説明

ストロンチウムの分離方法及び装置

【課題】水溶液中又は含水土壌中のストロンチウムを効率良く分離して、回収又は除去できるようにする。
【解決手段】ストロンチウムを水溶液10または含水土壌から分離するために、ストロンチウムイオンと重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンを含有する水溶液10中または含水土壌中に配設した陽極14、18と陰極16の間に電流密度50μA〜1000μA/cm2の電流を流し、前記陰極16に炭酸ストロンチウムを含有する電着物22として析出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶液中または含水土壌中からストロンチウムを分離する方法及び装置に係り、特に、ストロンチウムイオンを炭酸ストロンチウムとして電極に析出させて、ストロンチウムを回収または除去することが可能なストロンチウムの分離方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸ストロンチウムは、ブラウン管、特殊ガラス、電子材料に添加される。また、蛍光体の原料やフェライト磁石の添加剤として使用されている。日本でもストロンチウム鉱石が産出するものの、採算性が悪く、そのほとんどを輸入に依存している。
【0003】
海水中にはストロンチウムが僅かに(十数ppm)含まれており、この海水から効率良くストロンチウムを回収すれば、日本市場に安定供給が可能である。
【0004】
また、何らかの原因で含水土壌中に拡散したストロンチウムを回収できれば、ストロンチウムで汚染された土壌を清浄化することができ、さらに有用なストロンチウムを回収することもできる。
【0005】
水溶液から金属イオンを回収する従来の方法として、塩を作り沈殿させて回収する方法や、pHを調整し沈殿物を回収する方法、溶液を加熱して残渣として回収する方法がある。
【0006】
しかしながら、これらは、ランニングコスト等の問題があったり、特殊な薬剤や酸やアルカリのように危険な薬剤を使用しなければならなかった。
【0007】
これに対して、近年、重金属捕集剤が広く利用されている。この種の重金属捕集剤として、ジチオカルボキシ基を官能基として有するポリアミン誘導体からなる重金属捕集剤や、フィチン酸からなる重金属捕集剤が知られており、この重金属捕集剤を用いた廃水処理方法も種々提案されている(例えば、特許文献1〜5)。
【0008】
又、特許文献6には、水素イオン濃度をpH値で1乃至3に調整された廃液中に溶解している種々の放射性物質及び重金属元素を、キチン又はキトサンに吸着して除去する方法が記載されている。
【0009】
又、特許文献7には、ストロンチウムイオンを含み複数の金属イオンを含む水溶液を、一般式AM2310(但し、Aは水素又はRNH3(Rは水素又は炭素数1〜10のアルキル基)、Mはアルカリ土類金属、Bは遷移金属をそれぞれ表す)で示されるペロブスカイト型化合物と接触させて、ストロンチウムを分離する方法が記載されている。
【0010】
一方、土壌から効率良く重金属類などを回収する方法として、特許文献8には、土壌中に電極を設置し、電極間に電流を流してイオンを泳動させて、イオンを一部に集めることで土壌を浄化する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特公昭56−39358号公報
【特許文献2】特公昭60−57920号公報
【特許文献3】特公昭64−3549号公報
【特許文献4】特開昭62−65788号公報
【特許文献5】特開2001−240843号公報
【特許文献6】特開平8−68893号公報
【特許文献7】特開2005−230664号公報
【特許文献8】特開2003−320363号公報
【特許文献9】特開2006−124198号公報
【特許文献10】特許第3723851号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】R.A.Humble "Cathodic Protection of Steel in Sea Water with Magnesium Anodes" CORROSION-NATIONAL ASSOCIATION OF CORROSION ENGINEERS vol.4 July,1998 pp358-370
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1乃至7のように、重金属捕集剤やキチン又はキトサンやペロブスカイト型化合物等の消耗品を用いる方法は、経済的でない。
【0014】
又、特許文献8に記載の方法は、炭酸塩として析出させる方法ではない。
【0015】
一方、引用文献9には、水酸化ストロンチウムを水性媒体中で炭酸化反応させることにより、炭酸ストロンチウム微粒子を製造する方法が記載され、特許文献10には、海水と接する地盤造成個所において、地盤を造成すべき個所を囲い壁で囲い、囲い壁内には骨材と陰極部材とを隣接して配置し、囲い壁を陽極とし陰極部材を陰極として直流電源と接続させることにより陰極及びその付近の骨材に電着物を生成する電気化学的地盤造成方法が記載され、非特許文献1には、海水中で電気防食を行うと、電着物(エレクトロコーティング)が付着し、その中に炭酸ストロンチウムが含まれることが記載されているが、いずれも、ストロンチウムを回収したり除去するものではなかった。
【0016】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、水溶液中又は含水土壌中のストロンチウムを効率良く分離して、回収又は除去することが可能なストロンチウムの分離方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、ストロンチウムを水溶液または含水土壌から分離するための方法であって、ストロンチウムイオンと重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンを含有する水溶液中または含水土壌中に配設した陽極と陰極の間に電流密度50μA〜1000μA/cm2の電流を流し、前記陰極に炭酸ストロンチウムを含有する電着物として析出させることにより、前記課題を解決したものである。
【0018】
ここで、前記陽極と陰極の間に外部電源から電流を流すことができる。
【0019】
又、前記陽極を犠牲陽極として、流電陽極方式により前記陽極と陰極の間に電流が流れるようにすることができる。
【0020】
又、前記水溶液中又は含水土壌中の重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンの含有量が不足する場合は、予め前記水溶液または含水土壌に重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンを含有させることができる。
【0021】
又、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムのうち少なくとも1つのイオンを含有する前記水溶液中または含水土壌中からストロンチウムを分離することができる。
【0022】
又、前記土壌の周囲に囲い壁を設置することができる。
【0023】
ここで、前記囲い壁を陽極として使用することができる。
【0024】
又、前記土壌中の含水量が少なく電流が流れない場合は、散水して電流が流れるようにすることができる。
【0025】
又、前記陰極の温度を制御しながら、該陰極に炭酸ストロンチウムを析出させることができる。
【0026】
更に、前記陰極を筒状とし、その内部に熱媒体を循環させることができる。
【0027】
又、前記水溶液のストロンチウムを含む陽イオンの濃度を予めイオン交換膜や逆浸透膜で高めた後、ストロンチウムを分離することができる。
【0028】
又、前記水溶液中又は含水土壌中のストロンチウムに放射性同位体が含まれる場合、前記陰極を鉛で覆うことができる。
【0029】
更に、前記電着物からストロンチウムを分離することができる。
【0030】
本発明は、又、ストロンチウムを水溶液または含水土壌から分離するための装置であって、ストロンチウムイオンと重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンを含有する水溶液中または含水土壌中に配設された陽極及び陰極と、該陽極と陰極の間に電流密度50μA〜1000μA/cm2の電流を流す手段とを備え、前記陰極に炭酸ストロンチウムを含有する電着物として析出させることを特徴とするストロンチウムの分離装置を提供するものである。
【0031】
ここで、前記陽極と陰極の間に電流を流すための外部電源を更に備えることができる。
【0032】
又、前記陽極を犠牲陽極として、流電陽極方式により前記陽極と陰極の間に電流が流れるようにすることができる。
【0033】
又、前記水溶液中または含水土壌中に重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンを含有させる手段を更に備えることができる。
【0034】
又、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムのうち少なくとも1つのイオンを含有する前記水溶液中または含水土壌中からストロンチウムを分離することができる。
【0035】
又、前記土壌の周囲に設置された囲い壁を更に備えることができる。
【0036】
更に、前記囲い壁を陽極として使用することができる。
【0037】
又、前記土壌中の含水量が少なく電流が流れない場合は、散水して電流が流れるようにする手段を更に備えることができる。
【0038】
又、前記陰極の温度を制御する手段を更に備えることができる。
【0039】
又、前記陰極を筒状とし、その内部に熱媒体を循環させる手段を更に備えることができる。
【0040】
又、前記水溶液のストロンチウムを含む陽イオンの濃度を予め高めるためのイオン交換膜や逆浸透膜を更に備えることができる。
【0041】
又、前記陰極を覆う鉛を更に備えることができる。
【0042】
更に、前記電着物からストロンチウムを分離する手段を備えることができる。
【発明の効果】
【0043】
(1)水溶液から金属イオンを回収する方法として、塩を作り沈殿させて回収する方法や、pHを調整し沈殿物を回収する方法、溶液を加熱して残渣として回収する方法があるが、電着を用いた方法は安価で、溶液だけでなく含水土壌中でも適用することができる。
【0044】
(2)使用電圧が小さいため、太陽光発電や風力発電なども使用することができる。これらの自然エネルギーの発電力は常に一定でないものの、間欠的にでも通電すれば電着物は再溶解することが少ない。このため自然エネルギーも適用することができる。
【0045】
従って、本発明によれば、水溶液中又は含水土壌中のストロンチウムを効率良く分離して、回収又は除去することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明において利用可能な(A)外部電源方式と(B)流電陽極方式を示す図
【図2】本発明の第1実施形態を示す図
【図3】本発明の第2実施形態を示す図
【図4】本発明の第3実施形態を示す図
【図5】電着物から炭酸ストロンチウムを分離する方法の一例を示す図
【図6】本発明の第4実施形態を示す図
【図7】本発明の第5実施形態を示す図
【図8】実施例1の実験結果を示す図
【図9】実施例2の実験結果を示す図
【図10】実施例3の実験結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0048】
本発明は、水溶液中または含水土壌中に電流を流せば、ストロンチウムイオンが炭酸ストロンチウムイオンとして電極に析出することに着目してなされたものである。
【0049】
電流を流す方法としては、外部電源方式と流電陽極方式がある。前者の外部電源方式は、図1(A)に例示する如く、外部(直流)電源12から水溶液10中又は含水土壌中に設けた陽極(アノード電極)14と陰極(カソード電極)16の間に強制的に電気を流す方式であり、後者の流電陽極方式は、図1(B)に例示する如く、陰極16よりも卑な金属、例えばマグネシウム、アルミニウム、亜鉛のうち少なくとも一つを犠牲陽極(流電陽極とも称する)18とし、陰極16との電位差によって電気を流す方式である。
【0050】
以下、図1(A)に示した外部電源方式による本発明の第1実施形態について説明する。図2に示す如く、陽極14及び陰極16の両電極を水溶液(例えば海水)10中または含水土壌中に設置して、両電極間に例えば定電流電源20から陰極16に対して50μA〜1000μA/cm2の電流密度の電流を供給すると、水溶液10中または含水土壌中に溶存しているSr2+イオン及びCa2+イオン及びMg2+イオンが電解により、陰極16表面にSrCO3及びCaCO3及びMg(OH)2を主成分とする無機系物質として析出され、電着物22が形成される。陰極16は、炭素鋼、低合金鋼、ステンレス、銅、ニッケル、クロム含有鋼、ニッケル基合金、コバルト基合金など金属であれば制限は無い。陽極14は炭素鋼、低合金鋼、ステンレス、銅、ニッケル、クロム含有鋼、ニッケル基合金、コバルト基合金、珪素鋳鉄や磁性酸化鉄(Fe34)、鋳鉄、鉛、鉛合金、銀、銀合金、白金、白金メッキチタン、黒鉛などを用いることができる。
【0051】
一方、図1(B)に示した流電陽極方式は、電源が不必要であるものの、陰極16と犠牲陽極18との間の電位差が駆動力となるため、高い電圧が得られない。しかし、電圧は数V程度で十分であり、図3に示す本発明の第2実施形態のように、犠牲陽極18として使用されるマグネシウム、アルミニウム、亜鉛などを、例えば炭素鋼でなる陰極16と接続すると、電着物22が得られる。
【0052】
また、太陽電池や風力発電などの自然エネルギーを用いた電源、および鉛蓄電池やリチウム蓄電池などでも外部電源として使用することができる。太陽電池や風力発電など自然エネルギーは天気や気象によって発電量が異なったり、夜間発電できなかったりする。しかし、間欠的でも電流を流せば電着物が付着し、一度付着した電着物は停電の際にも再溶解が少ない。
【0053】
ストロンチウムには幾つかの同位体が存在し、その中には放射性同位体も存在するものの、放射性か否か関係なく電着物として付着させることができる。なお、放射性を有する場合は、陰極16の周囲に鉛を配設して遮蔽することが望ましい。
【0054】
更に、図4に示す本発明の第3実施形態のように、筒状陰極17を用い、その中にヒーター/冷却装置30で温度制御された熱媒体32を循環させて陰極表面の温度を制御することで、高温に制御すると小さな電力で多量の電着物22を付着させることができ、低温に制御すると付着する電着物22は少量なものの、ストロンチウムの割合を高くすることもできる。
【0055】
電着物22として陰極16表面に析出したSrCO3は、例えば図5に例示するようにして、CaCO3やMg(OH)2などの他の電着物から分離することができる。
【0056】
即ち、先ず図5(A)に示す如く、全て混合した電着物22を塩酸などに溶解する(第1溶液と称する)。その後、第1溶液に炭酸ガスCO2を通すと炭酸ストロンチウムSrCO3と炭酸カルシウムCaCO3が沈殿する。沈殿をろ過し回収すると、Mgが分離できる。溶液中に水酸化ナトリウムNaOHを添加すると、Mg(OH)2が沈殿する。
【0057】
次に、図5(B)に示す如く、炭酸ストロンチウムと炭酸カルシウムに硝酸を加えると、炭酸ガスを出しながら溶解する(第2溶液と称する)。これに希硫酸を加えると、硫酸ストロンチウムSrSO4の溶解度が小さいため沈殿する。この沈殿をろ過すると硫酸ストロンチウムとしてカルシウムと分離することができる。
【0058】
また、図5(C)に示す如く、炭酸ストロンチウムと炭酸カルシウムに硝酸を加えると、炭酸ガスを出しながら溶解する(第2溶液)。これを蒸発・乾燥させて、硝酸ストロンチウムと硝酸カルシウムを取り出す。この粉末をアルコール中に入れると、硝酸カルシウムはアルコールに可溶であるが、硝酸ストロンチウムは不溶なので、分離することができる。
【0059】
さらに、図5(D)に示す如く、炭酸ストロンチウムと炭酸カルシウムに硝酸を加えると、炭酸ガスを出しながら溶解する(第2溶液)。この溶液に水酸化カルシウムを加えて弱アルカリ性にすると水酸化ストロンチウムが沈殿するので、これをろ過・乾燥させてカルシウムと分離することができる。
【0060】
なお、ストロンチウムを分離する方法は、図5に限定されない。特に、ストロンチウムの除去が目的で、回収を目的としない場合は、図5のような処理は不要である。
【0061】
又、前記実施形態においては、外部電源として定電流電源20が用いられていたが、外部電源は定電流電源に限定されず、時間的に変化する電流を流すものであったり、間欠的に電流を流すものであっても良い。
【0062】
次に、図6を参照して、本発明を土壌に適用した第4実施形態について説明する。まず、ストロンチウムイオンを含む土壌40において、その区域に沿って所定の高さを有する囲い壁42を設置する。囲い壁42を構成する材料としては、鉄製の鋼矢板、鋼管矢板を用い、地盤面に打ち込んで壁を構成する。囲い壁42は、囲った内部から外部に対しストロンチウムイオンが流出しないように間隙の小さな物が良い。囲い壁42を陽極として使用する場合、外部電源12が必要である。
【0063】
囲い壁42を構成する材料の材質は、一般の鋼矢板、鋼管矢板に使われている炭素鋼や低合金鋼でよい。囲い壁42を陽極として使用する場合、陽極としての囲い壁42は腐食が進行するため、十分厚い材料を確保する必要がある。
【0064】
囲い壁42に囲われる個所には、電着物22を成長させるための陰極16を配置する。土壌40中に水分が少ないと電流が流れないため、土壌中の含水量が少ない場合は散水して十分に水分を含ませる。
【0065】
ストロンチウムを回収するためには、50μA〜1000μA/cm2の電流密度が必要であるが、好ましくは、100μA〜500μA/cm2の電流密度が良い。1000μA/cm2よりも大きな電流密度であると、水酸化マグネシウム成分が多くなり、電着物22中のストロンチウムの割合が減少する。一方、50μA/cm2未満であると、十分に電着物22が付着しない。
【0066】
ストロンチウムが放射性である場合には、陰極16の周囲を鉛製の網44等でカバーすることが望ましい。なお、鉛の形状は網状に限定さない。
【0067】
更に、図6のように陰極16を鉛(44)で囲む代わりに、図7に示す第5実施形態のように、海水などの溶液を循環させる容器50を鉛で製作し、その中に陰極16と陽極18を配置することもできる。
【0068】
このような構造であると、もし陰極16に高濃度の放射性ストロンチウムが付着しても、そのまま鉛容器50を移動させることが可能になる。
【0069】
なお、図7は、図3に示した第2実施形態と同様の犠牲陽極法に適用した例であるが、外部電源法にも、同様に適用できる。
【実施例1】
【0070】
図2に示す配置で陰極16としてSUS304鋼を三重県津市沖の30℃の海水中に浸漬し、60日間、陰極電流密度を数種類変えて通電し、表面積40cm2のSUS304鋼表面に電着物22を付着させた。電着物22を分析すると、ストロンチウムが含まれていることが分かった。実験終了後、付着物を機械的に除去し、その重量を測定した。付着物の組成分析を行い、ストロンチウムの含有率に付着物重量を乗じてストロンチウムの重量を算出した。結果を図8に示す。合わせて適切な電流範囲を超えた比較例1の結果も示す。低電流側では付着物が無く、高電流側では付着物が付くものの電極から水素が多量に発生し、付着物の量が少なかった。
【実施例2】
【0071】
図4に示す配置で実施例1と同じ装置で陰極16としてSUS304鋼製の筒状陰極17を用いて実験を行った。筒状陰極17内の温度を60℃として陰極電流密度を数種類変えて通電すると、図9に示す如く、実施例1と比較して約2倍のストロンチウムが付着した。
【実施例3】
【0072】
図4に示す配置で実施例1と同じ装置で陰極16としてSUS304鋼製の筒状陰極17を用いて実験を行った。筒状陰極17内の温度を20℃として陰極電流密度を数種類変えて通電すると、図10に示す如く、実施例2と比較して8割のエレクトロコーティングが付着したが、このエレクトロコーティングを分析すると、0.11%のストロンチウムが含まれていることが分かった。
【符号の説明】
【0073】
10…水溶液(海水)
12…外部電源
14…陽極
16…陰極
17…筒状陰極
18…犠牲陽極
20…定電流電源
22…電着物
30…ヒーター/冷却装置
32…熱媒体
40…土壌
42…囲い壁
44…鉛製の網
50…鉛容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストロンチウムを水溶液または含水土壌から分離するための方法であって、
ストロンチウムイオンと重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンを含有する水溶液中または含水土壌中に配設した陽極と陰極の間に電流密度50μA〜1000μA/cm2の電流を流し、
前記陰極に炭酸ストロンチウムを含有する電着物として析出させることを特徴とするストロンチウムの分離方法。
【請求項2】
前記陽極と陰極の間に外部電源から電流を流すことを特徴とする請求項1に記載のストロンチウムの分離方法。
【請求項3】
前記陽極を犠牲陽極として、流電陽極方式により前記陽極と陰極の間に電流が流れるようにすることを特徴とする請求項1に記載のストロンチウムの分離方法。
【請求項4】
前記水溶液中又は含水土壌中の重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンの含有量が不足する場合は、予め前記水溶液または含水土壌に重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンを含有させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のストロンチウムの分離方法。
【請求項5】
カルシウム、マグネシウム、ナトリウムのうち少なくとも1つのイオンを含有する前記水溶液中または含水土壌中からストロンチウムを分離することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のストロンチウムの分離方法。
【請求項6】
前記土壌の周囲に囲い壁を設置することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のストロンチウムの分離方法。
【請求項7】
前記囲い壁を陽極として使用することを特徴とする請求項6に記載のストロンチウムの分離方法。
【請求項8】
前記土壌中の含水量が少なく電流が流れない場合は、散水して電流が流れるようにすることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のストロンチウムの分離方法。
【請求項9】
前記陰極の温度を制御しながら、該陰極に炭酸ストロンチウムを析出させることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載のストロンチウムの分離方法。
【請求項10】
前記陰極が筒状とされ、その内部に熱媒体を循環させることを特徴とする請求項9に記載のストロンチウムの分離方法。
【請求項11】
前記水溶液のストロンチウムを含む陽イオンの濃度を予めイオン交換膜や逆浸透膜で高めた後、ストロンチウムを分離することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のストロンチウムの分離方法。
【請求項12】
前記水溶液中又は含水土壌中のストロンチウムに放射性同位体が含まれる場合、前記陰極を鉛で覆うことを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載のストロンチウムの分離方法。
【請求項13】
前記電着物からストロンチウムを分離することを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載のストロンチウムの分離方法。
【請求項14】
ストロンチウムを水溶液または含水土壌から分離するための装置であって、
ストロンチウムイオンと重炭酸イオン及び/又は炭酸イオンを含有する水溶液中または含水土壌中に配設された陽極及び陰極と、
該陽極と陰極の間に電流密度50μA〜1000μA/cm2の電流を流す手段とを備え、
前記陰極に炭酸ストロンチウムを含有する電着物として析出させることを特徴とするストロンチウムの分離装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2013−34955(P2013−34955A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173988(P2011−173988)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】