説明

スチレンモノマー製造装置ボイラー給水の処理方法及び処理装置並びにその利用

【課題】薬品を必要とすることなく、スチレンモノマー製造装置ボイラー給水本来の特性を利用して、ボイラー給水中の炭酸成分とアンモニア成分を効率的に除去し、プロセス用蒸気等として有効利用可能な清浄な蒸気を得る。
【解決手段】エチルベンゼンの脱水素反応生成物から分離されたスチレンモノマー製造装置ボイラー給水をpH7〜10でRO膜分離処理し、ボイラー給水中の炭酸成分の殆どをHCOとして除去すると共に、一部NHとしてイオン化しているアンモニア成分を除去し、RO膜透過水は脱気膜で脱気処理し、脱気処理水を脱水素反応生成物との熱交換で加熱して高温高圧の蒸気を得、この蒸気をBTX分離・製造プラント等の他のプラントで有効利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスチレンモノマー製造装置ボイラー給水の処理方法及び処理装置に係り、詳しくは、スチレンモノマーの製造工程から排出されるスチレンモノマー製造装置ボイラー給水中の炭酸成分とアンモニア成分を効率的に除去するための処理方法と処理装置に関する。
本発明はまた、スチレンモノマー製造装置ボイラー給水を処理して得られた処理水から、エネルギー源として有効利用可能な蒸気(水蒸気)を製造するための製造方法及び製造装置と、得られた蒸気を有効利用する方法に関する。
なお、本発明におけるボイラーとは、エネルギー源としてのスチーム発生に供する熱交換器及び付帯設備を意味する。
【背景技術】
【0002】
スチレンモノマーは、ポリスチレン樹脂やアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂など各種の合成樹脂、或いはスチレン−ブタジエンゴムなどの合成ゴムの原料として広く用いられている。このスチレンモノマーは、通常、エチルベンゼンの脱水素反応により製造されている。
【0003】
図4は、一般的なスチレンモノマー製造プラントの構成を示す系統図であり、脱水素反応塔1に原料のエチルベンゼンと蒸気が導入され、鉄、亜鉛、クロム、カルシウム、マグネシウム等の酸化物混合触媒、或いはその他の脱水素触媒の存在下に、エチルベンゼンの脱水素反応が行われる。反応生成物は第1熱交換器2及び第2熱交換器3で2段階で冷却された後、更に空気冷却器4で空冷され、その後、油水分離器5でスチレンモノマーを含む油相と水相とに分離される。油水分離器5で分離されたスチレンモノマーを含む油相は図示しない精製工程に送給され、軽沸分及び重沸分が蒸留分離されて、精製スチレンモノマーが得られる。
【0004】
一方、水相は、エチルベンゼンの脱水素反応の副生物としての炭酸成分と、腐食防止剤として添加されたアミン由来のアンモニア成分を含むものであり、ストリッピング塔6で二酸化炭素とアンモニアが分離された後、濾過塔7のアンスラサイト濾過層で濁質等が除去される。なお、この濾過塔7の入口側で腐食防止剤としてのアミンや脱酸素剤等が添加される。濾過塔7の流出水は、タンク8を経由して、一部は第2熱交換器3と第1熱交換器2にそれぞれ送られて蒸気となり、脱水素反応塔1の蒸気として再利用される。また、他の一部は廃熱ボイラー9に送られ、同じく蒸気となって再利用される。なお、廃熱ボイラー9はスチレンモノマー製造プラントの一部に包含され、具体的にはエチルベンゼン製造装置の熱交換器及び付帯設備に該当する。
【0005】
即ち、スチレンモノマー製造プラントでは、反応温度580〜650℃の高温の脱水素反応生成物と、この反応生成物から分離した水とを、第1熱交換器2及び第2熱交換器3で熱交換することにより、反応生成物の冷却と水の加熱による熱回収を図り、熱交換で得られた蒸気を脱水素反応に再利用している。図4では、第1熱交換器2と第2熱交換器3とにそれぞれ送られた水が熱交換により蒸気となり、両者が合わされてスチレンモノマー製造プラント用蒸気として回収、再利用される。
【0006】
このようなスチレンモノマー製造プラントの熱収支をみると、脱水素反応生成物は、第1熱交換器2でその大半の熱が回収され、この第1熱交換器2の冷却水(蒸気)の圧力は1.4MPa(約200℃)程度となる。第1熱交換器2で冷却された反応生成物は次いで第2熱交換器3で冷却され、この第2熱交換器3の冷却水(蒸気)の圧力は0.2MPa(約130℃)程度となる。
【0007】
現状では、この第1熱交換器2及び第2熱交換器3で得られた蒸気を合流させて、脱水素反応塔1に循環させているが、第1熱交換器2で発生した高温高圧の蒸気を、脱水素反応塔1で必要な温度圧力となるようスチームタービンを駆動させたり、圧力調節弁にて降圧している。しかし、第1熱交換器2及び第2熱交換器3、特に第1熱交換器2から得られる蒸気は高温高圧のものであり、このような高温高圧の蒸気を圧力調整弁等で降圧することは、スチレンモノマープラント及び他プラント等のプラント群全体の蒸気バランスから見て、高圧蒸気の有効な利用方法ではない。従って、高圧蒸気の有効利用の面から、このスチレンモノマー製造プラントで降圧して使用される蒸気を他のプラント等の熱源として利用することが望まれる。
【0008】
しかし、スチレンモノマーの製造工程で脱水素反応生成物から分離される水相には、不純物として炭酸成分とアンモニア成分との反応物が含まれており、これらはストリッピング塔6でその大部分が除去されてもなお残留する。一般に、ストリッピング後のスチレンモノマー製造装置ボイラー給水は、炭酸成分(二酸化炭素(CO)と重炭酸イオン(HCO)と炭酸イオン(CO2−)との合計)含有量約30〜60ppm(代表値45ppm)、アンモニア成分(アンモニア(NH)とアンモニウムイオン(NH)との合計)含有量約20〜50ppm(代表値35ppm)で、pH約8.5〜10(代表値9)程度の水質を示す。
【0009】
このため、このような残留炭酸成分及びアンモニア成分を含む水を加熱して得られる蒸気は、これら炭酸成分及びアンモニア成分の反応生成物に起因する腐食要因を有するものであり、スチレンモノマー製造プラント以外のプラントで利用することはできない。即ち、スチレンモノマー製造プラントでは、蒸気中の炭酸成分やアンモニア成分に対する腐食対策が講じられているため、このような蒸気を利用することに何ら問題はないが、このような腐食対策が講じられていない他のプラントでは、蒸気中の炭酸成分及びアンモニア成分に起因する腐食の問題が起こるため、この蒸気を利用することはできない。
【0010】
従来、水中の炭酸成分とアンモニア成分とを除去するための一般的な方法として、H型カチオン交換樹脂でまずNHを除去し、その後脱気によりCOを除去し、次いで、OH型アニオン交換樹脂でHCOを除去する方法がある。しかし、このようにイオン交換樹脂を用いる方法では、イオン交換樹脂の再生のために、酸、アルカリ等の薬品が必要となるという問題がある。
【0011】
イオン交換樹脂を用いずに逆浸透(RO)膜分離装置を用いることも考えられるが、RO膜分離装置では、アルカリ条件ではNHからNHとなったアンモニア成分を除去し得ず、酸性条件では、COの形で存在する炭酸成分を除去し得ないという欠点がある。
【0012】
特開平10−314735号公報には、炭酸ガスとアンモニアを含む排水を酸性条件下で脱気処理して脱炭酸した後、アルカリ性条件下で脱気処理してアンモニアを除去し、次いで、多段に設けたRO膜分離装置で脱イオン処理する方法が記載されている。この方法はイオン交換樹脂を用いるものではないが、脱気処理に先立ち、酸性又はアルカリ条件に調整するために、やはり、酸やアルカリが必要となるという不具合がある。
【0013】
なお、従来、スチレンモノマー製造プラントの蒸気使用量を低減して省エネルギー化を図るための検討はなされており、「出光技報」42巻5号(1999)第12頁〜第17頁には、脱水素反応生成物中の未反応エチルベンゼンと粗スチレンモノマーとを分留する蒸留塔の稼動圧力を下げることにより必要熱量の低下を図ることが提案されている。しかし、この方法で達成される蒸気使用量の低減によるコスト低減効果は、燃料油削減量として高々723kL/年(年間稼働日数330日として)程度にとどまる。
【0014】
従って、スチレンモノマー製造プラント内での蒸気節減よりも、むしろ、スチレンモノマー製造プラントの高圧蒸気を他のプラントで積極的に有効利用を図ることの方が、工業的なメリットは格段に高いことが予想され、そのために、スチレンモノマー製造プラントにおいて、エチルベンゼンの脱水素反応生成物から分離されてボイラー給水とされるスチレンモノマー製造装置ボイラー給水を処理して、高水質の処理水を得、この処理水から高純度の蒸気を回収することが望まれる。
【特許文献1】特開平10−314735号公報
【非特許文献1】「出光技報」42巻5号(1999)第12頁〜第17頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、本発明は、新たな薬品を必要とすることなく、スチレンモノマー製造装置ボイラー給水本来の特性を利用して、スチレンモノマー製造装置ボイラー給水中の炭酸成分とアンモニア成分を効率的に除去することにより、プロセス用蒸気等として有効利用可能な清浄な蒸気を製造することができる高水質の処理水を得るためのスチレンモノマー製造装置ボイラー給水の処理方法及び処理装置を提供することを目的とする。
【0016】
本発明はまた、このようにしてスチレンモノマー製造装置ボイラー給水を処理して得られた処理水から、高純度の蒸気を製造する蒸気の製造方法及び製造装置と、製造された蒸気をスチレンモノマー製造プラント以外の他のプラントで有効利用して、省エネルギー化を図る蒸気の利用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は上記課題を解決するものであって、以下を要旨とする。
【0018】
[1] スチレンモノマー製造プラントにおいて、エチルベンゼンの脱水素反応生成物から分離されたスチレンモノマー製造装置ボイラー給水を、蒸気発生源として利用するために処理する方法であって、該ボイラー給水の一部又は全部のpHを7〜10に保持して逆浸透膜分離処理し、得られた透過水を脱気膜で脱気処理することを特徴とするスチレンモノマー製造装置ボイラー給水の処理方法。
【0019】
[2] [1]において、前記脱気処理水を更に電気脱イオン装置で脱イオン処理することを特徴とするスチレンモノマー製造装置ボイラー給水の処理方法。
【0020】
[3] [1]又は[2]において、前記逆浸透膜分離処理で得られた濃縮水を逆浸透膜分離処理し、得られた透過水を前記スチレンモノマー製造装置ボイラー給水と共に逆浸透膜分離処理することを特徴とするスチレンモノマー製造装置ボイラー給水の処理方法。
【0021】
[4] [1]〜[3]に記載のスチレンモノマー製造装置ボイラー給水の処理方法で得られた処理水を加熱して蒸気を得ることを特徴とする蒸気の製造方法。
【0022】
[5] [4]において、前記処理水を前記脱水素反応生成物との熱交換により加熱して蒸気を得ることを特徴とする蒸気の製造方法。
【0023】
[6] スチレンモノマー製造プラントにおいて、エチルベンゼンの脱水素反応生成物から分離されたスチレンモノマー製造装置ボイラー給水を、蒸気発生源として利用するために処理する装置であって、pH7〜10に保持された該ボイラー給水が導入される逆浸透膜分離装置と、該逆浸透膜分離装置の透過水が導入される脱気膜装置とを備えてなることを特徴とするスチレンモノマー製造装置ボイラー給水の処理装置。
【0024】
[7] [6]において、前記脱気膜装置の処理水が導入される電気脱イオン装置を備えることを特徴とするスチレンモノマー製造装置ボイラー給水の処理装置。
【0025】
[8] [6]又は[7]において、前記逆浸透膜分離装置(以下「第1の逆浸透膜分離装置」と称す。)の濃縮水が導入される第2の逆浸透膜分離装置と、該第2の逆浸透膜分離装置の透過水を前記第1の逆浸透膜分離装置に導入する手段とを備えてなることを特徴とするスチレンモノマー製造装置ボイラー給水の処理装置。
【0026】
[9] [6]〜[8]に記載のスチレンモノマー製造装置ボイラー給水の処理装置で得られた処理水を加熱して蒸気を得る加熱手段を有することを特徴とする蒸気の製造装置。
【0027】
[10] [9]において、前記加熱手段が、前記処理水と前記脱水素反応生成物とを熱交換する熱交換器であることを特徴とする蒸気の製造装置。
【0028】
[11] [4]又は[5]に記載の蒸気の製造方法、或いは[9]又は[10]に記載の蒸気の製造装置で製造された蒸気を、スチレンモノマー製造プラント以外の他のプラントのエネルギー源として有効利用することを特徴とする蒸気の利用方法。
【0029】
[12] [11]において、前記他のプラントが、蒸気中の炭酸成分及び/又はアンモニア成分に起因する腐食対策が講じられていないプラントであることを特徴とする蒸気の利用方法。
【0030】
[13] [12]において、前記他のプラントが、ベンゼン、トルエン、キシレンの分離・製造プラント(以下「BTXプラント」と称す。)、或いは、1.4MPa(200℃)の蒸気を装置外より受け入れて消費する装置であることを特徴とする蒸気の利用方法。
【発明の効果】
【0031】
本発明(請求項1,6)では、スチレンモノマー製造プラントにおいて、エチルベンゼンの脱水素反応生成物から分離された水(以下「スチレンモノマー製造装置ボイラー給水」又は単に「ボイラー給水」と称す場合がある。)を、pH7〜10の条件でRO膜分離処理することにより、スチレンモノマー製造装置ボイラー給水中の炭酸成分の大部分をHCOとして除去すると共に、一部NHとしてイオン化しているアンモニア成分を除去することができる。そして、このRO膜分離処理で得られた透過水は、通常pH10程度のアルカリ性であるため、これを脱気膜で脱気処理することにより、この透過水中に透過した極微量のCOを除去することができる。
【0032】
前述の如く、スチレンモノマー製造装置ボイラー給水のpHは、約8.5〜10、通常9程度あるため、本発明によれば、このスチレンモノマー製造装置ボイラー給水を何らpH調整することなく、従って、薬品を使用することなく、そのまま処理することができる。
【0033】
本発明において、更に脱気処理水を脱イオン処理する電気脱イオン装置を設けることにより、脱気処理水中のHCOやNHを更に高度に除去して、より高水質の処理水を得ることができる(請求項2,7)。
【0034】
また、RO膜分離装置の濃縮水をRO膜分離処理する第2のRO膜分離装置を設け、その透過水を循環処理することにより、水の回収率を高めることができる(請求項3,8)。
【0035】
このようにして、スチレンモノマー製造装置ボイラー給水中の炭酸成分とアンモニア成分とを除去して得られた処理水を加熱することにより、蒸気中の炭酸成分とアンモニア成分に対する腐食対策が講じられていないスチレンモノマー製造プラント以外の他のプラントで有効利用可能な高純度の蒸気を得ることができる(請求項4,9)。この処理水の加熱は、脱水素反応生成物との熱交換により効率的に行うことができる(請求項5,10)。
【0036】
このようにして得られる高純度の蒸気は、スチレンモノマー製造プラント以外の他のプラントのエネルギー源として有効に再利用することができる(請求項11)。しかして、この蒸気は、炭酸成分及びアンモニア成分が高度に除去された処理水から得られた高純度の蒸気であるため、蒸気中の炭酸成分及び/又はアンモニア成分に起因する腐食対策が講じられていないプラントであっても利用可能であり(請求項12)、例えば、BTXプラント、或いは、1.4MPa(200℃)の蒸気を装置外より受け入れて消費する装置において有効に利用することができる(請求項13)。
【0037】
本発明によれば、従来降圧して使用されていたスチレンモノマー製造プラントの高温高圧の蒸気を、スチレンモノマー製造装置ボイラー給水を浄化することにより、他系統のプラント等の熱源として有効利用することができ、それによる省エネルギー効果は極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下に図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1(a),(b)は本発明のスチレンモノマー製造装置ボイラー給水の処理方法及び処理装置の炭酸成分及びアンモニア成分の処理工程(以下「脱CO,NH部」と称す場合がある。)を示す系統図であり、図2は、このような本発明に係る脱CO,NH部をスチレンモノマー製造プラントに組み込んでスチレンモノマー製造装置ボイラー給水の処理及び蒸気の製造を行う方法を示す系統図である。図2において、図4に示す部材と同一機能を奏する部材には同一符号を付してある。図3は、このようにしてスチレンモノマー製造装置ボイラー給水の処理及び加熱で製造された蒸気を他のプラントで利用する本発明の蒸気の利用方法の実施の形態を示す系統図である。
【0039】
まず、図1を参照して、本発明によるスチレンモノマー製造装置ボイラー給水の処理について説明する。
【0040】
RO膜分離装置を1機用いて処理する場合を図1(a)に示す。
図1(a)において、原水(スチレンモノマー製造プラントにおいて、エチルベンゼンの脱水素反応生成物から分離されたスチレンモノマー製造装置ボイラー給水)、即ち、図4に示すスチレンモノマー製造プラントのタンク8からの、pH7〜10のスチレンモノマー製造装置ボイラー給水は、pH調整することなくそのままタンク11に導入される。タンク11内の水はポンプPによりまずRO膜分離装置12に導入されてRO膜分離処理される。このRO膜分離処理で得られる濃縮水は排水として系外へ排出されるか、後述の如く、加熱後、脱水素反応用蒸気として利用される。
【0041】
RO膜分離装置12の透過水は次いで、脱気膜装置13に導入されて脱気処理される。脱気処理水は次いで電気脱イオン装置14に導入されて脱イオン処理され、脱イオン処理水は加熱手段で加熱されて蒸気となる。好ましくは、この脱イオン処理水は、図4のスチレンモノマー製造プラントの第1熱交換器2の冷却水として第1熱交換器2に導入され、脱水素反応生成物との熱交換で加熱されて蒸気となる。
【0042】
2機のRO膜分離装置を設置する場合を図1(b)に示す。
図1(b)において、原水を処理する第1RO膜分離装置12Aの濃縮水を処理する第2RO膜分離装置12Bを設け、第1RO膜分離装置12Aの濃縮水を第2RO膜分離装置12BでRO膜分離処理して透過水をタンク11に返送し、濃縮水を排水として排出するか、後述の如く、加熱後、脱水素反応用蒸気として利用する点が図1(a)に示すものと異なり、その他は同様の構成とされている。
【0043】
図1においては、電気脱イオン装置14の濃縮水を排水として排出しているが、この濃縮水はタンク11に返送して再循環処理しても良いし、また、加熱後、脱水素反応用蒸気として利用しても良い。また、電気脱イオン装置14は必ずしも必要とされず、脱気膜装置13の脱気処理水の水質が高い場合、或いは蒸気の使用場所において特に高い清浄度が要求されない場合は、電気脱イオン装置14を省略しても良い。また、RO膜分離装置は1段処理に限らず、2段以上の多段処理としても良い。
【0044】
いずれの場合も、RO膜分離装置12又は第1RO膜分離装置12Aにおいて、原水中のイオン化した炭酸成分(HCO)の大部分とアンモニア(NH)の一部がpH7〜10、好ましくはpH8.5〜10の条件で除去され、このRO膜分離装置12又は12AからのpH約9〜10.5の透過水を脱気膜装置13で脱気処理することにより極微量の炭酸成分(CO)が除去される。そして、この脱気処理水を更に電気脱イオン装置14で脱イオンすることにより残留する重炭酸成分やアンモニアが高度に除去される。なお、RO膜分離装置12,12Aの水回収率は70〜80%程度とするのが好ましく、電気脱イオン装置14の水回収率は80〜85%程度とするのが好ましい。
【0045】
従って、図2に示す如く、このようなRO膜分離装置、脱気膜装置及び必要に応じて設けられる電気脱イオン装置よりなる本発明の装置の脱CO,NH部10をスチレンモノマー製造プラントに組み込むことにより、脱CO,NH部10で処理した処理水を第1熱交換器2で加熱して、高清浄の高温高圧蒸気を得ることができ、これを他系統の熱源として有効利用することが可能となる。
【0046】
図2においては、タンク8からのスチレンモノマー製造装置ボイラー給水の一部が脱CO,NH部10に導入されて処理され、処理水が第1熱交換器2で脱水素反応生成物と熱交換することにより、温度180〜220℃、圧力1.0〜2.3MPaに高められる。この高温高圧蒸気の一部が、系外へ排出され、他系統で使用される。
【0047】
一方、スチレンモノマー製造装置ボイラー給水の残部のうちの一部は必要に応じて排水として他系統へ排出され、他の一部は廃熱ボイラー9へ送られて加熱され、脱水素反応塔1に反応用蒸気として導入される。残部は第2熱交換器3で第1熱交換器2で冷却された脱水素反応生成物との熱交換で加熱され、脱水素反応塔1に反応用蒸気として導入される。なお、この第2熱交換器3では、第1熱交換器2を経た脱水素反応生成物との熱交換で、温度110〜140℃、圧力0.14〜0.27MPa程度の蒸気を得ることができるため、この蒸気は別途熱源を用いて加熱後脱水素反応用蒸気として利用される。
【0048】
即ち、スチレンモノマー製造プラントは、前述の如く、蒸気中の炭酸成分やアンモニア成分に対する腐食対策が講じられているため、スチレンモノマー製造プラント内で使用する蒸気を製造するための水は、炭酸成分やアンモニア成分が除去された水である必要はない。従って、図2に示す如く、タンク8からのスチレンモノマー製造装置ボイラー給水のうち、脱水素反応塔1で使用される蒸気を製造するための水は、脱CO,NH部10で処理されることなく、そのまま第2熱交換器3で加熱されて蒸気となり、脱水素反応塔1に循環される。従って、同様の理由から、脱CO,NH部10からの排水、即ち、前述の図1(a)におけるRO膜分離装置12からの濃縮水や図1(b)における第2RO膜分離装置12Bの濃縮水、図1(a),(b)における電気脱イオン装置14の濃縮水は、系外へ排出することなく、タンク8からのスチレンモノマー製造装置ボイラー給水と共に第2熱交換器3又は廃熱ボイラー9に導入して脱水素反応用蒸気として利用することができる。
【0049】
また、スチレンモノマー製造プラントで使用される脱水素反応用蒸気は、過度に高温高圧である必要はなく、従って、第2熱交換器3において、第1熱交換器2での熱交換を経て温度が低下した脱水素反応生成物との熱交換を行って得られた低温低圧の蒸気で十分である。そして、この脱水素反応用蒸気の製造に不足する熱源は、他系統の廃熱(低温低圧の蒸気)を使用すれば良い。
【0050】
一方、第1熱交換器2における脱水素反応塔1からの脱水素反応生成物との熱交換では、高温高圧の蒸気が得られるため、タンク8からのスチレンモノマー製造装置ボイラー給水を脱CO,NH部10で処理し、炭酸成分及びアンモニア成分を高度に除去して得られた高水質の処理水は、第1熱交換器2で加熱して高温高圧の高価値の蒸気とし、これを他系統で有効利用する。
【0051】
なお、スチレンモノマー製造装置ボイラー給水を処理する脱CO,NH部10を組み込んだ場合、腐食防止剤としてのアミンや脱酸素剤等の添加箇所は必ずしも濾過塔7の入口に限らず、第2熱交換器3の入口部すなわちタンク8から脱CO,NH部10へ分岐した後や、空気冷却器4での防食のために、空気冷却器4の入口側、その他の箇所とすることもできる。
【0052】
次に、このようにしてスチレンモノマー製造装置ボイラー給水を処理して得られた処理水を加熱して得られる蒸気をBTXプラントで有効利用する場合の一例を図3を参照して説明する。
【0053】
図3において、20はスチレンモノマー製造プラントであり、脱水素反応塔1、第1熱交換器2、第2熱交換器3、水回収部21、廃熱ボイラー9及び脱CO,NH部10を備える。水回収部21は、図2における空気冷却器4、油水分離部5、ストリッピング塔6、濾過塔7及びタンク8に相当する。
【0054】
脱水素反応塔1からの脱水素反応生成物が第1熱交換器2、第2熱交換器3を経て冷却され、水回収部21で回収されたスチレンモノマー製造装置ボイラー給水の一部は、脱CO,NH部10で処理された後、第1熱交換器2で熱交換されて、180〜220℃で1.0〜2.3MPa程度の高温高圧蒸気となる。この高温高圧蒸気の一部はBTXプラント30に送給されて熱エネルギーとして利用される。このBTXプラント30では、従来、ボイラー31に燃料を供給して発生させた高温高圧蒸気を利用していたが、スチレンモノマー製造プラント20からの高温高圧蒸気でエネルギーの一部を賄い、これに相当する燃料が不要となることで、ボイラー31の燃料分のエネルギーコストが低減される。
【0055】
一方、スチレンモノマー製造プラント20において、水回収部21からのスチレンモノマー製造装置ボイラー給水の他の一部はそのまま第2熱交換器3で加熱されて、110〜140℃で0.14〜0.27MPa程度の低温低圧蒸気となり、残部、及び脱CO,NH部10からの濃縮水は廃熱ボイラー9に送給され、低温低圧蒸気となる。この低温低圧蒸気は、脱水素反応塔1で脱水素反応に使用される。ただし、この第2熱交換器3からの低温低圧蒸気のみでは、脱水素反応用蒸気が不足するため、他系統40からの廃熱回収で得られた低温低圧蒸気を第2熱交換器3からの低温低圧蒸気と共に脱水素反応用蒸気として使用する。
【0056】
なお、スチレンモノマー製造プラント20では、従来、第1熱交換器2の高温高圧蒸気でタービンを稼動させて低温低圧蒸気を得ているが、図3のように高温高圧蒸気を他のプラントで使用することにより、このタービンに代わるモーターが必要となる。従って、モーター22を新たに設け、このモーター22を稼動させるための電力量が別途必要となる。
【0057】
一般に、従来において、後述の実施例2に示す如く、スチレンモノマー製造プラント20から払い出した高温高圧蒸気に相当するBTXプラント30のエネルギーとしての燃料油(※1)は、7510kL/年(年間稼動日数340日として)であり、一方で、スチレンモノマー製造プラント20からの高温高圧蒸気をBTXプラントに使用することで新たに設けられたモーター22の稼動に必要な電力費は燃料油換算で1200kL/年であるので、6310(=7510−1200)kL/年の燃料油の削減効果を得ることができる。この削減効果は、前述の非特許文献1で得られる723kL/年(稼働日数330回として)に比べて著しく大きい。
【0058】
なお、図3においては、スチレンモノマー製造プラント20からの蒸気を利用する他のプラントとしてBTXプラント30を例示したが、本発明では、BTXプラントに限らず、1.4MPa(200℃)の蒸気を装置外より受け入れて消費する装置等のその他のプラントにおいても、スチレンモノマー製造プラントからの蒸気を有効に利用することができる。特に、本発明では、スチレンモノマー製造装置ボイラー給水を処理して高水質の処理水を得、これを加熱して高純度の蒸気を取り出すことができるため、蒸気中の炭酸成分やアンモニア成分に起因する腐食対策を講じていないあらゆるプラントのエネルギー源として、従来は降圧されていたスチレンモノマー製造プラントの蒸気を有効利用することができ、その省エネルギー効果、コスト削減効果は極めて大きいものとなる。
【実施例】
【0059】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0060】
実施例1
図1(a)に示すフローの実験装置で、スチレンモノマー製造装置ボイラー給水(導電率6mS/m、pH9.3、平均水温35℃、COD3.2mg/L、全炭酸45mg/L、アンモニア,アンモニウム塩35mg/L)を原水として処理を行った。用いた各装置の仕様は次の通りである。
RO膜分離装置12:ポリアミド膜を装填した2インチ径のRO膜、運転圧力1.4
7MPa
脱気膜装置13:Liqui−Cel社製、2.5×8インチ
電気脱イオン装置14:栗田工業(株)製KCDI
【0061】
原水はタンク11から65L/hrでRO膜分離装置12に導入し、透過水50L/hrと濃縮水15L/hrを得た。RO膜分離装置12の透過水は次いで脱気膜装置13で脱気処理した後、脱気処理水50L/hrを電気脱イオン装置14に導入して脱イオンし、脱イオン水42.5L/hrを得た。電気脱イオン装置14の濃縮水7.5L/hrは系外へ排出した。
【0062】
このような処理において、各部の水の水質は表1に示す通りであり、本発明によりスチレンモノマー製造装置ボイラー給水中の炭酸成分及びアンモニア成分を、薬品を用いることなく高度に除去することができることが確認された。
【0063】
【表1】

【0064】
実施例2
実規模のスチレンモノマー製造プラントにおいて、実施例1と同様にしてスチレンモノマー製造装置ボイラー給水を処理し、図3に示す如く、この処理水から高温高圧蒸気を得、この一部をBTXプラント30に使用した。
【0065】
スチレンモノマー製造プラント20の水回収部21で得られるスチレンモノマー製造装置ボイラー給水は99ton/hrであり、このうちの一部69ton/hrを、脱CO,NH部10で処理し、別系統からの水と合わせてこれを第1熱交換器2に導入して熱交換したところ、約200℃、1.4MPaの高温高圧蒸気を55ton/hr得ることができた。
【0066】
この高温高圧蒸気を図3に示す如く、スチレンモノマー製造プラント20から21t/hrを取り出し、BTXプラント30のエネルギーとして用いたところ、BTXプラント30は、この高温高圧蒸気分だけボイラーからの受入量が低下し、これにより、従来必要とされていた7510kL/年(年間稼動日数340日として)の燃料油コストが削減された。
【0067】
一方、スチレンモノマー製造プラント20においては、水回収部21からのスチレンモノマー製造装置ボイラー給水の残部のうち10ton/hrをそのまま第2熱交換器3で加熱して約131℃、0.19MPaの低温低圧蒸気10ton/hrを得、また脱CO,NH部10からの濃縮水と合わせて上流部門のエチルベンゼン製造工程の廃熱ボイラーに送り低温低圧蒸気34ton/hrを得た。これらの蒸気と共に他系統40からの低温低圧蒸気(約131℃、0.19MPa)21ton/hrを脱水素反応塔1に用いた。
【0068】
このスチレンモノマー製造プラント20では、高温高圧蒸気をBTXプラント30で用いることにより、モーター22を増設したが、このモーターの電力費は、燃料油換算で1200kL/年であったため、6310(=7510−1200)kL/年の燃料油の削減効果を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明のスチレンモノマー製造装置ボイラー給水の処理方法及び処理装置の脱CO,NH部の実施の形態を示す系統図である。
【図2】本発明のスチレンモノマー製造装置ボイラー給水の処理装置をスチレンモノマー製造プラントに組み込んだ例を示す系統図である。
【図3】本発明の蒸気の利用方法の実施の形態を示す系統図である。
【図4】一般的なスチレンモノマー製造プラントの構成を示す系統図である。
【符号の説明】
【0070】
1 脱水素反応塔
2 第1熱交換器
3 第2熱交換器
4 空気冷却器
5 油水分離器
6 ストリッピング塔
7 濾過塔
8 タンク
9 廃熱ボイラー
10 脱CO,NH
11 タンク
12 RO膜分離装置
12A 第1RO膜分離装置
12B 第2RO膜分離装置
13 脱気膜装置
14 電気脱イオン装置
20 スチレンモノマー製造プラント
30 BTXプラント
40 他系統

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレンモノマー製造プラントにおいて、エチルベンゼンの脱水素反応生成物から分離されたスチレンモノマー製造装置ボイラー給水を、蒸気発生源として利用するために処理する方法であって、
該ボイラー給水の一部又は全部のpHを7〜10に保持して逆浸透膜分離処理し、得られた透過水を脱気膜で脱気処理することを特徴とするスチレンモノマー製造装置ボイラー給水の処理方法。
【請求項2】
請求項1において、前記脱気処理水を更に電気脱イオン装置で脱イオン処理することを特徴とするスチレンモノマー製造装置ボイラー給水の処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記逆浸透膜分離処理で得られた濃縮水を逆浸透膜分離処理し、得られた透過水を前記スチレンモノマー製造装置ボイラー給水と共に逆浸透膜分離処理することを特徴とするスチレンモノマー製造装置ボイラー給水の処理方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のスチレンモノマー製造装置ボイラー給水の処理方法で得られた処理水を加熱して蒸気を得ることを特徴とする蒸気の製造方法。
【請求項5】
請求項4において、前記処理水を前記脱水素反応生成物との熱交換により加熱して蒸気を得ることを特徴とする蒸気の製造方法。
【請求項6】
スチレンモノマー製造プラントにおいて、エチルベンゼンの脱水素反応生成物から分離されたスチレンモノマー製造装置ボイラー給水を、蒸気発生源として利用するために処理する装置であって、
pH7〜10に保持された該ボイラー給水が導入される逆浸透膜分離装置と、
該逆浸透膜分離装置の透過水が導入される脱気膜装置と
を備えてなることを特徴とするスチレンモノマー製造装置ボイラー給水の処理装置。
【請求項7】
請求項6において、前記脱気膜装置の処理水が導入される電気脱イオン装置を備えることを特徴とするスチレンモノマー製造装置ボイラー給水の処理装置。
【請求項8】
請求項6又は7において、前記逆浸透膜分離装置(以下「第1の逆浸透膜分離装置」と称す。)の濃縮水が導入される第2の逆浸透膜分離装置と、該第2の逆浸透膜分離装置の透過水を前記第1の逆浸透膜分離装置に導入する手段とを備えてなることを特徴とするスチレンモノマー製造装置ボイラー給水の処理装置。
【請求項9】
請求項6ないし8のいずれか1項に記載のスチレンモノマー製造装置ボイラー給水の処理装置で得られた処理水を加熱して蒸気を得る加熱手段を有することを特徴とする蒸気の製造装置。
【請求項10】
請求項9において、前記加熱手段が、前記処理水と前記脱水素反応生成物とを熱交換する熱交換器であることを特徴とする蒸気の製造装置。
【請求項11】
請求項4又は5に記載の蒸気の製造方法、或いは請求項9又は10に記載の蒸気の製造装置で製造された蒸気を、スチレンモノマー製造プラント以外の他のプラントのエネルギー源として有効利用することを特徴とする蒸気の利用方法。
【請求項12】
請求項11において、前記他のプラントが、蒸気中の炭酸成分及び/又はアンモニア成分に起因する腐食対策が講じられていないプラントであることを特徴とする蒸気の利用方法。
【請求項13】
請求項12において、前記他のプラントが、ベンゼン、トルエン、キシレンの分離・製造プラント、或いは、1.4MPa(200℃)の蒸気を装置外より受け入れて消費する装置であることを特徴とする蒸気の利用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−78291(P2007−78291A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−268685(P2005−268685)
【出願日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】