説明

ステント及びその製造方法

【課題】多数の微細孔を有したカバードステントを比較的低コストにて効率よく製造することができる方法と、この方法により製造されたステントを提供する。
【解決手段】拡径可能な管状のステント本体と、このステント本体を被覆する柔軟なポリマー層と、ポリマー層を貫通する微細孔とを有するステント。ポリマー層はエオシン化ゼラチンを塗着し、マスクを介して露光し、微細孔以外を硬化させ、次いで微細孔部分を水で溶解させて孔化させることにより製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は近年血管内療法や外科手術、特に狭窄冠動脈、狭窄頚動脈、胆管、食道の拡張、動脈瘤の閉塞に用いられるステント(管腔内移植片)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来虚血性心疾患の治療は経皮経管的冠動脈形成術(PTCA)、つまりバルーンカテーテルを血管内の管腔を通し例えば狭窄部位に運び、その後バルーンを生理食塩水のような液体により拡張させて治療する方法が一般的であった。しかしこの方法では、急性期の冠閉塞やPTCA施行部位の再度の狭窄(いわゆる再狭窄)が生じる確率が高かった。これらの問題を解決するために、ステントと呼ばれる管腔内移植片が開発され最近急激に実用化され普及している。最近のデータによるとバルーンカテーテルによる手術の75%近くはすでにステントを使用した手術に置き変わってきていることを示している。
【0003】
ステントは血管等の管腔内を通って運ばれ管腔の治療部位でその直径を拡張することにより、内側からの作用によって支持する管腔内移植片である。現在は主に上述した冠動脈手術に多く使われているためにここでは冠動脈手術を主体に説明するものの、ステントは胆管、食道、気管、前立腺、尿管、卵管、大動脈瘤、末梢動脈、腎動脈、頸動脈、脳血管等人体の他の管腔部位にも用いることができる。
【0004】
ステントを用いた手術の普及によって再狭窄は飛躍的に防止することができるようになった。しかしながら一方、金属製ステントは体内において異物であることから、ステント挿入後数週間内に血栓症が発症する。つまり金属ステント自体が血栓性を有することから血液に晒されるとアルブミンやフィブリノーゲンなどの血漿蛋白と接触し血小板の粘着から凝集が起きる。また金属製ステントを留置することにより血管内皮の肥厚を促しこれも再狭窄のひとつの原因になっているという指摘もある。そこで、特開平11−299901号公報には、金属製ステント本体の外周面を、微細孔を有した柔軟なポリマーフィルムで被覆したステント(カバードステント)が記載されている。
【0005】
図2は、このカバードステントに用いられるメッシュ状の金属製ステント本体10を示す斜視図であり、図3はこの図2のステント本体10を拡径させた状態10’を示す斜視図である。また、図4は、このようなステント本体10の外周面を微細孔を有する柔軟なポリマーフィルム19で被覆したステント20を示す斜視図であり、図5は、このステント20が拡張した状態を示す斜視図である。なお、このフィルム19は、図6に示す如く、メッシュ状ステント本体外周面において、メッシュ状ステント本体を構成するステントストラット11の各々に対して接点部分において固着されたものとなり、ポリマーフィルム19とステント本体との一体性は低い。
【0006】
そこで、本出願人は、ステント本体の内外両周面をポリマー層で被覆したステントを特開2004−261567号にて提案している。
【0007】
生体組織中、血管などの内表面、つまり血液と接触する部分は内皮細胞と呼ばれる細胞層に覆われている。この内皮細胞はその表面が糖で覆われることと、内皮細胞自体がプロスタグランジンのような血小板の活性化を抑える物質を分泌するために、生体組織では血栓などが起きにくい。上記特開平11−299901号公報、特開2004−261567号公報のように、ポリマーフィルムで金属製ステント本体の外周面を被覆することにより、適度な細胞の内皮化を促進し血栓性を低下させることができる。
【0008】
なお、特開平11−299901号公報及び特開2004−261567号公報においては、ステント本体を覆うポリマーフィルムにレーザーにより微細孔を穿孔している。この微細孔は、主として、ステント内壁に内皮細胞を生着させて血栓の発生や、内膜の肥厚を抑制するためのものである。
【特許文献1】特開平11−299901号公報
【特許文献2】特開2004−261567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特開平11−299901号公報及び特開2004−261567号公報のようにレーザーにより微細孔を穿孔するには、レーザー加工設備が必要となり、設備コスト高であると共に、多数の微細孔を穿孔するのに長時間かかる。
【0010】
本発明は、多数の微細孔を有したカバードステントを比較的低コストにて効率よく製造することができる方法と、この方法により製造されたステントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のステントの製造方法は、拡径可能な管状のステント本体と、該ステント本体を被覆する柔軟なポリマー層とを有し、該ポリマー層に多数の微細孔が設けられているステントを製造する方法において、該微細孔の配置パターンにて光の非透過部が設けられ、その他は透光性であるマスクと、該マスクに重なり、水溶性を有し、露光により不溶化する感光性材料層とを該ステント本体に被着させる工程と、該マスクを介して光を該感光性材料層に照射し、露光された感光性材料を不溶化させる工程と、該非透過部に重なる未露光の感光性材料を除去して微細孔を形成する工程と、によって、該ステントを製造することを特徴とするものである。
【0012】
請求項2のステントの製造方法は、請求項1において、前記感光性材料は、下記(A)の化合物と、ハイドロゲンドナーと、を含む水溶液よりなるものであり、可視光により前記露光を行うことを特徴とするものである。
(A)キサンテン系色素で修飾した、コラーゲン、フィブロネクチン、ゼラチン、ヒアルロン酸、ケラタン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、エラスチン、ヘパラン硫酸、ラミニン、トロンボスポンジン、ビトロネクチン、オステオネクチン、エンタクチン、ガゼイン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリシドール、ポリグリシドールの側鎖エステル化体、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルメタクリレートとジメチルアミノエチルメタクリレートの共重合体、ヒドロキシエチルメタクリレートとメタクリル酸の共重合体、アルギン酸、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド及びポリビニルピロリドンからなる群から選択される少なくとも1種。
【0013】
請求項3のステントの製造方法は、請求項1において、ハイドロゲンドナーがチオール、アルコール、還元糖、ポリフェノール又は1分子内に少なくとも1個のN−アルキル及び/又はN,N−ジアルキルアミノ基を有する化合物であることを特徴とするものである。
【0014】
請求項4のステントの製造方法は、請求項2又は3において、キサンテン系色素がエオシンであることを特徴とするものである。
【0015】
請求項5のステントの製造方法は、請求項2ないし4のいずれか1項において、(A)がゼラチンであることを特徴とするものである。
【0016】
請求項6のステントの製造方法は、請求項5において、ゼラチンが1分子中に1個〜10個のキサンテン系色素分子を導入したものであることを特徴とするものである。
【0017】
請求項7のステントの製造方法は、請求項6において、ゼラチンが1分子中に2個〜6個のキサンテン系色素分子を導入したものであることを特徴とするものである。
【0018】
請求項8のステントの製造方法は、請求項2ないし7のいずれか1項において、前記水溶液に治療薬を含有させておくことを特徴とするものである。
【0019】
請求項9のステントの製造方法は、請求項8において、前記治療薬が、ヘパリン、低分子量ヘパリン、ヒルジン、アルガトロバン、フォルマコリン、バピプロスト、プロスタモリン、プロスタキリン同族体、デキストラン、ローフェプローアルグクロロメチルケトン、デイピリダモール、グリコプロテインの血小板膜レセプタ抗体、組換え型ヒルジン、トロンビン抑制剤、脈管ペプチン、脈管テンシン転換酵素抑制剤、ステロイド、繊維芽細胞成長因子アンタゴニスト、フィッシュオイル、オメガ3ー脂肪酸、ヒスタミン、アンタゴニスト、HMG−CoAリダクテース抑制剤、セラミン、セロトニン阻止抗体、チオプロテイース抑制剤、トリマゾールピリデイミン、インターフェロン、血管内皮増殖因子(VEGF)、ラパマイシン、及びFK506よりなる群から選ばれたものであることを特徴とするものである。
【0020】
請求項10のステントは、請求項1ないし9のいずれかの製造方法により製造されたものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、感光性材料層及びマスクをステント本体に被着させると共に、マスクを介して微細孔穿孔予定箇所以外の感光性材料を露光して不溶化させ、その後、露光していない箇所の感光性材料を水で溶解除去して微細孔を形成する。この方法によれば、レーザー加工設備を用いないので、設備コストが低廉であると共に、多数の微細孔を有するステントを効率よく製造することができる。
【0022】
このように水溶性の感光性材料を被着させ、露光後、未露光部分を水で溶解除去して作成したポリマー層は、その作成に有機溶媒を一切使用しないので、ポリマー中に有機溶媒は全く残留しない。
【0023】
本発明のステント及びその製造方法の一態様にあっては、ポリマー層を、キサンテン系色素で修飾された、生分解性の水溶性高分子化合物の水溶液をハイドロゲンドナーの存在下で可視光照射することにより架橋不溶化して形成する。可視光照射によりこの水溶液はゲル化する。このゲル化した高分子化合物は生分解して徐々に生体へ吸収される。
【0024】
このゲル状のシートは、柔軟であるから、生体組織を極端に圧迫することはない。
【0025】
このゲル状ポリマー層を形成するための水溶性高分子の水溶液中に治療薬を含有させてもよい。このゲル状ポリマー層は、可視光で架橋して作成されるため、光に弱い治療薬であっても、その活性が損なわれない。さらに、マスク水溶液ごとステントへ被着させる際に、マスクの材質は柔軟性を要求する場合には高分子材料が好適であるが、高分子材料は紫外線を透過しえないのが一般的である。本発明では可視光による露光によってポリマー層を不溶化できるので、マスクに柔軟な高分子材料を使用することができるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0027】
本発明のステントを構成するステント本体は、長さが2〜40mm程度であり、直径が長さの1/10〜1/2程度の管状であることが好ましい。また、ステント本体の厚さ(管状部の肉厚)は好ましくは11〜2000μmであり、より好ましくは51〜500μmであり、とりわけ好ましくは101〜300μmである。このステント本体は、柔軟に拡径しうるように、メッシュ状であることが好ましく、特に図2の如く斜交格子状であり且つ格子の延在方向が螺旋方向となるものが好ましい。
【0028】
このステント本体は好ましくは生体適合性のある金属製とされる。この生体適合性のある金属としては、ステンレス、チタン、タンタル、アルミニウム、タングステン、ニッケル・チタン合金、コバルト・クロム・ニッケル・鉄合金等が例示される。この金属製のステント本体は、形状記憶させるために好ましくは熱処理が施される。この熱処理により、ステント本体に自己拡張性を付与することができる。
【0029】
柔軟性ポリマー層は、後述の感光性材料を用いて形成される。
【0030】
こののポリマー層の被覆厚さ(図1のd)は1μm〜100μm、特に5μm〜50μm程度が好ましい。
【0031】
このポリマー層には多数の微細孔が設けられる。この微細孔は、ランダムに配置されてもよいが、好ましくは、略均一の間隔で微細孔が穿孔される。略均一の間隔で微細孔が穿孔されるというのは、間隔が同一であるという意味ではなく、微細孔の間隔が制御された方法でほぼ一定の間隔に配置されているという意味である。従って、略均一の間隔には一見するとランダムに配置されているように見える斜め状、円状、楕円状の配置なども含まれる。微細孔というのは内皮細胞が出入りできる大きさであればどのような大きさや形状でもよい。好ましくは、直径が5〜500μm、最も好ましくは10〜100μmの円形である。楕円形、正方形、長方形などの他の形状も含まれることは言うまでもない。これらは拡張される前の状態でのことであり、ステント本体が拡張されて管腔内に留置される時点では円形は長楕円形に変形し、直径もそれにしたがって変化する。また微細孔の配置間隔としては、51〜10000μm、好ましくは101〜8000μm、より好ましくは201〜5000μmの間隔で複数の直線上に配置される。これらの複数の直線は、ステントの軸線方向に所定の一定の角度間隔で配置された例えば10〜50本の直線からなる。
【0032】
ただし、最も好ましい微細孔の直径と配置間隔には互いに従属関係があり、当該関係はポリマー層上の孔密度として考えると分かり易い。つまり、例えば図7に示される3つのパターンのように略円形の孔を略一定間隔で配置した場合、当然、単位面積あたりの密度は微細孔の直径及び配置間隔に依存する。
【0033】
そして、この孔密度(単位は%)と血管内へステント留置した際に形成される血管内膜の肥厚厚み(単位はμm)との関係が図8である。
【0034】
図8より、好ましい微細孔の直径と配置間隔には、孔密度において関係があることが分かる。ただし、いかに密度が好ましくとも、孔の直径が小さ過ぎると内皮細胞のステント内側への増殖が不十分になり、逆に孔の直径が大き過ぎるとポリマー層の強度が低下すると共に内膜組織の侵入が進みすぎ好ましくないことは言うまでもない。
【0035】
本発明では、この感光性材料は、水可溶性を有し、露光されることにより不溶化するものである。この感光性材料としては、可視光の照射によりラジカルを発生してゲル化する物質の水溶液が好適であり、特にこのゲル化する物質として、前記(A)の物質を用いるのが好ましい。
【0036】
この(A)の化合物におけるキサンテン系色素としてはエオシンが好適であり、上記(A)の物質としてはエオシン化ゼラチンが好適である。このエオシン化ゼラチンについては後に記述する。
【0037】
ゼラチンをキサンテン系色素で修飾する場合、ゼラチン1分子に対するキサンテン系色素分子の導入数は10個以下が好ましく、特に2〜6個であることが好ましい。この導入数が10よりも多いと、ゼラチンが水へ難溶となり、最終的にはステントが硬くなる。
【0038】
本発明では、好ましくは、ラジカルのカウンターであるプロトン供与体として、ハイドロゲンドナーを用いる。このハイドロゲンドナーとしては、チオール、アルコール、還元糖、ポリフェノール、1分子内に少なくとも1個のN−アルキル及び/又はN,N−ジアルキルアミノ基を有する化合物などが好適であり、特に1分子内に少なくとも1個のN−アルキル及び/又はN,N−ジアルキルアミノ基を有する化合物が好適である。
【0039】
上記(A)の物質の水溶液に治療薬を含有させてもよい。
【0040】
この治療薬としては抗血小板剤、抗血栓剤、増殖促進剤、増殖阻止剤、免疫抑制剤などが例示される。
【0041】
この治療薬としては、具体的には、ヘパリン、低分子量ヘパリン、ヒルジン、アルガトロバン、フォルマコリン、バピプロスト、プロスタモリン、プロスタキリン同族体、デキストラン、ローフェプローアルグクロロメチルケトン、デイピリダモール、グリコプロテインの血小板膜レセプタ抗体、組換え型ヒルジン、トロンビン抑制剤、脈管ペプチン、脈管テンシン転換酵素抑制剤、ステロイド、繊維芽細胞成長因子アンタゴニスト、フィッシュオイル、オメガ3ー脂肪酸、ヒスタミン、アンタゴニスト、HMG−CoAリダクテース抑制剤、セラミン、セロトニン阻止抗体、チオプロテイース抑制剤、トリマゾールピリデイミン、インターフェロン、血管内皮増殖因子(VEGF)、ラパマイシン、FK506等の薬物が挙げられる。
【0042】
この治療薬は、ゲルから徐々に体内に放出され、血栓の生成を抑制したり、平滑筋細胞の増殖を抑制して狭窄を予防したり、ガン化した細胞の増殖を抑制したり、内皮細胞の増殖を促進して早期に内皮化を得るのに有効である。
【0043】
(A)の物質の水溶液中の濃度は0.1〜50重量%程度が好ましい。
【0044】
水溶液中における場合の上記(A)、ハイドロゲンドナー、治療薬の割合は、(A)1重量部に対してハイドロゲンドナーが0.01〜150重量部、治療薬は150重量部以下、例えば0.01〜150重量部であることが好ましい。
【0045】
この水溶液を好ましくは厚み10μm〜500μm程度となるようにステント本体に被着させた後、マスクを介して、可視光を露光することにより光架橋し不溶化する。このマスクは、透過性材料よりなるが、微細孔を穿孔すべき位置だけ非透過性となっている。
【0046】
この非透過性の部分と重なった部分は、露光されないので、露光後にステントを水と接触(例えば浸漬)すると溶解除去され、微細孔が形成される。
【0047】
マスクとしては、PMMAなどの透明樹脂フィルムに、銀ペーストなどの遮光材料をスクリーン印刷したり、ネガパターンを用いてアルミ等の金属を蒸着したりすることにより光の非透過部を設けたものが好適であるが、これに限定されない。
【0048】
本発明では、このフィルム状のマスクを平たく広げ、その上に上記水溶液を流延し、このシート状マスクをステント本体に巻き付け、次いで露光し、しかる後、マスクを引き剥がすのが好ましい。
【0049】
この露光に際しては、ステント本体内に円柱状又は円筒状の吸光体(例えば黒色体)を配置し、光の反射や、径又は弦方向に貫通することを防止するのが好ましい。
【0050】
このようにして製造されるステントは、例えば、図1にその断面を示す如く、メッシュ状のステント本体を構成するステントストラット11の全外表面をポリマー層12が密着して被覆しており、ステントの外周面Aはフィルム状マスクによる平滑面とされている。このようなステントであれば、金属製ステント本体の露出面が全くないため、金属アレルギー、金属による細胞の刺激、錆の発生の問題は解消される。また、血栓の発生も防止される。
【0051】
次に、本発明において用いるのに好適なエオシン化ゼラチンについて説明する。
【0052】
ここでゼラチンは、分子量5千〜10万、アミノ基約10〜100個/1分子程度の通常のゼラチンで良い。
【0053】
エオシン化ゼラチンは、下記反応に従ってゼラチンの側鎖にエオシンを導入することにより調製される。
【0054】
【化1】

【0055】
ゼラチン分子へのエオシンの導入数は、例えば、エオシン化ゼラチンの水溶液の吸光度をエオシンの最大吸収波長522nmにおいて測定し、エオシンのモル吸光係数(ε=94755)を基に算出可能であり、ゼラチン1分子に対して1〜10個、特に2〜5個程度が好ましい。このエオシン等の感光基を有する化合物の導入数が少ないとゲル化率が低下し、また必要以上に多くてもゼラチン固有の柔軟性が損なわれる可能性があると共に、水へ難溶性となってしまう。
【0056】
このエオシン化ゼラチンは、粘稠性の液体状である。これを例えば濃度1〜10重量%の水溶液とした場合には、300〜30,000lx程度の可視光を0.1〜30分程度照射してゲル状に硬化させることができる。
【0057】
なお、ステントの外周面側のポリマー層は、人体内の細かな血管内での移動をスムースにするために、外表面を潤滑性物質によってコーティングされてもよい。そのような潤滑性物質としてはグリセリンのような低分子量親水性物質、ヒアルロン酸やゼラチンのような生体親和性物質、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリビニルピロリドンなどの合成親水性ポリマーなどが挙げられる。
【実施例】
【0058】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0059】
実施例1
[エオシン化ゼラチンの合成]
ゼラチン(分子量95,000、アミノ基量約37個/分子)に、水溶性カルボジイミドであるN−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(WSC)の存在下、下記反応でゼラチンの側鎖のアミノ基にエオシンを結合させることにより、ゼラチン1分子当たりエオシン約5個を導入してエオシン化ゼラチンを合成した。
【0060】
【化2】

【0061】
[キサンテン系色素で修飾した高分子、ハイドロゲンドナー及び治療薬を含む溶液の調製]
合成したエオシン化ゼラチンを終濃度10重量%、ハイドロゲンドナーとして1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミンを終濃度1.2重量%、治療薬としてヘパリンを終濃度5重量%なるように溶解混合し、キサンテン系色素で修飾した高分子化合物、ハイドロゲンドナー及び治療薬を含む溶液とした。
【0062】
[マスクの作成]
厚さ30μmのPMMAフィルム上にUV硬化性銀ペーストを印刷後、UV露光して固着させたものをマスクとした。光の非透過部の直径は30μmとし、配列はメッシュ状ステント本体のメッシュ開口1個当たり1個の割合となるようにした。
【0063】
[ステント本体]
ステント本体として、図2に示す直径2mm、長さ8mm、厚さ0.1mmのメッシュ状のステント本体10を採用した。メッシュの開口は、周方向には5個、長さ方向には5個(4個と片側半分の開口が2個で合計5個相当)存在する。
【0064】
図3は、拡張した後の金属製ステント本体10’の側面図である。この金属製ステント本体10’は、直径3.5mm、長さ7.7mm、厚さ0.1mmである。
【0065】
[ステントの作成]
上記フィルム状マスク上に100μm厚となるように、上記水溶液を流延し、シートとした。このシートを、水溶液をステント本体に向けてステント本体の外周に巻き付けた。なお、ステント本体は黒色のマンドレルに装着してある。
【0066】
このマンドレルを回転させながら、トクソーパワーライト(トクヤマ製、ハロゲンランプ、波長400nm〜520nm)にて照射強度200mW/cmとなるように可視光を20分間照射して、上記水溶液を架橋し不溶化させた。
【0067】
次いで、マスクを剥がしステントをマンドレルから外し、水で洗浄することにより、未露光部分を溶解除去した。これにより、ポリマー層にマスクの非透過部と同配列パターンにて微細孔が穿孔された。この微細孔の平均孔径は25μmであった。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明のステントのポリマー層による被覆状態を示す模式的断面図である。
【図2】ステント本体の斜視図である。
【図3】拡径させたステント本体の斜視図である。
【図4】ステントの斜視図である。
【図5】拡径させたステントの斜視図である。
【図6】特開平11−299901号公報のステントのポリマーフィルムによる被覆状態を示す模式的な断面図である。
【図7】ポリマー層の微細孔のパターンと、微細孔の直径及び配置間隔と孔密度との関係を示す説明図である。
【図8】ポリマー層の孔密度と血管内へステント留置した際に形成される血管内膜の肥厚厚みとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0069】
10 ステント本体
11 ステントストラット
12 ポリマー層
19 ポリマーフィルム
20 ステント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡径可能な管状のステント本体と、該ステント本体を被覆する柔軟なポリマー層とを有し、該ポリマー層に多数の微細孔が設けられているステントを製造する方法において、
該微細孔の配置パターンにて光の非透過部が設けられ、その他は透光性であるマスクと、該マスクに重なり、水溶性を有し、露光により不溶化する感光性材料層とを該ステント本体に被着させる工程と、
該マスクを介して光を該感光性材料層に照射し、露光された感光性材料を不溶化させる工程と、
該非透過部に重なる未露光の感光性材料を除去して微細孔を形成する工程と、
によって、該ステントを製造することを特徴とするステントの製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記感光性材料層は、
下記(A)の化合物と、
ハイドロゲンドナーと、
を含む水溶液よりなるものであり、
可視光により前記露光を行うことを特徴とするステントの製造方法。
(A)キサンテン系色素で修飾した、コラーゲン、フィブロネクチン、ゼラチン、ヒアルロン酸、ケラタン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、エラスチン、ヘパラン硫酸、ラミニン、トロンボスポンジン、ビトロネクチン、オステオネクチン、エンタクチン、ガゼイン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリシドール、ポリグリシドールの側鎖エステル化体、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルメタクリレートとジメチルアミノエチルメタクリレートの共重合体、ヒドロキシエチルメタクリレートとメタクリル酸の共重合体、アルギン酸、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド及びポリビニルピロリドンからなる群から選択される少なくとも1種。
【請求項3】
請求項1において、ハイドロゲンドナーがチオール、アルコール、還元糖、ポリフェノール又は1分子内に少なくとも1個のN−アルキル及び/又はN,N−ジアルキルアミノ基を有する化合物であることを特徴とするステントの製造方法。
【請求項4】
請求項2又は3において、キサンテン系色素がエオシンであることを特徴とするステントの製造方法。
【請求項5】
請求項2ないし4のいずれか1項において、(A)がゼラチンであることを特徴とするステントの製造方法。
【請求項6】
請求項5において、ゼラチンが1分子中に1個〜10個のキサンテン系色素分子を導入したものであることを特徴とするステントの製造方法。
【請求項7】
請求項6において、ゼラチンが1分子中に2個〜6個のキサンテン系色素分子を導入したものであることを特徴とするステントの製造方法。
【請求項8】
請求項2ないし7のいずれか1項において、前記水溶液に治療薬を含有させておくことを特徴とするステントの製造方法。
【請求項9】
請求項8において、前記治療薬が、ヘパリン、低分子量ヘパリン、ヒルジン、アルガトロバン、フォルマコリン、バピプロスト、プロスタモリン、プロスタキリン同族体、デキストラン、ローフェプローアルグクロロメチルケトン、デイピリダモール、グリコプロテインの血小板膜レセプタ抗体、組換え型ヒルジン、トロンビン抑制剤、脈管ペプチン、脈管テンシン転換酵素抑制剤、ステロイド、繊維芽細胞成長因子アンタゴニスト、フィッシュオイル、オメガ3ー脂肪酸、ヒスタミン、アンタゴニスト、HMG−CoAリダクテース抑制剤、セラミン、セロトニン阻止抗体、チオプロテイース抑制剤、トリマゾールピリデイミン、インターフェロン、血管内皮増殖因子(VEGF)、ラパマイシン、及びFK506よりなる群から選ばれたものであることを特徴とするステントの製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかの製造方法により製造されたステント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−333940(P2006−333940A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−159379(P2005−159379)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(591108880)国立循環器病センター総長 (159)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】