スチールピストンのための熱酸化保護表面
ピストン(120)、および、燃料噴射方式のディーゼルエンジンのためのピストン(120)の製造方法は、ピストンボウル(134)およびリム(130)の領域における燃料噴射噴煙に誘発される酸化の損傷効果に対抗するように構成されている。燃料噴射噴煙(138)のターゲットとなるピストンクラウン(126)の表面は、最初に、耐腐食性および耐酸化性を有する組成物によって、被覆される。この組成物は、スラリーとして付着されるか、あるいは、HVOFやプラズマスプレーなどの熱スプレー技術によって付着される。その後、高エネルギーの工業用レーザービームを、スプレーされたままの状態の被覆材に照射し、その密度を増加するとともに、その微細構造を改質する。よって、被覆材と下層にあるスチール基材との溶解、合金化および物質的結合を実現し、結果としてスチールピストンクラウン(126)のための耐久性のある保護表面を得ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
発明の分野
本主題発明は、ディーゼルエンジン用のピストン、および、このようなピストンであって、熱酸化による劣化に対する耐性をもつように特別に処理されたクラウンを有するピストンの製造方法に関する。さらに、本主題発明は、特に、上記のようなピストンであって、燃料噴射方式のディーゼルエンジンの用途に使用されるスチール製のピストンに関連する。
【背景技術】
【0002】
関連技術
ディーゼルエンジンは、よく知られている熱力学サイクルによって動作する往復ピストンエンジンである。この熱力学サイクルでは、空気を圧縮し、圧縮チャージに燃料を噴射し、自動燃焼混合物を膨張させてピストンを駆動し、サイクルの終了時に生成物を排出するようになっている。ディーゼルトラック用途に使用されるような大型のスチールピストンでは、一般的に、燃焼プロセス中に燃料を噴出するために多孔ノズルが使用されている。このような多数の孔を有するノズルは、ピストンクラウンの上部におけるできるだけ中央に位置するように配され、放射状のスプレーパターンによって燃料を放出するものである。ピストンクラウンにおける凹状のボウルは、最適な性能を発揮できるように、噴射スプレーおよび噴射中に循環している空気からなる空気燃料混合物によって、燃焼空間を完全に満たせるように設計されている。ピストンクラウンのボウルを空気燃料混合物よって完全に満たせなかった場合、空気利用率および出力の双方が悪化する。その結果、公害対策排気特性が実質的に低下してしまう。同様に、個々の噴射工程の間においてオーバーラップが生じて、混合物が上記の空間を越えて漏れ出してしまった場合、派生的な局所的燃料濃縮によって、空気が欠乏し煤が発生してしまう。さらに、エンジンの公害対策排気特性も低下する。
【0003】
これらのタイミングの問題に加えて、ピストン用に設計された公害対策排気特性の損失を引き起こす他の問題もある。ディーゼルエンジンに噴射された燃料については、自然着火するために、高セタン値燃料である必要がある。燃料の燃焼噴煙は、極めて高温の熱を発生する。ピストンクラウンに形成されている上記のボウルは、一般的には、この燃焼ボウルの上端部の近傍領域および/またはこの上端部自体、すなわち、ボウルとピストンクラウンの平坦な上部リムとの間におけるリップ形状の接合部に対する酸化に悩まされている。その結果、放射状に延びる火柱からなる噴煙が多孔ノズルから延びることになる。このような火柱の効果により、スチールがFe2O3の状態に酸化してしまう。その結果として、その下層に位置する影響を受けていないスチール基材との一体性をもたない酸化物が生じる。機械的な膨張/収縮プロセスにより、この酸化層は、「剥離」方式によってやがて除去される。長い時間が経過すると、腐食領域を裸眼でも確認できるようになる。このようなボウルのリップ形状に関する変化により、燃焼プロセスが阻害されるとともに、燃焼ボウルおよびピストンクラウンに設計された公害対策排気特性を損失してしまう。さらに、腐食領域により、ピストンが構造的に弱くなる。ピストンの屈曲、膨張および収縮により、放射状のひび割れが発生する可能性もある。このひび割れは増殖し、最終的にはピストンの機能不全を引き起こすこともある。
【0004】
燃料の燃焼によって発生する極めて高温の熱に起因するボウルリップの酸化に関する問題を解決するために、さまざまな提案がなされている。例えば、酸化および腐食に対抗できるように設計された特製の合金によってピストンクラウン全体を形成する、という提案
をする者もいる。しかしながら、トラック用途に用いられる大口径のピストンでは、そのピストンクラウンのために相当に大量の材料が必要になる。上記のような特製の合金を用いるのでは、ディーゼルピストンのコストを著しく増加させることになる。
【0005】
この問題を解決しようとする他の従来技術として、ヘグ(Hoeg)に対して1998年9月28日に許可された米国特許第5,958,332号を挙げられる。この例では、耐高温性・耐腐食性の合金からなる特製のプレートを、ピストンの重要領域あるいはその他のエンジン部品に溶接するようになっている。しかしながら、特製合金プレートという遊離部品を形成することは、ピストンの組み立てコストを著しく増加するだけでなく、非常に多くの手作業工程および組み立て工程を形成プロセスに追加することになる。また、他の例のなかには、耐高温性スチールあるいはセラミックベースの材料からなる環体を燃焼ボウルに焼き嵌めする、という提案もある。しかしながら、上記したものと同じ制限が当てはまる。以上のように、低コストのスチールピストンにおけるピストンクラウンの劣化の問題を解決するという、長年にわたる切実な、そして、未解決の要求がある。この劣化は、酸化および燃焼ボウルのリップの近傍でディーゼルエンジンが燃焼することによって放出される、極めて高温の熱に起因するものである。商業的な見地から現実的といえる解決方法は、長期間にわたってピストンの排気遵守能力を保ち続けられるものであるとともに、生産あるいは製造コストの全体を増加させることなく実行することの可能なものである必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明の概要
本主題発明によれば、内燃エンジンに使用されるピストンクラウンの耐酸化性および耐腐食性を改善するための方法を提供できる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この方法は、クラウンの外表面を露出させているクラウンを有するピストンを用意する工程と、基本的に耐腐食性および耐酸化性を有する組成物からなる被覆材を準備する工程と、クラウン表面に吸着した被覆材が、付着されたままの状態の微細構造および100%詰まった材料密度よりも低い付着されたままの状態の気孔率を有するように、被覆材をピストンクラウンに付着する工程と、を含んでいる。この方法は、被覆材の密度を増加させるとともに、微細構造を改質し、被覆材とクラウン表面との間における物質的結合を形成するために、高エネルギーレーザービームによって被覆材を照射する工程をさらに含んでいる。この照射工程は、被覆材とクラウン表面の材料とを実際に合金化するものである。これにより、もともとの被覆材およびクラウン表面の材料の双方と異なる特性を有する、複合材料を生成することが可能となる。
【0008】
本主題発明のさらに別の態様によれば、燃料噴射方式のディーゼルエンジンにおけるスチールピストンを操作する方法を提供できる。この方法は、シリンダヘッドを有するエンジンシリンダを用意する工程と、ほぼ環状のリム、および、このリムの下方に配された凹型の燃焼ボウルを含み、リムとボウルとの接合部がほぼ環状のリップを形成しているようなクラウンを有するピストンを用意する工程と、シリンダ内で、シリンダヘッドに向かう方向とシリンダヘッドから離れる方向との間でピストンを往復運動させる工程と、液体燃料を、シリンダ内に対して、および、ピストンクラウンのリップに向けて強制的に放出する工程と、ピストンクラウンのリップの近傍において燃料を燃焼する工程と、を含むものである。上記したピストンを用意する工程は、付着されたままの状態の微細構造および100%詰まった材料密度よりも低い付着されたままの状態の気孔率を有するように、基本的に耐腐食性および耐酸化性を有する組成物からなる被覆材をリップに付着することによって、ピストンクラウンのリップにおける表面の組成を変える工程と、その後の、被覆材
の密度を増加させるとともに、その微細構造を改質し、被覆材とリップとの間における物質的結合を形成するために、高エネルギーレーザービームによって付着した被覆材を照射する工程と、を含んでいる。
【0009】
本主題発明のさらに別の態様によれば、燃料噴射方式のディーゼルエンジンのためのピストンを提供できる。このピストンは、ほぼ円柱型のスカートであって、その内部に横向きに設けられた一対の対向するピン孔を備えたスカートを備えている。クラウンは、スカートの最上部に設けられている。このクラウンは、ほぼ環状のリム、および、このリムの下方に設けられた凹型のボウルを有している。ほぼ環状のリップが、リムと前記ボウルとの接合部に沿って設けられている。このリップは、耐腐食性および耐酸化性を有し、高エネルギーレーザービームの照射を受けた組成物を付着することを基本とする、接合面処理を施されている。
【0010】
本主題の方法およびピストン構造は、環状のリムと凹型のボウルとの接合部を含むピストンクラウンのリップ領域を、意図的に作成・処理することによって、従来技術のピストンにおける欠点および欠陥を克服するものである。これにより、噴射ノズルからリップに向けて噴射される液体燃料の燃焼による悪影響に対して、よりよく対抗することが可能となる。比較的に低コストのスチールピストンを本発明にしたがって形成および操作すれば、その耐用年数を実質的に延ばすことが可能となる。さらに、長期間にわたるピストンの排気遵守能力を、ピストンの構造的完全性とともに維持することも可能となる。
【0011】
本発明の上記した構成および利点、および、その他の構成および利点については、以下に示す詳細な説明および添付図面を参照しながら検討することによって、より容易に理解できるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
好ましい実施形態の詳細な説明
図面を参照すると、燃料噴射方式のディーゼルエンジンのためのスチールピストンは、概して図1において番号20によって示されている。なお、複数の図面において同じ番号によって示されている部材は、同じ部材あるいは対応する部材である。このピストン20は、燃料噴射方式のディーゼルエンジンにおいての使用に適応されたタイプのものである。このピストン20は、ほぼ円柱型のスカート部分22を有している。このスカート部分22は、その内部に横向きに設けられている一対の対向するピン孔24を備えている。スカート22は、ピストン20がディーゼルエンジンのシリンダ(図示せず)内で往復運動できるように、ピストン20を案内し支持するものである。一方、ピン孔24は、リストピンあるいはガジオンピンを支持し、連接棒(図示せず)の上端部、および、究極的にはエンジンのクランクシャフトに結合するものである。クラウンは、多くの場合に番号26で示されるが、スカート22の最上部に設けられている。本発明の好ましい実施形態では、スカート22およびクラウン26は、単一のスチール材料で一体形成されている。材料の組成としては、既知の種類のいずれを選択してもよい。比較的に低コストの「SAE4140H」を用いることも可能であるが、これに限られるわけではない。図示した一体成形の設計に代えて、ピストン20を、いわゆる「連結」型としてもよい。この場合、クラウン26は、スカート20に対して、共通の接続部分を介して上記のリストピンを軸に僅かに旋回できるようになる。
【0013】
クラウン26は、圧縮リングおよび/またはオイルリング(図示せず)をはめるための複数のリング溝28を有している。このリング溝28は、クラウン26における円柱形の外面である、スライド表面に形成されている。リム30は、ほぼ平坦な環状の領域であり、ピストン20における最も高くなっている頂上部を含むものである。一般に、必ずではないものの、リム30内には、1つ以上のバルブポケット32が形成されている。これは
、ピストン20がその上死点(TDC;top dead center)に位置したときに、バルブヘッド25(図3に仮想線で示す)を排出する、および/または取り込むための隙間空間を形成するためである。
【0014】
クラウン26におけるリム30に囲まれている中央の内部領域は、ボウルとして知られるものであり、多くの場合に番号34によって示されている。ボウル34は、ピストンクラウン26の頂上部に設けられた穴として形成された燃焼チャンバー部分を備えている。多孔ノズル36は、この燃焼凹部の上部の中心において、複数の放射状の噴流あるいは噴煙38として燃料を噴射する。ノズル36およびそこから放射される燃料噴煙38の形状は、ボウル34の凹状の旋回構造と噴射燃料流のエネルギーとの組み合わせにより、空気と燃料とが相互作用し、燃料の燃焼が増大化するような最適な空間を形成するように決定される。ボウル34は、先のとがった、あるいはドーム形の中央部を有しており、これは、えぐられた窪み42に向けて傾斜している。この窪み42は、一般に環形状を有しており、その上部の上昇面はリム30に再結合している。リム30と窪み42の上昇面との間の接合部は、一般に、環状リップ44を有している。この環状リップ44については、図3に示すように、窪み42に対して突出させるようにしてもよいし、突出させなくてもよい。
【0015】
平均的なディーゼルエンジンでは、噴射燃料の噴煙38は、上死点に到達する約5°前(BTDC;before top dead center)から出射され、ピストン運動が上死点を経た約10°後(ATDC;after top dead center)まで継続される。このように、噴煙38は、起動は常に一定の起動を保っており、噴煙接触区域として特徴づけられるピストンクラウン26の表面領域を機銃掃射する。その結果、この噴煙接触区域は、シリンダ内でピストンが約5°BTDCから約10°ATDCまで移動する間に燃料噴射噴煙38のターゲットとなる、露出したクラウン表面の部分となる。この部分には、バルブポケット32に加えて、窪み42における上部の上昇表面、リップ44およびリム30が含まれる。この噴煙接触区域は、一般に、ボウル34における全ての露出領域を含むわけではない。噴煙接触領域の近傍では燃料の燃焼によって極めて高温の熱が発生するため、従来技術のピストンでは、ピストンクラウン26におけるスチールの組成が、Fe2O3の状態に酸化してしまう傾向にある。このような変質によって生じる酸化物は、もはや、もともとのスチール材料との一体性をもたなくなり、膨張および収縮プロセスにおいて、破片として早々に除去される。腐食が生じていない場合のエンジンの耐用年数にはまだ全く達していない段階でも、時間の経過により、腐食領域が広がってしまい、ピストン20の燃焼ボウル34に設定された公害対策排気特性は著しく悪化してしまう。構造的な強度についても、時間ととともに大幅に劣化する。図2において十分に示せていると思われるが、これらの腐食領域は、リップ44におけるスプレー噴煙38に対応する領域で最も顕著に現れる。
【0016】
では、図4〜12を参照しながら、本主題発明において改善されたピストン、および、改善されたピストンの製造方法および操作方法について説明する。便宜上、上記した部材に対応する参照番号を、このピストンにおける対応する部材にも使用する。ただし、本主題発明を従来技術と区別するために、番号の前に「1」をつけることにする。
【0017】
本主題発明は、クラウン126を有するピストン120に向けられたものである。このクラウン126は、クラウン126の表面の近傍におけるディーゼルエンジンの燃焼によって発生する極めて高温の熱によりよく対抗できるように、表面の噴煙接触領域に対して改良および修正を施したものである。図4および図5に、ピストンクラウン26の部分的な断面を示す。このピストンクラウン26には、耐腐食性および耐酸化性を有する組成物が噴霧されているか、あるいは、このような組成物による処理が施されている。このような組成物としては、アムドライ995C、インコネル718、ステライト6、ニッケルク
ロム、クロムあるいはこれらの組成物の混合物を挙げられる。耐腐食性を有する組成物については、ペーストのようなスラリーとして塗布することも可能である。しかしながら、この被覆プロセスについては、燃焼タイプあるいは電気アークタイプのいずれかの溶射プロセスによって実行することが好ましい。このようなプロセスは、「金属化」という記述用語によって知られているものである。上記した燃焼タイプの熱スプレープロセスは、粉末式フレーム溶射、溶線式/溶棒式フレーム溶射、爆発溶射、高速酸素式(HVOF;high velocity oxygen fuel)溶射を含むが、これらに限られるわけではない。
【0018】
例えば、HVOF溶射プロセスを用いる場合、予圧チャンバーガン146に対し、アセチレン、水素、プロピレンあるいは同種のものを用いて、高温高圧のフレームを生成する。このフレームは、デラバルノズルを介して、搬送ガスを超音速に加速することを強いられる。原料となる粉末については、高圧燃焼チャンバー146に対して軸方向に供給するようにしてもよい。また、ノズルの側面から直接に粉末を供給するようにしてもよい。原料となる粉末については、上記した材料群から選択することも可能である。なお、耐腐食性および耐酸化性を有する組成物による十分な被覆をピストンクラウン126の傷つきやすい表面に対して形成するための熱スプレープロセスとしては、HVOFに限られるわけではない。しかしながら、そうであっても、HVOFは、使用可能なスプレープロセスの種類のなかでは好ましい例ではある。
【0019】
上記したような伝統的な熱スプレープロセスに加えて、いわゆる「コールドスプレー」方式の熱スプレープロセスを利用することも可能であり、これについても、本発明の意図する範囲に含まれている。コールドスプレー技術によれば、1〜50ミクロンの大きさの微粒子を超音速に加速し、作業部分の表面に付着することになる。ある構成例では、ヘリウムあるいは窒素を予圧チャンバー内に高圧噴射し、300〜700℃まで加熱する。上記した耐腐食性および耐酸化性を有する組成物の1つといった原料となる粉末については、粒子が溶解するほどには高温になっていないガス流に導入することになる。そして、この固体粉末とガスとの混合物は、デラバルノズルを通過する。このノズルでは、粒子が超音速に加速される。粒子は、溶解および/または固化することなく、機械的に結合するために十分な運動エネルギーをもった状態で、基材に衝突するが、金属結合は生じない。
【0020】
図5に、ピストンクラウン126を示す。このピストンクラウン126では、噴煙接触区域が、スプレー材料によって完全に被覆され、スプレーされたままの状態の微細構造および100%詰まった材料密度よりも低いスプレーされたままの状態の気孔率を有する耐久性被覆材を形成している。すなわち、スプレー材料の組成は、クラウン126における問題の表面領域に完全に付着した後に、特徴的な微細構造および最密状態100%よりも小さい材料密度を有するようになる。ボウル134における噴煙接触区域の外側の部分については、耐腐食性・耐酸化性を有する材料によって被覆されていない。ピストンクラウン126を、堅固に改良され長い寿命をもつ本主題発明にかかるピストンクラウン126として完全に変化させるために、次に、高エネルギーレーザービームを、スプレー材料被覆に照射する。これにより、被覆材が、その下層にあるピストンクラウン126のスチール基材とともに溶融する。このようなレーザービームの一例としては、いわゆる高出力ダイレクトダイオードレーザー(HPDL;High−Power Direct Diode Laser)によって生成できるものを挙げられる。レーザービームの影響の下で、2つの材料(被覆材および基材)は、混合して合金化する。これにより、スプレーされたままの状態(図5)よりも被覆材の密度を増やすことができるとともに、被覆材の微細構造を改質することが可能となる。さらに、後続する照射プロセスによって、被覆材とクラウン基材との物質的結合を実現できる。図6に、これらによって改良されたピストンクラウン126を示す。
【0021】
噴煙接触区域を覆うピストンクラウン126の表面形状が複雑であるために、スプレーされたままの状態の被覆材を完全かつ均一に照射するためには、高エネルギーレーザービームの経路・方向を多くする必要がなる。スプレーされたままの状態の被覆材の特定領域に対して意図しない入射角度からレーザービームを照射してしまうこと防ぐために、初回の照射プロセスおよび後続する照射プロセスの双方において、被覆材の特定領域をマスクすることが好ましい。
【0022】
では、次に、図7および図8を参照されたい。第1マスクは、多くの場合に番号148で示されているものである。この第1マスクは、一例として、リム30およびバルブポケット32の領域における被覆材をカバーする一方、窪み142の領域に付着している被覆材については露出させるようになっている。このように、第1マスク148を所定の位置に配置する一方、窪み142における被覆材の付着部分(すなわち噴煙接触領域)に対する高エネルギーレーザー150の照射を制限しないようになっている。図示するように、レーザー150の焦点の下に位置する窪み142の領域は、レーザービームの溶解特性によって改質されたように示されている。これにより、被覆材が合金化し、もともとのスチール材料に対して物質的に結合した状態となる。この実施例では、レーザー150が、そのビームを上向きの上昇経路内で移動させている。これにより、ビームがリップ144に向かって進み、最終的に、窪み142に付着した被覆材の全てが隈なく照射され、ピストンクラウン126と物質的に結合するように改質される。しかしながら、好ましい実施形態では、レーザー150を、焦点においてほぼ12mm×0.5mmとなる矩形のビームを有するタイプのものから選択する。ビームの長軸は、垂直方向において窪み142からリップ144までを含み、この垂直位置で固定される。そして、ビームとピストンとを、周方向について相対的に移動する。これは、例えば、レーザーを固定する一方、ピストンを回転させることによってなされる。これにより、ビームの長軸によって、処理領域を一掃することが可能となる。これによって生じる溶融被覆材により、クラウン126の物理的特性を十分に高められる。その結果、酸化の問題を解決できるとともに、例えば「SAE4140H」のような標準的なピストン用のスチール材料を継続的に使用することが可能となる。以上のように、本主題発明は、リムおよびボウルの酸化に関する上記の問題を解決するために、他の従来技術が提案するものよりも低コストの解決策を提示するものである。
【0023】
レーザー150がボウル134内においてその付着領域を横切るように、ピストン120を回転させるようにしてもよいし、および/または、レーザー150を回転させるようにしてもよい。これにより、被覆表面領域における環状領域の全体を適切に照射できる。レーザー150の焦点が窪み142の上部にまで延びてしまった場合には、レーザー150は第1マスク148に接触し、害を及ぼすことなくピストンクラウン126から離れる方向に反射する。これは、第1マスク148が、例えば研磨された銅などの、反射性および熱伝動性を有する金属材料から形成されているからである。
【0024】
いったん窪み142の領域を適切に照射したら、次に、リム130に注目することが可能となる。このリム130も、スプレー材料によって被覆されている。しかしながら、バルブポケット132は、リム130の表面よりも下方に落ち込んでいる。したがって、リム130に加えて、バルブポケット132の領域における被覆材についても効果的に照射できるようには、レーザー150の焦点を最適化することはできないかもしれない。これを解決するために、図9に示すように、第2マスク152を使用するようにしてもよい。この第2マスク152については、例えば研磨された銅などの、反射性を有する金属シールドのような材料から構成することが可能であり、バルブポケット132を覆うような構造にしてもよい。これにより、スプレー被覆されたピストンクラウン126の唯一の露出部分は、リム表面130となる。第2マスク152によって意図していない領域を効果的に隠すとともに、図10に示すようにリム130の被覆表面を照射できるように、レーザ
ー150の位置を変えてもよい。さらに、リム130の表面の全体を効果的に覆うことができるように、ピストン120および/またはレーザー150を回転させるようにしてもよい。レーザー150からのビームが第2マスク152を叩いたときにはいつでも、図10に示すように、ビームはクラウン126から離れる方向にむけて害を及ぼすことなく反射される。そして、吸収された熱は、常にすぐに分散される。この方法によれば、バルブポケット132を、理想的な状態に設定されていないレーザー150による照射から保護することが可能となる。第2マスク152は、また、バルブポケット132の片隅、およびバルブポケット132の端部に沿う部分を余分に溶融してしまうことの回避にも役立つ。さらに、窪み部分142をレーザー150による後続する攻撃から保護することも可能となる。このような保護がなければ、既に照射した表面における意図しない金属的構造変異の生じる可能性もある。
【0025】
ピストンクラウン126上にあるスプレーされたままの状態の被覆に対する完全な照射を完遂するためには、第2マスク152を除去した後、ピストンクラウン126の上部を第3マスク154によって覆うことになる。図11に示すように、第3マスク154は、既に照射を受けたリム部分130を覆うように、また、バルブポケット132の領域を開けたままにしておくように設計されている。例えば、レーザー150の配置を再設定し、図12に示すように、その焦点をバルブポケット132の深さにあわせるようにしてもよい。照射プロセスについては、従前と同じように、ピストンクラウン126とレーザー150との間の相対運動を伴って実行するようにしてもよい。このような相対運動については、回転あるいは2つの部材間における相対運動を導く他の動作によって実現できる。レーザー150のビーム経路がバルブポケット132から外れてリム130の領域に向いたときにも、第3マスク154は、害を及ぼすことなく、リム表面130から離れる方向に光エネルギーを反射する。これにより、既に改質された表面を、高エネルギーレーザービーム150との余分な望まない相互作用から保護することが可能となる。第3マスク154は、さらに、バルブポケット132の片隅、およびバルブポケット132の端部に沿う部分を余分に溶融してしまうことの回避にも役立つ。
【0026】
本主題発明の照射工程については、多くの異なるタイプのレーザーによって効果的に実現できるけれども、高出力ダイレクトダイオードレーザーを用いるなら、満足のいく結果を得られることがわかっている。
【0027】
当然のことながら、上記の構成に代えて、第1マスク148、第2マスク152および第3マスク154を順々に配置することも可能である。さらに、ここで説明したように被覆材を効果的に改質するために、照射工程において要求するマスクの数を、3つより少なく、あるいは3つより多くしてもよい。さらに、上記では、非常に限定的な被覆材の使用を提示したけれども、適切な材料はこれらだけではない。それどころか、工業用層を用いた溶融工程での使用に適した被覆材であれば、どのようなものを採用してもよい。例えば、ガスタービンの分野から学べることかもしれないが、高温酸化に対抗するための、一般的かつ特許で守られているさまざまな粉末が知られているだろう。そのような既知の材料のいずれについても、ひび割れ、腐食あるいは熱酸化を伴うことなく噴煙接触区域の外形に合致する溶融被覆材を提供するために使用することが可能である。本発明にかかる溶融ピストンクラウン表面における他の利点は、必要に応じて、機械処理の後に関する性能を得られること、すなわち、スプレーされた被覆材が少しずつ崩れたり剥がれ落ちたりすることのない照射表面を得られることにある。主題となっているこの方法については、サイクルタイムの速い生産設定を高めた状態において実行することが可能である。また、この方法については、再現性を有しており、非常に緻密なコンピュータ制御によって管理しやすいということを実証することが可能である。このプロセスは、インライン製造プロセスに対する順応性の高いものである。
【0028】
いうまでもなく、既に教授した点を踏まえて、本発明を多様に変形および変更することが可能である。したがって、添付した請求項の範囲内において、明確に記載したものとは異なる形態で本発明を実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、従来技術に関するディーゼルエンジン用のスチールピストンを示す斜視図である。
【図2】図2は、図1に示した従来技術のピストンの上面図であって、中央に配置された多孔燃料噴射ノズルを、放射状に延びる複数の燃料噴射スプレーともに示す図である。
【図3】図3は、図2に示した線3−3にほぼ沿った部分的な断面図である。
【図4】図4は、本主題発明にかかるスチール製のディーゼルエンジンピストンの部分的な断面を示す図であって、ピストンクラウンにおける非常に傷つきやすい部分に向けて、耐腐食性および耐酸化性を有する組成物からなるスプレー材料を強制的に導くプロセスを示す図である。
【図5】図5は、図4に示したものと同様の断面図であって、ピストンクラウンにおける被覆材によって被覆されている傷つきやすい領域の全てを示す図である。
【図6】図6は、図5に示したものと同様のピストンクラウンの部分的な断面図であって、被覆材の密度を増加させると同時に、その微細構造を改質し、さらに、ピストンクラウンにおける傷つきやすい領域と被覆材との物質的結合を形成するために、高エネルギーレーザービームを照射した表面を示す図である。
【図7】図7は、本主題発明にかかるピストンの斜視図であり、被覆された表面の特定部分に対する望まない照射を防止するための、ピストンクラウンのリム部を覆う第1の環状マスクを含むピストンを示す図である。
【図8】図8は、図7に示した線8−8にほぼ沿った部分的な断面図であり、第1マスクによって覆われたピストンクラウンのボウル領域における被覆材を照射する、高エネルギーレーザービームを示す図である。
【図9】図9は、ピストンクラウンにおける平坦なリム部の上部だけを露出するようにボウル領域およびバルブポケットを覆う第2マスクを含むピストンの斜視図である。
【図10】図10は、図9に示した線10−10にほぼ沿った部分的な断面図であり、リム部の被覆材を照射するプロセスにおいてバルブポケットを照射しないように、第2マスクによって反射したレーザービームを示す図である。
【図11】図11は、ピストンの斜視図であり、バルブポケットの領域の被覆材を高エネルギーレーザービームによって照射できるように、ピストンクラウンの上部を覆いながらバルブポケットだけを露出させる第3マスクを示す図である。
【図12】図12は、図11に示した線12−12にほぼ沿った部分的な断面図であり、ピストンにおけるクラウンの表面調整を完遂するために、バルブポケットの領域における被覆材を照射する高エネルギーレーザービームを示す図である。
【技術分野】
【0001】
発明の背景
発明の分野
本主題発明は、ディーゼルエンジン用のピストン、および、このようなピストンであって、熱酸化による劣化に対する耐性をもつように特別に処理されたクラウンを有するピストンの製造方法に関する。さらに、本主題発明は、特に、上記のようなピストンであって、燃料噴射方式のディーゼルエンジンの用途に使用されるスチール製のピストンに関連する。
【背景技術】
【0002】
関連技術
ディーゼルエンジンは、よく知られている熱力学サイクルによって動作する往復ピストンエンジンである。この熱力学サイクルでは、空気を圧縮し、圧縮チャージに燃料を噴射し、自動燃焼混合物を膨張させてピストンを駆動し、サイクルの終了時に生成物を排出するようになっている。ディーゼルトラック用途に使用されるような大型のスチールピストンでは、一般的に、燃焼プロセス中に燃料を噴出するために多孔ノズルが使用されている。このような多数の孔を有するノズルは、ピストンクラウンの上部におけるできるだけ中央に位置するように配され、放射状のスプレーパターンによって燃料を放出するものである。ピストンクラウンにおける凹状のボウルは、最適な性能を発揮できるように、噴射スプレーおよび噴射中に循環している空気からなる空気燃料混合物によって、燃焼空間を完全に満たせるように設計されている。ピストンクラウンのボウルを空気燃料混合物よって完全に満たせなかった場合、空気利用率および出力の双方が悪化する。その結果、公害対策排気特性が実質的に低下してしまう。同様に、個々の噴射工程の間においてオーバーラップが生じて、混合物が上記の空間を越えて漏れ出してしまった場合、派生的な局所的燃料濃縮によって、空気が欠乏し煤が発生してしまう。さらに、エンジンの公害対策排気特性も低下する。
【0003】
これらのタイミングの問題に加えて、ピストン用に設計された公害対策排気特性の損失を引き起こす他の問題もある。ディーゼルエンジンに噴射された燃料については、自然着火するために、高セタン値燃料である必要がある。燃料の燃焼噴煙は、極めて高温の熱を発生する。ピストンクラウンに形成されている上記のボウルは、一般的には、この燃焼ボウルの上端部の近傍領域および/またはこの上端部自体、すなわち、ボウルとピストンクラウンの平坦な上部リムとの間におけるリップ形状の接合部に対する酸化に悩まされている。その結果、放射状に延びる火柱からなる噴煙が多孔ノズルから延びることになる。このような火柱の効果により、スチールがFe2O3の状態に酸化してしまう。その結果として、その下層に位置する影響を受けていないスチール基材との一体性をもたない酸化物が生じる。機械的な膨張/収縮プロセスにより、この酸化層は、「剥離」方式によってやがて除去される。長い時間が経過すると、腐食領域を裸眼でも確認できるようになる。このようなボウルのリップ形状に関する変化により、燃焼プロセスが阻害されるとともに、燃焼ボウルおよびピストンクラウンに設計された公害対策排気特性を損失してしまう。さらに、腐食領域により、ピストンが構造的に弱くなる。ピストンの屈曲、膨張および収縮により、放射状のひび割れが発生する可能性もある。このひび割れは増殖し、最終的にはピストンの機能不全を引き起こすこともある。
【0004】
燃料の燃焼によって発生する極めて高温の熱に起因するボウルリップの酸化に関する問題を解決するために、さまざまな提案がなされている。例えば、酸化および腐食に対抗できるように設計された特製の合金によってピストンクラウン全体を形成する、という提案
をする者もいる。しかしながら、トラック用途に用いられる大口径のピストンでは、そのピストンクラウンのために相当に大量の材料が必要になる。上記のような特製の合金を用いるのでは、ディーゼルピストンのコストを著しく増加させることになる。
【0005】
この問題を解決しようとする他の従来技術として、ヘグ(Hoeg)に対して1998年9月28日に許可された米国特許第5,958,332号を挙げられる。この例では、耐高温性・耐腐食性の合金からなる特製のプレートを、ピストンの重要領域あるいはその他のエンジン部品に溶接するようになっている。しかしながら、特製合金プレートという遊離部品を形成することは、ピストンの組み立てコストを著しく増加するだけでなく、非常に多くの手作業工程および組み立て工程を形成プロセスに追加することになる。また、他の例のなかには、耐高温性スチールあるいはセラミックベースの材料からなる環体を燃焼ボウルに焼き嵌めする、という提案もある。しかしながら、上記したものと同じ制限が当てはまる。以上のように、低コストのスチールピストンにおけるピストンクラウンの劣化の問題を解決するという、長年にわたる切実な、そして、未解決の要求がある。この劣化は、酸化および燃焼ボウルのリップの近傍でディーゼルエンジンが燃焼することによって放出される、極めて高温の熱に起因するものである。商業的な見地から現実的といえる解決方法は、長期間にわたってピストンの排気遵守能力を保ち続けられるものであるとともに、生産あるいは製造コストの全体を増加させることなく実行することの可能なものである必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明の概要
本主題発明によれば、内燃エンジンに使用されるピストンクラウンの耐酸化性および耐腐食性を改善するための方法を提供できる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この方法は、クラウンの外表面を露出させているクラウンを有するピストンを用意する工程と、基本的に耐腐食性および耐酸化性を有する組成物からなる被覆材を準備する工程と、クラウン表面に吸着した被覆材が、付着されたままの状態の微細構造および100%詰まった材料密度よりも低い付着されたままの状態の気孔率を有するように、被覆材をピストンクラウンに付着する工程と、を含んでいる。この方法は、被覆材の密度を増加させるとともに、微細構造を改質し、被覆材とクラウン表面との間における物質的結合を形成するために、高エネルギーレーザービームによって被覆材を照射する工程をさらに含んでいる。この照射工程は、被覆材とクラウン表面の材料とを実際に合金化するものである。これにより、もともとの被覆材およびクラウン表面の材料の双方と異なる特性を有する、複合材料を生成することが可能となる。
【0008】
本主題発明のさらに別の態様によれば、燃料噴射方式のディーゼルエンジンにおけるスチールピストンを操作する方法を提供できる。この方法は、シリンダヘッドを有するエンジンシリンダを用意する工程と、ほぼ環状のリム、および、このリムの下方に配された凹型の燃焼ボウルを含み、リムとボウルとの接合部がほぼ環状のリップを形成しているようなクラウンを有するピストンを用意する工程と、シリンダ内で、シリンダヘッドに向かう方向とシリンダヘッドから離れる方向との間でピストンを往復運動させる工程と、液体燃料を、シリンダ内に対して、および、ピストンクラウンのリップに向けて強制的に放出する工程と、ピストンクラウンのリップの近傍において燃料を燃焼する工程と、を含むものである。上記したピストンを用意する工程は、付着されたままの状態の微細構造および100%詰まった材料密度よりも低い付着されたままの状態の気孔率を有するように、基本的に耐腐食性および耐酸化性を有する組成物からなる被覆材をリップに付着することによって、ピストンクラウンのリップにおける表面の組成を変える工程と、その後の、被覆材
の密度を増加させるとともに、その微細構造を改質し、被覆材とリップとの間における物質的結合を形成するために、高エネルギーレーザービームによって付着した被覆材を照射する工程と、を含んでいる。
【0009】
本主題発明のさらに別の態様によれば、燃料噴射方式のディーゼルエンジンのためのピストンを提供できる。このピストンは、ほぼ円柱型のスカートであって、その内部に横向きに設けられた一対の対向するピン孔を備えたスカートを備えている。クラウンは、スカートの最上部に設けられている。このクラウンは、ほぼ環状のリム、および、このリムの下方に設けられた凹型のボウルを有している。ほぼ環状のリップが、リムと前記ボウルとの接合部に沿って設けられている。このリップは、耐腐食性および耐酸化性を有し、高エネルギーレーザービームの照射を受けた組成物を付着することを基本とする、接合面処理を施されている。
【0010】
本主題の方法およびピストン構造は、環状のリムと凹型のボウルとの接合部を含むピストンクラウンのリップ領域を、意図的に作成・処理することによって、従来技術のピストンにおける欠点および欠陥を克服するものである。これにより、噴射ノズルからリップに向けて噴射される液体燃料の燃焼による悪影響に対して、よりよく対抗することが可能となる。比較的に低コストのスチールピストンを本発明にしたがって形成および操作すれば、その耐用年数を実質的に延ばすことが可能となる。さらに、長期間にわたるピストンの排気遵守能力を、ピストンの構造的完全性とともに維持することも可能となる。
【0011】
本発明の上記した構成および利点、および、その他の構成および利点については、以下に示す詳細な説明および添付図面を参照しながら検討することによって、より容易に理解できるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
好ましい実施形態の詳細な説明
図面を参照すると、燃料噴射方式のディーゼルエンジンのためのスチールピストンは、概して図1において番号20によって示されている。なお、複数の図面において同じ番号によって示されている部材は、同じ部材あるいは対応する部材である。このピストン20は、燃料噴射方式のディーゼルエンジンにおいての使用に適応されたタイプのものである。このピストン20は、ほぼ円柱型のスカート部分22を有している。このスカート部分22は、その内部に横向きに設けられている一対の対向するピン孔24を備えている。スカート22は、ピストン20がディーゼルエンジンのシリンダ(図示せず)内で往復運動できるように、ピストン20を案内し支持するものである。一方、ピン孔24は、リストピンあるいはガジオンピンを支持し、連接棒(図示せず)の上端部、および、究極的にはエンジンのクランクシャフトに結合するものである。クラウンは、多くの場合に番号26で示されるが、スカート22の最上部に設けられている。本発明の好ましい実施形態では、スカート22およびクラウン26は、単一のスチール材料で一体形成されている。材料の組成としては、既知の種類のいずれを選択してもよい。比較的に低コストの「SAE4140H」を用いることも可能であるが、これに限られるわけではない。図示した一体成形の設計に代えて、ピストン20を、いわゆる「連結」型としてもよい。この場合、クラウン26は、スカート20に対して、共通の接続部分を介して上記のリストピンを軸に僅かに旋回できるようになる。
【0013】
クラウン26は、圧縮リングおよび/またはオイルリング(図示せず)をはめるための複数のリング溝28を有している。このリング溝28は、クラウン26における円柱形の外面である、スライド表面に形成されている。リム30は、ほぼ平坦な環状の領域であり、ピストン20における最も高くなっている頂上部を含むものである。一般に、必ずではないものの、リム30内には、1つ以上のバルブポケット32が形成されている。これは
、ピストン20がその上死点(TDC;top dead center)に位置したときに、バルブヘッド25(図3に仮想線で示す)を排出する、および/または取り込むための隙間空間を形成するためである。
【0014】
クラウン26におけるリム30に囲まれている中央の内部領域は、ボウルとして知られるものであり、多くの場合に番号34によって示されている。ボウル34は、ピストンクラウン26の頂上部に設けられた穴として形成された燃焼チャンバー部分を備えている。多孔ノズル36は、この燃焼凹部の上部の中心において、複数の放射状の噴流あるいは噴煙38として燃料を噴射する。ノズル36およびそこから放射される燃料噴煙38の形状は、ボウル34の凹状の旋回構造と噴射燃料流のエネルギーとの組み合わせにより、空気と燃料とが相互作用し、燃料の燃焼が増大化するような最適な空間を形成するように決定される。ボウル34は、先のとがった、あるいはドーム形の中央部を有しており、これは、えぐられた窪み42に向けて傾斜している。この窪み42は、一般に環形状を有しており、その上部の上昇面はリム30に再結合している。リム30と窪み42の上昇面との間の接合部は、一般に、環状リップ44を有している。この環状リップ44については、図3に示すように、窪み42に対して突出させるようにしてもよいし、突出させなくてもよい。
【0015】
平均的なディーゼルエンジンでは、噴射燃料の噴煙38は、上死点に到達する約5°前(BTDC;before top dead center)から出射され、ピストン運動が上死点を経た約10°後(ATDC;after top dead center)まで継続される。このように、噴煙38は、起動は常に一定の起動を保っており、噴煙接触区域として特徴づけられるピストンクラウン26の表面領域を機銃掃射する。その結果、この噴煙接触区域は、シリンダ内でピストンが約5°BTDCから約10°ATDCまで移動する間に燃料噴射噴煙38のターゲットとなる、露出したクラウン表面の部分となる。この部分には、バルブポケット32に加えて、窪み42における上部の上昇表面、リップ44およびリム30が含まれる。この噴煙接触区域は、一般に、ボウル34における全ての露出領域を含むわけではない。噴煙接触領域の近傍では燃料の燃焼によって極めて高温の熱が発生するため、従来技術のピストンでは、ピストンクラウン26におけるスチールの組成が、Fe2O3の状態に酸化してしまう傾向にある。このような変質によって生じる酸化物は、もはや、もともとのスチール材料との一体性をもたなくなり、膨張および収縮プロセスにおいて、破片として早々に除去される。腐食が生じていない場合のエンジンの耐用年数にはまだ全く達していない段階でも、時間の経過により、腐食領域が広がってしまい、ピストン20の燃焼ボウル34に設定された公害対策排気特性は著しく悪化してしまう。構造的な強度についても、時間ととともに大幅に劣化する。図2において十分に示せていると思われるが、これらの腐食領域は、リップ44におけるスプレー噴煙38に対応する領域で最も顕著に現れる。
【0016】
では、図4〜12を参照しながら、本主題発明において改善されたピストン、および、改善されたピストンの製造方法および操作方法について説明する。便宜上、上記した部材に対応する参照番号を、このピストンにおける対応する部材にも使用する。ただし、本主題発明を従来技術と区別するために、番号の前に「1」をつけることにする。
【0017】
本主題発明は、クラウン126を有するピストン120に向けられたものである。このクラウン126は、クラウン126の表面の近傍におけるディーゼルエンジンの燃焼によって発生する極めて高温の熱によりよく対抗できるように、表面の噴煙接触領域に対して改良および修正を施したものである。図4および図5に、ピストンクラウン26の部分的な断面を示す。このピストンクラウン26には、耐腐食性および耐酸化性を有する組成物が噴霧されているか、あるいは、このような組成物による処理が施されている。このような組成物としては、アムドライ995C、インコネル718、ステライト6、ニッケルク
ロム、クロムあるいはこれらの組成物の混合物を挙げられる。耐腐食性を有する組成物については、ペーストのようなスラリーとして塗布することも可能である。しかしながら、この被覆プロセスについては、燃焼タイプあるいは電気アークタイプのいずれかの溶射プロセスによって実行することが好ましい。このようなプロセスは、「金属化」という記述用語によって知られているものである。上記した燃焼タイプの熱スプレープロセスは、粉末式フレーム溶射、溶線式/溶棒式フレーム溶射、爆発溶射、高速酸素式(HVOF;high velocity oxygen fuel)溶射を含むが、これらに限られるわけではない。
【0018】
例えば、HVOF溶射プロセスを用いる場合、予圧チャンバーガン146に対し、アセチレン、水素、プロピレンあるいは同種のものを用いて、高温高圧のフレームを生成する。このフレームは、デラバルノズルを介して、搬送ガスを超音速に加速することを強いられる。原料となる粉末については、高圧燃焼チャンバー146に対して軸方向に供給するようにしてもよい。また、ノズルの側面から直接に粉末を供給するようにしてもよい。原料となる粉末については、上記した材料群から選択することも可能である。なお、耐腐食性および耐酸化性を有する組成物による十分な被覆をピストンクラウン126の傷つきやすい表面に対して形成するための熱スプレープロセスとしては、HVOFに限られるわけではない。しかしながら、そうであっても、HVOFは、使用可能なスプレープロセスの種類のなかでは好ましい例ではある。
【0019】
上記したような伝統的な熱スプレープロセスに加えて、いわゆる「コールドスプレー」方式の熱スプレープロセスを利用することも可能であり、これについても、本発明の意図する範囲に含まれている。コールドスプレー技術によれば、1〜50ミクロンの大きさの微粒子を超音速に加速し、作業部分の表面に付着することになる。ある構成例では、ヘリウムあるいは窒素を予圧チャンバー内に高圧噴射し、300〜700℃まで加熱する。上記した耐腐食性および耐酸化性を有する組成物の1つといった原料となる粉末については、粒子が溶解するほどには高温になっていないガス流に導入することになる。そして、この固体粉末とガスとの混合物は、デラバルノズルを通過する。このノズルでは、粒子が超音速に加速される。粒子は、溶解および/または固化することなく、機械的に結合するために十分な運動エネルギーをもった状態で、基材に衝突するが、金属結合は生じない。
【0020】
図5に、ピストンクラウン126を示す。このピストンクラウン126では、噴煙接触区域が、スプレー材料によって完全に被覆され、スプレーされたままの状態の微細構造および100%詰まった材料密度よりも低いスプレーされたままの状態の気孔率を有する耐久性被覆材を形成している。すなわち、スプレー材料の組成は、クラウン126における問題の表面領域に完全に付着した後に、特徴的な微細構造および最密状態100%よりも小さい材料密度を有するようになる。ボウル134における噴煙接触区域の外側の部分については、耐腐食性・耐酸化性を有する材料によって被覆されていない。ピストンクラウン126を、堅固に改良され長い寿命をもつ本主題発明にかかるピストンクラウン126として完全に変化させるために、次に、高エネルギーレーザービームを、スプレー材料被覆に照射する。これにより、被覆材が、その下層にあるピストンクラウン126のスチール基材とともに溶融する。このようなレーザービームの一例としては、いわゆる高出力ダイレクトダイオードレーザー(HPDL;High−Power Direct Diode Laser)によって生成できるものを挙げられる。レーザービームの影響の下で、2つの材料(被覆材および基材)は、混合して合金化する。これにより、スプレーされたままの状態(図5)よりも被覆材の密度を増やすことができるとともに、被覆材の微細構造を改質することが可能となる。さらに、後続する照射プロセスによって、被覆材とクラウン基材との物質的結合を実現できる。図6に、これらによって改良されたピストンクラウン126を示す。
【0021】
噴煙接触区域を覆うピストンクラウン126の表面形状が複雑であるために、スプレーされたままの状態の被覆材を完全かつ均一に照射するためには、高エネルギーレーザービームの経路・方向を多くする必要がなる。スプレーされたままの状態の被覆材の特定領域に対して意図しない入射角度からレーザービームを照射してしまうこと防ぐために、初回の照射プロセスおよび後続する照射プロセスの双方において、被覆材の特定領域をマスクすることが好ましい。
【0022】
では、次に、図7および図8を参照されたい。第1マスクは、多くの場合に番号148で示されているものである。この第1マスクは、一例として、リム30およびバルブポケット32の領域における被覆材をカバーする一方、窪み142の領域に付着している被覆材については露出させるようになっている。このように、第1マスク148を所定の位置に配置する一方、窪み142における被覆材の付着部分(すなわち噴煙接触領域)に対する高エネルギーレーザー150の照射を制限しないようになっている。図示するように、レーザー150の焦点の下に位置する窪み142の領域は、レーザービームの溶解特性によって改質されたように示されている。これにより、被覆材が合金化し、もともとのスチール材料に対して物質的に結合した状態となる。この実施例では、レーザー150が、そのビームを上向きの上昇経路内で移動させている。これにより、ビームがリップ144に向かって進み、最終的に、窪み142に付着した被覆材の全てが隈なく照射され、ピストンクラウン126と物質的に結合するように改質される。しかしながら、好ましい実施形態では、レーザー150を、焦点においてほぼ12mm×0.5mmとなる矩形のビームを有するタイプのものから選択する。ビームの長軸は、垂直方向において窪み142からリップ144までを含み、この垂直位置で固定される。そして、ビームとピストンとを、周方向について相対的に移動する。これは、例えば、レーザーを固定する一方、ピストンを回転させることによってなされる。これにより、ビームの長軸によって、処理領域を一掃することが可能となる。これによって生じる溶融被覆材により、クラウン126の物理的特性を十分に高められる。その結果、酸化の問題を解決できるとともに、例えば「SAE4140H」のような標準的なピストン用のスチール材料を継続的に使用することが可能となる。以上のように、本主題発明は、リムおよびボウルの酸化に関する上記の問題を解決するために、他の従来技術が提案するものよりも低コストの解決策を提示するものである。
【0023】
レーザー150がボウル134内においてその付着領域を横切るように、ピストン120を回転させるようにしてもよいし、および/または、レーザー150を回転させるようにしてもよい。これにより、被覆表面領域における環状領域の全体を適切に照射できる。レーザー150の焦点が窪み142の上部にまで延びてしまった場合には、レーザー150は第1マスク148に接触し、害を及ぼすことなくピストンクラウン126から離れる方向に反射する。これは、第1マスク148が、例えば研磨された銅などの、反射性および熱伝動性を有する金属材料から形成されているからである。
【0024】
いったん窪み142の領域を適切に照射したら、次に、リム130に注目することが可能となる。このリム130も、スプレー材料によって被覆されている。しかしながら、バルブポケット132は、リム130の表面よりも下方に落ち込んでいる。したがって、リム130に加えて、バルブポケット132の領域における被覆材についても効果的に照射できるようには、レーザー150の焦点を最適化することはできないかもしれない。これを解決するために、図9に示すように、第2マスク152を使用するようにしてもよい。この第2マスク152については、例えば研磨された銅などの、反射性を有する金属シールドのような材料から構成することが可能であり、バルブポケット132を覆うような構造にしてもよい。これにより、スプレー被覆されたピストンクラウン126の唯一の露出部分は、リム表面130となる。第2マスク152によって意図していない領域を効果的に隠すとともに、図10に示すようにリム130の被覆表面を照射できるように、レーザ
ー150の位置を変えてもよい。さらに、リム130の表面の全体を効果的に覆うことができるように、ピストン120および/またはレーザー150を回転させるようにしてもよい。レーザー150からのビームが第2マスク152を叩いたときにはいつでも、図10に示すように、ビームはクラウン126から離れる方向にむけて害を及ぼすことなく反射される。そして、吸収された熱は、常にすぐに分散される。この方法によれば、バルブポケット132を、理想的な状態に設定されていないレーザー150による照射から保護することが可能となる。第2マスク152は、また、バルブポケット132の片隅、およびバルブポケット132の端部に沿う部分を余分に溶融してしまうことの回避にも役立つ。さらに、窪み部分142をレーザー150による後続する攻撃から保護することも可能となる。このような保護がなければ、既に照射した表面における意図しない金属的構造変異の生じる可能性もある。
【0025】
ピストンクラウン126上にあるスプレーされたままの状態の被覆に対する完全な照射を完遂するためには、第2マスク152を除去した後、ピストンクラウン126の上部を第3マスク154によって覆うことになる。図11に示すように、第3マスク154は、既に照射を受けたリム部分130を覆うように、また、バルブポケット132の領域を開けたままにしておくように設計されている。例えば、レーザー150の配置を再設定し、図12に示すように、その焦点をバルブポケット132の深さにあわせるようにしてもよい。照射プロセスについては、従前と同じように、ピストンクラウン126とレーザー150との間の相対運動を伴って実行するようにしてもよい。このような相対運動については、回転あるいは2つの部材間における相対運動を導く他の動作によって実現できる。レーザー150のビーム経路がバルブポケット132から外れてリム130の領域に向いたときにも、第3マスク154は、害を及ぼすことなく、リム表面130から離れる方向に光エネルギーを反射する。これにより、既に改質された表面を、高エネルギーレーザービーム150との余分な望まない相互作用から保護することが可能となる。第3マスク154は、さらに、バルブポケット132の片隅、およびバルブポケット132の端部に沿う部分を余分に溶融してしまうことの回避にも役立つ。
【0026】
本主題発明の照射工程については、多くの異なるタイプのレーザーによって効果的に実現できるけれども、高出力ダイレクトダイオードレーザーを用いるなら、満足のいく結果を得られることがわかっている。
【0027】
当然のことながら、上記の構成に代えて、第1マスク148、第2マスク152および第3マスク154を順々に配置することも可能である。さらに、ここで説明したように被覆材を効果的に改質するために、照射工程において要求するマスクの数を、3つより少なく、あるいは3つより多くしてもよい。さらに、上記では、非常に限定的な被覆材の使用を提示したけれども、適切な材料はこれらだけではない。それどころか、工業用層を用いた溶融工程での使用に適した被覆材であれば、どのようなものを採用してもよい。例えば、ガスタービンの分野から学べることかもしれないが、高温酸化に対抗するための、一般的かつ特許で守られているさまざまな粉末が知られているだろう。そのような既知の材料のいずれについても、ひび割れ、腐食あるいは熱酸化を伴うことなく噴煙接触区域の外形に合致する溶融被覆材を提供するために使用することが可能である。本発明にかかる溶融ピストンクラウン表面における他の利点は、必要に応じて、機械処理の後に関する性能を得られること、すなわち、スプレーされた被覆材が少しずつ崩れたり剥がれ落ちたりすることのない照射表面を得られることにある。主題となっているこの方法については、サイクルタイムの速い生産設定を高めた状態において実行することが可能である。また、この方法については、再現性を有しており、非常に緻密なコンピュータ制御によって管理しやすいということを実証することが可能である。このプロセスは、インライン製造プロセスに対する順応性の高いものである。
【0028】
いうまでもなく、既に教授した点を踏まえて、本発明を多様に変形および変更することが可能である。したがって、添付した請求項の範囲内において、明確に記載したものとは異なる形態で本発明を実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、従来技術に関するディーゼルエンジン用のスチールピストンを示す斜視図である。
【図2】図2は、図1に示した従来技術のピストンの上面図であって、中央に配置された多孔燃料噴射ノズルを、放射状に延びる複数の燃料噴射スプレーともに示す図である。
【図3】図3は、図2に示した線3−3にほぼ沿った部分的な断面図である。
【図4】図4は、本主題発明にかかるスチール製のディーゼルエンジンピストンの部分的な断面を示す図であって、ピストンクラウンにおける非常に傷つきやすい部分に向けて、耐腐食性および耐酸化性を有する組成物からなるスプレー材料を強制的に導くプロセスを示す図である。
【図5】図5は、図4に示したものと同様の断面図であって、ピストンクラウンにおける被覆材によって被覆されている傷つきやすい領域の全てを示す図である。
【図6】図6は、図5に示したものと同様のピストンクラウンの部分的な断面図であって、被覆材の密度を増加させると同時に、その微細構造を改質し、さらに、ピストンクラウンにおける傷つきやすい領域と被覆材との物質的結合を形成するために、高エネルギーレーザービームを照射した表面を示す図である。
【図7】図7は、本主題発明にかかるピストンの斜視図であり、被覆された表面の特定部分に対する望まない照射を防止するための、ピストンクラウンのリム部を覆う第1の環状マスクを含むピストンを示す図である。
【図8】図8は、図7に示した線8−8にほぼ沿った部分的な断面図であり、第1マスクによって覆われたピストンクラウンのボウル領域における被覆材を照射する、高エネルギーレーザービームを示す図である。
【図9】図9は、ピストンクラウンにおける平坦なリム部の上部だけを露出するようにボウル領域およびバルブポケットを覆う第2マスクを含むピストンの斜視図である。
【図10】図10は、図9に示した線10−10にほぼ沿った部分的な断面図であり、リム部の被覆材を照射するプロセスにおいてバルブポケットを照射しないように、第2マスクによって反射したレーザービームを示す図である。
【図11】図11は、ピストンの斜視図であり、バルブポケットの領域の被覆材を高エネルギーレーザービームによって照射できるように、ピストンクラウンの上部を覆いながらバルブポケットだけを露出させる第3マスクを示す図である。
【図12】図12は、図11に示した線12−12にほぼ沿った部分的な断面図であり、ピストンにおけるクラウンの表面調整を完遂するために、バルブポケットの領域における被覆材を照射する高エネルギーレーザービームを示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃エンジンに使用されるピストンクラウンの耐腐食性を改善するための方法であって、
クラウンの外表面を露出させているクラウンを有するピストンを用意する工程と、
基本的に耐腐食性および耐酸化性を有する組成物からなる被覆材を準備する工程と、
クラウン表面に吸着した被覆材が、付着されたままの状態の微細構造および100%詰まった材料密度よりも低い付着されたままの状態の気孔率を有するように、被覆材をピストンクラウンに付着する工程と、
被覆材の密度を増加させるとともに、微細構造を改質し、被覆材とクラウン表面との間における物質的結合を形成するために、高エネルギーレーザービームによって被覆材を照射する工程と、を含んでいる前記方法。
【請求項2】
レーザービームからの照射を防ぐために、被覆材の一部をマスクする工程をさらに含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記したマスク工程が、反射性を有する金属シールドを用いてクラウンの一部を一時的に覆う工程を含んでいる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ピストンクラウンが、ほぼ環状のリムと、このリムの下方に配された凹型の燃焼ボウルとを有しており、前記したクラウンの一部を一時的に覆う工程が、リムおよびボウルの一方を覆うけれども、リムおよびボウルの他方を覆わない工程を含んでいる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ピストンクラウンが、リム内に形成された少なくとも1つのバルブポケットを有しており、前記したクラウンの一部を一時的に覆う工程が、リムおよびバルブポケットの一方を覆うけれども、リムおよびバルブポケットの他方を覆わない工程を含んでいる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記した被覆材を付着する工程が、スプレー材料を、ピストンクラウンに向けて、燃焼プロセスによって発生する気体流内に強制的に導く工程を含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記したスプレー材料を気体流内に配する工程が、加速ノズルを介して気体流を強制的に送る工程を含んでいる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記したスプレー材料を強制的に導く工程が、直流の電気アークを生成する工程を含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記した直流の電気アークを生成する工程が、高温のプラズマジェットを生成するために、不活性ガスをイオン化する工程を含んでいる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記した被覆材を照射する工程が、高出力ダイレクトダイオードレーザーを用いる工程を含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記したスプレー材料を強制的に導く工程が、クラウンの外表面の全てよりも少ない領域にスプレー材料を付着する工程を含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記したピストンを用意する工程が、スチール合金を含む組成の材料からピストンを形成する工程を含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
クラウンの外表面が噴煙接触区域を有しており、この噴煙接触区域が、シリンダ内でピストンが約5°BTDCから約10°ATDCまで移動する間に燃料噴射噴煙の後続のターゲットとなるクラウンの外表面の一部を含んでおり、前記したスプレー材料を強制的に導く工程が、クラウンの外表面の全体ではなく、クラウンの外表面における噴煙接触区域を被覆する工程を含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
燃料噴射方式のディーゼルエンジンにおけるスチールピストンを操作する方法であって、
シリンダヘッドを有するエンジンシリンダを用意する工程と、
ほぼ環状のリム、および、このリムの下方に配された凹型のボウルを含み、リムとボウルとの接合部がほぼ環状のリップを形成しているようなクラウンを有するピストンを用意する工程と、
シリンダ内で、シリンダヘッドに向かう方向とシリンダヘッドから離れる方向との間でピストンを往復運動させる工程と、
液体燃料を、シリンダ内に、および、ピストンクラウンのリップに向けて強制的に放出する工程と、
ピストンクラウンのリップの近傍において燃料を燃焼する工程と、を含んでおり、
前記したピストンを用意する工程が、
付着されたままの状態の微細構造および100%詰まった材料密度よりも低い付着されたままの状態の気孔率を有するように、基本的に耐腐食性および耐酸化性を有する組成物からなる被覆材をリップに付着することによって、ピストンクラウンのリップにおける表面の組成を変える工程と、
被覆材の密度を増加させるとともに、微細構造を改質し、被覆材とリップとの間における物質的結合を形成するために、高エネルギーレーザービームによって被覆材を照射する工程と、を含んでいる方法。
【請求項15】
前記したピストンを用意する工程が、基本的に耐腐食性および耐酸化性を有する組成物からなるスプレー材料の粒子がリムに衝突したときに塑性的に変形するように、スプレー材料を強制的にリムに導き、これによってピストンクラウンのリムの表面組成を変える工程と、リムに吸着したスプレー材料が、スプレーされたままの状態の微細構造および100%詰まった材料密度よりも低いスプレーされたままの状態の気孔率を有する耐久性被覆材であり、被覆材の密度を増加させるとともに、微細構造を改質し、被覆材とリムとの間における物質的結合を形成するために、高エネルギーレーザービームによって被覆材を照射する工程とをさらに含んでいる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記したピストンを用意する工程が、基本的に耐腐食性および耐酸化性を有する組成物からなるスプレー材料の粒子がボウルに衝突したときに塑性的に変形するように、スプレー材料を強制的にボウルに導き、これによってピストンクラウンにおけるボウルの少なくとも一部の表面組成を変える工程と、リムに吸着したスプレー材料が、スプレーされたままの状態の微細構造および100%詰まった材料密度よりも低いスプレーされたままの状態の気孔率を有する耐久性被覆材であり、被覆材の密度を増加させるとともに、微細構造を改質し、被覆材とボウルとの間における物質的結合を形成するために、高エネルギーレーザービームによって被覆材を照射する工程とをさらに含んでいる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
燃料噴射方式のディーゼルエンジンのためのピストンであって、
ほぼ円柱型のスカートであって、その内部に横向きに設けられた一対の対向するピン孔を有するスカートと、
前記スカートの最上部に設けられ、ほぼ環状のリム、前記リムの下方に設けられた凹型
のボウル、および、前記リムと前記ボウルとの接合部に沿うほぼ環状のリップを有するクラウンとを備え、
前記リップが、耐腐食性および耐酸化性を有し高エネルギーレーザービームの照射を受けた組成物を付着することを基本とする接合面処理を施されている、ピストン。
【請求項18】
前記ピストンクラウンが、基本的にスチールからなる組成の原材料から形成されている、請求項17に記載のピストン。
【請求項19】
前記リムが、耐腐食性および耐酸化性を有し高エネルギーレーザービームの照射を受けた組成物をスプレーすることを基本とする接合面処理を施されている、請求項17に記載のピストン。
【請求項20】
前記ボウルの少なくとも一部が、耐腐食性および耐酸化性を有し高エネルギーレーザービームの照射を受けた組成物をスプレーすることを基本とする接合面処理を施されている、請求項19に記載のピストン。
【請求項21】
前記接合面処理においてスプレーされる耐腐食性および耐酸化性を有する前記組成物が、アムドライ995C、インコネル718、ステライト6、ニッケルクロム、クロムおよびこれらの合金からなるグループから選択されるものである、請求項17に記載のピストン。
【請求項1】
内燃エンジンに使用されるピストンクラウンの耐腐食性を改善するための方法であって、
クラウンの外表面を露出させているクラウンを有するピストンを用意する工程と、
基本的に耐腐食性および耐酸化性を有する組成物からなる被覆材を準備する工程と、
クラウン表面に吸着した被覆材が、付着されたままの状態の微細構造および100%詰まった材料密度よりも低い付着されたままの状態の気孔率を有するように、被覆材をピストンクラウンに付着する工程と、
被覆材の密度を増加させるとともに、微細構造を改質し、被覆材とクラウン表面との間における物質的結合を形成するために、高エネルギーレーザービームによって被覆材を照射する工程と、を含んでいる前記方法。
【請求項2】
レーザービームからの照射を防ぐために、被覆材の一部をマスクする工程をさらに含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記したマスク工程が、反射性を有する金属シールドを用いてクラウンの一部を一時的に覆う工程を含んでいる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ピストンクラウンが、ほぼ環状のリムと、このリムの下方に配された凹型の燃焼ボウルとを有しており、前記したクラウンの一部を一時的に覆う工程が、リムおよびボウルの一方を覆うけれども、リムおよびボウルの他方を覆わない工程を含んでいる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ピストンクラウンが、リム内に形成された少なくとも1つのバルブポケットを有しており、前記したクラウンの一部を一時的に覆う工程が、リムおよびバルブポケットの一方を覆うけれども、リムおよびバルブポケットの他方を覆わない工程を含んでいる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記した被覆材を付着する工程が、スプレー材料を、ピストンクラウンに向けて、燃焼プロセスによって発生する気体流内に強制的に導く工程を含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記したスプレー材料を気体流内に配する工程が、加速ノズルを介して気体流を強制的に送る工程を含んでいる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記したスプレー材料を強制的に導く工程が、直流の電気アークを生成する工程を含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記した直流の電気アークを生成する工程が、高温のプラズマジェットを生成するために、不活性ガスをイオン化する工程を含んでいる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記した被覆材を照射する工程が、高出力ダイレクトダイオードレーザーを用いる工程を含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記したスプレー材料を強制的に導く工程が、クラウンの外表面の全てよりも少ない領域にスプレー材料を付着する工程を含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記したピストンを用意する工程が、スチール合金を含む組成の材料からピストンを形成する工程を含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
クラウンの外表面が噴煙接触区域を有しており、この噴煙接触区域が、シリンダ内でピストンが約5°BTDCから約10°ATDCまで移動する間に燃料噴射噴煙の後続のターゲットとなるクラウンの外表面の一部を含んでおり、前記したスプレー材料を強制的に導く工程が、クラウンの外表面の全体ではなく、クラウンの外表面における噴煙接触区域を被覆する工程を含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
燃料噴射方式のディーゼルエンジンにおけるスチールピストンを操作する方法であって、
シリンダヘッドを有するエンジンシリンダを用意する工程と、
ほぼ環状のリム、および、このリムの下方に配された凹型のボウルを含み、リムとボウルとの接合部がほぼ環状のリップを形成しているようなクラウンを有するピストンを用意する工程と、
シリンダ内で、シリンダヘッドに向かう方向とシリンダヘッドから離れる方向との間でピストンを往復運動させる工程と、
液体燃料を、シリンダ内に、および、ピストンクラウンのリップに向けて強制的に放出する工程と、
ピストンクラウンのリップの近傍において燃料を燃焼する工程と、を含んでおり、
前記したピストンを用意する工程が、
付着されたままの状態の微細構造および100%詰まった材料密度よりも低い付着されたままの状態の気孔率を有するように、基本的に耐腐食性および耐酸化性を有する組成物からなる被覆材をリップに付着することによって、ピストンクラウンのリップにおける表面の組成を変える工程と、
被覆材の密度を増加させるとともに、微細構造を改質し、被覆材とリップとの間における物質的結合を形成するために、高エネルギーレーザービームによって被覆材を照射する工程と、を含んでいる方法。
【請求項15】
前記したピストンを用意する工程が、基本的に耐腐食性および耐酸化性を有する組成物からなるスプレー材料の粒子がリムに衝突したときに塑性的に変形するように、スプレー材料を強制的にリムに導き、これによってピストンクラウンのリムの表面組成を変える工程と、リムに吸着したスプレー材料が、スプレーされたままの状態の微細構造および100%詰まった材料密度よりも低いスプレーされたままの状態の気孔率を有する耐久性被覆材であり、被覆材の密度を増加させるとともに、微細構造を改質し、被覆材とリムとの間における物質的結合を形成するために、高エネルギーレーザービームによって被覆材を照射する工程とをさらに含んでいる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記したピストンを用意する工程が、基本的に耐腐食性および耐酸化性を有する組成物からなるスプレー材料の粒子がボウルに衝突したときに塑性的に変形するように、スプレー材料を強制的にボウルに導き、これによってピストンクラウンにおけるボウルの少なくとも一部の表面組成を変える工程と、リムに吸着したスプレー材料が、スプレーされたままの状態の微細構造および100%詰まった材料密度よりも低いスプレーされたままの状態の気孔率を有する耐久性被覆材であり、被覆材の密度を増加させるとともに、微細構造を改質し、被覆材とボウルとの間における物質的結合を形成するために、高エネルギーレーザービームによって被覆材を照射する工程とをさらに含んでいる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
燃料噴射方式のディーゼルエンジンのためのピストンであって、
ほぼ円柱型のスカートであって、その内部に横向きに設けられた一対の対向するピン孔を有するスカートと、
前記スカートの最上部に設けられ、ほぼ環状のリム、前記リムの下方に設けられた凹型
のボウル、および、前記リムと前記ボウルとの接合部に沿うほぼ環状のリップを有するクラウンとを備え、
前記リップが、耐腐食性および耐酸化性を有し高エネルギーレーザービームの照射を受けた組成物を付着することを基本とする接合面処理を施されている、ピストン。
【請求項18】
前記ピストンクラウンが、基本的にスチールからなる組成の原材料から形成されている、請求項17に記載のピストン。
【請求項19】
前記リムが、耐腐食性および耐酸化性を有し高エネルギーレーザービームの照射を受けた組成物をスプレーすることを基本とする接合面処理を施されている、請求項17に記載のピストン。
【請求項20】
前記ボウルの少なくとも一部が、耐腐食性および耐酸化性を有し高エネルギーレーザービームの照射を受けた組成物をスプレーすることを基本とする接合面処理を施されている、請求項19に記載のピストン。
【請求項21】
前記接合面処理においてスプレーされる耐腐食性および耐酸化性を有する前記組成物が、アムドライ995C、インコネル718、ステライト6、ニッケルクロム、クロムおよびこれらの合金からなるグループから選択されるものである、請求項17に記載のピストン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2009−536712(P2009−536712A)
【公表日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−510169(P2009−510169)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際出願番号】PCT/US2007/068633
【国際公開番号】WO2007/134148
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(599058372)フェデラル−モーグル コーポレイション (234)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際出願番号】PCT/US2007/068633
【国際公開番号】WO2007/134148
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(599058372)フェデラル−モーグル コーポレイション (234)
【Fターム(参考)】
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