説明

スチールコード及びそれを有する空気入りタイヤ

【課題】タイヤのスチールコード端部におけるセパレーションの進展を効果的に抑制しつつ、タイヤの高い操縦安定性と軽量化とを可能にするスチールコード、及び、それを有する空気入りタイヤを提供することを課題とする。
【解決手段】空気入りタイヤに用いられるスチールコード20は、1×5の構造のコードであって、最外層のシース22を構成する素線は、本数Nが5であり、かつ、互いに異なる径d1、d2の素線からなる。このように、最外層のシース22をいわゆる異線径構造にすることにより、コード表面積が増大し、かつコード表面が凹凸状になるため、スチールコード表面とタイヤのゴム材との接触面積が増大する。これにより、コード周辺に亀裂が発生した場合、その亀裂進展パスが長くなるため、ベルト端で発生した亀裂がベル卜層内部へ進展する速度を遅くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数本のスチール素線を撚り合わせたスチールコード及びそれを有する空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤでは、複数本のスチール素線を撚り合わせたスチールコード(撚りコード)が補強コードとして用いられている(例えば特許文献1、2参照)。
【0003】
ところで、近年、特に乗用車用空気入りタイヤには、高い操縦安定性を発揮でき、かつ軽量であることが益々求められてきており、これに対する対策が要望されている。
【0004】
操縦安定性を更に向上させるためにはベル卜層が高い面内剛性を有している必要があり、スチールコードの打ち込みを密にする必要がある。しかし、打ち込み本数が増加するとコード間隔が狭くなり、ベル卜層端部でセパレーションが発生しやすくなる。
【0005】
また、軽量化を更に行うためにはスチールコードのタイヤ断面縦方向径を小さくすることによりゲージを減らす必要がある。しかし、これを行うと、コードを扁平化することにより縦方向径が小さくなると同時に横方向径が大きくなるため、コード間隔が狭くなり、ベルト層端部のセパレーションが発生しやすくなる。
【特許文献1】特開昭61−201091号公報
【特許文献2】特開昭61−201092号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して、タイヤのスチールコード端部におけるセパレーションの進展を効果的に抑制しつつ、タイヤの高い操縦安定性と軽量化とを可能にするスチールコード、及び、それを有する空気入りタイヤを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、1×N、M+N、L+M+Nの何れかの構造のタイヤ用のスチールコードであって、最外層のシースを構成する素線は、本数Nが2以上であり、かつ、互いに異なる径d1、d2の素線からなることを特徴とする。
【0008】
1×N構造のスチールコードは、コアが設けられずにコード中心軸まわりにN本の素線からなるシースが形成されているスチールコードである。M+N構造のスチールコードは、コアMが撚り合わされた構造のものと、Mが無撚りのM(無撚り+N構造のものとがある。請求項2では後者の構造のものであり、1+6では1型付けたもの(波型付けたもの)を示し、2+7で2はが無撚りを示している。M本の素線からなるコアの周りにN本の素線からなるシースが形成されているスチールコードである。L+M+N構造のスチールコードは、L本の素線からなるコアの周りにM本の素線からなるシースが形成され、更にその周りにN本の素線からなるシースが形成されているスチールコードである。
【0009】
このように、請求項1に記載の発明では、最外層のシースをいわゆる異線径構造にしている。従って、請求項1に記載のスチールコードを有するタイヤでは、コード表面積が増大し、かつコード表面が凹凸状になるため、スチールコード表面とゴム材との接触面積が増大する。
【0010】
これにより、コード周辺に亀裂が発生した場合、その亀裂進展パスが長くなるため、ベルト端(スチールコード端)で発生した亀裂がベル卜層内部(ベルトセンター部方向)へ進展する速度を遅くすることができる。従って、タイヤのスチールコード端部におけるセパレーションの進展を効果的に抑制しつつ、タイヤの高い操縦安定性と軽量化とを可能にするスチールコードとすることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、d1よりもd2のほうが小さくて、最外層シースを構成する素線が 3.0 ≧ dl/d2 ≧ 1.15 の関係式を満たすことを特徴とする。
【0012】
dl/d2が3.0よりも大きくなると、スチールコードが引っ張られた時、シースを構成する素線(シースフィラメント)に働く張力が不均一になって強度不足が発生しやすくなる。
【0013】
また、dl/d2が1.15よりも小さくなると、スチールコード表面積を大きくする効果が小さくなり、亀裂進展速度を遅くし難い。
【0014】
請求項2に記載の発明により、素線の強度不足を抑えるとともに亀裂進展速度を十分に遅くできるスチールコードとすることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、最外層のシースを構成する半数以上の素線の径がd2であることを特徴とする。
【0016】
これにより、表面凹凸の凹の部分を大きくすることができ、コード径対比接触面積を大きくすることができる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、径がd1の素線と径がd2の素線とが交互に配列されたシースを有することを特徴とする。
【0018】
これにより、表面凹凸を効果的に形成できる。
【0019】
請求項5に記載の発明は、空気入りタイヤが請求項1〜4のうちいずれか1項に記載のスチールコードを有することを特徴とする。
【0020】
これにより、スチールコード端部におけるセパレーションの進展を効果的に抑制しつつ、高い操縦安定性と軽量化とを達成し得る空気入りタイヤとすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は上記構成としたので、以下の効果を奏することができる。
【0022】
請求項1に記載の発明によれば、タイヤのスチールコード端部におけるセパレーションの進展を効果的に抑制しつつ、タイヤの高い操縦安定性と軽量化とを可能にするスチールコードとすることができる。
【0023】
請求項2に記載の発明によれば、素線の強度不足を抑えるとともに亀裂進展速度を十分に遅くできるスチールコードとすることができる。
【0024】
請求項3に記載の発明によれば、表面凹凸の凹の部分を大きくすることができ、コード径対比接触面積を大きくすることができる。
【0025】
請求項4に記載の発明によれば、表面凹凸を効果的に形成できる。
【0026】
請求項5に記載の発明によれば、スチールコード端部におけるセパレーションの進展を効果的に抑制しつつ、高い操縦安定性と軽量化とを達成し得る空気入りタイヤとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、実施形態を挙げ、本発明の実施の形態について説明する。なお、第2実施形態以下では、既に説明した構成要素と同様のものには同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0028】
[第1実施形態]
まず、第1実施形態について説明する。図1に示すように、本実施形態に係る空気入りタイヤ10は、トロイド状に延びるカーカス12のクラウン部12Cの外側に、ベルト層14と、溝を配設したトレッド部16と、ベルト層14の端部を補強する補強層18とを有する。補強層18には、本実施形態に係るスチールコード20(図2参照)が補強コードとして設けられている。
【0029】
スチールコード20は、コアとなる素線(コアフィラメント)を有しておらず、最外層となるシース22を5本の素線(シースフィラメント)で構成している(1×5構造)。この5本の素線は、径d1の素線S1と、径d2の素線S2とからなる。本実施形態では、d1よりもd2のほうが小さい。
【0030】
このように、本実施形態では、最外層のシース22をいわゆる異線径構造にしている。従って、スチールコード20を有する空気入りタイヤ10では、コード表面積が増大し、かつコード表面が凹凸状になるため、スチールコード表面とゴム材との接触面積が増大する。
【0031】
これにより、コード周辺に亀裂が発生した場合、その亀裂進展パスが長くなるため、ベルト端部(スチールコード端)で発生した亀裂がベル卜層内部(ベルトセンター部方向)へ進展する速度を遅くすることができる。
【0032】
なお、補強層18を有しない構成にして、このスチールコード20をベルト層14に設けた空気入りタイヤとしてもよい。
【0033】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明する。図3に示すように、本実施形態に係るスチールコード30は、コアとなる1本の素線(コアフィラメント)Cと、最外層のシース32を構成する6本の素線とで構成されている(1+6構造)。なお、図3及び後述の図4及び図6の点線は、コアの外接面を示す。最外層のシース32を構成する6本の素線は、径がd1である3本の素線S1と、径がd2である3本の素線S2とからなる。第1実施形態と同様、d1よりもd2のほうが小さい。
【0034】
このように、本実施形態では、最外層のシース32をいわゆる異線径構造にしていることに加え、最外層のシース32を構成する半数以上の素線の径が、小さいほうのd2である。従って、スチールコード30を有する空気入りタイヤでは、第1実施形態で奏する効果に加え、素線の強度不足を抑えるとともにベルト端(スチールコード端)で発生した亀裂の進展速度を十分に遅くすることができる。
【0035】
更に、径d1の素線と径d2の素線とが交互に配列されている。これにより、表面凹凸を効果的に形成できる。
【0036】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態について説明する。図4に示すように、本実施形態に係るスチールコード40は、コアとなる2本の素線(コアフィラメント)Cと、最外層のシース42を構成する7本の素線とで構成されている(2+7構造)。最外層のシース42を構成する7本の素線は、径がd1である3本の素線S1と、径がd2である4本の素線S2とからなる。第1実施形態や第2実施形態と同様、d1よりもd2のほうが小さい。
【0037】
このように、本実施形態では、最外層のシース42をいわゆる異線径構造にしていることに加え、最外層のシース42を構成する半数以上の素線の径が、小さいほうのd2である。従って、スチールコード40を有する空気入りタイヤでは、第1実施形態で奏する効果に加え、素線の強度不足を抑えるとともにベルト端(スチールコード端)で発生した亀裂の進展速度を十分に遅くすることができる。
【0038】
更に、最外層のシース42では、径d1の素線が径d2の素線の間に配置されている。これにより、表面凹凸を効果的に形成できる。
【0039】
<実験例>
本発明の効果を確かめるために、本発明者は、第1実施形態のスチールコードを用いた空気入りタイヤの一例(以下、実施例1という)、及び、1×5構造の従来のスチールコード(最外層のシースを構成する5本の素線の径が全て同一)を用いた空気入りタイヤの一例(図5参照。以下、従来例1という)を用意し、性能試験を行った。スチールコードの打ち込み本数は30本/5cmである。
【0040】
試験条件としては、各タイヤをリム(5.5J×14)に装着し、空気圧200kPaにして乗用車に取り付け、5万km走行後、ベルト端部でのセパレーションのタイヤ幅方向長さを測定した。
【0041】
評価方法としては、従来タイヤについて指数100とし、実施例1については相対評価となる指数を算出した。この指数が大きいほど性能が優れていることを示す。コード条件、及び、性能試験結果である上記の指数を表1に示す。
【0042】
【表1】

表1から判るように、実施例1では、従来例1に比べ、性能が大幅に向上していた。
【0043】
また、本発明者は、第2実施形態のスチールコードを用いた空気入りタイヤの三例(以下、実施例2〜4という)、及び、1+6構造の従来のスチールコード(最外層のシースを構成する6本の素線の径が全て同一)を用いた空気入りタイヤの一例(図6参照。以下、従来例2という)を用意し、性能試験を行った。スチールコードの打ち込み本数、試験条件、及び評価方法は上記と同じである。各タイヤについて、コード条件、及び、性能試験結果である上記の指数を表2に示す。
【0044】
【表2】

表2から判るように、実施例2〜4では、従来例2に比べ、性能が大きく向上していた。
【0045】
更に、本発明者は、第3実施形態のスチールコードを用いた空気入りタイヤの四例(以下、実施例5〜8という)、及び、2+7構造の従来のスチールコード(最外層のシースを構成する7本の素線の径が全て同一)を用いた空気入りタイヤの一例(図7参照。以下、従来例3という)を用意し、性能試験を行った。スチールコードの打ち込み本数、試験条件、及び評価方法は上記と同じである。各タイヤについて、コード条件、及び、性能試験結果である上記の指数を表3に示す。
【0046】
【表3】

表3から判るように、実施例5〜8では、従来例2に比べ、性能が大きく向上していた。
【0047】
以上、実施形態を挙げて本発明の実施の形態を説明したが、これらの実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲がこれらの実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】第1実施形態に係る空気入りタイヤのタイヤ径方向断面図である。
【図2】第1実施形態に係るスチールコード1×5の模式的な断面図である。
【図3】第2実施形態に係るスチールコード1+6の模式的な断面図である。
【図4】第3実施形態に係るスチールコード2+7の模式的な断面図である。
【図5】実験例で用いた従来のスチールコード1×5の模式的な断面図である。
【図6】実験例で用いた従来のスチールコード1+6の模式的な断面図である。
【図7】実験例で用いた従来のスチールコード2+7の模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0049】
10 空気入りタイヤ
20 スチールコード
22 シース
30 スチールコード
32 シース
40 スチールコード
42 シース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1×N、M+N、L+M+Nの何れかの構造のタイヤ用のスチールコードであって、
最外層のシースを構成する素線は、本数Nが2以上であり、かつ、互いに異なる径d1、d2の素線からなることを特徴とするスチールコード。
【請求項2】
d1よりもd2のほうが小さくて、最外層のシースを構成する素線が
3.0 ≧ dl/d2 ≧ 1.15
の関係式を満たすことを特徴とする請求項1に記載のスチールコード。
【請求項3】
最外層のシースを構成する半数以上の素線の径がd2であることを特徴とする請求項2に記載のスチールコード。
【請求項4】
径がd1の素線と径がd2の素線とが交互に配列されたシースを有することを特徴とする請求項3に記載のスチールコード。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか1項に記載のスチールコードを有することを特徴とする空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−144318(P2008−144318A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−334269(P2006−334269)
【出願日】平成18年12月12日(2006.12.12)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】