スパッタリング用ターゲット、並びに、その製造方法及び再生方法
【課題】ターゲット材料を成形又は焼成することなく、緻密な結晶構造を有するターゲット材料を形成することにより、スパッタリングの際にパーティクルが発生し難いスパッタリング用ターゲットを提供する。
【解決手段】このターゲット製造方法は、スパッタリングによって無機物の膜を形成する際に用いられるターゲットを製造する方法において、金属製の基材及びターゲット材料の粉末を用意する工程(a)と、ターゲット材料の粉末をガス中に分散させることによりエアロゾルを生成し、生成されたエアロゾルをノズルから基材に向けて噴射することにより基材上にターゲット材料を堆積させる工程(b)とを具備する。
【解決手段】このターゲット製造方法は、スパッタリングによって無機物の膜を形成する際に用いられるターゲットを製造する方法において、金属製の基材及びターゲット材料の粉末を用意する工程(a)と、ターゲット材料の粉末をガス中に分散させることによりエアロゾルを生成し、生成されたエアロゾルをノズルから基材に向けて噴射することにより基材上にターゲット材料を堆積させる工程(b)とを具備する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングによって無機物の膜を形成する際に用いられるターゲットに関し、さらに、そのようなターゲットを製造する方法、及び、そのようなターゲットを再生する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微小電気機械システム(MEMS:micro electrical mechanical system)の分野においては、誘電体、圧電体、磁性体、焦電体、半導体のように、電圧を印加することにより所定の機能を発現する電子セラミック等の機能性材料を含む素子を、成膜技術を用いて製造する研究が盛んに進められている。
【0003】
成膜技術の中でも、高品質の膜が要求される半導体、液晶又はプラズマディスプレイ、及び、光ディスクを製造する手法として、スパッタリングが着目されている。さらに、真空チャンバ内にガスを導入し、はじき飛ばされたターゲット材料とガスとを反応させることによって化合物を成膜する反応性スパッタ法も、新たな合金や人工格子の作製技術として注目されている。
【0004】
スパッタリングにおいては、真空チャンバ内に、基材(バッキングプレート)上に付着されたターゲット材料と、スパッタリングの対象物とを設置し、高電圧をかけてイオン化された希ガス元素(普通はアルゴンを用いる)をターゲット材料に衝突させることにより、ターゲット表面の原子がはじき飛ばされて対象物に到達し、製膜が行われる。
【0005】
特に、マグネトロンスパッタ法においては、スパッタリングの際に、基材上に付着されたターゲット材料が不均一に消費されて、特定の領域に大きな浸食(エロージョン)が発生する。エロージョン発生領域においてターゲット材料が所定の厚みまで減少したら、他の領域においてターゲット材料があまり減少していなくても、ターゲット全体を新たなターゲットと交換しなければならなかった。
【0006】
関連する技術として、下記の特許文献1には、スパッタのターゲットホルダーである金属板上に、粉末状ターゲット物質を高温ガスで半溶融状態にし、このガスでターゲット物質をホルダーまで輸送し、ホルダーにターゲット物質をセラミック状に付着させることを特徴とするスパッタ用ターゲットの製造方法が開示されている。
【0007】
この製造方法によれば、ターゲット物質を成形、焼成、加工する工程が不要となり、ターゲット物質からカソード電極への熱伝導が良くなる。また、マグネトロンスパッタ法を用いる場合には、エロージョン発生領域においてターゲット材料が所定の厚みまで減少したら、その領域に同じターゲット物質を溶射することによってターゲットを再生することができる。
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されているスパッタ用ターゲットの製造方法によれば、ターゲット材料であるセラミックとターゲットホルダーである金属板との熱膨張率の差が大きいので、ターゲット材料の溶射膜を厚く形成することができず、また、スパッタリング時の熱ショックによりターゲット材料とターゲットホルダーとの間の密着性が低下して、それらが剥離するおそれがある。
【0009】
さらに、粉末状のターゲット材料を高温ガスで半溶融状態にする際に、ターゲット材料の組成ずれが生じ易いので、特許文献1に開示されているスパッタ用ターゲットの製造方法は、高い組成制御性が要求される機能性材料、例えば、圧電材料のターゲットを製造する場合には適していない。加えて、一般に、溶射膜はバルク焼結体と比較して密度が低いので、溶射膜をターゲット材料として用いた場合には、スパッタリングの際にパーティクルが発生し易いという問題がある。
【特許文献1】特開昭60−181270号公報(第1−2頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、上記の点に鑑み、本発明は、ターゲット材料を成形又は焼成することなく、緻密な結晶構造を有するターゲット材料を形成することにより、スパッタリングの際にパーティクルが発生し難いスパッタリング用ターゲットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の1つの観点に係るターゲット製造方法は、スパッタリングによって無機物の膜を形成する際に用いられるターゲットを製造する方法において、金属製の基材及びターゲット材料の粉末を用意する工程(a)と、ターゲット材料の粉末をガス中に分散させることによりエアロゾルを生成し、生成されたエアロゾルをノズルから基材に向けて噴射することにより基材上にターゲット材料を堆積させる工程(b)とを具備する。
【0012】
また、本発明の1つの観点に係るターゲット再生方法は、スパッタリングによって無機物の膜を形成する際に用いられるターゲットを再生する方法において、使用済みのターゲットを用意する工程(a)と、ターゲット材料の粉末を用意する工程(b)と、ターゲット材料の粉末をガス中に分散させることによりエアロゾルを生成し、生成されたエアロゾルをノズルから使用済みのターゲットに向けて噴射することにより使用済みのターゲット上にターゲット材料を堆積させる工程(c)とを具備する。
【0013】
さらに、本発明の1つの観点に係るターゲットは、スパッタリングによって無機物の膜を形成する際に用いられるターゲットにおいて、金属製の基材と、ターゲット材料の粉末をガス中に分散させることによりエアロゾルを生成し、生成されたエアロゾルをノズルから基材に向けて噴射することにより基材上に堆積されたターゲット材料とを具備し、基材とターゲット材料との境界面にアンカーリングが生じた領域を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ターゲット材料の粉末をガス中に分散させることによりエアロゾルを生成し、生成されたエアロゾルをノズルから基材又はターゲット部材に向けて噴射することにより基材又はターゲット部材上に堆積させるので、ターゲット材料を成形又は焼成することなく、緻密な結晶構造を有するターゲット材料を形成して、スパッタリングの際にパーティクルが発生し難いスパッタリング用ターゲットを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、説明を省略する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係るスパッタリング用ターゲットの製造方法を示すフローチャートであり、図2は、AD法によってバッキングプレート上にターゲット材料を堆積させる工程を示す図である。図2の(d)に示すように、このスパッタリング用ターゲットは、金属製の基材(バッキングプレート)21と、バッキングプレート21上に堆積されたターゲット材料23とを含んでおり、スパッタリングによって無機物の膜を形成する際に用いられる。
【0016】
図1を参照すると、ステップS11において、バッキングプレートと、ターゲット材料の粉末とを用意する。バッキングプレートの材料としては、例えば、銅やステンレス鋼が用いられる。また、ターゲット材料としては、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、アルミナ(Al2O3)等のセラミックや、プラチナ(Pt)、金(Au)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、コバルト(Co)、それらの内の少なくとも1つを含む合金等の金属や、セラミックと金属との混合物が用いられる。
【0017】
次に、ステップS12において、エアロゾルデポジション法(以下、「AD法」ともいう)によってバッキングプレート上にターゲット材料を堆積させる。AD法とは、原料の微小な粉末をガスに分散させることによって生成されたエアロゾルを基板等の対象物に向けて噴射することにより、原料を対象物上に堆積させる成膜方法である。ここで、エアロゾルとは、気体中に浮遊している固体や液体の微粒子のことをいう。なお、AD法は、噴射堆積法又はガスデポジション法とも呼ばれている。
【0018】
AD法は、焼結プロセスが不要なので、比較的低温において電子セラミック等の機能性膜を形成できることや、対象物に衝突して粉砕した原料の結晶粒子により非常に緻密な膜を実現できるといった特徴を有しているので、電子セラミック等の機能性膜の性能を向上できる可能性がある。
【0019】
AD法によって原料の粉末を対象物に向けて噴射すると、原料の粉末が対象物に衝突して食い込み(「アンカーリング」と呼ばれる)、さらに、衝突の際に原料の粉末が変形又は破砕することによって生じた活性面において粒子同士が結合することにより、原料が対象物上に堆積する。そのようにして形成された膜は、対象物との境界面に形成されたアンカー部(アンカーリングが生じた領域)において、対象物と強固に密着していると共に、活性面におけるメカノケミカル反応による粒子の結合によって、極めて緻密な構造を有している。
【0020】
図2の(a)に示すように、ターゲット材料の粉末をガス中に分散させることによりエアロゾル12を生成し、生成されたエアロゾル12をノズル7からバッキングプレート21に向けて噴射することによって、図2の(b)に示すように、バッキングプレート21上にターゲット材料23を堆積させる。その際に、バッキングプレート21を回転させると共に、ノズル7を往復運動させる。この工程は、PZT等の鉛系ターゲットを作製する場合には、鉛の蒸発を防ぐために、バッキングプレート21又はターゲット材料23の温度が600℃以下の状態で行われることが好ましい。
【0021】
また、図2の(c)は、バッキングプレートの側面図であり、図2の(d)は、ターゲット材料が堆積したバッキングプレートの側面図である。図2の(d)に示すように、バッキングプレート21とターゲット材料23との境界面には、アンカーリングが生じた領域21aが存在する。これにより、ターゲット材料23がバッキングプレート21に強固に付着する。また、AD法によって堆積されたターゲット材料23は、バルク焼結体以上に緻密であり、熱伝導率が高いので熱ショック耐性が高く、また、スパッタリングの際に発生するパーティクルの量を大幅に低減することができる。
【0022】
再び図1を参照すると、ステップS13において、必要に応じて、バッキングプレート上に堆積したターゲット材料を熱処理(焼成)しても良い。この熱処理により、ターゲット材料の密度を大きくすることができるが、グレインサイズは拡大する。さらに、ステップS14において、バッキングプレート上に堆積したターゲット材料を研磨することにより、ターゲット材料の表面におけるボイド等の欠陥を除去することが望ましい。
【0023】
図3は、本発明の各実施形態に係るスパッタリング用ターゲットの製造方法又は再生方法において用いられる成膜装置の構成を示す模式図である。図3に示すように、この成膜装置は、エアロゾルの生成が行われるエアロゾル生成部1〜4と、生成されたエアロゾルを用いて成膜が行われる成膜部6〜9と、両者を接続しているエアロゾル搬送管5と、各部の動作を制御する制御部10とを含んでいる。
【0024】
エアロゾル生成部は、エアロゾル生成室1と、振動台2と、巻上げガスノズル3と、圧力調整ガスノズル4とを含んでいる。エアロゾル生成室1は、ターゲット材料の粉末11が配置される容器であり、ここで、エアロゾルの生成が行われる。また、エアロゾル生成室1は、ターゲット材料の粉末11を攪拌することにより効率的にエアロゾルを生成するために、所定の周波数で振動する振動台2の上に設置されている。
【0025】
巻上げガスノズル3は、外部のガスボンベから供給されるキャリアガスをエアロゾル生成室1内に導入することにより、サイクロン流を生成する。それにより、エアロゾル生成室1内に配置されたターゲット材料の粉末11が巻き上げられて分散し、エアロゾルが生成される。
【0026】
圧力調整ガスノズル4は、外部のガスボンベから供給されるキャリアガスをエアロゾル生成室1内に導入することにより、エアロゾル生成室1内のガス圧を調整する。それにより、エアロゾル生成室1内の圧力と成膜室6内の圧力との差が調整される。
【0027】
巻上げガスノズル3及び圧力調整ガスノズル4によって導入されるガスの流量は、流量調整部3a及び4aによって調節される。また、巻上げガスノズル3及び圧力調整ガスノズル4によって供給されるキャリアガスとしては、ヘリウム(He)、酸素(O2)、窒素(N2)、アルゴン(Ar)、若しくは、それらの混合ガス、又は、乾燥空気等が用いられる。
【0028】
エアロゾル搬送管5は、エアロゾル生成部から成膜部に向けてエアロゾルを搬送する経路である。成膜室6において、エアロゾル搬送管5は、エアロゾルを噴射するノズル7に接続されている。
【0029】
成膜部は、成膜室6と、噴射ノズル7と、ステージ8と、排気管9とを含んでいる。成膜室6の内部は、排気管9に接続されている排気ポンプによって排気されており、それによって所定の真空度に保たれている。噴射ノズル7は、噴射ノズル移動機構7aに取り付けられており、噴射ノズル移動機構7aは、噴射ノズル7を所定の方向及び所定の移動距離で往復運動させる。ステージ8は、バッキングプレート21(又は、後で説明するターゲット部材22)を保持する3次元的に移動可能なステージであり、噴射ノズル7とバッキングプレート21との相対位置を調節すると共に、成膜中においては回転運動することによってバッキングプレート21を回転させる。ステージ8には、バッキングプレート21を所定の温度に保つための加熱ヒータが搭載されている。
【0030】
噴射ノズル7は、所定の形状及び大きさの開口を有しており、エアロゾル生成室1からエアロゾル搬送管5を介して供給されるターゲット材料のエアロゾル12を、バッキングプレート21に向けて噴射する。ここで、噴射ノズル7から噴射されるエアロゾル12の速度は、エアロゾル生成室1と成膜室6との間の圧力差によって決定される。また、ステージ8の回転運動の速度と噴射ノズル7の往復運動の速度とを調節することにより、噴射ノズル7の1往復当りに形成される膜の厚さが制御される。
【0031】
次に、図3に示す成膜装置の基本的な動作について説明する。
図3に示すように、ターゲット材料の粉末11をエアロゾル生成室1に配置すると共に、バッキングプレート21をステージ8上に配置する。成膜装置を起動すると、エアロゾル生成室1において生成されたエアロゾルが、エアロゾル搬送管5を通って成膜室6に導入され、ノズル7から噴射されてバッキングプレート21に吹き付けられる。このエアロゾル中のターゲット材料の粉末11が、バッキングプレート21に衝突してメカノケミカル反応を起こすことによって、バッキングプレート21上に堆積する。その際に、制御部10は、ステージ8の回転運動とノズル7の往復運動とを制御し、それらの運動によって決定される成膜レートに従って、ターゲット材料の粉末11と同じ組成を有する膜が形成される。
【0032】
次に、本発明の第1の実施形態に係るスパッタリング用ターゲットの製造方法によって製造されるターゲットの実施例について、比較例と対比しながら説明する。ここでは、ターゲット材料の粉末として、粒径約0.3μmのPZTの原料粉が使用される。
【0033】
実施例においては、図3に示すステージ8上に直径8インチ(約20cm)の銅製のバッキングプレートをセットして10rpmで回転させると共に、ノズル7をバッキングプレートの上面から1cmの距離に保ち、バッキングプレートの中心と外周との間で往復させながら、PZTの原料粉をバッキングプレートに向けて噴射することにより、厚さ3mmのPZT膜を堆積させた。その際に、成膜温度(バッキングプレートの温度)は、約200℃に保たれた。この試料の他に、PZT膜を様々な温度で熱処理(焼成)することにより、複数の試料を作製した。
【0034】
一方、比較例においては、従来の固相焼結法によって、PZT原料粉の成形体を様々な温度で熱処理(焼成)して厚さ3mmのPZT膜とすることにより、複数の試料を作製した。そして、以下のような方法によって、実施例と比較例におけるPZT膜の結晶構造を観察すると共に、密度とグレインサイズを測定した。
【0035】
まず、試料の表面を鏡面研磨し、さらに、フッ酸を数滴垂らした硝酸30%水溶液で試料をエッチングした後、走査型電子顕微鏡(Hitachi製、S-4100)で観察すると共に、画像処理ソフトウェア(Scion corp.製、Scion image)を用いて平均グレインサイズを算出した。この画像処理ソフトウェアによれば、2値化した画像データに基づいて各グレインの面積が算出され、その面積と同等の面積を有する円の直径がグレインサイズとして規定される。そのようにして求められた複数のグレインサイズの平均値が、平均グレインサイズとして用いられる。また、密度は、電子密度計(Alfa Mirage製、SD-200L)を用いて、アルキメデス法で測定したが、一部の多孔質な試料については、重量と体積とから密度を計算した。
【0036】
図4は、実施例と比較例におけるPZT膜の結晶構造を示すSEM(走査型電子顕微鏡)写真である。図4の(a)は、実施例における成膜直後(as-deposited)のPZT膜の結晶構造を示しており、図4の(b)〜(f)は、実施例において800℃、900℃、1000℃、1100℃、1200℃の温度で熱処理した場合のPZT膜の結晶構造をそれぞれ示している。
【0037】
また、図4の(g)は、PZT原料粉(raw powder)を示しており、図4の(h)〜(l)は、比較例において800℃、900℃、1000℃、1100℃、1200℃の温度で熱処理した場合のPZT膜の結晶構造をそれぞれ示している。図4に示すように、実施例においては、成膜直後から緻密なPZT膜が得られているのに対し、比較例においては、熱処理温度が低い場合にはPZT膜の結晶構造が粗いことが分る。
【0038】
図5は、実施例と比較例におけるPZT膜の熱処理温度と密度との関係を表す図である。図5に示すように、実施例においては、成膜直後の密度が約7.8g/cm3であり、理論値の密度8.07g/cm3に対する相対密度は95%を超えている。さらに、熱処理温度が900℃〜1200℃の場合には、相対密度が約99%となる。一方、比較例においては、成形体の相対密度が約60%であり、熱処理温度が1000℃の場合には相対密度が約84%となり、熱処理温度が1050℃の場合には相対密度が約93%となるが、熱処理温度を1100℃以上にしないと実施例に匹敵する密度が得られないことが分る。
【0039】
図6は、実施例と比較例におけるPZT膜の熱処理温度とグレインサイズとの関係を表す図である。図6に示すように、実施例においては、成膜直後のグレインサイズが0.1μm以下であり、熱処理温度が1000℃の場合にはグレインサイズが約0.4μmとなり、熱処理温度が1050℃の場合にはグレインサイズが約0.6μmとなる。一方、比較例においては、成形体のグレインサイズが約0.3μmであり、熱処理温度が1000℃の場合にはグレインサイズが約0.7μmとなり、熱処理温度が1050℃の場合にはグレインサイズが約0.9μmとなる。
【0040】
図7は、実施例と比較例におけるPZT膜のグレインサイズと密度との関係を表す図である。PZTのような酸化物をターゲット材料として用いる場合には、固相焼結法によってターゲット部材(PZT膜)を作製することが一般的に行なわれている。その場合に、密度を上げるためにはPZT膜を1100℃以上の高温で焼結させる必要があるが、その際に結晶粒も成長して、グレインサイズがマイクロメートル(μm)のオーダーになってしまう。
【0041】
図7に示すように、実施例と比較例とにおいて密度に明確な差が見られるのは、熱処理温度が1050℃以下の場合である。熱処理温度が1050℃の場合には、実施例における相対密度が約99%であり、比較例における相対密度が約93%である。そのとき、実施例におけるグレインサイズは約0.6μmであり、比較例におけるグレインサイズは約0.9μmである。即ち、実施例によれば、PZT膜の相対密度を95%以上としながら、グレインサイズを0.6μm以下とすることが可能であり、従来のターゲットと比較して、スパッタリングの際に発生するパーティクルの量を大幅に低減することができる。
【0042】
次に、第1の実施形態に係るスパッタリング用ターゲットの製造方法の変形例について説明する。第1の変形例においては、図1に示すステップS11において、ターゲット材料として複数種類のセラミックの原料粉を用意しておき、ステップS12において、複数種類のセラミックの原料粉を順次ガス中に分散させることによりエアロゾルを生成し、生成されたエアロゾルをノズルからバッキングプレートに向けて噴射することによって、バッキングプレートの複数の異なる領域上に複数種類のセラミックをそれぞれ堆積させる。
【0043】
第2の変形例においては、図1に示すステップS11において、ターゲット材料として、複数種類の金属の粉末を用意しておき、ステップS12において、複数種類の金属の粉末を順次ガス中に分散させることによりエアロゾルを生成し、生成されたエアロゾルをノズルからバッキングプレートに向けて噴射することによって、バッキングプレートの複数の異なる領域上に複数種類の金属をそれぞれ堆積させる。
【0044】
第3の変形例においては、図1に示すステップS11において、ターゲット材料として、セラミックと金属との混合物の粉末を用意しておき、ステップS12において、セラミックと金属との混合物の粉末をガス中に分散させることによりエアロゾルを生成し、生成されたエアロゾルをノズルからバッキングプレートに向けて噴射することによって、バッキングプレート上にセラミックと金属との混合物を堆積させる。
【0045】
次に、本発明の第2の実施形態に係るスパッタリング用ターゲットの製造方法について説明する。
図8は、本発明の第2の実施形態に係るスパッタリング用ターゲットの製造方法を示すフローチャートであり、図9は、AD法によってターゲット部材上にターゲット材料を堆積させる工程を示す図である。図9の(e)に示すように、このスパッタリング用ターゲットは、金属製の基材(バッキングプレート)21と、バッキングプレート21上にボンディングされたターゲット部材22と、ターゲット部材22上に堆積されたターゲット材料23とを含んでおり、スパッタリングによって無機物の膜を形成する際に用いられる。
【0046】
図8を参照すると、ステップS21において、バッキングプレートと、焼結されたターゲット部材と、ターゲット材料の粉末とを用意する。バッキングプレートの材料及びターゲット材料としては、第1の実施形態におけるのと同じものを用いることができるが、ターゲット材料としては、特に、PZTやアルミナ(Al2O3)等のセラミックが適している。
【0047】
また、ターゲット部材は、ターゲット材料に近い組成を有する焼結体とし、ターゲット材料としてセラミックの原料粉を用いる場合には、同じセラミックの焼結体が用いられる。例えば、ターゲット材料としてPZTの原料粉を用いる場合には、ターゲット部材としてPZTの焼結体が用いられる。PZTの焼結体は、PZTの原料粉及び有機物のバインダを含有する混合物を仮焼成してバインダを焼き飛ばすことにより成形体とし、さらに、成形体を焼成してPZTの原料粉を焼結することにより作製される。また、ターゲット部材は、新たに作製しても良いし、使用済みのターゲットからバッキングプレートを剥がすことによって取得しても良い。
【0048】
次に、ステップS22において、AD法によってターゲット部材上にターゲット材料を堆積させる。図9の(a)に示すように、ターゲット材料の粉末をガス中に分散させることによりエアロゾル12を生成し、生成されたエアロゾル12をノズル7からターゲット部材22に向けて噴射することによって、図9の(b)に示すように、ターゲット部材22上にターゲット材料23を堆積させる。その際に、ターゲット部材22を回転させると共に、ノズル7を往復運動させる。この工程は、PZT等の鉛系ターゲットを作製する場合には、鉛の蒸発を防ぐために、ターゲット部材22又はターゲット材料23の温度が600℃以下(例えば、200℃)の状態で行われることが好ましい。
【0049】
また、図9の(c)は、ターゲット部材の側面図であり、図9の(d)は、ターゲット材料が堆積したターゲット部材の側面図である。図9の(d)に示すように、ターゲット部材22とターゲット材料23との境界面には、アンカーリングが生じた領域22aが存在する。これにより、ターゲット材料23がターゲット部材22に強固に付着する。また、AD法によって堆積されたターゲット材料23は、バルク焼結体以上に緻密であり、熱伝導率が高いので熱ショック耐性が高く、また、スパッタリングの際に発生するパーティクルの量を大幅に低減することができる。
【0050】
再び図8を参照すると、ステップS23において、必要に応じて、ターゲット部材及びターゲット材料を熱処理(焼成)しても良い。この熱処理により、ターゲット部材及びターゲット材料の密度を大きくすることができるが、グレインサイズは拡大する。さらに、ステップS24において、ターゲット部材上に堆積したターゲット材料を研磨することにより、ターゲット材料の表面におけるボイド等の欠陥を除去することが望ましい。
【0051】
ステップS25において、ターゲット材料が堆積したターゲット部材をバッキングプレート上にボンディングする。これにより、図9の(e)に示すようなスパッタリング用ターゲットが完成する。このスパッタリング用ターゲットは、ターゲット部材22とターゲット材料23との境界面に、アンカーリングが生じた領域22aを有している。
【0052】
次に、本発明の第2の実施形態に係るスパッタリング用ターゲットの製造方法によって製造されるターゲットの実施例について説明する。ここでは、ターゲット材料の粉末として、粒径約0.3μmのPZTの原料粉が使用される。
【0053】
実施例においては、図3に示すステージ8上に直径8インチ(約20cm)のPZTのターゲット部材をセットして10rpmで回転させると共に、ノズル7をターゲット部材の上面から1cmの距離に保ち、ターゲット部材の中心と外周との間で往復させながら、PZTの原料粉をターゲット部材に向けて噴射することにより、厚さ3mmのPZT膜を堆積させた。成膜温度(ターゲット部材の温度)は、約200℃とした。この試料の他に、PZT膜を様々な温度で熱処理(焼成)することにより、複数の試料を作製した。
【0054】
その結果、図4〜図7に示す実施例と同様のPZT膜が得られた。即ち、成膜直後の密度は、約7.8g/cm3であり、理論値の密度8.07g/cm3に対する相対密度は95%を超えている。さらに、熱処理温度が900℃〜1200℃の場合には、相対密度が約99%となる。また、成膜直後のグレインサイズは、0.1μm以下であり、熱処理温度が1000℃の場合にはグレインサイズが約0.4μmで、熱処理温度が1050℃の場合にはグレインサイズが約0.6μmである。実施例によれば、PZT膜の相対密度を95%以上としながら、グレインサイズを0.6μm以下とすることができるので、従来のターゲットと比較して、スパッタリングの際に発生するパーティクルの量を大幅に低減することができる。
【0055】
次に、本発明の一実施形態に係るスパッタリング用ターゲットの再生方法について説明する。
図10は、本発明の一実施形態に係るスパッタリング用ターゲットの再生方法を示すフローチャートであり、図11は、使用済みのターゲット上にAD法によってターゲット材料を堆積させる工程を示す図である。
【0056】
図10を参照すると、ステップS31において、使用済みのターゲットを用意する。図11の(a)に示すように、使用済みのターゲット20においては、スパッタリングの際に、金属製の基材(バッキングプレート)21上に付着されたターゲット材料24が不均一に消費されて、特定の領域に大きな浸食(エロージョン)24aが発生している。エロージョン24aの発生領域においてターゲット材料24が所定の厚みまで減少したら、他の領域においてターゲット材料24があまり減少していなくても、ターゲット全体を新たなターゲットと交換しなければならなかった。
【0057】
再び図10を参照すると、ステップS32において、AD法に用いるターゲット材料の粉末を用意する。このターゲット材料は、使用済みのターゲットにおいて用いられているターゲット材料に近い組成を有するものとする。使用済みのターゲットにおいて用いられているターゲット材料が従来の固相焼結法によって形成されたセラミックである場合には、AD法に用いるターゲット材料として、同じセラミックの原料粉が用いられる。例えば、使用済みのターゲットにおいて用いられているターゲット材料が従来の固相焼結法によって形成されたPZTである場合には、AD法に用いるターゲット材料として、PZTの原料粉が用いられる。
【0058】
次に、ステップS33において、AD法によって、使用済みのターゲット上にターゲット材料を堆積させる。図11の(b)に示すように、ターゲット材料の粉末をガス中に分散させることによりエアロゾル12を生成し、生成されたエアロゾル12をノズル7から使用済みのターゲット20に向けて噴射することによって、使用済みのターゲット20上にターゲット材料25を堆積させる。その際に、使用済みのターゲット20を回転させると共に、ノズル7を往復運動させて、エロージョン24aの発生領域を中心にノズル7が移動するようにする。この工程は、PZT等の鉛系ターゲットを再生する場合には、鉛の蒸発を防ぐために、バッキングプレート21又はターゲット材料24又は25の温度が600℃以下(例えば、200℃)の状態で行われることが好ましい。
【0059】
また、図11の(c)は、使用済みのターゲットの側面断面図であり、図11の(d)は、再生されたターゲットの側面断面図である。図11の(c)に示すように、ターゲット材料24に発生したエロージョン24aは、図11の(d)に示すように、ターゲット材料25によって埋められている。さらに、ターゲット部材22の上面全体にターゲット材料25を堆積させるようにしても良い。
【0060】
再び図10を参照すると、ステップS34において、必要に応じて、ターゲット材料を熱処理(焼結)しても良い。この熱処理により、ターゲット材料の密度を大きくすることができるが、グレインサイズは拡大する。さらに、ステップS35において、使用済みのターゲット上に堆積したターゲット材料を研磨することにより、ターゲット材料の表面におけるボイド等の欠陥を除去することが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、スパッタリングによって無機物の膜を形成する際に用いられるターゲットにおいて利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るスパッタリング用ターゲットの製造方法を示すフローチャートである。
【図2】AD法によってバッキングプレート上にターゲット材料を堆積させる工程を示す図である。
【図3】本発明の各実施形態に係るスパッタリング用ターゲットの製造方法又は再生方法において用いられる成膜装置の構成を示す模式図である。
【図4】実施例と比較例におけるPZT膜の結晶構造を示すSEM写真である。
【図5】実施例と比較例におけるPZT膜の熱処理温度と密度との関係を表す図である。
【図6】実施例と比較例におけるPZT膜の熱処理温度とグレインサイズとの関係を表す図である。
【図7】実施例と比較例におけるPZT膜のグレインサイズと密度との関係を表す図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係るスパッタリング用ターゲットの製造方法を示すフローチャートである。
【図9】AD法によってターゲット部材上にターゲット材料を堆積させる工程を示す図である。
【図10】本発明の一実施形態に係るスパッタリング用ターゲットの再生方法を示すフローチャートである。
【図11】使用済みのターゲット上にAD法によってターゲット材料を堆積させる工程を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
1 エアロゾル生成室
2 振動台
3 巻上げガスノズル
4 圧力調整ノズル
3a、4a 流量調整部
5 エアロゾル搬送管
6 成膜室
7 ノズル
8 ステージ
9 排気管
10 制御部
11 ターゲット材料の粉末
12 エアロゾル
20 使用済みのターゲット
21 バッキングプレート
22 ターゲット部材
23 ターゲット材料
22a 23a アンカーリングが生じた領域
24 ターゲット材料
24a エロージョン
25 ターゲット材料
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングによって無機物の膜を形成する際に用いられるターゲットに関し、さらに、そのようなターゲットを製造する方法、及び、そのようなターゲットを再生する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微小電気機械システム(MEMS:micro electrical mechanical system)の分野においては、誘電体、圧電体、磁性体、焦電体、半導体のように、電圧を印加することにより所定の機能を発現する電子セラミック等の機能性材料を含む素子を、成膜技術を用いて製造する研究が盛んに進められている。
【0003】
成膜技術の中でも、高品質の膜が要求される半導体、液晶又はプラズマディスプレイ、及び、光ディスクを製造する手法として、スパッタリングが着目されている。さらに、真空チャンバ内にガスを導入し、はじき飛ばされたターゲット材料とガスとを反応させることによって化合物を成膜する反応性スパッタ法も、新たな合金や人工格子の作製技術として注目されている。
【0004】
スパッタリングにおいては、真空チャンバ内に、基材(バッキングプレート)上に付着されたターゲット材料と、スパッタリングの対象物とを設置し、高電圧をかけてイオン化された希ガス元素(普通はアルゴンを用いる)をターゲット材料に衝突させることにより、ターゲット表面の原子がはじき飛ばされて対象物に到達し、製膜が行われる。
【0005】
特に、マグネトロンスパッタ法においては、スパッタリングの際に、基材上に付着されたターゲット材料が不均一に消費されて、特定の領域に大きな浸食(エロージョン)が発生する。エロージョン発生領域においてターゲット材料が所定の厚みまで減少したら、他の領域においてターゲット材料があまり減少していなくても、ターゲット全体を新たなターゲットと交換しなければならなかった。
【0006】
関連する技術として、下記の特許文献1には、スパッタのターゲットホルダーである金属板上に、粉末状ターゲット物質を高温ガスで半溶融状態にし、このガスでターゲット物質をホルダーまで輸送し、ホルダーにターゲット物質をセラミック状に付着させることを特徴とするスパッタ用ターゲットの製造方法が開示されている。
【0007】
この製造方法によれば、ターゲット物質を成形、焼成、加工する工程が不要となり、ターゲット物質からカソード電極への熱伝導が良くなる。また、マグネトロンスパッタ法を用いる場合には、エロージョン発生領域においてターゲット材料が所定の厚みまで減少したら、その領域に同じターゲット物質を溶射することによってターゲットを再生することができる。
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されているスパッタ用ターゲットの製造方法によれば、ターゲット材料であるセラミックとターゲットホルダーである金属板との熱膨張率の差が大きいので、ターゲット材料の溶射膜を厚く形成することができず、また、スパッタリング時の熱ショックによりターゲット材料とターゲットホルダーとの間の密着性が低下して、それらが剥離するおそれがある。
【0009】
さらに、粉末状のターゲット材料を高温ガスで半溶融状態にする際に、ターゲット材料の組成ずれが生じ易いので、特許文献1に開示されているスパッタ用ターゲットの製造方法は、高い組成制御性が要求される機能性材料、例えば、圧電材料のターゲットを製造する場合には適していない。加えて、一般に、溶射膜はバルク焼結体と比較して密度が低いので、溶射膜をターゲット材料として用いた場合には、スパッタリングの際にパーティクルが発生し易いという問題がある。
【特許文献1】特開昭60−181270号公報(第1−2頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、上記の点に鑑み、本発明は、ターゲット材料を成形又は焼成することなく、緻密な結晶構造を有するターゲット材料を形成することにより、スパッタリングの際にパーティクルが発生し難いスパッタリング用ターゲットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の1つの観点に係るターゲット製造方法は、スパッタリングによって無機物の膜を形成する際に用いられるターゲットを製造する方法において、金属製の基材及びターゲット材料の粉末を用意する工程(a)と、ターゲット材料の粉末をガス中に分散させることによりエアロゾルを生成し、生成されたエアロゾルをノズルから基材に向けて噴射することにより基材上にターゲット材料を堆積させる工程(b)とを具備する。
【0012】
また、本発明の1つの観点に係るターゲット再生方法は、スパッタリングによって無機物の膜を形成する際に用いられるターゲットを再生する方法において、使用済みのターゲットを用意する工程(a)と、ターゲット材料の粉末を用意する工程(b)と、ターゲット材料の粉末をガス中に分散させることによりエアロゾルを生成し、生成されたエアロゾルをノズルから使用済みのターゲットに向けて噴射することにより使用済みのターゲット上にターゲット材料を堆積させる工程(c)とを具備する。
【0013】
さらに、本発明の1つの観点に係るターゲットは、スパッタリングによって無機物の膜を形成する際に用いられるターゲットにおいて、金属製の基材と、ターゲット材料の粉末をガス中に分散させることによりエアロゾルを生成し、生成されたエアロゾルをノズルから基材に向けて噴射することにより基材上に堆積されたターゲット材料とを具備し、基材とターゲット材料との境界面にアンカーリングが生じた領域を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ターゲット材料の粉末をガス中に分散させることによりエアロゾルを生成し、生成されたエアロゾルをノズルから基材又はターゲット部材に向けて噴射することにより基材又はターゲット部材上に堆積させるので、ターゲット材料を成形又は焼成することなく、緻密な結晶構造を有するターゲット材料を形成して、スパッタリングの際にパーティクルが発生し難いスパッタリング用ターゲットを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、説明を省略する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係るスパッタリング用ターゲットの製造方法を示すフローチャートであり、図2は、AD法によってバッキングプレート上にターゲット材料を堆積させる工程を示す図である。図2の(d)に示すように、このスパッタリング用ターゲットは、金属製の基材(バッキングプレート)21と、バッキングプレート21上に堆積されたターゲット材料23とを含んでおり、スパッタリングによって無機物の膜を形成する際に用いられる。
【0016】
図1を参照すると、ステップS11において、バッキングプレートと、ターゲット材料の粉末とを用意する。バッキングプレートの材料としては、例えば、銅やステンレス鋼が用いられる。また、ターゲット材料としては、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、アルミナ(Al2O3)等のセラミックや、プラチナ(Pt)、金(Au)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、コバルト(Co)、それらの内の少なくとも1つを含む合金等の金属や、セラミックと金属との混合物が用いられる。
【0017】
次に、ステップS12において、エアロゾルデポジション法(以下、「AD法」ともいう)によってバッキングプレート上にターゲット材料を堆積させる。AD法とは、原料の微小な粉末をガスに分散させることによって生成されたエアロゾルを基板等の対象物に向けて噴射することにより、原料を対象物上に堆積させる成膜方法である。ここで、エアロゾルとは、気体中に浮遊している固体や液体の微粒子のことをいう。なお、AD法は、噴射堆積法又はガスデポジション法とも呼ばれている。
【0018】
AD法は、焼結プロセスが不要なので、比較的低温において電子セラミック等の機能性膜を形成できることや、対象物に衝突して粉砕した原料の結晶粒子により非常に緻密な膜を実現できるといった特徴を有しているので、電子セラミック等の機能性膜の性能を向上できる可能性がある。
【0019】
AD法によって原料の粉末を対象物に向けて噴射すると、原料の粉末が対象物に衝突して食い込み(「アンカーリング」と呼ばれる)、さらに、衝突の際に原料の粉末が変形又は破砕することによって生じた活性面において粒子同士が結合することにより、原料が対象物上に堆積する。そのようにして形成された膜は、対象物との境界面に形成されたアンカー部(アンカーリングが生じた領域)において、対象物と強固に密着していると共に、活性面におけるメカノケミカル反応による粒子の結合によって、極めて緻密な構造を有している。
【0020】
図2の(a)に示すように、ターゲット材料の粉末をガス中に分散させることによりエアロゾル12を生成し、生成されたエアロゾル12をノズル7からバッキングプレート21に向けて噴射することによって、図2の(b)に示すように、バッキングプレート21上にターゲット材料23を堆積させる。その際に、バッキングプレート21を回転させると共に、ノズル7を往復運動させる。この工程は、PZT等の鉛系ターゲットを作製する場合には、鉛の蒸発を防ぐために、バッキングプレート21又はターゲット材料23の温度が600℃以下の状態で行われることが好ましい。
【0021】
また、図2の(c)は、バッキングプレートの側面図であり、図2の(d)は、ターゲット材料が堆積したバッキングプレートの側面図である。図2の(d)に示すように、バッキングプレート21とターゲット材料23との境界面には、アンカーリングが生じた領域21aが存在する。これにより、ターゲット材料23がバッキングプレート21に強固に付着する。また、AD法によって堆積されたターゲット材料23は、バルク焼結体以上に緻密であり、熱伝導率が高いので熱ショック耐性が高く、また、スパッタリングの際に発生するパーティクルの量を大幅に低減することができる。
【0022】
再び図1を参照すると、ステップS13において、必要に応じて、バッキングプレート上に堆積したターゲット材料を熱処理(焼成)しても良い。この熱処理により、ターゲット材料の密度を大きくすることができるが、グレインサイズは拡大する。さらに、ステップS14において、バッキングプレート上に堆積したターゲット材料を研磨することにより、ターゲット材料の表面におけるボイド等の欠陥を除去することが望ましい。
【0023】
図3は、本発明の各実施形態に係るスパッタリング用ターゲットの製造方法又は再生方法において用いられる成膜装置の構成を示す模式図である。図3に示すように、この成膜装置は、エアロゾルの生成が行われるエアロゾル生成部1〜4と、生成されたエアロゾルを用いて成膜が行われる成膜部6〜9と、両者を接続しているエアロゾル搬送管5と、各部の動作を制御する制御部10とを含んでいる。
【0024】
エアロゾル生成部は、エアロゾル生成室1と、振動台2と、巻上げガスノズル3と、圧力調整ガスノズル4とを含んでいる。エアロゾル生成室1は、ターゲット材料の粉末11が配置される容器であり、ここで、エアロゾルの生成が行われる。また、エアロゾル生成室1は、ターゲット材料の粉末11を攪拌することにより効率的にエアロゾルを生成するために、所定の周波数で振動する振動台2の上に設置されている。
【0025】
巻上げガスノズル3は、外部のガスボンベから供給されるキャリアガスをエアロゾル生成室1内に導入することにより、サイクロン流を生成する。それにより、エアロゾル生成室1内に配置されたターゲット材料の粉末11が巻き上げられて分散し、エアロゾルが生成される。
【0026】
圧力調整ガスノズル4は、外部のガスボンベから供給されるキャリアガスをエアロゾル生成室1内に導入することにより、エアロゾル生成室1内のガス圧を調整する。それにより、エアロゾル生成室1内の圧力と成膜室6内の圧力との差が調整される。
【0027】
巻上げガスノズル3及び圧力調整ガスノズル4によって導入されるガスの流量は、流量調整部3a及び4aによって調節される。また、巻上げガスノズル3及び圧力調整ガスノズル4によって供給されるキャリアガスとしては、ヘリウム(He)、酸素(O2)、窒素(N2)、アルゴン(Ar)、若しくは、それらの混合ガス、又は、乾燥空気等が用いられる。
【0028】
エアロゾル搬送管5は、エアロゾル生成部から成膜部に向けてエアロゾルを搬送する経路である。成膜室6において、エアロゾル搬送管5は、エアロゾルを噴射するノズル7に接続されている。
【0029】
成膜部は、成膜室6と、噴射ノズル7と、ステージ8と、排気管9とを含んでいる。成膜室6の内部は、排気管9に接続されている排気ポンプによって排気されており、それによって所定の真空度に保たれている。噴射ノズル7は、噴射ノズル移動機構7aに取り付けられており、噴射ノズル移動機構7aは、噴射ノズル7を所定の方向及び所定の移動距離で往復運動させる。ステージ8は、バッキングプレート21(又は、後で説明するターゲット部材22)を保持する3次元的に移動可能なステージであり、噴射ノズル7とバッキングプレート21との相対位置を調節すると共に、成膜中においては回転運動することによってバッキングプレート21を回転させる。ステージ8には、バッキングプレート21を所定の温度に保つための加熱ヒータが搭載されている。
【0030】
噴射ノズル7は、所定の形状及び大きさの開口を有しており、エアロゾル生成室1からエアロゾル搬送管5を介して供給されるターゲット材料のエアロゾル12を、バッキングプレート21に向けて噴射する。ここで、噴射ノズル7から噴射されるエアロゾル12の速度は、エアロゾル生成室1と成膜室6との間の圧力差によって決定される。また、ステージ8の回転運動の速度と噴射ノズル7の往復運動の速度とを調節することにより、噴射ノズル7の1往復当りに形成される膜の厚さが制御される。
【0031】
次に、図3に示す成膜装置の基本的な動作について説明する。
図3に示すように、ターゲット材料の粉末11をエアロゾル生成室1に配置すると共に、バッキングプレート21をステージ8上に配置する。成膜装置を起動すると、エアロゾル生成室1において生成されたエアロゾルが、エアロゾル搬送管5を通って成膜室6に導入され、ノズル7から噴射されてバッキングプレート21に吹き付けられる。このエアロゾル中のターゲット材料の粉末11が、バッキングプレート21に衝突してメカノケミカル反応を起こすことによって、バッキングプレート21上に堆積する。その際に、制御部10は、ステージ8の回転運動とノズル7の往復運動とを制御し、それらの運動によって決定される成膜レートに従って、ターゲット材料の粉末11と同じ組成を有する膜が形成される。
【0032】
次に、本発明の第1の実施形態に係るスパッタリング用ターゲットの製造方法によって製造されるターゲットの実施例について、比較例と対比しながら説明する。ここでは、ターゲット材料の粉末として、粒径約0.3μmのPZTの原料粉が使用される。
【0033】
実施例においては、図3に示すステージ8上に直径8インチ(約20cm)の銅製のバッキングプレートをセットして10rpmで回転させると共に、ノズル7をバッキングプレートの上面から1cmの距離に保ち、バッキングプレートの中心と外周との間で往復させながら、PZTの原料粉をバッキングプレートに向けて噴射することにより、厚さ3mmのPZT膜を堆積させた。その際に、成膜温度(バッキングプレートの温度)は、約200℃に保たれた。この試料の他に、PZT膜を様々な温度で熱処理(焼成)することにより、複数の試料を作製した。
【0034】
一方、比較例においては、従来の固相焼結法によって、PZT原料粉の成形体を様々な温度で熱処理(焼成)して厚さ3mmのPZT膜とすることにより、複数の試料を作製した。そして、以下のような方法によって、実施例と比較例におけるPZT膜の結晶構造を観察すると共に、密度とグレインサイズを測定した。
【0035】
まず、試料の表面を鏡面研磨し、さらに、フッ酸を数滴垂らした硝酸30%水溶液で試料をエッチングした後、走査型電子顕微鏡(Hitachi製、S-4100)で観察すると共に、画像処理ソフトウェア(Scion corp.製、Scion image)を用いて平均グレインサイズを算出した。この画像処理ソフトウェアによれば、2値化した画像データに基づいて各グレインの面積が算出され、その面積と同等の面積を有する円の直径がグレインサイズとして規定される。そのようにして求められた複数のグレインサイズの平均値が、平均グレインサイズとして用いられる。また、密度は、電子密度計(Alfa Mirage製、SD-200L)を用いて、アルキメデス法で測定したが、一部の多孔質な試料については、重量と体積とから密度を計算した。
【0036】
図4は、実施例と比較例におけるPZT膜の結晶構造を示すSEM(走査型電子顕微鏡)写真である。図4の(a)は、実施例における成膜直後(as-deposited)のPZT膜の結晶構造を示しており、図4の(b)〜(f)は、実施例において800℃、900℃、1000℃、1100℃、1200℃の温度で熱処理した場合のPZT膜の結晶構造をそれぞれ示している。
【0037】
また、図4の(g)は、PZT原料粉(raw powder)を示しており、図4の(h)〜(l)は、比較例において800℃、900℃、1000℃、1100℃、1200℃の温度で熱処理した場合のPZT膜の結晶構造をそれぞれ示している。図4に示すように、実施例においては、成膜直後から緻密なPZT膜が得られているのに対し、比較例においては、熱処理温度が低い場合にはPZT膜の結晶構造が粗いことが分る。
【0038】
図5は、実施例と比較例におけるPZT膜の熱処理温度と密度との関係を表す図である。図5に示すように、実施例においては、成膜直後の密度が約7.8g/cm3であり、理論値の密度8.07g/cm3に対する相対密度は95%を超えている。さらに、熱処理温度が900℃〜1200℃の場合には、相対密度が約99%となる。一方、比較例においては、成形体の相対密度が約60%であり、熱処理温度が1000℃の場合には相対密度が約84%となり、熱処理温度が1050℃の場合には相対密度が約93%となるが、熱処理温度を1100℃以上にしないと実施例に匹敵する密度が得られないことが分る。
【0039】
図6は、実施例と比較例におけるPZT膜の熱処理温度とグレインサイズとの関係を表す図である。図6に示すように、実施例においては、成膜直後のグレインサイズが0.1μm以下であり、熱処理温度が1000℃の場合にはグレインサイズが約0.4μmとなり、熱処理温度が1050℃の場合にはグレインサイズが約0.6μmとなる。一方、比較例においては、成形体のグレインサイズが約0.3μmであり、熱処理温度が1000℃の場合にはグレインサイズが約0.7μmとなり、熱処理温度が1050℃の場合にはグレインサイズが約0.9μmとなる。
【0040】
図7は、実施例と比較例におけるPZT膜のグレインサイズと密度との関係を表す図である。PZTのような酸化物をターゲット材料として用いる場合には、固相焼結法によってターゲット部材(PZT膜)を作製することが一般的に行なわれている。その場合に、密度を上げるためにはPZT膜を1100℃以上の高温で焼結させる必要があるが、その際に結晶粒も成長して、グレインサイズがマイクロメートル(μm)のオーダーになってしまう。
【0041】
図7に示すように、実施例と比較例とにおいて密度に明確な差が見られるのは、熱処理温度が1050℃以下の場合である。熱処理温度が1050℃の場合には、実施例における相対密度が約99%であり、比較例における相対密度が約93%である。そのとき、実施例におけるグレインサイズは約0.6μmであり、比較例におけるグレインサイズは約0.9μmである。即ち、実施例によれば、PZT膜の相対密度を95%以上としながら、グレインサイズを0.6μm以下とすることが可能であり、従来のターゲットと比較して、スパッタリングの際に発生するパーティクルの量を大幅に低減することができる。
【0042】
次に、第1の実施形態に係るスパッタリング用ターゲットの製造方法の変形例について説明する。第1の変形例においては、図1に示すステップS11において、ターゲット材料として複数種類のセラミックの原料粉を用意しておき、ステップS12において、複数種類のセラミックの原料粉を順次ガス中に分散させることによりエアロゾルを生成し、生成されたエアロゾルをノズルからバッキングプレートに向けて噴射することによって、バッキングプレートの複数の異なる領域上に複数種類のセラミックをそれぞれ堆積させる。
【0043】
第2の変形例においては、図1に示すステップS11において、ターゲット材料として、複数種類の金属の粉末を用意しておき、ステップS12において、複数種類の金属の粉末を順次ガス中に分散させることによりエアロゾルを生成し、生成されたエアロゾルをノズルからバッキングプレートに向けて噴射することによって、バッキングプレートの複数の異なる領域上に複数種類の金属をそれぞれ堆積させる。
【0044】
第3の変形例においては、図1に示すステップS11において、ターゲット材料として、セラミックと金属との混合物の粉末を用意しておき、ステップS12において、セラミックと金属との混合物の粉末をガス中に分散させることによりエアロゾルを生成し、生成されたエアロゾルをノズルからバッキングプレートに向けて噴射することによって、バッキングプレート上にセラミックと金属との混合物を堆積させる。
【0045】
次に、本発明の第2の実施形態に係るスパッタリング用ターゲットの製造方法について説明する。
図8は、本発明の第2の実施形態に係るスパッタリング用ターゲットの製造方法を示すフローチャートであり、図9は、AD法によってターゲット部材上にターゲット材料を堆積させる工程を示す図である。図9の(e)に示すように、このスパッタリング用ターゲットは、金属製の基材(バッキングプレート)21と、バッキングプレート21上にボンディングされたターゲット部材22と、ターゲット部材22上に堆積されたターゲット材料23とを含んでおり、スパッタリングによって無機物の膜を形成する際に用いられる。
【0046】
図8を参照すると、ステップS21において、バッキングプレートと、焼結されたターゲット部材と、ターゲット材料の粉末とを用意する。バッキングプレートの材料及びターゲット材料としては、第1の実施形態におけるのと同じものを用いることができるが、ターゲット材料としては、特に、PZTやアルミナ(Al2O3)等のセラミックが適している。
【0047】
また、ターゲット部材は、ターゲット材料に近い組成を有する焼結体とし、ターゲット材料としてセラミックの原料粉を用いる場合には、同じセラミックの焼結体が用いられる。例えば、ターゲット材料としてPZTの原料粉を用いる場合には、ターゲット部材としてPZTの焼結体が用いられる。PZTの焼結体は、PZTの原料粉及び有機物のバインダを含有する混合物を仮焼成してバインダを焼き飛ばすことにより成形体とし、さらに、成形体を焼成してPZTの原料粉を焼結することにより作製される。また、ターゲット部材は、新たに作製しても良いし、使用済みのターゲットからバッキングプレートを剥がすことによって取得しても良い。
【0048】
次に、ステップS22において、AD法によってターゲット部材上にターゲット材料を堆積させる。図9の(a)に示すように、ターゲット材料の粉末をガス中に分散させることによりエアロゾル12を生成し、生成されたエアロゾル12をノズル7からターゲット部材22に向けて噴射することによって、図9の(b)に示すように、ターゲット部材22上にターゲット材料23を堆積させる。その際に、ターゲット部材22を回転させると共に、ノズル7を往復運動させる。この工程は、PZT等の鉛系ターゲットを作製する場合には、鉛の蒸発を防ぐために、ターゲット部材22又はターゲット材料23の温度が600℃以下(例えば、200℃)の状態で行われることが好ましい。
【0049】
また、図9の(c)は、ターゲット部材の側面図であり、図9の(d)は、ターゲット材料が堆積したターゲット部材の側面図である。図9の(d)に示すように、ターゲット部材22とターゲット材料23との境界面には、アンカーリングが生じた領域22aが存在する。これにより、ターゲット材料23がターゲット部材22に強固に付着する。また、AD法によって堆積されたターゲット材料23は、バルク焼結体以上に緻密であり、熱伝導率が高いので熱ショック耐性が高く、また、スパッタリングの際に発生するパーティクルの量を大幅に低減することができる。
【0050】
再び図8を参照すると、ステップS23において、必要に応じて、ターゲット部材及びターゲット材料を熱処理(焼成)しても良い。この熱処理により、ターゲット部材及びターゲット材料の密度を大きくすることができるが、グレインサイズは拡大する。さらに、ステップS24において、ターゲット部材上に堆積したターゲット材料を研磨することにより、ターゲット材料の表面におけるボイド等の欠陥を除去することが望ましい。
【0051】
ステップS25において、ターゲット材料が堆積したターゲット部材をバッキングプレート上にボンディングする。これにより、図9の(e)に示すようなスパッタリング用ターゲットが完成する。このスパッタリング用ターゲットは、ターゲット部材22とターゲット材料23との境界面に、アンカーリングが生じた領域22aを有している。
【0052】
次に、本発明の第2の実施形態に係るスパッタリング用ターゲットの製造方法によって製造されるターゲットの実施例について説明する。ここでは、ターゲット材料の粉末として、粒径約0.3μmのPZTの原料粉が使用される。
【0053】
実施例においては、図3に示すステージ8上に直径8インチ(約20cm)のPZTのターゲット部材をセットして10rpmで回転させると共に、ノズル7をターゲット部材の上面から1cmの距離に保ち、ターゲット部材の中心と外周との間で往復させながら、PZTの原料粉をターゲット部材に向けて噴射することにより、厚さ3mmのPZT膜を堆積させた。成膜温度(ターゲット部材の温度)は、約200℃とした。この試料の他に、PZT膜を様々な温度で熱処理(焼成)することにより、複数の試料を作製した。
【0054】
その結果、図4〜図7に示す実施例と同様のPZT膜が得られた。即ち、成膜直後の密度は、約7.8g/cm3であり、理論値の密度8.07g/cm3に対する相対密度は95%を超えている。さらに、熱処理温度が900℃〜1200℃の場合には、相対密度が約99%となる。また、成膜直後のグレインサイズは、0.1μm以下であり、熱処理温度が1000℃の場合にはグレインサイズが約0.4μmで、熱処理温度が1050℃の場合にはグレインサイズが約0.6μmである。実施例によれば、PZT膜の相対密度を95%以上としながら、グレインサイズを0.6μm以下とすることができるので、従来のターゲットと比較して、スパッタリングの際に発生するパーティクルの量を大幅に低減することができる。
【0055】
次に、本発明の一実施形態に係るスパッタリング用ターゲットの再生方法について説明する。
図10は、本発明の一実施形態に係るスパッタリング用ターゲットの再生方法を示すフローチャートであり、図11は、使用済みのターゲット上にAD法によってターゲット材料を堆積させる工程を示す図である。
【0056】
図10を参照すると、ステップS31において、使用済みのターゲットを用意する。図11の(a)に示すように、使用済みのターゲット20においては、スパッタリングの際に、金属製の基材(バッキングプレート)21上に付着されたターゲット材料24が不均一に消費されて、特定の領域に大きな浸食(エロージョン)24aが発生している。エロージョン24aの発生領域においてターゲット材料24が所定の厚みまで減少したら、他の領域においてターゲット材料24があまり減少していなくても、ターゲット全体を新たなターゲットと交換しなければならなかった。
【0057】
再び図10を参照すると、ステップS32において、AD法に用いるターゲット材料の粉末を用意する。このターゲット材料は、使用済みのターゲットにおいて用いられているターゲット材料に近い組成を有するものとする。使用済みのターゲットにおいて用いられているターゲット材料が従来の固相焼結法によって形成されたセラミックである場合には、AD法に用いるターゲット材料として、同じセラミックの原料粉が用いられる。例えば、使用済みのターゲットにおいて用いられているターゲット材料が従来の固相焼結法によって形成されたPZTである場合には、AD法に用いるターゲット材料として、PZTの原料粉が用いられる。
【0058】
次に、ステップS33において、AD法によって、使用済みのターゲット上にターゲット材料を堆積させる。図11の(b)に示すように、ターゲット材料の粉末をガス中に分散させることによりエアロゾル12を生成し、生成されたエアロゾル12をノズル7から使用済みのターゲット20に向けて噴射することによって、使用済みのターゲット20上にターゲット材料25を堆積させる。その際に、使用済みのターゲット20を回転させると共に、ノズル7を往復運動させて、エロージョン24aの発生領域を中心にノズル7が移動するようにする。この工程は、PZT等の鉛系ターゲットを再生する場合には、鉛の蒸発を防ぐために、バッキングプレート21又はターゲット材料24又は25の温度が600℃以下(例えば、200℃)の状態で行われることが好ましい。
【0059】
また、図11の(c)は、使用済みのターゲットの側面断面図であり、図11の(d)は、再生されたターゲットの側面断面図である。図11の(c)に示すように、ターゲット材料24に発生したエロージョン24aは、図11の(d)に示すように、ターゲット材料25によって埋められている。さらに、ターゲット部材22の上面全体にターゲット材料25を堆積させるようにしても良い。
【0060】
再び図10を参照すると、ステップS34において、必要に応じて、ターゲット材料を熱処理(焼結)しても良い。この熱処理により、ターゲット材料の密度を大きくすることができるが、グレインサイズは拡大する。さらに、ステップS35において、使用済みのターゲット上に堆積したターゲット材料を研磨することにより、ターゲット材料の表面におけるボイド等の欠陥を除去することが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、スパッタリングによって無機物の膜を形成する際に用いられるターゲットにおいて利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るスパッタリング用ターゲットの製造方法を示すフローチャートである。
【図2】AD法によってバッキングプレート上にターゲット材料を堆積させる工程を示す図である。
【図3】本発明の各実施形態に係るスパッタリング用ターゲットの製造方法又は再生方法において用いられる成膜装置の構成を示す模式図である。
【図4】実施例と比較例におけるPZT膜の結晶構造を示すSEM写真である。
【図5】実施例と比較例におけるPZT膜の熱処理温度と密度との関係を表す図である。
【図6】実施例と比較例におけるPZT膜の熱処理温度とグレインサイズとの関係を表す図である。
【図7】実施例と比較例におけるPZT膜のグレインサイズと密度との関係を表す図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係るスパッタリング用ターゲットの製造方法を示すフローチャートである。
【図9】AD法によってターゲット部材上にターゲット材料を堆積させる工程を示す図である。
【図10】本発明の一実施形態に係るスパッタリング用ターゲットの再生方法を示すフローチャートである。
【図11】使用済みのターゲット上にAD法によってターゲット材料を堆積させる工程を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
1 エアロゾル生成室
2 振動台
3 巻上げガスノズル
4 圧力調整ノズル
3a、4a 流量調整部
5 エアロゾル搬送管
6 成膜室
7 ノズル
8 ステージ
9 排気管
10 制御部
11 ターゲット材料の粉末
12 エアロゾル
20 使用済みのターゲット
21 バッキングプレート
22 ターゲット部材
23 ターゲット材料
22a 23a アンカーリングが生じた領域
24 ターゲット材料
24a エロージョン
25 ターゲット材料
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリングによって無機物の膜を形成する際に用いられるターゲットを製造する方法において、
金属製の基材及びターゲット材料の粉末を用意する工程(a)と、
前記ターゲット材料の粉末をガス中に分散させることによりエアロゾルを生成し、生成されたエアロゾルをノズルから前記基材に向けて噴射することにより前記基材上に前記ターゲット材料を堆積させる工程(b)と、
を具備するターゲット製造方法。
【請求項2】
工程(a)が、前記ターゲット材料として、複数種類のセラミックの原料粉を用意することを含み、
工程(b)が、前記複数種類のセラミックの原料粉を順次ガス中に分散させることによりエアロゾルを生成し、生成されたエアロゾルを前記ノズルから前記基材に向けて噴射することにより前記基材の複数の異なる領域上に前記複数種類のセラミックをそれぞれ堆積させることを含む、
請求項1記載のターゲット製造方法。
【請求項3】
工程(a)が、前記ターゲット材料として、複数種類の金属の粉末を用意することを含み、
工程(b)が、前記複数種類の金属の粉末を順次ガス中に分散させることによりエアロゾルを生成し、生成されたエアロゾルを前記ノズルから前記基材に向けて噴射することにより前記基材の複数の異なる領域上に前記複数種類の金属をそれぞれ堆積させることを含む、
請求項1記載のターゲット製造方法。
【請求項4】
工程(a)が、前記ターゲット材料として、セラミックと金属との混合物の粉末を用意することを含み、
工程(b)が、前記セラミックと金属との混合物の粉末をガス中に分散させることによりエアロゾルを生成し、生成されたエアロゾルを前記ノズルから前記基材に向けて噴射することにより前記基材上に前記セラミックと金属との混合物を堆積させることを含む、
請求項1記載のターゲット製造方法。
【請求項5】
スパッタリングによって無機物の膜を形成する際に用いられるターゲットを製造する方法において、
金属製の基材、焼結されたターゲット部材、及び、ターゲット材料の粉末を用意する工程(a)と、
前記ターゲット材料の粉末をガス中に分散させることによりエアロゾルを生成し、生成されたエアロゾルをノズルから前記ターゲット部材に向けて噴射することにより前記ターゲット部材上に前記ターゲット材料を堆積させる工程(b)と、
前記ターゲット材料が堆積した前記ターゲット部材を前記基材上にボンディングする工程(c)と、
を具備するターゲット製造方法。
【請求項6】
前記基材又は前記ターゲット部材上に堆積した前記ターゲット材料を熱処理する工程をさらに具備する、請求項1〜5のいずれか1項記載のターゲット製造方法。
【請求項7】
前記基材又は前記ターゲット部材上に堆積した前記ターゲット材料を研磨する工程をさらに具備する、請求項1〜6のいずれか1項記載のターゲット製造方法。
【請求項8】
工程(b)が、前記基材又は前記ターゲット部材を回転させながら、生成されたエアロゾルを前記ノズルから前記基材又は前記ターゲット部材に向けて噴射することにより前記基材又は前記ターゲット部材上に前記ターゲット材料を堆積させることを含む、請求項1〜7のいずれか1項記載のターゲット製造方法。
【請求項9】
工程(b)が、前記ノズルを往復運動させながら、生成されたエアロゾルを前記ノズルから前記基材又は前記ターゲット部材に向けて噴射することにより前記基材又は前記ターゲット部材上に前記ターゲット材料を堆積させることを含む、請求項1〜8のいずれか1項記載のターゲット製造方法。
【請求項10】
工程(b)が、前記基材又は前記ターゲット部材の温度が600℃以下の状態で行われる、請求項1〜9のいずれか1項記載のターゲット製造方法。
【請求項11】
スパッタリングによって無機物の膜を形成する際に用いられるターゲットを再生する方法において、
使用済みのターゲットを用意する工程(a)と、
ターゲット材料の粉末を用意する工程(b)と、
前記ターゲット材料の粉末をガス中に分散させることによりエアロゾルを生成し、生成されたエアロゾルをノズルから前記使用済みのターゲットに向けて噴射することにより前記使用済みのターゲット上に前記ターゲット材料を堆積させる工程(c)と、
を具備するターゲット再生方法。
【請求項12】
スパッタリングによって無機物の膜を形成する際に用いられるターゲットにおいて、
金属製の基材と、
ターゲット材料の粉末をガス中に分散させることによりエアロゾルを生成し、生成されたエアロゾルをノズルから前記基材に向けて噴射することにより前記基材上に堆積されたターゲット材料と、
を具備し、前記基材と前記ターゲット材料との境界面にアンカーリングが生じた領域を有するターゲット。
【請求項13】
スパッタリングによって無機物の膜を形成する際に用いられるターゲットにおいて、
金属製の基材と、
前記基材上にボンディングされたターゲット部材と、
ターゲット材料の粉末をガス中に分散させることによりエアロゾルを生成し、生成されたエアロゾルをノズルから前記ターゲット部材に向けて噴射することにより前記ターゲット部材上に堆積されたターゲット材料と、
を具備し、前記ターゲット部材と前記ターゲット材料との境界面にアンカーリングが生じた領域を有するターゲット。
【請求項14】
スパッタリングによって無機物の膜を形成する際に用いられるターゲットにおいて、
金属製の基材と、
前記基材上に堆積され、95%以上の相対密度及び0.6μm以下のグレインサイズを有するPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)のターゲット材料と、
を具備するターゲット。
【請求項15】
スパッタリングによって無機物の膜を形成する際に用いられるターゲットにおいて、
金属製の基材と、
前記基材上にボンディングされ、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)を含むターゲット部材と、
前記ターゲット部材上に堆積され、95%以上の相対密度及び0.6μm以下のグレインサイズを有するPZTのターゲット材料と、
を具備するターゲット。
【請求項1】
スパッタリングによって無機物の膜を形成する際に用いられるターゲットを製造する方法において、
金属製の基材及びターゲット材料の粉末を用意する工程(a)と、
前記ターゲット材料の粉末をガス中に分散させることによりエアロゾルを生成し、生成されたエアロゾルをノズルから前記基材に向けて噴射することにより前記基材上に前記ターゲット材料を堆積させる工程(b)と、
を具備するターゲット製造方法。
【請求項2】
工程(a)が、前記ターゲット材料として、複数種類のセラミックの原料粉を用意することを含み、
工程(b)が、前記複数種類のセラミックの原料粉を順次ガス中に分散させることによりエアロゾルを生成し、生成されたエアロゾルを前記ノズルから前記基材に向けて噴射することにより前記基材の複数の異なる領域上に前記複数種類のセラミックをそれぞれ堆積させることを含む、
請求項1記載のターゲット製造方法。
【請求項3】
工程(a)が、前記ターゲット材料として、複数種類の金属の粉末を用意することを含み、
工程(b)が、前記複数種類の金属の粉末を順次ガス中に分散させることによりエアロゾルを生成し、生成されたエアロゾルを前記ノズルから前記基材に向けて噴射することにより前記基材の複数の異なる領域上に前記複数種類の金属をそれぞれ堆積させることを含む、
請求項1記載のターゲット製造方法。
【請求項4】
工程(a)が、前記ターゲット材料として、セラミックと金属との混合物の粉末を用意することを含み、
工程(b)が、前記セラミックと金属との混合物の粉末をガス中に分散させることによりエアロゾルを生成し、生成されたエアロゾルを前記ノズルから前記基材に向けて噴射することにより前記基材上に前記セラミックと金属との混合物を堆積させることを含む、
請求項1記載のターゲット製造方法。
【請求項5】
スパッタリングによって無機物の膜を形成する際に用いられるターゲットを製造する方法において、
金属製の基材、焼結されたターゲット部材、及び、ターゲット材料の粉末を用意する工程(a)と、
前記ターゲット材料の粉末をガス中に分散させることによりエアロゾルを生成し、生成されたエアロゾルをノズルから前記ターゲット部材に向けて噴射することにより前記ターゲット部材上に前記ターゲット材料を堆積させる工程(b)と、
前記ターゲット材料が堆積した前記ターゲット部材を前記基材上にボンディングする工程(c)と、
を具備するターゲット製造方法。
【請求項6】
前記基材又は前記ターゲット部材上に堆積した前記ターゲット材料を熱処理する工程をさらに具備する、請求項1〜5のいずれか1項記載のターゲット製造方法。
【請求項7】
前記基材又は前記ターゲット部材上に堆積した前記ターゲット材料を研磨する工程をさらに具備する、請求項1〜6のいずれか1項記載のターゲット製造方法。
【請求項8】
工程(b)が、前記基材又は前記ターゲット部材を回転させながら、生成されたエアロゾルを前記ノズルから前記基材又は前記ターゲット部材に向けて噴射することにより前記基材又は前記ターゲット部材上に前記ターゲット材料を堆積させることを含む、請求項1〜7のいずれか1項記載のターゲット製造方法。
【請求項9】
工程(b)が、前記ノズルを往復運動させながら、生成されたエアロゾルを前記ノズルから前記基材又は前記ターゲット部材に向けて噴射することにより前記基材又は前記ターゲット部材上に前記ターゲット材料を堆積させることを含む、請求項1〜8のいずれか1項記載のターゲット製造方法。
【請求項10】
工程(b)が、前記基材又は前記ターゲット部材の温度が600℃以下の状態で行われる、請求項1〜9のいずれか1項記載のターゲット製造方法。
【請求項11】
スパッタリングによって無機物の膜を形成する際に用いられるターゲットを再生する方法において、
使用済みのターゲットを用意する工程(a)と、
ターゲット材料の粉末を用意する工程(b)と、
前記ターゲット材料の粉末をガス中に分散させることによりエアロゾルを生成し、生成されたエアロゾルをノズルから前記使用済みのターゲットに向けて噴射することにより前記使用済みのターゲット上に前記ターゲット材料を堆積させる工程(c)と、
を具備するターゲット再生方法。
【請求項12】
スパッタリングによって無機物の膜を形成する際に用いられるターゲットにおいて、
金属製の基材と、
ターゲット材料の粉末をガス中に分散させることによりエアロゾルを生成し、生成されたエアロゾルをノズルから前記基材に向けて噴射することにより前記基材上に堆積されたターゲット材料と、
を具備し、前記基材と前記ターゲット材料との境界面にアンカーリングが生じた領域を有するターゲット。
【請求項13】
スパッタリングによって無機物の膜を形成する際に用いられるターゲットにおいて、
金属製の基材と、
前記基材上にボンディングされたターゲット部材と、
ターゲット材料の粉末をガス中に分散させることによりエアロゾルを生成し、生成されたエアロゾルをノズルから前記ターゲット部材に向けて噴射することにより前記ターゲット部材上に堆積されたターゲット材料と、
を具備し、前記ターゲット部材と前記ターゲット材料との境界面にアンカーリングが生じた領域を有するターゲット。
【請求項14】
スパッタリングによって無機物の膜を形成する際に用いられるターゲットにおいて、
金属製の基材と、
前記基材上に堆積され、95%以上の相対密度及び0.6μm以下のグレインサイズを有するPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)のターゲット材料と、
を具備するターゲット。
【請求項15】
スパッタリングによって無機物の膜を形成する際に用いられるターゲットにおいて、
金属製の基材と、
前記基材上にボンディングされ、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)を含むターゲット部材と、
前記ターゲット部材上に堆積され、95%以上の相対密度及び0.6μm以下のグレインサイズを有するPZTのターゲット材料と、
を具備するターゲット。
【図1】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図2】
【図4】
【図9】
【図11】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図2】
【図4】
【図9】
【図11】
【公開番号】特開2009−13472(P2009−13472A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−177154(P2007−177154)
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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