説明

ストレプトミセス属に属する新規微生物、その微生物が産生する新規化合物、及びその化合物を有効成分とする医薬

【課題】癌細胞の周辺組織浸潤阻害活性、細胞障害活性及びフリーラジカル消去活性を有する化合物を産生する新規微生物の提供。
【解決手段】正常細胞に対する副作用が少なく、癌細胞への毒性活性の他、癌細胞の浸潤阻害活性やスーパーオキサイド消去活性を有する化合物を産生する微生物として、特許生物寄託センターに寄託番号NITE P−630として寄託されたストレプトミセス(Streptomyces)属に属する新規微生物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規微生物、その微生物が産生する新規化合物、及びその化合物を有効成分とする医薬に関する。より詳細には、ストレプトミセス(Streptomyces)属に属する新規微生物、その微生物が産生する少なくとも3種類の新規化合物、及びその化合物を有効成分とする抗癌剤その他の医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、癌治療には、癌細胞の増殖を阻害する薬物が使用されてきた。こうした癌治療に用いられる薬剤としては、ムスチン、シクロホスファミド、クロラムブシル等のアルキル化剤、アクチノマイシンD、ブレオマイシン、ドキソルビシン等の細胞毒抗生物質、ビンクリスチン、ビンブラスチン等のビンカアルカロイド、葉酸拮抗薬であるメトトレキセート、抗ピリミジン薬であるフルオロウラシルやシタラビン、抗プリン薬であるメルカプトプリンその他の代謝拮抗剤、プレドニゾロンその他のグルココルチコイド、エストロゲン拮抗薬であるタモキシフェン、スチルベストロルその他の各種ホルモン、アザチオプリンその他の免疫抑制剤等が使用されている。
【0003】
こうした薬剤は、単独で使用されることもあり、併用されることもあるが、単独薬を持続的に投与するよりも、間欠的に併用する方が高い効果を示すことが多い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の薬物は、癌細胞に対してある程度の選択作用を示すとはいえ、骨髄、胃腸管上皮、毛嚢等の増殖の速い正常細胞に対してもダメージが大きく、副作用が問題とされている。
【0005】
一方で、癌細胞の増殖のメカニズムには、原発巣から周辺組織への浸潤と、原発巣で増殖した癌細胞の一部が血管壁をすり抜け、血流に乗って他の部位へ移動する転移とが知られている。
このため、癌細胞に対する細胞毒性を有するだけでなく、このような癌細胞の浸潤阻害活性を有していれば、抗癌剤として有用である。
【0006】
さらに、癌細胞の発生及び増殖には、スーパーオキサイドが関与するといわれており、スーパーオキサイドを含むフリーラジカルを消去できれば、抗癌剤としてさらに有用なものとなり得る。
したがって、細胞毒性活性の他、癌細胞の浸潤阻害活性やスーパーオキサイド消去活性を有する化合物に対する、高い要請があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、以上のような状況の下で、上記のような活性を示す新規化合物を産生するStreptomyces属に属する新規微生物を見出し、本願発明を完成したものである。
【0008】
すなわち、本発明は、特許生物寄託センターに寄託番号NITE P−630として寄託されたストレプトミセス(Streptomyces)属に属する新規微生物である。
【0009】
また、本発明は、前記の微生物が産生し、癌細胞の周辺組織浸潤阻害活性、細胞傷害活性及びフリーラジカル消去活性を有する、下記式(I)〜(III)で表される化合物からなる群から選ばれる新規化合物である。
【0010】
【化1】

【0011】
【化2】

【0012】
【化3】

ここで、Rは、下記式(IV)
【0013】
【化4】

【0014】
で表される化合物である。上記式中、R〜Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルケン基、炭素数1〜8のアルコキシ基、及び炭素数1〜8のアシル基からなる群から選ばれるいずれかの官能基を表す。
【0015】
ここで、前記式(I)〜(IV)中、R〜Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルケン基、炭素数1〜4のアルコキシ基、及び炭素数1〜4のアシル基からなる群から選ばれるいずれかの官能基を表すものであることが好ましい。
【0016】
前記式(I)で表される化合物は、下記式(V)で表される化合物であり;
【0017】
【化5】

【0018】
前記式(II)で表される化合物は、下記式(VI)で表される化合物であり;
【0019】
【化6】

【0020】
前記式(III)で表される化合物は、下記式(VII)で表される化合物であることがさらに好ましい。
【0021】
【化7】

【0022】
本発明はまた、前記式(I)〜(III)で表される化合物、生理学的に許容されるそれらの塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる、いずれかを有効成分とする抗癌剤である。ここで、Rは、上記式(IV)で表される官能基であり、R〜Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルケン基、炭素数1〜8のアルコキシ基、及び炭素数1〜8のアシル基からなる群から選ばれるいずれかの官能基を表すものであることが好ましい。
【0023】
ここで、前記式(I)〜(IV)中、R〜Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルケン基、炭素数1〜4のアルコキシ基、及び炭素数1〜4のアシル基からなる群から選ばれるいずれかの官能基を表す、ものであることが好ましい。
【0024】
本発明の抗癌剤においては、前記式(I)〜(III)で表される化合物は、上記と同様に、それぞれ前記式(V)〜(VII)で表される化合物であることが、さらに好ましい。
【0025】
本発明はさらにまた、前記式(I)〜(III)で表される化合物、生理学的に許容されるそれらの塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる、いずれかを有効成分とする、癌細胞の周辺組織浸潤阻害剤である。ここで、Rは、上記式(IV)で表される官能基であり、R〜R8は上述した通りである。
【0026】
ここで、前記式(I)〜(IV)中、R〜Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルケン基、炭素数1〜4のアルコキシ基、及び炭素数1〜4のアシル基からなる群から選ばれるいずれかの官能基を表すものであることが好ましい。
【0027】
本発明の癌細胞の周辺組織浸潤阻害剤においては、前記式(I)〜(III)で表される化合物は、上記と同様に、それぞれ前記式(V)〜(VII)で表される化合物であることが、さらに好ましい。
【0028】
本発明はまた、前記式(I)〜(III)で表される化合物、生理学的に許容されるそれらの塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる、いずれかを有効成分とする、フリーラジカル消去剤である。Rは、上記式(IV)で表される官能基であり、R〜R8は上述した通りである。
【0029】
ここで、前記式(I)〜(IV)中、R〜Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルケン基、炭素数1〜4のアルコキシ基、及び炭素数1〜4のアシル基からなる群から選ばれるいずれかの官能基を表すものであることが好ましい。
【0030】
本発明のフリーラジカル消去剤は、前記式(I)〜(III)で表される化合物は、上記と同様に、それぞれ前記式(V)〜(VII)で表される化合物であることが、さらに好ましい。
【発明の効果】
【0031】
本発明において、上述したストレプトミセス(Streptomyces)属に属する新規微生物は、癌細胞の周辺組織浸潤阻害活性、細胞傷害活性及びフリーラジカル消去活性を有する、上記式(I)〜(VII)で表される新規化合物を産生する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明に係るストレプトミセス属に属する新規微生物(TP−A0874株)は、以下のようにして単離する。
まず、生ゴミ処理物を滅菌シャーレ上で風乾後、乳鉢で細かく粉砕し、所定の培地に懸濁させる。ついで、室温にて静置し、順次10倍希釈を行って試料を調製する。生ゴミ処理物としては、例えば、事業所系の生ゴミ、動物残渣・牛糞・魚腸骨、家庭からの生ゴミ、野菜残渣・魚残渣その他の各種生ゴミ由来の堆肥を使用することができる。
【0033】
所定の培地としては、例えば、YS培地等を使用することができ、これらの培地を用いて10倍希釈を行う。
次いで、平板培地上にこれらの試料を塗布し、恒温器中で培養し、平板上に出現したコロニーを採取することにより、菌を分離することができる。平板培地としては、例えば、Bn2培地、HMG培地等を使用することができる。恒温器での培養は、約30℃〜64℃の間の所望の温度で行うことができる。
【0034】
上記のようにして得られたストレプトミセス属に属する新規微生物は、形態学的には、ループ状の気菌糸と、表面が平滑な球形の胞子が5〜10個連鎖した胞子とを有するものである。また、寒天培地における生育状態では、ISP培地No.3(オートミール寒天培地、32℃培養)、ISP培地No.4(スターチ・無機塩寒天培地、32℃培養)及びISP培地No.7(チロシン寒天培地、32℃培養)で良く増殖する。
【0035】
一方、ISP培地No.2(イースト・麦芽寒天培地、32℃培養)では中程度の増殖が見られ、ISP培地No.5(グリセリン・アスパラギン寒天培地、32℃培養)では増殖は不良である。
【0036】
上記のように特徴付けられる菌を、種母培地に接種して、例えば、約28〜32℃で3〜5日間振とう培養し、所定量の培地を他の培地に接種して数日間、上記の温度で振とう培養する。こうした種母培地としては、例えば、V−22液体培地等を挙げることができ、V-22液体培地を使用することが好ましく、また、振とう培養は、例えば、150〜250rpmで行うことができ、約200rpmで行うことが菌の生育の面から好ましい。
【0037】
培養終了後、培養液を遠心して菌体と水相とを分け、菌体部分に有機溶媒を加えて抽出し、有機相を減圧濃縮する。ここで使用する有機溶媒は、後述するように、先に分けた水相と合わせてカラムクロマトグラフィーに供するため、水と相溶性があるものであることが好ましく、メタノール、エタノール等を使用することができる。
上記の減圧濃縮液と先の水相とを合わせ、カラムクロマトグラフィーに供する。
【0038】
ここで使用するカラムクロマトグラフィーとしては、例えば、ダイヤイオン(Diaion HP-20、三菱化学(株)製)その他のカラムを使用することができるが、Diaion HP-20を使用することが分離効率の面から好ましい。
次に、吸着物質の溶出を行う溶離液を調製する。この溶出は、溶離液の極性を変えながら行うため、所定の割合で上記有機溶媒を含有する溶離液を数種類用意して、ステップグラジエント法によって行ってもよく、連続的な濃度勾配となるようグラジエント法で行ってもよい。
【0039】
ステップグラジエント法による場合には、例えば、有機溶媒としてメタノールを使用し、蒸留水100%、20%メタノール水溶液、40%メタノール水溶液、というように20%刻みにメタノールの量を増加させた溶離液を調製し、これらの溶離液を用いて順次溶出させることによって分画する。
各溶出画分を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供して分画し、各画分に化合物が含まれるか否かを確認する。
【0040】
ここで使用するHPLC用カラムとしては、例えば、COSMOSIL 5C18-AR-II Waters 4.6x250mm(nacalai tesque 社製)、cadenza CD-C18 75x4.6mm(Imtakt社製)、MICROSORB-MV 75x4.6mm(RAININ INSTRUMENT COMPANY INC.製)等を使用することができ、MICROSORB-MV 75x4.6mmを使用することが好ましい。
【0041】
化合物の存在が認められた画分をそれぞれ減圧濃縮し、この濃縮液を凍結乾燥することにより、本発明の化合物の粗精製物を得ることができる。
【0042】
次いで、上記各粗精製物を逆相HPLCに供し、それぞれの精製物を得ることができる。精製用のカラムとしては、例えば、Waters Xterra(登録商標)RP18(日本ウォーターズ(株)製)、COSMOSIL 5C18-AR-II Waters 20x250mm(nacalai tesque社製)、cadenza CD-C18 250x20mm(Imtakt社製)等を挙げることができ、ピークの分離の良さの面から、Waters Xterra RP18を使用することが好ましい。
以上のようにして、本発明の新規化合物を得ることができる。これらの化合物を公知の方法に従って処理し、所望の塩や水和物を得ることができる。
【0043】
また、本発明は、上述した方法で得られた下記式(I)〜(III)で表される化合物、生理学的に許容されるそれらの塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる、いずれかを有効成分とする抗癌剤である。
【0044】
【化8】

【0045】
【化9】

【0046】
【化10】

ここで、Rは、下記式(IV)
【0047】
【化11】

【0048】
で表され、R,R,R,Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルケン基、炭素数1〜8のアルコキシ基、及び炭素数1〜8のアシル基からなる群から選ばれるいずれかの官能基を表し;前記式(I)〜(III)中、R〜Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルケン基、炭素数1〜8のアルコキシ基、及び炭素数1〜8のアシル基からなる群から選ばれるいずれかの官能基を表すものであると、抗癌活性が高いことから、これらを好適に使用することができる。
【0049】
また、前記式(I)〜(IV)中、R〜Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルケン基、炭素数1〜4のアルコキシ基、及び炭素数1〜4のアシル基からなる群から選ばれるいずれかの官能基を表す場合には、一層強い抗癌活性を示すことから、さらに好適に使用することができる。
【0050】
本願発明の抗癌剤は、下記式(V)〜(VII)で表される化合物、生理学的に許容されるそれらの塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる、いずれかを有効成分として含有するものであることが、抗癌活性に加えて、後述する基底膜浸潤阻害活性及びフリーラジカル消去活性を有することから、さらに好ましい。
【0051】
生理学的に許容されるそれらの塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩等を挙げることができる。また、それらの水和物としては、一水塩、二水塩等を挙げることができる。
【0052】
【化12】

【0053】
【化13】

【0054】
【化14】

【0055】
本発明はさらにまた、上記式(I)〜(III)で表される化合物、生理学的に許容されるそれらの塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる、いずれかを有効成分とする、癌細胞の周辺組織浸潤阻害剤である。ここで、R、R〜R、生理学的に許容されるそれらの塩、及びそれらの水和物は上述した通りである。
【0056】
本明細書中において、「癌細胞の周辺組織」とは、増殖した癌細胞と隣接する組織及び血管壁をいうものとする。また、「浸潤」とは、隣接する正常組織へ癌細胞(悪性新生物)が入り込んで局所的に広がることをいい、悪性新生物が上皮性腫瘍の場合には、その直下にある上皮基底膜に入り込むことをいう。さらに、癌細胞が、血管の外膜、中膜、及び内膜を通過することも含むものとする。
【0057】
ここで、上述した式(I)〜(IV)中、R〜Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルケン基、炭素数1〜4のアルコキシ基、及び炭素数1〜4のアシル基からなる群から選ばれるいずれかの官能基を表すものであることが、癌細胞の周辺組織への浸潤を阻害する活性が高いものであることから、好ましい。
【0058】
さらに、前記有効成分が、上述した式(V)〜(VII)で表されるいずれかの化合物、生理学的に許容されるそれらの塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれるものであることが、癌細胞の周辺組織への浸潤を阻害する一層高い活性が示されることに加え、上記抗癌活性及び後述するフリーラジカル消去活性をもあわせて発揮することから、さらに好ましい。
【0059】
本発明はまた、上記式(I)〜(III)で表される化合物、生理学的に許容されるそれらの塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる、いずれかを有効成分とする、フリーラジカル消去剤である。ここで、R、R〜R、生理学的に許容されるそれらの塩、及びそれらの水和物は上述した通りである。
本明細書中、「フリーラジカル」は不対電子を有する分子種をいい、活性酸素も含む。一般に、活性酸素には、スーパーオキシドアニオン及び一重項酸素、過酸化水素等が含まれるため、本明細書中においては、これらも「フリーラジカル」に含まれるものとなる。
【0060】
ここで、上述した式(I)〜(IV)中、R〜Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルケン基、炭素数1〜4のアルコキシ基、及び炭素数1〜4のアシル基からなる群から選ばれるいずれかの官能基を表すものであることが、フリーラジカルの消去活性が高いものであることから、好ましい。
【0061】
さらに、前記有効成分が、上述した式(V)〜(VII)で表されるいずれかの化合物、生理学的に許容されるそれらの塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれるものであることが、さらに高いフリーラジカル消去活性が発揮されるとともに、上述した抗癌活性と癌細胞の周辺組織への浸潤を阻害する活性とをあわせて発揮することから、さらに好ましい。
【0062】
ここで、上記の抗癌剤中における前記有効成分の含量は、製剤の1用量当たり0.1〜1,000mgであることが好ましく、0.5〜500mgであることがより好ましい。
【0063】
また、上記抗癌剤は、経口投与、静脈内投与、又は腹腔内投与が可能な剤形であることが好ましく、錠剤、散剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、トローチ剤、及び液剤からなる群から選ばれるものであることが好ましい。
上記の化合物を有効成分する抗癌剤は、上記以外の粉剤その他の固形剤としてもよく、注射剤用の凍結乾燥製剤、リポソーム剤等、各種の剤形とすることもできる。
【0064】
上述したように製造したこれらの化合物、生理学的に許容されるそれらの塩、及びそれらの水和物を用いて製剤を製造する場合には、常法に従って、粉末とした後に散剤としてもよく、公知の賦形剤、崩壊剤等とともに打錠し、錠剤、トローチ剤等にしてもよい。錠剤の場合には、必要に応じて白糖その他の糖等を用いて、単層又は複数の層でコーティングを行い、糖衣錠としてもよい。また、矯味・矯臭剤を添加してもよい。
【0065】
また、これらを適当な溶媒に溶解し、常法に従って乾燥させ、顆粒剤としてもよい。さらに、上記のような粉剤、顆粒剤を所定の大きさの軟カプセル又は硬カプセルに充填し、カプセル剤とすることもできる。
【0066】
液剤とする場合には、必要に応じて、pH調整剤、分散剤等を添加することもできる。リポソーム剤とする場合には、適当なリン脂質を選択し、溶液中でこれらとともに懸濁することによって、製造することができる。
【0067】
上記の癌細胞の周辺組織浸潤阻害剤中における前記有効成分の含量は、製剤の1用量当たり0.05〜800mgであることが好ましく、0.1〜400mgであることがより好ましい。
【0068】
また、上記癌細胞の周辺組織浸潤阻害剤は、経口投与、静脈内投与、又は腹腔内投与が可能な剤形であることが好ましく、錠剤、散剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、トローチ剤、及び液剤からなる群から選ばれるものであることが好ましい。
上記の化合物を有効成分する周辺組織浸潤阻害剤は、上記以外の粉剤その他の固形剤としてもよく、注射剤用の凍結乾燥製剤、リポソーム剤その他の各種の剤形とすることができる。こうした製剤は、上記と同様にして行うことができる。
【0069】
ここで、上記のフリーラジカル消去剤中における前記有効成分の含量は、製剤の1用量当たり0.01〜100mgであることが好ましく、0.02〜300mgであることがより好ましい。
【0070】
また、上記フリーラジカル消去剤は、経口投与、静脈内投与、又は腹腔内投与が可能な剤形であることが好ましく、錠剤、散剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、トローチ剤、及び液剤からなる群から選ばれるものであることが好ましい。
上記の化合物を有効成分するフリーラジカル消去剤は、上記以外の粉剤その他の固形剤としてもよく、注射剤用の凍結乾燥製剤、リポソーム剤その他の各種の剤形とすることができる。こうした製剤は、上記と同様にして行うことができる。
【実施例】
【0071】
(実施例1)菌の探索と分離・同定
(1−1)試薬等
以下の試薬を使用した。
塩化カルシウム、炭酸カルシウム、ブドウ糖、グリセロール、硫酸マグネシウム7水和物(MgSO4・7H2O)、硫酸鉄7水和物(FeSO4・7H2O)、塩化マンガン(MnCl2SO4・4H2O)4水和物、硫酸ニッケル4水和物(NiSO4・4H2O)、硫酸亜鉛4水和物(ZnSO4・4H2O)、水酸化ナトリウム、塩化ナトリウム、NZケース(NZ Case)、NZアミン(NZ Amine)、溶性でんぷん(Soluble Starch)、メタノール、アセトン、アセトニトリル、リン酸水素2カリウム(K2HPO4)、リン酸水素2ナトリウム12水和物(Na2HPO4・12H2O)、リン酸水素2ナトリウム、ギ酸、塩酸、没食子酸、1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジル(DPPH)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ビタミンC、ビタミンE、ゲランガム(Gellan gum)、Cell Counting Kit及び寒天は、和光純薬工業(株)より購入した。
【0072】
トリプトンはDifco Laboratoriesより、肉エキス及び酵母エキスは極東製薬工業(株)より購入した。D−セリン及びDL−セリンは、シグマ−アルドリッチジャパン(株)(SIGMA-ALDRICH Japan K.K.)より、L−セリンは日本理化学(株)より購入した。
ファーマメディア(Pharmamedia)はTraders Protein社より購入した。
NMR用メタノールは関東化学(株)より、また、NMR用DMSOはセティ(株)より、それぞれ購入した。
【0073】
ウシ胎児血清(FBS)はJRH Biosciences社より、RPMI1640培地はInvitrogen-Gibco社より、それぞれ購入した。動物細胞は、富山大学和漢薬研究所病態生理学研究室にて済木育夫教授らにより樹立されたマウス大腸癌由来細胞Colon 26 L-5を使用した。MOPSは、同仁化学(株)より購入し、ヘマトキシリン及びエオシンは、武藤化学(株)より購入した。
【0074】
(1−2)菌の探索
探索源として、下記表1に示す堆肥を使用した。これらの堆肥を滅菌シャーレ上で風乾し、乾燥後の堆肥を乳鉢で細かく粉砕した。
【0075】
【表1】

【0076】
粉砕した堆肥1gを、10mLのYS培地に懸濁し、ボルテックスミキサーで1分間攪拌した後に、室温にて30分間静置した。YS培地の組成を下記表3に示す。
【0077】
【表2】

【0078】
静置30分後、この懸濁液をYS培地で、順次10倍に段階希釈した。適当な濃度に調整した懸濁液0.1mLをBn2平板培地又はHMG平板培地2枚に、コンラージ棒にて塗布し、各平板培地を表1に示す温度に設定した恒温器(恒温器:ADVANTEC INCUBATOR CI-612)に入れ、2〜4週間培養し、出現したコロニーから釣菌し、菌を単離した。上記の試料から、約60株が得られた。
下記の表3及び4に、Bn2培地及びHMG培地の組成を示す。
【0079】
【表3】

【0080】
【表4】

*1,*2:詳細は、下記表5及び表6に示す。
【0081】
ここで、上記HMG培地で使用した金属溶液の組成及びフミン酸溶液の組成を下記表5及び6に示す。
【0082】
【表5】

【0083】
【表6】

【0084】
(1−3)菌の同定
以上のようにして得られた菌株の分類学的性質を、「放線菌の分類と同定」(日本放線菌学会編、日本学会事務センター刊 2001年2月)に従って決定した。
菌の同定に使用したISP(International Streptomyces Project)培地No.2及び同No.4は、DIFCO社より購入した。また、ISP培地No.3、同No.5、及び同No.7培地としては、日本放線菌学会規格放線菌培地ダイゴNo.3、No.5、及び同No.7を日本製薬(株)より購入した。
色調は標準として、『新色名事典』(財団法人日本色彩研究所 1987年)を用いて決定し、色標名とともに括弧内にそのコードを併せて記した。観察は32℃、4週間目の各種培地における結果である。
【0085】
本菌株の分類学的性質は下記の通りであった。
(1)形態学的性質
ループ状の気菌糸と、表面が平滑な球形の胞子が5〜10個連鎖した胞子とを有する(図 参照)。
【0086】
(2)寒天培地における生育状態
(a)ISP培地No.3(オートミール寒天培地、32℃培養)で良く増殖した。灰みの黄緑色の気中菌糸を着生し、可溶性色素は認められなかった。基底菌糸裏面は灰みの黄色を呈した。
(b)ISP培地No.4(スターチ・無機塩寒天培地、32℃培養)で良く増殖した。白色の気中菌糸を着生し、可溶性色素は認められなかった。基底菌糸裏面は淡い黄色を呈した。
(c)ISP培地No.7(チロシン寒天培地、32℃培養)で良く増殖した。灰みの白色の気中菌糸を着生し、明るい橙色の可溶性色素を認めた。基底菌糸裏面は淡い赤みの黄色を呈した。
【0087】
(d)ISP培地No.2(イースト・麦芽寒天培地、32℃培養)で中程度の増殖が見られた。灰みの黄緑色の気中菌糸を着生し、可溶性色素は認められず、基底菌糸裏面は灰みの黄色を呈した。
(e)ISP培地No.5(グリセリン・アスパラギン寒天培地、32℃培養)では、増殖は不良であった。白色の気中菌糸を着生し、可溶性色素は認められなかった。基底菌糸裏面も白色を呈した。
TP-A0874菌株の各種寒天培地上の生育状態を表7にまとめた。
【0088】
【表7】

【0089】
(3)生理学的性質
(a)ベネット寒天培地(肉エキス0.1%、酵母エキス0.1%、NZアミン0.2%、ブドウ糖1.0%、及び寒天2.0%)において15〜40℃で増殖し、約30℃付近で良好に増殖した。
(b)メラニン様色素生成は陽性である。
(c)利用可能な炭素源は、D−グルコース、D−キシロース、D−フラクトース、D−マンニトールである。一方、利用可能でない糖は、L−アラビノース、スクロース、L−ラムノース、ラフィノース、myo−イノシトールである。
(d)菌体分析の結果、全菌体加水分解物中のジアミノピメリン酸はLL型を含み、グリシンを含むことが明らかになった。全菌体糖としては、ガラクトースとリボースとを含む。
以上の分類学的性質を示したことから、TP-A0874株をStreptomyces sp.と同定した。
【0090】
(1−4)二次代謝産物の探索
TP-A0874株を、100mLの種母培地であるV-22液体培地(溶性デンプン1.0%、ブドウ糖0.5%、NZケース0.3%、酵母エキス0.2%、トリプトン0.5%、K2HPO4 0.1%、MgSO4・7H2O 0.05%、CaCO3 0.3%)が入った500mLのK型フラスコに接種し、200rpm、30℃にて4日間、室温にて振とう培養した(振とう機:サンキ精機(株)RGS-200R)。
【0091】
その後、100mLの生産培地A-3M(ブドウ糖0.5%、グリセロール2.0%、溶性デンプン2.0%、ファーマメディア(Pharmamedia)1.5%、酵母エキス0.3%、Diaion HP-20 1.0%)の入った500mLのK型フラスコ20個に、上記の種母培養液を3mLずつ移植し、200rpm、30℃にて6日間振とう培養した。
【0092】
培養終了後、上記のフラスコから集めた2Lの培養液を5,000回転で10分間遠心し(遠心機:HITACHI himac CR20、ロータ:HITACHI R12A、いずれも日立製作所(株)製)、菌体と水相とを分離した。
次いで、菌体部分に1Lのメタノールを加え、3時間、EYELA NZ(カタログ番号NZ1200 TOKYO RIKAKIKAI社製)で攪拌して抽出するという操作を2回繰り返し、再度、上記のロータを用いて、5,000回転で10分間遠心し、菌体部分とメタノール相とを分離し、減圧濃縮した。
【0093】
この濃縮抽出液と先の水相とを合わせ、ダイヤイオン(Diaion HP-20、三菱化学(株)製、300mL)を充填したカラムを用いるカラムクロマトグラフィーに供した。カラムに吸着した物質を、500mLの蒸留水、500mLの20%メタノール水溶液、500mLの40%メタノール水溶液、500mLの60%メタノール水溶液、500mLの80%メタノール水溶液、500mLの100%メタノール、次いで500mLの100%アセトンをこの順番で用いて、順次溶出した。
【0094】
各溶出画分を、HPLCを用いて下記の条件で分析した結果、40%メタノール画分及び60%メタノール画分、80%メタノール画分、100%メタノール画分に、TP-A0874が産生した化合物が存在することが確認された。
【0095】
<HPLC条件>
装置:HEWLETTPACKARD 1090
溶離液:アセトニトリル:0.15%KH2PO4水溶液(pH3.5)=15:85〜85:15
流 速:1.2mL/min
カラム:MICROSORB-MV 75x4.6mm
カラム温度:室温
【0096】
40%メタノール画分及び60%メタノール画分に存在する化合物をBG32-4-C、80%メタノール画分に存在する化合物をBG32-4-B、100%メタノール画分に存在する化合物をBG32-4-Aとそれぞれ命名した。
【0097】
次いで、これらの画分をロータリーエバポレータ(ROTARY EVAPORATOR REN-1000, IWAKI製)を用いてそれぞれ減圧濃縮し、得られた水溶液を凍結乾燥し、BG32-4-Aを含む粗精製物(1.7g)、BG32-4-Bを含む粗精製物(200mg)、BG32-4-Cを含む粗精製物(1.0g)を得た。
【0098】
次いで、上記の各粗精製物をHPLC用逆相シリカゲルカラムクロマトグラフィー (カラム:Waters XterraTM RP18、7μm、19x300mm)を用いて、以下の条件で分取クロマトグラフィーを行い、分画した。
【0099】
<HPLC条件>
装 置:島津製作所製
システムコントローラ:SCL-10A VP
インジェクタ:SIL-10A
ポンプ:LC-8A
検出機:SPD-M10A VP
溶出溶媒:メタノール:0.1%ギ酸水溶液=30:70〜80:20
流 速:15mL/min
カラム:Waters Xterra RP18
カラム温度:室温
【0100】
分取したそれぞれの画分をロータリーエバポレータ(ROTARY EVAPORATOR REN-1000, IWAKI製)を用いて減圧濃縮後、凍結乾燥して、BG32-4-A(13mg)、BG32-4-B(20mg)及びBG32-4-C(24mg)を得た。
このHPLCのクロマトグラムを図2に示す。
【0101】
(実施例2)菌の産生化合物の構造決定
次に、実施例1で得られた各粗精製物の構造決定を行った。構造決定のために、核磁気共鳴吸収(NMR)、紫外吸光(UV)分析、赤外吸収(IR)分析、質量分析(MS)、旋光度測定を行った。以下の機器を使用して分析を行い、UV及びIRスペクトラムの結果と合わせて、構造決定を行った。
【0102】
H 及び 13C NMR:BRUKER ULTRASHIELDTM 500(500MHz)
UV:HITACHI U-3210
IR:PerkinElmer Spectrum 100
MS:BRUKER DALTONICOS micro TOF
旋光度:JASCO P-1030
【0103】
(2−1)BG32-4-Aの構造決定と物性
H-NMRの結果、メチル基由来のシグナルが1個、メチン及びメチレンのシグナルが9プロトン分、芳香族水素が3プロトン分観測された。13C-NMRの結果、0〜70ppmの高磁場にシグナルが6個、芳香族炭素のシグナルが6個、カルボニル炭素のシグナルが2個、計14個のシグナルが観測された(CD3OD、30℃)。
BG32-4-AのNMRデータを下記表8に示す。
【0104】
【表8】

【0105】
次いで、炭素と水素の直接結合をHMQC(Heteronuclear Multiple Quantum Coherence)により決定した。COSYにより図2の太線で示すプロトン間のつながりを決定した。更に、HMBC及びNOESYスペクトルを解析することによって図3に示す相関が確認できた。以上の結果からBG32-4-Aの平面構造を決定した。
更に、HMBC(Heteronuclear Multiple-Bond Correlation)法)及びNOESY(nuclear Overhauser enhancement and exchange spectroscopy)スペクトルを解析することによって、図3に示す相関が確認できた。以上の結果からBG32-4-Aの平面構造を決定した。
BG32-4-Aの物理化学的性質を表9に示す。
【0106】
【表9】

【0107】
上記表9におけるHPLC条件は下記の通りである。
カラム:MICROSORB-MVTM (75xi.d. 4.6mm、バリアン・テクノロジーズ・ジャパン・リミテッド)
移動相:CH3CN:0.15% KH2PO4(pH3.5)(15:85〜85:15)
流 速:1.2mL/min
温 度:30℃
検 出:UV 254nm
【0108】
BG32-4-Aは淡黄色の油状物質として得られ、紫外吸収スペクトルでは、210nm、247nm及び318nmに極大吸収を示した。赤外スペクトルでは3356cm-1にOH伸縮振動に由来する吸収帯が観測された。
また、質量分析では、高分解能ESI-TOF-MSにより[M+Na]がm/z 321.1101に検出された。このため、分子式をC14H19NO6と決定した。
【0109】
(2−2)BG32-4-Bの構造決定と物性
1H-NMRでは、メチンとメチレンのシグナルが9プロトン分、芳香族水素が9プロトン分、NHプロトンが3プロトン分観測された。13C-NMRでは、0〜70ppmの高磁場にシグナルが6個、芳香族炭素のシグナルが18個、カルボニル炭素のシグナルが6個、計30個のシグナルが観測された(DMSO-d6,30℃)。
BG32-4-BのNMRデータを下記表10に示す。
【0110】
【表10】

【0111】
次いで、炭素と水素の直接結合をHMQCにより決定した。COSYにより図4の太線で示すプロトン間のつながりを決定した。更に、HMBC及びNOESYスペクトルを解析することによって図4に示す相関が確認できた。以上の結果からBG32-4-Bの平面構造を決定した。
BG32-4-Bの物理化学的性質を表11に示す。
【0112】
【表11】

【0113】
上記表11におけるHPLC条件は、下記の通りである。
カラム:MICROSORB-MVTM (75x4.6mm)
移動相:CH3CN:0.15%KH2PO4(pH3.5)(15:85〜85:15)
流 速:1.2mL/min
温 度:30℃
検 出:UV 254nm
【0114】
BG32-4-Bは淡黄色の油状物質として得られた。紫外吸収スペクトルでは209nm、248nm及び318nmに極大吸収を示した。赤外スペクトルでは3355cm-1にOH伸縮振動に由来する吸収帯が観測された。
また、質量分析では高分解能ESI-TOF-MSにより、[M-H]-がm/z 686.1468に検出された。このため、分子式をC30H29N3O16と決定した。
【0115】
(2−3)BG32-4-Cの構造決定と物性
1H-NMRでは、メチンとメチレンのシグナルが6プロトン分、芳香族水素が6プロトン分、NHプロトンが2プロトン分観測された。13C-NMRでは、0〜70ppmの高磁場にシグナルが4個、芳香族炭素のシグナルが12個、カルボニル炭素のシグナルが4個、計20個のシグナルが観測された(DMSO-d6,30℃)。
BG32-4-CのNMRデータを下記表12に示す。
【0116】
【表12】

【0117】
次いで、炭素と水素の直接結合をHMQCにより決定した。COSYにより図5の太線で示すプロトン間のつながりを決定した。更に、HMBC及びNOESYスペクトルを解析することによって図5に示す相関が確認できた。以上の結果からBG32-4-Cの平面構造を決定した。
BG32-4-Cの物理化学的性質を下記表13に示す。
【0118】
【表13】

【0119】
上記表13におけるHPLC条件は下記の通りである。
カラム:MICROSORB-MVTM (75x4.6mm)
移動相:CH3CN:0.15%KH2PO4 (pH3.5)(15:85〜85:15)
流 速:1.2mL/min
温 度:30℃
検 出:UV 254nm
【0120】
BG32-4-Cは淡黄色の油状物質として得られた。紫外吸収スペクトルでは208nm、248nm及び315nmに極大吸収を持つ。赤外スペクトルでは3260cm-1にOH伸縮振動に由来する吸収帯が観測された。
また、質量分析では高分解能ESI-TOF-MSにより、[M-H]- がm/z 463.0988に検出された。このため、分子式をC20H20N2O11と決定した。
【0121】
(2−4)絶対配置の決定
上記(2−1)〜(2−3)で構造決定を行ったBG32-4-A、BG32-4-B及びBG32-4-Cの構造中のセリンの立体構造を調べるために、HPLCによるセリンの分析を行った。
BG32-4-A、BG32-4-B及びBG32-4-Cをそれぞれ1mgずつスクリューキャップ付バイアルに取り、これらのバイアルにそれぞれ500μLの6N塩酸を加えた。その後、130℃で4時間、加水分解を行った。
【0122】
放冷後、各バイアルの内容物を濃縮乾固し、得られた酸加水分解物について、下記の条件でHPLC分析を行い、含まれるセリンの分析を行った。結果を図6A〜6Eに示す。
【0123】
HPLC条件
カラム:Sumichiral OA-5000 (4.0 mmφx150 mm,住化分析センター)
移動層:1mM CuSO4水溶液
流 速:0.7 mL/min
温 度:30℃
検 出:UV 254nm
【0124】
その結果、標準のL−セリン(図6A)と同じ保持時間に、BG32-4-Aの酸化水分解物(図6B)のピークが検出された。また、BG32-4-Bの酸加水分解物(図6D)及びBG32-4-Cの酸化水分解物(図6E)のピークも、標準のL−セリン(図6C)と同じ保持時間に、検出された。
このため、BG32-4-A及びBG32-4-B、BG32-4-Cの構造中のセリンは、L体であることが明らかになった。
【0125】
(実施例3)
実施例2で構造決定を行ったBG32-4-A、BG32-4-B及びBG32-4-Cの生物学的活性を検討した。
(3−1)細胞傷害活性
WST-1細胞を使用するCell Counting Kit(和光純薬工業(株))を用いて、細胞傷害活性の測定を行った。10%牛胎児血清を含有するRPMI培地に、マウス大腸癌由来Colon 26L−5細胞を10x104cells/mLになるように懸濁した。
DMSOで溶解した上記の化合物を10〜1000μg/mLでこの細胞懸濁液に添加し、96ウェルマイクロプレートに、100μLずつ加えた(化合物の終濃度は、0.1〜10μg/mL)。
【0126】
5%CO2インキュベータ中にて、37℃で24時間培養した後に、各ウェルにWST-1(和光純薬Cell Counting Kit)を10μLずつ加え、37℃でさらに2時間培養した。
その後、ウェルプレートリーダー(サンライズクラシック、和光純薬工業(株))を用いて、450nmの吸光強度を測定した。コントロールにはDMSOのみを添加し、コントロールを100%としたときの各サンプルの細胞傷害活性を測定した。
その結果、BG32-4-Aは3μg/mLで、BG32-4-B及びBG32-4-Cはそれぞれ10μg/mLで細胞傷害活性が見られなかった。
【0127】
(3−2)基底膜浸潤阻害活性
次に、BG32-4-A、BG32-4-B及びBG32-4-Cの基底膜浸潤阻害活性の測定を、membrane invasion culture system (MICS, Hendrix et al (1985) Clin. Exp. Metastasis 3:221-223)(癌と化学療法 31(4):512−517 2004)を用いて行った。
【0128】
トランスウェル・カルチャー・チャンバー(Transwell cell culture chamber, Corning Coster社製)に、メンブランフィルタ(孔径8.0μm; Nucleopore社製)を接着し、メンブランフィルタの外側に1μgのフィブロネクチン(Iwaki社製)をコーティングし、クリーンベンチ内で2〜3時間乾燥した。
【0129】
その後、メンブレンフィルタの内側に、マトリゲル(Matrigel、BD Science社製)1μgをコーティングし、クリーンベンチ内で終夜乾燥した。24ウェルプレートの各ウェルに、DMSOに溶解した上記の化合物をそれぞれ試料として加え、600μLの0.1%牛血清アルブミン(BSA)含有RPMI1640培地を各ウェルに入れた。
マウス大腸癌由来Colon 26 L−5を4x104 cells/100μLとなるよう同培地に加え、DMSOで溶解したサンプルを、24ウェルプレートの各ウェルにおける最終濃度になるよう加えた。この細胞懸濁液を、フィブロネクチンとマトリゲルとを上記のようにしてコーティングしたトランスウェル・チャンバー内に、100μLずつ分注した。
【0130】
チャンバーを24ウェルプレートに設置し、5%CO2インキュベータ中で37℃にて8時間培養した。培養終了後、設置したチャンバーを24ウェルプレートから外し、エタノールに1分間つけて、細胞を固定した。次いで、ヘマトキシリンに3分間、エオシンに30秒間、それぞれ浸漬して、細胞を染色した。水洗後、綿棒でチャンバー内をふき取り、染色液が付着しなかった細胞を除去した。
【0131】
このようにして得られたメンブラン表面を乾燥させ、光学顕微鏡でメンブランの中心とその周辺4視野の計5視野について、基底膜バリアーを破って浸潤した癌細胞の数をカウントした。その平均値を、基底膜の浸潤阻害活性の指標とした。
コントロールとなるウェルにはDMSOのみを添加し、コントロールを100%としたときの各試料の各濃度における基底膜浸潤阻害活性を測定した。
【0132】
その結果、最終濃度が1.0μg/mLのときの各化合物の癌細胞の浸潤阻害率は、BG32-4-Aが38.2%、BG32-4-Bが44.1%、BG32-4-Cが38.9%であった。BG32-4-Aは3μg/mLで、BG32-4-BとBG32-4-Cは10μg/mLで細胞傷害活性を示さなかった。
以上より、細胞傷害活性を示さない濃度領域で、これらの化合物が癌細胞の浸潤阻害活性を有することが示された。
【0133】
(3−3)フリーラジカル消去能の検討
DPPH法を用いて、BG32-4-A、BG32-4-B及びBG32-4-Cのそれぞれについて、フリーラジカル消去能の測定を行った。この試験においては、高いフリーラジカル消去能を持つ没食子酸を対照として使用した。
【0134】
測定試料としては、100μLの上記3種類の化合物又は没食子酸、100μLのDPPH溶液(メタノール溶液、20mg/10mL)及び4.8mLのメタノールを混合して総量を5mLとなるように調製し、これらを使用した。
また、ブランクとしては、100μLのDPPH溶液(20mg/10mLメタノール溶液)と4.9mLのメタノールとの混合物を使用した。コントロールとしては、100μLのビタミンCの水溶液又はビタミンEのメタノール溶液と、4.9mLのメタノールとの混合物を使用した。
【0135】
それぞれの溶液について、517nmで吸光度を測定した。結果を表14示す。
測定条件は以下の通りである。
吸光高度計:Hitachi U-3210
セル:Quartz cell F10-UV-10.00 (GL Sciences Inc.)
温度:室温
【0136】
【表14】

【0137】
上記表14より、BG32-4-AはコントロールのビタミンC又はEと同程度の濃度でフリーラジカルを50%消去することが示された。また、BG32-4-BとBG32-4-Cとは、コントロールの没食子酸と同程度の濃度でフリーラジカルを50%消去することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明の微生物は、有用な二次代謝産物を産生し、医薬の分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】図1は、ストレプトミセス属に属する新規微生物、TP-A0807の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】図2は、本発明の新規化合物をHPLCに供したときのクロマトグラムである。
【図3】図3は、本発明の1実施形態に係る化合物BG32-4-AのHMBC法のDQF COSYに基づく構造を示す図である。
【図4】図4は、本発明の1実施形態に係る化合物BG32-4-BのHMBC法のDQF COSYに基づく構造を示す図である。
【図5】図5は、本発明の1実施形態に係る化合物BG32-4-CのHMBC法のDFQ COSYに基づく構造を示す図である。
【図6A】図6Aは、標準のL−セリン及びD−セリンのHPLC分析結果を示すクロマトグラムである。
【図6B】図6Bは、本発明の1実施形態に係る化合物BG32-4-Aの酸加水分解物のHPLC分析結果を示すクロマトグラムである。
【図6C】図6Cは、標準のL−セリン及びD−セリンのHPLC分析結果を示すクロマトグラムである。
【図6D】図6Dは、本発明の1実施形態に係る化合物BG32-4-Bの酸加水分解物のHPLC分析結果を示すクロマトグラムである。
【図6E】図6Eは、本発明の1実施形態に係る化合物BG32-4-Cの酸加水分解物のHPLC分析結果を示すクロマトグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特許生物寄託センターに寄託番号NITE P−630として寄託されたストレプトミセス(Streptomyces)属に属する新規微生物。
【請求項2】
請求項1に記載のストレプトミセス(Streptomyces)属に属する新規微生物が産生し、癌細胞の周辺組織浸潤阻害活性、細胞障害活性及びフリーラジカル消去活性を有する下記式(I)〜(III)で表される化合物からなる群から選ばれる新規化合物。
【化1】

【化2】

【化3】

(ここで、Rは、下記式(IV)
【化4】

で表され、R〜Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルケン基、炭素数1〜8のアルコキシ基、及び炭素数1〜8のアシル基からなる群から選ばれるいずれかの官能基を表す。)
【請求項3】
前記式(I)〜(IV)中、R〜Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルケン基、炭素数1〜4のアルコキシ基、及び炭素数1〜4のアシル基からなる群から選ばれるいずれかの官能基を表す、ことを特徴とする、請求項2に記載の新規化合物。
【請求項4】
前記式(I)で表される化合物は、下記式(V)で表される化合物であることを特徴とする、請求項2又は3に記載の新規化合物。
【化5】

【請求項5】
前記式(II)で表される化合物は、下記式(VI)で表される化合物であることを特徴とする、請求項2又は3に記載の新規化合物。
【化6】

【請求項6】
前記式(III)で表される化合物は、下記式(VII)で表される化合物であることを特徴とする、請求項2又は3に記載の新規化合物。
【化7】

【請求項7】
請求項2又は3に記載の化合物、生理学的に許容されるそれらの塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる、いずれかを有効成分とする抗癌剤。
【請求項8】
請求項4〜6のいずれかに記載の化合物、生理学的に許容されるそれらの塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる、いずれかを有効成分とする抗癌剤。
【請求項9】
請求項2又は3に記載の化合物、生理学的に許容されるそれらの塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる、いずれかを有効成分とする、癌細胞の周辺組織浸潤阻害剤。
【請求項10】
請求項4〜6のいずれかに記載の化合物、生理学的に許容されるそれらの塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる、いずれかを有効成分とする、癌細胞の周辺組織浸潤阻害剤。
【請求項11】
請求項2又は3に記載の化合物、生理学的に許容されるそれらの塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる、いずれかを有効成分とする、フリーラジカル消去剤。
【請求項12】
請求項4〜6のいずれかに記載の化合物、生理学的に許容されるそれらの塩、及びそれらの水和物からなる群から選ばれる、いずれかを有効成分とする、フリーラジカル消去剤。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図1】
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【公開番号】特開2010−46004(P2010−46004A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212415(P2008−212415)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(500280825)
【出願人】(000236920)富山県 (197)
【Fターム(参考)】