説明

スクロール流体機械

【課題】スクロール流体機械の自転防止機構を構成する軸受へのグリス供給を、固定スクロールのみを取り外すだけで、簡便に実施可能とする。
【解決手段】自転防止機構50を構成する従動クランク軸52を回転自在に支承する第1転がり軸受54の下方に配置された円板状のスペーサ78に、周方向に複数の切欠部を形成する。スペーサ78の外周面に面して座ぐり部80が設けられており、座ぐり部80の外周側にスクロール軸線方向に連通孔82及び86が穿設され、連通孔86から切欠部を介して第1転がり軸受54に連通した連通孔が形成されている。連通孔86にグリスニップル88が装着されており、グリス補給時に、固定スクロール体をハウジングから取り外し、旋回スクロール体を露出させ、グリスニップル88からグリスガンでグリスを第1転がり軸受54に注入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール圧縮機、スクロール真空ポンプ、スクロール膨張機、スクロール送風機等のスクロール流体機械において、クランク機構を用いた自転防止機構を構成する軸受へのグリスの供給手段に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のスクロール流体機械は、例えば、図1に示すように、周壁12により囲繞された凹状空間sに第1のラップ14を形成した固定スクロール体10と、第1のラップ14に嵌合可能な第2のラップ24を有する可動の旋回スクロール体20とからなり、旋回スクロール体20を自転させることなく、固定スクロール体10に対し公転させることにより、両ラップ14,24間に形成される密閉空間の容積を変化可能に構成している。
【0003】
旋回スクロール体20の公転機構は、旋回スクロール体20の旋回半径に対応して偏心させた偏心軸44が一体形成された主駆動クランク軸42が、該偏心軸44を介して旋回スクロール体20と連結され、主駆動クランク軸42をハウジング40の中心軸上に軸支させ、主駆動クランク軸42を回転させることにより、旋回スクロール体20を公転させる。主駆動クランク軸42の中心軸より半径方向に所定距離隔てた位置に、周方向に対称に、主駆動クランク軸42の偏心量に対応して偏心回転運動を行なう従動クランク軸52を備えた自転防止機構50が設けられている。
【0004】
この自転防止機構50は、従動クランク軸52が、ハウジング40に固定された第1転がり軸受54に回転自在に軸支され、従動クランク軸52と一体の偏心軸52aが、旋回スクロール体20に支承された第2転がり軸受56に回転自在に軸支され、主駆動クランク軸42の回転により、旋回スクロール体20の自転を阻止しつつ公転運動を可能にしている。
【0005】
スクロール流体機械のうち、特に圧縮機では、クリーンな圧縮気体を得るために、旋回スクロール体20の第2のラップ24が固定スクロール体10と当接する端面、及び固定スクロール体10の第1のラップ14が旋回スクロール体20の端板22と当接する端面に、溝を凹設し、該溝に渦巻形をなす自己潤滑性シール部材30を嵌入させている。これによって、ラップ部の無給油状態を維持しつつ、凹状空間s内の外部との気密性を維持している。
【0006】
無給油式スクロール流体機械では、固定スクロール体10に対し旋回スクロール体20を、精度良く平行度と隙間量を調整し、適切な嵌合精度で旋回スクロール体20を公転ささせる。これによって、凹状空間sからの漏れ、ラップと他側摺動面との接触等による騒音、異常磨耗、及びラップの片当り等に起因した動力の上昇や軸受等の耐久性の低下等を防止している。無給油式スクロール流体機械では、主駆動クランク軸42や従動クランク軸52の軸受部に、油潤滑させる手段がないため、一般的には、グリス封入によりこれに対処している。しかし、このグリス封入手段では、グリス封入部に定期的にグリス補給を行なう必要がある。
【0007】
特許文献1(実公昭7−2961号公報)には、主駆動クランク軸42の偏心軸44を回転自在に支承する軸受46にグリスを補給する手段が開示されている。このグリス補給手段は、図1に示すように、偏心軸44に取り付けられたバランスウェイト48の外周面と偏心軸44の軸端とに開口する給油用通路60を穿設している。そして、給油用通路60の偏心軸端側開口を、旋回スクロール体20に取り付けられたベアリングプレート26に対面させ、偏心軸端とベアリングプレート26との間に設けられた隙間cを介して軸受46に連通させている。
【0008】
グリス補給時に、給油用通路60のバランスウェイト外周面側開口をハウジング40に設けたグリスガン口に対面させ、該グリスガン口からグリスガンを挿入し、給油用通路60にグリスを補給するようにしている。
【0009】
特許文献2(特開2002−227779号公報)には、自転防止機構50を構成する第1転がり軸受54及び第2転がり軸受56にグリスを補給する2つの手段が開示されている。この補給手段を図1を参照して説明する。図1において、第1の補給手段は、従動クランク軸52に軸線方向に穿設され、一端がベアリング押え70の内部に開口し、他端が第2転がり軸受56とベアリングプレート26との間に設けられたスリット隙間cに開口する給油用通路を設けるものである。そして、ベアリング押え70側の開口にグリスニップルを装着し、該給油用通路を介して第1転がり軸受54及び第2転がり軸受56にグリスを供給するものである。
【0010】
特許文献2に開示された第2の補給手段は、前記給油用通路に加えて、第1転がり軸受54を支承するハウジング40に、第1転がり軸受54の半径方向外周側からスクロール軸線と直交する方向に第2の給油用通路を穿設し、該第2の給油用通路を第1転がり軸受54を貫通して前記給油用通路に連通させるようにしたものである。そして、該第2の給油用通路にグリスニップルを装着してグリスを注入するようにしている。
【0011】
特許文献3(特開2005−282496号公報)に開示されたグリス補給手段は、図1を参照して説明すると、旋回スクロール体20の端板22の中心部に、貫通孔を設け、該貫通孔を介して固定スクロール側から軸受46にグリスを注入する手段である。また、旋回スクロール体20の外側位置で、第2転がり軸受56を支承するベアリングプレート26に貫通孔を設け、この貫通孔から第2転がり軸受56にグリスを注入する手段が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】実公昭7−2961号公報
【特許文献2】特開2002−227779号公報
【特許文献3】特開2005−282496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
第1転がり軸受54にグリスを補給する手段は、特許文献2に開示されている。しかしながら、特許文献2に開示された第1の補給手段は、グリス補給時に、ベアリング押え70を取り外し、ベアリング押え70側の開口にグリスニップルを装着する必要がある。しかし、図1に示すように、主駆動クランク軸42の他端側にはプーリ100、冷却ファン104及び冷却ファンカバー106等が取り付けられているため、プーリ100側にグリスガンをセットするためには、前記機器類を取り外す必要がある。
【0014】
また、特許文献2に開示された第2の補給手段は、ハウジング40の半径方向外周側に、グリスガン設置用のスペースを必要とする。また、第2の給油用通路は、スクロール軸線方向と直交する方向に穿設され、従動クランク軸52に穿設された給油用通路とは方向が90°異なる。そのため、これらの給油用通路は工作機械で同時に加工することができず、加工工数が余分に必要になる。
【0015】
スクロール流体機械では、前記自己潤滑性シール部材30の交換時に、固定スクロール体10をハウジング40から取り外す必要があるが、このとき、同時に第1転がり軸受54へのグリス供給を行なうことができることが望ましい。
【0016】
本発明は、かかる従来技術の問題に鑑み、無給油式又は給油式スクロール流体機械の自転防止機構において、ハウジングに固定された軸受へのグリス供給をスクロール本体の大掛かりな解体や加工を必要とせず、簡便に実施可能とすること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するために、本発明のスクロール流体機械は、旋回スクロールに対して偏心して取り付けられた駆動クランク軸によって旋回スクロールを公転させる公転機構と、従動クランク軸がハウジングに支承された第1軸受に回転可能に支持され、該従動クランク軸と一体の偏心軸が旋回スクロールに支承された第2軸受に回転可能に支持されたクランク機構からなる自転防止機構とを備えている無給油式スクロール流体機械において、第1軸受のケーシング又は該ケーシングを支承したハウジングに、旋回スクロールの端板の半径方向外側位置で固定スクロール側に向けて開口する給油口を設け、該給油口と第1軸受とを連通する連通孔を設けたものである。
【0018】
本発明では、前記給油口と連通孔を設けたことにより、固定スクロールをハウジングから取り外し、旋回スクロールを露出させた状態で、第1軸受にグリスを注入できる。そのため、スクロールの大掛かりな解体を必要とせず、グリス補給作業が容易になる。従って、自己潤滑性シール部材30の交換時に、他の余分な解体を行なうことなく、同時に第1軸受へのグリス補給が可能になる。
【0019】
また、給油口が固定スクロール側に向けて開口しているので、グリスガンをスクロール軸線方向に向けて給油口に取り付けできるので、グリス補給時にハウジングの半径方向外周側にスペースを必要としない。さらに、給油口が第1軸受の近傍に設けられるので、連通孔の加工が容易になる。
【0020】
本発明において、前記連通孔の一部が、第1軸受のケーシング又は該ケーシングを支承するハウジングの根元に形成された座ぐり部と、前記従動クランク軸と偏心軸の連結部を囲繞する円板状のスペーサに刻設され、該座ぐり部と第1軸受とを連通させる切欠部とで形成されているとよい。
【0021】
前記座ぐり部は、第1軸受を第1軸受のケーシングに圧入するとき、圧入を容易にするため、第1軸受のケーシング又は該ケーシングを支承するハウジングの撓み性を増すために形成されるものである。このような既設の座ぐり部を連通孔の一部として利用することにより、連通孔の形成が容易になる。
また、円板状のスペーサを利用することで、連通孔の形成が容易になり、該スペーサに切欠部を形成する簡単な加工で、座ぐり部を第1軸受へ連通させる加工が可能になる。
【0022】
本発明において、前記給油口及び連通孔の形成に加えて、旋回スクロール端板の外側位置で第2軸受を支承するベアリングプレートに、固定スクロール側に向けて開口し第2軸受に連通する貫通孔を穿設するとよい。
これによって、固定スクロールをケーシングから取り外すだけで、第1軸受及び第2軸受へのグリス供給が同時に可能になる。
【0023】
本発明において、第1軸受に連通する給油口、及び第2軸受に連通する第2給油口にグリスニップルが装着されているとよい。これによって、グリスガンによる給油が容易になると共に、これら給油口からのグリスの漏れがなくなり、かつこれら給油口への塵や埃の侵入を防止できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明装置によれば、旋回スクロールに対して偏心して取り付けられた駆動クランク軸によって旋回スクロールを公転させる公転機構と、従動クランク軸がハウジングに支承された第1軸受に回転可能に支持され、該従動クランク軸と一体の偏心軸が旋回スクロールに支承された第2軸受に回転可能に支持されたクランク機構からなる自転防止機構とを備えているスクロール流体機械において、第1軸受のケーシング又は該ケーシングを支承するハウジングに、旋回スクロールの端板の半径方向外側位置で固定スクロール側に向けて開口する給油口を設け、該給油口と第1軸受とを連通する連通孔を設けたことにより、固定スクロールのみをスクロール本体から取り外した状態で、第1軸受にグリスを注入できる。そのため、スクロールの大掛かりな解体を必要とせず、かつ給油口が固定スクロール側に向けて開口しているので、給油作業時にハウジングの半径方向外周側スペースを必要とせず、第1軸受へのグリス供給が容易になる。さらに、給油口が第1軸受の近傍に設けられるので、連通孔の加工が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明を適用した無給油式スクロール圧縮機の全体断面図である。
【図2】前記スクロール圧縮機の一部拡大断面図である。
【図3】前記スクロール圧縮機の一部品を示す斜視図である。
【図4】前記スクロール圧縮機のグリス補給時を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態を例示的に詳しく説明する。但しこの実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではない。
【0027】
本発明装置の一実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。図1は本発明が適用される無給油式スクロール圧縮機を示し、前述のように、固定スクロール体10と、旋回スクロール体20と、及びこれらを所定位置に固定又は旋回可能に支持するハウジング40とからなる。これら部材の概略構成を簡単に説明する。
【0028】
固定スクロール体10は、ハウジング40の端面に固定され、吸込口16を有する周壁12によって囲繞された凹状空間s内に渦巻形の第1のラップ14を直立して形成している。第1のラップ14の略中央に圧縮流体を吐出するための吐出口18を備えている。
旋回スクロール体20は、ハウジング40内の凹部空間に収納され、周壁12の平坦面に当接する端板22と、端板22に直立し、第1のラップ14の実質的に同じ形状の渦巻形の第2のラップ24とからなる。第1のラップ14と第2のラップ24は、互いに180°ずらして嵌合されている。固定スクロール体10及び旋回スクロール体20の背面側には、夫々冷却フィン19及び25が形成され、空冷によりスクロール内部を冷却可能にしている。
【0029】
第1のラップ14及び第2のラップ24は、夫々他側スクロールの端板と接触する端面に溝部を凹設し、該溝部に渦巻形の自己潤滑性シール部材30を嵌入させることにより、凹状空間sの気密性を維持しながら、これらラップが無潤滑で摺動可能となるように構成されている。
【0030】
ハウジング40は、一端にプーリ100が連結された主駆動クランク軸42を中心軸上に軸支すると共に、該主駆動クランク軸42を中心として夫々120°ずつ偏位させた位置(3箇所)に、自転防止機構50を構成する第1転がり軸受54を支承している。
主駆動クランク軸42の先端側に一体形成された偏心軸44は、軸受46に回転自在に軸支され、軸受46は、旋回スクロール体20と一体となったベアリングプレート26に連結されている。
【0031】
従動クランク軸52は、ハウジング40に支承された第1転がり軸受54によって回転自在に軸支されている。従動クランク軸52と一体の偏心軸52aは、第2転がり軸受56によって回転自在に軸支され、第2転がり軸受56は、ベアリングプレート26と一体のケース58に収容されている。
【0032】
この結果、図示省略のVベルトによりプーリ100を回転させると、プーリ100とボルト102で連結された主駆動クランク軸42が回転する。主駆動クランク軸42が回転すると、偏心軸44が公転運動を行なうと共に、3個の従動クランク軸52が主駆動クランク軸42の偏心量に対応して偏心回転運動を行なう。これによって、旋回スクロール体20が自転を阻止されながら一定の半径で公転運動する。かかる構成は既に公知であるので、その詳細な説明を省略する。
【0033】
図2は、自転防止機構50の構成を図示している。図において、第1転がり軸受54の内レース構成体72がボルト74によって従動クランク軸52に連結されている。ベアリング押え70が、ボルト76によって第1転がり軸受54の端面に装着されている。従動クランク軸52と一体の偏心軸52aを回転自在に支承する第2転がり軸受56は、ベアリングプレート26と一体に形成されたベアリングケース58に収容されている。
【0034】
従動クランク軸52と偏心軸52aの中間にある連結軸52bの周囲を囲繞するように、スペーサ78が配設されている。図3に示すように、スペーサ78は円板状をなし、その外周面に周方向に等間隔に6個の切欠部78aが刻設されている。スペーサ78の外周側の位置で、ハウジング40にリング状をなし四角形断面の座ぐり部80が形成されている。この座ぐり部80は、第1転がり軸受54をハウジング40に圧入するときに、ハウジング40の撓み性を増大させるために形成されている。
【0035】
座ぐり部80の外周側には、スクロール軸線方向に向けて連通孔82が穿設され、該連通孔82の開口は封止栓84で密閉されている。連通孔82の外周側に、スクロール軸線方向に連通孔86が穿設され、連通孔86は連通孔82と連通し、連通孔86の給油口87がスクロール本体軸線方向で固定スクロール体10側に向かって開口し、給油口87にグリスニップル88が装着されている。
【0036】
図1において、端板22の半径方向外周側であって、第1転がり軸受54に対応する位置のベアリングプレート26に、スクロール軸線方向に貫通孔90が穿設され、該貫通孔90の開口がスクロール本体軸線方向で固定スクロール体10側に向かって開口し、該開口にグリスニップル92が装着されている。
【0037】
図4は固定スクロール体10を取り外し、旋回スクロール体20を露出させた状態を示す。図4に、グリスニップル88及び92の配置位置を示す。連通孔86とグリスニップル88、及び貫通孔90とグリスニップル92は、端板22の外周側で、主駆動クランク軸42を中心として夫々120°ずつ偏位させた位置(3箇所)に配置されている。
また、主駆動クランク軸42の他端には、ボルト102によってプーリ100が取り付けられている。プーリ100側には、プーリ100に連結されてプーリ100と共に回転する冷却ファン104、及び冷却ファン104を覆う冷却フィンカバー106がハウジング40に固設されている。
【0038】
かかる構成において、第1転がり軸受54及び第2転がり軸受56にグリスを補給するときは、固定スクロール体10をハウジング40に固定しているボルト108を外して、固定スクロール体10をハウジング40から取り外す。この状態で、旋回スクロール体20の端板22及び第2のラップ24が外部に露出されると共に、グリスニップル88及び92が外部に露出される。図4に示すように、グリスニップル88及び92に対して、グリスガン110をスクロール軸線方向に向け、グリスガン口112をこれらグリスニップルに装着し、グリスを注入する。
【0039】
グリスニップル88から連通孔86に注入されたグリスは、連通孔82、座ぐり部80及びスペーサ78の切欠部78aを通して第1転がり軸受54に到達する。また、グリスニップル92を介して貫通孔90に注入されたグリスは、貫通孔90から第2転がり軸受56に供給される。
【0040】
本実施形態によれば、固定スクロール体10をハウジング40から取り外すだけで、第1転がり軸受54及び第2転がり軸受56へのグリス補給が可能になる。そのため、グリス補給のための解体作業が簡素化できる。このように、固定スクロール体10を取り外すだけでグリス補給ができるので、自己潤滑性シール部材30の交換時に、同時に第1転がり軸受54及び第2転がり軸受56のグリス補給が可能になる。
【0041】
加えて、グリスニップル88及び92がスクロール軸線方向に向けて装着されているので、グリス補給時に、ハウジング40の半径方向外側のスペースを必要としない。そのため、狭いスペースでグリス補給が可能になる。さらに、グリスニップル88及び92が端板22より外周側に配置されているので、グリスガン110をこれらグリスニップルに装着するのが容易になる。
【0042】
また、連通孔82と第1転がり軸受54とを連通させる孔の一部を、既設の座ぐり部80を利用し、かつスペーサ78に設けた切欠部78aで形成しているので、該連通孔の加工工数を低減できる。さらに、連通孔82及び86は、スクロール軸線方向に向けて加工されているので、これら連通孔を工作機械で加工するとき、一軸上で同時に加工でき、加工工数を低減できる。
【0043】
また、連通孔86及び貫通孔90に予めグリスニップル88及び92が装着されているので、グリスガン110によるグリス補給が容易になると共に、連通孔86及び貫通孔90からのグリス漏れや塵埃の侵入を防止できる。
【0044】
なお、図1において、主駆動クランク軸42の偏心軸44には、偏心軸44の偏心距離に相当する重心の偏りを補正するために、偏心軸44には扇状のバランスウェイト48が取り付けられている。バランスウェイト48及び偏心軸44に、バランスウェイト48の外周面と偏心軸44とベアリングプレート26間のスリット隙間cに開口する給油用通路60を設け、該スリット隙間cを軸受46の内レースの外径より大に延設する。
【0045】
また、給油用通路60のバランスウェイト側開口にグリスニップル62を装着し、偏心軸44を適当に回転させ、ハウジング40に開口した図示省略のグリスガン口とグリスニップル62とを正対させる。そして、該グリスガン口から挿入したグリスガンで給油用通路60及びスリット隙間cを介して軸受46にグリスを補給できる。この軸受46へのグリス補給手段は、前述のように、特許文献1に開示されている。
なお、本実施形態は無給油式スクロール圧縮機を対象にしたものであるが、本発明は、給油式のスクロール流体機械にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、スクロール流体機械の自転防止機構を構成する軸受へのグリス補給を、大掛かりな解体を必要とせず、簡易に実施できる。
【符号の説明】
【0047】
10 固定スクロール体
12 周壁
14 第1のラップ
16 吸入口
18 吐出口
19,25 冷却フィン
20 旋回スクロール体
22 端板
24 第2のラップ
26 ベアリングプレート
30 自己潤滑性シール部材
40 ハウジング
42 主駆動クランク軸
44,52a 偏心軸
46 軸受
48 バランスウェイト
50 自転防止機構
52 従動クランク軸
52b 連結軸
54 第1転がり軸受(第1軸受)
56 第2転がり軸受(第2軸受)
58 ベアリングケース
60 給油用通路
62、88,92 グリスニップル
70 ベアリング押え
72 内レース構造体
74,76,102,108 ボルト
78 スペーサ
78a 切欠部
80 座ぐり部
82、86 連通孔
87 給油口
84 封止栓
90 貫通孔
100 プーリ
104 冷却ファン
106 冷却ファンカバー
110 グリスガン
112 グリスガン口
c スリット隙間
s 凹状空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋回スクロールに対して偏心して取り付けられた駆動クランク軸によって旋回スクロールを公転させる公転機構と、従動クランク軸がハウジングに支承された第1軸受に回転可能に支持され、該従動クランク軸と一体の偏心軸が旋回スクロールに支承された第2軸受に回転可能に支持されたクランク機構からなる自転防止機構とを備えているスクロール流体機械において、
前記第1軸受のケーシング又は該ケーシングを支承するハウジングに、旋回スクロールの端板の半径方向外側位置で固定スクロール側に向けて開口する給油口を設け、該給油口と第1軸受とを連通する連通孔を設けたことを特徴とするスクロール流体機械。
【請求項2】
前記連通孔の一部が、第1軸受のケーシング又は該ケーシングを支承するハウジングの根元に形成された座ぐり部と、前記従動クランク軸と偏心軸の連結部を囲繞する円板状のスペーサに刻設され、該座ぐり部と第1軸受とを連通させる切欠部とで形成されていることを特徴とする請求項1に記載のスクロール流体機械。
【請求項3】
旋回スクロール端板の外側位置で第2軸受を支承するベアリングプレートに、固定スクロール側に向けて開口し第2軸受に連通する貫通孔を穿設したことを特徴とする請求項1又は2に記載のスクロール流体機械。
【請求項4】
前記給油口及び前記貫通孔の開口にグリスニップルが装着されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載のスクロール流体機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−77670(P2012−77670A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222772(P2010−222772)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(390028495)アネスト岩田株式会社 (224)
【Fターム(参考)】