説明

ステアリングロック装置

【課題】ハウジングを破壊または分解することによる不正解錠を防止する。
【解決手段】ハウジング10外に露出する操作部を有するロータ24と、回転阻止部47を設けたカム部材37と、ステアリングシャフトの回転を防止するロック位置からアンロック位置にかけて移動可能なロックボルト48と、ロータ24に設けた係合受部27に係脱可能に係合する係合部材59と、係合部材59を係合受部27に係合した係合位置から非係合位置にかけて移動させるアクチュエータ66と、カム部材37の回転阻止部47に係合してカム部材37の回転を阻止する阻止位置から非阻止位置にかけて移動可能な阻止部材73とを備え、アクチュエータ66に、ハウジング10への装着状態で阻止部材73に係合し、阻止部材73を非阻止位置に保持する保持部72を設けた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、盗難防止を目的として自動車等のステアリングをロックするためのステアリングロック装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のステアリングロック装置は、自動車のステアリング操作に伴って回転するステアリングシャフトに配設される。そして、運転者が機械構造的なメカキーをキー穴に挿入し、エンジンを始動させるために、LOCK位置からSTART位置へ回転させると、進退可能なロックボルトが後退して、該ロックボルトによるステアリングシャフトに対するロックが解除される。逆に、エンジンを停止させるために、メカキーをON位置からLOCK位置へ回転させると、ロックボルトが進出して、ステアリングシャフトに対して係合して、ロックされるようになっている。
【0003】
近年では、構造的なメカキーを使用することなく、ドアの開閉やエンジンの始動を可能とするキーレスエントリーシステムが普及されている。そして、このようなキーレスエントリーシステムの搭載車に適用するステアリングロック装置は、正規電子キーの認証状態ではメカキーに代わる操作部を回転操作可能とし、非認証状態では操作部を回転不可能に維持する必要がある。
【0004】
このようなキーレスエントリーシステムの搭載車に適用するステアリングロック装置に関連する先行技術文献情報としては次のものがある。
【0005】
【特許文献1】特開平05−105031号公報
【0006】
この特許文献では、操作部の操作により回転するシリンダに、係脱可能に係止する係止部材を配設し、この係止部材をハウジングの外部に配設したソレノイドにより移動可能に構成している。そして、電子キーの認証状態では、ソレノイドを介して係止部材によるシリンダの係止を解除し、操作部の操作によりシリンダを回転可能とする。一方、電子キーの非認証状態では、ソレノイドを介して係止部材によってシリンダを係止し、操作部によるシリンダの回転を不可能とする。
【0007】
しかしながら、この特許文献のステアリングロック装置では、ハウジングを破壊(分解)することによりソレノイドが取り外されると、露出した係止部材を簡単に操作することができる。そして、係止部材の操作によりシリンダのロックを解除すると、操作部を操作することにより簡単にロックボルトによるロックを解除できるとともに、エンジンを始動することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来の問題に鑑みてなされたもので、ハウジングを破壊または分解することによる不正解錠を確実に防止できるステアリングロック装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明のステアリングロック装置は、ハウジング内に回転可能に収納され、該ハウジング外に露出する操作部を有するロータと、前記ロータと一体的に回転し、回転阻止部を設けたカム部材と、前記カム部材の回転に連動し、ステアリングシャフトに係合して該ステアリングシャフトの回転を防止するロック位置から、前記ステアリングシャフトとの係合が解除されて該ステアリングシャフトの回転を可能とするアンロック位置にかけて移動可能なロックボルトと、前記ロータに設けた係合受部に係脱可能に係合し、係合状態で該ロータの回転を阻止する係合部材と、前記係合部材を、前記ロータの係合受部に係合した係合位置から、前記ロータとの係合が解除された非係合位置にかけて移動させるアクチュエータと、前記カム部材に向けて付勢手段によって付勢され、前記カム部材の回転阻止部に係合して該カム部材の回転を阻止する阻止位置から、前記回転阻止部との係合が解除された非阻止位置にかけて移動可能な阻止部材とを備え、前記アクチュエータに、前記ハウジングへの装着状態で前記阻止部材に係合し、該阻止部材を非阻止位置に保持する保持部を設けた構成としている。
【0010】
このステアリングロック装置によれば、ハウジングの外部に位置するアクチュエータが破壊または分解により取り外されると、保持部と阻止部材との係合が解除される。これにより、阻止部材が付勢手段の付勢力によりカム部材の側に付勢され、回転阻止部に係合する阻止位置に移動する。その結果、カム部材をアンロック方向へ操作することができなくなるため、ステアリングロック装置を不正に解錠することを防止できる。
【0011】
具体的には、前記ハウジングは、前記ロータを回転可能に配設するロック部材配設部と、該ロック部材配設部に連通する連通孔を有し前記アクチュエータおよび係合部材を配設するアクチュエータ配設部とを備え、前記係合部材を、前記連通孔を通してロック部材配設部内に突出させ、前記ロータの係合受部に係合させる構成としている。
【0012】
このステアリングロック装置では、前記阻止部材は、阻止位置に進出することにより前記連通孔を閉塞するもので、その進出方向先端に、係合位置の前記係合部材との干渉を防止する切欠部を設けることが好ましい。このようにすれば、係合部材の可動範囲を確保できるため、これらの係合代を十分に広くすることができる。その結果、係合強度を向上することができるため、操作部に大きな回転力を負荷することによる不正解錠を確実に防止できる。
【0013】
また、前記保持部を、前記連通孔を通してロック部材配設部内に突出させ、前記阻止部材に係合させることが好ましい。このようにすれば、阻止部材がカム部材の阻止位置に移動すると、該阻止部材によって係合部材を貫通させるための連通孔を、閉塞することができる。そのため、簡単な構成で確実に不正解錠が不可能なステアリングロック装置を構成できる。
【0014】
さらに、前記ハウジングのロック部材配設部に、前記ロータを回転可能に収容するホルダを配設し、該ホルダの外周部に前記阻止部材を付勢手段によって移動可能に配設することが好ましい。このようにすれば、阻止部材を簡単かつ確実に配設することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のステアリングロック装置では、ハウジングが破壊または分解されることによりアクチュエータが取り外されても、阻止部材がカム部材を操作できない阻止位置に移動するため、確実に不正解錠を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に従って説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係るステアリングロック装置(以下「ロック装置」と略する。)を示す。このロック装置は、キーレスエントリーシステムを搭載する自動車に用いるもので、大略、ハウジング10の内部に、シリンダ錠20と、カム部材37と、ロックボルト48とを配設するとともに、イグニッションスイッチ53に対してシリンダ錠20の回転を伝える連動部材55を配設し、更に、電子キーの認証状態に基づいてシリンダ錠20の操作可否を変更する認証ロック機構を配設したものである。
【0018】
前記ハウジング10は、図2に示すように、水平方向に延びるロック部材配設部11と、垂直方向に延びるスイッチ部材配設部12とを備えたL字形状をなす中空状のものである。これら配設部11,12の交差部には、水平方向に延びる突板部13が設けられている。この突板部13には、スイッチ部材配設部12の軸心に位置するように軸受部14が設けられている。また、突板部13とスイッチ部材配設部12の内周面との間には、後述するカム部材37と連動部材55とを連結するための連結空間部15が設けられている。そして、このハウジング10の角部には、ロック部材配設部11の延び方向に沿って貫通し、ロックボルト48を進退可能に挿通する挿通孔16が設けられている。なお、この挿通孔16を形成したハウジング10の角部は、装着する自動車のステアリングシャフト(図示せず)の傾斜角度に従って傾斜されている。
【0019】
そして、本実施形態のハウジング10には、配設部11,12が交差する内隅部にアクチュエータ配設部17が更に設けられている。このアクチュエータ配設部17には、後述するシリンダ錠20とカム部材37との間に位置し、前記ロック部材配設部11内に連通するように連通孔18が設けられている。この連通孔18は、シリンダ錠20を構成するロータ24の挿入端近傍からスイッチ部材配設部12の外周壁近傍にかけて延びるように設けられている。また、このアクチュエータ配設部17は、別体のアクチュエータカバー19により、内部に配設したアクチュエータ66を位置決めして閉塞するように構成されている。
【0020】
前記シリンダ錠20は、図1および図3に示すように、ロック部材配設部11の一端に装着する筒状のホルダ21と、該ホルダ21の内部に回転可能に配設するロータ24と、該ロータ24の内部に回転可能に配設するシリンダ30と、該シリンダ30の内部に配設する複数のタンブラ36とを備えている。
【0021】
前記ホルダ21は、ハウジング10のロック部材配設部11の開口端に回転不可能な状態で装着される略円筒形状のもので、その内部にロータ24を回転可能に配設するものである。このホルダ21には、装着状態で上側頂部に位置するように阻止部材配設部22が設けられている。この阻止部材配設部22は、ホルダ21の装着方向先端から軸方向に沿って後向きに延び、径方向に向けて凹状に窪むように設けられたもので、その先端には、内部空間にかけて貫通する係合部材挿通部23が設けられている。
【0022】
前記ロータ24は、前記ホルダ21の内部に軸心を中心として回転可能に配設されることにより、該ホルダ21を介してハウジング10内に回転可能に収納されるものである。このロータ24の内周面には、シリンダ30から径方向外向きに突出するタンブラ36を挿入係止する係止溝25が設けられている。このロータ24は、ホルダ21においてハウジング10の外部に位置する側の端面から係合部材挿通部23の装着方向後端までの寸法と略同一の筒状をなし、その先端面には略半円筒状をなし、装着状態でカム部材37にかけて延びる閉塞部26が軸方向に沿って突設されている。また、ロータ24の先端には、閉塞部26上に位置するとともに、装着状態かつ非操作(LOCK)状態で頂部近傍に位置するように、後述する係合部材59を係脱可能に係合する係合受部27が設けられている。この係合受部27は、閉塞部26からロータ24の本体外径と略同一径となるように突出する凸部28を設け、該凸部28の装着方向先端から後側に向けて切り欠いた凹状の溝からなる。この凸部28において、ON位置からLOCK位置へ操作した際の回転方向先方に位置する側部には、係合位置の係合部材59を非係合位置に移動させるカム面29が設けられている。
【0023】
前記シリンダ30は、その回転軸に沿って延びるキー穴と、回転軸に対して直交方向に延びるように並設した複数のタンブラ挿通孔とを備えたものである。このシリンダ30は、装着状態でハウジング10から外部に突出する寸法で形成され、その外部への露出部分に別体の操作部材31が配設されている。即ち、本実施形態では、該シリンダ30を介してロータ24に操作部を構成する操作部材31を設けている。この操作部材31には、キー穴に連通するキー差込孔32が設けられている。また、シリンダ30には、この操作部材31とは逆側の端部にカム装着部33が突設されている。さらに、シリンダ30には、操作部材31の近傍に位置するように外向きに突出するフランジ部34が設けられ、該フランジ部34を覆うように別体のカバー35を挿着することにより、ハウジング10に対して回転可能かつ脱落不可能に装着される。なお、このカバー35には、LOCK位置、ACC位置、ON位置およびSTART位置の順番で時計回りの所定位置に表記が刻設されている。
【0024】
前記タンブラ36は、図示しないスプリングと一緒にタンブラ挿通孔内に配設され、その中央に機械的構造体からなるメカキーを貫通させる貫通孔(図示せず)を設けたものである。そして、メカキーをシリンダ30のキー穴に差し込むと、キー山がタンブラ36の貫通孔の縁を押圧し、各タンブラ36をスプリングの付勢力に抗してシリンダ30内に後退することにより、ロータ24の係止溝25との係止が解除される。その結果、シリンダ30がロータ24に対して内部で回転可能な状態をなし、メカキーを回転操作することによりLOCK位置からSTART位置の範囲で回転させることができる。
【0025】
前記カム部材37は、シリンダ30のカム装着部33に装着されることにより、該シリンダ30およびシリンダ30を介して前記ロータ24と一体的にLOCK位置からSTART位置の範囲で回転されるものである。このカム部材37は、大略、装着部38と、カム部43と、連動用作動部45とを備えている。
【0026】
前記装着部38は、カム装着部33に外嵌することによりシリンダ30に対して回転不可能な状態に装着するもので、シリンダ錠20の側に位置する外周部38aには、ロータ24の閉塞部26が位置される。この装着部38には、シリンダ30のカム装着部33を差し込んで位置決めするとともに、該カム装着部33との間に配設するカム付勢スプリング39を位置決めする装着孔40が設けられている。また、この装着部38においてシリンダ錠20とは逆側は閉塞され、その部分にロックボルト付勢スプリング41を位置決めする位置決め部42が設けられている。
【0027】
前記カム部43は、ハウジング10への装着状態で、ロック部材配設部11の下部に位置するように設けられたものである。このカム部43は、カム部材37の回転軸方向に沿ってロックボルト48の進出方向と逆側に位置する端面、即ち、シリンダ錠20の側に位置する端面に、進出状態のロックボルト48をスライダ50を介して後退させるカム面44が設けられている。このカム面44は、LOCK位置からACC位置間でロックボルト48を後退させ、ACC位置からSTART位置間で、後退させたロックボルト48の位置を維持するように構成されている。
【0028】
前記連動用作動部45は、ハウジング10への装着状態で、突板部13の先端の連結空間部15に位置するように、カム部43に対して径方向の反対側に位置するように設けられたものである。この連動用作動部45には、その先端面外周縁にカサ歯車部46が設けられている。そして、本実施形態では、この連動用作動部45において、ロータ24と対向する面に、該ロータ24に向けて軸方向に沿って突出する回転阻止部47が設けられている。ここで、このカム部材37は、図3および図7に示すように、アンロック時には時計回りに回転し、ロック時には反時計回りに回転するものである。そして、前記回転阻止部47は、連動用作動部45において、頂部からロック回転側に偏った位置に設けられ、後述する阻止部材73の側面に当接するように構成されている。
【0029】
図1に示すように、前記ロックボルト48は、カム部材37の軸方向に沿って移動可能に配設されるもので、ハウジング10の挿通孔16に進退可能に装着されている。そして、本実施形態では、このロックボルト48の後端部に略L字形状に突出するスライダ連結部49を設け、このスライダ連結部49に、カム部材37の回転に連動させるための別体のスライダ50を配設する構成としている。
【0030】
前記スライダ50は、ロック部材配設部11の内周面において、カム部材37の回転軸方向に沿ってスライド可能に装着されるものである。このスライダ50の前端部には、ロックボルト48のスライダ連結部49に連結される屈曲した連結部51が設けられている。また、スライダ50の後端部には、カム部43のカム面44に摺接するように、カム部43の回転軸に向けて屈曲した摺動部52が設けられている。この摺動部52とカム面44との摺動により、該スライダ50を介して前記ロックボルト48をカム部材37の回転に連動させ、ステアリングシャフトに係合して該ステアリングシャフトの回転を防止するロック位置から、前記ステアリングシャフトとの係合が解除されて該ステアリングシャフトの回転を可能とするアンロック位置にかけて移動するように構成されている。
【0031】
前記イグニッションスイッチ53は、ハウジング10においてスイッチ部材配設部12の開口端に、イグニッションリッド54を介して配設されている。このイグニッションスイッチ53は、シリンダ30およびロータ24を介したシリンダ30の回転位置を、カム部材37および連動部材55を介して検出することにより、検出(回転)位置に従ってLOCK位置ではエンジンおよび全ての機器を停止し、ACC位置ではエンジンを停止するとともにオーディオなどの一部の負荷部品のみを動作させ、ON位置では全ての負荷部品を動作可能とするとともにエンジンが駆動している場合にはその駆動状態を維持させ、START位置ではエンジンを始動させるように電気回路を切り換えるものである。このイグニッションスイッチ53の内部には、付勢手段であるリターンスプリング(図示せず)が配設され、このリターンスプリングの付勢力によって連動部材55、カム部材37、シリンダ30およびロータ24をSTART位置からON位置に復帰させる。
【0032】
前記連動部材55は、カム部材37の回転に連動して回転させることにより、シリンダ30およびロータ24の回転位置をイグニッションスイッチ53に伝達するものである。また、イグニッションスイッチ53のリターンスプリングによる復帰させる付勢力をカム部材37を介してシリンダ30およびロータ24に伝達するものである。具体的には、この連動部材55は、その上端にイグニッションリッド54を貫通してイグニッションスイッチ53に連結される連結軸56が設けられている。また、この連動部材55の下端には、ハウジング10の軸受部14に回転可能に支持される軸部57が突設されている。この軸部57の上側には、円板状をなすように径方向外向きに突出し、連結空間部15に位置してカム部材37のカサ歯車部46に噛み合う同様のカサ歯車部58が設けられている。
【0033】
前記認証ロック機構は、メカキーの代わりにICタグを内蔵した電子キーを携帯することにより、認証状態ではメカキーを使用することなく操作部材31を操作可能とし、非認証状態では操作部材31を操作不可能とするものである。この認証ロック機構は、大略、ロータ24に係脱可能に係合する係合部材59と、該係合部材59を動作させるアクチュエータ66と、該アクチュエータ66の取外状態で操作部材31を操作不可能とする阻止部材73とを備えている。
【0034】
前記係合部材59は、図1および図3に示すように、ロータ24の係合受部27に係脱可能に係合することにより、係合状態で該ロータ24の回転を阻止するものである。この係合部材59は、アクチュエータ66に揺動可能に配設され、該アクチュエータ66への取付状態でハウジング10のアクチュエータ配設部17に一体的に配設される。具体的には、この係合部材59は、アクチュエータ66に揺動可能に取り付けるための一対のアーム部60,60と、これらアーム部60,60の下端を連結するとともに下向きに突出した係合部62とを備えた略Y字形状のものである。アーム部60の上端には、略円板状をなし、その中央に連結ピン77を貫通させる貫通孔61aを形成した軸着部61が設けられている。係合部62は、ホルダ21の阻止部材配設部22の側壁にガイドされ、係合部材挿通部23を貫通してロータ24の係合受部27に係合するもので、係合強度を向上するために、揺動方向に沿った肉厚を厚肉に形成されている。
【0035】
本実施形態の係合部材59は、アクチュエータ66との連結のために、アーム部60,60および係合部62で囲繞された内部空間に、ゴム製の緩衝部材63が設けられている。この緩衝部材63は、アクチュエータ66のロッド68を挿通する挿通溝64と、アクチュエータ66との当接による衝撃を吸収する緩衝用突出部65とを備えている。
【0036】
前記アクチュエータ66は、係合部材59を、ロータ24の係合受部27に係合した係合位置から、ロータ24との係合が解除された非係合位置にかけて移動させるもので、駆動手段であるソレノイド67と、該ソレノイド67を収容する枠体70とを備えている。ソレノイド67は、通電によりロッド68を進出させる一方、非通電(遮断)によりロッド68が後退位置に付勢されるものである。ロッド68は、その一部に環状に窪む一対の係合溝69を備え、これらの間に位置するように緩衝部材63の挿通溝64に挿通させた状態で、それぞれにCリング(図示せず)を装着することにより、ロッド68の進退により係合部材59を揺動可能に構成している。枠体70は、ソレノイド67の上下およびロッド68の進出方向である前後を覆う四角形状の金属枠であり、ロッド68と対応する前枠70aには、ロッド68を進退可能に突出させる貫通孔が設けられている。また、前枠70aには、その上部に係合部材59を揺動可能に軸着するための受部71が設けられている。この受部71は略円板状をなし、中央に連結ピン77を貫通させる貫通孔71aを形成したものである。また、この枠体70は、ハウジング10のアクチュエータ配設部17への装着状態で、前枠70aが連通孔18の縁に位置するように構成され、該前枠70aに、連通孔18を通してロック部材配設部11内に突出し、阻止部材73に係合して非阻止位置に保持する保持部72が設けられている。
【0037】
前記阻止部材73は、ホルダ21の阻止部材配設部22内に付勢手段である阻止部材付勢スプリング74とともに配設することにより、カム部材37に向けて付勢するように配設されるものである。この阻止部材73は、進出方向とは逆側に位置する後端を開口した凹状の溝からなるスプリング配設部75を設けた平面視凹字形状をなす。この阻止部材73は、ホルダ21とともにロック部材配設部11に配設した状態で、アクチュエータ66がアクチュエータ配設部17に配設されることにより、その先端面に連通孔18を通して突出した保持部72が係合し、阻止部材付勢スプリング74の付勢力に抗して後退した非阻止位置に保持される。そして、アクチュエータ66が取り外されると、保持部72による保持が解除されることにより、阻止部材付勢スプリング74の付勢力によってカム部材37に向けて進出する。これにより、カム部材37の回転阻止部47においてアンロック方向先方に係合し、該カム部材37のアンロック方向の回転を阻止する阻止位置に移動する。そして、この阻止位置では、ロック部材配設部11とアクチュエータ配設部17とを連通する連通孔18を閉塞した状態をなす。なお、本実施形態では、阻止部材73の進出方向先端には、非阻止位置で、かつ、係合部材59がロータ24の係合受部27に係合した係合位置の状態で、該係合部材59との干渉を防止するために切欠部76が設けられている。そして、保持部72は、この切欠部76の両側に位置する先端面に係止する構成としている。
【0038】
次に、前記構成のロック装置の動作について説明する。
【0039】
まず、運転者がメカキーを使用してエンジンを始動させる場合には、シリンダ錠20に正規メカキーを差し込む。そうすると、シリンダ30に対してタンブラ36が没入し、該シリンダ30がロータ24に対して回転可能になる。そして、運転者がメカキーをACC位置の側に回転操作すると、シリンダ30の回転に連動してカム部材37が回転し、スライダ50を介してロックボルト48を後退させる。これにより、ロックボルト48とステアリングシャフトとの係合が解除され、ステアリングを回転操作可能なアンロック状態とする。また、カム部材の回転によりシリンダ30の回転位置が連動部材55を介してイグニッションスイッチ53に伝わり、自動車に搭載したメインマイコン(ECU)が、その回転位置に応じた所定の制御を実行する。
【0040】
また、運転者がメカキーをLOCK位置に回転操作すると、スライダ50がカム部材37のカム部43と連動用作動部45との間に位置することにより、ロックボルト48がロックボルト付勢スプリング41の付勢力によってハウジング10から進出する。これにより、ロックボルト48がステアリングシャフトの係合凹部に係合し、ステアリングを操作不可能なロック状態とする。なお、この状態で、ロックボルト48の進出方向先端にステアリングシャフトの係合凹部が位置していない場合には、ロックボルト48の先端がステアリングシャフトの外周面に当接した状態をなす。そして、ステアリングの回転によりロックボルト48と係合凹部とが一致すると、ロックボルト付勢スプリング41の付勢力で、これらが係合する。また、メインマイコンは、連動部材55を介してLOCK位置を検出し、そのLOCK位置に応じた制御を実行する。
【0041】
一方、運転者が電子キーを携帯している場合には、メインマイコンがその電子キーから送信されるコードを解析し、正規の電子キーであるか否かを解析する。そして、正規電子キーであると認証した場合には、ロック装置に対して操作部材31の操作を許可する信号を出力する。
【0042】
そうすると、ロック装置は、ソレノイド67に対して通電を行い、ロッド68を進出させる。これにより、ロッド68に係合した係合部材59は、図4に示すように、図中反時計回りに回転し、アクチュエータ66から離間する。そして、係合部材59と係合受部27との係合が解除され、ロータ24がホルダ21に対して回転可能になる。
【0043】
この状態で、運転者が操作部材31のノブをACC位置の側に回転操作すると、前記と同様に、シリンダ30がロータ24に対して回転するように力が作用する。しかし、この状態では、シリンダ30からタンブラ36が突出し、このタンブラ36がロータ24の係止溝25に係止した状態をなすため、該シリンダ30は、ロータ24に対して回転することはできない。その結果、シリンダ30は、ロータ24とともにホルダ21に対して回転するように作用する。
【0044】
そのため、図5に示すように、操作部材31を操作すると、タンブラ36を介してシリンダ30に係合したロータ24が連動し、ホルダ21に対して回転する。その結果、メカキーを使用した場合と同様に、シリンダ30の回転に連動してカム部材37が回転し、スライダ50を介してロックボルト48を後退させる。これにより、ステアリングシャフトに対してロックボルト48をアンロック状態とし、その回転位置が連動部材55を介してイグニッションスイッチ53に伝わることにより、メインマイコンが回転位置に応じた所定の制御を実行する。
【0045】
なお、ソレノイド67への通電は、エンジンの始動や、予め設定した時間などの諸条件が成立すると遮断される。そうすると、ソレノイド67は内蔵したスプリングによりロッド68を後退させ、係合部材59は、図示のように、緩衝用突出部65を枠体70に当接した揺動前の付勢状態に戻る。
【0046】
この状態で運転者が操作部材31のノブをLOCK位置の側に回転操作すると、前記と同様に、シリンダ30とともにロータ24が一体的にホルダ21に対して回転する。この回転により、LOCK位置の近傍に位置すると、係合受部27の側部に位置するカム面29が係合部材59の係合部62に当接する。そして、操作部材31の回転操作を続けると、係合部材59の係合部62がロータ24のカム面29の表面を摺動することにより、後退位置の係合部材59が付勢力に抗して進出位置に回転される。これにより、カム面29が係合部材59の係合部62の端部を越えると、該係合部材59がソレノイド67の付勢力によって後退位置に戻り、ロータ24の係合受部27に係合する。
【0047】
なお、操作部材31によりLOCK位置に操作した場合でも、メカキーにより操作した場合と同様に、ロックボルト48は、スライダ50がカム部材37のカム部43と連動用作動部45との間に位置することにより、ロックボルト付勢スプリング41によってハウジング10から進出し、ステアリングシャフトの係合凹部に係合してロック状態となる。また、メインマイコンは、イグニッションスイッチ53および連動部材55を介してLOCK位置を検出し、そのLOCK位置に応じた制御を実行する。
【0048】
このように構成したロック装置において、ハウジング10の外部に露出した操作部材31は、正規の運転者は勿論、他の不正解錠を目的とした者も操作しようとすることができる。
【0049】
しかし、正規メカキーを挿入することなく、かつ、正規電子キーも携帯していない非認証状態で、操作部材31をACC位置の側に操作しようとした場合には、認証状態の場合と同様に、操作部材31に連動してシリンダ30およびロータ24が一体的にホルダ21に対して回転するように作用する。そして、本実施形態では、ロータ24は、その係合受部27に係合部材59の係合部62が係合しているため、ホルダ21に対して回転することはできない。よって、メカキーおよび電子キーのいずれも使用しない状態では、操作部材31を回転操作することはできない。
【0050】
この状態で、ロック装置を不正解錠しようとする場合、第1の方法として、表面に露出した操作部材31に大きな負荷を加えて強制的に回転させることが考えられる。しかし、本実施形態では、阻止部材73の進出方向先端に、係合位置の係合部材59との干渉を防止する切欠部76を設け、係合部材59の可動範囲を確保している。そのため、係合部材59の係合部62とロータ24の係合受部27との係合代を十分に確保できる。その結果、これらの係合強度を向上することができるため、操作部材31に対して大きな回転力を負荷することによる不正解錠を確実に防止できる。
【0051】
また、第2の方法としては、ハウジング10の表面に露出した別体のアクチュエータカバー19を分解または破壊により取り外し、内部のシリンダ錠20やカム部材37を直接操作することが考えられる。しかし、アクチュエータカバー19を取り外した場合には、内部にアクチュエータ66および係合部材59が配設されているため、これらが邪魔でシリンダ錠20やカム部材37を確認(操作)できない。よって、シリンダ錠20やカム部材37を確認し、操作するためには、これらアクチュエータ66および係合部材59が取り外される。
【0052】
しかしながら、本実施形態では、ハウジング10の外部に位置(外部から配設)するアクチュエータ66が取り外されると、アクチュエータ66の保持部72と阻止部材73との係合が解除される。これにより、図6に示すように、阻止部材73が阻止部材付勢スプリング74の付勢力によりカム部材37の側に付勢され、回転阻止部47に係合する阻止位置に移動する。その結果、図7に示すように、カム部材37をアンロック方向へ操作することができなくなるため、ロック装置が不正に解錠されることはない。
【0053】
また、この阻止位置では、阻止部材73の進出により連通孔18が閉塞される。しかも、この閉塞状態では、阻止部材73の進出方向に沿った両端がアクチュエータ配設部17の側からは視認できない。そのため、内部のシリンダ30およびカム部材37は操作不可能であり、確実に不正解錠を防止できる。この効果は、阻止部材73をホルダ21に配設することによりロック部材配設部11内に配設する構成が大きく貢献している。また、阻止部材73をホルダ21に配設するという構成は、更に組立作業性を向上できるという効果も得ることができる。
【0054】
なお、本発明のステアリングロック装置は、前記実施形態の構成に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【0055】
例えば、前記実施形態では、阻止部材73は、スプリング配設部75が上向きに位置するように配設したが、図8(A)に示すように、下向きに位置するように配設してもよい。また、図8(B)に示すように、スプリング配設部75は、凹状の溝の代わりに、後端を開口した穴により構成してもよい。これらのようにすれば、アクチュエータ配設部17から阻止部材付勢スプリング74が視認できず、連通孔18を通して見た阻止部材73が平坦な状態をなすため、アクチュエータ配設部17から阻止部材73を操作し、非阻止位置に移動させることを防止できる。その結果、より確実に不正解錠を防止できる。
【0056】
また、前記実施形態では、ロック装置は、メカキーを使用可能とするためにシリンダ30を有するシリンダ錠20を搭載したが、電子キーのみとする場合にはシリンダ30は不要である。この場合には、ロータ24の端部をハウジング10から突出させ、その突出部分に操作部材31を配設する。
【0057】
さらに、前記実施形態では、シリンダ錠20の構成部品としてホルダ21を設けたが、阻止部材配設部22をハウジング10に設け、ホルダ21は設けない構成としてもよい。さらにまた、前記実施形態では、ロックボルト48に別体のスライダ50を配設したが、このスライダ50の構成をロックボルト48に一体的に設けてもよい。
【0058】
さらにまた、前記実施形態では、カム部材37に突出部を設けて回転阻止部47を形成したが、回転阻止部47は凹状に窪むように形成し、その凹状部に阻止部材73が嵌り込むように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施形態に係るステアリングロック装置を示す断面図である。
【図2】ハウジングのみを示す断面図である。
【図3】シリンダ錠の一部、カム部材および認証ロック機構の構成を示す分解斜視図である。
【図4】係合部材の非係合状態を示す断面図である。
【図5】認証状態で操作部材を操作した状態を示す断面図である。
【図6】アクチュエータを取り外した阻止位置の状態を示す断面図である。
【図7】阻止位置での阻止部材とカム部材との関係を示す正面図である。
【図8】(A),(B)は阻止部材の変形例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0060】
10…ハウジング
11…ロック部材配設部
12…スイッチ部材配設部
17…アクチュエータ配設部
18…連通孔
20…シリンダ錠
21…ホルダ
24…ロータ
27…係合受部
30…シリンダ
31…操作部材
36…タンブラ
37…カム部材
47…回転阻止部
48…ロックボルト
50…スライダ
55…連動部材
59…係合部材
62…係合部
66…アクチュエータ
72…保持部
73…阻止部材
74…阻止部材付勢スプリング
76…切欠部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内に回転可能に収納され、該ハウジング外に露出する操作部を有するロータと、
前記ロータと一体的に回転し、回転阻止部を設けたカム部材と、
前記カム部材の回転に連動し、ステアリングシャフトに係合して該ステアリングシャフトの回転を防止するロック位置から、前記ステアリングシャフトとの係合が解除されて該ステアリングシャフトの回転を可能とするアンロック位置にかけて移動可能なロックボルトと、
前記ロータに設けた係合受部に係脱可能に係合し、係合状態で該ロータの回転を阻止する係合部材と、
前記係合部材を、前記ロータの係合受部に係合した係合位置から、前記ロータとの係合が解除された非係合位置にかけて移動させるアクチュエータと、
前記カム部材に向けて付勢手段によって付勢され、前記カム部材の回転阻止部に係合して該カム部材の回転を阻止する阻止位置から、前記回転阻止部との係合が解除された非阻止位置にかけて移動可能な阻止部材とを備え、
前記アクチュエータに、前記ハウジングへの装着状態で前記阻止部材に係合し、該阻止部材を非阻止位置に保持する保持部を設けたことを特徴とするステアリングロック装置。
【請求項2】
前記ハウジングは、前記ロータを回転可能に配設するロック部材配設部と、該ロック部材配設部に連通する連通孔を有し前記アクチュエータおよび係合部材を配設するアクチュエータ配設部とを備え、前記係合部材を、前記連通孔を通してロック部材配設部内に突出させ、前記ロータの係合受部に係合させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載のステアリングロック装置。
【請求項3】
前記阻止部材は、阻止位置に進出することにより前記連通孔を閉塞するもので、その進出方向先端に、係合位置の前記係合部材との干渉を防止する切欠部を設けたことを特徴とする請求項2に記載のステアリングロック装置。
【請求項4】
前記保持部を、前記連通孔を通してロック部材配設部内に突出させ、前記阻止部材に係合させるようにしたことを特徴とする請求項2または請求項3に記載のステアリングロック装置。
【請求項5】
前記ハウジングのロック部材配設部に、前記ロータを回転可能に収容するホルダを配設し、該ホルダの外周部に前記阻止部材を付勢手段によって移動可能に配設したことを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか1項に記載のステアリングロック装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−67274(P2009−67274A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−239186(P2007−239186)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(000138462)株式会社ユーシン (241)
【Fターム(参考)】