説明

スクロール型圧縮機

【課題】小型化およびインバータ回路部の冷却性向上を図ることのできるスクロール型圧縮機を提供することを目的とする。
【解決手段】主軸40の一端を支持するサブベアリング42が、モータ20側およびその反対側にもオーバーハング(オフセット)しないようになっている。また、底板50aの一方の面50pが平坦面とされている。さらに、主軸40に設けられたバランスウェイト57が、底板50aに近接することになるので、回転子21と底板50aとの間に形成された空間S2の雰囲気がバランスウェイト57のウェイト部57aによって撹拌されるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空気調和機に主に用いられるスクロール型圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
空気調和機に多用されているスクロール型の圧縮機は、渦巻状のスクロール壁をそれぞれ有する固定スクロールと旋回スクロールとを備える。そして、固定スクロールに対して旋回スクロールを公転旋回運動させ、双方のスクロール壁の間に形成される圧縮室の容積を減少させることで、圧縮室内の流体の圧縮を行う。
【0003】
近年、車両用の空気調和機において、モータにより駆動する方式の電動圧縮機が用いられつつある。このような電動圧縮機においては、インバータ回路において、バッテリから供給される直流電流を交流電流に変換し、この交流電流をモータに供給することでモータを回転駆動させて圧縮機を駆動する。
【0004】
車両用の空気調和機においては、車両のエンジンルーム内に各機器を収容するため、省スペース性が要求されている。そこで、圧縮機と、モータと、インバータ回路とが一体化された電動の圧縮機が提供されている。
そして、インバータ回路においては、回路を構成するコンデンサ等の電気素子が発熱するため、インバータ回路の収容室を、圧縮機およびモータが収容されたハウジングのケーシングに密着させ、ケーシング内の冷媒によってインバータ回路を冷却する構成が提案されている(例えば、特許文献1〜4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4072622号公報
【特許文献2】特許第3976512号公報
【特許文献3】特開2009−222009号公報
【特許文献4】特開2009−287440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような一体型の電動圧縮機において、小型化、およびインバータ回路部の冷却性向上については、さらなる向上の余地がある。
【0007】
また、図2に示すように、電動の圧縮機1において、スクロール圧縮部の旋回スクロール2を固定スクロール3に対して旋回させるため、モータ4の主軸5が、メインベアリング6およびサブベアリング7を介してハウジング8に回転自在に支持されている。
このとき、サブベアリング7は、モータ4に対向する側に突出したボス9に設けられており、ハウジング8においてモータ4に対向する壁体8aからモータ4側に突出した位置にオフセットして設けられている。このため、主軸5の回転時に生じる振動や力が、ハウジング8においてモータ4に対向する壁体8aに対し、サブベアリング7を介してモーメント力として作用し、壁体8aにそれに抗する強度が要求される。強度を確保するため、壁体8aを厚くすると、圧縮機1の大型化、重量増大を招き、好ましくない。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、十分な強度を有しつつ、小型化およびインバータ回路部の冷却性向上を図ることのできるスクロール型圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的のもとになされた本発明は、車載用空気調和機を構成するスクロール型圧縮機であって、圧縮機の外殻を形成するハウジングと、ハウジング内の一端側に収容されたスクロール式の圧縮機構と、ハウジング内の他端側に収容され、圧縮機構の主軸を回転駆動させるモータと、ハウジングの他端に設けられ、モータを回転駆動させるインバータ回路部と、を備える。そして、モータとインバータ回路部との間に、モータとインバータ回路部とを仕切る隔壁が設けられるとともに、隔壁に、主軸の一端をベアリングを介して保持するボスが形成され、ボスに保持されたベアリングは、当該ベアリングの主軸の軸方向における厚さ中心が、隔壁の板厚内に位置するよう設けられていることを特徴とする。
主軸の一端を支持するベアリングの厚さ方向の中心が、隔壁の板厚内に位置するよう設けられていることによって、主軸の回転時にベアリングを介して隔壁に伝達される作用力や振動が、隔壁の厚さ方向に対していずれか一方の側にオフセットして作用することがない。したがって、隔壁の板厚を増大させることなく、作用力に対する隔壁の強度を確保することができ、圧縮機の大型化、重量増大を回避することができる。
【0009】
また、ボスは、隔壁に対し、インバータ回路部側に突出し、隔壁のモータに対向する面はボスが設けられた部分が平坦面とされているのが好ましい。
ボスが、隔壁のモータに対向する面側に突出せず、この部分の隔壁が平坦面とされることで、隔壁をモータ側に接近させて配置させることができる。その結果、スクロール型圧縮機を主軸方向に小型化することができる。
また、ボスがインバータ回路部側に突出することで、インバータ回路部が収容された空間内におけるボスの表面積を増大させることができる。隔壁は、ハウジング内の冷媒によって冷却されるので、これにより、インバータ回路部が収容された空間を、より効率よく冷却することができる。
【0010】
主軸に設けられたモータの回転子と隔壁との間に、主軸の外周側にウェイト部を有したバランスウェイトが設けられていることを特徴とすることもできる。
このバランスウェイトが主軸とともに回転することによって、主軸に設けられたモータの回転子と隔壁との間の空間の雰囲気が撹拌され、隔壁を効率よく冷却できる。その結果、インバータ回路部の冷却性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、十分な強度を有しつつ、スクロール型圧縮機の小型化およびインバータ回路部の冷却性向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施の形態におけるスクロール型圧縮機の構成を示す断面図である。
【図2】従来のスクロール型圧縮機の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1は、本実施の形態における電動圧縮機(スクロール型圧縮機)10の構成を示すための図である。
図1に示すように、電動圧縮機10は、ハウジング11の一端側にスクロール式の圧縮部(圧縮機構)30が収容され、他端側にモータ20が収容されている。また、ハウジング11は、モータ20側の端部に開口部11aが形成されており、この開口部11aを塞ぐように、インバータ回路ハウジング(インバータ回路部)50が設けられている。
【0014】
電動圧縮機10においては、ハウジング11のモータ20が設けられた側の側面に形成された冷媒吸入ポート(図示無し)からハウジング11内に冷媒が導入され、圧縮部30が設けられた側(一端側)の端面に形成された冷媒吐出ポートP2から、圧縮部30によって圧縮された冷媒を吐出する。
【0015】
モータ20は、主軸40に設けられた回転子21と、固定子22とから構成されている。
主軸40は、メインベアリング41、サブベアリング42を介してハウジング11に回転自在に支持されている。そして、回転子21は、メインベアリング41とサブベアリング42の間において、主軸40と一体に設けられている。
【0016】
固定子22は、回転子21の外周側に対向して、ハウジング11に固定されて設けられている。
【0017】
圧縮部30は、主軸40とともに回転する旋回スクロール32と、ハウジング11に固定された固定スクロール33と、を備える。
旋回スクロール32、固定スクロール33は、それぞれ円板状のベース32a、33aの一面側に、渦巻状のスクロール壁32b、33bが立設されている。これら旋回スクロール32と固定スクロール33は、スクロール壁32b、33bを互いに組み合わせて、双方のスクロール壁32b、33b間に圧縮室を形成している。
【0018】
旋回スクロール32は、主軸40の中心に対し、予め定められた寸法だけ偏心して設けられている。これにより、旋回スクロール32は、モータ20により主軸40がその軸線周りに回転すると、主軸40の中心に対し、偏心した寸法を半径とした回転(公転)を行う。なお、旋回スクロール32が、公転しつつも、自転はしないよう、旋回スクロール32と主軸40との間には、オルダムリング35が介在している。
【0019】
インバータ回路ハウジング50は、ハウジング11の開口部11aを閉塞する底板(隔壁)50aと、底板50aの周囲から底板50aに直交して立ち上がる周壁50bとを備え、モータ20側とは反対側に開口している。
このインバータ回路ハウジング50は、底板50aに形成された貫通孔52、52を通してボルト53によってハウジング11に締結されている。
周壁50bの開口には蓋54がビス55等により装着可能とされている。
そして、底板50a、周壁50b、蓋54によって囲まれた空間S1内に、図示しないインバータ回路基板が収容されている。
【0020】
ここで、主軸40の一端を回転自在に支持するサブベアリング42は、インバータ回路ハウジング50の底板50aに形成されたボス56に支持されている。
このボス56は、底板50aにおいて、モータ20から離間する側、つまり蓋54側に突出するよう形成され、その外周面56aは、底板50aから蓋54側に向けて外径が漸次小さくなるよう形成されている。ボス56には、モータ20に対向する側に凹部56bが形成され、この凹部56bに、モータ20側からサブベアリング42が圧入されている。
【0021】
ここで、サブベアリング42は、その厚さ方向の中心Cが、底板50aの板厚内、つまり底板50aの一方の面50pと他方の面50qとの間に位置するよう配置されている。本実施形態では、サブベアリング42として、ボールベアリングが用いられており、そのボール42bが、底板50aの一方の面50pと他方の面50qとの間に位置している。
そして、底板50aをハウジング11に締結するボルト53、53による底板50aのハウジング11に対する締結位置P1、P2に対し、サブベアリング42が、モータ20側にも、その反対側の蓋54側にもオーバーハング(オフセット)しないようになっている。
【0022】
また、ボス56が蓋54側に突出することによって、インバータ回路ハウジング50の底板50aにおいて、モータ20側に対向する一方の面50pは、突起のない平坦面とされている。
そして、底板50aの一方の面50pが平坦面であることにより、図2に示したように、モータ4側にボス9が突出している場合に比較し、モータ20と底板50aとを近接させることができる。
さらに、これに伴い、主軸40に設けられたバランスウェイト57が、底板50aに近接する。すると、回転子21と底板50aとの間に形成された空間S2の雰囲気(冷媒)がバランスウェイト57のウェイト部57aによって撹拌される。
これにより、ハウジング11内の冷媒によってモータ20側に臨む底板50aが効率よく冷却される。
【0023】
上述したような構成によれば、主軸40の一端を支持するサブベアリング42が、モータ20側にも、その反対側の蓋54側にもオーバーハング(オフセット)しないようになっているので、主軸40の回転時に生じる作用力に対する、サブベアリング42を支持するインバータ回路ハウジング50の底板50aの強度を、その全体の板厚を増大させることなく高めることができる。したがって、電動圧縮機10の大型化、重量増大を抑えるとともに、耐久性を高めることができる。
また、底板50aの一方の面50pが平坦面であることにより、インバータ回路ハウジング50をモータ20側に近接させることができ、電動圧縮機10全体の主軸40の軸方向への小型化を図ることができる。
さらに、主軸40に設けられたバランスウェイト57が、底板50aに近接することになるので、回転子21と底板50aとの間に形成された空間S2の雰囲気(冷媒)がバランスウェイト57のウェイト部57aによって撹拌され、底板50aが効率よく冷却される。その結果、インバータ回路ハウジング50内のインバータ回路基板の冷却効率を高めることができる。
加えて、ボス56は、インバータ回路部側の空間S2内に突出することで、その外周面56aの表面積が増大し、インバータ回路ハウジング50内のインバータ回路部の冷却効率を高めることができる。
【0024】
なお、上記実施の形態では、電動圧縮機10の構成を説明したが、それはあくまでも一例に過ぎず、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0025】
10 電動圧縮機(スクロール型圧縮機)
11 ハウジング
11a 開口部
20 モータ
21 回転子
22 固定子
30 圧縮部(圧縮機構)
32 旋回スクロール
33 固定スクロール
35 オルダムリング
40 主軸
41 メインベアリング
42 サブベアリング
42b ボール
50 インバータ回路ハウジング(インバータ回路部)
50a 底板(隔壁)
50b 周壁
50p 一方の面
50q 他方の面
53 ボルト
54 蓋
56 ボス
56a 外周面
57 バランスウェイト
57a ウェイト部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載用空気調和機を構成するスクロール型圧縮機であって、
前記圧縮機の外殻を形成するハウジングと、
前記ハウジング内の一端側に収容されたスクロール式の圧縮機構と、
前記ハウジング内の他端側に収容され、前記圧縮機構の主軸を回転駆動させるモータと、
前記ハウジングの他端に設けられ、前記モータを回転駆動させるインバータ回路部と、を備え、
前記モータと前記インバータ回路部との間に、前記モータと前記インバータ回路部とを仕切る隔壁が設けられるとともに、前記隔壁に、前記主軸の一端をベアリングを介して保持するボスが形成され、
前記ボスに保持された前記ベアリングは、当該ベアリングの前記主軸の軸方向における厚さ中心が、前記隔壁の板厚内に位置するよう設けられていることを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項2】
前記ボスは、前記隔壁に対し、前記インバータ回路部側に突出し、前記隔壁の前記モータに対向する面は前記ボスが設けられた部分が平坦面とされていることを特徴とする請求項1に記載のスクロール型圧縮機。
【請求項3】
前記主軸に設けられた前記モータの回転子と前記隔壁との間に、前記主軸の外周側にウェイト部を有したバランスウェイトが設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のスクロール型圧縮機。

【図1】
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【図2】
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