説明

スピントランジスタ及び集積回路

【課題】消費電力を抑制し、占有面積の増大を抑制したスピントランジスタ及び集積回路を提供する。
【解決手段】実施形態のスピントランジスタは、第1の入力端子を有し、第1の入力端子から入力される第1の信号により第1の磁化方向に偏極する第1の磁性体領域と、第2の入力端子を有し、第2の入力端子から入力される第1の信号とは異なる第2の信号により第1の磁化方向とは逆向きの第2の磁化方向に偏極する第2の磁性体領域と、第3の入力端子と、第1の出力端子とを有し、第3の入力端子から入力される第3の信号により第1の磁化方向に偏極して第1の磁性体領域から供給される第1の信号を第1の出力端子から出力し、第3の入力端子から入力される第3の信号とは異なる第4の信号により第2の磁化方向に偏極して第2の磁性体領域から供給される第2の信号を第1の出力端子から出力する第3の磁性体領域と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、スピントランジスタ及び集積回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、従来のMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)のソース及びドレインに磁性体を用い、印加される電圧に応じた磁性体の磁化方向の変化を利用してオン及びオフ状態を作り出すスピンFETが知られている。
【0003】
このスピンFETは、チャネルとして二次元電子チャネルを有し、この二次元電子チャネル内をキャリアは移動する。二次元電子チャネル内を移動中のキャリアは、その歳差運動をラシュバ効果により制御され、ドレイン端におけるキャリアのスピンがドレインのスピンと平行な場合はドレイン領域中に伝導し、反平行な場合はドレインを伝導しない。しかしながらこのスピンFETは、チャネル中でのキャリアスピン制御を高精度に行う必要があり、特性やプロセス揺らぎが生じる事により、特に待機時の消費電力が大きくなる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−135534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、消費電力を抑制し、占有面積の増大を抑制したスピントランジスタ及び集積回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態のスピントランジスタは、第1の入力端子を有し、前記第1の入力端子から入力される第1の信号により第1の磁化方向に偏極する第1の磁性体領域と、第2の入力端子を有し、前記第2の入力端子から入力される前記第1の信号とは異なる第2の信号により前記第1の磁化方向とは逆向きの第2の磁化方向に偏極する第2の磁性体領域と、第3の入力端子と、第1の出力端子とを有し、前記第3の入力端子から入力される第3の信号により前記第1の磁化方向に偏極して前記第1の磁性体領域から供給される前記第1の信号を前記第1の出力端子から出力し、前記第3の入力端子から入力される前記第3の信号とは異なる第4の信号により前記第2の磁化方向に偏極して前記第2の磁性体領域から供給される前記第2の信号を前記第1の出力端子から出力する第3の磁性体領域と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1(a)は、第1の実施の形態に係るスピントランジスタの上面図である。図1(b)は、第1の実施の形態に係るスピントランジスタを図1(a)のI(a)−I(a)線で切断した断面図である。
【図2】図2(a)は、第1の実施の形態に係るハーフメタル強磁性体のスピン状態密度とフェルミエネルギーの関係を示す模式図である。図2(b)は、第1の実施の形態に係るスピントランジスタの回路図である。
【図3】図3(a)〜(f)は、第1の実施の形態に係るスピントランジスタの製造方法を示す要部断面図である。
【図4】図4(a)は、第1の実施の形態に係るVcc信号が第3の磁性体領域に入力した場合の回路図である。図4(b)は、第1の実施の形態に係るGND信号が第3の磁性体領域に入力した場合の回路図である。
【図5】図5は、第2の実施の形態に係るカスケード接続されたスピントランジスタの回路図である。
【図6】図6(a)は、第3の実施の形態に係るスピントランジスタを用いたNAND演算回路の回路図である。図6(b)は、第3の実施の形態に係るNAND演算回路の真理値表である。図6(c)は、第3の実施の形態に係るスピントランジスタを用いたNAND演算回路の回路図である。
【図7】図7(a)及び(b)は、第3の実施の形態に係るスピントランジスタを用いたNAND演算回路の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[第1の実施の形態]
(半導体装置の構成)
図1(a)は、第1の実施の形態に係るスピントランジスタの上面図である。図1(b)は、スピントランジスタを図1(a)のI(a)−I(a)線で切断した断面図である。
【0009】
このスピントランジスタ1は、第1の入力端子としてのコンタクト42を有し、コンタクト42から入力される第1の信号により第1の磁化方向に偏極する第1の磁性体領域26を有する。また、スピントランジスタ1は、第2の入力端子としてのコンタクト44を有し、コンタクト44から入力される第2の信号により第1の磁化方向とは逆向きの第2の磁化方向に偏極する第2の磁性体領域28を有する。また、スピントランジスタ1は、第3の入力端子としてのコンタクト48と、第1の出力端子としてのコンタクト46を有し、コンタクト48から入力される第3の信号により第1の磁化方向に偏極して第1の磁性体領域26から供給される第1の信号をコンタクト46から出力し、コンタクト48から入力される第4の信号により第2の磁化方向に偏極して第2の磁性体領域28から供給される第2の信号をコンタクト46から出力する第3の磁性体領域30を有する。
【0010】
また、このスピントランジスタ1は、図1(a)及び(b)に示すように、例えば、第1の磁性体領域26、第1の伝導体領域32、第3の磁性体領域30、第2の伝導体領域34及び第2の磁性体領域28が、第1の絶縁膜12上に並んで形成されている。なお、スピントランジスタ1は、第1の磁性体領域26、第1の伝導体領域32、第3の磁性体領域30、第2の伝導体領域34及び第2の磁性体領域28が並んで形成されていなくても良い。
【0011】
この第1〜第3の磁性体領域26、28、30、第1及び第2の伝導体領域32、34の周囲には、STI(Shallow Trench Isolation)構造からなる素子分離領域22が形成されている。素子分離領域22は、例えば、SiOからなる。
【0012】
第1の絶縁膜12は、例えば、半導体基板10上に形成されている。この第1の絶縁膜12は、例えば、SiOからなる。
【0013】
半導体基板10は、例えば、Siを主成分とするSi系基板からなる。なお、本実施の形態のスピントランジスタ1は、半導体基板10上に第1の絶縁膜12を介して後述する単結晶層が形成されたSOI(Silicon On Insulator)構造を有するSOI基板を用いて製造される。
【0014】
層間絶縁膜40は、例えば、図1(b)に示すように、素子分離領域22、ゲート絶縁膜36及びゲート電極38を覆うように形成されている。層間絶縁膜40は、例えば、SiN又はSiO等からなる。
【0015】
第1の磁性体領域26は、例えば、層間絶縁膜40上に形成されるコンタクト42と電気的に接続している。第2の磁性体領域28は、例えば、層間絶縁膜40上に形成されるコンタクト44と電気的に接続している。第3の磁性体領域30は、例えば、層間絶縁膜40上に形成されるコンタクト46と電気的に接続している。ゲート電極38は、例えば、層間絶縁膜40上に形成されるコンタクト48と電気的に接続している。
【0016】
コンタクト42、44、46、48は、例えば、Cu、Ta、W、Ti等の金属材料からなる。なお、コンタクト42、44、46、48は、例えば、金属材料の拡散を防止する拡散防止膜が、その周囲に形成されているが、図示は省略している。
【0017】
(第1〜第3の磁性体領域について)
図2(a)は、第1の実施の形態に係るハーフメタル強磁性体のスピン状態密度とフェルミエネルギーの関係を示す模式図である。図2(b)は、第1の実施の形態に係るスピントランジスタの回路図である。図2(a)の横軸は波数k、縦軸は結晶中の電子のエネルギーE、Vccは電源部から回路に供給される電源電圧、GNDは接地電位、及びEはフェルミ準位を示している。図2(a)に示す図面に対して上向きの矢印は結晶中の電子のスピン状態が上向きスピン(up state)であることを模式的に示したものであり、下向きの矢印は結晶中の電子のスピン状態が下向きスピン(down state)であることを模式的に示したものである。また、図2(b)に示すdownの下の矢印は、磁性体中の電子のスピン状態が下向きであることを模式的に示したものであり、upの下の矢印は、磁性体中の電子のスピン状態が上向きであることを模式的に示したものである。また同時に、downの下の矢印は、磁性体の磁化方向を模式的に示したものであり、upの下の矢印は、downの磁化方向とは逆向きの磁化方向を模式的に示したものである。
【0018】
ここで、電源電圧としてのVcc信号は、図2(b)に示すように、コンタクト42を介して第1の磁性体領域26に入力する。接地電位としてのGND信号は、図2(b)に示すように、コンタクト44を介して第2の磁性体領域26に入力する。本実施の形態では、前述の第1及び第3の信号はVcc信号であり、前述の第2及び第4の信号は、GND信号であるものとする。なお、前述の第3の信号は、図2(a)に示すように、第3の磁性体領域30の磁化方向を下向きにするものであれば、第1の信号と等しくなくても良い。また、前述の第4の信号は、図2(a)に示すように、第3の磁性体領域30の磁化方向を上向きにするものであれば、第2の信号と等しくなくても良い。
【0019】
また、前段からの入力信号は、図2(b)に示すように、コンタクト48を介してゲート電極38に入力する。後段への出力信号は、図2(b)に示すように、第3の磁性体領域30からコンタクト46を介して出力される。
【0020】
第3の磁性体領域30は、コンタクト48、ゲート電極38及びゲート絶縁膜36を介して入力する信号に応じて磁化方向を変化させることでスピン偏極した電子を許容する。よって、スピントランジスタ1は、ゲート電極38の直下に反転層を形成することなく、第1又は第2の磁性体領域26、28から供給されるスピン偏極した電子を出力する。また、スピントランジスタ1は、第3の磁性体領域30の磁化方向に応じて2種類の信号を出力するので、例えば、CMOS(相補型金属酸化膜半導体:Complementary Metal Oxide Semiconductor)で実現していたスイッチング回路をスピントランジスタ単体で実現する。さらにスピントランジスタ1は、従来のCMOSと比べて、コンタクトの数が少ない構成となる。なお、以下では、各図において、回路のIN側に接続された回路を前段と呼び、OUT側に接続された回路を後段と呼ぶものとする。
【0021】
また、第1〜第3の磁性体領域26、28、30は、例えば、III-V族半導体との高い整合性と、室温(例えば、300K)以上のキュリー温度と、フェルミ準位E近傍での大きなバンドギャップとを有する強磁性体から形成されることが好ましい。このような強磁性体としては、例えば、図2(a)に示すように、フェルミ準位Eが一方のスピンバンドの中を横切り、他方のスピンバンドではバンドギャップの中を横切るようなバンド構造を有するハーフメタル強磁性体が適している。このハーフメタル強磁性体は、例えば、CrO、Fe、Ga1−xMnAs、In1−xMnAs、Ge1−xMn又はホイスラー合金等からなる。ホイスラー合金としては、例えば、CoMnAi、CoMnGe、CoMnSi、CoCrAl、CoFeAl等が用いられる。
【0022】
第1の磁性体領域26は、例えば、Vcc信号が入力すると、図2(a)に示すように、結晶中の電子のスピン状態が下向きスピンとなる。
【0023】
第2の磁性体領域28は、例えば、GND信号が入力すると、図2(a)に示すように、結晶中の電子のスピン状態が上向きスピンとなる。本実施の形態における第1及び第2の磁性体領域26、28は、そのスピン状態が相反する向きとなる。なお、スピントランジスタ1は、Vcc信号が入力することにより、第1の磁性体領域26が上向きスピンとなり、GND信号が入力することにより、第2の磁性体領域28が下向きスピンとなる構成であっても良い。
【0024】
第3の磁性体領域30は、例えば、図2(a)に示すように、信号が入力しないときは、偏極しない領域Aに電子のエネルギーEが位置する磁性体からなる。第3の磁性体領域30は、図2(a)及び(b)に示すように、Vcc信号がゲート電極38に入力することで偏極し、スピン状態が下向きスピンとなる。また、第3の磁性体領域30は、図2(a)及び(b)に示すように、GND信号がゲート電極38に入力することで偏極し、スピン状態は上向きスピンとなる。よってこのスピントランジスタ1は、図2(a)に示すように、接地電位GNDと電源電圧Vccの差を、従来に比べて小さくすることが可能となり、消費電力を抑制し、また、DIBL(Drain-Induced-Barrier-Lowering)、GIDL(Gate-Induced-Drain-Leakage)等を抑制することができる。
【0025】
なお、第1〜第3の磁性体領域26、28、30は、図2(a)に示すバンド構造を有する同一の強磁性体材料から形成されても良いし、少なくとも第3の磁性体領域30のみが、当該強磁性体から形成されても良い。第3の磁性体領域30が当該強磁性体からなるとき、第1及び第2の磁性体領域26、28は、図2(a)に示すバンド構造を有する強磁性体材料に限定されず、例えば、Vcc信号及びGND信号が入力した際、又は信号の入力に関わらず、相反する磁化方向を有する磁性体材料から形成される。
【0026】
第1及び第2の伝導体領域32、34は、例えば、第1〜第3の磁性体領域26、28、30とショットキー接合する材料からなる。第1及び第2の伝導体領域32、34は、例えば、Si単結晶からなる。この第1及び第2の伝導体領域32、34は、スピン偏極した電子が走行するが、不純物の注入を必要としない。また、スピン偏極した電子は、第1又は第2の伝導体領域32、34と第3の磁性体領域30の境界のトンネル障壁を超えるために、第1及び第2の伝導体領域32、34でラシュバ効果による歳差運動の制御を必要としないので、スピントランジスタ1はチャネル領域の長さに関する厳密な寸法等の制御が不要となる。
【0027】
以下に、本実施の形態のスピントランジスタの製造方法について説明する。
【0028】
(スピントランジスタの製造方法)
図3(a)〜(f)は、第1の実施の形態に係るスピントランジスタの製造方法を示す要部断面図である。
【0029】
まず、半導体基板10上に第1の絶縁膜12及び単結晶膜14が形成されたSOI基板を用意する。第1の絶縁膜12は、例えば、その膜厚は150nmである。単結晶膜14は、例えば、Si単結晶膜であり、その膜厚は20nmである。続いて、CVD(Chemical Vapor Deposition)法により、第1の絶縁膜12上に第2の絶縁膜16を形成する。この第2の絶縁膜16は、例えば、SiO膜である。第2の絶縁膜16の膜厚は、例えば、10nmである。
【0030】
次に、図3(a)に示すように、CVD法により、第2の絶縁膜16上に第3の絶縁膜18を形成する。この第3の絶縁膜18は、例えば、SiN膜である。第3の絶縁膜18の膜厚は、例えば、30nmである。
【0031】
次に、フォトリソグラフィ法により、レジストパターン20を形成する。続いて、図3(b)に示すように、RIE(Reactive Ion Etching)法により、形成したレジストパターン20をマスクとして第3の絶縁膜18、第2の絶縁膜16及び単結晶膜14をエッチングする。続いて、レジストパターン20を除去する。
【0032】
次に、図3(c)に示すように、CVD法により、SiOを第1の絶縁膜12、第3の絶縁膜18上に堆積させ、CMP(Chemical Mechanical Polishing)法により、第3の絶縁膜18をストッパとして研磨し、続いて、第3の絶縁膜18を除去して素子分離領域22を形成する。
【0033】
次に、図3(d)に示すように、フォトリソグラフィ法により、レジストパターン24を形成し、RIE法により、レジストパターン24をマスクとして第2の絶縁膜16及び単結晶膜14をエッチングする。続いて、レジストパターン24を除去する。
【0034】
次に、図3(e)に示すように、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法により、ハーフメタル強磁性体材料を第1の絶縁膜12が露出した領域にエピタキシャル成長させる。続いて、CMP法及びウエットエッチング法により、余分なハーフメタル強磁性体材料、及び第2の絶縁膜16を除去して第1〜第3の磁性体領域26、28、30を形成するとともに第1及び第2の伝導体領域32、34を形成する。
【0035】
次に、CVD法により、ゲート絶縁膜36を形成する。このゲート絶縁膜36は、例えば、SiO膜である。ゲート絶縁膜36の膜厚は、例えば、3nmである。
【0036】
次に、図3(f)に示すように、CVD法により、多結晶Si膜を膜厚100nmで形成する。続いて、CVD法により、多結晶Si膜上にハードマスクとしてSiN膜を形成し、さらに、フォトリソグラフィ法により、ゲート電極38のマスクとなるレジストパターンを形成する。続いて、RIE法により、SiN膜及びレジストパターンをマスクとして多結晶Siをパターニングしてゲート電極38を形成する。
【0037】
次に、層間絶縁膜40、コンタクト42、44、46、48を周知の工程により形成し、図1(a)及び(b)に示すスピントランジスタ1を得る。
【0038】
なお、第1〜第3の磁性体領域26、28、30を形成する強磁性体材料を異なる材料から形成する場合は、次の製造工程が追加される。第1〜第3の磁性体領域26、28、30を2つの強磁性体材料から形成するとき、図3(d)までの工程を行い、主に、目的の領域に第1の絶縁膜12が露出するマスクを形成し、第1の強磁性体材料を堆積して磁性体領域を形成し、マスクを除去した後、さらに、目的の領域に第1の絶縁膜12が露出するマスクを形成し、第2の強磁性体材料を堆積して異なる磁性体領域を形成する工程を行う。第1〜第3の磁性体領域26、28、30を全て異なる強磁性体材料から形成する場合は、前記の工程に、さらに、磁性体領域を形成する工程を追加して行われる。
【0039】
続いて、本実施の形態に係るスピントランジスタを用いた集積回路の一例を示し、その動作について説明する。
【0040】
(動作)
図4(a)は、第1の実施の形態に係るVcc信号が第3の磁性体領域に入力した場合の回路図である。図4(b)は、第1の実施の形態に係るGND信号が第3の磁性体領域に入力した場合の回路図である。まず、Vcc信号が第3の磁性体領域30に入力した場合について説明する。
【0041】
前段から出力されたVcc信号が第3の磁性体領域30に入力した場合、図2(a)に示すように、第3の磁性体領域30は下向きの磁化方向になる。また、第1の磁性体領域26は、電源部から供給されたVcc信号により、下向きの磁化方向になる。よって、第1の磁性体領域26及び第1の伝導体領域32を介して下向きスピンに偏極したスピン電流が、第3の磁性体領域30に流れ込むことが可能となる。
【0042】
一方、第2の磁性体領域28は、入力するGND信号により、上向きの磁化方向となる。上向きスピンに偏極したスピン電流は、第2の伝導体領域34を介して第3の磁性体領域30に流れ込もうとするが、第3の磁性体領域30が下向きスピンであるため、流れ込むことができない。
【0043】
よって、スピントランジスタ1は、第3の磁性体領域30からVcc信号を出力する。
【0044】
続いて、GND信号が第3の磁性体領域30に入力した場合について説明する。前段から出力されたGND信号が第3の磁性体領域30に入力した場合、図2(a)に示すように、第3の磁性体領域30は上向きの磁化方向となる。よって、第2の磁性体領域28及び第2の伝導体領域34を介して上向きスピンに偏極したスピン電流が、第3の磁性体領域30に流れ込むことが可能となる。
【0045】
一方、第1の磁性体領域26は、電源部から供給されたVcc信号により、下向きの磁化方向となる。下向きスピンに偏極したスピン電流は、第1の伝導体領域32を介して第3の磁性体領域30に流れ込もうとするが、第3の磁性体領域30が上向きスピンであるため、流れ込むことができない。
【0046】
よって、スピントランジスタ1は、第3の磁性体領域30からGND信号を出力する。
【0047】
(効果)
第1の実施の形態におけるスピントランジスタによれば、キャリアのスピン情報を利用した素子において、チャネル領域の寸法やその他の揺らぎ等による待機時消費電力といった問題を解決することができる。
【0048】
[第2の実施の形態]
図5は、第2の実施の形態に係るカスケード接続されたスピントランジスタの回路図である。次に、第1の実施の形態のスピントランジスタをカスケード接続した回路について説明する。以下に記載の各実施の形態において、第1の実施の形態と同じ機能及び構成を有する部分については、第1の実施の形態と同じ符号を付し、その説明は省略するものとする。
【0049】
(構成)
この図5に示す回路は、スピントランジスタ5(第1のスピントランジスタ)とスピントランジスタ6(第2のスピントランジスタ)がカスケード接続されている。以下に、それぞれのスピントランジスタの構成について説明する。なお、スピントランジスタ5、6の主な構成は、スピントランジスタ1と同様であるので、異なる部分について説明する。また、以下では、説明を簡略化するために、伝導体領域についての説明は省略する。
【0050】
スピントランジスタ5は、図5に示すように、第1〜第3の磁性体領域50〜52を備えて概略構成されている。第1の磁性体領域50は、Vcc信号の入力により、磁化方向が下向きになる強磁性体からなる。第2の磁性体領域51は、GND信号の入力により、磁化方向が上向きとなる強磁性体からなる。第3の磁性体領域52は、Vcc信号の入力により、磁化方向が下向きになり、GND信号の入力により、磁化方向が上向きとなる強磁性体からなる。
【0051】
スピントランジスタ6は、図5に示すように、第1〜第3の磁性体領域60〜62を備えて概略構成されている。第1の磁性体領域60(第4の磁性体領域)は、Vcc信号の入力により、磁化方向が上向きになる強磁性体からなる。第2の磁性体領域61(第5の磁性体領域)は、GND信号の入力により、磁化方向が下向きとなる強磁性体からなる。第3の磁性体領域62(第6の磁性体領域)は、Vcc信号の入力により、磁化方向が下向きになり、GND信号の入力により、磁化方向が上向きとなる強磁性体からなる。以下に、図5に示す回路の動作について説明する。
【0052】
(動作)
前段から出力されたVcc信号が、スピントランジスタ5の第3の磁性体領域52に入力した場合、第3の磁性体領域52は下向きの磁化方向になる。また、第1の磁性体領域50は、電源部から供給されたVcc信号により、下向きの磁化方向になる。よって、第1の磁性体領域50を介して下向きスピンに偏極したスピン電流が、第3の磁性体領域52に流れ込むことが可能となる。
【0053】
一方、スピントランジスタ5の第2の磁性体領域51は、入力するGND信号により、上向きの磁化方向となる。上向きスピンに偏極したスピン電流は、第3の磁性体領域52に流れ込もうとするが、第3の磁性体領域52が下向きスピンであるため、流れ込むことができない。
【0054】
よって、スピントランジスタ5は、第3の磁性体領域52からVcc信号を出力する。
【0055】
続いて、スピントランジスタ5から出力されたVcc信号が、スピントランジスタ6の第3の磁性体領域62に入力すると、第3の磁性体領域62は下向きの磁化方向になる。また、第2の磁性体領域61は、入力したGND信号により、下向きの磁化方向になる。よって、第2の磁性体領域61を介して下向きスピンに偏極したスピン電流が、第3の磁性体領域62に流れ込むことが可能となる。
【0056】
一方、スピントランジスタ6の第1の磁性体領域60は、電源部から供給されるVcc信号により、上向きの磁化方向となる。上向きスピンに偏極したスピン電流は、第3の磁性体領域62に流れ込もうとするが、第3の磁性体領域62が下向きスピンであるため、流れ込むことができない。
【0057】
よって、スピントランジスタ6は、第3の磁性体領域62からGND信号を出力する。
【0058】
(効果)
第2の実施の形態によれば、低消費電力を特徴とするスピントランジスタを用いた素子のカスケード接続を実現することが可能となる。
【0059】
[第3の実施の形態]
次に、論理演算回路の一例として、スピントランジスタを用いたNAND演算回路について説明する。NAND演算回路は、集積回路に多数用いられるので、NAND演算回路を構成する要素が少なくなることで占有面積が小さくなり、集積回路全体の面積を小さくすることができる。
【0060】
(構成)
図6(a)、(c)、図7(a)及び(b)は、第3の実施の形態に係るスピントランジスタを用いたNAND演算回路の回路図である。図6(b)は、第3の実施の形態に係るNAND演算回路の真理値表である。
【0061】
このNAND演算回路7は、図6(a)に示すように、第1〜第6の磁性体領域70〜75を備えて概略構成されている。NAND演算回路7は、第1〜第6の磁性体領域70〜75のそれぞれの間に、伝導体領域が形成されている。第1の磁性体領域70は、電源電圧Vcc側に接続され、Vcc信号の入力により、磁化方向が下向きになる強磁性体からなる。第2の磁性体領域71は、接地電位GND側に接続され、GND信号の入力により、磁化方向が上向きになる強磁性体からなる。
【0062】
第3及び第4の磁性体領域72、73は、第1の磁性体領域70と直列になるように、第1及び第2の磁性体領域70、71の間に設けられている。第3及び第4の磁性体領域72、73は、その直上に、ゲート絶縁膜を介してゲート電極をそれぞれ有する。第3及び第4の磁性体領域72、73は、Vcc信号の入力により、磁化方向が下向きになり、GND信号の入力により、磁化方向が上向きとなる強磁性体からなる。
【0063】
第5及び第6の磁性体領域74、75は、第2の磁性体領域71と第4の磁性体領域73の間に、並列接続となるように形成されている。第5及び第6の磁性体領域74、75は、その直上に、ゲート絶縁膜を介してゲート電極をそれぞれ有する。第5及び第6の磁性体領域74、75は、Vcc信号の入力により、磁化方向が下向きになり、GND信号の入力により、磁化方向が上向きとなる強磁性体からなる。つまり、NAND演算回路7は、第1の実施の形態における第3の磁性体領域30を複数組み合わせて第3〜第6の磁性体領域72〜75としている。以下に、NAND演算回路7の動作について説明する。
【0064】
(動作)
まず、図6(a)に示すように、IN1にVcc信号が入力し、IN2にVcc信号が入力する場合について説明する。なお、IN1は、第3及び第5の磁性体領域72、74の入力を示し、IN2は、第4及び第6の磁性体領域73、75の入力を示すものとする。
【0065】
前段から出力されたVcc信号がIN1及びIN2に入力する場合、第3〜6の磁性体領域72〜75は下向きの磁化方向になる。また、第1の磁性体領域70は、電源部から供給されたVcc信号により、下向きの磁化方向になる。よって、第1の磁性体領域70を介して下向きスピンに偏極したスピン電流が、第3及び第4の磁性体領域72、63に流れ込むことが可能となる。
【0066】
一方、第2の磁性体領域71は、入力するGND信号により、上向きの磁化方向となる。上向きスピンに偏極したスピン電流は、第5及び第6の磁性体領域74、75に流れ込もうとするが、第5及び第6の磁性体領域74、75が下向きスピンであるため、流れ込むことができない。
【0067】
よって、NAND演算回路7は、OUTとしてVcc信号を出力する。よってNAND演算回路7は、図6(b)に示す真理値表の(IN1、IN2、OUT)=(down、down、down)の組み合わせで入出力を行う。
【0068】
次に、図6(c)に示すように、IN1にVcc信号が入力し、IN2にGND信号が入力する場合について説明する。
【0069】
前段から出力されたVcc信号がIN1に入力する場合、第3及び第5の磁性体領域72、74は下向きの磁化方向になる。また、前段から出力されたGND信号がIN2に入力する場合、第4及び第6の磁性体領域73、75は上向きの磁化方向になる。
【0070】
第2の磁性体領域71は、GND信号により、上向きの磁化方向になる。よって、第2の磁性体領域71を介して上向きスピンに偏極したスピン電流は、下向きスピンである第5の磁性体領域74に流れず、第6の磁性体領域75に流れ込むことが可能となる。
【0071】
一方、第1の磁性体領域70は、電源部から供給されるVcc信号により、下向きの磁化方向となる。下向きスピンに偏極したスピン電流は、第3の磁性体領域72に流れ込み、さらに、第4の磁性体領域73に流れ込もうとするが、第4の磁性体領域73が上向きスピンであるため、流れ込むことができない。
【0072】
よって、NAND演算回路7は、OUTとしてGND信号を出力する。よってNAND演算回路7は、図6(b)に示す真理値表の(IN1、IN2、OUT)=(down、up、up)の組み合わせで入出力を行う。
【0073】
次に、図7(a)に示すように、IN1にGND信号が入力し、IN2にVcc信号が入力する場合について説明する。
【0074】
前段から出力されたGND信号がIN1に入力する場合、第3及び第5の磁性体領域72、74は上向きの磁化方向になる。また、前段から出力されたVcc信号がIN2に入力する場合、第4及び第6の磁性体領域73、75は下向きの磁化方向になる。
【0075】
第2の磁性体領域71は、GND信号により、上向きの磁化方向になる。よって、第2の磁性体領域71を介して上向きスピンに偏極したスピン電流は、下向きスピンである第6の磁性体領域75に流れず、第5の磁性体領域74に流れ込むことが可能となる。
【0076】
一方、第1の磁性体領域70は、電源部から供給されるVcc信号により、下向きの磁化方向となる。下向きスピンに偏極したスピン電流は、第3の磁性体領域72が上向きスピンであるため、流れ込むことができない。
【0077】
よって、NAND演算回路7は、OUTとしてGND信号を出力する。よってNAND演算回路7は、図6(b)に示す真理値表の(IN1、IN2、OUT)=(up、down、up)の組み合わせで入出力を行う。
【0078】
次に、図7(b)に示すように、IN1及びIN2にGND信号が入力する場合について説明する。
【0079】
前段から出力されたGND信号がIN1に入力する場合、第3及び第5の磁性体領域72、74は上向きの磁化方向になる。また、前段から出力されたGND信号がIN2に入力する場合、第4及び第6の磁性体領域73、75は上向きの磁化方向になる。
【0080】
第2の磁性体領域71は、GND信号により、上向きの磁化方向になる。よって、第2の磁性体領域71を介して上向きスピンに偏極したスピン電流は、第5及び第6の磁性体領域74、75に流れ込むことが可能となる。
【0081】
一方、第1の磁性体領域70は、電源部から供給されるVcc信号により、下向きの磁化方向となる。下向きスピンに偏極したスピン電流は、第3の磁性体領域72が上向きスピンであるため、流れ込むことができない。
【0082】
よって、NAND演算回路7は、OUTとしてGND信号を出力する。よってNAND演算回路7は、図6(b)に示す真理値表の(IN1、IN2、OUT)=(up、up、up)の組み合わせで入出力を行う。
【0083】
(効果)
第3の実施の形態によれば、待機時消費電力を低減することが可能な、論理演算回路を構成することが可能となる。
【0084】
(実施の形態の効果)
以上説明した各実施の形態によれば、ゲート電極38の直下に反転層を形成することなく、第1又は第2の磁性体領域26、28から供給されるスピン偏極した電子を出力するので、消費電力を抑制することができる。
【0085】
また、以上説明した各実施の形態によれば、スピントランジスタにより回路を構成することにより、従来のトランジスタにより回路を構成する場合と比べ、回路を構成する要素が少なくなるので、占有面積の増大を抑制することができる。
【0086】
なお、上記した実施の形態は、一例を示したものに過ぎず、本発明を限定するものではない。上記した実施の形態は、本発明の技術思想を逸脱あるいは変更しない範囲内で種々の省略、置き換え、変形、組み合わせ、拡張及び修正等が可能である。
【0087】
なお、第1の実施の形態におけるスピントランジスタ1は、第3の磁性体領域30のフェルミ準位を制御するゲート電極38を備えていたが、例えば、第3の磁性体領域30に直接コンタクトを形成し、信号を入力する構成であっても良い。同様に、第3の実施の形態において、第3〜第6の磁性体領域72〜75に直接コンタクトを形成し、信号を入力する構成であっても良い。
【符号の説明】
【0088】
1、5、6…スピントランジスタ、7…NAND演算回路、26、50、60…第1の磁性体領域、28、51、61…第2の磁性体領域、30、52、62…第3の磁性体領域、32…第1の伝導体領域、34…第2の伝導体領域、36…ゲート絶縁膜、38…ゲート電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の入力端子を有し、前記第1の入力端子から入力される第1の信号により第1の磁化方向に偏極する第1の磁性体領域と、
第2の入力端子を有し、前記第2の入力端子から入力される前記第1の信号とは異なる第2の信号により前記第1の磁化方向とは逆向きの第2の磁化方向に偏極する第2の磁性体領域と、
第3の入力端子と、第1の出力端子とを有し、前記第3の入力端子から入力される第3の信号により前記第1の磁化方向に偏極して前記第1の磁性体領域から供給される前記第1の信号を前記第1の出力端子から出力し、前記第3の入力端子から入力される前記第3の信号とは異なる第4の信号により前記第2の磁化方向に偏極して前記第2の磁性体領域から供給される前記第2の信号を前記第1の出力端子から出力する第3の磁性体領域と、
を備えたスピントランジスタ。
【請求項2】
請求項1に記載の前記第1〜第2の磁性体領域、及び複数の前記第3の磁性体領域を有する集積回路。
【請求項3】
請求項1に記載の前記第1〜第3の磁性体領域を有する第1のスピントランジスタと、
入力する前記第1の信号により前記第2の磁化方向に偏極する第4の磁性体領域と、入力する前記第2の信号により前記第1の磁化方向に偏極する第5の磁性体領域と、前記第1のトランジスタより出力される前記第1の信号により前記第1の磁化方向に偏極して前記第5の磁性体領域から供給される前記第2の信号を出力し、前記第1のスピントランジスタより出力される前記第2の信号により前記第2の磁化方向に偏極して前記第4の磁性体領域から供給される前記第1の信号を出力する第6の磁性体領域と、を有する第2のスピントランジスタと、
を含む集積回路。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−243716(P2011−243716A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−113873(P2010−113873)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】