説明

スクロール型圧縮機

【課題】スクロール型圧縮機において、ブッシュとクランクピンとの間に対して潤滑を行うために体積効率ないし冷却能力に優れたオイルを確実且つ安定的に供給して、耐久性の向上を図ると共に騒音および振動の発生を抑制する。
【解決手段】スクロール型圧縮機を構成する回転駆動部としてのブッシュとクランクピンを囲繞するハウジング14に設けた冷媒の吸入口22において、冷媒に含まれるオイルを分離するオイル分離部と、分離したオイルを回転駆動部の上方へ供給するオイル通路36とを設ける。オイル分離部は、ハウジングに設けた吸入口22の内周面に、該吸入口22のハウジング内部側へ指向して凹状に形成し、分離したオイルを回収する環状溝部33として構成され、回収されたオイルをハウジングの一部に設けたオイル通路36を介して、その下方に配置されたクランクピンに対して滴下される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール型圧縮機に関し、一層詳細には、固定スクロールに対して可動スクロールを旋回させることにより圧縮機内部において流体を圧縮するスクロール型圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、固定板と該固定板に直立した渦巻状の固定壁を有する固定スクロールと、可動板と該可動板に直立した渦巻状の可動壁を前記固定壁に噛み合わせるように配置した可動スクロールとを、ハウジングの内部に備えるスクロール型圧縮機が知られている。
【0003】
このスクロール型圧縮機は、ハウジングに対して回転自在に支持されたブッシュに偏心したクランクピンを挿通させ、前記ブッシュを介して前記可動スクロールを旋回させることにより、固定スクロールの固定壁および可動スクロールの可動壁と、固定板および可動板との間で形成される圧縮室を、外周部位から徐々に中央部位へと移動させて冷媒を圧縮させる。また、スクロール型圧縮機は、潤滑油の貯油される貯油室を備え、該潤滑油が、貯油室から給油溝を通じてハウジングの上部まで流通した後、給油孔を経て固定スクロールと可動スクロールとの摺動部位に供給されると共に、吸入口に供給される冷媒に含まれた潤滑油によって駆動部を潤滑する構成としている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−82335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したようなスクロール型圧縮機においては、一般的に、冷媒中に潤滑油が含まれており、該冷媒がハウジング内を流通することによって潤滑がなされる構成としている。しかしながら、使用する冷媒によっては、該冷媒若しくは該冷媒に適応する潤滑油の潤滑性能が不足することがあり、例えば、一般的な構造を有したスクロール型圧縮機において、駆動部、特に最も奥まった個所であり可動スクロールに組み付けられるブッシュとクランクピンとの摺動部位の潤滑が不十分となることが懸念され、それに伴った耐久性の低下が懸念される。
【0006】
また、ブッシュとクランクピンとの摺動部位の潤滑が不十分である場合に、騒音、振動の発生要因になり得る。
【0007】
本発明は、前記の課題を考慮してなされたものであり、ブッシュとクランクピンとの間に対して潤滑を行うために体積効率ないし冷却能力に優れたオイルを確実且つ安定的に流通させ、耐久性の向上を図ると共に、騒音および振動の発生を抑制することが可能なスクロール型圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するため、本発明は、吸入口および吐出口が設けられるハウジングと、該ハウジング内に設けられ固定側渦巻壁を有した固定スクロールと、前記固定スクロールと噛み合わされた可動スクロールと、前記ハウジングの中央部に回転自在に設けられ可動スクロールを旋回動作させる回転駆動部とを備え、前記吸入口から吸入した冷媒を圧縮して吐出する横置きで用いられるスクロール型圧縮機において、
前記ハウジングの上面部に設けられた冷媒の吸入口に、冷媒に含まれるオイルを分離し回収するオイル分離部と、分離したオイルを回転駆動部の上方へ供給するオイル通路と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、ハウジングにおいて、吸入口に吸入される冷媒中に含まれるオイルをオイル分離部により分離し、分離したオイルを回転駆動部へ効率良く供給することができる。すなわち、この場合、吸入口における冷媒は気体状態であり、オイルは吸入口に連通接続される冷媒供給管の内壁面に沿って流れているとことから、この内壁面におけるオイルを回収して、ハウジングに設けたオイル通路を介して回転駆動部の上方よりオイルを供給することができる。
【0010】
従って、スクロール部の圧縮による加熱作用を受けていないオイルを、回転駆動部の潤滑に使用することができることにより、加熱オイルによる体積効率ないし冷却能力の低下を防止することができる。このような構成により、従来において、吐出口に設けられていたオイルセパレータを廃止することも可能となり、これによりスクロール型圧縮機の小型化および低コスト化を達成することができる。なお、従来のオイルセパレータと、本発明によるオイル分離部とは、併用することもできる。
【0011】
また、本発明において、オイル分離部は、ハウジングに設けた吸入口の内周面に、該吸入口のハウジング内部側へ指向して凹状に形成し、分離したオイルを回収する環状溝部として構成することができる。このように構成することにより、冷媒中のオイルを環状溝部に効率良く分離し回収することができる。
【0012】
さらに、オイル通路は、オイル分離部の環状溝部と連通すると共に、回転駆動部の上方へ指向するように、ハウジングの一部に形成することができる。これにより、オイル通路として、別途通路部材を設ける必要がない。
【0013】
さらにまた、環状溝部は、吸入口の内周面と、該吸入口の内周に挿入されると共に吸入口の内周に嵌め込まれる大径部と前記吸入口の内径より小径の小径部とが、形成された円筒部材の前記小径部の外周面と、により囲まれた空間とすることができる。このように、簡素な構成からなる円筒部材を設けて、吸入口へ挿入するだけで環状溝部を形成することができ、効率良くオイルを分離し回収することができる。この場合、環状溝部から円筒部材の内部通路ヘオイルが流出するのを防止することができる。
【0014】
そして、円筒部材の小径部の外周面には、複数の突起を設けたり、螺旋状の突起を設けたりすることができる。この場合、環状溝部に冷媒が流れ込み、環状溝部に回収されたオイルが吹き上がるのを防止することができる。
【0015】
さらにまた、円筒部材の小径部には、環状溝部と円筒部材の内周とを連通する複数の開口を設けると共に、円筒部材の内周に吸入される冷媒の流れを円筒部材の内周面に偏向させる偏向部を設け、しかもこの偏向部として、冷媒の流れを螺旋状に偏向させる螺旋部材によって構成することができる。これにより、円筒部材の内周を流れる冷媒に含まれるオイルを、円筒部材側に指向させ、円筒部材の複数の開口を通して環状溝部にオイルを分離することができ、さらに偏向部として螺旋部材を使用することにより、円筒部材の流路をあまり狭めることなく、効率良くオイルを分離し回収することができる。
【0016】
そして、環状溝部の内側通路の面積は、前記吸入口に連通接続される冷媒供給管の内径面積より小さく形成すれば、好適である。これにより、冷媒供給管の内壁面を流れるオイルを効率良く環状溝部に導くことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、以下の効果が得られる。
【0018】
ハウジングの上面部に設けられた冷媒の吸入口において、冷媒に含まれるオイルをオイル分離部で分離して得られたオイルを、ハウジングの一部に設けたオイル通路を介して回転駆動部へ、その上方から滴下することができるため、回転駆動部を構成する回転シャフトの軸心に対して偏心したクランクピンおよび該クランクピンの挿入されるブッシュとの間の潤滑を確実且つ安定的に行うことができ、それに伴って、前記クランクピンおよびブッシュの耐久性を向上させると共に、騒音および振動の発生を抑制することが可能となる。
【0019】
前記回転駆動部に供給されるオイルは、吸入口に連通接続される冷媒供給管より供給される気体状態の冷媒から分離されて、吸入口において回収されたものであり、従来のようにスクロール部の圧縮による加熱作用を受けたものではないオイルであることから、回転駆動部の潤滑に使用するに際して、加熱オイルによる場合のような体積効率ないし冷却能力の低下を防止することができる。従って、従来において吐出口に設けられていたオイルセパレータを廃止することも可能となり、これによりスクロール型圧縮機の小型化および低コスト化を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態に係るスクロール型圧縮機の一部省略縦断面図である。
【図2】図1のスクロール型圧縮機におけるハウジングに設けられた吸入口を示す拡大断面図である。
【図3】図3Aは図1のスクロール型圧縮機におけるハウジングに設けられた吸入口に形成する環状溝部を構成する円筒部材の変形例を示す斜視図であり、図3Bは図3Aにおける円筒部材の変形例を示す斜視図である。
【図4】図4Aは図1のスクロール型圧縮機におけるハウジングに設けられた吸入口に形成する環状溝部を構成する円筒部材の別の変形例を示す斜視図であり、図4Bは図4Aにおける円筒部材の吸入口への取付け状態を示す断面説明図であり、図4Cは図4Aにおける円筒部材の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係るスクロール型圧縮機について、好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0022】
図1において、参照符号10は、本発明の実施の形態に係るスクロール型圧縮機を示す。このスクロール型圧縮機10は、図1に示されるように、蓋状に形成されたフロントハウジング(ハウジング)12と、カップ状に形成されたリアハウジング(ハウジング)14とを含む。なお、スクロール型圧縮機10は、例えば、フロントハウジング12およびリアハウジング14の軸線が地面と略平行となるように横置きで配置される。
【0023】
リアハウジング14の上部には、例えば、冷媒をその内部の冷媒吸入室20に導入する吸入口22が形成されると共に、スクロール型圧縮機10により圧縮された圧縮ガスを、例えば、図示しない冷媒循環系へと吐出する吐出口24が形成されている。また、リアハウジング14には、スクロール型圧縮機10を、例えば、図示しないエンジンや外部機器等に取付けるための複数の取付部26が設けられている。さらに、リアハウジング14には、前記吐出口24と連通するガス吐出室28が設けられている。
【0024】
リアハウジング14の上部に設けられた吸入口22には、冷媒に含まれるオイルを分離して回収するオイル分離部30と、分離したオイルを後述する回転駆動部60の上方へ供給するオイル通路36とが設けられる。
【0025】
オイル分離部30は、図2に示されるように、リアハウジング14に設けられた吸入口22に挿入配置して冷媒を流過させるフランジ付き円筒部材32と、該円筒部材32の外周面と前記吸入口22の内周面との間において、リアハウジング14の内部側の冷媒吸入室20に指向して凹状に形成され、冷媒からオイルを分離して回収しオイル溜りとして機能する環状溝部33とから構成される。なお、前記吸入口22に対しては、外部から冷媒を供給するための冷媒供給管34が連通接続される。
【0026】
この場合、前記オイル分離部30に形成される環状溝部33は、吸入口22の内周面に挿入されると共に吸入口22の内周に嵌め込まれる大径部32aと前記吸入口22に連通接続された冷媒供給管34の内径(図示せず)より小径(図示せず)の小径部32bとが形成されたフランジ付き円筒部材32の前記大径部32aの外周面と、前記吸入口22の内周面とにより囲まれた空間によって構成される(図2参照)。
【0027】
また、オイル通路36は、その一端を前記環状溝部33の下端外周部に連通開口し、他端を後述するフロントハウジング12の内部に設けた可動スクロール15の自転を防止する自転防止機構としてのボールカップリング82の位置に対応して開口し、前記ボールカップリング82を介して回転駆動部60の上方へ分離し回収したオイルを滴下供給するように構成する。
【0028】
リアハウジング14の内部には、その開口した一端部側(矢印B方向)から固定スクロール16と、該固定スクロール16に対して旋回する可動スクロール15が挿入される。
【0029】
固定スクロール16は、リアハウジング14に連結される外周縁部を含む固定側基板部38と、この固定側基板部38から可動スクロール15側(矢印B方向)へと渦巻状に立設される固定側渦巻壁40を有する。
【0030】
固定側渦巻壁40は、固定側基板部38の中央から徐々に半径方向に広がるように螺旋状に形成され、この固定側基板部38の略中心部には、後述するガス圧縮室50からガス吐出室28へと連通する圧縮ガス導出孔42が形成されると共に、前記固定側基板部48は、複数の締結ボルト44によってリアハウジング14と互いに連結される。そして、リアハウジング14と固定スクロール16の固定側基板部38によってガス吐出室28が形成される。
【0031】
さらに、固定側基板部38の背面には、圧縮ガス導出孔42を閉塞する一方、ガス圧縮室50において圧縮された圧縮ガスが所定圧になった際に、開動作してガス吐出室28へ該圧縮ガスを導出する吐出弁45が備えられる。
【0032】
可動スクロール15は、可動側基板部46と、該可動側基板部46から固定スクロール16側(矢印C方向)へと渦巻状に立設され、前記固定側渦巻壁40に噛み合う可動側渦巻壁48とを有する。
【0033】
そして、リアハウジング14内において、可動側渦巻壁48が固定スクロール16側(矢印C方向)となるように配置され、前記固定スクロール16を構成する固定側基板部38および固定側渦巻壁40と、可動スクロール15を構成する可動側基板部46および可動側渦巻壁48とによってガス圧縮室50が形成される。このガス圧縮室50を封止するために、固定側渦巻壁40および可動側渦巻壁48の各端部には、それぞれ可動側基板部46および固定側基板部38に摺接動するようにシール部材52が装着されている。
【0034】
また、可動側基板部46の中央には、可動側渦巻壁48から離間する方向(矢印B方向)に向かって突出した円筒状のボス部54が形成され、その内部に形成された円形凹部には、旋回軸受68を介して回転可能にブッシュ58が嵌挿される。
【0035】
回転駆動部60は、回転シャフト62と、前記回転シャフト62の端部に連結されたブッシュ58と、前記回転シャフト62を回転自在に支持する第1および第2軸受64、66と、前記ブッシュ58を回転自在に支持する旋回軸受68とを備える。回転シャフト62は、その一端である軸部70がフロントハウジング12の端部に設けられた開口に挿入され、第2軸受66を介して回転自在に支持される。また、軸部70の外周側には、フロントハウジング12との間に冷媒吸入室20を封止するための封止部材72が嵌挿される。
【0036】
一方、回転シャフト62の他端には、軸部70に対して拡径した支持体74が設けられ、前記支持体74は、貫通孔に設けられた第1軸受64に挿通されることによって回転自在に支持される。なお、第1軸受64はフロントハウジング12の内部に保持される。支持体74には、その軸心に対して偏心したクランクピン76が設けられている。
【0037】
なお、ブッシュ58は、その軸心に偏心して形成された孔部に前記クランクピン76が挿入されることで、回転シャフト62によってスイング運動可能に旋回され、これにより、可動スクロール15が旋回半径を可変させながら旋回する。また、ブッシュ58は、係止リング78によりクランクピン76の軸線方向(矢印B、C方向)への抜け止めがなされた状態で、該クランクピン76を中心として回転可能に構成されている。そして、クランクピン76の根元近傍には、ブッシュ58を介してバランスウエイト80が装着される。
【0038】
可動スクロール15における可動側基板部46とフロントハウジング12の内部に形成された支持面との間には、可動スクロール15の自転を防止する自転防止機構としてボールカップリング82が設けられる。
【0039】
一方、フロントハウジング12の開口の外周部には、第3軸受84を介してプーリ86が装着されている。このプーリ86には、図示しないエンジン等の回転駆動源からベルト等を介して回転力が伝達され、電磁クラッチ88のオン/オフ動作によって前記回転シャフト62への前記回転力の伝達あるいは切り離しが行われる。
【0040】
本発明の実施の形態に係るスクロール型圧縮機10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次にその動作並びに作用効果について説明する。
【0041】
先ず、電磁クラッチ88の動作作用下に、回転シャフト62に回転力が伝達されると、支持体74が第1軸受64を介して回転し、これによって前記支持体74に固着されたクランクピン76が回転シャフト62の軸心に対して偏心した状態で旋回する。これに伴って、ブッシュ58が回転して、自転防止機構としてのボールカップリング82により自転が阻止された可動スクロール15が固定スクロール16に対して旋回する。
【0042】
これにより、吸入口22から供給された冷媒は、リアハウジング14の内部における冷媒吸入室20に導入され、固定スクロール16の固定側渦巻壁40と可動スクロール15の可動側渦巻壁48との間で形成されるガス圧縮室50に導入される。また、リアハウジング14の内部における冷媒吸入室20に導入された冷媒の一部は、フロントハウジング12側(矢印B方向)へも流通する。
【0043】
そして、図2に示されるように、冷媒供給管34を介してリアハウジング14に設けた吸入口22に吸入される冷媒は気体状態であり、この冷媒中に含まれるオイルは冷媒供給管34の内壁面に沿って流れていることから、この内壁面におけるオイルを、オイル分離部30として構成されるフランジ付き円筒部材32の外周面と前記吸入口22の内周面との間に形成した環状溝部33に分離して回収することができる。
【0044】
このようにして、前記環状溝部33に回収されたオイルは、前記環状溝部33の下端部に開口したオイル通路36を介して、フロントハウジング12の内部に設けた可動スクロール15の自転を防止する自転防止機構としてのボールカップリング82の位置に対応する開口位置において、前記ボールカップリング82に対して滴下供給する。このようにして、ボールカップリング82に供給されたオイルは、前記ボールカップリング82を潤滑した後、その下方に位置する回転駆動部60としてのクランクピン76およびブッシュ58に対し滴下され、前記クランクピン76とブッシュ58と間の潤滑を行うことができる。
【0045】
また、これと同時に、ボス部54における旋回軸受68および軸部70の支持体74における第1軸受64に対する潤滑を行うことができる。
【0046】
そして、固定スクロール16における固定側渦巻壁40と可動スクロール15における可動側渦巻壁48との間で形成されるガス圧縮室50が、その外周部から徐々に中央部位へと進行して、シール部材52の封止作用下にリアハウジング14の吸入口22よりオイル分離部30を介して冷媒吸入室20に導入された冷媒は、徐々に圧縮されていく。その後、圧縮された冷媒の圧縮ガスは、圧縮ガス導出孔42からガス吐出室28へと導出され、前記圧縮ガスは、吐出口24を介して図示しない冷媒循環系へ吐出される。この場合、前記吐出口24に、オイル分離機構を設けて、圧縮ガスから適宜オイルを分離するようにしてもよい。
【0047】
なお、図2において、オイル分離部30に形成される環状溝部33は、吸入口22の内周面に挿入されると共に吸入口22の内周に嵌め込まれるフランジ部からなる大径部32aと前記吸入口22の内周より小径の小径部32bとが形成されたフランジ付き円筒部材32の前記小径部32bの外周面と、前記吸入口22の内周面22aとにより囲まれた空間によって構成されることから、前記環状溝部33の内側通路の面積を、前記吸入口22に連通接続される冷媒供給管34の内径面積より小さく形成されることにより、冷媒供給管34の内壁面を流れるオイルを効率良く環状溝部33に導くことができる。
【0048】
以上のように、本実施の形態によれば、リアハウジング14に設けた吸入口22において吸入される冷媒中に含まれるオイルをオイル分離部30により分離して、回収されたオイルをフロントハウジング12内部の回転駆動部60へ、効率良く供給することができる。従って、このようにして得られるオイルは、スクロール部の圧縮により加熱作用を受けていないオイルであることから、加熱オイルによる体積効率ないし冷却能力の低下を防止することができ、回転駆動部60としてのクランクピン76および該クランクピン76の挿通されるブッシュ58の孔部に対する潤滑油として、適正且つ確実に、しかも安定的に供給することができる。これにより、クランクピン76およびブッシュ58等からなる回転駆動部60の耐久性を向上させることができ、これに伴って、スクロール型圧縮機10の耐久性向上を図ることができる。
【0049】
図3Aは、前述したオイル分離部30の実施の形態におけるフランジ付き円筒部材32の変形例を示すものである。すなわち、図3Aに示す前記円筒部材32は、該円筒部材32の小径部32bの外周面の略中位部に、その周方向に若干離間して複数の突起35aを等間隔に設けた構成からなる。このように構成することにより、前記円筒部材32の外周に形成される環状溝部33に対して流入する冷媒(破線で示す)を、前記突起35aにより阻止して前記円筒部材32の内部通路を適正に流過するように案内し、前記環状溝部33内に冷媒が流下して吹き上げを生じないようにすることができる。
【0050】
図3Bは、図3Aに示すフランジ付き円筒部材32の変形例を示すものである。すなわち、図3Bに示す前記円筒部材32は、該円筒部材32の小径部32bの外周面に、螺旋状の突起35bを設けた構成からなる。このように構成することによっても、前記螺旋状の突起35bにより、前述した図3Aに示す円筒部材32と同様の作用および効果を達成することができる。
【0051】
図4Aおよび図4Bは、前述したオイル分離部30の実施の形態におけるフランジ付き円筒部材32の別の変形例を示すものである。すなわち、図4Aに示す前記円筒部材32は、図3Aに示す前記円筒部材32と同様に、該円筒部材32の小径部32bの外周面の略中位部に、その周方向に若干離間して複数の突起35aを等間隔に設けると共に、前記円筒部材32の上部側に周方向に複数の開口35cを等間隔に設け、さらに前記円筒部材32の内部通路に冷媒の流れをその内周面に偏向させることができる偏向部としての螺旋部材37を設けた構成からなる。このように構成することにより、前述した図3Aに示す円筒部材32と同様に冷媒の吹き上げ防止効果を得ることができると共に、図4Bに示すように、前記円筒部材32に流入する冷媒(破線で示す)を、前記円筒部材32に設けた螺旋部材37より旋回するように偏向させて、冷媒に含まれるオイルを遠心分離して開口35cより環状溝部33内に流下させることができる。
【0052】
図4Cは、図4Aに示すフランジ付き円筒部材32の変形例を示すものである。すなわち、図4Cに示す前記円筒部材32は、図3Bに示すと同様に、該円筒部材32の小径部32bの外周面に、螺旋状の突起35bを設けると共に、図4Aに示すと同様に、前記円筒部材32の上部側に周方向に複数の開口35cを等間隔に設け、さらに前記円筒部材32の内部通路に螺旋部材37を設けた構成からなる。このように構成することにより、前述した図4Aおよび図4Bに示す円筒部材32と同様の作用および効果を達成することができる。
【0053】
前述した本発明に係るスクロール型圧縮機10の実施の形態においては、オイル分離部30に形成されるオイルを分離し回収する環状溝部33と連通し、回転駆動部60に対して開口するようにリアハウジング14にオイル通路36を設けている。しかるに、このオイル通路36としては、図1において、リアハウジング14からフロントハウジング12を経て前記フロントハウジング12内にオイル通路36を開口するように設定し、前記フロントハウジング12内のクランクピン76およびブッシュ58に対し、オイルを直接滴下して前記クランクピン76とブッシュ58と間の潤滑を行うように構成することもできる。
【0054】
以上、本発明に係るスクロール型圧縮機は、上述の実施の形態およびそれらの変形例に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【符号の説明】
【0055】
10…スクロール型圧縮機 12…フロントハウジング
14…リアハウジング 15…可動スクロール
16…固定スクロール 20…冷媒吸入室
22…吸入口 22a…内周面
24…吐出口 26…取付部
28…ガス吐出室 30…オイル分離部
32…フランジ付き円筒部材 32a…大径部
32b…小径部 33…環状溝部
34…冷媒供給管 35a…突起
35b…螺旋状の突起 35c…開口
36…オイル通路 37…螺旋部材
38…固定側基板部 40…固定側渦巻壁
42…圧縮ガス導出孔 44…締結ボルト
45…吐出弁 46…可動基板部
48…可動側渦巻壁 50…ガス圧縮室
52…シール部材 54…ボス部
58…ブッシュ 60…回転駆動部
62…回転シャフト 64…第1軸受
66…第2軸受 68…旋回軸受
70…軸部 72…封止部材
74…支持体 76…クランクピン
78…係止リング 80…バランスウエイト
82…ボールカップリング 84…第3軸受
86…プーリ 88…電磁クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸入口および吐出口が設けられるハウジングと、該ハウジング内に設けられ固定側渦巻壁を有した固定スクロールと、前記固定スクロールと噛み合わされた可動スクロールと、前記ハウジングの中央部に回転自在に設けられ可動スクロールを旋回動作させる回転駆動部とを備え、前記吸入口から吸入した冷媒を圧縮して吐出する横置きで用いられるスクロール型圧縮機において、
前記ハウジングの上面部に設けられた冷媒の吸入口に、冷媒に含まれるオイルを分離し回収するオイル分離部と、分離したオイルを回転駆動部の上方へ供給するオイル通路と、を備えることを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項2】
請求項1記載のスクロール型圧縮機において、
前記オイル分離部は、ハウジングに設けた吸入口の内周面に、該吸入口のハウジング内部側へ指向して凹状に形成し、分離したオイルを回収する環状溝部として構成してなるスクロール型圧縮機。
【請求項3】
請求項1又は2記載のスクロール型圧縮機において、
前記オイル通路は、前記オイル分離部の環状溝部と連通すると共に、回転駆動部の上方へ指向するように、ハウジングの一部に形成されることを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項4】
請求項2又は3記載のスクロール型圧縮機において、
前記環状溝部は、吸入口の内周面と、
該吸入口の内周面に挿入されると共に吸入口の内周に嵌め込まれる大径部と前記吸入口の内径より小径の小径部とが形成された円筒部材の前記小径部の外周面と、により囲まれた空間からなることを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項5】
請求項4記載のスクロール型圧縮機において、
前記円筒部材の小径部の外周面に、複数の突起を設けたことを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項6】
請求項4記載のスクロール型圧縮機において、
前記円筒部材の小径部の外周面に、螺旋状の突起を設けたことを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項7】
請求項6記載のスクロール型圧縮機において、
前記円筒部材の小径部には、環状溝部と円筒部材の内周とを連通する複数の開口を設けると共に、円筒部材の内周に吸入される冷媒の流れを円筒部材の内周面に偏向させる偏向部を設けたことを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項8】
請求項7記載のスクロール型圧縮機において、
前記偏向部は、冷媒の流れを螺旋状に偏向させる螺旋部材からなることを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項9】
請求項2ないし8のいずれかに記載のスクロール型圧縮機において、
前記環状溝部の内側通路の面積を、前記吸入口に連通接続される冷媒供給管の内径面積より小さく形成したことを特徴とするスクロール型圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−211548(P2012−211548A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77605(P2011−77605)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000141901)株式会社ケーヒン (1,140)
【Fターム(参考)】