スタッカークレーンの停止目標座標決定方法
【課題】 統計手法を用いることにより従来方法よりも作業時間を短くし、かつ精度よい停止目標座標を決定することができるスタッカークレーンの停止目標座標決定方法を提供する。
【解決手段】 床面から立設されている複数の支柱により連方向が区分されると共に複数の支柱間に設けられた荷受部により段方向に区分された区画を形成する棚の連方向および段方向の設計座標を棚のレイアウト図から導出し、導出された設計座標の一部を指定してスタッカークレーンを移動させ、当該移動位置に対応する棚の座標を計測し、設計座標のうち指定されなかった設計座標に対応する棚の座標を計測された座標に基づいて推定し、導出された設計座標と推定された座標とに基づいて設計座標の補正値を算出して、この補正値によって補正をされた設計座標をスタッカークレーンの停止目標座標として決定する。
【解決手段】 床面から立設されている複数の支柱により連方向が区分されると共に複数の支柱間に設けられた荷受部により段方向に区分された区画を形成する棚の連方向および段方向の設計座標を棚のレイアウト図から導出し、導出された設計座標の一部を指定してスタッカークレーンを移動させ、当該移動位置に対応する棚の座標を計測し、設計座標のうち指定されなかった設計座標に対応する棚の座標を計測された座標に基づいて推定し、導出された設計座標と推定された座標とに基づいて設計座標の補正値を算出して、この補正値によって補正をされた設計座標をスタッカークレーンの停止目標座標として決定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、統計処理を用いることにより従来方法に比べて、労力を軽減することで停止目標座標を短時間に決定することができるスタッカークレーンの停止目標座標決定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
より多くの物品を収納するために上下方向は多段に、列方向は複数列に多数配設した棚に対して、物品の収納と取り出しを自動的に行うスタッカークレーンが知られている。
物品の収納と取り出しを行うには、スタッカークレーンを所定の棚に対して正確な位置に移動させることが必要となる。
そのため、スタッカークレーンが棚の位置を正確に認識できるように、本稼働の前に、各棚の位置に対するスタッカークレーンの停止目標座標(棚の位置)を、スタッカークレーンの動作制御を行う制御盤に記憶させておく必要がある。
【0003】
停止目標座標は、各棚に対し寸分の狂いもなく正確な値であることが理想である。しかし、実際の棚の位置と設計図から導き出すことができる位置には誤差が生じる。この誤差は、棚の設置工事等の精度によるものである。すなわち、設計図から導き出した棚の位置のみを用いて、停止目標座標を正確に決定することは困難である。
【0004】
上記課題に対して、正確な停止目標座標の設定をするための自動ティーチング装置に関する発明が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
特許文献1記載の装置は、各支柱及び各棚に移載機アームのX軸、Y軸、Z軸の3軸の突出位置を検出するための検出マーカーを配設し、移載機側にこれら検出マーカーを検知するためのセンサーを備え、出没する移載機アームの高さ方向及び横方向の位置とからなるアームの突出位置と、その突出量値とを所定の値に調整し、これを制御装置にティーチングデータとして設定するようにしたものである。
【0005】
特許文献1記載の装置によれば、全てのコンテナ収納位置(棚の位置)をスキャンしなければならないため、棚の規模が大きくなるとティーチング量が増え、停止目標座標を設定する作業に時間を要してしまう。また各支柱、棚に検出マーカーを取付けなければならず、取り付け位置に誤差が生じてしまい、正確な停止目標座標の設定が困難となる。
【0006】
上記の課題に対し、検出マーカーなどの検出板をなくして調整にかかる手間とコストを削減することができる移動体の位置学習方法に関する発明が知られている(例えば「引用文献2」を参照)。
引用文献2に記載の移動体の位置学習方法は、スタッカークレーンの走行方向の全長距離を計測した実測値と設計値の比率を算出し、各支柱間のピッチにその比率を乗算して学習基準データを算出し、全ての支柱に対して、前進走行中に検出した支柱の立ち上がりと後退走行中に検出した支柱の立ち上がりにおけるエンコーダパルスをサンプリングし、その平均値から各支柱の始点HPから中心位置が求められ、走行制御部に書き込む。前記学習基準データから検出有効範囲を設定し、この検出有効範囲R内で支柱を検出しなかったとき、未検出の支柱として記憶する。クレーンの昇降方向も同様の方法で行うものである。
【0007】
このように、特許文献2記載の発明においても、すべての支柱、腕木に対してサンプリングを行う必要がある。このため、ラック規模が大きくなるほど、サンプリング量を増やすことになり、結果的に目標値を決定するのに時間を要することになる。また、走行方向と昇降方向の全長を実測値と設計値との比率を算出し、この比率を各支柱のラックピッチに乗算して学習基準データを得るため、最初の比率算出の過程で計測に狂いが生じると、すべての棚に対し正確なサンプリングがおこなわれず、結果的に一からやり直す必要があるので、無駄に労力を要してしまう可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−263411号公報
【特許文献2】特許3666369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであって、スタッカークレーンの停止目標座標決定方法において、棚の全ての座標を、必要最小限指定して計測した計測値から予測して算出し、算出された推定座標に対して補正演算をおこなうことで、労力を軽減し短時間で停止目標座標を決定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、床面から立設されている複数の支柱により連方向が区分されると共に複数の支柱間に設けられた荷受部により段方向に区分された区画を形成する棚に対して収納物を搬出入するフォーク装置を備えたスタッカークレーンの停止目標座標を決定する方法であって、
棚の連方向および段方向の設計座標を棚のレイアウト図から導出し、導出された設計座標の一部を指定し、指定された設計座標に対応する位置にスタッカークレーンを移動させ、移動されたスタッカークレーンの位置に対応する棚の座標を計測し、導出された設計座標のうち指定されなかった設計座標に対応する棚の座標を、計測された座標に基づいて統計処理により推定し、導出された設計座標と推定された座標とに基づいて、導出された設計座標の補正値を算出し、導出された設計座標を算出された補正値で補正をし、補正をされた設計座標を停止目標座標として決定する、ことを特徴とする。
【0011】
また本発明の別の形態は、上記スタッカークレーンの停止目標座標決定方法において、移動されたスタッカークレーンの位置に対応する棚の座標は、連方向の基準点と支柱との距離と、段方向の基準点と荷受部との距離と、収納物の搬出入方向の基準点と支柱との距離とに基づいて計測される、ことを特徴とする。
【0012】
また本発明の別の形態は、上記スタッカークレーンの停止目標座標決定方法において、導出された設計座標のうち指定されなかった設計座標に対応する棚の座標は、重回帰分析により推定することを特徴とする。
【0013】
また本発明の別の形態は、上記スタッカークレーンの停止目標座標決定方法において、移動されたスタッカークレーンの位置に対応する棚の座標の計測を指定回数行い、導出された設計座標のうち指定されなかった設計座標に対応する棚の座標は、指定回数行われた計測の結果に基づいて推定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、スタッカークレーンの停止目標座標決定方法において、部品を保管する棚の全ての座標(以下「棚座標」とする)を、必要最小限の指定した棚座標から予測して算出し、算出された棚座標に対して補正演算を行なうことで、精度のよい停止目標座標を短時間で決定することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る停止目標座標決定方法を実行するスタッカークレーンの概要を示す概略斜視図である。
【図2】上記スタッカークレーンが備えるフォーク装置に設置される測長センサーがX軸方向の位置検出を行う状態を示す拡大図である。
【図3】上記フォーク装置に設置される測長センサーがY軸方向の位置検出を行う状態を示す拡大図である。
【図4】上記フォーク装置に設置される測長センサーがZ軸方向の位置検出を行う状態を示す拡大図である。
【図5】上記スタッカークレーンの制御盤の機能ブロックの例を示すブロック図である。
【図6】本発明にかかるスタッカークレーン停止目標座標決定方法の処理の流れの例を示すフローチャートである。
【図7】固定ラックの構成例を示す正面図である。
【図8】固定ラックにおけるスキャン対象箇所を示す正面図である。
【図9】上記スタッカークレーン停止目標座標決定方法における実測処理の詳細な処理の流れの例を示すフローチャートである。
【図10】上記スタッカークレーン停止目標座標決定方法における設計座標、実測棚座標、推定座標、補正値の関係を示す概略図である。
【図11】上記スタッカークレーン停止目標座標決定方法における設計座標、実測棚座標、推定座標、補正値の関係を示す一部拡大概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(スタッカークレーンの概要)
以下、本願に係るスタッカークレーンの停止目標座標決定方法について、図を用いて説明する。図1は、本願に係る停止目標座標決定方法を実行するスタッカークレーンの例を示す概略図である。
図1において、物品を収納する棚である固定ラック200は、コンテナ受材202と、コンテナ受材202を所定の位置で固定するラック支柱201によって、構成されている。
スタッカークレーン100は、固定ラック200に対して、図示しない走行レール上を横方向(X軸方向)に走行可能とする移動機構106を有する走行台車101の上に、物品移載用のフォーク装置110を昇降操作自在に案内支持する前後一対の昇降マスト102を設けて、この前後一対の昇降マスト102の上端を梁104で連結している。
【0017】
フォーク装置110は図示しない昇降機構を備えている。これによってフォーク装置110は、上下方向(Y軸方向)に移動可能である。
また、フォーク装置110は、図示しない奥行移動機構を備えている。これによって、奥行方向(Z軸方向)に移動可能であって、所定位置のコンテナ受材202に物品を収納し、また、収納されている物品を取り出すことができる。
【0018】
スタッカークレーン100およびフォーク装置110の所定の位置への移動は図示しない制御装置によって制御される。制御装置は固定ラック200の各停止目標座標によって、指定された座標が示す位置にフォーク装置110が到達できるように、スタッカークレーン100を制御する。
制御装置はPLCやマイコンなど、スタッカークレーン100を上記のように制御するものであれば何でも良く、スタッカークレーン100に搭載されるもの、遠隔地に設置されて遠隔制御をするものなど、形式は問わない(以降の説明において制御装置を制御盤PLCとして説明する。)
【0019】
スタッカークレーン100の走行台車101には、X軸方向の移動距離を計測するためのレーザ距離計301が設置されている。このレーザ距離計301は、図示しない走行レールの端部付近に基準点として設置される反射板401に向けてレーザ光を出射し、反射板401からの反射を用いて距離を測長するものである。このレーザ距離計301は、制御盤PLCに接続されていて、測長した結果は、制御盤PLCに入力されて所定の動作制御に用いられる。
また、スタッカークレーン100の走行台車101には、フォーク装置110のY軸方向の移動距離を計測するためのレーザ距離計302が設置されている。このレーザ距離計302を基準点として、フォーク装置110の端部に設置される反射板402に向けてレーザ光を出射し、反射板402からの反射を用いて距離を測長するものである。このレーザ距離計302は、制御盤PLCに接続されていて、測長した結果は、制御盤PLCに入力されて所定の動作制御に用いられる。
【0020】
また、フォーク装置110の物品載置面(上面)の端部付近には、測長センサー303が設置されている。測長センサー303は、固定ラック200を構成するラック支柱201とコンテナ受材202を検出するセンサーであって、フォーク装置110の物品載置面のX軸方向の端部に設置される。
測長センサー303も制御盤PLCに接続されていて、検出した結果は、制御盤PLCに入力されて所定の動作制御に用いられる。
【0021】
(各センサーの動作)
次に、上記のレーザ距離計301、302および測長センサー303の動作について図2乃至4を用いて説明をする。
図2は、フォーク装置110に設置されている測長センサー303によって、X軸方向の位置が検出される様子を表した拡大図である。
図3は、フォーク装置110に設置されている測長センサー303によって、Y軸方向の位置が検出される様子を表した拡大図である。
図4は、フォーク装置110に設置されている測長センサー303によって、Z軸方向の位置が検出される様子を表した拡大図である。
なお、図2乃至4において、フォーク装置110の図示は省略している。
【0022】
図2に示すように、測長センサー303はラック支柱201から反射される光ビームを検出することによって、X軸方向のラック支柱201の位置を検出することができる。
すなわち、スタッカークレーン100がX軸方向へ移動すると、測長センサー303もX軸方向に移動する。ラック支柱201がない場所では測長センサー303から出射された光ビームは反射されず、測長センサー303はOFF状態である(点線で示した測長センサー303を参照)。
フォーク装置110がX軸方向にさらに移動し、ラック支柱201がある場所に差し掛かると、ラック支柱201によって光ビームが反射されるので、この反射された光ビームを測長センサー303は検出してON状態になる(実線で示した測長センサー303を参照)。
スタッカークレーンをX軸方向に移動させているときに、測長センサー303がOFF状態からON状態になったときのレーザ距離計301からの出力データを取得することでき、X軸方向の棚座標を実測することができる。つまり、このように取得されたレーザ距離計301による距離データが、当該位置におけるX軸方向の棚座標となる。
【0023】
また、図3に示すように、測長センサー303はコンテナ受材202に設置されているターゲット部材203から反射される光ビームを検出することによって、コンテナ受材202のY軸方向の位置を検出することができる。
ターゲット部材203は、ラック支柱201を挟んで隣り合うコンテナ受材202の間に設置される光ビームの反射部材である。
すなわち、フォーク装置110がY軸方向へ移動すると、測長センサー303もY軸方向に移動する。測長センサー303とターゲット部材203までの距離は予め規定されているので、測長センサー303はラック支柱201から反射される光ビームを検出している間は、OFF状態である(点線で示した測長センサー303)。
フォーク装置110がY軸方向にさらに移動し、ターゲット部材203から反射される光ビームを検出すると、測長センサー303はON状態になる。
フォーク110をY軸方向に移動させているときに、測長センサー303がOFF状態からON状態になったときのレーザ距離計302からの出力データを取得することで、Y軸方向の棚座標を実測することができる。つまり、このように取得されたレーザ距離計302による距離データが、当該位置におけるY軸方向の棚座標となる。
【0024】
また、図4に示すように光ビームがラック支柱201の正面を検出するようにフォーク装置110を停止させ、ラック支柱201から反射する光ビームを検出することで、Z軸方向の距離を検出することができる。
すなわちすでに取得されたX軸とY軸の棚座標にスタッカークレーン100を移動させて、ラック支柱201の正面から反射される光ビームによる距離データが、当該位置におけるZ軸方向の棚座標となる。
【0025】
このように、測長センサー303とレーザ距離計301および302によって、固定ラック200の各棚に対するスタッカークレーン100の基準点からの距離データで構成されるX軸座標とY軸座標が特定でき、このX軸座標とY軸座標におけるZ軸座標との組み合わせで棚座標を取得することができる。
なお、固定ラック200の各棚に対するスタッカークレーン100のX軸方向の基準点は反射板401であり、Y軸方向の基準点は距離計302である。
計測データによって取得された棚座標(実測棚座標)と、レイアウト図から導出される棚座標(設計棚座標)を用いて後述する情報処理を行うことによって、本発明にかかるスタッカークレーンの停止目標座標が決定される。
【0026】
次に、本発明にかかるスタッカークレーンの停止目標座標決定方法について説明する。図5は、本実施例にかかるスタッカークレーン100を制御する制御盤PLCの機能ブロック図の例である。図5において、制御盤PLCには、スタッカークレーン100に設置されている第1の距離計であるレーザ距離計301、第2の距離計であるレーザ距離計302、複数のセンサーである測長センサー303が通信インターフェースを介して接続されている。制御盤PLCの内部には、図示しないCPUとソフトウェアが搭載されており、図5に示す各機能手段は、このCPUを含むハードウェア資源を用いてソフトウェアが実行する情報処理によって実現される。
【0027】
図5において制御盤PLCは、スタッカークレーンの停止目標座標を記憶する棚座標記憶部11と、記憶された停止目標座標に基づきスタッカークレーンを動作させる動作制御部12を有してなる。
【0028】
また、前記制御盤PLCの棚座標記憶部11に記憶された停止目標座標は外部PCの設計座標計算部21で算出された設計座標と補正値計算部23で算出された補正値から停止目標座標が決定される。設計座標計算部21はレイアウト図から導出される基本情報と始点座標に基づいて設計座標を算出し、前記制御盤PLCの棚座標記憶部11に記憶される。スキャン座標指示部22は、制御盤PLCの棚座標記憶部11に記憶された設計座標のうち、スキャン対象座標として必要最小限の座標を指定し、スタッカークレーンのスキャン処理を指示する。補正値計算部23はスタッカークレーンのスキャン処理によって、取得した計測値の統計処理をおこない推定座標を算出する。この推定座標から全棚の補正値を算出する。なお、設計座標計算部21とスキャン座標指示部22と補正値計算部23は外部PCに設けられており、制御盤PLCとの間で各データの通信をおこなうように構成される。
【0029】
ここで設計座標、実測棚座標、推定座標の関連についてX軸の棚座標を例に説明する。図10は据付工事後の固定ラック200の状態の例を示す正面図である。説明の便宜上、固定ラック200の一部(3連分)を図示している。図10に示すように、ラック支柱201が支柱結合部205において直列に接続できず、若干であるが左右にずれている。設計座標501によってスタッカークレーン100を稼働させると、本来あるはずの位置に棚がないことになる。
【0030】
このずれ(据付誤差)を修正するために、すべての棚に対する実測(スキャン処理)を行うことなく、所定の箇所のみを実測し、実測していない座標は統計処理によって算出することが本発明の特徴である。
すなわち、実測棚座標502を重回帰分析することによって、計測していない棚座標についても推定座標503を算出する。
【0031】
図11は、図10に示した固定ラック200の例の一部を拡大した正面図である。図11に示すように、実測棚座標502から算出された推定座標503と設計座標501によって当該棚座標におけるX軸の補正値504が算出される。
【0032】
図6は、本発明にかかるスタッカークレーン停止目標座標決定方法の処理の流れの例を示すフローチャートである。
図6において、各処理ステップはS10、S20、・・・のように表記する。まず、固定ラック200のレイアウト図から、始点と終点、基準ピッチ、連の欠番、段落ち、などの基本情報を設計座標記憶部21へ入力する。(S10)。
次に、スタッカークレーン100を上記S10において入力された始点の座標まで移動させて、距離計301から基準点となる反射板401(Y軸方向の場合、基準点となる距離計302から反射板402)までの距離を計測する(S20)。距離の計測は、すでに説明した方法のとおり、レーザ距離計301(またはレーザ距離計302)によって行われる。
【0033】
次に、入力された基本情報とレーザ距離計301(またはレーザ距離計302)による始点の計測値に基づいて、設計座標計算部21で固定ラック200全体の設計座標を算出する(S30)。
ここで設計座標の算出方法について、図7の例を用いて説明をする。図7は、固定ラックの正面図の例である。図6において、固定ラック200は、すでに説明をしたとおり支柱201とコンテナ受材202からなり、物品を載置可能な棚を形成している。
図7に示すように、固定ラック200は基準点から一連目の支柱を始点とし、所定の基準連ピッチをもって支柱201がX軸方向に配置されている。また、基準点から1段目のコンテナ受材を始点とし、所定の基準段ピッチをもってコンテナ受材202がY軸方向に配置されている。
【0034】
固定ラック200は、設置される場所によって一部の連が欠落することがある。例えば、建物の構造物(柱など)によって固定ラック200を設置できない場所があるとき、その場所を「連欠番」という。また、同様に、段が欠けている部分を「段落ち」という。
【0035】
図7に示すように、連(X軸方向)の基準点から始点(1連目の支柱)までの距離を始点座標a、基準連ピッチをb、段(Y軸方向)の始点(基準点から始点(1段目の棚受け)までの座標cとすると、n本目の支柱201の基準点からの距離Xnは、a+b×(n−1)によって算出される。ここで、m連目において、連欠番が生じている場合、m番目の支柱201とm+1番目の支柱の距離をrとすると、m+1番目の支柱201の始点からの距離Xm+1は、a+b×(m−1)+rによって算出される。
このように、固定ラック200のレイアウト図と設計に係る情報から設計座標を算出することができる。
【0036】
また、Y軸方向において、1段目のコンテナ受材202で停止したときの基準点である距離計302から反射板402までの距離がcであるので、n段目のコンテナ受材202の基準点からの距離Ynは、c+d×(n−1)によって算出される。ここで、m段目に連ツナギが設置され、そのピッチがsであるときは、m段目のコンテナ受材202の始点からの距離Ymは、c+d×(n−2)+sによって算出される。
上記のように、レーザ距離計301および302によって計測される始点座標と、レイアウト図から導出される各データを用いて、固定ラック200の全体の設計座標を算出することができる。上記にて算出されたX軸とY軸の設計座標を制御盤PLCへ入力する。(S40)。
【0037】
次に、制御盤PLCへ入力された上記設計座標からスキャン対象座標を指定する(S50)。スキャン対象座標とは、上記の設計座標に基づいてスタッカークレーン100を動作させて、棚の実測をする座標をいう。スキャン対象座標による実測は、固定ラック200の棚全体に行うのではなく、必要最小限の棚の実測をすればよい。したがって、どの設計座標を実測の対象とするのかを、決定する。
【0038】
ここで、スキャン対象座標の決定方法について説明をする。図8は、固定ラック200の正面図の例である。固定ラック200に対してX軸方向を「連」といい、Y軸方向を「段」という。
X軸方向の実測は、隣接する支柱201を連方向に接続する連つなぎ部材が設置されている箇所(連つなぎ203)と支柱201を継ぎ足す支柱結合部材によって結合されている箇所(支柱結合部205)の上方に位置するコンテナ受材202と、1段目のコンテナ受材202を対象とする。
Y軸方向の実測は、固定ラック200の強度を確保するために設置されている筋交い(背ブレース204)が結合されている支柱201を対象とする。
Z軸方向の実測は、X軸方向とY軸方向で実測対象とした箇所を対象とする。
【0039】
上記の条件をもとに選定されたスキャン対象箇所を図8においては点線円で示している。より詳しく説明をする。例えばX軸方向の座標の実測を行うときは、連つなぎ203や背ブレース204、支柱接合部205がある段(1段4段、6段、7段)に該当するX座標を対象とし、Y軸方向の座標の実測を行うときは、背ブレースで連結している連(1連、3連、5連、7連)に該当するY座標を対象とする。Z軸方向の座標の実測を行うときは、このX方向とY方向で対象とされた位置を実測の対象とすればよい。このようにして、固定ラック200における所定の箇所のみを実測の対象として選定することができる。
【0040】
次に、指定されたスキャン対象座標に対して、スタッカークレーン100を移動させて、当該スキャン対象座標を実測する(S60)。当該実測処理(S60)の詳細な処理の流れについて図9のフローチャートを用いて説明をする。図9において、各処理ステップをS61、S62・・・のように表記する。まず、X軸のスキャン処理から行う。X軸方向にスタッカークレーン100を移動させて、スキャン対象のX座標における基準点からの距離をレーザ距離計301によって計測する(S61)。これを各スキャン対象座標において、指定回数行う(S62)。
【0041】
次にY軸のスキャン処理を行う。Y軸のスキャン処理はX軸のスキャン処理と同様に、先に指定したスキャン対象座標に基づいて、スタッカークレーン100を所定のX座標に移動させ、さらにフォーク装置110をスキャン対象のY座標に移動させて、スキャン対象のY座標における基準点からの距離をレーザ距離計302によって計測する(S63)。これを各スキャン対象座標において指定回数行う(S64)。計測回数は予め指定されている。
指定回数分のY軸の棚座標スキャン処理が終了した後に、次にZ軸の棚座標スキャン処理を行う。
【0042】
Z軸のスキャン処理は、スキャン対象のX座標、Y座標に基づいて、フォーク装置110を移動させて、スキャン対象のZ座標におけるラック支柱201までの距離を測長センサー303によって計測する(S65)。これを各スキャン対象座標において、指定回数行う。計測回数は予め指定されている(S66)。
【0043】
図6に戻る。上記のスキャン処理によって、計測された各スキャン対象座標ことのX、Y、Zの各方向の計測値は外部PCが備える補正値計算部23に入力される(S70)。入力された計測値は、計測やラックの施工状態などに異常がないか検査される(S80)。具体的には、スキャン対象座標に対し、指定回数計測することで得られた計測値の平均値と標準偏差(バラツキ)が判断基準である設計許容値以内か否かを判定する(S80)。計測値が許容範囲内ではないと判定されたときは、当該箇所を再度スキャンする(S80のNG)。
計測値が許容範囲内であると判定されたときは(S80のOK)、計測値を予め設定した計測ラグと計測オフセットにより修正する。この修正された計測値から重回帰分析をおこなって、計測していない座標に対する推定座標を算出する(S90)。
【0044】
上記算出された推定座標と設計座標の差分を算出する(S100)。この差分が各棚座標における「補正値」となる。算出された補正値と設計座標から停止目標座標を決定し(S110)、制御盤PLCの棚座標記憶部へ入力する(S120)。
【0045】
このように、本実施例に係るスタッカークレーンの停止目標座標決定方法によれば、レイアウト図などの設計情報から導出された「設計座標」を用いて、停止目標座標の精度を上げるために、実際に棚の全範囲をスキャンするのではなく、所定の条件に合致する箇所に対して指定回数分だけスキャンをし、これによって得たスキャンデータに基づいて重回帰分析処理によって得られる補正値を用いて、設計座標の補正をするので、労力を軽減して、短時間で正確な停止目標座標を算出することができるようになる。
【符号の説明】
【0046】
100 スタッカークレーン
101 走行台車
200 固定ラック
201 ラック支柱
202 コンテナ受材
203 ターゲット部材
301 レーザ距離計
302 レーザ距離計
303 測長センサー
【技術分野】
【0001】
本発明は、統計処理を用いることにより従来方法に比べて、労力を軽減することで停止目標座標を短時間に決定することができるスタッカークレーンの停止目標座標決定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
より多くの物品を収納するために上下方向は多段に、列方向は複数列に多数配設した棚に対して、物品の収納と取り出しを自動的に行うスタッカークレーンが知られている。
物品の収納と取り出しを行うには、スタッカークレーンを所定の棚に対して正確な位置に移動させることが必要となる。
そのため、スタッカークレーンが棚の位置を正確に認識できるように、本稼働の前に、各棚の位置に対するスタッカークレーンの停止目標座標(棚の位置)を、スタッカークレーンの動作制御を行う制御盤に記憶させておく必要がある。
【0003】
停止目標座標は、各棚に対し寸分の狂いもなく正確な値であることが理想である。しかし、実際の棚の位置と設計図から導き出すことができる位置には誤差が生じる。この誤差は、棚の設置工事等の精度によるものである。すなわち、設計図から導き出した棚の位置のみを用いて、停止目標座標を正確に決定することは困難である。
【0004】
上記課題に対して、正確な停止目標座標の設定をするための自動ティーチング装置に関する発明が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
特許文献1記載の装置は、各支柱及び各棚に移載機アームのX軸、Y軸、Z軸の3軸の突出位置を検出するための検出マーカーを配設し、移載機側にこれら検出マーカーを検知するためのセンサーを備え、出没する移載機アームの高さ方向及び横方向の位置とからなるアームの突出位置と、その突出量値とを所定の値に調整し、これを制御装置にティーチングデータとして設定するようにしたものである。
【0005】
特許文献1記載の装置によれば、全てのコンテナ収納位置(棚の位置)をスキャンしなければならないため、棚の規模が大きくなるとティーチング量が増え、停止目標座標を設定する作業に時間を要してしまう。また各支柱、棚に検出マーカーを取付けなければならず、取り付け位置に誤差が生じてしまい、正確な停止目標座標の設定が困難となる。
【0006】
上記の課題に対し、検出マーカーなどの検出板をなくして調整にかかる手間とコストを削減することができる移動体の位置学習方法に関する発明が知られている(例えば「引用文献2」を参照)。
引用文献2に記載の移動体の位置学習方法は、スタッカークレーンの走行方向の全長距離を計測した実測値と設計値の比率を算出し、各支柱間のピッチにその比率を乗算して学習基準データを算出し、全ての支柱に対して、前進走行中に検出した支柱の立ち上がりと後退走行中に検出した支柱の立ち上がりにおけるエンコーダパルスをサンプリングし、その平均値から各支柱の始点HPから中心位置が求められ、走行制御部に書き込む。前記学習基準データから検出有効範囲を設定し、この検出有効範囲R内で支柱を検出しなかったとき、未検出の支柱として記憶する。クレーンの昇降方向も同様の方法で行うものである。
【0007】
このように、特許文献2記載の発明においても、すべての支柱、腕木に対してサンプリングを行う必要がある。このため、ラック規模が大きくなるほど、サンプリング量を増やすことになり、結果的に目標値を決定するのに時間を要することになる。また、走行方向と昇降方向の全長を実測値と設計値との比率を算出し、この比率を各支柱のラックピッチに乗算して学習基準データを得るため、最初の比率算出の過程で計測に狂いが生じると、すべての棚に対し正確なサンプリングがおこなわれず、結果的に一からやり直す必要があるので、無駄に労力を要してしまう可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−263411号公報
【特許文献2】特許3666369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであって、スタッカークレーンの停止目標座標決定方法において、棚の全ての座標を、必要最小限指定して計測した計測値から予測して算出し、算出された推定座標に対して補正演算をおこなうことで、労力を軽減し短時間で停止目標座標を決定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、床面から立設されている複数の支柱により連方向が区分されると共に複数の支柱間に設けられた荷受部により段方向に区分された区画を形成する棚に対して収納物を搬出入するフォーク装置を備えたスタッカークレーンの停止目標座標を決定する方法であって、
棚の連方向および段方向の設計座標を棚のレイアウト図から導出し、導出された設計座標の一部を指定し、指定された設計座標に対応する位置にスタッカークレーンを移動させ、移動されたスタッカークレーンの位置に対応する棚の座標を計測し、導出された設計座標のうち指定されなかった設計座標に対応する棚の座標を、計測された座標に基づいて統計処理により推定し、導出された設計座標と推定された座標とに基づいて、導出された設計座標の補正値を算出し、導出された設計座標を算出された補正値で補正をし、補正をされた設計座標を停止目標座標として決定する、ことを特徴とする。
【0011】
また本発明の別の形態は、上記スタッカークレーンの停止目標座標決定方法において、移動されたスタッカークレーンの位置に対応する棚の座標は、連方向の基準点と支柱との距離と、段方向の基準点と荷受部との距離と、収納物の搬出入方向の基準点と支柱との距離とに基づいて計測される、ことを特徴とする。
【0012】
また本発明の別の形態は、上記スタッカークレーンの停止目標座標決定方法において、導出された設計座標のうち指定されなかった設計座標に対応する棚の座標は、重回帰分析により推定することを特徴とする。
【0013】
また本発明の別の形態は、上記スタッカークレーンの停止目標座標決定方法において、移動されたスタッカークレーンの位置に対応する棚の座標の計測を指定回数行い、導出された設計座標のうち指定されなかった設計座標に対応する棚の座標は、指定回数行われた計測の結果に基づいて推定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、スタッカークレーンの停止目標座標決定方法において、部品を保管する棚の全ての座標(以下「棚座標」とする)を、必要最小限の指定した棚座標から予測して算出し、算出された棚座標に対して補正演算を行なうことで、精度のよい停止目標座標を短時間で決定することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る停止目標座標決定方法を実行するスタッカークレーンの概要を示す概略斜視図である。
【図2】上記スタッカークレーンが備えるフォーク装置に設置される測長センサーがX軸方向の位置検出を行う状態を示す拡大図である。
【図3】上記フォーク装置に設置される測長センサーがY軸方向の位置検出を行う状態を示す拡大図である。
【図4】上記フォーク装置に設置される測長センサーがZ軸方向の位置検出を行う状態を示す拡大図である。
【図5】上記スタッカークレーンの制御盤の機能ブロックの例を示すブロック図である。
【図6】本発明にかかるスタッカークレーン停止目標座標決定方法の処理の流れの例を示すフローチャートである。
【図7】固定ラックの構成例を示す正面図である。
【図8】固定ラックにおけるスキャン対象箇所を示す正面図である。
【図9】上記スタッカークレーン停止目標座標決定方法における実測処理の詳細な処理の流れの例を示すフローチャートである。
【図10】上記スタッカークレーン停止目標座標決定方法における設計座標、実測棚座標、推定座標、補正値の関係を示す概略図である。
【図11】上記スタッカークレーン停止目標座標決定方法における設計座標、実測棚座標、推定座標、補正値の関係を示す一部拡大概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(スタッカークレーンの概要)
以下、本願に係るスタッカークレーンの停止目標座標決定方法について、図を用いて説明する。図1は、本願に係る停止目標座標決定方法を実行するスタッカークレーンの例を示す概略図である。
図1において、物品を収納する棚である固定ラック200は、コンテナ受材202と、コンテナ受材202を所定の位置で固定するラック支柱201によって、構成されている。
スタッカークレーン100は、固定ラック200に対して、図示しない走行レール上を横方向(X軸方向)に走行可能とする移動機構106を有する走行台車101の上に、物品移載用のフォーク装置110を昇降操作自在に案内支持する前後一対の昇降マスト102を設けて、この前後一対の昇降マスト102の上端を梁104で連結している。
【0017】
フォーク装置110は図示しない昇降機構を備えている。これによってフォーク装置110は、上下方向(Y軸方向)に移動可能である。
また、フォーク装置110は、図示しない奥行移動機構を備えている。これによって、奥行方向(Z軸方向)に移動可能であって、所定位置のコンテナ受材202に物品を収納し、また、収納されている物品を取り出すことができる。
【0018】
スタッカークレーン100およびフォーク装置110の所定の位置への移動は図示しない制御装置によって制御される。制御装置は固定ラック200の各停止目標座標によって、指定された座標が示す位置にフォーク装置110が到達できるように、スタッカークレーン100を制御する。
制御装置はPLCやマイコンなど、スタッカークレーン100を上記のように制御するものであれば何でも良く、スタッカークレーン100に搭載されるもの、遠隔地に設置されて遠隔制御をするものなど、形式は問わない(以降の説明において制御装置を制御盤PLCとして説明する。)
【0019】
スタッカークレーン100の走行台車101には、X軸方向の移動距離を計測するためのレーザ距離計301が設置されている。このレーザ距離計301は、図示しない走行レールの端部付近に基準点として設置される反射板401に向けてレーザ光を出射し、反射板401からの反射を用いて距離を測長するものである。このレーザ距離計301は、制御盤PLCに接続されていて、測長した結果は、制御盤PLCに入力されて所定の動作制御に用いられる。
また、スタッカークレーン100の走行台車101には、フォーク装置110のY軸方向の移動距離を計測するためのレーザ距離計302が設置されている。このレーザ距離計302を基準点として、フォーク装置110の端部に設置される反射板402に向けてレーザ光を出射し、反射板402からの反射を用いて距離を測長するものである。このレーザ距離計302は、制御盤PLCに接続されていて、測長した結果は、制御盤PLCに入力されて所定の動作制御に用いられる。
【0020】
また、フォーク装置110の物品載置面(上面)の端部付近には、測長センサー303が設置されている。測長センサー303は、固定ラック200を構成するラック支柱201とコンテナ受材202を検出するセンサーであって、フォーク装置110の物品載置面のX軸方向の端部に設置される。
測長センサー303も制御盤PLCに接続されていて、検出した結果は、制御盤PLCに入力されて所定の動作制御に用いられる。
【0021】
(各センサーの動作)
次に、上記のレーザ距離計301、302および測長センサー303の動作について図2乃至4を用いて説明をする。
図2は、フォーク装置110に設置されている測長センサー303によって、X軸方向の位置が検出される様子を表した拡大図である。
図3は、フォーク装置110に設置されている測長センサー303によって、Y軸方向の位置が検出される様子を表した拡大図である。
図4は、フォーク装置110に設置されている測長センサー303によって、Z軸方向の位置が検出される様子を表した拡大図である。
なお、図2乃至4において、フォーク装置110の図示は省略している。
【0022】
図2に示すように、測長センサー303はラック支柱201から反射される光ビームを検出することによって、X軸方向のラック支柱201の位置を検出することができる。
すなわち、スタッカークレーン100がX軸方向へ移動すると、測長センサー303もX軸方向に移動する。ラック支柱201がない場所では測長センサー303から出射された光ビームは反射されず、測長センサー303はOFF状態である(点線で示した測長センサー303を参照)。
フォーク装置110がX軸方向にさらに移動し、ラック支柱201がある場所に差し掛かると、ラック支柱201によって光ビームが反射されるので、この反射された光ビームを測長センサー303は検出してON状態になる(実線で示した測長センサー303を参照)。
スタッカークレーンをX軸方向に移動させているときに、測長センサー303がOFF状態からON状態になったときのレーザ距離計301からの出力データを取得することでき、X軸方向の棚座標を実測することができる。つまり、このように取得されたレーザ距離計301による距離データが、当該位置におけるX軸方向の棚座標となる。
【0023】
また、図3に示すように、測長センサー303はコンテナ受材202に設置されているターゲット部材203から反射される光ビームを検出することによって、コンテナ受材202のY軸方向の位置を検出することができる。
ターゲット部材203は、ラック支柱201を挟んで隣り合うコンテナ受材202の間に設置される光ビームの反射部材である。
すなわち、フォーク装置110がY軸方向へ移動すると、測長センサー303もY軸方向に移動する。測長センサー303とターゲット部材203までの距離は予め規定されているので、測長センサー303はラック支柱201から反射される光ビームを検出している間は、OFF状態である(点線で示した測長センサー303)。
フォーク装置110がY軸方向にさらに移動し、ターゲット部材203から反射される光ビームを検出すると、測長センサー303はON状態になる。
フォーク110をY軸方向に移動させているときに、測長センサー303がOFF状態からON状態になったときのレーザ距離計302からの出力データを取得することで、Y軸方向の棚座標を実測することができる。つまり、このように取得されたレーザ距離計302による距離データが、当該位置におけるY軸方向の棚座標となる。
【0024】
また、図4に示すように光ビームがラック支柱201の正面を検出するようにフォーク装置110を停止させ、ラック支柱201から反射する光ビームを検出することで、Z軸方向の距離を検出することができる。
すなわちすでに取得されたX軸とY軸の棚座標にスタッカークレーン100を移動させて、ラック支柱201の正面から反射される光ビームによる距離データが、当該位置におけるZ軸方向の棚座標となる。
【0025】
このように、測長センサー303とレーザ距離計301および302によって、固定ラック200の各棚に対するスタッカークレーン100の基準点からの距離データで構成されるX軸座標とY軸座標が特定でき、このX軸座標とY軸座標におけるZ軸座標との組み合わせで棚座標を取得することができる。
なお、固定ラック200の各棚に対するスタッカークレーン100のX軸方向の基準点は反射板401であり、Y軸方向の基準点は距離計302である。
計測データによって取得された棚座標(実測棚座標)と、レイアウト図から導出される棚座標(設計棚座標)を用いて後述する情報処理を行うことによって、本発明にかかるスタッカークレーンの停止目標座標が決定される。
【0026】
次に、本発明にかかるスタッカークレーンの停止目標座標決定方法について説明する。図5は、本実施例にかかるスタッカークレーン100を制御する制御盤PLCの機能ブロック図の例である。図5において、制御盤PLCには、スタッカークレーン100に設置されている第1の距離計であるレーザ距離計301、第2の距離計であるレーザ距離計302、複数のセンサーである測長センサー303が通信インターフェースを介して接続されている。制御盤PLCの内部には、図示しないCPUとソフトウェアが搭載されており、図5に示す各機能手段は、このCPUを含むハードウェア資源を用いてソフトウェアが実行する情報処理によって実現される。
【0027】
図5において制御盤PLCは、スタッカークレーンの停止目標座標を記憶する棚座標記憶部11と、記憶された停止目標座標に基づきスタッカークレーンを動作させる動作制御部12を有してなる。
【0028】
また、前記制御盤PLCの棚座標記憶部11に記憶された停止目標座標は外部PCの設計座標計算部21で算出された設計座標と補正値計算部23で算出された補正値から停止目標座標が決定される。設計座標計算部21はレイアウト図から導出される基本情報と始点座標に基づいて設計座標を算出し、前記制御盤PLCの棚座標記憶部11に記憶される。スキャン座標指示部22は、制御盤PLCの棚座標記憶部11に記憶された設計座標のうち、スキャン対象座標として必要最小限の座標を指定し、スタッカークレーンのスキャン処理を指示する。補正値計算部23はスタッカークレーンのスキャン処理によって、取得した計測値の統計処理をおこない推定座標を算出する。この推定座標から全棚の補正値を算出する。なお、設計座標計算部21とスキャン座標指示部22と補正値計算部23は外部PCに設けられており、制御盤PLCとの間で各データの通信をおこなうように構成される。
【0029】
ここで設計座標、実測棚座標、推定座標の関連についてX軸の棚座標を例に説明する。図10は据付工事後の固定ラック200の状態の例を示す正面図である。説明の便宜上、固定ラック200の一部(3連分)を図示している。図10に示すように、ラック支柱201が支柱結合部205において直列に接続できず、若干であるが左右にずれている。設計座標501によってスタッカークレーン100を稼働させると、本来あるはずの位置に棚がないことになる。
【0030】
このずれ(据付誤差)を修正するために、すべての棚に対する実測(スキャン処理)を行うことなく、所定の箇所のみを実測し、実測していない座標は統計処理によって算出することが本発明の特徴である。
すなわち、実測棚座標502を重回帰分析することによって、計測していない棚座標についても推定座標503を算出する。
【0031】
図11は、図10に示した固定ラック200の例の一部を拡大した正面図である。図11に示すように、実測棚座標502から算出された推定座標503と設計座標501によって当該棚座標におけるX軸の補正値504が算出される。
【0032】
図6は、本発明にかかるスタッカークレーン停止目標座標決定方法の処理の流れの例を示すフローチャートである。
図6において、各処理ステップはS10、S20、・・・のように表記する。まず、固定ラック200のレイアウト図から、始点と終点、基準ピッチ、連の欠番、段落ち、などの基本情報を設計座標記憶部21へ入力する。(S10)。
次に、スタッカークレーン100を上記S10において入力された始点の座標まで移動させて、距離計301から基準点となる反射板401(Y軸方向の場合、基準点となる距離計302から反射板402)までの距離を計測する(S20)。距離の計測は、すでに説明した方法のとおり、レーザ距離計301(またはレーザ距離計302)によって行われる。
【0033】
次に、入力された基本情報とレーザ距離計301(またはレーザ距離計302)による始点の計測値に基づいて、設計座標計算部21で固定ラック200全体の設計座標を算出する(S30)。
ここで設計座標の算出方法について、図7の例を用いて説明をする。図7は、固定ラックの正面図の例である。図6において、固定ラック200は、すでに説明をしたとおり支柱201とコンテナ受材202からなり、物品を載置可能な棚を形成している。
図7に示すように、固定ラック200は基準点から一連目の支柱を始点とし、所定の基準連ピッチをもって支柱201がX軸方向に配置されている。また、基準点から1段目のコンテナ受材を始点とし、所定の基準段ピッチをもってコンテナ受材202がY軸方向に配置されている。
【0034】
固定ラック200は、設置される場所によって一部の連が欠落することがある。例えば、建物の構造物(柱など)によって固定ラック200を設置できない場所があるとき、その場所を「連欠番」という。また、同様に、段が欠けている部分を「段落ち」という。
【0035】
図7に示すように、連(X軸方向)の基準点から始点(1連目の支柱)までの距離を始点座標a、基準連ピッチをb、段(Y軸方向)の始点(基準点から始点(1段目の棚受け)までの座標cとすると、n本目の支柱201の基準点からの距離Xnは、a+b×(n−1)によって算出される。ここで、m連目において、連欠番が生じている場合、m番目の支柱201とm+1番目の支柱の距離をrとすると、m+1番目の支柱201の始点からの距離Xm+1は、a+b×(m−1)+rによって算出される。
このように、固定ラック200のレイアウト図と設計に係る情報から設計座標を算出することができる。
【0036】
また、Y軸方向において、1段目のコンテナ受材202で停止したときの基準点である距離計302から反射板402までの距離がcであるので、n段目のコンテナ受材202の基準点からの距離Ynは、c+d×(n−1)によって算出される。ここで、m段目に連ツナギが設置され、そのピッチがsであるときは、m段目のコンテナ受材202の始点からの距離Ymは、c+d×(n−2)+sによって算出される。
上記のように、レーザ距離計301および302によって計測される始点座標と、レイアウト図から導出される各データを用いて、固定ラック200の全体の設計座標を算出することができる。上記にて算出されたX軸とY軸の設計座標を制御盤PLCへ入力する。(S40)。
【0037】
次に、制御盤PLCへ入力された上記設計座標からスキャン対象座標を指定する(S50)。スキャン対象座標とは、上記の設計座標に基づいてスタッカークレーン100を動作させて、棚の実測をする座標をいう。スキャン対象座標による実測は、固定ラック200の棚全体に行うのではなく、必要最小限の棚の実測をすればよい。したがって、どの設計座標を実測の対象とするのかを、決定する。
【0038】
ここで、スキャン対象座標の決定方法について説明をする。図8は、固定ラック200の正面図の例である。固定ラック200に対してX軸方向を「連」といい、Y軸方向を「段」という。
X軸方向の実測は、隣接する支柱201を連方向に接続する連つなぎ部材が設置されている箇所(連つなぎ203)と支柱201を継ぎ足す支柱結合部材によって結合されている箇所(支柱結合部205)の上方に位置するコンテナ受材202と、1段目のコンテナ受材202を対象とする。
Y軸方向の実測は、固定ラック200の強度を確保するために設置されている筋交い(背ブレース204)が結合されている支柱201を対象とする。
Z軸方向の実測は、X軸方向とY軸方向で実測対象とした箇所を対象とする。
【0039】
上記の条件をもとに選定されたスキャン対象箇所を図8においては点線円で示している。より詳しく説明をする。例えばX軸方向の座標の実測を行うときは、連つなぎ203や背ブレース204、支柱接合部205がある段(1段4段、6段、7段)に該当するX座標を対象とし、Y軸方向の座標の実測を行うときは、背ブレースで連結している連(1連、3連、5連、7連)に該当するY座標を対象とする。Z軸方向の座標の実測を行うときは、このX方向とY方向で対象とされた位置を実測の対象とすればよい。このようにして、固定ラック200における所定の箇所のみを実測の対象として選定することができる。
【0040】
次に、指定されたスキャン対象座標に対して、スタッカークレーン100を移動させて、当該スキャン対象座標を実測する(S60)。当該実測処理(S60)の詳細な処理の流れについて図9のフローチャートを用いて説明をする。図9において、各処理ステップをS61、S62・・・のように表記する。まず、X軸のスキャン処理から行う。X軸方向にスタッカークレーン100を移動させて、スキャン対象のX座標における基準点からの距離をレーザ距離計301によって計測する(S61)。これを各スキャン対象座標において、指定回数行う(S62)。
【0041】
次にY軸のスキャン処理を行う。Y軸のスキャン処理はX軸のスキャン処理と同様に、先に指定したスキャン対象座標に基づいて、スタッカークレーン100を所定のX座標に移動させ、さらにフォーク装置110をスキャン対象のY座標に移動させて、スキャン対象のY座標における基準点からの距離をレーザ距離計302によって計測する(S63)。これを各スキャン対象座標において指定回数行う(S64)。計測回数は予め指定されている。
指定回数分のY軸の棚座標スキャン処理が終了した後に、次にZ軸の棚座標スキャン処理を行う。
【0042】
Z軸のスキャン処理は、スキャン対象のX座標、Y座標に基づいて、フォーク装置110を移動させて、スキャン対象のZ座標におけるラック支柱201までの距離を測長センサー303によって計測する(S65)。これを各スキャン対象座標において、指定回数行う。計測回数は予め指定されている(S66)。
【0043】
図6に戻る。上記のスキャン処理によって、計測された各スキャン対象座標ことのX、Y、Zの各方向の計測値は外部PCが備える補正値計算部23に入力される(S70)。入力された計測値は、計測やラックの施工状態などに異常がないか検査される(S80)。具体的には、スキャン対象座標に対し、指定回数計測することで得られた計測値の平均値と標準偏差(バラツキ)が判断基準である設計許容値以内か否かを判定する(S80)。計測値が許容範囲内ではないと判定されたときは、当該箇所を再度スキャンする(S80のNG)。
計測値が許容範囲内であると判定されたときは(S80のOK)、計測値を予め設定した計測ラグと計測オフセットにより修正する。この修正された計測値から重回帰分析をおこなって、計測していない座標に対する推定座標を算出する(S90)。
【0044】
上記算出された推定座標と設計座標の差分を算出する(S100)。この差分が各棚座標における「補正値」となる。算出された補正値と設計座標から停止目標座標を決定し(S110)、制御盤PLCの棚座標記憶部へ入力する(S120)。
【0045】
このように、本実施例に係るスタッカークレーンの停止目標座標決定方法によれば、レイアウト図などの設計情報から導出された「設計座標」を用いて、停止目標座標の精度を上げるために、実際に棚の全範囲をスキャンするのではなく、所定の条件に合致する箇所に対して指定回数分だけスキャンをし、これによって得たスキャンデータに基づいて重回帰分析処理によって得られる補正値を用いて、設計座標の補正をするので、労力を軽減して、短時間で正確な停止目標座標を算出することができるようになる。
【符号の説明】
【0046】
100 スタッカークレーン
101 走行台車
200 固定ラック
201 ラック支柱
202 コンテナ受材
203 ターゲット部材
301 レーザ距離計
302 レーザ距離計
303 測長センサー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
床面から立設されている複数の支柱により連方向が区分されると共に上記複数の支柱間に設けられた荷受部により段方向に区分された区画を形成する棚に対して収納物を搬出入するフォーク装置を備えたスタッカークレーンの停止目標座標を決定する方法であって、
上記棚の上記連方向および上記段方向の設計座標を上記棚のレイアウト図から導出し、
上記導出された設計座標の一部を指定し、
上記指定された設計座標に対応する位置に上記スタッカークレーンを移動させ、
上記移動されたスタッカークレーンの位置に対応する棚の座標を計測し、
上記導出された設計座標のうち上記指定されなかった設計座標に対応する上記棚の座標を、上記計測された座標に基づいて統計処理により推定し、
上記導出された設計座標と上記推定された座標とに基づいて、上記導出された設計座標の補正値を算出し、
上記導出された設計座標を上記算出された補正値で補正をし、
上記補正をされた設計座標を上記停止目標座標として決定する、
ことを特徴とするスタッカークレーンの停止目標座標の決定方法。
【請求項2】
上記移動されたスタッカークレーンの位置に対応する棚の座標は、上記連方向の基準点と上記支柱との距離と、上記段方向の基準点と上記荷受部との距離と、上記収納物の搬出入方向の基準点と上記支柱との距離とに基づいて計測される、
請求項1記載のスタッカークレーンの停止目標座標の決定方法。
【請求項3】
上記導出された設計座標のうち上記指定されなかった設計座標に対応する上記棚の座標は、重回帰分析により推定する、
請求項1または2記載のスタッカークレーンの停止目標座標の決定方法。
【請求項4】
上記移動されたスタッカークレーンの位置に対応する棚の座標の計測を指定回数行い、
上記導出された設計座標のうち上記指定されなかった設計座標に対応する上記棚の座標は、上記指定回数おこなわれた計測の結果に基づいて推定する、
請求項1乃至3のいずれかに記載のスタッカークレーンの停止目標座標の決定方法。
【請求項1】
床面から立設されている複数の支柱により連方向が区分されると共に上記複数の支柱間に設けられた荷受部により段方向に区分された区画を形成する棚に対して収納物を搬出入するフォーク装置を備えたスタッカークレーンの停止目標座標を決定する方法であって、
上記棚の上記連方向および上記段方向の設計座標を上記棚のレイアウト図から導出し、
上記導出された設計座標の一部を指定し、
上記指定された設計座標に対応する位置に上記スタッカークレーンを移動させ、
上記移動されたスタッカークレーンの位置に対応する棚の座標を計測し、
上記導出された設計座標のうち上記指定されなかった設計座標に対応する上記棚の座標を、上記計測された座標に基づいて統計処理により推定し、
上記導出された設計座標と上記推定された座標とに基づいて、上記導出された設計座標の補正値を算出し、
上記導出された設計座標を上記算出された補正値で補正をし、
上記補正をされた設計座標を上記停止目標座標として決定する、
ことを特徴とするスタッカークレーンの停止目標座標の決定方法。
【請求項2】
上記移動されたスタッカークレーンの位置に対応する棚の座標は、上記連方向の基準点と上記支柱との距離と、上記段方向の基準点と上記荷受部との距離と、上記収納物の搬出入方向の基準点と上記支柱との距離とに基づいて計測される、
請求項1記載のスタッカークレーンの停止目標座標の決定方法。
【請求項3】
上記導出された設計座標のうち上記指定されなかった設計座標に対応する上記棚の座標は、重回帰分析により推定する、
請求項1または2記載のスタッカークレーンの停止目標座標の決定方法。
【請求項4】
上記移動されたスタッカークレーンの位置に対応する棚の座標の計測を指定回数行い、
上記導出された設計座標のうち上記指定されなかった設計座標に対応する上記棚の座標は、上記指定回数おこなわれた計測の結果に基づいて推定する、
請求項1乃至3のいずれかに記載のスタッカークレーンの停止目標座標の決定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−148624(P2011−148624A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13015(P2010−13015)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【出願人】(000163833)金剛株式会社 (31)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【出願人】(000163833)金剛株式会社 (31)
【Fターム(参考)】
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