説明

スズ系めっき被膜及びその製造方法

【課題】ウィスカの主発生原因となるスズ系めっき粒子間へ成長する金属間化合物によるめっき粒子の圧迫、すなわち圧縮応力を吸収することができるめっき皮膜を提供することを目的とする。
【解決手段】素地1上に形成されたスズ系めっきのめっき被膜2において、めっき粒子3内に微小な空孔部4を多数有するものとする。また、素地上にスズ系めっきを形成するスズ系めっきの製造方法において、メタンスルホン酸スズ(II)、メタンスルホン酸、硫黄系有機添加剤、アミン−アルデヒド系光沢剤、ノニオン系界面活性剤からなる浴組成中に素地1を浸漬して電着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ウィスカ成長を抑制するスズまたはスズ系合金めっき皮膜からなるスズ系めっきとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護の問題がクローズアップされ、世界的規模で環境に対する関心が高まってきている。エレクトロニクス産業の分野においては、主に接合材料として使用されているはんだ中の鉛の問題が大いに注目を浴びている。
【0003】
ほとんどの電子機器は不用になると埋め立て処分され、昨今の慢性的な酸性雨によりこれら廃家電の実装基板から溶出した鉛が水質汚染を起こしている。ところが、廃棄される実装基板のはんだから鉛を除去する技術が未だ確立されていない。このことから、鉛を含まないはんだ(鉛フリーはんだ)の材料および適用技術の開発が進んでいる。
【0004】
これに対し、電子部品においてはもちろんのこと、種々の電子機器において鉛フリー化が必須であり、電子部品リードの表面処理であるめっきにおいても従来より適用されてきたスズ−鉛めっきから鉛を除去しなければならなくなった。
【0005】
しかしながら、鉛を含まないスズ合金めっき、或いはスズ単体めっきでは、めっき皮膜表面にウィスカと呼ばれる針状のスズ単結晶が成長しやすくなることが懸念されている。このウィスカは直径が1μm〜10μm程度で置かれる環境によっては長さが数mm程度にまで成長する恐れがあり、電子部品リード間を短絡し、電子回路を破壊する危険が生じる。
【0006】
ウィスカはスズ系めっき層に圧縮応力が働いている場合に、それを開放するためにめっき層の体積膨張を起こす結果生じるものである。発生原因としては、めっきにける電着応力、酸化皮膜の成長による体積膨張、機械的ストレス、素地とめっき皮膜の線膨張係数の差が上げられるが、素地とめっき皮膜の界面で形成され柱状に成長し、めっき粒子に働く圧縮応力により圧迫する金属間化合物がウィスカの主要因と考えられる。
【0007】
この対策として、例えば、特許文献1に開示されているような検討がなされている。これによれば、スズめっき皮膜またはスズ合金めっき皮膜からなる下層と、この上に形成された比較的膜厚の薄いスズめっき皮膜またはスズ合金めっき皮膜からなる上層からなる二層構造のスズ系めっき皮膜を施すことでウィスカの発生を長期間防止することが可能となる。
【0008】
【特許文献1】特開2006−9039公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1では、2層のめっきを行わないといけない煩雑さがあり、製造コストの点でも改善を必要とするという問題がある。
【0010】
この発明は、上記のような問題点を解消するためになされたもので、ウィスカの主発生原因となるスズ系めっき粒子間へ成長する金属間化合物によるめっき粒子の圧迫、すなわち圧縮応力を吸収することができるめっき皮膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係るスズ系めっき被膜は、素地上に形成されたスズ系めっき皮膜において、
上記めっき皮膜のめっき粒子内に複数の空孔部を有するものである。
【0012】
この発明に係るスズ系めっき方法は、素地上にスズ系めっき被膜を形成するめっき方法において、
メタンスルホン酸スズ(II)、メタンスルホン酸、硫黄系有機添加剤、アミン−アルデヒド系光沢剤、ノニオン系界面活性剤からなる浴組成中に上記素地を浸漬して電着するものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係るスズ系めっき被膜及びスズ系めっき方法によれば、ウィスカの主発生原因となるスズ系めっき被膜の粒子間へ成長する金属間化合物によるめっき粒子の圧迫、すなわち圧縮応力を吸収し、ウィスカの発生または成長を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
実施の形態1.
図1は、この発明に係るスズ系めっき皮膜の実施の形態1における断面を示す概念図である。図1に示したように、この実施の形態1では、銅または銅合金からなる素地1上のスズ系めっき被膜2のめっき粒子3内に1μm程度以下の径を有する多数の空孔部4が形成されている。
【0015】
この実施の形態1によれば、めっき粒子3粒界に成長する金属間化合物による圧縮応力が多数の空孔部4によって緩和されるため、ウィスカの成長が抑制される。
【0016】
図1に示したスズ系めっき皮膜の製造方法の例を説明する。
まず、リードピッチが2.54mmでリード幅が1.54mmのリードからなる半導体パッケージを用い、当該パッケージの銅合金からなるリードを構成する素地1を電解脱脂し、エッチングを行い、プリディップした後、メタンスルホン酸スズ(II):60g/L、メタンスルホン酸:120g/L、硫黄系有機添加剤:50mg/L、アミン−アルデヒド系光沢剤:少々、ノニオン系界面活性剤:少々からなる浴組成にて、浴温:40℃、電流密度:30A/dmの条件でスズ系めっきを行った。この条件にて得られためっき粒子3には空孔部4が無数に生成していた。
【0017】
図2は、上記製造方法で得られたスズ系めっき被膜の環境試験を行った後の断面を示す概念図である。
図2に示したように、30℃、60%の環境下に4000時間放置したところ、めっき皮膜2と素地1の界面に金属間化合物5が生成しており、それらの内めっき粒子3の粒界6に柱状に延びた金属間化合物5によりめっき粒子3に圧縮応力7が印加され、めっき粒子3がやや変形していた。しかし、空孔部4が圧縮応力7を吸収し、わずかにはウィスカが発生したもののその長さは最長で20μm程度であり、リード間を短絡するに至るほどの危険は生じなかった。
【0018】
微小な空孔部4の体積総和は、めっき粒界6に生成した金属間化合物5の体積総和よりも大きいことが望ましい。
【0019】
実施の形態2.
図3は、この発明に係るスズ系めっき皮膜の実施の形態2における断面を示す概念図である。図3に示したように、上記実施の形態1と同様に、銅または銅合金等からなる素地1上のスズ系めっき被膜2のめっき粒子3内に1μm程度以下の径を有する多数の空孔部4が形成されている。
【0020】
この実施の形態2によれば、上記実施の形態1と同様に、めっき粒子3粒界に成長する金属間化合物による圧縮応力が多数の空孔部4によって緩和されるため、ウィスカの成長が抑制される。
【0021】
図3に示したスズ系めっき皮膜の製造方法の例を説明する。
実施の形態1と同様に、リードピッチが2.54mmでリード幅が1.54mmのリードからなる半導体パッケージを用い、当該パッケージのリードを構成する素地1を電解脱脂し、エッチングを行い、プリディップした後、メタンスルホン酸スズ(II):60g/L、メタンスルホン酸:120g/L、硫黄系有機添加剤:80mg/L、アミン−アルデヒド系光沢剤:少々、ノニオン系界面活性剤:少々からなる浴組成にて、浴温:40℃、電流密度:30A/dmの条件でスズ系めっきを行った。この条件にて得られためっき粒子3には空孔部4が無数に生成していた。
【0022】
図4は、上記製造方法で得られたスズ系めっき被膜の環境試験を行った後の断面を示す概念図である。
図4に示したように、30℃、60%の環境下に4000時間放置したところ、めっき皮膜2と素地1の界面に金属間化合物5が生成しており、それらの内めっき粒子3の粒界6に柱状に延びた金属間化合物5によりめっき粒子に圧縮応力7が印加され、めっき粒子3がやや変形していた。しかし、空孔部4が圧縮応力7を完全に吸収し、ウィスカは全く発生していなかった。また、硫黄系有機添加剤濃度が80mg/L以上では同様にウィスカは完全に抑制される傾向を示した。
【0023】
図5は、空孔部の体積総和と30℃、60%の環境下に4000時間放置した後のウィスカ長さの関係を示すグラフである。空孔部の体積総和がめっき体積の0.1%以上になるとウィスカは完全に抑制される傾向を示した。しかし、空孔部の体積総和がめっき体積の5%を超えるとめっき膜が脆化し、本来の膜質を保持できなくなるため、空孔部の体積総和は0.1〜5%が最適である。
【0024】
なお、上述の空孔部の体積総和とは、当該めっきによって発生する一つのめっき粒子内に存在する複数の空孔部の体積の総和である。また、めっき体積とは、一つのめっき粒子の体積である。
【0025】
上記実施の形態1及び2では、スズ系めっき被膜としてスズ単体を例として説明したが、スズを基体として銅、ビスマス、銀、亜鉛、コバルトおよびインジウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属とのスズ系合金めっきにおいても効果が認められる。この場合、上記実施の形態1及び2に示しためっき液に銅、ビスマス、銀、亜鉛、コバルト及びインジウムのイオンとキレート剤とを添加し、上記実施の形態1及び2と同様の製造方法によりめっき粒子3内に多数の空孔部4が形成されたスズ系合金めっきが得られる。
【0026】
なお、めっき膜厚は特に限定はしないが、5μm〜20μm程度が望ましい。めっき条件としては電流密度および浴温の制限を特に設ける必要はなく、通常使用される範囲であればよい。
【産業上の利用可能性】
【0027】
この発明は、半導体装置等に用いられるスズまたはスズ系合金めっき皮膜からなるスズ系めっきにおけるウィスカ成長を抑制するのに有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明に係るスズ系めっき皮膜の実施の形態1における断面を示す概念図である。
【図2】実施の形態1のスズ系めっき被膜の環境試験を行った後の断面を示す概念図である。
【図3】この発明に係るスズ系めっき皮膜の実施の形態2における断面を示す概念図である。
【図4】実施の形態2のスズ系めっき被膜の環境試験を行った後の断面を示す概念図である。
【図5】空孔部の体積総和とウィスカ発生の関係を示すデータである。
【符号の説明】
【0029】
1 素地、2 めっき皮膜、3 めっき粒子、4 空孔部、5 金属間化合物、
6 粒界、7 圧縮応力、8 ウィスカ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地上に形成されたスズ系めっき皮膜において、
上記めっき皮膜のめっき粒子内に複数の空孔部を有することを特徴とするスズ系めっき皮膜。
【請求項2】
上記スズ系めっき皮膜が、スズを基体とするスズ系合金めっき皮膜であることを特徴とする請求項1記載のスズ系めっき皮膜。
【請求項3】
上記スズ系合金めっき皮膜は、銅、ビスマス、銀、亜鉛、コバルトおよびインジウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属とスズとの合金であることを特徴とする請求項2記載のスズ系めっき皮膜。
【請求項4】
上記めっき粒子内に存在する複数の上記空孔部の体積の総和が上記めっき粒子の体積の0.1〜5%であることを特徴とする請求項1または2記載のスズ系めっき被膜。
【請求項5】
素地上にスズ系めっき被膜を形成するめっき方法において、
メタンスルホン酸スズ(II)、メタンスルホン酸、硫黄系有機添加剤、アミン−アルデヒド系光沢剤、ノニオン系界面活性剤からなる浴組成中に上記素地を浸漬して電着することを特徴とするスズ系めっき方法。
【請求項6】
上記浴組成に、銅、ビスマス、銀、亜鉛、コバルトおよびインジウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属のイオンとキレート剤とを添加することを特徴とする請求項6記載のスズ系めっき方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−280595(P2008−280595A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−127543(P2007−127543)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】