説明

スパッタリングターゲット及び透明導電膜

【課題】スパッタリング法を用いて透明導電膜を成膜する際に発生する異常放電を抑制し安定にスパッタリングを行うことのできるインジウム含有量が低減されたターゲット、このターゲットを用いて作製した透明導電膜及び透明電極を提供する。
【解決手段】少なくともインジウム、錫及び亜鉛を含有し、ZnSnOで表されるスピネル構造化合物及びInで表されるビックスバイト構造化合物を含む酸化物の焼結体であることを特徴とするスパッタリングターゲット;その製造方法、透明導電膜及び透明電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結して作製したスパッタリングターゲット(以下、単に、スパッタリングターゲット、あるいはターゲットと称する場合がある。)、スパッタリングターゲットからなる透明導電膜に関する。特に、理論相対密度が高く、抵抗の低いターゲット、スパッタリング法を用いて透明導電膜を成膜する際の異常放電の発生を抑制し、安定してスパッタリングを行うことのできるターゲット、インジウム含有量を低減したターゲット、及びそれらのターゲットを用いて作製した透明導電膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、表示装置の発展はめざましく、液晶表示装置(LCD)や、エレクトロルミネッセンス表示装置(EL)、あるいはフィールドエミッションディスプレイ(FED)等が、パーソナルコンピュータや、ワードプロセッサ等の事務機器や、工場における制御システム用の表示装置として使用されている。そして、これら表示装置は、いずれも表示素子を透明導電性酸化物により挟み込んだサンドイッチ構造を備えている。
【0003】
このような透明導電性酸化物としては、非特許文献1に記載されているように、スパッタリング法、イオンプレーティング法、あるいは蒸着法によって成膜されるインジウム錫酸化物(以下、ITOと略称することがある)が主流を占めている。
【0004】
かかるITOは、所定量の酸化インジウムと、酸化錫とからなり、透明性や導電性に優れる他、強酸によるエッチング加工が可能であり、さらに基板との密着性にも優れているという特徴がある。
【0005】
ITOは、透明導電性酸化物の材料として優れた性能を有するものの、希少資源であるだけでなく、生体に対して有害でもあるインジウムを大量に含有(90原子%程度)させなければならないという問題があった。また、インジウム自体がスパッタ時のノジュール(突起物)発生の原因となり、このターゲット表面に発生したノジュールも異常放電の原因の一つにもなっていた。特に、エッチング性の改良を目的としたアモルファスITO膜の成膜に際しては、そのスパッタリングチャンバー内に微量の水や水素ガスを導入するために、ターゲット表面のインジウム化合物が還元されてノジュールがさらに発生しやすくなるという問題が見られた。そして、異常放電が発生すると、飛散物が成膜中又は成膜直後の透明導電性酸化物に異物として付着するという問題が見られた。
【0006】
このように、供給の不安定性(希少性)、有害性、スパッタ時のノジュールの発生の問題からITO中のインジウムを減らす必要があった。しかし、ITO中のインジウムの含有量を90原子%以下に削減しようとするとターゲット中の高抵抗の錫化合物がチャージ(電荷)を持ち異常放電が起こりやすくなったり、ターゲットの抵抗が高くなったり、エッチング速度が遅くなったりする等の問題が生じていた。
【0007】
そこで、ノジュールの発生を防ぎ異常放電を抑える方法として、In(ZnO)(ただし、mは2〜20の整数である。)で表される六方晶層状化合物を含有し、かつ、該六方晶層状化合物の結晶粒径を5μm以下の値とすることが検討されている(特許文献1)。しかし、この方法ではインジウムを90原子%以下に削減するとターゲットの焼結密度や導電性が低下し、異常放電や成膜速度が遅くなる原因となったり、ターゲットの強度が低く割れ易かったり、スパッタリングで成膜した透明導電膜の空気存在下での耐熱性が劣ったりする等の問題があった。また、六方晶層状化合物を安定して生成させるのに高温が必要であり工業的にコストが高くなるとういう問題もあった。
【0008】
また、インジウムを大幅に削減した透明導電膜として、酸化亜鉛−酸化スズを主成分とする透明導電膜の検討もなされている(特許文献2)。しかし、ターゲットの抵抗が非常に高くスパッタリングが困難であったり、異常放電が発生し易かったりするという問題点があった。また、これらの問題を解決するためのスパッタリングターゲットの検討はなされていなかった。
【0009】
また、特許文献3には、スピネル構造(ZnX;式中、Xは正三価以上の原子価を有する元素を表す)を含む異種元素ドープ酸化亜鉛焼結体が開示されているが、ZnSnOで表されるスピネル構造化合物とInで表されるビックスバイト構造化合物を共に含有する場合の効果については何ら検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO01/038599パンフレット
【特許文献2】特開平8−171824号公報
【特許文献3】特開平3−50148号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】「透明導電膜の技術」((株)オーム社出版、日本学術振興会、透明酸化物・光電子材料第166委員会編、1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、スパッタリング法を用いて透明導電膜を成膜する際に発生する異常放電を抑制し安定にスパッタリングを行うことのできるインジウム含有量を低減した、抵抗が低く、理論相対密度が高く、強度が高いスパッタリングターゲット、及びこのスパッタリングターゲットを用いて作製した透明導電膜を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
インジウム、錫、亜鉛を主成分とする酸化物焼結ターゲットは、原料の形態・焼結時の温度履歴・熱処理方法・組成比等で、In(ZnO)(mは2〜20の整数)で表される六方晶層状化合物、SnOで表されるルチル構造化合物、ZnOで表されるウルツ鉱形化合物、ZnSnOで表されるスピネル構造化合物、Inで表されるビックスバイト構造化合物、ZnInで表されるスピネル構造化合物をはじめZnSnO、SnIn12等の結晶構造を含む可能性がある。また、それらの結晶構造が様々な組合せを取り得ると考えられる。
【0014】
数多くの化合物の組合せのうちZnSnOで表されるスピネル構造化合物及びInで表されるビックスバイト構造化合物を併せて含有したものは、抵抗が低く、理論相対密度が高く、強度の高いターゲットとなりうることを見出した。この効果の理由は完全には解明できていないが、特定の焼結条件・組成では、ZnSnOで表されるスピネル構造化合物にInが、Inで表されるビックスバイト構造化合物にSn等が固溶しやすくなるためと推測される。つまり、正二価のZnが存在すると正四価のSnが、正三価のInを含むInに固溶しやすくなったり、正二価のZnと正四価のSnが近接しているとZnSnOに正三価のInが固溶しやすくなるためと推測される。
【0015】
また、このターゲットを用いてスパッタリング法で成膜した透明導電膜は、インジウム含有量が削減されていても導電性、エッチング性、耐熱性等に優れ、液晶ディスプレイに代表されるディスプレイやタッチパネル、太陽電池等各種の用途に適していることを見出した。
さらに、このターゲットは安定にスパッタリングが行なえるため、成膜条件を調整するなどしてTFT(薄膜トランジスタ)に代表される透明酸化物半導体の成膜にも適用できることを見出した。
【0016】
本発明によれば、以下のスパッタリングターゲット、その製造方法、透明導電膜及び透明電極が提供される。
[1]少なくともインジウム、錫及び亜鉛を含有し、ZnSnOで表されるスピネル構造化合物及びInで表されるビックスバイト構造化合物を含む酸化物の焼結体であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
[2]In/(In+Sn+Zn)で表わされる原子比が0.25〜0.6の範囲内、Sn/(In+Sn+Zn)で表わされる原子比が0.15〜0.3の範囲内、及びZn/(In+Sn+Zn)で表わされる原子比が0.15〜0.5の範囲内の値であることを特徴とする上記[1]記載のスパッタリングターゲット。
【0017】
[3]X線回折(XRD)におけるピークについて、ZnSnOで表されるスピネル構造化合物の最大ピーク強度(I(ZnSnO))と、Inで表されるビックスバイト構造化合物の最大ピーク強度(I(In))の比(I(ZnSnO)/I(In))が、0.05〜20の範囲内であることを特徴とする上記[1]又は[2]記載のスパッタリングターゲット。
[4]X線回折(XRD)におけるピークについて、
SnOで表されるルチル構造化合物の最大ピーク強度(I(SnO))、
ZnSnOで表されるスピネル構造化合物の最大ピーク強度(I(ZnSnO))、及び
Inで表されるビックスバイト構造化合物の最大ピーク強度(I(In))
が下記の関係を満たすことを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれか記載のスパッタリングターゲット。
I(SnO)<I(ZnSnO)
I(SnO)<I(In
I(SnO)<Max.(I(ZnSnO)、I(In))÷10
[上記関係式中、(Max.(X,Y)は、XとYのいずれか大きい方を表す。]
【0018】
[5]X線回折(XRD)におけるピークについて、
ZnOで表されるウルツ鉱形化合物の最大ピーク強度(I(ZnO))、
ZnSnOで表されるスピネル構造化合物の最大ピーク強度(I(ZnSnO))、及び
Inで表されるビックスバイト構造化合物の最大ピーク強度(I(In))
が下記の関係を満たすことを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれか記載のスパッタリングターゲット。
I(ZnO)<I(ZnSnO)
I(ZnO)<I(In
I(ZnO)<Max.(I(ZnSnO)、I(In))÷10
[上記関係式中、(Max.(X,Y)は、XとYのいずれか大きい方を表す。]
【0019】
[6]X線回折(XRD)におけるピークについて、
In(ZnO)(mは2〜20の整数を表す。)で表される六方晶層状化合物の最大ピーク強度(I(In(ZnO)))、
ZnSnOで表されるスピネル構造化合物の最大ピーク強度(I(ZnSnO))、
Inで表されるビックスバイト構造化合物の最大ピーク強度(I(In))
が下記の関係を満たすことを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれか記載のスパッタリングターゲット。
I(In(ZnO))<I(ZnSnO)
I(In(ZnO))<I(In
I(In(ZnO))<Max.(I(ZnSnO)、I(In))÷10
[上記関係式中、(Max.(X,Y)は、XとYのいずれか大きい方を表す。]
【0020】
[7]電子線マイクロアナライザー(EPMA)の画像において、インジウムリッチな部分S(In)と鉛リッチな部分S(Zn)とが海島構造を形成し、その面積比S(Zn)/S(In)が0.05〜100の範囲内であることを特徴とする上記[1]〜[6]のいずれか記載のスパッタリングターゲット。
[8]Inで表されるビックスバイト構造化合物の結晶粒径が10μm以下であることを特徴とする上記[1]〜[7]のいずれか記載のスパッタリングターゲット。
[9]バルク抵抗が0.3〜100mΩ・cmの範囲内であることを特徴とする上記[1]〜[8]いずれか記載のスパッタリングターゲット。
[10]理論相対密度が90%以上であることを特徴とする上記[1]〜[9]いずれか記載のスパッタリングターゲット。
[11]インジウム化合物の粉末、亜鉛化合物の粉末、及びそれらの粉末の粒子径よりも小さい粒子径の錫化合物粉末を、In/(In+Sn+Zn)で表わされる原子比が0.25〜0.6の範囲内、Sn/(In+Sn+Zn)で表わされる原子比が0.15〜0.3の範囲内、及びZn/(In+Sn+Zn)で表わされる原子比が0.15〜0.5の範囲内の割合で配合した混合物を得る工程と、
該混合物を加圧成形し成形体を作る工程と、
該成形体を焼結する工程と、
を含む上記[1]〜[10]のいずれか記載のスパッタリングターゲットの製造方法。
[12]上記[1]〜[10]いずれか記載のスパッタリングターゲットをスパッタリング法により成膜してなる透明導電膜。
[13]上記[12]記載の透明導電膜をエッチングして得られる透明電極。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、抵抗が低く、理論相対密度が高く、強度が高いスパッタリングターゲットが提供できる。
本発明によれば、導電性、エッチング性、耐熱性等に優れ、PAN(リン酸、酢酸、硝酸の混酸)耐性を有する透明導電膜が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1で得られたターゲットのX線回折のチャートを示す図である。
【図2】実施例3で得られたターゲットのX線回折のチャートを示す図である。
【図3】実施例4で得られたターゲットのX線回折のチャートを示す図である。
【図4】本発明のターゲットにおいて、電子線マイクロアナライザー(EPMA)によるターゲット断面の元素分析について、インジウム(In)リッチリッチ相と亜鉛(Zn)リッチ相とが分離した海島構造の概念を示す図である。
【図5】実施例1で得られたターゲットの電子線マイクロアナライザー(EPMA)によるターゲット断面の元素分析画像である。
【図6】比較例1で得られたターゲットの電子線マイクロアナライザー(EPMA)によるターゲット断面の元素分析画像である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
I.スパッタリングターゲット
本発明のスパッタリングターゲット(以下、本発明のターゲットという)は、少なくともインジウム、錫及び亜鉛を含有し、ZnSnOで表されるスピネル構造化合物及びInで表されるビックスバイト構造化合物を含む酸化物の焼結体であることを特徴とする。
上述したように、ZnSnOで表されるスピネル構造化合物及びInで表されるビックスバイト構造化合物を共に含むことにより、抵抗が低く、理論相対密度が高く、強度の高いターゲットとなる。
【0024】
ここで、スピネル構造化合物について説明する。
「結晶化学」(講談社、中平光興 著、1973)等に開示されている通り、通常ABの型あるいはABXの型をスピネル構造と呼び、このような結晶構造を有する化合物をスピネル構造化合物という。
【0025】
一般にスピネル構造では陰イオン(通常は酸素)が立方最密充填をしており、その四面体隙間及び八面体隙間の一部に陽イオンが存在している。
【0026】
尚、結晶構造中の原子やイオンが一部他の原子で置換された置換型固溶体、他の原子が格子間位置に加えられた侵入型固溶体もスピネル構造化合物に含まれる。
【0027】
本発明のターゲットの構成成分であるスピネル構造化合物は、ZnSnOで表される化合物である。すなわち、X線回折で、JCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standards)データベースのNo.24−1470のピークパターンか、あるいは類似の(シフトした)パターンを示す。
【0028】
次に、ビックスバイト構造化合物について説明する。ビックスバイト(bixbyite)は、希土類酸化物C型あるいはMn(I)型酸化物とも言われる。「透明導電膜の技術」((株)オーム社出版、日本学術振興会、透明酸化物・光電子材料第166委員会編、1999)等に開示されている通り、化学量論比がM(Mは陽イオン、Xは陰イオンで通常酸素イオン)で、一つの単位胞はM16分子、合計80個の原子(Mが32個、Xが48個)により構成されている。本発明のターゲットの構成成分であるビックスバイト構造化合物は、これらの内、Inで表される化合物、すなわちX線回折で、JCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standards)データベースのNo.06−0416のピークパターンか、あるいは類似の(シフトした)パターンを示すものである。
【0029】
尚、結晶構造中の原子やイオンが一部他の原子で置換された置換型固溶体、他の原子が格子間位置に加えられた侵入型固溶体もビックスバイト構造化合物に含まれる。
【0030】
ターゲット中の化合物の結晶状態は、ターゲット(焼結体)から採取した試料をX線回折法により観察することによって判定することができる。
【0031】
本発明のターゲットは、In/(In+Sn+Zn)で表わされる原子比が0.25〜0.6の範囲内、Sn/(In+Sn+Zn)で表わされる原子比が0.15〜0.3の範囲内、及びZn/(In+Sn+Zn)で表わされる原子比が0.15〜0.5の範囲内の値であることが好ましい。
【0032】
ここで、本発明のターゲットにおける上記原子比は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析によって測定することができる。
【0033】
In/(In+Sn+Zn)で表される原子比が0.25より小さいとターゲットのバルク抵抗が高くなったり密度が低くなるおそれがあり、またスパッタリングによって得られる透明導電膜の抵抗が高くなるおそれがある。0.6より大きいとインジウム削減効果が得られないおそれがある。
【0034】
Sn/(In+Sn+Zn)で表される原子比が0.15より小さいと、ターゲットの強度が低下したり、バルク抵抗が高くなるおそれがある。また、スパッタリングによって得られる透明導電膜の大気下での耐熱性が低下したり、接触抵抗が大きくなり、配線との接続後の耐久性が低下したり、プローブ検査ができなくなるおそれがあり、0.3より大きいとウェットエッチングが困難となるおそれがある。
【0035】
Zn/(In+Sn+Zn)で表される原子比が0.1より小さいとウェットエッチングが困難となるおそれがあり、0.6より大きいとスパッタリングによって得られる透明導電膜の耐熱性や導電性が低下するおそれがある。
【0036】
また、原子の原子比が上記範囲からはずれると、焼結条件を変更してもZnSnOで表されるスピネル構造化合物及びInで表されるビックスバイト構造化合物を共に含有させることができないおそれがある。
【0037】
In/(In+Sn+Zn)で表される原子比は、0.26〜0.59の範囲内であることがより好ましく、0.26〜0.52の範囲内であることがさらに好ましく、0.31〜0.49の範囲内であることが特に好ましい。
【0038】
Sn/(In+Sn+Zn)で表される原子比は、0.17〜0.24の範囲内であることがより好ましく、0.19〜0.24の範囲内であることがさらに好ましく、0.21〜0.24の範囲内であることが特に好ましい。
【0039】
Zn/(In+Sn+Zn)で表される原子比は、0.19〜0.49の範囲内であることがより好ましく、0.2〜0.49の範囲内であることがさらに好ましく、0.21〜0.45の範囲内であることが特に好ましい。
【0040】
本発明のターゲットにおいて、X線回折(XRD)におけるピークについて、ZnSnOで表されるスピネル構造化合物の最大ピーク強度(I(ZnSnO))と、Inで表されるビックスバイト構造化合物の最大ピーク強度(I(In))の比(I(ZnSnO)/I(In))は、0.05〜20の範囲内であることが好ましい。
【0041】
上記最大ピーク強度の比(I(ZnSnO)/I(In))が0.05より小さいと、ZnSnOで表されるスピネル構造化合物が少なく、高温にしないとターゲットの密度が上がりにくかったり、ターゲットの強度が低下しやすかったり、SnのInへの固溶が不安定となり微量のSnO(絶縁体)が発生し異常放電が発生しやすくなる等のおそれがある。また、上記最大ピーク強度の比(I(ZnSnO)/I(In))が20より大きいと、Inで表されるビックスバイト構造化合物が少なくターゲットの抵抗が高くなるおそれがある。
【0042】
上記最大ピーク強度の比(I(ZnSnO)/I(In))は、0.1〜10の範囲内であることがより好ましく、0.15〜7の範囲内であることがさらに好ましく、0.2〜5の範囲内であることが特に好ましく、0.7〜4の範囲内であることが最も好ましい。
上記最大ピーク強度の比は、X線回折(XDR)により求めたチャートより、任意の範囲(例えば、2θ=15〜65°の範囲)に存在する最大ピーク強度から計算することによって求めることができる。
【0043】
また、特にターゲットの抵抗を低下させたい場合には、上記最大ピーク強度の比(I(ZnSnO)/I(In))が1より大きいことが好ましい。また、ターゲットの焼結密度を向上させたい場合には上記最大ピーク強度の比(I(ZnSnO)/I(In))が1より小さいことが好ましい。
【0044】
さらに、ZnSnOで表されるスピネル構造化合物及びInで表されるビックスバイト構造化合の最大ピーク強度が共に、それ以外の化合物の最大ピーク強度より大きいことが両構造の化合物を含有する効果が発揮されるため好ましい。
【0045】
本発明のターゲットにおいては、X線回折(XRD)におけるピークについて、
SnOで表されるルチル構造化合物の最大ピーク強度(I(SnO))、
ZnSnOで表されるスピネル構造化合物の最大ピーク強度(I(ZnSnO))、及び
Inで表されるビックスバイト構造化合物の最大ピーク強度(I(In))
が下記の関係を満たすことが好ましい。
I(SnO)<I(ZnSnO)
I(SnO)<I(In
I(SnO)<Max.(I(ZnSnO),I(In))÷10
[上記関係式中、(Max.(X,Y)は、XとYのいずれか大きい方を表す。]
【0046】
また、本発明のターゲットにおいては、X線回折(XRD)におけるピークについて、
ZnOで表されるウルツ鉱形化合物の最大ピーク強度(I(ZnO))、
ZnSnOで表されるスピネル構造化合物の最大ピーク強度(I(ZnSnO))、及び
Inで表されるビックスバイト構造化合物の最大ピーク強度(I(In))
が下記の関係を満たすことが好ましい。
I(ZnO)<I(ZnSnO)
I(ZnO)<I(In
I(ZnO)<Max.(I(ZnSnO),I(In))÷10
[上記関係式中、(Max.(X,Y)は、XとYのいずれか大きい方を表す。]
【0047】
上記関係式は、本発明のターゲットが、SnOで表されるルチル構造化合物及び/又はZnOで表されるウルツ鉱形化合物の含有量が少ない、あるいは実質的に含有しないことを意味する。
【0048】
ここで、ルチル構造化合物とは、AX型化合物で、稜を共有した正八面体の鎖が正方晶系のL軸に並行に走り、陽イオンは体心正方の配列をとっている化合物である。本発明でいうルチル構造化合物は、これらの内、SnOで表される化合物である。
ウルツ鉱形化合物とは、四配位をとるAX型化合物で、六方充填の型をとる化合物である。本発明でいうウルツ鉱形化合物は、これらの内、ZnOで表される化合物である。
【0049】
さらに、本発明のターゲットは、SnIn12で表される複酸化物を実質的に含まないことが好ましい。
SnZn12で表される複酸化物については、「まてりあ」、第34巻、第3号(1995)、344−351等に開示されている。
【0050】
本発明のターゲットが、SnOで表されるルチル構造化合物あるいはZnOで表されるウルツ鉱形化合物を多く含むと、ターゲットのバルク抵抗が上昇したり、ターゲットの相対密度が低下したりする等の問題が発生するおそれがある。
また、SnIn12で表される複酸化物を含むと、SnIn12のスパッタリングレートが遅いため、ノジュール発生の原因となるおそれがある。
【0051】
本発明のターゲットにおいては、X線回折(XRD)におけるピークについて、
In(ZnO)(mは2〜20の整数を表す。)で表される六方晶層状化合物の最大ピーク強度(I(In(ZnO)))、
ZnSnOで表されるスピネル構造化合物の最大ピーク強度(I(ZnSnO))、
Inで表されるビックスバイト構造化合物の最大ピーク強度(I(In))
が下記の関係を満たすことが好ましい。
I(In(ZnO))<I(ZnSnO)
I(In(ZnO))<I(In
I(In(ZnO))<Max.(I(ZnSnO),I(In))÷10
[上記関係式中、(Max.(X,Y)は、XとYのいずれか大きい方を表す。]
【0052】
上記関係式は、本発明のターゲットがIn(ZnO)(mは2〜20の整数)で表される六方晶層状化合物の含有量が少ない、あるいは実質的に含まないことを意味している。
ここで、六方晶層状化合物とは、L. Dupont et al., Journal of Solid State Chemistry 158, 119-133(2001)、Toshihiro Moriga et al., J. Am. Ceram. Soc., 81(5) 1310-16(1998)等に記載された化合物であり、本発明でいう六方晶層状化合物とは、In(ZnO)(mは2〜20の整数)あるいはZnInk+3(kは整数)で表される化合物である。
【0053】
本発明のターゲットが、In(ZnO)(mは2〜20の整数)で表される六方晶層状化合物を多く含有していると、ターゲットの抵抗が高くなったり、異常放電が発生したり、ターゲットの強度が不十分で割れ易かったり等のおそれがある。
【0054】
本発明のターゲットにおいて、電子線マイクロアナライザー(EPMA)によるターゲット断面の元素分析について、インジウム(In)リッチな部分(以下、インジウム(In)リッチ相という)と亜鉛(Zn)リッチな部分(以下、亜鉛(Zn)リッチ相という)が分離した海島構造(図4に概念図を示す)を示し、InとZnの画像から算出した面積S(In)、S(Zn)の面積比S(Zn)/S(In)が0.05〜100の範囲であることが好ましい。面積比S(Zn)/S(In)は、0.05〜20であることがより好ましく、0.1〜10であることがさらに好ましく、0.2〜5であることが特に好ましい。
ここでリッチ相とはEPMAによる分析で周辺の元素密度より高い(通常1.5〜2倍以上)部分をいう。
【0055】
インジウム(In)リッチ相と亜鉛(Zn)リッチ相とが海島構造をとらなかったり、面積S(In)、S(Zn)の面積比S(Zn)/S(In)が0.05〜100の範囲外であるとターゲットの密度が低くなったり、バルク抵抗が高くなったり、強度が低下するおそれがある。特に海島構造をとらない場合にバルク抵抗が高くなりやすい。これは、海島構造が構成されないと、正三価のIn化合物に正二価のZnが多く固溶した状態となってキャリアトラップとなりキャリア密度が低下しバルク抵抗が高くなるためと推察される。
【0056】
本発明のターゲットにおいては、Inで表されるビックスバイト構造化合物の結晶粒径が10μm以下であることが好ましく、6μm以下がより好ましく、4μm以下が特に好ましい。
Inで表されるビックスバイト構造化合物の結晶粒径が10μmより大きいと異常放電やノジュールが発生しやすくなるおそれがある。
【0057】
各化合物の結晶粒径は、電子線マイクロアナライザー(EPMA)によって測定することができる。
【0058】
本発明のターゲットは、バルク抵抗が100mΩ・cm以下であることが好ましく、また、理論相対密度が90%以上であることが好ましい。
ターゲットのバルク抵抗が高かったり、理論相対密度が90%より小さかったりすると放電中にターゲットが割れる原因となるおそれがある。
【0059】
本発明のターゲットのバルク抵抗は、0.3〜50mΩ・cmの範囲内であることがより好ましく、0.3〜10mΩ・cmの範囲内であることがさらに好ましく、0.4〜5mΩ・cmの範囲内であることが特に好ましく、0.4〜3mΩ・cmの範囲内であることが最も好ましい。
ここで、ターゲットのバルク抵抗値の測定は、四探針法によって行う。
【0060】
本発明のターゲットの理論相対密度は、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましく、98%以上であることが特に好ましい。理論相対密度が90%より小さいと、ターゲットの強度が低下したり、成膜速度が遅くなったり、スパッタリングで作製した膜の抵抗が高くなったりするおそれがある。
【0061】
ここで、ターゲットの理論相対密度は、次のようにして求める。
ZnO、SnO、Inの比重を各々5.66g/cm、6.95g/cm、7.12g/cmとして、その量比から密度を計算し、アルキメデス法で測定した密度との比率を計算して理論相対密度とする。
【0062】
本発明のターゲットの抗折力は、10kg/mm以上であることが好ましく、11kg/mm以上であることがより好ましく、12kg/mm以上であることが特に好ましい。ターゲットの運搬、取り付け時に荷重がかかり、ターゲットが破損するおそれがあるという理由で、ターゲットには、一定以上の抗折力が要求され、10kg/mm未満では、ターゲットとしての使用に耐えられないおそれがある。
ターゲットの抗折力は、JIS R 1601に準じて測定することができる。
【0063】
II.スパッタリングターゲットの製造方法
本発明のスパッタリングターゲットの製造方法(以下、本発明の製造方法ということがある)は、
インジウム化合物の粉末、亜鉛化合物の粉末、及びそれらの粉末の粒子径よりも小さい粒子径の錫化合物粉末を、In/(In+Sn+Zn)で表わされる原子比が0.25〜0.6の範囲内、Sn/(In+Sn+Zn)で表わされる原子比が0.15〜0.3の範囲内、及びZn/(In+Sn+Zn)で表わされる原子比が0.15〜0.5の範囲内の割合で配合した混合物を得る工程と、
該混合物を加圧成形し成形体を作る工程と、
該成形体を焼結する工程と、
を含み、上記本発明のスパッタリングターゲットが得られることを特徴とする。
【0064】
以下、本発明の製造方法を、工程毎に説明する。
(1)配合工程
配合工程は、金属酸化物などのスパッタリングターゲットの原料を混合する必須の工程である。
原料としては、インジウム化合物の粉末、亜鉛化合物の粉末、及びそれらの粉末の粒径よりも小さい粒径の錫化合物粉末を用いる。錫化合物粉末の粒径が、インジウム化合物の粉末、亜鉛化合物の粉末の粒径と同じか又はそれらより大きいと、SnOがターゲット中に存在(残存)しターゲットのバルク抵抗を高くするおそれがあるためである。
【0065】
また、錫化合物粉末の粒子径がインジウム化合物粉末及び亜鉛化合物粉末の粒子径よりも小さいことが好ましく、錫化合物粉末の粒子径はインジウム化合物粉末の粒子径の2分の1以下であるとさらに好ましい。また、亜鉛化合物粉末の粒子径がインジウム化合物粉末の粒子径よりも小さいと特に好ましい。
【0066】
ターゲットの原料となる各金属化合物の粒径は、JIS R 1619に記載の方法によって測定することができる。
【0067】
ターゲットの原料であるインジウム、錫及び亜鉛の酸化物は、In/(In+Sn+Zn)で表わされる原子比が0.25〜0.6の範囲内、Sn/(In+Sn+Zn)で表わされる原子比が0.15〜0.3の範囲内、及びZn/(In+Sn+Zn)で表わされる原子比が0.15〜0.5の範囲内の割合で配合する必要がある。上記範囲をはずれると、前記効果を有する本発明のターゲットは得られない。
【0068】
インジウムの化合物としては、例えば、酸化インジウム、水酸化インジウム等が挙げられる。
錫の化合物としては、例えば、酸化錫、水酸化錫等が挙げられる。
亜鉛の化合物としては、例えば、酸化亜鉛、水酸化亜鉛等が挙げられる。
各々の化合物として、焼結のしやすさ、副生成物の残存のし難さから、酸化物が好ましい。
また、原料の純度は、通常2N(99質量%)以上、好ましくは3N(99.9質量%)以上、特に好ましくは4N(99.99質量%)以上である。純度が2Nより低いと耐久性が低下したり、液晶側に不純物が入り、焼き付けが起こるおそれがある。
【0069】
金属酸化物等のターゲットの製造に用いる、上記粒径の関係にある原料を混合し、通常の混合粉砕機、例えば、湿式ボールミルやビーズミル又は超音波装置を用いて、均一に混合・粉砕することが好ましい。
金属酸化物等のターゲットの製造原料を混合して粉砕する場合、粉砕後の混合物の粒径は、通常10μm以下、好ましくは3μm以下、特に好ましくは1μm以下とすることが好ましい。金属化合物の粒径が大きすぎると、ターゲットの密度が上がり難くなるおそれがある。
ターゲットの原料となる金属化合物の混合物の粉砕後の粒径は、JIS R 1619に記載の方法によって測定することができる。
【0070】
(2)仮焼工程
仮焼工程は、スパッタリングターゲットの原料である化合物の混合物を得た後、この混合物を仮焼する、必要に応じて設けられる工程である。
仮焼を行うと、密度を上げることが容易になり好ましいが、コストアップになるおそれがある。そのため、仮焼を行わずに密度を上げられることがより好ましい。
【0071】
仮焼工程においては、500〜1200℃で、1〜100時間の条件で金属酸化物の混合物を熱処理することが好ましい。500℃未満又は1時間未満の熱処理条件では、インジウム化合物や亜鉛化合物、錫化合物の熱分解が不十分となる場合があるためである。一方、熱処理条件が、1200℃を超えた場合又は100時間を超えた場合には、粒子の粗大化が起こる場合があるためである。
【0072】
従って、特に好ましいのは、800〜1200℃の温度範囲で、2〜50時間の条件で、熱処理(仮焼)することである。
【0073】
尚、ここで得られた仮焼物は、下記の成形工程及び焼成工程の前に粉砕するのが好ましい。この仮焼物の粉砕は、ボールミル、ロールミル、パールミル、ジェットミル等を用いて、仮焼物の粒径が0.01〜1.0μmの範囲内になるようにするのがよい。仮焼物の粒径が0.01μm未満では、嵩比重が小さくなり過ぎ、取り扱いが困難となるおそれがあり、1.0μmを超えると、ターゲットの密度が上がり難くなるおそれがある。
仮焼物の粒径は、JIS R 1619に記載及び方法によって測定することができる。
【0074】
(3)成形工程
成形工程は、金属酸化物の混合物(上記仮焼工程を設けた場合には仮焼物)を加圧成形して成形体とする必須の工程である。この工程により、ターゲットとして好適な形状に成形する。仮焼工程を設けた場合には得られた仮焼物の微粉末を造粒した後、プレス成形により所望の形状に成形することができる。
【0075】
本工程で用いることができる成形処理としては、例えば、金型成形、鋳込み成形、射出成形等も挙げられるが、焼結密度の高い焼結体(ターゲット)を得るためには、冷間静水圧(CIP)等で成形するのが好ましい。
尚、成形処理に際しては、ポリビニルアルコールやメチルセルロース、ポリワックス、オレイン酸等の成形助剤を用いてもよい。
【0076】
(4)焼成工程
焼成工程は、上記成形工程で得られた成形体を焼成する必須の工程である。
焼成は、熱間静水圧(HIP)焼成等によって行うことができる。
【0077】
この場合の焼成条件としては、酸素ガス雰囲気又は酸素ガス加圧下に、通常、700〜1700℃、好ましくは1100〜1650℃、さらに好ましくは1300〜1600℃において、通常30分〜360時間、好ましくは8〜180時間、より好ましくは12〜96時間焼成する。焼成温度が700℃未満であると、ターゲットの密度が上がり難くなったり、焼結に時間がかかり過ぎるおそれがあり、1700℃を超えると成分の気化により、組成がずれたり、炉を傷めたりするおそれがある。
また、燃焼時間が30分未満であると、ターゲットの密度が上がり難く、360時間より長いと、製造時間がかかり過ぎコストが高くなるため、実用上採用できない。
【0078】
一方、粉末混合物を、酸素ガスを含有しない雰囲気で焼成したり、1700℃以上の温度において焼成したりすると、六方晶層状化合物が生成し、スピネル結晶(スピネル構造化合物)の形成が十分でなくなる場合がある。そのため、得られるターゲットの密度を十分に向上させることができず、スパッタリング時の異常放電の発生を十分に抑制できなくなる場合がある。
【0079】
また、焼成時の昇温速度は、通常20℃/分以下、好ましくは8℃/分以下、より好ましくは4℃/分以下、さらに好ましくは2℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。20℃/分より速いと六方晶層状化合物が生成し、スピネル結晶(スピネル構造化合物)の形成が十分でなくなる場合がある。
【0080】
(5)還元工程
還元工程は、上記焼成工程で得られた焼結体のバルク抵抗をターゲット全体として均一化するために還元処理を行う、必要に応じて設けられる工程である
本工程で適用することができる還元方法としては、例えば、還元性ガスによる方法や真空焼成又は不活性ガスによる還元等が挙げられる。
【0081】
還元性ガスによる還元処理の場合、水素、メタン、一酸化炭素や、これらのガスと酸素との混合ガス等を用いることができる。
【0082】
不活性ガス中での焼成による還元処理の場合、窒素、アルゴンや、これらのガスと酸素との混合ガス等を用いることができる。
【0083】
尚、還元処理時の温度は、通常100〜800℃、好ましくは200〜800℃である。また、還元処理の時間は、通常0.01〜10時間、好ましくは0.05〜5時間である。
【0084】
(6)加工工程
加工工程は、上記のようにして焼結して得られた焼結体を、さらにスパッタリング装置への装着に適した形状に切削加工し、またバッキングプレート等の装着用治具を取り付けるための、必要に応じて設けられる工程である。
【0085】
ターゲットの厚みは通常2〜20mm、好ましくは3〜12mm、特に好ましくは4〜6mmである。また、複数のターゲットを一つのバッキングプレートに取り付け、実質一つのターゲットとしてもよい。また、表面は200〜10,000番のダイヤモンド砥石により仕上げを行うことが好ましく、400〜5,000番のダイヤモンド砥石により仕上げを行うことが特に好ましい。200番より小さい、あるいは10,000番より大きいダイヤモンド砥石を使用するとターゲットが割れやすくなるおそれがある。
【0086】
本発明のターゲットにおいては、In粉末のX線回折(XRD)ピーク位置に対する、Inで表されるビックスバイト構造化合物のピーク位置がプラス方向(広角側)にシフトしていることが好ましい。このピークシフトは、最大ピークの位置(2θ)で0.05度以上が好ましく、0.1度以上がより好ましく、0.2度以上が特に好ましい。また、プラス方向(広角側)にシフトしていることからインジウムイオンよりイオン半径の小さい陽イオンが固溶置換し格子間距離が短くなっているものと推察される。なお、In粉末のX線回折(XRD)ピーク位置は、JCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standards)データベースのNo.06−0416に公開されている。
ここで、ピークのシフト角は、X線回折のチャートを解析することによって測定することができる。
【0087】
シフト方向がマイナス側(狭角側)であると、キャリア発生が不十分となりターゲットの抵抗が高くなるおそれがある。これは、In中への他原子の固溶量(原子数)が不十分であり、キャリア電子が十分に発生していないためと推測される。
【0088】
本発明のターゲットにおいては、ZnSnOで表されるスピネル構造化合物のピーク位置がマイナス方向(狭角側)にシフトしていることが好ましい。このピークシフトは最大ピークの位置(2θ)で、0.05度以上が好ましく、0.1度以上がより好ましく、0.2度以上が特に好ましい。また、マイナス方向(狭角側)にシフトしていることから格子間距離が長くなっているものと推察される。
シフト方向がプラス側(広角側)であると、キャリア発生が不十分となりターゲットの抵抗が高くなるおそれがある。これは、ZnSnO中への他原子の固溶量(原子数)が不十分でキャリア電子が十分に発生していないためと推測される。
尚、ZnSnO粉末のX線回折(XRD)ピーク位置は、JCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standards)データベースのNo.24−1470に公開されている。
【0089】
本発明のターゲットにおいては、供給の不安定性(希少性)、有害性等の観点から、インジウムの含有量が69重量%以下であることが好ましく、64重量%以下であることがより好ましく、50重量%以下であることがさらに好ましい。
【0090】
本発明のターゲットにおいては、亜鉛とスズの原子比(Zn/Sn)が、0.5〜10の範囲内であることが好ましく、0.7〜7の範囲内がより好ましく、1〜4の範囲内がさらに好ましく、1.1〜3の範囲内が特に好ましい。亜鉛とスズの原子比(Zn/Sn)が10より大きいと大気下での耐熱性が低下したり、耐酸性が低下したりするおそれがある。0.5より小さいとスパッタ成膜して作製した透明導電膜のエッチングレートが遅くなり過ぎたり、ターゲット中に酸化スズの微粒子が発生し異常放電の原因となったりするおそれがある。
【0091】
亜鉛とスズの原子比(Zn/Sn)は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析によって測定することができる。
【0092】
III.透明導電膜
本発明の透明導電膜は、上記本発明のスパッタリングターゲットをスパッタリング法により成膜してなることを特徴とする。
【0093】
用いるスパッタリング法及びスパッタリング条件には特に制限はないが、直流(DC)マグネトロン法、交流(AC)マグネトロン法、高周波(RF)マグネトロン法が好ましい。液晶ディスプレイ(LCD)パネル用途では装置が大型化するためDCマグネトロン法、ACマグネトロン法が好ましく、安定成膜可能なACマグネトロン法が特に好ましい。
【0094】
スパッタ条件としては、スパッタ圧力が通常0.05〜2Paの範囲内、好ましくは0.1〜1Paの範囲内、より好ましくは0.2〜0.8Paの範囲内、到達圧力が通常10−3〜10−7Paの範囲内、好ましくは5×10−4〜10−6Paの範囲内、より好ましくは10−4〜10−5Paの範囲内、基板温度が通常25〜500℃の範囲内、好ましくは50〜300℃の範囲内、より好ましくは100〜250℃の範囲内である。
【0095】
導入ガスとして、通常Ne、Ar、Kr、Xe等の不活性ガスを用いることができるが、これらのうち、成膜速度が速い点でArが好ましい。また、Zn/Sn<1の場合、導入ガスに酸素を0.01〜5%含ませると、比抵抗が下がりやすく好ましい。Zn/Sn>2の場合、導入ガスに水素を0.01〜5%含ませると、得られる透明導電膜の抵抗が下がりやすく好ましい。
【0096】
本発明の透明導電膜は、非晶質あるいは微結晶のものが好ましく、非晶質のものが特に好ましい。本発明の透明導電膜が非晶質であるか否かは、X線回折法によって判定することができる。透明導電膜が非晶質であることにより、エッチングが容易になる、エッチングの残渣が発生し難い、また、大面積でも均一な膜が得られるという効果が得られる。
【0097】
成膜された透明導電膜の45℃蓚酸によるエッチング速度は、通常20〜1000nm/分の範囲内であり、好ましくは50〜300nm/分の範囲内であり、より好ましくは60〜250nm、特に好ましくは80〜200nm/分の範囲内である。20nm/分より遅いと生産タクトが遅くなるばかりではなく、エッチング残渣が残るおそれがある。1000nm/分より速いと速すぎて線幅等が制御できなくなったり、ばらつきが大きくなるおそれがある。
【0098】
また、本発明の透明導電膜は、金属配線エッチング液であるPANに対する耐性を有することが好ましい。透明導電膜がPAN耐性を有していれば、透明導電膜上に金属配線材料を成膜後、透明導電膜が溶けることなく金属配線のエッチングができる。PAN耐性は、PANによるエッチング速度が50℃で20nm/分以下であることが好ましく、10nm/分以下であることがさらに好ましい。
【0099】
本発明の透明導電膜は、その比抵抗が1800μΩ・cm以下であることが好ましく、1300μΩ・cm以下であることがより好ましく、900μΩ・cm以下であることが特に好ましい。
透明導電膜の比抵抗は、四探針法により測定することができる。
また、本発明の透明導電膜の膜厚は、通常1〜500nm、好ましくは10〜240nm、より好ましくは20〜190nm、特に好ましくは30〜140nmの範囲内である。500nmより厚いと、部分的に結晶化したり、成膜時間が長くなるおそれがあり、1nmより薄いと、基板の影響を受け、比抵抗が高くなるおそれがある。透明導電膜の膜厚は、触針法により測定できる。
【0100】
IV.透明電極
本発明の透明電極は、上記本発明の透明導電膜をエッチングして得られることを特徴とする。
本発明の透明電極は、上記本発明の透明導電膜から作製されているため、本発明の透明導電膜の上記特性を備えている。
【0101】
本発明の透明電極を作製するためのエッチング方法には特に制限はなく、目的、状況に応じて適したエッチング液、エッチング方法、エッチング条件を選択すればよい。
また、エッチングされた端部のテーパー角は、35〜89度が好ましく、40〜87度がより好ましく、45〜85度の範囲内が特に好ましい。テーパー角が35度より小さいと、テーパー部分が広がり過ぎ開口率が下がったり、短絡するおそれがある。89度より大きいと、逆テーパーとなり、耐久性が低下したりパネルが正常に機能しなくなるおそれがある。
電極端部のテーパー角は、断面を電子顕微鏡(SEM)で観察することによって測定することができる。
【実施例】
【0102】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
実施例1
(1)スパッタリングターゲットの製造及び評価
(i)ターゲットの製造
ターゲットの製造原料として、平均粒径3.4μm、純度4Nの酸化インジウム、0.6μm、純度4Nの酸化亜鉛、0.5μm、純度4Nの酸化錫とを、原子比〔In/(In+Sn+Zn)〕が0.53、原子比〔Sn/(In+Sn+Zn)〕が0.17、原子比〔Zn/(In+Sn+Zn)〕が0.30となるように混合して、これを湿式ボールミルに供給し、72時間混合粉砕して、原料微粉末を得た。
【0103】
得られた原料微粉末を造粒した後、直径10cm、厚さ5mmの寸法にプレス成形して、これを焼成炉に装入し、酸素ガス加圧下に、1400℃の条件で、48時間焼成して、焼結体(ターゲット)を得た。焼成時の昇温速度は、3℃/分であった。
【0104】
(ii)ターゲットの評価
得られたターゲットにつき、理論相対密度、バルク抵抗値、X線回折分析、結晶粒径及び各種物性を測定した。得られたX線回折のチャートを図1に示す。
【0105】
得られたターゲットの理論相対密度は97%であり、四探針法により測定したバルク抵抗値は、1.3mΩ・cmであった。
ICP発光分析法で元素分析を行ったところ、In/(In+Sn+Zn)=0.53、Sn/(In+Sn+Zn)=0.17、Zn/(In+Sn+Zn)=0.30であった。
【0106】
また、この焼結体から採取した試料について、X線回折法により透明導電材料中の結晶状態を観察した結果、得られたターゲット中に、ZnSnOで表されるスピネル構造化合物及びInで表されるビックスバイト構造化合物のみが確認された。
【0107】
また、図1に示した通り、スピネル構造化合物の最大ピークは狭角側へ0.3度、ビックスバイト構造化合物の最大ピークは広角側へ0.3度シフトしていた。
【0108】
ターゲットのX線回折測定(XRD)の測定条件は以下の通りであった。
装置:(株)リガク製Ultima−III
X線:Cu−Kα線(波長1.5406Å、グラファイトモノクロメータにて単色化)
2θ−θ反射法、連続スキャン(1.0°/分)
サンプリング間隔:0.02°
スリット DS、SS:2/3°、RS:0.6mm
【0109】
さらに、得られた焼結体を樹脂に包埋し、その表面を粒径0.05μmのアルミナ粒子で研磨した後、電子線マイクロアナライザー(EPMA) EPMA−2300(島津製作所製)により下記条件で測定した。
・加速電圧:15kV
・試料電流:0.05μA
・Beam Size:1μm
・Step Size:0.2×0.2μm
上記条件により測定した結果、焼結体は図5に示すようにインジウム(In)リッチ相と亜鉛(Zn)リッチ相とがはっきりとした海島構造をとり、各々の画像から算出した面積S(In)、S(Zn)の面積比S(Zn)/S(In)は、0.9であった。
【0110】
さらに、得られた焼結体を樹脂に包埋し、その表面を粒径0.05μmのアルミナ粒子で研磨した後、電子線マイクロアナライザー(EPMA)であるJXA−8621MX(日本電子社製)により5、000倍に拡大した焼結体表面の30μm×30μm四方の枠内で観察されるスピネル化合物の結晶粒子の最大径を測定した。3個所の枠内で同様に測定したそれぞれの最大粒子径の平均値を算出し、この焼結体のZnSnOで表されるスピネル構造化合物及びInで表されるビックスバイト構造化合物の結晶粒径がともに3.0μmであることを確認した。
【0111】
また、上記(i)で得られた焼結体を切削加工後、400番のダイヤモンド砥石で仕上げを行ない直径約10cm、厚さ約5mmのスパッタリングターゲットを作製した。作製したターゲットの抗折力の測定を行ったところ、13kg/mmであった。抗折力の測定は、JIS R 1601に準じて行った。
【0112】
(2)透明導電膜の成膜及び評価
(i)透明導電膜の成膜
上記(1)(i)で得られたスパッタリングターゲットを、DCマグネトロンスパッタリング装置に装着し、室温において、ガラス基板上に透明導電膜を成膜した。
このときのスパッタ条件としては、スパッタ圧力1×10−1Pa、到達圧力5×10−4Pa、基板温度200℃、投入電力120W、成膜時間15分間、導入ガスはアルゴンガス100%とした。
この結果、ガラス基板上に、膜厚が約100nmの透明導電性酸化物が形成された透明導電ガラスが得られた。
【0113】
(ii)スパッタ状態の評価
(1)(i)で得られたスパッタリングターゲットを、DCマグネトロンスパッタリング装置に装着し、アルゴンガスに3%の水素ガスを添加した混合ガスを用いた他は、上記(2)(i)と同一条件下に、240時間連続してスパッタリングを行い異常放電の有無をモニターしたが、異常放電は1度も確認されなかった。
下記表1において、異常放電の有無の表示は、異常放電無しの場合を「○」で表し、異常放電有りの場合を「×」で表す。
【0114】
(iii)ノジュールの発生に関する評価
上記(1)(i)で得られたターゲットを用い、上記(2)(ii)と同じ条件で8時間連続してスパッタリングを行った。次いで、スパッタリング後のターゲットの表面を実体顕微鏡により30倍に拡大して観察した。ターゲット上の任意の3点で囲まれた視野900mm中における20μm以上のノジュール発生数をそれぞれ測定し平均値を求めた。
【0115】
(iv)透明導電性膜の物性の評価
上記(2)(i)で得られた透明導電ガラス上の透明導電膜の導電性について、四探針法により比抵抗を測定したところ、4×10−4Ω・cm(400μΩ・cm)であった。
【0116】
X線回折分析により、この透明導電膜は、非晶質であることを確認した。
尚、透明導電膜のX線回折測定(XRD)の測定条件は以下の通りであった。
装置:(株)リガク製Ultima−III
X線:Cu−Kα線(波長1.5406Å、グラファイトモノクロメータにて単色化)
2θ−θ反射法、連続スキャン(1.0°/分)
サンプリング間隔:0.02°
スリット DS、SS:2/3°、RS:0.6mm
【0117】
膜表面の平滑性について、P−V値(JISB0601準拠)を測定したところ、5nmであり、平滑性が良好であることを確認した。
【0118】
さらに、この透明導電性酸化物の透明性については、分光光度計により波長500nmの光線についての光線透過率が90%であり、透明性においても優れたものであった。
【0119】
さらに、この透明導電膜を蓚酸45℃でエッチングを行ったところ、エッチング速度は150nm/分であった。
【0120】
また、PANによるエッチング速度が50℃で20nm/分以下であり、PAN耐性は良好であった。尚、表1において、PAN耐性の評価の表示は、50℃、20nm/分以下を「○」で表し、50℃、20nm/分を超える場合を「×」で表す。
【0121】
実施例2〜5、及び比較例1〜7
原料の金属酸化物の配合比を表1に示す原子比となるように変更した他は実施例1と同様にターゲットを作製・評価し、同様に透明導電膜を作製・評価した。結果を表1に示す。実施例3及び4で得られたターゲットに関するX線回折のチャートを図2及び3に示す。
また、比較例1で得られた焼結体に関し、実施例1と同様に測定した電子線マイクロアナライザー(EPMA)画像を図6に示す。
尚、比較例2、4及び5については、DCスパッタリングでは放電が安定しないおそれがあるため、RFスパッタリングを行った。
【0122】
【表1】

【0123】
表1の結果から、ZnSnOで表されるスピネル構造化合物及びInで表されるビックスバイト構造化合物を共に含むターゲットは、理論相対密度が高く、バルク抵抗が低く、抗折力が大きいことがわかる。
また、上記ターゲットを用いて成膜された透明導電膜は、異常放電が生じることがなく、ノジュールの発生もなく、比抵抗が低く、適度な蓚酸エッチング速度を有し、PAN耐性を有することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明によれば、スパッタリング法を用いて透明導電膜を成膜する際に発生する異常放電を抑制し安定にスパッタリングを行うことのできるインジウム含有量が低減された、抵抗が低く、理論相対密度が高く、強度が高いスパッタリングターゲットが得られる。
本発明のスパッタリングターゲットを用いることにより、ノジュールの発生がなく、比抵抗が低く、適度な蓚酸エッチング速度を有し、PAN耐性を有する透明導電膜及び透明電極が得られる。
また、本発明のターゲットは安定にスパッタリングが行なえるため、成膜条件を調整するなどしてTFT(薄膜トランジスタ)に代表される透明酸化物半導体の成膜にも適用できる。
【0125】
本発明による透明導電膜は、各種の表示装置を構成する部品として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともインジウム、錫及び亜鉛を含有し、ZnSnOで表されるスピネル構造化合物及びInで表されるビックスバイト構造化合物を含む酸化物の焼結体であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項2】
In/(In+Sn+Zn)で表わされる原子比が0.25〜0.6の範囲内、Sn/(In+Sn+Zn)で表わされる原子比が0.15〜0.3の範囲内、及びZn/(In+Sn+Zn)で表わされる原子比が0.15〜0.5の範囲内の値であることを特徴とする請求項1記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
X線回折(XRD)におけるピークについて、ZnSnOで表されるスピネル構造化合物の最大ピーク強度(I(ZnSnO))と、Inで表されるビックスバイト構造化合物の最大ピーク強度(I(In))の比(I(ZnSnO)/I(In))が、0.05〜20の範囲内であることを特徴とする請求項1又は2記載のスパッタリングターゲット。
【請求項4】
X線回折(XRD)におけるピークについて、
SnOで表されるルチル構造化合物の最大ピーク強度(I(SnO))、
ZnSnOで表されるスピネル構造化合物の最大ピーク強度(I(ZnSnO))、及び
Inで表されるビックスバイト構造化合物の最大ピーク強度(I(In))
が下記の関係を満たすことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載のスパッタリングターゲット。
I(SnO)<I(ZnSnO)
I(SnO)<I(In
I(SnO)<Max.(I(ZnSnO),I(In))÷10
[上記関係式中、(Max.(X,Y)は、XとYのいずれか大きい方を表す。]
【請求項5】
X線回折(XRD)におけるピークについて、
ZnOで表されるウルツ鉱形化合物の最大ピーク強度(I(ZnO))、
ZnSnOで表されるスピネル構造化合物の最大ピーク強度(I(ZnSnO))、及び
Inで表されるビックスバイト構造化合物の最大ピーク強度(I(In))
が下記の関係を満たすことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載のスパッタリングターゲット。
I(ZnO)<I(ZnSnO)
I(ZnO)<I(In
I(ZnO)<Max.(I(ZnSnO),I(In))÷10
[上記関係式中、(Max.(X,Y)は、XとYのいずれか大きい方を表す。]
【請求項6】
X線回折(XRD)におけるピークについて、
In(ZnO)(mは2〜20の整数を表す。)で表される六方晶層状化合物の最大ピーク強度(I(In(ZnO)))、
ZnSnOで表されるスピネル構造化合物の最大ピーク強度(I(ZnSnO))、
Inで表されるビックスバイト構造化合物の最大ピーク強度(I(In))
が下記の関係を満たすことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載のスパッタリングターゲット。
I(In(ZnO))<I(ZnSnO)
I(In(ZnO))<I(In
I(In(ZnO))<Max.(I(ZnSnO),I(In))÷10
[上記関係式中、(Max.(X,Y)は、XとYのいずれか大きい方を表す。]
【請求項7】
電子線マイクロアナライザー(EPMA)の画像において、インジウムリッチな部分S(In)と鉛リッチな部分S(Zn)とが海島構造を構成し、その面積比S(Zn)/S(In)が0.05〜100の範囲内であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項記載のスパッタリングターゲット。
【請求項8】
Inで表されるビックスバイト構造化合物の結晶粒径が10μm以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項記載のスパッタリングターゲット。
【請求項9】
バルク抵抗が0.3〜100mΩ・cmの範囲内であることを特徴とする請求項1〜8いずれか一項記載のスパッタリングターゲット。
【請求項10】
理論相対密度が90%以上であることを特徴とする請求項1〜9いずれか一項記載のスパッタリングターゲット。
【請求項11】
インジウム化合物の粉末、亜鉛化合物の粉末、及びそれらの粉末の粒子径よりも小さい粒子径の錫化合物粉末を、
In/(In+Sn+Zn)で表わされる原子比が0.25〜0.6の範囲内、Sn/(In+Sn+Zn)で表わされる原子比が0.15〜0.3の範囲内、及びZn/(In+Sn+Zn)で表わされる原子比が0.15〜0.5の範囲内の割合で配合した混合物を得る工程と、
該混合物を加圧成形し成形体を作る工程と、
該成形体を焼結する工程と、
を含む請求項1〜10のいずれか一項記載のスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項12】
請求項1〜10いずれか一項記載のスパッタリングターゲットをスパッタリング法により成膜してなる透明導電膜。
【請求項13】
請求項12記載の透明導電膜をエッチングして得られる透明電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−31521(P2012−31521A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198019(P2011−198019)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【分割の表示】特願2005−253986(P2005−253986)の分割
【原出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】