説明

スチールコードおよび該スチールコードを適用したタイヤ

【課題】撚り合わせずに並列に束ねたコアの該並列配置が維持されるスチールコードおよび該スチールコードを適用したタイヤを提供する。
【解決手段】複数本の素線を撚り合わせずに並列に束ねたコアと、該コアの周囲に巻き付けた複数本の素線によるシースと、からなるスチールコードであって、該スチールコードの輪郭形状における短径方向のシースの素線の型付け量L1および長径方向のシースの素線の型付け量L2が、下記(1)および(2)式を満足することを特徴とするスチールコード。

L1≦2.5×b+(a−b)/2 (1)
0.9×(n×a+2×b)≦L2≦1.1×(n×a+2×b) (2)
但し、a:コアの素線径
b:シースの素線径
n:コアの素線本数

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチールコード、特に、ゴム物品補強用スチールコードおよび該スチールコードを適用したタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、タイヤ用のスチールコードの諸性能を向上するために、コードを扁平化することが提案されている。例えば、特許文献1には、型付けを施した複数本の素線を撚らずに引き揃えたコアの周りに、型付けを施した複数本の素線を巻き付けてなるシースを配置したスチールコードであって、前記コアを構成する素線の平均型付率が15〜70%であり、かつ前記シースを構成する素線の平均型付け率が70〜95%であるゴム物品補強用スチールコードが開示されている。
【0003】
また、扁平化したコードの製造方法として、例えば、特許文献2には、複数本の素線を撚り合わせずに並列に束ねたコアと、このコアの周囲に巻き付けた複数本の素線によるシースとからなるスチールコードを、チューブラー型撚線機にて製造する方法が提案されている。すなわち、特許文献2には、コアとなる素線をチューブラー型撚線機のバレル内部の該バレルと離隔した位置を通してシースとなる素線との集合部に導き、集合部に配置したローラ対のローラ間において、あるいは、集合部に配置した断面が扁平形状の穴を有する撚り合わせダイにおいて、コアの素線のまわりにシースとなる素線を巻き付け、撚り合わせ後のスチールコードを矯正ローラにて矯正する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2007−332489号公報
【特許文献2】特開2001−3281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した製造方法によれば、コア素線が並列配置を乱すことなくシース素線を撚り合わせることができる。しかし、矯正ローラによる矯正後に一旦スチールコードを巻き取り、この巻き取り部からスチールコードを次工程へ巻き出す際に、矯正ローラによるテンションを解放されるが、その際、前段の矯正ローラの矯正条件によっては、スチールコードのコア素線の並列配置が乱れてしまうおそれがあった。この場合、ゴム製品の補強用としてゴムへコードを埋没させる過程で、コア素線の配列が乱れたままになるおそれがある。
それゆえ、コア素線の並列配置が乱れないようにシース素線を撚り合わせた後、テンションを解放しても、コア素線およびシース素線の配置が乱れないようにスチールコードが適正に矯正されていることが肝要である。
【0005】
そこで、本発明の目的は、上述した問題点を解消し、撚り合わせずに並列に束ねたコアが、例えばゴム物品に埋設する最終段階においても、並列配置を乱すことがないシースの適正な型付け性状を与えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1]複数本の素線を撚り合わせずに並列に束ねたコアと、該コアの周囲に巻き付けた複数本の素線によるシースと、からなるスチールコードであって、
該スチールコードの輪郭形状における短径方向のシースの素線の型付け量L1および長径方向のシースの素線の型付け量L2が、下記(1)および(2)式を満足することを特徴とするスチールコード。

L1≦2.5×b+(a−b)/2 (1)
0.9×(n×a+2×b)≦L2≦1.1×(n×a+2×b) (2)
但し、a:コアの素線径
b:シースの素線径
n:コアの素線本数
【0007】
[2]前記コアが3本以上5本以下の素線からなることを特徴とする上記[1]に記載のスチールコード。
【0008】
[3]前記シースが1本以上15本以下の素線からなることを特徴とする上記[1]または[2]に記載のスチールコード。
【0009】
[4]1対のビード部間でトロイド状に延びるカーカスを有し、このカーカスのタイヤ径方向外側に、少なくとも1層のベルトを具えるタイヤであって、該ベルトに上記[1]〜[3]のいずれかに記載のスチールコードを適用してなるタイヤ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シースの型付け性状を適正に規定した結果、撚り合わせずに並列に束ねたコアの該並列配置が維持されるスチールコードを提供することができる。
従って、このようなスチールコードを適用したベルトを用いたタイヤは、耐久性が向上するという有利な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明を詳細に説明する。
図1(a)は本発明のスチールコードの軸方向と直交する断面図である。本発明のスチールコード1は、複数本、図示例では3本のコア素線2a〜2cを撚り合わせずに並列に束ねたコア2と、コア2の周囲に巻き付けた複数本、図示例では8本のシース素線4a〜4hによるシース4とからなる。図1(a)に示すとおり、スチールコード1の輪郭、つまりシース素線の外接円の形状は楕円形であり、この楕円の短径をX1、長径をX2とする。図1(a)のコア2を囲んだ楕円形の部分は、コア2がコード軸方向に2次元の波形状に変化した場合に、コア2がコード軸方向に占める範囲(以下、「コア配置範囲」と称する)を示す。
ここで、スチールコード1の輪郭形状における各シース素線4a〜4hの短径方向の型付け量L1および長径方向の型付け量L2が、コア2の素線径a、コアの素線本数n(図示例ではn=3)、シース4の素線径bについて、
L1≦2.5×b+(a−b)/2 (1)
かつ
0.9×(n×a+2×b)≦L2≦1.1×(n×a+2×b) (2)
を満足することが肝要である。
なお、上記(1)(2)式は、本発明者が実験を重ねた結果から求めたものである。
【0012】
2.5×b+(a−b)/2<L1の場合、すなわち、図1(b)に示すように、コード輪郭の短径方向のコア2とシース4との間の隙間が大きくなり、スチールコード1の輪郭が楕円形ではなく円形に近くなる場合、コア配置範囲がコード輪郭の短径方向に大きくなる。この場合、並列に配置されたコア2が動きやすくなり、中でも、並列に配置されたコア2の両端に配置されたコア素線2aと2cとがそれぞれ図1(b)中矢印の方向に動いて、コア並列配置を乱してしまう。すなわち、L1は小さくしてコア2を挟み込むようにすることが肝要である。
【0013】
L2<0.9×(n×a+2×b)の場合、すなわち、図1(c)に示すように、シース素線4a、4eが、コード輪郭の長径側から図1(c)中矢印の方向にコア2を押さえつける力が大きくなり、コア配置範囲が楕円の長径方向に狭くなる場合、コア素線2aと2cとに挟まれたコア素線2bがコア配置範囲内で短径方向に動いてしまい、コア2の並列配置を乱してしまう。すなわち、コア2の並びを圧縮して、コア2の並列配置を乱してしまう。
一方、1.1×(n×a+2×b)<L2の場合、すなわち、図1(d)に示すように、コア配置範囲がコード輪郭の長径方向に大きくなり、コード輪郭のコア2とシース4との間の長径方向に隙間が生じる場合、シース素線4a、4eがコード輪郭の長径側からコア2を押さえつける力が小さくなり、各コア素線2a〜2cがそれぞれコア配置範囲内で動いてしまい、コア2の並列配置を乱してしまう。
よって、各シース素線の型付け量を上記(1)(2)式のように規定することで、コア素線は撚り合わされたシース素線の内側空間で、その並列配置を維持することができる。
【0014】
なお、シース素線4a〜4hの型付け量は、スチールコード1からシース素線4a〜4hをほぐした際の、シース素線4a〜4hの形状に従うものとする。
図2(a)は、スチールコード1に巻きつけたシース素線4aの斜視図であり、図2(b)(c)は、スチールコード1からほぐした際のシース素線4aの型付け量を説明するための図である。短径シース型付け量L1とは、図2(b)に示すように、スチールコード1の輪郭の短径X1に対応するシース素線4aの波高であり、長径シース型付け量L2とは、図2(c)に示すように、スチールコード1の輪郭の長径X2に対応するシース素線4aの波高である。
各シース素線4a〜4hは、スチールコード1に巻きつけられた状態からほぐしたときには短径方向に縮み、すなわち、L1<X1であり、この力でスチールコード1に巻きつけられた状態で、コア2が動かないようにコア2を挟み込んでいる。また、長径方向には0.9×X2≦L2≦1.1×X2である。
【0015】
ここで、コア2は、3本以上5本以下のコア素線からなることが好適である。
なぜなら、コア素線が2本以下になると、コードの強度が不足するおそれがあるとともに扁平なスチールコードの作製が難しくなり、一方、コア素線が6本より多いと、シース素線を巻きつけて矯正する際に扁平なスチールコードを作製することが難しくなるおそれがあるためである。
【0016】
また、シース4は、1本以上15本以下のシース素線からなることが好適である。
なぜなら、シース素線が16本より多いと、シース素線間の隙間が狭くなり、シースからコアへのゴムの侵入が減少して、ゴムペネトレーション性能が低下するおそれがあるためである。
【0017】
本発明のタイヤは、1対のビード部間でトロイド状に延びるカーカスを有し、このカーカスのタイヤ径方向外側に、少なくとも1層のベルトを具え、このベルトに本発明のスチールコードを適用することが好適である。
コア素線の並列配置が維持されたスチールコードをベルトに適用することで、スチールコードのベルトへの打ち込みが均一になり、耐久性に優れたタイヤを提供することができる。
【実施例】
【0018】
図1(a)に示したように、直径0.34mmのコア素線3本のまわりに、同径のシース素線8本を、撚りピッチ17mmで巻き付けて実施例1および比較例1〜3のスチールコードを製造した。同様に、直径0.225mmのコア素線3本のまわりに、同径のシース素線2本を、撚りピッチ15mmで巻き付けて実施例2および比較例4〜6のスチールコードを製造した。また、シース素線の型付けの測定値および上限・下限は、表1に示すとおりである。
各スチールコードについて、7500mの長さにわたり30m間隔で250箇所のコード断面形状を観察し、コード断面におけるコア素線の配列によってABCのランク付けを行い、その比率を測定した。すなわち、図3(a)〜(d)に典型例を示すように、コア素線の中心軸を結んだ線分が構成する配列角θとして、180°≧θ>150°をAランク、150°≧θ>90°をBランクおよび90°≧θ>60°をCランクとした。
【0019】
【表1】

【0020】
表1より、実施例のスチールコードはAランクが97%以上なのに対して、比較例のスチールコードはAランクが50%以下である。このように、本発明によれば、シースの型付け性状を規定した結果、撚り合わせずに並列に束ねたコアが最終的に配列を乱すことがないスチールコードを提供することが可能となる。
また、このようなスチールコードを適用したベルトを用いることで耐久性が向上したタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のスチールコードを説明するための図である。
【図2】シース素線の型付け量を説明するための図である。
【図3】コア素線の配線角を説明するための図である。
【符号の説明】
【0022】
1 スチールコード
2 コア
2a〜2c コア素線
4 シース
4a〜4h シース素線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の素線を撚り合わせずに並列に束ねたコアと、該コアの周囲に巻き付けた複数本の素線によるシースと、からなるスチールコードであって、
該スチールコードの輪郭形状における短径方向のシースの素線の型付け量L1および長径方向のシースの素線の型付け量L2が、下記(1)および(2)式を満足することを特徴とするスチールコード。

L1≦2.5×b+(a−b)/2 (1)
0.9×(n×a+2×b)≦L2≦1.1×(n×a+2×b) (2)
但し、a:コアの素線径
b:シースの素線径
n:コアの素線本数
【請求項2】
前記コアが3本以上5本以下の素線からなることを特徴とする請求項1に記載のスチールコード。
【請求項3】
前記シースが1本以上15本以下の素線からなることを特徴とする請求項1または2に記載のスチールコード。
【請求項4】
1対のビード部間でトロイド状に延びるカーカスを有し、このカーカスのタイヤ径方向外側に、少なくとも1層のベルトを具えるタイヤであって、該ベルトに請求項1〜3のいずれかに記載のスチールコードを適用してなるタイヤ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−287147(P2009−287147A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−142715(P2008−142715)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】