説明

スクロール圧縮装置

【課題】ケーシング外への潤滑オイルの吐出量を低減することができるスクロール圧縮装置を提供する。
【解決手段】ケーシング3の内部に冷媒を圧縮するスクロール圧縮機構11と、スクロール圧縮機構11と駆動軸15で連結され当該スクロール圧縮機構11を駆動する駆動モータ13とが収容され、スクロール圧縮機構11は、メインフレーム21によりケーシング3に支持され、駆動モータ13の駆動軸15は、ベアリングプレート8によりケーシング3に支持され、ベアリングプレート8は、上下の空間を連通する開口部8Eを有し、駆動モータ13とベアリングプレート8の間で駆動軸15の周囲を覆うカバー80を備え、カバー80は、開口部8Eを通過する程度の大きさに分割された複数のカバー部材80A,80Bを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定スクロールと揺動スクロールの噛み合い部に潤滑オイルを供給し、固定スクロールと揺動スクロールの噛み合いにより圧縮を行うスクロール圧縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、密閉されたケーシング内に、互いに噛合する渦巻き状のラップを有する固定スクロールと揺動スクロールとからなる圧縮機構を備え、この圧縮機構を駆動モータで駆動させて、固定スクロールに対して揺動スクロールを自転することなく円運動させることにより圧縮を行うスクロール圧縮装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
この種のスクロール圧縮装置では、吸入管から吸引した低圧の冷媒を圧縮機構で圧縮し、圧縮された高圧冷媒をケーシングに設けた吐出管からケーシング外に吐出する。また、圧縮機構の各摺動部分、及び、固定スクロールと揺動スクロールの噛み合い部には、潤滑オイルが供給される。供給する潤滑オイルは、ケーシング下部に設けられた油溜めに貯留され、圧縮機構で過剰となった潤滑オイルは、自重で油溜めに戻される構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−60532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、駆動モータの駆動軸等の回転体の回転によって潤滑オイルが霧状となることがある。霧状となった潤滑オイルは、高圧のガス冷媒と混合され、混合気体となるが、この混合気体から潤滑オイルをうまく分離することができないため、霧状の潤滑オイルが多量にケーシング内に存在する状態となる事がある。ケーシング内に多量の霧状の潤滑オイルと高圧冷媒との混合気体が存在する状態となった場合には、高圧冷媒とともに、霧状の潤滑オイルが吐出管からケーシング外に多量に排出されてしまう場合がある。
本発明は、上述した従来の技術が有する課題を解消し、ケーシング外への潤滑オイルの吐出量を低減することができるスクロール圧縮装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、ケーシングの内部に冷媒を圧縮するスクロール圧縮機構と、前記スクロール圧縮機構と駆動軸で連結され当該スクロール圧縮機構を駆動する駆動モータとが収容され、前記スクロール圧縮機構は、メインフレームにより前記ケーシングに支持され、前記駆動モータの駆動軸は、ベアリングプレートにより前記ケーシングに支持され、前記ベアリングプレートは、上下の空間を連通する開口部を有し、前記駆動モータと前記ベアリングプレートの間で前記駆動軸の周囲を覆うカバーを備え、前記カバーは、前記開口部を通過する程度の大きさに分割された複数のカバー部材を備えることを特徴とする。
【0006】
また本発明は、上記スクロール圧縮装置において、前記カバー部材は、前記ベアリングプレートの上方に配置されるカバー部と、前記カバー部を前記ベアリングプレートの下側から当該ベアリングプレートに固定する取付部と、を一体に備えたことを特徴とする。
【0007】
また本発明は、上記スクロール圧縮装置において、前記カバーは、隣接する一方のカバー部と他方のカバー部の周方向の端部がオーバーラップし、一方のカバー部の回転方向の前端が、他方のカバー部の回転方向の後端の内側に配置されることを特徴とする。
【0008】
また本発明は、上記スクロール圧縮装置において、前記カバーの上縁部に絶縁体を設けたことを特徴とする。
【0009】
また本発明は、上記スクロール圧縮装置において、前記駆動モータは、前記駆動軸の周囲を覆い下方に開放する第2カバーを備え、当該第2カバーを前記カバーの内側に配置するとともに、前記カバーの上端と、前記第2カバーの下端と、を上下方向にオーバーラップさせて備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ケーシングの内部に冷媒を圧縮するスクロール圧縮機構と、前記スクロール圧縮機構と駆動軸で連結され当該スクロール圧縮機構を駆動する駆動モータとが収容され、前記スクロール圧縮機構は、メインフレームにより前記ケーシングに支持され、前記駆動モータの駆動軸は、ベアリングプレートにより前記ケーシングに支持され、前記ベアリングプレートは、上下の空間を連通する開口部を有し、前記駆動モータと前記ベアリングプレートの間で前記駆動軸の周囲を覆うカバーを備え、前記カバーは、前記開口部を通過する程度の大きさに分割された複数のカバー部材を備えたため、着磁の仕様に係らず、駆動軸の回転によって霧状となった潤滑オイルがガス流路に及ぶのを防止するカバーを駆動モータとベアリングプレートの間に取り付けることができ、ケーシングの外への潤滑オイルの吐出量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係るスクロール圧縮装置の断面図である。
【図2】カバーとベアリングプレートの組立斜視図である。
【図3】カバーの斜視図である。
【図4】油溜めを外した状態でスクロール圧縮装置を下面側から視た下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1において、1は内部高圧となるスクロール圧縮装置を示し、このスクロール圧縮装置1は、冷媒が循環して冷凍サイクル運転動作を行う図外の冷媒回路に接続されて、冷媒を圧縮するものである。このスクロール圧縮装置1は、縦長円筒状の密閉ドーム型のケーシング3を有する。
このケーシング3は、上下方向に延びる軸線を有する円筒状の胴部であるケーシング本体5と、その上端部に気密状に溶接されて一体接合され、上方に突出した凸面を有する椀状の上キャップ7と、ケーシング本体5の下端部に気密状に溶接されて一体接合され、下方に突出した凸面を有する椀状の下キャップ9とで圧力容器に構成されており、その内部は空洞とされている。ケーシング3の外周面には、ターミナルカバー52が設けられ、このターミナルカバー52の内部には、後述のステータ37に電源を供給する電源供給端子53が備えられる。
【0013】
ケーシング3の内部には、冷媒を圧縮するスクロール圧縮機構11と、このスクロール圧縮機構11の下方に配置される駆動モータ13とが収容されている。これらのスクロール圧縮機構11と駆動モータ13とは、ケーシング3内を上下方向に延びるように配置される駆動軸15によって連結されている。また、これらのスクロール圧縮機構11と駆動モータ13との間には間隙空間17が形成されている。
【0014】
ケーシング3の内部上方には、メインフレーム21が収納され、このメインフレーム21には中央にラジアル軸受部28とボス収容部26とが形成されている。ラジアル軸受部28は、駆動軸15の先端(上端)側を軸支するためのものであり、当該メインフレーム21の一方の面(下側の面)の中央から下方に突出して形成されている。ボス収容部26は後述する揺動スクロール25のボス25Cを収容するためのものであり、メインフレーム21の他方の面(上側の面)の中央を下方に凹陥することにより形成されている。駆動軸15の先端(上端)には、偏心軸部15Aが形成されている。この偏心軸部15Aは、中心が駆動軸15の軸心と偏心して設けられると共に、旋回軸受け24を介して、ボス25Cに旋回駆動可能に挿入されている。
【0015】
上記スクロール圧縮機構11は、固定スクロール23と揺動スクロール25とで構成されている。固定スクロール23は、メインフレーム21の上面に密着して配置される。メインフレーム21は、ケーシング本体5の内面に取り付けられ、固定スクロール23は、メインフレーム21にねじ34で締結され固定されている。揺動スクロール25は、固定スクロール23に噛合し、固定スクロール23と、メインフレーム21との間の形成される揺動空間12内に配置される。ケーシング3内は、メインフレーム21の下方の高圧空間27と、メインフレーム21の上方の吐出空間29とに区画される。各空間27,29は、メインフレーム21及び固定スクロール23の外周に縦に延びて形成された縦溝71を介して連通している。
【0016】
ケーシング3の上キャップ7には、冷媒回路の冷媒をスクロール圧縮機構11に導く吸入管31が、またケーシング本体5には、ケーシング3内の冷媒をケーシング3外に吐出させる吐出管33がそれぞれ気密状に貫通固定されている。吸入管31は、吐出空間29を上下方向に延び、その内端部はスクロール圧縮機構11の固定スクロール23を貫通して、圧縮室35に連通し、この吸入管31により圧縮室35内に冷媒が吸入される。
【0017】
駆動モータ(DC駆動モータ)13は、直流電源からの入力を受けて駆動するDC(Direct Current)モータであり、環状のステータ37と、このステータ37の内側に回転自在に構成されたロータ39とを備える。駆動モータ13は、一定の入力電圧を受け、パルス波のデューティ比、つまり、パルス波を出す周期と出した時のパルス幅と、を制御するPWM(Pulse Width Modulation)インバータによって回転トルクが制御され駆動する。
【0018】
ロータ39には、駆動軸15を介してスクロール圧縮機構11の揺動スクロール25が駆動連結されている。ステータ37は、ステータコア37Aと、ステータコイル18とから成る。ステータコア37Aは、薄い鉄板(電磁鋼板)を重ね合わせて形成され、内部には、図示は省略したが、複数の溝を有する。ステータコイル18は、複数相のステータ巻線が巻回されて形成され、ステータコア37Aの内部に形成された溝に嵌入されて、ステータコア37Aの上下に備えられる。ステータコイル18は、インシュレータ19の内部に収容されている。ステータコイル18は、不図示の導線を介して電源供給端子53に接続される。
【0019】
ロータ39は、フェライト磁石、或いは、ネオジウム磁石から形成され着磁によって磁化される。ロータ39は、ロータ39をステータ37に内挿した後、ステータ37のステータコイル18を形成するステータ巻き線に電流を流して着磁する巻線着磁によって着磁される。駆動軸15の内部には、ロータ39の巻線着磁を行う際に、ロータ39の位置決めに用いる、ホルダ(ピンホルダ)58が圧入されている。
ステータ37は、環状のスペーサリング38によってケーシング3の内壁面に支持される。スペーサリング38はケーシング3の内壁面に焼き嵌めによって固定され、ステータ37はスペーサリング38の内壁面に焼き嵌めによって固定される。スペーサリング38の上端面は、ステータ37の上端面よりも下方に設けられる。
【0020】
駆動モータ13の下方には、駆動軸15の下端部を回転可能に嵌入支持するベアリングプレート8が備えられる。ベアリングプレート8は、円筒状に形成され(図2参照)、駆動軸15が嵌入されるボス部8Aと、このボス部8Aに略等間隔に周設され4方向に延び、ケーシング本体5に固定されるアーム部8Bとを備える。つまり、駆動軸15は、ベアリングプレート8によってケーシング3に支持される。ベアリングプレート8は、各アーム部8Bの間に形成されて、ベアリングプレート8の上下の空間を連通する開口部8E(図2参照)を有する。
【0021】
図1に示すように、ベアリングプレート8の下方の下部空間(油溜め)40は、高圧に保たれており、その下端部に相当する下キャップ9の内底部には油が貯留される。ベアリングプレート8には、第1カバー(カバー)80が固定されている。第1カバー80は、カバー部81と、取付部82と、を備える。カバー部81は、ベアリングプレート8の上方に延出し、ステータコイル18の近傍まで延びる。取付部82は、カバー部81と一体に設けられ、カバー部81から、開口部8Eを介してベアリングプレート8の下方に延出する。第1カバー80は、カバー部81がベアリングプレート8と駆動モータ13との間で、駆動軸15の軸方向の周囲を覆い、取付部82がベアリングプレート8の下側からアーム部8Bに螺子83で固定されて、ベアリングプレート8に一体に取り付けられる。
【0022】
駆動軸15内には、高圧油供給手段の一部としての給油路41が形成され、この給油路41は、駆動軸15の内部を上下に延び、揺動スクロール25の背面の油室43に連通している。この給油路41は、駆動軸15の下端に設けたオイルピックアップ45に連結される。オイルピックアップ45の奥側には、駆動軸15の径方向に延び、給油路41を貫通する横穴が設けられる。この横穴には、上述したホルダ58が圧入される。オイルピックアップ45は、ロータ39の着磁後に、駆動軸15に圧入される。
【0023】
オイルピックアップ45は、下端に設けられた吸込口42と、この吸込口42の上方に形成されたパドル44とを備える。オイルピックアップ45の下端は、油溜め40に貯留された潤滑オイルに浸漬されて、当該給油路41の吸込口42が潤滑オイル内にて開口している。駆動軸15が回転すると、油溜め40に貯留された潤滑オイルがオイルピックアップ45の吸込口42から給油路41に入り、この給油路41のパドル44に沿って上方に汲み上げられる。そして、汲み上げられた潤滑オイルは、給油路41を通じ、ラジアル軸受部28、及び、旋回軸受24等のスクロール圧縮機構11の各摺動部分に供給される。さらに、潤滑オイルは、給油路41を通じて揺動スクロール25背面の油室43に供給され、この油室43から、揺動スクロール25に設けられた連通路51を介して、圧縮室35へ供給される。
【0024】
メインフレーム21には、ボス収容部26からメインフレーム21を径方向に貫通し、縦溝71に開口する戻し油路47が形成される。給油路41を通じ、スクロール圧縮機構11の各摺動部分、及び、圧縮室35に供給される潤滑オイルのうち、過剰となった潤滑オイルは、この戻し油路47を通って油溜め40に戻される。戻し油路47の下方には、オイルコレクター46が設けられ、オイルコレクター46は、スペーサリング38の上端近傍まで延在する。ステータ37の外周面には、ステータ37の上下に亘る複数の切欠き54が形成される。戻し油路47、オイルコレクター46を通じて給油路41から戻された潤滑オイルは、この切欠き54、及び、ベアリングプレート8の各アーム部8Bの間を通って油溜め40に戻される。なお、図1の断面図において、吐出管33が説明の便宜上破線で示されているが、吐出管33は、オイルコレクター46とは、位相をずらして配置される。
【0025】
固定スクロール23は、鏡板23Aと、この鏡板23Aの下面に形成された渦巻き状(インボリュート状)のラップ23Bとで構成されている。一方、揺動スクロール25は、鏡板25Aと、この鏡板25Aの上面に形成された渦巻き状(インボリュート状)のラップ25Bとで構成されている。そして、固定スクロール23のラップ23Bと、揺動スクロール25のラップ25Bとは互いに噛合しており、このことにより固定スクロール23と揺動スクロール25との間において、両ラップ23B,25Bで複数の圧縮室35が形成されている。
【0026】
揺動スクロール25は、オルダムリング61を介して固定スクロール23に支持され、その鏡板25Aの下面の中心部には有底円筒状のボス25Cが突設されている。一方、駆動軸15の上端には偏心軸部15Aが設けられ、この偏心軸部15Aは、揺動スクロール25のボス25Cに回転可能に嵌入されている。
さらに、駆動軸15には、メインフレーム21の下側に、カウンタウェイト部(上バランサ)63が設けられ、ロータ39の下部には、下バランサ77が設けられている。駆動軸15は、これらの上バランサ63、及び、下バランサ77によって揺動スクロール25や偏心軸部15A等と動的バランスを取っている。これらのカウンタウェイト部63、及び、下バランサ77により重さのバランスを取りながら駆動軸15が回転することで、揺動スクロール25を公転させるようになっている。そして、この揺動スクロール25の公転に伴い、圧縮室35は、両ラップ23B,25B間の容積が中心に向かって収縮することで吸入管31より吸入された冷媒を圧縮するように構成されている。また、下バランサ77の下面には、ロータ39、及び、下バランサ77と一体にリベット91でカシメられる規制プレート55が設けられる。規制プレート55は、ロータ39の巻線着磁を行う際に、ロータ39の回転を規制するために用いられる。
【0027】
ロータ39と、下バランサ77の間には、ロータ39、及び、下バランサ77と一体にリベット91でカシメられる第2カバー90が、取り付けられている。第2カバー90は、上面92に、駆動軸15、リベット91が貫通する複数の孔を備え、下方が開放する筒状に形成される。第2カバー90は、下端93が規制プレート55の近傍まで延びる。第2カバー90は、第1カバー80の内側に配置されるとともに、第2カバー90の下端93と、第1カバー80の上端88とが上下方向にオーバーラップするように備えられる。また、第1カバー80は、カバー部81が規制プレート55の外側で、ステータコイル18の中心よりも内側に配置される。
【0028】
これらの構成によれば、駆動軸15の軸方向の周囲を第1カバー80、及び、第2カバー90で覆うことができる。そのため、駆動軸15の回転によって霧状となった潤滑オイルを、第1カバー80と第2カバー90の内側に閉じ込めることができる。また、第2カバー90の下端93から第2カバー90の外側に逃げ出した霧状の潤滑オイルは、第1カバー80の内側に閉じ込めることができる。そのため、霧状の潤滑オイルがガス流路に及ぶのを防止することができ、オイルを開口部8Eからオイル溜めに戻すことができるため、ケーシング外への潤滑オイルの吐出量を低減することができる。
【0029】
メインフレーム21の下側には、カウンタウェイト部63の周りを囲うようにカップ48がボルト49で固定されている。カップ48は、メインフレーム21と、駆動軸15との間のクリアランスから漏れ出た潤滑オイルが、カウンタウェイト部63の回転によって吐出管側に飛散されるのを防ぐ。
【0030】
固定スクロール23の中央部には吐出孔73が設けられており、この吐出孔73から吐出されたガス冷媒は、吐出弁75を通って吐出空間29に吐出され、メインフレーム21及び固定スクロール23の各外周に設けた縦溝71を介して、メインフレーム21の下方の高圧空間27に流出し、この高圧冷媒は、ケーシング本体5に設けた吐出管33を介してケーシング3外に吐出される。
【0031】
このスクロール圧縮装置1の運転動作について説明する。
駆動モータ13を駆動すると、ステータ37に対してロータ39が回転し、それによって駆動軸15が回転する。駆動軸15が回転すると、スクロール圧縮機構11の揺動スクロール25が固定スクロール23に対して自転せずに公転のみ行う。このことにより、低圧の冷媒が吸入管31を通して圧縮室35の周縁側から圧縮室35に吸引され、この冷媒は圧縮室35の容積変化に伴って圧縮される。そして、この圧縮された冷媒は、高圧となって圧縮室35から吐出弁75を通って吐出空間29に吐出され、メインフレーム21及び固定スクロール23の各外周に設けた縦溝71を介して、メインフレーム21の下方の高圧空間27に流出し、この高圧冷媒は、ケーシング本体5に設けた吐出管33を介してケーシング3外に吐出される。ケーシング3外に吐出された冷媒は、図示を省略した冷媒回路を循環した後、再度吸入管31を通してスクロール圧縮装置1に吸入されて圧縮され、このような冷媒の循環が繰り返される。
【0032】
潤滑オイルの流れを説明すると、ケーシング3における下キャップ9の内底部に貯留された潤滑オイルが、オイルピックアップ45により吸い上げられ、この潤滑オイルが、駆動軸15の給油路41を通じ、スクロール圧縮機構11の各摺動部分、及び、圧縮室35へ供給される。スクロール圧縮機構11の各摺動部分、及び、圧縮室35で過剰となった潤滑オイルは、戻し油路47から、オイルコレクター46に集められ、ステータ37の外周に設けられた切欠き54を通って駆動モータ13の下方に戻される。
【0033】
ところで、ロータ39を巻線着磁によって着磁する場合、ロータ39を着磁の際に、ベアリングプレート8の開口部8Eから治具を挿入して、規制プレート55を固定することで、ロータ39の回転を規制する必要がある。そのため、巻線着磁を行う際には、駆動モータ13とベアリングプレート8との間に第1カバー80がある状態では、着磁が効率よくできない場合があり、第1カバー80は、ロータ39の着磁後に取り付ける必要がある。本実施形態では、第1カバー80は、2つのカバー部材80A,80Bに分割されて、巻線着磁によるロータ39の着磁後に取り付け可能に構成されている。以下に、第1カバー80の構成について詳述する。
【0034】
図2は、駆動モータ13の下方に配置されたベアリングプレート8と、ベアリングプレート8に取り付けられる第1カバー80とを示し、図2(A)は、上方から視た斜視図、図2(B)は下方から視た斜視図である。図2では、ベアリングプレート8のボス部8Aには、図2に示すように、駆動軸15、及び、オイルピックアップ45が挿入される。第1カバー80は、2つのカバー部材80A,80Bに分割されており、各カバー部材80A,80Bは、それぞれのカバー部81A,81Bがベアリングプレート8の各アーム部8B間の隙間、つまり開口部8Eを通過する程度の大きさとなるように形成されている。なお、第1カバー80は、本実施形態では、カバー部材80A,80Bの2つに分割する構成としたが、2つ以上の複数に分割されている構成であっても良い。
【0035】
第1カバー80は、各カバー部材80A,80Bを組み合わせて、ベアリングプレート8に取り付けた際に、カバー部81A,81Bによって、ベアリングプレート8と駆動モータ13との間で、駆動軸15の周囲が覆われるように構成されている。カバー部81A,81Bは、それぞれ、ベアリングプレート8の上方に、ステータコイル18に向かって延びている。各カバー部材80A,80Bは、図3に示すように、各カバー部81A,81Bの両端部86の近傍に取付部82を備えている。カバー部81A,81Bは、薄い板状の部材を、駆動軸15を軸中心とする略半円、或いは、弓形の円弧状に形成され、カバー部81A,81Bを組み合わせた際に、駆動軸15の周囲を覆う略円形状になるように構成されている。
取付部82は、カバー部81A,81Bの延出方向とは逆方向、つまり下方に延びる支持部82Aと、支持部82Aから延出し、ベアリングプレート8のアーム部8Bの下面に添うように折り曲げられて形成された固定部82Bと、を備える。つまり、各カバー部材80A,80Bは、各取付部82を、ベアリングプレート8のアーム部8Bに下側から固定することができる大きさに形成されている。
【0036】
カバー部81A,81Bには、その周方向全体に亘って、カバー部本体89の上端から上方に延出する絶縁シート(絶縁体)84が取り付けられている。絶縁シート84は、カバー部本体89にリベット、或いは、スナップ等から構成される留具85で取り付けられる。この構成によれば、ステータコイル18の近傍まで延びるカバー部81A,81Bの上端部には、絶縁シート84が周方向に延在するため、第1カバー80を、例えば金属等で形成した場合でも、第1カバー80と、ステータコイル18の間を絶縁することができる。第1カバー80は、この構成の他に、カバー部81A,81B、或いは、第1カバー80全体を絶縁性に優れた材料で形成する、或いは、絶縁性に優れた樹脂等でコーティングすることで、第1カバー80と、ステータコイル18間を絶縁する構成であってもよい。
【0037】
これらの構成によれば、第1カバー80は、複数のカバー部材80A,80Bから構成され、各カバー部材80A,80Bは、開口部8Eを通過する程度の大きさに形成されたカバー部81A,81Bと、カバー部材80A,80Bをベアリングプレート8の下側からアーム部8Bに固定する取付部82と、を備える。これにより、第1カバー80は、ロータ39をステータ37に内挿して巻線着磁によって着磁した後にベアリングプレート8と駆動モータ13との間で、駆動軸15の軸方向の周囲を覆うように取り付けることができる。そのため、駆動軸15の回転によって霧状となった潤滑オイルを、第1カバー80の内側に閉じ込めて、オイルをオイル溜めに戻すことができるとともに、霧状の潤滑オイルがガス流路に及ぶのを防止することができ、ケーシング外への潤滑オイルの吐出量を低減することができる。
【0038】
カバー部81A,81Bの各両端部86は、カバー部81A,81Bの周方向に取付部82から延出する。カバー部材80A,80Bを組み合わせて、ベアリングプレート8に取り付けた際には、図4に示すように、隣接する一方のカバー部81Aと、他方のカバー部81Bの周方向の端部86がオーバーラップする。端部86は、一方のカバー部81Aの回転方向の前端87Aが、他方のカバー部81Bの回転方向の後端87Bの内側に配置されるとともに、他方のカバー部81Bの前端87Aが、一方のカバー部81Aの回転方向の後端87Bの内側に配置される。つまりカバー部材80A,80Bは、それぞれ回転方向の前端87Aが後端87Bの内側に配置された状態で端部86をオーバーラップさせることで、隣接するカバー部材80A,80Bの回転方向の前端87Aと後端87Bとの間に駆動軸15の回転方向Xに沿って隙間が形成されるのを防止することができる。
この構成によれば、第1カバー80の内側に閉じ込められた霧状の潤滑オイルが駆動軸15の回転に伴って、駆動軸15の回転方向Xに沿って流れて、端部86間の隙間から第1カバー80の外側に逃げ出すのを防止することができ、霧状の潤滑オイルがガス流路に及んで、ケーシング外へ吐出されるのを防ぐことができる。
【0039】
以上説明したように、本発明を適用した実施形態によれば、ケーシング3の内部に冷媒を圧縮するスクロール圧縮機構11と、スクロール圧縮機構11と駆動軸15で連結され当該スクロール圧縮機構11を駆動する駆動モータ13とが収容され、スクロール圧縮機構11は、メインフレーム21によりケーシング3に支持され、駆動モータ13の駆動軸15は、ベアリングプレート8によりケーシング3に支持され、ベアリングプレート8は、上下の空間を連通する開口部8Eを有し、駆動モータ13とベアリングプレート8の間で、駆動軸15の周囲を覆うカバー80を備え、カバー80は、開口部8Eを通過する程度の大きさに分割された複数のカバー部材80A,80Bを備えた。これにより、駆動モータ13のロータ39の着磁をステータ37に内挿した後に巻線着磁によって着磁する場合であっても、着磁後に駆動軸15の軸方向の周囲を覆うカバー80をベアリングプレート8と駆動モータ13との間に取り付けることができる。そのため、着磁の仕様に係らず、駆動軸15の回転によって霧状となった潤滑オイルがガス流路に及ぶのを防止するカバー80を駆動モータ13とベアリングプレート8の間に取り付けることができ、ケーシング3の外への潤滑オイルの吐出量を低減することができる。
【0040】
また、本発明を適用した実施形態によれば、カバー部材80A,80Bは、ベアリングプレート8の上方に配置されるカバー部81と、カバー部81をベアリングプレート8の下側から当該ベアリングプレート8に固定する取付部82と、を一体に備えたため、駆動モータ13のロータ39の着磁をステータ37に内挿した後に巻線着磁によって着磁する場合であっても、着磁後にカバー部材80A,80Bをベアリングプレート8の下側から容易にベアリングプレート8に固定し、カバー部81を駆動軸15の軸方向の周囲を覆うように、ベアリングプレート8と駆動モータ13との間に備えることができる。これにより、着磁の仕様に係らず、駆動軸15の回転によって霧状となった潤滑オイルがガス流路に及ぶのを防止するカバー80を駆動モータ13とベアリングプレート8の間に容易に取り付けることができ、ケーシング3の外への潤滑オイルの吐出量を低減することができる。
【0041】
また、本発明を適用した実施形態によれば、カバー80は、隣接する一方のカバー部81Aと他方のカバー部81Bの周方向の端部87がオーバーラップし、一方のカバー部81Aの回転方向の前端87Aが、他方のカバー部81Bの回転方向の後端87Bの内側に配置されるため、カバー80を、複数のカバー部材80A,80Bから構成した場合に、各カバー部材80A,80B間の隙間から、駆動軸15の回転方向Xに沿って流れる霧状の潤滑オイルがカバー80の外側に流出するのを防止することができる。これにより、駆動軸15の回転によって霧状となった潤滑オイルがガス流路に及ぶのを防止することができ、ケーシング3の外への潤滑オイルの吐出量を低減することができる。
【0042】
また、本発明を適用した実施形態によれば、カバー80の上縁部に絶縁体84を設けたため、カバー80を、折り曲げて任意の形状に容易に形成することができる金属で形成し、カバー80の上縁部をステータコイル18の近傍まで延ばした場合でも、カバー80とステータコイル18との間を絶縁することができる。
【0043】
また、本発明を適用した実施形態によれば、駆動モータ13は、駆動軸15の周囲を覆い下方に開放する第2カバー90を備え、当該第2カバー90をカバー80の内側に配置するとともに、カバー80の上端と、第2カバー90の下端と、を上下方向にオーバーラップさせて備えた。これにより、駆動軸15の回転によって霧状となった潤滑オイルを、第1カバー80と第2カバー90の内側に閉じ込めることができる。また、第2カバー90の下端93から第2カバー90の外側に逃げ出した霧状の潤滑オイルは、第1カバー80の内側に閉じ込めることができる。そのため、霧状の潤滑オイルがガス流路に及ぶのを防止することができ、オイルを開口部8Eからオイル溜めに戻すことができるため、ケーシング3の外への潤滑オイルの吐出量を低減することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 スクロール圧縮装置
3 ケーシング
8 ベアリングプレート
8E 開口部
11 スクロール圧縮機構
13 駆動モータ
15 駆動軸
18 ステータコイル
37 ステータ
39 ロータ
80 第1カバー(カバー)
80A カバー部材
81 カバー部
82 取付部
84 絶縁シート(絶縁体)
87 ラップ部
90 第2カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングの内部に冷媒を圧縮するスクロール圧縮機構と、前記スクロール圧縮機構と駆動軸で連結され当該スクロール圧縮機構を駆動する駆動モータとが収容され、
前記スクロール圧縮機構は、メインフレームにより前記ケーシングに支持され、
前記駆動モータの駆動軸は、ベアリングプレートにより前記ケーシングに支持され、
前記ベアリングプレートは、上下の空間を連通する開口部を有し、前記駆動モータと前記ベアリングプレートの間で前記駆動軸の周囲を覆うカバーを備え、
前記カバーは、前記開口部を通過する程度の大きさに分割された複数のカバー部材を備えることを特徴とするスクロール圧縮装置。
【請求項2】
前記カバー部材は、前記ベアリングプレートの上方に配置されるカバー部と、前記カバー部を前記ベアリングプレートの下側から当該ベアリングプレートに固定する取付部と、を一体に備えたことを特徴とする請求項1に記載のスクロール圧縮装置。
【請求項3】
前記カバーは、隣接する一方のカバー部と他方のカバー部の周方向の端部がオーバーラップし、一方のカバー部の回転方向の前端が、他方のカバー部の回転方向の後端の内側に配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載のスクロール圧縮装置。
【請求項4】
前記カバーの上縁部に絶縁体を設けたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のスクロール圧縮装置。
【請求項5】
前記駆動モータは、前記駆動軸の周囲を覆い下方に開放する第2カバーを備え、当該第2カバーを前記カバーの内側に配置するとともに、前記カバーの上端と、前記第2カバーの下端と、を上下方向にオーバーラップさせて備えたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のスクロール圧縮装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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