説明

スパッタリング法に用いる筒状カソード

【課題】ターゲットキャリア上の単一または多数部品ターゲットの摺動を促進すること。
【解決手段】本発明は、ターゲットキャリアおよびターゲット付き筒状カソードに関する。ターゲットは単一または多数部品からなり、ターゲットキャリアとターゲットの間には、熱伝導物質からなり、複数の細いリングで互いに分離された複数個の環状構成要素がターゲットキャリアの長手方向に沿って置かれている。環状構成要素上で容易に摺動可能になるように、ターゲットは少なくともその一端面側に面取り部分を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部分に記載の筒状カソードに関する。
【背景技術】
【0002】
平坦カソードとは別に、このところ、筒状カソードが益々頻繁に用いられるようになっている。と言うのも、基板のコーティングに際して、筒状カソードは非常に高い有効性を持っているからである。このような筒状カソードは、ターゲットキャリア、ターゲット、並びにターゲットキャリア内に設置される磁石システムとを具備する。
【0003】
ターゲットがスパッタリング法によって消費されるとき、ターゲットはターゲットキャリアとともに片付けられ、新しいターゲットキャリア付きの新しいターゲットが対応するスパッタリング装置内に装備される。
【0004】
例えば、冷却媒体が流れる通路を有する冷却チューブが内部に形成される筒状スパッタターゲットの製造方法は公知である(特許文献1参照)。また、スパッタリングされるスパッタ材料を有する複数個のリングも形成される。これらのリングは、これらのリングの突出部がスパッタリングされるときに基板上に層(薄膜)を形成するように、冷却チューブの上に置かれる。
【0005】
さらに、スパッタ材料からなるチューブとスリーブを有し、これらチューブとスリーブとの間に環状の隙間が形成されるように、スリーブの内径がチューブの外径よりも大きくされたスパッタターゲットが既に知られている(特許文献2参照)。その環状の隙間は少なくとも部分的に熱伝導物質で占有されている。この熱伝導物質は常温で流動する特定の微粒子からなる物質を含んでいる。
【0006】
また、キャリア上に置かれ、筒状ターゲット物質からなる筒状ターゲットが知られている(特許文献3参照)。ターゲット物質とキャリアとの間には緩衝要素が置かれる。この緩衝要素は炭素フェルトが用いられ得る。
【0007】
同様に、ターゲットキャリアとターゲットとの間に導電性マットが挿入されるものもある(特許文献4参照)。
【0008】
さらに、筒状のキャリア要素とターゲット物質からなる少なくとも1つの筒状ターゲットを備え、そのターゲットは少なくとも断面においてキャリア要素を取り囲んでいるターゲット構造が知られている(特許文献5参照)。キャリア要素とターゲットとの間には、把持リングまたは1つ乃至複数個の把持くさびが形成されている。
【0009】
最後のものとして、上部にターゲット殻が配置されたキャリアを有するターゲットキャリア構造が知られている(特許文献6参照)。ここにおけるターゲット殻はキャリア上を摺動せしめられるターゲットスリーブによって形成されている。キャリアとターゲットスリーブの間には1つの把持要素が活動的に配置されている。
【0010】
【特許文献1】米国特許出願公開第2001/0047936号公報
【特許文献2】米国特許第6,409,897号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2003/0136662号公報
【特許文献4】米国特許第6,787,011号公報
【特許文献5】独国特許出願公開第10 2004 031161号公報
【特許文献6】独国特許出願公開第10231203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ターゲットキャリア上の単一または多数部品ターゲットの摺動を促進するという課題を解決するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この課題は、請求項1の特徴に従って解決される。
【0013】
それ故、本発明は、ターゲットキャリアおよびターゲット付き筒状カソードに関する。ここで、ターゲットは単一または多数部品からなる。ターゲットキャリアとターゲットの間には熱伝導物質からなる複数個の環状構成要素がターゲットキャリアの長手方向に沿って置かれている。複数の細いリングが環状構成要素を互いに分離している。ターゲットは、少なくともその一端面側に、個別の環状構成要素上でターゲットを容易に摺動可能にする面取り部分を有している。
【0014】
本発明で以って得られる利点は、例えば、低い熱膨張係数を有するモリブデンまたはITO製のターゲットのように扱い難いターゲットであっても、接着が省略されるので、特に従来の場合よりも容易に装着することができることである。また、スパッタリングされ終わったターゲットは、接着剤を含んでいないので、再利用され得る。多数部品のターゲットが用いられるとき、スパッタリング法を介したターゲット物質の加熱のために生じる物体的な応力は補われ、そのため互いに隣接するリングターゲット間には最小限の膨張隙間が形成されるにとどまる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の具体例が添付の図面に描かれているとともに、以下にさらに詳細に説明される。
【0016】
図1は側面図において本発明の筒状カソード1を描写している。同図には、筒状カソード1のターゲットキャリアとしてのキャリアチューブ2、単一部品のターゲット3、並びに2つの保護リング4,5が示されている。
【0017】
もう1つの筒状カソード6が図2に示されており、そこにはターゲットキャリアとしてのキャリアチューブ7、並びに2つの保護リング8,9も示されているが、この筒状カソード6は複数個のリングターゲット10〜17から構成されている。
【0018】
図3において、複数個のリングターゲットのうちの1つを残して、ターゲットキャリアとしてのキャリアチューブ18の表面が見えるように、他の全ては取り除かれている。このキャリアチューブ18は、陰極層としてのリング状の黒鉛箔帯19〜24がそれぞれ置かれた複数個の区切り部分を有している。黒鉛箔帯19〜24の各々は、黒鉛中間成分に変換された天然黒鉛からなる。これに相当する金属箔が、たとえば、D−86405、マイティンゲン(ドイツ)にあるSGL Technik 社による“SIGRAFLEX”という名称で分配される。
【0019】
キャリアチューブ18の各区切り部分は、キャリアチューブ18の筒状外周面の周囲に等距離で伸びるリング25〜30によって形成され、互いに隣接するリング間のそれぞれには黒鉛箔帯19〜24が配されている。黒鉛箔帯19〜24内には、キャリアチューブ18の長軸方向に平行であって、しかも、一列状に並ばないように互いに対してずらされた結合線31〜35がそれぞれ形成されている。
【0020】
リングターゲット36は、黒鉛箔帯24上を矢印37の方向に摺動せしめられる。これによって、弾性のある黒鉛箔帯24が圧縮されるように、圧力が矢印38の方向に生じる。従って、黒鉛箔帯24の外径は、まだ圧縮されていない他の黒鉛箔帯19〜23の外径より小さくなる。また、黒鉛箔帯24の結合線は見えなくなる。リングターゲットが更に摺動すると、黒鉛箔帯19〜23もまた圧縮される。
【0021】
キャリアチューブ18の全体にわたって黒鉛箔帯19〜24を初めから装着する必要はなく、また、フリーの状態にある全ターゲット長に亘ってリングターゲットを摺動させる必要もない。むしろ、省資源のために、これから摺動されようとするリングターゲットに対応する区切り部分に黒鉛箔帯が完全に敷設されるように、黒鉛箔帯19〜24をその中に十分に挿入するだけで良い。次のリングターゲットの摺動直前に、必要とされる更なる区切り部分に黒鉛箔帯が敷設される。その結果、リングターゲットはそれぞれ必要とされる特定の黒鉛箔帯上を摺動するだけである。必要とされる場合に、黒鉛箔帯が-敷設された全ての区切り部分上をリングターゲットが完全に摺動せしめられる。
【0022】
図4は図3の形状を再び描写しているが、断面にされた2個のリングターゲット36,41と、同じく断面にされた黒鉛箔帯19〜24を有している。ここでは、結合線31〜35は見えない。摺動し終わって示されるリングターゲット36に加えて、これから摺動される状態にあるもう1つのリングターゲット41が示されている。双方のリングターゲット36,41は、黒鉛箔帯19〜24上におけるそれらの摺動を促進させる面取り部42,43をそれぞれの左端に有している。固着剤で固定された据付状態の黒鉛箔帯19〜24の各外径は、非圧縮状態において、リングターゲット41の内径よりも大きい。
【0023】
図5は図4の形状を再び描写しているが、リングターゲット41は更に左側に変位されている。矢印37の方向に左に変位されているリングターゲット41の面取り部43を介して、黒鉛箔帯22はその上端で係合される。リングターゲット41を更に矢印37方向に摺動させれば、黒鉛箔帯22上に矢印方向38,44の力が働く。その結果、黒鉛箔帯22は圧縮され、最終的にその上端はリング25〜30並びに40の上端と同じレベルになる。
【0024】
リングターゲット41の予備加熱はリングターゲット41の摺動作用および圧縮作用を促進する。このように、リングターゲット36,41の係合場所はリング25〜30上となる。これによって、長さ4メートルまでのターゲットが何の問題も無く利用され得る。
【0025】
リング25〜30でキャリアチューブ18を区切り部分に分割することによって、リングターゲットがキャリアチューブ上を摺動するときの黒鉛箔帯19〜23上に作用する摩擦力は減少せしめられる。何故なら、黒鉛箔帯19〜23はリング25〜30上にとどまることができ、黒鉛箔帯19〜23の滑りが防止されるからである。それによって、黒鉛箔帯19〜23は、好適な導電性と熱伝導性とを導くキャリアチューブ18とリングターゲット36との間に高圧下で把持され得る。
【0026】
リングターゲット36,41は、黒鉛または隣接するリングターゲット36,41の間における各々約0.5mmの隙間内に置かれるリング25〜30の物質がスパッタリング法によって腐食することを防止するために(黒鉛またはリング物質の腐食は析出される陰極層の汚染を導く)、さねはぎ継ぎ状に互いに噛み合う半径方向の差し込みまたは筒先をその内径部に有することができる。たとえば、図4に図示のリングターゲット36は箔帯21の上に当たる部分に溝を有し、一方、リングターゲット41はその溝に対応する突出部を有することができ、リングターゲット36,41が共に摺動せしめられる時、突出部が溝に導入されるようにしても良い。
【0027】
このようにして、プラズマ粒子がリングターゲットだけに衝突するようになるので、リング25〜30並びに40がプラズマ粒子の攻撃に晒されることを防止することができる。
【0028】
利用される黒鉛箔帯は、陰極層に平行する熱膨張係数より大きな陰極層に直交する熱膨張係数を持つ。陰極層に平行する熱膨は、結合線31〜35によって埋め合わせられる。
陰極層に直交する熱膨張は、リングターゲット36とキャリアチューブ18との間の箔帯の把持を次善の冷却でもって増大させる。それは冷却を増大するように熱の伝達を増大する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】単一部品ターゲットを有する筒状カソードの全体を示す側面図である。
【図2】複数部品ターゲットを有する筒状カソードの全体を示す側面図である。
【図3】1つのターゲット部を有するキャリアチューブを示す側面図である。
【図4】2つのターゲット部を有するキャリアチューブを示す側面図である。
【図5】外周面上を摺動する2つのリング状ターゲット有するキャリアチューブを示す側面図である。
【符号の説明】
【0030】
1,6 筒状カソード
2,7,18 ターゲットキャリアとしてのキャリアチューブ
3 ターゲット
4,5 保護リング
10〜17,36,41 リングターゲット
19〜24 陰極層としての黒鉛箔帯
25〜30 リング
31〜35,40 結合線
42,43 面取り部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリング法に用いられるためにターゲットキャリア及びターゲットを有し、このターゲットキャリアとターゲットとの間に良好な導電性と熱伝導性を有する陰極層が置かれている筒状カソードであって、前記陰極層はターゲットキャリア(18)の長軸方向に沿って互いに隙間を空けた複数個の個別の陰極層(19〜24)に分割されていることを特徴とする筒状カソード。
【請求項2】
前記複数個の個別の陰極層(19〜24)は、主として黒鉛からなることを特徴とする請求項1に記載の筒状カソード。
【請求項3】
前記ターゲットキャリア(2又は7又は18)及びターゲット(3又は10〜17又は36または41)は、チューブ状または筒状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の筒状カソード。
【請求項4】
前記ターゲットキャリア(7又は18)上には複数個のリング状ターゲット(10〜17又は36及び41)が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の筒状カソード。
【請求項5】
前記複数個のリング状ターゲット(36及び46)の少なくとも1つは、少なくとも一端に滑り面取り部分(42および43)を有していることを特徴とする請求項4に記載の筒状カソード。
【請求項6】
前記個別の陰極層(19〜24)の各々は、金属箔によって形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の筒状カソード。
【請求項7】
前記個別の陰極層(19〜24)の各々は、黒鉛リングによって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の筒状カソード。
【請求項8】
黒鉛リングの各々は、それぞれ横方向に伸びる結合線(31〜35)を有していることを特徴とする請求項7に記載の筒状カソード。
【請求項9】
各黒鉛リング(19〜24)のそれぞれの結合線(31〜35)は、互いに対して空間的にずらされるようにターゲットキャリアの外周に形成されていることを特徴とする請求項7および8のいずれかに記載の筒状カソード。
【請求項10】
前記個別の陰極層の間には、前記ターゲットキャリア(2又は7又は18)の周囲に伸びるリングが(25〜30)が置かれていることを特徴とする請求項1に記載の筒状カソード。
【請求項11】
隣接同士のリング状ターゲットは、それらの端面でさねはぎ継ぎ状に互いに噛み合うように形成されていることを特徴とする請求項4に記載の筒状カソード。
【請求項12】
前記ターゲット(3又は10〜17)はモリブデン製であることを特徴とする請求項1に記載の筒状カソード。
【請求項13】
前記ターゲット(3又は10〜17)はITO製であることを特徴とする請求項1に記載の筒状カソード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−39803(P2007−39803A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−181169(P2006−181169)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(502208722)アプライド マテリアルズ ゲーエムベーハー アンド コンパニー カーゲー (28)
【氏名又は名称原語表記】APPLIED MATERIALS GMBH & CO. KG
【Fターム(参考)】