説明

スピン検出器、表面分析装置及びターゲット

【課題】性能指標が向上したスピン検出器、及び当該スピン検出器を用いた表面分析装置を提供する。
【解決手段】スピン検出器5は、電子線が照射される面に、面の法線方向に対して傾斜した傾斜面を有する突起部52が形成されたターゲット51と、突起部52の傾斜面で電子線が電子線のスピン偏極度に応じて散乱する方向側に配置された電子検出器DRy,DLyと、を有する。また、表面分析装置1は、試料S表面に1次電子線を照射する電子線鏡筒3と、上記スピン検出器5と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピン検出器、スピン検出器を用いた表面分析装置及びスピン検出器に用いられるターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子の持つスピンを利用して情報を伝達及び記憶する技術、所謂スピントロニクスが注目されている。この分野は急速に発展している。例えば、省電力の不揮発性メモリとしてMRAM(Magneto-resistive Random Access Memory)等の開発が進んでいる。
【0003】
スピントロニクスデバイスでは、電子のスピン状態が非常に微細な領域で制御された構造を備えており、その構造の分析装置の需要が高まっている。
分析装置の一つとして、例えば、スピン偏極SEM(Scanning Electron Microsope:走査型電子顕微鏡)は、電子線のスピンの方向及び強度(スピン偏極度)を計測するスピン検出器の機能と、電子線を利用して試料表面の顕微鏡画像を生成するSEMの機能とが組み合わされている。
【0004】
さらに、スピン検出器は、電子が照射されるターゲットと、当該ターゲットの四方に配置され、照射されてターゲットで散乱した電子を検出する電子検出器とを有する。電子検出器は、当該スピン偏極SEMで試料の磁化構造(磁区)を画像化するためには、まず、1次電子線を試料表面に照射する。すると、当該試料表面から、試料の磁化に依存するスピン偏極度を有する2次電子が放出されて、スピン検出器により当該スピン偏極度が検出される。代表的なスピン検出器は、2次電子を数10keV以上に加速し、金等の重元素の平板状または薄膜状のターゲットに衝突させる。ターゲットに衝突した2次電子のスピンの正負の違いによる散乱方向の僅かな偏り(非対象性)を、ターゲットの四方に配置した電子検出器が検出し、スピン偏極度を算定する(例えば、特許文献1を参照)。スピン検出器により算定されたスピン偏極度を利用して、SEMにより試料の磁化構造を画像化することができる。当該画像化では、スピン偏極SEMは、電子顕微鏡のもつ優れた分解能でスピン状態の差異を観測することができる。また、スピン偏極SEMは、スピンの向きを含めて定量的に測定できる等、磁気力顕微鏡(MFM:Magnetic Force Microscopy)にはない分析能力を有しており、その適用領域の拡大が期待されている。
【0005】
一方、スピン検出器の電子検出器で検出される電子の強度は、2次電子の1/100〜1/1000程度と微弱であり、さらに、その非対称度は、およそ数%以下である。このため、必要なSN比を確保するためには、十分長い時間を要することになる。特に、スピン偏極SEMのように2次元的な2次電子のスピン偏極度毎の分布を得るためには、SN比の確保が大きな障害となるため、スピン検出器の性能向上が課題となっている。
【0006】
ところで、スピン検出器の性能指標Fは次式で表される。
F=S2・C ・・・(1)
なお、C=(NR+NL)/Nin
=後方散乱係数η0×電子検出器の電子の検出口の立体角Ω ・・・(2)
で表される。
【0007】
なお、Sはシャーマン関数であって、スピン偏極度に対する非対称度の比例定数であり、スピン検出器の配置、構造、寸法、動作条件等の装置構成に依存する。Cはスピン検出器の検出効率である。また、Ninは、試料から放出される2次電子の電子数に応じた信号、NR,NLはターゲットで2方向に散乱した電子数に応じた出力信号である。
【0008】
したがって、スピン検出器の性能指標Fを向上させるためには、シャーマン関数S及び/または検出効率Cを向上させる必要がある。シャーマン関数Sの向上を図るために、例えば、散乱した2次電子のエネルギーフィルタリングまたは薄膜ターゲットが使用されていた。また、検出効率Cの向上を図るために、例えば、電子検出器の電子の検出口を拡大して、立体角Ωの増大等が行われていた(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭60−177539号公報
【特許文献2】特開平8−220243号公報
【特許文献3】特開2008−269967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、エネルギーフィルタリングまたは薄膜ターゲットの使用によるシャーマン関数S、並びに電子検出器の立体角Ωの拡大化による検出効率Cの向上では、スピン検出器の性能指標Fの向上は十分とはいえない状況である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一観点によれば、電子線が照射される面に、前記面の法線方向に対して傾斜した傾斜面を有する突起部が形成されたターゲットと、前記突起部の前記傾斜面で前記電子線が前記電子線のスピン偏極度に応じて散乱する方向側に配置された電子検出部と、を有することを特徴とするスピン検出器が提供される。
【0012】
また、本発明の別の観点によれば、試料表面に1次電子線を照射する電子線照射部と、前記1次電子線が照射された前記試料表面から放出した2次電子線が照射される面に、前記面の法線方向に対して傾斜した傾斜面を有する突起部が形成されたターゲットと、前記突起部の前記傾斜面で前記2次電子が前記2次電子のスピン偏極度に応じて散乱する方向側に配置された電子検出部と、を有するスピン検出器と、を有することを特徴とする表面分析装置が提供される。
【0013】
また、本発明の別の観点によれば、電子線が照射される面に、前記面の法線方向に対して傾斜した傾斜面を有する突起部が形成され、前記突起部の前記傾斜面で前記電子線を前記電子線のスピン偏極度に応じて散乱させる、ことを特徴とするターゲットが提供される。
【発明の効果】
【0014】
開示のスピン検出器、当該スピン検出器を用いた表面分析装置及び当該スピン検出器に用いられるターゲットによれば、検出効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施の形態の表面分析装置の主要部の概略構成を示す模式図である。
【図2】ターゲットに垂直に照射した電子の散乱を示す模式図である。
【図3】傾斜したターゲットに照射した電子の散乱を示す模式図である。
【図4】検出信号量のターゲットの傾斜角依存性を示すグラフである。
【図5】一対の傾斜面に照射した電子の散乱を示す模式図である。
【図6】実施の形態のターゲットに形成された突起部の傾斜面に照射した電子の散乱を示す模式図である。
【図7】実施の形態の表面分析装置の全体構成を示す模式図である。
【図8】実施の形態の分析方法を示すフローチャートである。
【図9】実施例1のターゲットの斜視模式図である。
【図10】図9のターゲットの製造工程を示す模式図(その1)である。
【図11】図9のターゲットの製造工程を示す模式図(その2)である。
【図12】実施例2のターゲットの模式図である。
【図13】実施例3のターゲットの斜視模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は実施の形態の表面分析装置の主要部の概略構成を示す模式図である。
なお、図1(A)は表面分析装置1の側面図であって、紙面上下方向をz方向、紙面左右方向をy方向、紙面垂直方向をx方向とする。図1(B)は表面分析装置1の上面図であって、紙面上下方向をx方向、紙面左右方向をy方向、紙面垂直方向をz方向とする。また、図1(A)では、四つの電子検出器D(DRx,DLx,DRy,DLy)のうちy方向の電子検出器DLy,DRyのみを記載しており、電子検出器DLx,DRxの記載は省略している。図1(B)では、電子光学系4の配置位置を破線で、ターゲット51で散乱された2次電子の電子検出器Dへのそれぞれの進行を矢印で、表している。
【0017】
表面分析装置1は、試料Sが分析対象の表面をz方向に向けて載置される試料台2と、試料台2上の試料Sの表面に1次電子線L1を照射する電子線鏡筒3と、試料Sから放出される2次電子を受光して加速・集光させる電子光学系4とを有する。なお、当該試料Sは様々なサイズ及び磁化方向の磁区から構成されている。したがって、磁区を有する試料Sの内部の電子のスピンは当該磁区に応じて偏極しているため、試料Sから放出される2次電子もスピン偏極度を有する。
【0018】
また、スピン検出器5は、主面上に複数の微小な突起部52が形成され、主面及び突起部52上に金等の重元素の薄膜(図示を省略)が形成された、電子光学系4で加速・集光された2次電子L2が照射されるターゲット51を有する。なお、ターゲット51の詳細については後述する。さらに、当該ターゲット51で散乱された2次電子L3を検出する電子検出器D(DRx,DLx,DRy,DLy)を有する。なお、電子検出器Dは、例えば、低ノイズ、高利得の優れた特徴を持つチャネルトロンを適用することができる。また、電子検出器DRx,DLx及び電子検出器DRy,DLyは、図1(B)に示されるように、ターゲット51を中心にして、x方向,y方向にそれぞれ配置されている。
【0019】
なお、表面分析装置1には、上記の他に、例えば、次の構成を有する。即ち、電子検出器Dにそれぞれ接続され、各電子検出器Dで検出した検出信号に基づき、2次電子L3の電子数を出力する信号処理部(図示を省略)と、当該信号処理部の出力値に基づき2次電子L3のスピン成分を算出する演算処理部(図示を省略)とを有する。
【0020】
次に、このような構成からなる表面分析装置1の試料Sの分析処理(分析方法)について説明する。
まず、試料台2に載置された試料Sの表面に対して、電子線鏡筒3から1次電子線L1を照射する。すると、試料Sから、試料Sの照射箇所の磁化に応じたスピン偏極度を有する2次電子が放出され、電子光学系4に入射する。
【0021】
当該2次電子が電子光学系4で加速・集光された2次電子L2がターゲット51の表面の突起部52に照射される。ターゲット51の突起部52に照射された2次電子L2は、スピン編極度に応じて散乱する。散乱した2次電子L3は電子検出器Dによって検出される。この時、突起部52で散乱された2次電子L3に対する検出効率Cは向上する。したがって、式(1)により、スピン検出器5の性能指標Fも向上する。なお、ターゲット51の突起部52による2次電子の散乱及び検出効率Cの向上の詳細については後述する。
【0022】
また、この時の各電子検出器Dにおけるx,y方向の検出信号量の非対称度A(Ax,Ay)は次式で表される。
Ax=(NRx−NLx)/(NRx+NLx)=S・Py ・・・(3)
Ay=(NRy−NLy)/(NRy+NLy)=S・Px ・・・(4)
なお、P(Px,Py)は試料Sから放出された2次電子のスピン偏極度のx,y成分であり、Sはスピン検出器5の配置、構造、寸法、動作条件等の装置構成に依存するシャーマン関数Sである。NRx,NLx,NRy,NLyは、各電子検出器D(DRx,DLx,DRy,DLy)で検出された電子数に対応する検出信号量である。
【0023】
式(3),(4)によれば、各電子検出器Dで略等しい数の電子数が検出される場合には、Ax,Ayはそれぞれほぼゼロとなり、非対称度が小さい、即ち、2次電子の散乱方向に偏りが小さいことが分かる。一方、Ax,Ayがそれぞれ1に近づくほど、非対称度が大きい、即ち、2次電子の散乱方向に偏りが大きいことが分かる。
【0024】
信号処理部は、各電子検出器Dにおける散乱した2次電子L3の検出信号から、当該検出信号に基づいて電子数を出力する。そして、演算処理部は、当該検出信号の出力値に基づいて2次電子L3のスピン成分を算出する。
【0025】
上記の分析処理を試料Sの表面全体に対して行うことにより、試料Sを構成する磁化の向きを領域毎に分析でき、試料S全体の磁区構造を特定することができる。
次に、実施の形態におけるターゲット51の詳細について説明する。
【0026】
以下では、2次電子のターゲットに対する入射角と当該入射角に応じた2次電子の散乱との関係について説明し、当該関係に基づいた、性能指標Fが向上するターゲット51の構造の詳細について説明する。
【0027】
なお、以下では、2次電子L2はターゲットに照射されて、左右2方向のいずれかに散乱して、電子検出器DRy,DLyで検出する場合を例に挙げる。
まず、2次電子L2をターゲットの表面に対して垂直に照射する場合について説明する。
【0028】
図2はターゲットに垂直に照射した電子の散乱を示す模式図である。
なお、図2中破線で示されるように、電子検出器DRyを、2次電子L2のターゲットTへの入射方向に対して、およそθの位置に配置している。また、電子検出器DLyは、2次電子L2の入射方向に対して、−θの位置、即ち、電子検出器DRyと対称の位置に配置しているが、その図示については省略している。また、ターゲットTの表面には金の薄膜(図示を省略)が形成されている。
【0029】
このような状態の図2では、加速・集光された2次電子L2(以後、図中では2次電子L2の電子1つを「e」と表す)は、ターゲットTの表面Taで散乱される。散乱された2次電子L3は、図2中の2点鎖線の円形で表される、後方散乱電子の角度分布η1(β)に応じて散乱する。なお、(2次電子L2の入射方向を基準とした)散乱角βの場合の後方散乱電子の角度分布η1(β)は次式で表される。
【0030】
η1(β)=η0・Acos(β) ・・・(5)
η0=(1+cosγ)^(−9/Z^0.5) ・・・(6)
なお、γはターゲットTの表面Taの法線に対する入射角であって、ZはターゲットTの構成元素の原子番号である。また、図2の場合では入射角γは0°、原子番号Zは79(金原子)である。
【0031】
次いで、2次電子L2をターゲットTの表面Taに対して傾斜して照射する場合について説明する。
図3は傾斜したターゲットに照射した電子の散乱を示す模式図である。
【0032】
図3は、図2において、ターゲットTのみを図3中反時計回り方向にγだけ回転(傾斜)させた状態で、ターゲットTの表面Taに2次電子L2を照射した場合を示している。即ち、図3の状態は、図2において、2次電子L2がターゲットTの表面Taに対して入射角γで入射した場合と等価である。なお、電子検出器DRyの、2次電子L2のターゲットTへの入射方向に対する配置位置は図2と同様にθ=60°である。また、図2と同様に、電子検出器DLyの記載については省略している。
【0033】
図3では、ターゲットTの表面Taで散乱された2次電子L3の後方散乱電子の角度分布η2(β’,γ)は、図2の角度分布η1(β)から変化する。即ち、後方散乱電子の角度分布η2(β’,γ)は、図3中の2点鎖線で表されるように、2次電子L2の鏡面反射方向Lm2を中心として、次式で表されるコサインのn乗分布となることが知られている。
【0034】
η2(β’,γ)=η0・(Acos(β’))^n ・・・(7)
なお、鏡面反射方向Lm2は、2次電子L2の照射方向に対して2γの角度をなす。η2(β’,γ)の散乱角は、鏡面反射方向Lm2に対する散乱角β’である。nは傾斜角γの増加と共に1〜3程度まで増加する。
【0035】
また、図3のγ=60°の場合のη0は、図2の場合(γ=0°)よりも、およそ1.3倍増大することが知られている(参考:John T. L. Thong, "Electron Beam Testing Technology", 1993, Prenum Press, New York)。
【0036】
次に、ターゲットTを傾斜角γだけ傾斜させた場合の電子検出器DRy,DLyで検出される電子数に応じた検出信号量について説明する。
図4は検出信号量のターゲットの傾斜角依存性を示すグラフである。
【0037】
なお、横軸は図3のターゲットTの傾斜角γであって、縦軸は傾斜角γに対する、電子検出器DRy,DLyで検出される電子数に対応する検出信号量をそれぞれ表している。
傾斜角γが0°の場合、即ち、図2に相当する場合には、電子検出器DRy,DLyから略等量(1.5程度)の検出信号量が検出される。
【0038】
この後、傾斜角γを、図3中反時計回り方向に増加していくと、電子検出器DRy,DLyで検出される検出信号量がそれぞれ変化する。
電子検出器DLyは、ターゲットTの傾斜角γが増加するにつれて減少する。傾斜角γがおよそ20〜25°を超えると、それ以後、電子検出器DLyからはほとんど検出信号量が検出されなくなる。即ち、2次電子L3は、ターゲットTで電子検出器DLy側に散乱されなくなったことが考えられる。
【0039】
一方、電子検出器DRyは、ターゲットTの傾斜角γと共に増加する。傾斜角γが40°を超えると、電子検出器DRyで検出される検出信号量は減少していく。即ち、2次電子L3は、ターゲットTの傾斜角γが増加するにつれて、電子検出器DRyに捕獲される散乱した電子数が増加する。当該傾斜角γが35〜40°の場合に電子検出器DRyで捕獲される電子数が最大になり、傾斜角γが0°の場合と比較しておよそ3.6倍増加する。ターゲットTの傾斜角γが35〜40°を超えると、電子検出器DRyに捕獲される散乱した電子数が減少していくことが考えられる。
【0040】
次に、上記を踏まえて、ターゲット51の構造について説明する。
まず、傾斜角γが0°と35〜40°との場合の、電子検出器DRy,DLyで検出される電子数に対応する検出信号量について説明する。
【0041】
傾斜角γが35〜40°の場合の電子検出器DRy,DLyで検出される検出信号量NRy’,NLy’は、傾斜角γが0°(図2)の場合の電子検出器DRy,DLyで検出される検出信号量NRy,NLyにより次式で表すことができる。
【0042】
NRy’=aNRy;a=3.6 ・・・(8)
NLy’=bNLy;b=0 ・・・(9)
傾斜角γ=0°の場合には、2次電子L2にスピン偏極度が無ければ、NRy=NLy=N0となるために、
NRy’+NLy’=(a+b)N0=aN0 ・・・(10)
となる。
【0043】
したがって、傾斜角γ=0°の場合に対する傾斜角γ=35〜40°の場合の検出信号量の増加割合は次の式(11)で表すことができる。
(NRy’+NLy’)/(NRy+NLy)=aN0/2N0
=a/2=1.8 ・・・(11)
式(11)により、傾斜角γが0°から35〜40°に増加した結果、検出信号量が約2倍になったことが分かる。即ち、検出信号量が増加することにより、検出効率Cも向上し、さらには性能指標Fも向上する。
【0044】
一方、上記のようにターゲットTの表面Taを単に一方向に傾斜させるだけでは、式(9)の結果の通り、表面Taの反対側では検出信号量はゼロとなってしまう。
この時の、スピン偏極度が無い2次電子に対する検出信号量の非対称度Aa(装置固有の非対称度と呼ぶ)は、
Aa=(NRy’−NLy’)/(NRy’+NLy’)
=aN0/aN0=1 ・・・(12)
この結果から、ターゲットTの表面Taを単に一方向に傾斜させる場合には、スピン偏極による非対称度が重畳されても検出できないことが考えられる。
【0045】
そこで、スピン偏極による非対称度が重畳されても検出できるように、次のようなターゲットの構造が考えられる。
図5は一対の傾斜面に照射した電子の散乱を示す模式図である。
【0046】
ターゲットT1は、図5に示されるように、傾斜角γであって、面積の等しい2つの傾斜面T1a,T1bにより構成されている。
この場合の電子検出器DRy,DLyにおける検出信号量NRy’,NLy’は次式で表すことができる。
【0047】
NRy’=aN0/2 ・・・(13)
NLy’=aN0/2 ・・・(14)
この時の検出信号量の増加割合は、
(NRy’+NLy’)/(NRy+NLy)=aN0/2N0
=a/2=1.8 ・・・(15)
式(15)の結果から、図3の場合と同様に検出信号量を増加させる効果が得られることが分かる。
【0048】
また、この時の非対称度Aaは、
Aa=(NRy’−NLy’)/(NRy’+NLy’)=0 ・・・(16)
であって、オフセットを解消することができることが示された。
【0049】
ところが、このような両面傾斜のターゲットT1の場合では、2次電子を正確にその頂点に位置合わせを行うことが必要となり、このような調整は複雑になるという新たな問題点が生じる。
【0050】
そこで、ターゲット51は次のような構造で構成されている。
図6は実施の形態のターゲットに形成された突起部の傾斜面に照射した電子の散乱を示す模式図である。
【0051】
なお、図6に示される電子検出器DRy,DLyは、既述の通り、2次電子L2の入射方向に対して、それぞれ60°の位置に配置されている。また、法線NLは傾斜面52aに対して略垂直である。
【0052】
ターゲット51は、図6に示されるように、表面に、等面積であって、傾斜角γ、半頂角α(=90°−傾斜角γ)とした傾斜面52a,52bを有する微小な突起部52が複数形成されている。
【0053】
突起部52を微小にすることにより、2次電子をターゲット51に照射するための複雑調整が不要になる。
一方、2次電子L2が突起部52の傾斜面52aの領域Aに照射された場合には、散乱した2次電子L3の進行が、隣接する別の突起部52に妨げられてしまい、電子検出器DRyは2次電子L3を検出できない場合が生じる。また、図示していないが傾斜面52b側でも同様の現象が生じる。
【0054】
このような検出不可能領域の存在を考慮して、電子検出器DRy,DLyの検出信号量NRy’,NLy’は次式で表すことができる。
NRy’=aN0/2・k ・・・(17)
NLy’=aN0/2・k ・・・(18)
k=2/(1+(3^0.5・tanγ)) ・・・(19)
なお、kは、領域Aにおける検出不可能領域の検出不可率を表す。
【0055】
当該検出不可率kは、傾斜角γが35〜40°では、0.82〜0.90となる。したがって、傾斜角γが、例えば35°の時の検出信号量の増加割合は、
(NRy’+NLy’)/(NRy+NLy)=aN0/2N0
=a・k/2=1.6 ・・・(20)
また、式(2)から、傾斜角γが0°,35°の場合のそれぞれの検出効率C,C’は、
C =(NRy +NLy )/Nin ・・・(21a)
C’=(NRy’+NLy’)/Nin ・・・(21b)
である。
【0056】
式(21a),(21b)に式(20)の結果を適用すると、
C’/C=(NRy’+NLy’)/(NRy +NLy )
=1.6 ・・・(22)
以上の結果から、等面積であって、傾斜角γ、半頂角α(=90°−傾斜角γ)である一対の傾斜面を有する微小な突起部を複数形成したターゲットの検出効率Cは、突起部が無い場合と比較して向上する。したがって、式(1)から、スピン検出器の性能指標Fが向上する。なお、傾斜角γは、図4から、好ましくは30〜45°であって、より好ましくは、35〜40°である。
【0057】
また、性能指標Fが向上したスピン検出器を備えたスピン偏極SEMでは、スピン画像の取得時間の短縮、スピン画像のSN比等が向上する。
このように傾斜角γを有する微小な突起部が形成された具体的なターゲットについて以下に説明する。
【0058】
[実施例1]
実施例1では、ターゲットに円錐状の突起部が複数形成された場合について説明する。
まず、表面分析装置の全体構成について説明する。
【0059】
図7は実施の形態の表面分析装置の全体構成を示す模式図である。
表面分析装置10は、真空チャンバ11を具備しており、前述した、試料台2、電子光学系4、後述するターゲット60及び複数の電子検出器Dを有するスピン検出器5が真空チャンバ11内に設置されている。試料Sに1次電子線を照射し、試料Sの表面のスピン偏極度をもつ2次電子を放出させるための電子線鏡筒3も真空チャンバ11内に導入される。なお、スピン検出器5のターゲット及び電子検出器Dの記載については省略している。
【0060】
真空チャンバ11外には、検出器制御部16、検出信号処理部17、試料台制御部18、電子線走査系制御部19、電子光学系制御部20が設けられる。さらに、制御計算機21と制御計算機21に接続された表示装置22が設けられている。
【0061】
検出器制御部16は、スピン検出器5を制御する。例えば、後述するターゲット60に印加する電圧を制御する。また、電子検出器Dにおいて、2次電子を増倍させるために、例えば、高精度高圧電源を用いてゲインの調整を行う。
【0062】
検出信号処理部17は、前述した信号処理部に対応し、図示を省略する、プリアンプ、ディスクリミネータ、カウンタを有しており、各測定位置での電子検出器Dからの検出信号(NRx,NLx,NRy,NLy)を処理する。なお、ディスクリミネータにおいて、電子1個分に対応するパルスを生成するために必要とされる電荷量の閾値を変化させることで、ゲインの調整を行うことができる。その場合、検出器制御部16での高精度高圧電源によるゲインの調整を行わなくてもよい。
【0063】
試料台制御部18は、真空チャンバ11内の試料台2の位置の制御を行う。
電子線走査系制御部19は、電子線鏡筒3を制御して、試料Sの表面における1次電子線の照射位置を決定する。
【0064】
電子光学系制御部20は、電子線鏡筒3から試料Sに照射する1次電子線の加速電圧や電子線電流等を調整する。また、電子光学系4における試料Sから放出された2次電子の加速電圧及び集光等を調整する。
【0065】
制御計算機21は、例えば、コンピュータである。各制御部を制御すると共に、例えば、前述した演算処理部の機能を有し、検出信号処理部17で処理された検出信号をもとに、スピン成分の算出等を行う。
【0066】
表示装置22は、制御計算機21でのスピン成分の分析結果等を表示する。
なお、上記の構成の他にも、表面分析装置10には、真空度を計測するための計測ヘッド等が設けられる場合もあるが、図示を省略している。
【0067】
以下、図7で示した表面分析装置10の動作(分析方法)を説明する。
図8は実施の形態の分析方法を示すフローチャートである。
[ステップS1] まず、初期設定を行う。ここでは、制御計算機21の制御に基づき、検出器制御部16は、スピン検出器5に印加する電圧の設定を行う。また、電子線走査系制御部19及び電子光学系制御部20は、照射する1次電子線の走査範囲、加速電圧または電子線電流等を設定する。また、図示しない真空ポンプにより、真空チャンバ11内を排気する。
【0068】
[ステップS2] 制御計算機21の制御に基づき、電子線走査系制御部19は、電子線鏡筒3による1次電子線の照射位置のY座標を決める。なお、座標系は、例えば、試料Sの表面における1次電子線の照射位置はX−Y座標で示される。
【0069】
[ステップS3] 制御計算機21の制御に基づき、電子線走査系制御部19は、電子線鏡筒3による1次電子線の照射位置のX座標を決める。これによって1次電子線の試料Sに対する照射位置が決定される。
【0070】
[ステップS4] 電子線鏡筒3から1次電子線が試料Sに照射されると、試料Sの表面から2次電子が放出される。放出された2次電子は電子光学系4に入射して、電子光学系制御部20の制御に基づき、当該電子光学系4で加速及び集光される。集光された2次電子はスピン検出器5に照射されて、スピン検出器5を用いた2次電子の検出処理が開始される。検出結果は、例えば、検出信号処理部17を介して、制御計算機21に送信され、制御計算機21のRAM(Random Access Memory)等の記憶部に格納される。
【0071】
[ステップS5] 電子線走査系制御部19は、1次電子線の照射位置のX方向のスキャンが終了しているか否かを判定する。次の処理は、判定が終了していない場合には、ステップS6に進められ、終了している場合には、ステップS7に進められる。
【0072】
[ステップS6] 1次電子線の照射位置のX座標を更新する。その後の処理は、ステップS3からの処理を繰り返す。
[ステップS7] 電子線走査系制御部19は、1次電子線の照射位置のY方向のスキャンが終了しているか否かを判定する。次の処理は、判定が終了していない場合には、ステップS8に進められ、終了している場合には、ステップS9に進められる。
【0073】
[ステップS8] 1次電子線の照射位置のY座標を更新する。その後の処理は、ステップS2からの処理を繰り返す。
[ステップS9] 制御計算機21は、ステップS4において格納された2次電子の検出結果から、1次電子線の照射位置毎に、前述した4つの測定位置における電子検出器Dの検出結果の加算値を求める。そして、その照射位置から放出された2次電子のスピン成分を算出し、スピン成分から一意に決まる試料表面の磁化ベクトルを分析する。制御計算機21は、例えば、各照射位置での磁化ベクトルを表示装置22に表示させるようにしてもよい。
【0074】
このような表面分析装置10のスピン検出器5に具備されるターゲット60について説明する。
図9は実施例1のターゲットの斜視模式図である。
【0075】
ターゲット60は、図9に示されるように、基板部61と、基板部61の主面に複数形成された突起部62とにより構成されている。突起部62は、側面が基板部61の主面に対して傾斜角γであって、半頂角αが90°−傾斜角γの円錐状であって(図6、参照)、複数が2次元的に略等間隔に配列されている。当該ターゲット60が、突起部62を試料Sから放出される2次電子に対向するようにスピン検出器5にセットされる。
【0076】
ターゲット60に対して垂直に入射する2次電子は、突起部62の側面に傾斜角γで照射され、後方散乱されて、その一部が電子検出器Dのいずれかに検出される。
各電子検出器Dで検出信号量NRx,NLx,NRy,NLyが検出されると、式(3),(4)並びにシャーマン関数Sを適用して、非対称度A(Ax,Ay)及びスピン偏極度P(Px,Py)が算出される。
【0077】
なお、突起部62における頂点間の間隔及び基板部61の主面から頂点までの高さは、傾斜面積が最大となるような関係が保たれれば任意である。望ましくは、突起部62の当該間隔は、ターゲット60に照射する2次電子の径よりも十分小さくしておく。例えば、微細加工の容易性も考慮して、ターゲット60に照射する2次電子の径1mmに対して、突起部62の(頂点間の)間隔は1〜2μm程度が好ましい。
【0078】
次に、ターゲット60の製造について説明する。
図10及び図11は図9のターゲットの製造工程を示す模式図である。
なお、図10(A)は側面図、図10(B)は平面図であって、図11(A),(B)はいずれも側面図をそれぞれ表している。
【0079】
まず、例えば、シリコンで構成される基板部61を用意して、当該基板部61の主面に2次元的に配列する円形状のレジストをマスク63として形成する(図10)。
次いで、当該マスク63を利用して基板部61をエッチングすることにより、円錐状の突起部62を形成する(図11(A))。
【0080】
さらに、マスク63の除去後、突起部62及び基板部61の表面に、10〜50nmの厚さの重元素の、例えば金を蒸着して薄膜64を形成する(図11(B))。
以上の工程を経て、基板部61と、基板部61に形成された突起部62とを有するターゲット60を形成することができる。
【0081】
なお、突起部62の形状は円錐状に限らず、同様の傾斜角γ及び半頂角αを有する三角錐、四角錐等の多角錐でも構わない。また、円錐状の突起部62による後方散乱は、突起部62の頂点を中心として、全方向に均等に進むために、電子検出器Dは、4つよりもさらに複数配置することにより検出効率が向上する。
【0082】
また、図4で説明したように、傾斜角γは30〜45°が好ましく、より好ましくは35〜40°である。したがって、半頂角αは45〜60°が最適となる。
このように実施例1の円錐状の突起部62における後方散乱は全方向に均等に進むため、検出効率を向上するためには電子検出器Dをターゲット60の四方に4つだけでなく、より多く設置することが望ましい。一方で、電子検出器Dを多く設置するとコストが嵩み、配置に手間がかかる等の可能性がある。
【0083】
そこで、次の実施例2のような構成が考えられる。
[実施例2]
実施例2では、三角柱状の突起部が複数形成されたターゲットについて説明する。
【0084】
図12は実施例2のターゲットの模式図である。
なお、図12(A)はターゲット70の斜視図であって、図12(B)はターゲット70の側面図である。
【0085】
ターゲット70は、図12(A)に示されるように、基板部71と、基板部71の主面に複数形成された突起部72とにより構成されている。
突起部72は、2つ側面(傾斜面)が基板部71の主面に対して傾斜角γであって、半頂角αが90°−傾斜角γの二等辺三角柱であって、長辺が図12中x方向に平行になるように、略等間隔に複数配列されている。当該ターゲット70が、突起部72を試料Sから放出される2次電子に対向するようにスピン検出器5にセットされる。
【0086】
なお、当該ターゲット70に対しては、電子検出器Dは、2つの傾斜面に対する位置に1つずつ配置される。例えば、図12(B)に破線で示されるように、電子検出器DRy,DLyのみが配置される。
【0087】
このような場合では、ターゲット70に照射された2次電子の殆どが、突起部72の2つ傾斜面でそれぞれ2方向(図12(B)の矢印方向)に散乱される。一組の電子検出器DRy,DLyのみで散乱した2次電子に対する検出信号量NRy,NLyが検出されるため、より効率的な電子検出が可能となる。
【0088】
その後、当該検出信号量を式(4)に適用して、非対称度Ay及びスピン偏極度Pxが算出される。
なお、突起部72における頂点間の間隔及び基板部71の主面から頂点までの高さは、傾斜面積が最大となるような関係が保たれれば任意である。望ましくは、突起部72の当該間隔は、ターゲット70に照射する2次電子の径よりも十分小さくしておく。例えば、微細加工の容易性も考慮して、ターゲット70に照射する2次電子の径1mmに対して、突起部72の(頂点間の)間隔は1〜2μm程度が好ましい。
【0089】
また、図4で説明したように、傾斜角γは30〜45°が好ましく、より好ましくは35〜40°である。したがって、半頂角αは45〜60°が最適となる。
また、ターゲット70は、例えば、図10においてマスク63の代わりに長方形のマスクを複数形成して、当該マスクで図11と同様にエッチングを行うことにより製造することが可能である。
【0090】
[実施例3]
実施例3では、後方散乱電子のx,y成分のスピン偏極度を同時に検出できるターゲットについて説明する。
【0091】
図13は実施例3のターゲットの斜視模式図である。
ターゲット80は、基板部81と、基板部81の主面に互いに直交する2方向にそれぞれ複数形成された突起部82,83とにより構成されている。
【0092】
基板部81は、2次電子の径内(1mm程度)の領域内を複数の等しい領域(図13では4つの領域)に等分割されている。
突起部82は、2つ側面(傾斜面)が基板部81の分割された所定領域の主面に対して傾斜角γであり、半頂角αが90°−傾斜角γの二等辺三角柱である。当該突起部82は、長辺が図13中x方向に平行に、略等間隔に複数配列されている。
【0093】
突起部83は、突起部82と同様に二等辺三角柱であって、基板部81の分割された所定領域に、長辺が図13中y方向に平行に、略等間隔に複数配列されている。
これらの突起部82,83は同数の領域(図13では2領域ずつ)に形成されており、各領域に等しい数(図13では5つずつ)の突起部82,83がそれぞれ形成されている。
【0094】
当該ターゲット80が、突起部82,83を試料Sから放出される2次電子に対向するようにスピン検出器5にセットされる。
このようなターゲット80に照射された2次電子は、突起部82,83のそれぞれの2つ傾斜面で2方向にそれぞれ散乱され、電子検出器DRx,DLx,DRy,DLyで検出信号量NRx,NLx,NRy,NLyが確実に検出される。このため、より効率的な電子検出と、スピン偏極度の2成分の検出が同時に可能となる。
【0095】
また、当該検出信号量を式(4)に適用して、非対称度A(Ax,Ay)及びスピン偏極度P(Px,Py)が算出される。
なお、突起部82,83における頂点間の間隔及び基板部81の主面から頂点まで高さは、傾斜面積が最大となるような関係が保たれれば任意である。望ましくは、突起部82,83の当該間隔は、ターゲット80に照射する2次電子の径よりも十分小さくしておく。例えば、微細加工の容易性も考慮して、ターゲット80に照射する2次電子の径1mmに対して、突起部82,83の(頂点間の)間隔は1〜2μm程度が好ましい。
【0096】
また、図4で説明したように、傾斜角γは30〜45°が好ましく、より好ましくは35〜40°である。したがって、半頂角αは45〜60°が最適となる。
また、ターゲット80は、例えば、図10においてマスク63の代わりに長方形のマスクをx,y方向に複数形成して、当該マスクで図11と同様にエッチングを行うことにより製造することが可能である。
【0097】
また、実施例1〜3で説明した各種突起部が形成されたターゲットを全てスピン検出器5に搭載させることも可能である。この場合には、例えば、2次電子が照射される領域に、ターゲットを順次スライド可能な構成にしておくことで、所望の散乱方向に対応したターゲットに適宜セットできる。
【0098】
以上、実施例1〜3においても、等面積であって、傾斜角γ、半頂角α(=90°−傾斜角γ)である側面・傾斜面を有する微小な突起部を複数形成したターゲットの検出効率Cは、突起部が無い場合と比較して向上すると共に、スピン検出器の性能指標Fも向上する。
【0099】
また、性能指標Fが向上したスピン検出器を備えたスピン偏極SEMでは、スピン画像の取得時間の短縮、スピン画像のSN比等が向上する。
(付記1) 電子線が照射される面に、前記面の法線方向に対して傾斜した傾斜面を有する突起部が形成されたターゲットと、
前記突起部の前記傾斜面で前記電子線が前記電子線のスピン偏極度に応じて散乱する方向側に配置された電子検出部と、
を有することを特徴とするスピン検出器。
【0100】
(付記2) 前記法線方向に対する前記傾斜面の半頂角は、45〜60°であることを特徴とする付記1記載のスピン検出器。
(付記3) 前記電子検出部は、前記電子線の前記ターゲットへの照射方向に対して、60°の位置に配置されていることを特徴とする付記1記載のスピン検出器。
【0101】
(付記4) 前記突起部は等間隔に複数配列された、前記半頂角を有する円錐状であることを特徴とする付記2記載のスピン検出器。
(付記5) 前記突起部は等間隔に複数配列された、前記半頂角を有する多角錐状であることを特徴とする付記2記載のスピン検出器。
【0102】
(付記6) 前記突起部は、前記半頂角を有する二等辺三角柱であって、長辺が一方向に沿って等間隔で複数配置されていることを特徴とする付記2記載のスピン検出器。
(付記7) 前記突起部は、前記半頂角を有する二等辺三角柱であって、
所定領域に長辺が一方向に沿って等間隔で複数配置され、
別の所定領域に前記一方向の直交方向に沿って等間隔で複数配置されていることを特徴とする付記2記載のスピン検出器。
【0103】
(付記8) 前記間隔は、前記電子線の径よりも小さいことを特徴とする付記4乃至7のいずれか1項に記載のスピン検出器。
(付記9) 試料表面に1次電子線を照射する電子線照射部と、
前記1次電子線が照射された前記試料表面から放出した2次電子線が照射される面に、前記面の法線方向に対して傾斜した傾斜面を有する突起部が形成されたターゲットと、前記突起部の前記傾斜面で前記2次電子が前記2次電子のスピン偏極度に応じて散乱する方向側に配置された電子検出部と、を有するスピン検出器と、
を有することを特徴とする表面分析装置。
【0104】
(付記10) 電子線が照射される面に、前記面の法線方向に対して傾斜した傾斜面を有する突起部が形成され、
前記突起部の前記傾斜面で前記電子線を前記電子線のスピン偏極度に応じて散乱させる、
ことを特徴とするターゲット。
【符号の説明】
【0105】
1,10 表面分析装置
2 試料台
3 電子線鏡筒
4 電子光学系
5 スピン検出器
11 真空チャンバ
16 検出器制御部
17 検出信号処理部
18 試料台制御部
19 電子線走査系制御部
20 電子光学系制御部
21 制御計算機
22 表示装置
51,60,70,80,T,T1 ターゲット
Ta 表面
52,62,72,82,83 突起部
52a,52b,T1a,T1b 傾斜面
61,71,81 基板部
63 マスク
64 薄膜
D,DRx,DLx,DRy,DLy 電子検出器
NRx,NLx,NRy,NLy 検出信号量
S 試料
L1 1次電子
L2,L3 2次電子
Lm2 鏡面反射方向
NL 法線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線が照射される面に、前記面の法線方向に対して傾斜した傾斜面を有する突起部が形成されたターゲットと、
前記突起部の前記傾斜面で前記電子線が前記電子線のスピン偏極度に応じて散乱する方向側に配置された電子検出部と、
を有することを特徴とするスピン検出器。
【請求項2】
前記法線方向に対する前記傾斜面の半頂角は、45〜60°であることを特徴とする請求項1記載のスピン検出器。
【請求項3】
前記突起部は等間隔に複数配列された、前記半頂角を有する円錐状であることを特徴とする請求項2記載のスピン検出器。
【請求項4】
前記突起部は、前記半頂角を有する二等辺三角柱であって、長辺が一方向に沿って等間隔で複数配置されていることを特徴とする請求項2記載のスピン検出器。
【請求項5】
前記突起部は、前記半頂角を有する二等辺三角柱であって、
所定領域に長辺が一方向に沿って等間隔で複数配置され、
別の所定領域に前記一方向の直交方向に沿って等間隔で複数配置されていることを特徴とする請求項2記載のスピン検出器。
【請求項6】
試料表面に1次電子線を照射する電子線照射部と、
前記1次電子線が照射された前記試料表面から放出した2次電子線が照射される面に、前記面の法線方向に対して傾斜した傾斜面を有する突起部が形成されたターゲットと、前記突起部の前記傾斜面で前記2次電子が前記2次電子のスピン偏極度に応じて散乱する方向側に配置された電子検出部と、を有するスピン検出器と、
を有することを特徴とする表面分析装置。
【請求項7】
電子線が照射される面に、前記面の法線方向に対して傾斜した傾斜面を有する突起部が形成され、
前記突起部の前記傾斜面で前記電子線を前記電子線のスピン偏極度に応じて散乱させる、
ことを特徴とするターゲット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−95150(P2011−95150A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250456(P2009−250456)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】