説明

スチールコードの脱磁処理方法及び自動車用タイヤ

【課題】スチールコードを十分に脱磁処理することができる方法と、この方法で脱磁されたスチールコードを有する自動車用タイヤを提供する。
【解決手段】スチールコード群4の幅方向に配列されたマグネット6のうち隣接する一方のマグネット6にあっては、スチールコード群4側がN極であり、他方のマグネット6にあってはスチールコード群4側がS極である。マグネット6からはスチールコード群4の通過ゾーンに向って略半円弧形ないし半楕円弧形のループ状となった磁力線mが発生し、静磁場が形成される。この静磁場をスチールコード群4が通過するときに、磁力線がスチールコード群4を幅方向に貫くようになり、スチールコード群4の各スチールコード2が脱磁される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスチールコードを脱磁処理する方法に関する。また、本発明はこの方法によって脱磁されたスチールベルトを有する自動車用タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用タイヤの補強用ベルトとして、スチールベルトが用いられている。このスチールベルトは、一般に、ゴムベルト内に補強材としての複数のスチールコードを、タイヤの外周面に沿う方向であって且つタイヤ赤道面と斜交方向に延在させて並列配置したものである。また、2層以上のスチールベルト層を、各々のスチールコードのタイヤ赤道面に対する斜交方向が互いに反対方向となるように積層し、いわゆる交錯ベルト構造とすることも一般的に行われている。
【0003】
このスチールコードの素材としては、炭素を0.7〜1.2wt%含有する高炭素鋼線が一般的に用いられている。この高炭素鋼線は強磁性体であるので、タイヤの製造過程やタイヤの使用中などに、スチールコードが磁化される場合がある。スチールコードが磁化されたタイヤは、車両走行時の回転により変動磁場を発生するので、車載電子機器に対する影響への懸念や環境面の視点から、対策が検討されている。
【0004】
下記特許文献1〜4には、タイヤを脱磁することにより、タイヤから発生する磁場を低減する方法が開示されている。例えば、特許文献1には、車両に装着した状態で、使用中のタイヤの脱磁を可能にする装置が開示されている。また、特許文献5には、それぞれベルト層内でのスチールコードの磁化方向が一定方向となるように構成された複数の斜交ベルト層を、各々の磁化の方向が互いに逆になるようにして積層して交錯ベルト構造を形成することにより、外部に形成される磁場を低減したタイヤが開示されている。
【特許文献1】特開2006−100349号公報
【特許文献2】特開2005−88817号公報
【特許文献3】特開2006−82007号公報
【特許文献4】特開2006−86316号公報
【特許文献5】再表2004/065142号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、タイヤの脱磁処理に関しては、これまでに種々の技術が提案されてきている。しかし、タイヤ内に埋設されたスチールコードを脱磁する場合、脱磁用の電磁石又はマグネットとスチールコードとの距離が大きいと共に、タイヤ内の広い範囲にわたってスチールコードが存在するので、スチールコードを十分に脱磁することができない。
【0006】
本発明の目的は、上記問題を解消し、スチールコードを十分に脱磁処理することができる方法と、この方法で脱磁されたスチールコードを有する自動車用タイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明(請求項1)のスチールコードの脱磁処理方法は、スチールコードを、該スチールコードの長手方向と略垂直方向の磁力線を有した磁場に対して長手方向に相対移動させることにより脱磁処理することを特徴とするものである。
【0008】
請求項2のスチールコードの脱磁処理方法は、請求項1において、スチールコードを長手方向に移動させることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3のスチールコードの脱磁処理方法は、請求項2において、複数本のスチールコードを平行に引き揃えてシート状のスチールコード群とし、このスチールコード群をスチールコード長手方向に移動させることを特徴とするものである。
【0010】
請求項4のスチールコードの脱磁処理方法は、請求項3において、一方の板面がN極であり他方の板面がS極である板状のマグネットを、板面がスチールコード群と対面するように配置することにより、前記磁場を形成することを特徴とするものである。
【0011】
請求項5のスチールコードの脱磁処理方法は、請求項3において、複数枚のマグネットを、スチールコード群の幅方向に、かつ隣接するマグネットの磁極方向が反対方向となるように配列することを特徴とするものである。
【0012】
請求項6の自動車用タイヤは、複数本のスチールコードをゴムで被覆してなるスチールベルトを有する自動車用タイヤにおいて、該スチールコードが請求項1ないし5のいずれか1項の脱磁処理方法によって脱磁処理されたものであることを特徴とするものである。
【0013】
なお、本発明において、スチールコードはスチールの線状体であればよく、撚り合わせてないスチール線材であってもよく、複数本のスチール線材を撚り合わせた線状材料でもよく、撚り合わせた線状材料をさらに複数本撚り合わせたものであってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のスチールコードの脱磁処理方法では、スチールコードを、スチールコードの長手方向と略垂直方向の磁力線を有した磁場に対して長手方向に相対移動させる。
【0015】
一般に、強磁性の炭素鋼よりなるスチールコードは、その磁区の磁化方向がスチールコードの長手方向に配向することにより、前記特許文献5(WO2004/065142)のように、スチールコードの一端がN極となり他端がS極となるように帯磁する。
【0016】
本発明のスチールコードの脱磁処理方法に従ってスチールコードをその長手方向と垂直方向の磁力線を有した磁場に対して相対移動させると、スチールコード長手方向への磁区の配向が解消ないし減少してランダムなものとなり、スチールコードの着磁量(残留磁束密度)が低下し、脱磁処理されたものとなる。
【0017】
この脱磁処理を行うには、スチールコードをその長手方向に移動させ、磁場を発生させる磁石(永久磁石又は電磁石)を静止させておくのが簡便で好適である。
【0018】
本発明では、スチールコードを平行に揃えたスチールコード群について脱磁処理を施すことにより、効率よくスチールコードを脱磁処理することができる。このスチールコード群にゴムを被着させることにより、タイヤ製造用のスチールベルトが得られる。
【0019】
このスチールコード群を脱磁処理するための磁場を形成する磁石として、一方の板面がN極となり他方の板面がS極となっている平板状のマグネットを、板面をスチールコード群に対面させるように配列してもよい。このマグネットをスチールコード群の幅方向に、かつ隣接するマグネットの磁極方向が反対方向となるように交互に配列することにより、幅の広いシート状のスチールコード群であっても、各スチールコードを十分に脱磁処理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0021】
第1図は実施の形態に係るスチールコードの脱磁処理方法を説明する側面図、第2図は脱磁装置の内部の斜視図、第3図は第2図のIII−III線に沿う断面図、第4図は自動車用タイヤの断面図、第5図は実施例の結果を示すグラフである。
【0022】
第1図の通り、多数の原コードロール1からそれぞれスチールコード2が巻き出され、編組機3にて平行に引き揃えられると共に、樹脂製の細線(図示略)よりなる横糸によって連繋され、シート状のスチールコード群4とされる。このシート状スチールコード群4は、脱磁装置5に導入され、第2,3図の通り、多数のマグネット6によって形成された静磁場を通過して脱磁処理される。この実施の形態では、マグネット6は平板状であり、板面がシート状スチールコード群4に対面するようにブラケット7に支持されて配列されている。マグネット6のスチールコード群4に対峙する面がN極又はS極であり、それと反対面がS極又はN極である。
【0023】
スチールコード群4の幅方向に配列されたマグネット6のうち隣接する一方のマグネット6にあっては、スチールコード群4側がN極であり、他方のマグネット6にあってはスチールコード群4側がS極である。マグネット6は、このように磁極方向がスチールコード群4の幅方向において交互に変わるように配列されている。なお、隣接するマグネット6は突き合わされていることが好ましい。マグネット6の周囲は磁気シールドケース8で囲まれており、スチールコード群4はこのケース8内を通過する。
【0024】
このように構成された脱磁装置5にあっては、磁極方向が交番するように多数のマグネット6を配列したことにより、第3図の通り、マグネット6からはスチールコード群4の通過ゾーンに向って略半円弧形ないし半楕円弧形のループ状となった磁力線mが発生し、静磁場が形成される。
【0025】
この静磁場をスチールコード群4が通過するときに、磁力線がスチールコード群4を幅方向に貫くようになり、スチールコード群4の各スチールコード2が脱磁される。即ち、前述の通り、各スチールコード2における磁区の磁化方向の配向が解消ないし減少してランダム化し、各スチールコード2の残留磁束密度が低下する。
【0026】
各スチールコード2が脱磁されたスチールコード群4は巻取ロール9に巻き取られる。
【0027】
なお、マグネット6の大きさや磁束密度、マグネット6とスチールコード群4との間隔は、スチールコード2の線径、残留磁束密度、スチールコード群4の幅などに応じて適宜選定すればよい。
【0028】
本発明ではマグネットの代わりに電磁石を用いてもよい。
【0029】
第1図〜第3図では、スチールコード群4を上方に移動させているが、移動方向は任意である。本発明では磁石を移動させてスチールコードの脱磁を行ってもよい。
【0030】
脱磁されたスチールコード群4にゴムを被着させることにより、タイヤ製造用スチールベルトとなり、このスチールベルトを用いて自動車用タイヤが製造される。なお、脱磁してないスチールコード群にゴムを被着させた後、上記方法によって脱磁処理してもよい。
【0031】
第4図は、このスチールベルトを用いて製造された自動車用タイヤの半径方向の断面図である。
【0032】
この自動車用タイヤ11は、タイヤホイールのリム13に嵌合可能な一対のビード部15(第4図においては一方のビード部15のみ図示)を備えており、各ビード部15は、ビードコア17と、このビードコア17のタイヤ径方向Rの外側に配設されたビードフィラー19とをそれぞれ有している。このビードコア17は、スチールワイヤーをゴムで被覆してなるものである。なお、このスチールワイヤーは、本発明方法で脱磁されたものであってもよい。
【0033】
また、一方のビード部15におけるビードコア17には、トロイド状のカーカス21の一端部が連結されており、他方のビード部15におけるビードコア17には、カーカス21の他端部が連結されている。このカーカス21の両端部は、それぞれ、各ビードコア17を巻き込むようにタイヤ幅方向Wの内側から外側へ折り返されることにより、各ビードコア17に連結されている。このカーカス21は、ラジアル方向に延在する複数本のコード(図示省略)をゴムで被覆してなるものである。
【0034】
カーカス21のクラウン領域の外周面には、複数層(第4図では3層)のスチールベルト23が設けられている。各スチールベルト23は、タイヤ径方向Rと垂直かつタイヤ周方向Cに対して斜交する方向へ延在する複数本の本発明方法によって脱磁処理されたスチールコード25をゴムによって被覆してなるものである。
【0035】
タイヤ径方向Rの最外層のスチールベルト23の外周面(第5図の上面)には、トレッド部27が設けられている。本実施の形態では、このトレッド部27は、タイヤ径方向Rの内側のアンダトレッド部28と、該アンダトレッド部28の外周面に積層されたキャップトレッド部29の2層よりなっている。このトレッド部27には、タイヤ周方向Cに延在する複数の周方向主溝31が形成されている。
【0036】
カーカス21の一側面におけるトレッド部27と一方のビード部15の間、及びカーカス21の他側面におけるトレッド部27と他方のビード部15の間には、サイドウォール部33がそれぞれ設けられている。また、カーカス21の内側面には、空気の漏れを防ぐインナーライナー35が設けられている。なお、本発明は、図示以外のタイヤにも適用することができる。本発明方法によって脱磁されたスチールコードはタイヤ以外の複合材料にも用いることができる。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0038】
[実施例1]
第1図〜第3図に従ってスチールコードの脱磁処理を行った。
【0039】
直径0.5mmの炭素鋼製スチールワイヤを3本撚り合わせてなるスチールコード2を編組機3において500本引き揃え、合成樹脂糸よりなる横糸によって編組して幅1500mmのスチールコード群4とした。スチールコード2の直径は平均して2.0mmであり、各スチールコード2同士の間には平均して1.0mmの隙間があいている。
【0040】
マグネット6として、幅30mm×長さ60mm×厚さ10mmの板状ネオジム磁石を30枚配列した。隣接するマグネット6の磁極方向は反対方向とした。マグネット6の表面磁力は4000Gである。
【0041】
スチールコード群4の走行速度を50cm/secとし、スチールコード群4とマグネット6との間隔を50mmとした。
【0042】
脱磁処理したスチールコード群の側辺から20mmの箇所と50mmの箇所とについてガウスメータのプローブをスチールコード群の長手方向に沿って移動させて磁束密度を測定した。
【0043】
結果を第5図に示す。第5図の通り、脱磁処理することによりスチールコードの残留磁束密度が著しく低下することが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施の形態に係るスチールコードの脱磁処理方法を説明する側面図である。
【図2】脱磁装置の内部の斜視図である。
【図3】第2図のIII−III線に沿う断面図である。
【図4】実施の形態に係る自動車用のタイヤの断面図である。
【図5】実施例の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0045】
2 スチールコード
3 編組機
4 スチールコード群
5 脱磁装置
6 マグネット
7 ブラケット
8 磁気シールドケース
11 自動車用タイヤ
21 カーカス
23 スチールベルト
25 スチールコード
27 トレッド部
28 アンダトレッド部
29 キャップトレッド部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチールコードを、該スチールコードの長手方向と略垂直方向の磁力線を有した磁場に対して長手方向に相対移動させることにより脱磁処理することを特徴とするスチールコードの脱磁処理方法。
【請求項2】
請求項1において、スチールコードを長手方向に移動させることを特徴とするスチールコードの脱磁処理方法。
【請求項3】
請求項2において、複数本のスチールコードを平行に引き揃えてシート状のスチールコード群とし、このスチールコード群をスチールコード長手方向に移動させることを特徴とするスチールコードの脱磁処理方法。
【請求項4】
請求項3において、一方の板面がN極であり他方の板面がS極である板状のマグネットを、板面がスチールコード群と対面するように配置することにより、前記磁場を形成することを特徴とするスチールコードの脱磁処理方法。
【請求項5】
請求項3において、複数枚のマグネットを、スチールコード群の幅方向に、かつ隣接するマグネットの磁極方向が反対方向となるように配列することを特徴とするスチールコードの脱磁処理方法。
【請求項6】
複数本のスチールコードをゴムで被覆してなるスチールベルトを有する自動車用タイヤにおいて、
該スチールコードが請求項1ないし5のいずれか1項の脱磁処理方法によって脱磁処理されたものであることを特徴とする自動車用タイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−67629(P2010−67629A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−229840(P2008−229840)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】