き出たリング状のスラスト面が形成され、スラストプレートと前記スラスト面でスラスト軸受部を構成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明のスラスト軸受部は、揺動スクロールとフレームとの間に配設されたリング状のスラストプレートが、揺動スクロールの底面に設けられたリング状のスラスト面と直接摺動するというシンプルな構造を採用している。揺動スクロールの公転運動により、スラスト面がスラストプレートからはみ出す面積が常に存在し、はみ出した面は油で満たされた空間に露出した後、再びスラストプレートと摺動する。
【0012】
この動作が回転数と同数回繰り返されることにより、揺動スクロールのスラスト面とスラストプレートが潤滑された状態で摺動される。結果として、揺動スクロールの底面にすべり軸受等を取り付ける必要がなく、低資源かつ低コストのシンプルな構造のスラスト軸受部を得ることができる。
【0013】
また、揺動スクロールを固定スクロールと同素材の鋳鉄で構成できるため、圧縮機の運転中に圧縮部の温度が上昇し熱膨張しても、固定スクロールと揺動スクロールとの間に漏れ隙間が発生しない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施の形態1にかかるスクロール圧縮機の縦断面図である。
【図2】図1のスクロール圧縮機の圧縮部の要部拡大断面図である。
【図3】図2に示すシールの機能を説明する要部拡大断面図である。
【図4】図1のスクロール圧縮機のスラスト軸受部の要部拡大断面図である。
【図5】この発明の実施の形態1におけるスラスト軸受部の横断面図である。
【図6】揺動スクロールのスラスト面とスラストプレートとの位置関係を示す図である。
【図7】この発明の実施の形態2におけるスラスト軸受部の要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態1.
この発明では、公転運動する揺動スクロールの台板の裏面に形成されたリング状のスラスト面と、揺動スクロールとフレームの底部との間に配設されたリング状のスラストプレートとを摺動させることでスラスト軸受部を構成している。スラストプレートは、揺動スクロールの歯先から固定スクロールの台板までの距離および、固定スクロールの歯先から揺動スクロールの台板までの距離(すなわち歯先隙間)を調整するための部品であるが、これを、揺動スクロールを軸方向に支えるスラスト軸受として利用している。以下、この発明にかかるスクロール圧縮機について、図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、この発明の実施の形態1にかかるスクロール圧縮機1の縦断面図である。図1において、密閉形のシェル9内の上部に、圧縮機の主要部材である固定スクロール2と揺動スクロール3が配設されている。またシェル9内の中間部には、電動機構部を構成する固定子4と回転子5が配設され、固定子4はシェル9の内周面に固定され、回転子5は主軸6に固定されている。
【0017】
圧縮部は、固定スクロール2、揺動スクロール3およびフレーム12で構成されている。固定スクロール2は台板2aの下面に渦巻歯2bが形成されたもので、上側に配置され、揺動スクロール3は台板3aの上面に渦巻歯3bが形成されたもので、下側に配置されている。
【0018】
固定スクロール2の渦巻歯2bと揺動スクロール3の渦巻歯3bはほぼ同形状をしており、それぞれの渦巻の中心が偏心し、かつ互いに180度位相がずれた位置となるように組み合わされている。そして、固定スクロール2の渦巻歯2aと揺動スクロール3の渦巻歯3aの間に、相対的に容積が変化する圧縮室17が形成される。
【0019】
固定スクロール2の台板2aは、上端が開放された有底円筒状のフレーム12の開放端(上端)にボルト等によって固定されている。また固定スクロール2の中央部には、圧縮され、高圧となった冷媒ガスを吐出する吐出ポート20が形成されている。
【0020】
揺動スクロール3の底面の中心近傍に設けられたボス部3cには、揺動軸受3dが形成されている。この揺動軸受3dには、スライダ7が回転自在に挿入され、更にこのスライダ7の中央近傍に形成されたスリットに、主軸6の上端に設けられた偏芯軸部8が挿入されている。揺動軸受3dの内周部とスライダ7の外周部とが潤滑油を介して密着し、揺動軸受部を構成している。揺動スクロール3のボス部3cは揺動軸受部を介して偏芯軸部8に軸支され、さらに主軸6は、フレーム12の底部12aに形成された主軸受12bを介してフレーム12に軸支されている。
【0021】
フレーム12の外周はシェル9の内周面に固着されている。またフレーム12の底部12aの上面中央部には、オルダムリング14を収容する空間が形成されている。揺動スクロール3は、自転運動を阻止するためのオルダムリング14により、固定スクロール2に対して自転運動することなく公転旋回運動(揺動運動)を行う。この際、偏心軸部8には揺動スクロール3の偏心した回転運動に伴う遠心力が作用する。
【0022】
シェル9の一部には、外部より冷媒ガスを導入するための吸入管10と、冷媒ガスを外部に吐出するための吐出管11が取り付けられている。またシェル9の下部には、主軸6を回転自在に軸支するサブフレーム21が固定されている。サブフレーム21の下部には、シェル9の底部に溜まった油を主軸6内の給油通路を通してスライダ7まで吸い上げる容積形油ポンプ13が設けられている。油ポンプ13に回転力を伝達するポンプ軸は主軸6と一体に形成されている。
【0023】
図2に、図1の固定スクロール2と揺動スクロール3の一部を拡大して示す。揺動スクロール3の渦巻歯3bの先端面と固定スクロール2の台板2aとの間、および固定スクロール2の渦巻歯2bの先端面と揺動スクロール3の台板3aとの間は、隙間δだけ離れている。揺動スクロール3の渦巻歯3bの先端面には溝3eが形成され、その溝3eにシール18が配設されている。同様に、固定スクロール2の渦巻歯2bの先端面には溝2cが形成され、その溝2cにシール19が配設されている。これらのシール18および19は、渦巻歯2bおよび3bの先端面からの冷媒漏れを低減するために設けたものである。
【0024】
図3を参照してシール18および19の機能を説明する。図3は、冷媒ガスのガス圧によって揺動スクロール3の渦巻歯3bの先端およびシール18にかかる荷重を示したものであり、矢印の方向と長さが荷重の向きと大きさを表している。
【0025】
スクロール圧縮機では、渦巻によって形成される圧縮室17が同時に複数存在し、内側の圧縮室ほど高圧である。揺動スクロール3の渦巻歯3bの先端面の溝3eに挿入されたシール18は、図3に示すように、圧縮された冷媒ガスの内側の圧縮室と外側の圧縮室の圧力差によって固定スクロール2の台板2aに押し付けられる。この働きによって、渦巻歯3bの先端面を介して内側の圧縮室から外側の圧縮室へ冷媒ガスが漏れることを防ぐことができる。
【0026】
また、固定スクロール2の渦巻歯2bの先端面の溝2cにはめ込まれたシール19も、シール18と同様の原理で、揺動スクロール3の台板3aおよび固定スクロール2の渦巻歯2bの先端の溝2cの内壁に押し付けられることによって、渦巻歯先端からの冷媒漏れを防ぐことができる。
【0027】
図1の説明に戻って、揺動スクロール3の台板3aとフレーム12の底部12aとの間には、揺動スクロール3を支承するスラストプレート15が配設されている。台板3aの底面に形成されたスラスト面とスラストプレート15が潤滑油を介して密着することにより、スラスト軸受部が構成される。スラスト軸受部の構造については、後に図面を参照して詳述する。
【0028】
駆動部は、シェル9の内周側に固定された固定子4、主軸6に固定された回転子5、および回転軸である主軸6等で構成されている。回転子5は、固定子4への通電を開始することにより回転駆動し、主軸6を回転させる。すなわち、固定子4および回転子5で電動機構部を構成している。主軸6は、回転子5の回転に伴って回転し、揺動スクロール3を旋回させる。
【0029】
次に、スクロール圧縮機1の動作について説明する。図示しない電源端子に通電すると、固定子4と回転子5との間にトルクが発生し、主軸6が回転する。これにより、主軸6の偏心軸部8に装着されたスライダ7に固定された揺動スクロール3が公転運動をはじめる。
【0030】
吸入管10からフレーム12内の吸入口12cを通って圧縮部に入った冷媒ガスは、固定スクロール2および揺動スクロール3によって形成される圧縮室17に取り込まれて圧縮され、高圧となる。このガス圧が揺動スクロール3の歯底面および歯先面を下方向に押すことにより、揺動スクロール3の台板3aには下向きのスラスト荷重が発生し、このスラスト荷重をスラスト軸受部で全て負担することになる。
【0031】
圧縮室17で圧縮された冷媒ガスは、吐出ポート20を通り吐出空間24に排出され、その後吐出管11を介してシェル9外へ排出される。
【0032】
次に、潤滑油の流れを説明する。シェル9の底部に溜まり、オイルポンプ13で吸引された潤滑油は、主軸6の内部に形成された油穴等を介して上方に運ばれ、揺動軸受部を潤滑した後にフレーム12の底部12a内の下部空間23に溜まり、フレーム12内部の各摺動部、つまりオルダムリング14とフレーム12、オルダムリング14と揺動スクロール3、スラストプレート15とフレーム12、スラストプレート15と揺動スクロール3のスラスト面3eの摺動部を潤滑する。
【0033】
その後、一部の油は冷媒と一緒に圧縮室17内に取り込まれ、固定スクロール2の渦巻歯2bと揺動スクロール3の渦巻歯3b同士の摺動の潤滑に使われるが、大部分の油は排油穴22を通り再びシェル9の底部へと戻される。そのため、フレーム12内の揺動スクロール3の台板3aの下部空間は、運転中は油で満たされた状態になっている。
【0034】
次に、図4および図5を参照して、スラスト軸受部の構成を説明する。図4は図1のスラスト軸受部を拡大して示した要部断面図、図5はフレーム12を軸心Oと直交する方向に切断した横断面図である。図5では煩雑さを避けるため、オルダムリング14等のスラストプレート15の中空部に配置された部材は省略している。
【0035】
図4に示すように、有底円筒状のフレーム12の底部12aの外周側に、リング状の金属板で形成されたスラストプレート15が配置されている。また、揺動スクロール3の台板3aの底面の外周側に、若干下方に突き出たリング状のスラスト面3fが形成されている。台板3aの底面に形成されたスラスト面3fとスラストプレート15でスラスト軸受部が構成される。
【0036】
図5に示すように、スラストプレート15の外径は有底円筒状のフレーム12の円筒部の内径とほぼ等しい。スラストプレート15の内径は、中空部に配置されたオルダムリング14の移動を妨げない大きさとする必要がある。スラストプレート15の外周の一部にツバ部16が形成され、そのツバ部16は、フレーム12の形成された吸入口12aに収納されるように配置されている。圧縮機1の運転時にスラストプレート15が軸心Oを中心に自転しようとしても、ツバ部16が吸入口12aの淵に接触して自転を阻止する。このため運転時にスラストプレート15が自転することはない。
【0037】
図6は、揺動スクロール3のリング状のスラスト面3fとスラストプレート15との位置関係を示した図である。スラストプレート15は、バルブ鋼などの硬質鋼板製のリング状のプレートであり、厚さは0.5mm程度である。リング状のスラスト面3fの外径はスラストプレート15の外径よりも小さいが、径方向の幅Lはスラストプレート15の幅とほぼ等しい。
【0038】
図中0はシェル9の軸心で、スラストプレート15の中心はシェル9の軸心0に配置されている。これに対し0’は揺動スクロール3の台板3aの中心である。揺動スクロール3は軸心0を中心に、クランク半径rだけ偏心して公転運動するので、揺動スクロール3のスラスト面3fがスラストプレート15の内側にはみ出す部分が生じ、このはみ出す部分のはみ出し距離の最大値Rは常に一定である。本実施の形態では、このはみ出し距離の最大値Rを例えば40%程度としている。
【0039】
図4において、揺動スクロール3の台板3aの下の空間は油で満たされているのに対し、台板3aの上部および側面の空間は、冷媒中の油の割合が0.3%以上の吸入ガス雰囲気となっている。また、台板3aの下部は容積型油ポンプ13により、台板3aの上部の吸入ガス圧力よりもわずかであるが、ポンプ圧だけ高い圧力となっている。
【0040】
図6に示すように、揺動スクロール3の公転運動によりスラスト面3fの一部が常にスラストプレート15からはみ出し、はみ出した面は油で満たされた空間に露出した後、再びスラストプレート15と摺動する。そして、台板3aの下部の圧力が台板3aの上部の圧力よりも大きいため、スラスト面3fのはみ出した部分が、再びスラストプレート15との摺動を繰り返すことにより台板3aの下部から台板3aの上部へ油の流れが生じ、揺動スクロール3のスラスト面3fとスラストプレート15との摺動部に給油される。また、揺動スクロール3のスラスト面3fのはみ出した面に油が付着することによっても摺動部に給油がなされる。この動作は回転の都度繰り返される。
【0041】
本実施の形態では、スラストプレート15を表面粗さ0.5Z以下の硬質鋼板で構成し、揺動スクロール3のスラスト面3fの表面粗さを3.5Z以下としている。軸と軸受は面粗度が細かい程接触面に油膜が発生しやすく、摺動性が良くなる。スラストプレート15はバレル加工や研磨が可能なため、1.0Z以下が可能である。
【0042】
従来の青銅メタルで構成されたスラスト受け(すべり軸受)は、材料の性質上切削加工が困難で、3.5Z程度の表面粗さが限界であり、研磨によってそれ以上の表面粗さに仕上げようとするとコストが増大する。これに対し、揺動スクロール3を鋳鉄(FCD450)で製造した場合のスラスト面は、材料の性質上切削加工が可能であるが、工具寿命から表面粗さ3.5Zが限界である。従って、スラスト面の表面粗さは青銅メタルのスラスト受け(すべり軸受け)と同等であり、十分な摺動性が得られる。
【0043】
以上の構成により、従来使用されているR410A冷媒や、動作圧力がR410A冷媒と同等のR32冷媒やR32の混合冷媒、さらに動作圧力の大きなCO2冷媒を用いた圧縮機で、スラスト軸受部に特殊な処理をすることなく、冷凍機油としてエステル系(POE)、エーテル系(PVE)、ポリアルキレングリコール系(PAG)の油を用いて、スラスト軸受部の十分な潤滑が可能となる。
【0044】
また、本実施の形態では、固定スクロール2をFCD450などの鋳鉄で構成し、揺動スクロール3を固定スクロールと同素材の鋳鉄で構成し、スラストプレート15をバルブ鋼などの硬質鋼板で構成している。固定スクロール2と揺動スクロール3を同素材の鋳鉄で構成しているため、圧縮機1の運転中に圧縮部の温度が上昇して熱膨張しても、固定スクロール2と揺動スクロール3との間に漏れ隙間が発生しない。
【0045】
上述したように、本実施の形態のスラスト軸受部は、歯先隙間調整用の部材であるスラストプレート15をスラスト軸受の部材として利用していること、揺動スクロール3のスラスト面3fがスラストプレート15と直接摺動するというシンプルな構造であること、従来のスラスト受けのようにスラストプレート15や揺動スクロール3の台板3aの下面に切削加工を施す必要がないことより、低資源かつ低コストのスラスト軸受部を実現できる。
【0046】
実施の形態2.
図7に、本実施の形態2におけるスラスト軸受部の要部断面を示す。実施の形態1で説明した揺動スクロール3のスラスト面3fは平面に形成されていた。これに対し、本実施の形態では、スラスト面3fと外周面3gとの角3hを曲面(例えば円弧)で構成し、その曲面がスラスト面3fと接するようにすることで、スラスト面3fの平面と外周側の角3hの曲面のつなぎ目がなめらかになるようにしている。加工の方法としては、例えばスラスト面3fと外周面3hを一度に旋盤で加工する方法がある。
【0047】
上述の構成とすると、揺動スクロール3のスラスト面3fと外周面3gとの角3hを面取りで形成した場合と比較して、揺動スクロール3が傾いた場合でもエッジが立たず、揺動スクロール3のスラスト面3fとスラストプレート15との接触面には油膜が生ずることになる。
【0048】
スラスト面3fと外周面3gとの角3hが面取りの場合、揺動スクロール3が傾くとスラスト面3fと面取りのつなぎ目のエッジがスラストプレート15と接触することになり、油膜の発生しない金属同士の接触となるため、スラスト軸受部の機能を低下させ、スラストプレート15の寿命を短くしてしまう。
【0049】
よって、揺動スクロール3のスラスト面3fと外周面3gとの角3hを曲面(例えば円弧)で構成することで、部品数の少ない構成でありながら、摺動性の良いスラスト軸受部を得ることができる。
【符号の説明】
【0050】
1 スクロール圧縮機
2 固定スクロール
2a、3a 台板
2b、3b 渦巻歯
2c、3e 溝
3 揺動スクロール
3c ボス部
3d 揺動軸受
3f スラスト面
3g 外周面
3h 角
4 固定子
5 回転子
6 主軸
7 スライダ
8 偏心軸部
9 シェル
10 吸入管
11 吐出管
12 フレーム
12a 底部
12b 主軸受
12c 吸入口
13 容積形油ポンプ
14 オルダムリング
15 スラストプレート
16 ツバ部
17 圧縮室
18、19 シール
20 吐出ポート
21 サブフレーム
22 排油穴
23 フレーム内下部空間
24 吐出空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉形のシェル内の上部に設けられ、台板上に渦巻歯が形成された固定スクロールと、
前記固定スクロールとともに圧縮部を構成し、台板上に渦巻歯が形成され、底面の中心部に揺動軸受を有するボス部が形成された揺動スクロールと、
前記揺動軸受を介して前記揺動スクロールを軸支する偏心軸部が上端に形成され、電動機により回転駆動される主軸と、
有底円筒状をなし、外周が前記シェルの内周面に固着され、前記揺動スクロールを挟んで、開放側上端面に前記固定スクロールの台板が当接固定され、底部に前記主軸を回転自在に支承する主軸受が形成されたフレームと、を備えたスクロール圧縮機において、
前記揺動スクロールと前記フレームの底部との間に、リング状のスラストプレートが配設され、かつ前記揺動スクロールの台板の底面の外周側に下方に突き出たリング状のスラスト面が形成され、前記スラストプレートと前記スラスト面でスラスト軸受部を構成することを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】
前記固定スクロールの渦巻歯の先端部に第1の溝が形成され、前記揺動スクロールの渦巻歯の先端部に第2の溝が形成され、前記第1および第2の溝にそれぞれシールがはめ込まれていることを特徴とする、請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
前記リング状のスラストプレートの外周の一部にツバ部が形成され、このツバ部は前記フレームに形成された吸入口に収容されることを特徴とする、請求項1または2に記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
前記固定スクロールと前記揺動スクロールは鋳鉄で構成され、前記スラストプレートは鋼板で構成されていることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載のスクロール圧縮機。
【請求項5】
前記揺動スクロールのスラスト面と外周面とがなめらかにつながるように、前記スラスト面と外周面との角が曲面に形成されていることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載のスクロール圧縮機。
【請求項6】
前記揺動スクロールと前記フレームの底部との間に、前記揺動スクロールの自転を防止するオルダムリングが配設され、前記スラストプレートの内径は、その中空部に配設された前記オルダムリングの移動を妨げない大きさに設定されていること特徴とする、請求項1ないし5のいずれかに記載のスクロール圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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