説明

スピーカ装置

【課題】スピーカユニット間の幅を広くして、使用するスピーカユニットの数を少なくしたスピーカアレイ装置を用いても、音質の劣化を抑えつつ、音像の定位感を損なわないようにして、サラウンド感を出すこと。
【解決手段】本発明の実施形態におけるスピーカ装置1は、スピーカアレイ部20と、スピーカアレイ部20を構成するスピーカユニットとは正面方向が異なるスピーカユニット2−L、2−Rをさらに有する。スピーカアレイ部20からは、低周波数帯域のオーディオ信号を示す音を出力して、グレーティングローブの発生を抑える。一方、高周波数帯域のオーディオ信号を示す音については、スピーカアレイ部20ではなく、スピーカユニット2−L、2−Rから出力させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカアレイを用いてサラウンド効果を付与する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
スピーカアレイによりオーディオ信号に指向性を付与し、壁面反射を用いて聴取者に到達させ、サラウンドを実現する方法がある。例えば、特許文献1には、聴取者正面に設置されたスピーカアレイから、左右チャンネルのオーディオ信号を壁面に反射させて聴取者に到達させる技術が開示されている。これにより、聴取者の左右壁面方向に音像を定位させてサラウンド効果を与えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−205496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スピーカアレイを用いて良好なサラウンド感を得るためには、音の指向性を強くする必要がある。音の指向性を強くするためには、多数のスピーカユニットを用いる必要がある。これは、スピーカアレイ全体の幅を長くしないと、波長の長い音の指向性を強くすることができないからである。さらに、スピーカアレイを構成するスピーカユニット間の幅を短くしないと、空間のサンプリング定理により導かれる限界よりも波長の短い音に指向性を付与したときに、グレーティングローブが発生してしまう。
【0005】
図7は、聴取者2000に与えるグレーティングローブの影響を説明する図である。従来のスピーカアレイ装置は、部屋1000における聴取者2000の正面に設置され、壁面反射を利用して聴取者2000に音を到達させるために、主方向に指向した音(メインサウンドビームMB)を出力する。この例においては、メインビームは4kHzの音を例として説明する。また、図7(a)は、スピーカユニット間の幅が短いスピーカアレイ装置1RNの場合におけるグレーティングローブの影響を説明する図である。図7(b)は、スピーカユニット間の幅がスピーカアレイ装置1RNの2倍となるスピーカアレイ装置1RWの場合におけるグレーティングローブの影響を説明する図である。
【0006】
スピーカアレイ装置1RNの場合は、スピーカユニット間の幅が短いため、図7(a)に示すポーラパターンのように、メインサウンドビームMBの方向以外に出力の強度が大きい方向は存在しない。一方、スピーカアレイ装置1RWの場合には、スピーカユニット間の幅が長く、図7(b)に示すポーラパターンのように、メインビームMBの方向の出力の強度に近い強度となる方向が存在する。そのため、スピーカアレイ装置1RWは、メインサウンドビームMBを出力しようとすると、その方向にもサブサウンドビームSBを出力してしまう。
【0007】
このサブサウンドビームSBの方向が、聴取者2000の方向に向いてしまうと、聴取者は、壁面方向から聴取すべき音をスピーカアレイ装置1RWの方向からも聴取してしまう。この音は、壁面方向からの音よりも先行して聴取者に到達するため、壁面方向への定位感が失われ、サラウンド感が低下してしまっていた。また、サブサウンドビームSBの周波数分布は、スピーカユニット間の幅によって決まる特定の周波数以上の帯域となるが、この周波数が可聴域でも人の聴感感度が良い周波数領域にかかると定位感だけでなく、音質を劣化させる要因にもなっていた。
【0008】
このように、スピーカアレイ装置を用いてサラウンド感を出すためには、スピーカユニット間の幅を短くして、多数のスピーカユニットを必要とするため、非常にコストがかかっていた。
【0009】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、スピーカユニット間の幅を広くして、使用するスピーカユニットの数を少なくしたスピーカアレイ装置を用いても、音質の劣化を抑えつつ、音像の定位感を損なわないようにして、サラウンド感を出すことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するため、本発明は、複数のスピーカユニットが並んで配置された第1スピーカユニット群を有し、供給されるオーディオ信号を、特定の方向に指向する音として当該第1スピーカユニット群から出力する第1出力手段と、前記第1スピーカユニット群の正面方向とは異なる方向が正面方向となるように配置された第2スピーカユニットを有し、供給されるオーディオ信号を音として当該第2スピーカユニットから出力する第2出力手段と、入力されるオーディオ信号を、第1の周波数より高い周波数帯域を減衰させた低周波数帯域のオーディオ信号と、第2の周波数より低い周波数帯域を減衰させた高周波数帯域のオーディオ信号とに分離して、当該低周波数帯域のオーディオ信号を前記第1出力手段に供給し、当該高周波数帯域のオーディオ信号を前記第2出力手段に供給する供給手段とを具備することを特徴とするスピーカ装置を提供する。
【0011】
また、別の好ましい態様において、前記供給手段は、前記第2出力手段に出力する高周波数帯域のオーディオ信号に、前記低周波数帯域のオーディオ信号を、予め決められた割合で混合することを特徴とする。
【0012】
また、別の好ましい態様において、前記第1出力手段から出力される音の出力レベルと前記第2出力手段から出力される音の出力レベルとの関係は、前記第1出力手段から出力される音が指向する方向と前記第2スピーカユニットの正面方向との関係に応じて変化することを特徴とする。
【0013】
また、別の好ましい態様において、前記供給手段は、前記第1出力手段から出力される音が指向する方向と当該音を到達させる位置との関係に応じて、前記第1の周波数を決定することを特徴とする。
【0014】
また、別の好ましい態様において、前記第1出力手段によって出力される音が指向する前記特定の方向を設定する設定手段と、前記第2スピーカユニットの正面方向を、前記設定手段によって設定された特定の方向に対応した方向に移動させる移動手段をさらに具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、スピーカユニット間の幅を広くして、使用するスピーカユニットの数を少なくしたスピーカアレイ装置を用いても、音質の劣化を抑えつつ、音像の定位感を損なわないようにして、サラウンド感を出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態におけるスピーカ装置の構成を説明するブロック図である。
【図2】本発明の実施形態におけるスピーカ装置の外観およびスピーカユニットの配置態様を説明する図である。
【図3】本発明の実施形態における音響処理部における構成を説明する図である。
【図4】本発明の実施形態におけるハイパスフィルタ部、ローパスフィルタ部の周波数特性を説明する図である。
【図5】本発明の実施形態におけるスピーカ装置から出力される音の聴取者への経路を説明する図である。
【図6】本発明の変形例3におけるスピーカ装置の構成を説明する図である。
【図7】従来例における聴取者に与えるグレーティングローブの影響を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<実施形態>
[全体構成]
図1は、本発明の実施形態におけるスピーカ装置1の構成を説明するブロック図である。スピーカ装置1は、制御部3、記憶部4、操作部5、インターフェイス6、および音響処理部10を有する。これらの各要素は、バスを介して接続されている。また、音響処理部10には、スピーカユニット2−L、2−Rおよび複数のスピーカユニットを有するスピーカアレイ部20が接続されている。スピーカ装置1は、スピーカアレイ部20から指向した音を出力するとともに、スピーカユニット2−L、2−Rから音を出力する。スピーカアレイ部20から出力される音のうち、指向した音をサウンドビームという。
制御部3は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)などを有する。制御部3は、記憶部4またはROMに記憶された制御プログラムを実行することにより、バスを介してスピーカ装置1の各部を制御する。制御部3は、例えば、音響処理部10を制御して、音響処理部10において行われる各処理におけるパラメータの設定などを行う設定手段としても機能する。
【0018】
記憶部4が、不揮発性メモリなどの記憶手段であって、制御部3における制御において用いられる設定パラメータなどを記憶する。この設定パラメータには、サウンドビームが出力される方向に応じて音響処理部10に設定されるパラメータが含まれている。
また、スピーカ装置1から出力されたサウンドビームが、部屋1000の壁面に反射して聴取者2000の位置する受音点に到達するまでの時間(左壁面反射の場合を到達時間L、右壁面反射の場合を到達時間Rという)、および受音点に到達させるためのサウンドビームの出力方向(左壁面反射の場合を出力方向L、右壁面反射の場合を出力方向Rという)、スピーカ装置1から直接サウンドビームが受音点に到達するまでの時間(到達時間C)、およびそのときのサウンドビームの出力方向(出力方向C)についての測定情報についても記憶部4に記憶されている。
この測定情報は、部屋1000に設置されたスピーカ装置1からサウンドビームを出力させ、出力方向を変化させながら、予め受音点に設置したマイクロフォンに入力された音を測定した結果から算出される。この測定は、例えば、スピーカ装置1の設置位置、設置する部屋、受音点など環境を変えたときに行うものであり、利用者による操作部5の操作により開始される。
【0019】
操作部5は、音量レベルを調整するボリューム、設定変更を行う指示を入力するための操作ボタンなどの操作手段を有し、操作内容を示す情報を制御部3に出力する。
インターフェイス6は、外部からオーディオ信号Sinを取得するための入力端子などである。
続いて、スピーカユニット2−L、2−Rおよび複数のスピーカユニットを有するスピーカアレイ部20について、図2を用いて説明する。
【0020】
[スピーカユニット配置]
図2は、本発明の実施形態におけるスピーカ装置1の外観およびスピーカユニットの配置態様を説明する図である。図2(a)は、スピーカ装置1の外観を示し、図2(b)は、装置上方から見た場合におけるスピーカ装置1が有するスピーカユニットの配置を示す図である。この例においては、スピーカ装置1は、装置上方から見た場合には概ね台形であり、上底方向が装置正面方向になっている。
図2(a)に示すように、スピーカ装置1は、装置正面方向に、スピーカアレイ部20(第1スピーカユニット群)を構成する複数のスピーカユニット(この例においては、8台のスピーカユニット2−1、2−2、・・・、2−8)を有している。また、スピーカ装置1は、装置正面方向から見た場合のスピーカユニット2−1の左側の側面にスピーカユニット2−L(第2スピーカユニット)を有し、スピーカユニット2−8の右側の側面にスピーカユニット2−R(第2スピーカユニット)を有している。なお、スピーカユニット2−L、2−Rは、それぞれ単数でなく複数であってもよい。
【0021】
図2(b)に示すように、スピーカユニット2−1、2−2、・・・、2−8は、その正面方向(例えば、音軸方向)が方向DAを向いて、一方向(スピーカ装置1を設置したときの水平方向)に沿って並んで配置されスピーカアレイ部20を構成している。スピーカアレイ部20は、スピーカユニット2−1、2−2、・・・、2−8から音を出力することにより、水平面内に含まれる特定の方向に向かってサウンドビームを出力することができる。
【0022】
また、スピーカユニット2−Lは、その正面方向が方向DLを向いて配置されている。方向DAと方向DLとがなす角は、角度αLであり、この例においては、60°であるものとする。スピーカユニット2−Rは、その正面方向が方向DRを向いて配置されている。方向DAと方向DRとがなす角は、角度αRであり、この例においては、60°であるものとする。角度αL、αRともに、0°よりおおきく90°以下であることが望ましい。
これらのスピーカユニットは、全て同一の種類のスピーカユニットであってもよいし、異なる種類のスピーカユニットであってもよい。続いて、音響処理部10の構成について図3を用いて説明する。
【0023】
[音響処理部10の構成]
図3は、本発明の実施形態における音響処理部10における構成を説明する図である。音響処理部10は、イコライザ部(EQ)11、供給部12、ディレイ部(Delay)13、レベル調整部18−L、18−R、第1出力部100、および第2出力部200−L、200−Rを有する。
音響処理部10は、インターフェイス6から入力されたオーディオ信号Sinを取得する。この例においては、音響処理部10は、取得したオーディオ信号Sinを、チャンネルC、L、Rの3chのオーディオ信号として取り扱う。なお、取得したオーディオ信号Sinが、3chより多いチャンネル、例えば5.1chなどである場合には、ダウンミックスを行ってもよいし、図3に示す構成に加えて、チャンネルSL、SR用にチャンネルL、Rと同様な処理経路を新たに設け、5ch別々に処理をしてもよい。また、取得したオーディオ信号Sinが、2chである場合には、チャンネルCは用いなくてもよいし、マトリックスデコードなどによりチャンネルを拡張した上で音響処理部10に入力してもよい。
【0024】
イコライザ部11は、イコライザ部11−C、11−L、11−Rを有する。イコライザ部11−C、11−L、11−Rは、それぞれチャンネルC、L、Rのオーディオ信号を取得し、制御部3によって設定された周波数特性を付与して出力する。以下、イコライザ部11−Cから出力されるオーディオ信号を、オーディオ信号Cという。
供給部12は、それぞれにカットオフ周波数Fcが予め設定されたハイパスフィルタ部(HPF)12−LH、12−RH、ローパスフィルタ部(LPF)12−LL、12−RLを有し、入力されたオーディオ信号を高周波数帯域のオーディオ信号と低周波数帯域のオーディオ信号とに分離する。
【0025】
ハイパスフィルタ部12−LHは、イコライザ部11−Lから出力されたオーディオ信号を取得し、制御部3によって設定されたカットオフ周波数Fc(第2の周波数)以下の周波数帯域の成分を減衰させた高周波数帯域のオーディオ信号を出力し、第2出力部200−Lに接続される信号ラインに供給する。ハイパスフィルタ部12−RHは、イコライザ部11−Rから出力されたオーディオ信号を取得し、制御部3によって設定されたカットオフ周波数Fc以下の周波数帯域の成分を減衰させた高周波数帯域のオーディオ信号を出力し、第2出力部200−Rに接続される信号ラインに供給する。以下、ハイパスフィルタ部12−LH、12−RHから出力されるオーディオ信号を、それぞれオーディオ信号LH、RHという。
【0026】
ローパスフィルタ部12−LLは、イコライザ部11−Lから出力されたオーディオ信号を取得し、制御部3によって設定されたカットオフ周波数Fc(第1の周波数)以上の周波数帯域の成分を減衰させた低周波数帯域のオーディオ信号を出力し、第1出力部100の指向性制御部(DirC)14−LLに接続される信号ラインに供給する。ローパスフィルタ部12−RLは、イコライザ部11−Rから出力されたオーディオ信号を取得し、制御部3によって設定されたカットオフ周波数Fc以上の周波数帯域の成分を減衰させた低周波数帯域のオーディオ信号を出力し、それぞれ第1出力部100の指向性制御部14−RLに接続される信号ラインに供給する。以下、ローパスフィルタ部12−LL、12−RLから出力されるオーディオ信号を、それぞれオーディオ信号LL、RLという。
【0027】
また、供給部12は、イコライザ部11−Cから出力されたオーディオ信号Cについては、上記フィルタを介さずに出力し、第1出力部100の指向性制御部14−Cに接続される信号ラインに供給する。
【0028】
図4は、本発明の実施形態におけるハイパスフィルタ部12−LH、12−RH、ローパスフィルタ部12−LL、12−RLの周波数特性を説明する図である。カットオフ周波数Fcは、グレーティングローブの影響が聴取者2000に対して顕著に現れないよう決定される。すなわち、カットオフ周波数Fcは、スピーカアレイ部20におけるスピーカユニット間の幅に応じて決められ、この幅が長いほど低い周波数として決められている。この例において、カットオフ周波数Fc(第1の周波数、第2の周波数)は、全てのフィルタにおいて同じ値として設定されているが、必ずしも同じ値を使用しなくてもよい。例えば、第1の周波数、第2の周波数は同じ値でなくてもよく、第1の周波数が第2の周波数より大きくても小さくてもよい。ここで、上述したスピーカアレイ部20におけるスピーカユニット間の幅が長いほど低い周波数として決められるのは、ローパスフィルタ部12−LL、12−RLに設定されるカットオフ周波数Fc(第1の周波数)であり、ハイパスフィルタ部12−LH、12−RHに設定されるカットオフ周波数Fc(第2の周波数)は必ずしもこの幅に応じて決められていなくてもよい。このように、ローパスフィルタ部12−LL、12−RLには第1の周波数に対応するカットオフ周波数Fcl、ハイパスフィルタ部12−LH、12−RHには第2の周波数に対応するカットオフ周波数Fchが、それぞれ制御部3によって別個独立に設定されるようにしてもよい。
ハイパスフィルタ部12−LH、12−RH、ローパスフィルタ部12−LL、12−RLに、図4に示すような周波数特性が設定されることにより、高周波数帯域のオーディオ信号LH、RH、および低周波数帯域のオーディオ信号LL、RLが供給部12から出力される。
【0029】
図3に戻って説明を続ける。ディレイ部13は、ディレイ部13−C、13−LH、13−RH、13−LL、13−RLを有する。ディレイ部13−Cは、第1出力部100の指向性制御部14−Cに接続される信号ラインに設けられ、制御部3によって遅延時間が設定される。ディレイ部13−Cは、この信号ラインに供給されるオーディオ信号Cを、設定された遅延時間で遅延させる。この遅延時間は、記憶部4に記憶された測定時間が示す到達時間R、Lのうち長い方と、到達時間Cとの差分が設定される。
【0030】
ディレイ部13−LH、13−RH、13−LL、13−RLは、それぞれ、第2出力部200−L、200−R、第1出力部100の指向性制御部14−LL、14−RLに接続される信号ラインに設けられ、制御部3によって遅延時間が設定される。ディレイ部13−LL、13−LHに設定される遅延時間は、記憶部4に記憶された測定時間が示す到達時間R、Lのうち長い方と、到達時間Lとの差分が設定される。そのため、到達時間Rより到達時間Lが長い場合には、「0」が設定される。ディレイ部13−RL、13−RHに設定される遅延時間は、記憶部4に記憶された測定時間が示す到達時間R、Lのうち長い方と、到達時間Rとの差分が設定される。そのため、到達時間Lより到達時間Rが長い場合には、「0」が設定される。
【0031】
レベル調整部18−L、18−Rは、それぞれ、第2出力部200−L、200−Rに接続される信号ラインに設けられ、制御部3によって設定された増幅率でオーディオ信号LH、RHを増幅する。後述するように、オーディオ信号LH、RHを示す音は、それぞれ、一のスピーカユニットから出力されることになるが、オーディオ信号LL、RLを示す音は、複数のスピーカユニットから出力されるため、出力レベルに差が生じる。そのため、レベル調整部18−L、18−Rにおいて、オーディオ信号LH、RHの出力レベルが、オーディオ信号LL、RLに対して大きくなるように調整する。レベル調整部18−L、18−Rに設定される増幅率は、この出力レベルの差を補償するように設定される。すなわち、増幅率は、スピーカアレイ部20を構成するスピーカユニットの数に応じて決められる。
【0032】
第1出力部100は、指向性制御部14−C、14−LL、14−RLを有する。また、第1出力部100は、スピーカユニット2−1、2−2、・・・、2−8と、これらに接続される信号ライン上に、加算部15−1、15−2、・・・、15−8、デジタルアナログ変換部(D/A)16−1、16−2、・・・、16−8、アンプ部17−1、17−2、・・・、17−8を有する。
【0033】
第2出力部200−L、200−Rは、それぞれ、スピーカユニット2−L、2−Rと、これらに接続される信号ライン上に、加算部15−L、15−R、デジタルアナログ変換部(D/A)16−L、16−R、アンプ部17−L、17−Rを有する。
加算部15−1、15−2、・・・、15−8、15−L、15−Rは、供給されるオーディオ信号を加算する。デジタルアナログ変化部16−1、16−2、・・・、16−8、16−L、16−Rは、入力されるデジタル信号のオーディオ信号をアナログ信号のオーディオ信号に変換する。アンプ部17−1、17−2、・・・、17−8、17−L、17−Rは、入力されるオーディオ信号を、操作部5によって指定された音量レベルに応じた増幅率で増幅する。
【0034】
指向性制御部14−Cは、オーディオ信号Cをスピーカユニット2−1、2−2、・・・、2−8に接続される信号ラインに供給する。このとき、指向性制御部14−Cは、それぞれの信号ラインに供給されるオーディオ信号Cに対して、測定情報が示す出力方向Cに応じて制御部3により設定されたパラメータに対応した遅延、レベル調整などを行って出力する。このようにオーディオ信号Cが処理されると、スピーカアレイ部20から出力されるオーディオ信号Cを示す音は、出力方向Cに指向した音として出力される。このとき、出力部200−L(スピーカユニット2−L)、200−R(スピーカユニット2−R)に接続される信号ラインにも出力して、スピーカユニット全体として出力方向Cに指向した音として出力されるようにしてもよい。この場合、センターチャンネル(チャンネルC)のスイートスポットがスピーカアレイ部20のみを使用した場合より広範囲になるため、台詞の聴き取り易さを改善することができる。
【0035】
指向性制御部14−LLは、オーディオ信号LLをスピーカユニット2−1、2−2、・・・、2−8、およびスピーカユニット2−Lに接続される信号ラインに供給する。このとき、指向性制御部14−LLは、それぞれの信号ラインに供給されるオーディオ信号LLに対して、測定情報が示す出力方向Lに応じて制御部3により設定されたパラメータに対応した遅延、レベル調整などを行って出力する。このようにオーディオ信号LLが処理されると、スピーカアレイ部20から出力されるオーディオ信号LLを示す音は、出力方向Lに指向した音として出力される。なお、指向性制御部14−LLは、オーディオ信号LLを、スピーカユニット2−Lに接続される信号ラインに供給しなくてもよいし、スピーカユニット2−Rに接続される信号ラインにも供給するようにしてもよい。
【0036】
指向性制御部14−RLは、オーディオ信号RLをスピーカユニット2−1、2−2、・・・、2−8、およびスピーカユニット2−Rに接続される信号ラインに供給する。このとき、指向性制御部14−RLは、それぞれの信号ラインに供給されるオーディオ信号RLに対して、測定情報が示す出力方向Rに応じて制御部3により設定されたパラメータに対応した遅延、レベル調整などを行って出力する。このようにオーディオ信号RLが処理されると、スピーカアレイ部20から出力されるオーディオ信号RLを示す音は、出力方向Rに指向した音として出力される。なお、指向性制御部14−RLは、オーディオ信号RLを、スピーカユニット2−Rに接続される信号ラインに供給しなくてもよいし、スピーカユニット2−Lに接続される信号ラインにも供給するようにしてもよい。
以上が、音響処理部10の構成についての説明である。
【0037】
[サウンドビームの経路]
図5は、本発明の実施形態におけるスピーカ装置1から出力される音の聴取者2000への経路を説明する図である。図5に示すように、聴取者2000(受音点)は、部屋1000に設置されたスピーカ装置1の正面方向であるものとする。この状態で、スピーカ装置1は、測定情報を決定するための測定を行って、記憶部4に測定情報を記憶する。この場合、測定情報が示す出力方向Cは、スピーカユニット2−1、2−2、・・・、2−8の正面方向である方向DAとなる。また測定情報が示す出力方向L、Rは、それぞれ、方向DAに対して角度βL、βRの方向となる。
【0038】
スピーカ装置1は、オーディオ信号Sinが入力されると、出力方向Cにオーディオ信号Cを示すサウンドビームCを出力し、この方向に対して角度βL、βRの方向にそれぞれオーディオ信号LL、RLを示すサウンドビームLL、RLを出力し、聴取者2000に到達させる。このとき、ディレイ部13において遅延処理が施されているため、サウンドビームLL、サウンドビームRL、サウンドビームCの経路長が異なっていても、同じタイミングに聴取すべき音は概ね同じタイミングに聴取者2000に到達する。
また、サウンドビームLL、サウンドビームRLは、スピーカアレイ部20におけるスピーカユニット間の幅に応じて決められたカットオフ周波数Fc以上の高周波数帯域の成分が減衰されている。したがって、コストを低減するためにスピーカユニットの数を減らしてスピーカユニット間の幅が広くなってしまっても、グレーティングローブが発生しにくいため、オーディオ信号L、Rの成分がスピーカ装置1から直接到達してしまうことを抑制するため、音像の定位感を保つことができる。
【0039】
スピーカユニット2−L、2−Rからは、それぞれ、オーディオ信号LH、RHを示す音LH、RHが出力される。この音LH、RHは、スピーカアレイ部20によるサウンドビームほどには指向性は強くはないが、それぞれ、概ねスピーカユニット2−L、2−Rの正面方向DL、DRに向けて出力される。この方向DL、DRは、方向DAに対して60°(αL、αR)回転した方向であるため、音LH、RHは壁面を反射して聴取者2000に到達する。ディレイ部13において遅延処理が施されているため、音LHとサウンドビームLLとは概ね同時刻に聴取者2000に到達し、音RHとサウンドビームRLとは概ね同時刻に聴取者2000に到達する。これにより、聴取者2000は、サウンドビームLL、RLにおいて減衰された高周波数帯域の成分を音LH、RHとして聴取することができ、音質の劣化を抑えつつ、音像の定位感を損なわないようにしてサラウンド感を出すことができる。
ここで、スピーカ装置1の設置位置、聴取者2000の位置、部屋1000の形状など、条件によっては、αLとβLとは必ずしも一致しない場合がある。この場合であっても、音LHは、指向性がそれほど強くなく一定の範囲に広がって伝達されるため、聴取者2000にも伝達される。音RHについても同様である。
【0040】
<変形例>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は以下のように、さまざまな態様で実施可能である。
[変形例1]
上述した実施形態において、制御部3は、音LHとサウンドビームLLとが方向DAに対して異なる角度で出力される場合、すなわち、スピーカ2−Lの正面方向とサウンドビームLLが出力される方向とが異なる場合には、その異なる程度に応じて音LHの出力レベルとサウンドビームLLの出力レベルとの関係を変化させるように音響処理部10を制御してもよい。
【0041】
スピーカ2−Lの正面方向とサウンドビームLLが出力される方向とが異なるほど、聴取者2000の位置は、音LHの到達する範囲の中心から離れることになるから、聴取者2000が聴取できる音量も小さくなる。したがって、その分を補償するように音LHの出力レベルを大きくするようにすればよい。この場合には、制御部3は、例えば、アンプ部17−Lの増幅率が大きくなるように制御すればよいが、これに限らず、音LHが大きく出力されるのであれば、どの構成を制御してもよい。このとき、制御部3は、音LHを大きくする代わりに、または音LHを大きくするとともに、サウンドビームLLの出力レベルを低くしてもよい。なお、レベル調整部18−Lに設定される増幅率を制御してもよい。
変形例1の構成は、音LHとサウンドビームLLとの関係同様、音RHとサウンドビームRLとの関係にも適用される。
【0042】
なお、スピーカ2−Lの正面方向とサウンドビームLLが出力される方向とが大きく異なり、音LHの到達する範囲外に聴取者2000が位置した場合には、図3に示す構成においてローパスフィルタ部12−LLをオーディオ信号が通過しないようにバイパスさせ全帯域をサウンドビームとして出力させた上、スピーカ2−Lからの音LHの出力が停止されるようにしてもよい。
【0043】
[変形例2]
上述した実施形態において、制御部3は、サウンドビームLLが出力される方向と、サウンドビームCが出力される方向すなわち聴取者2000が位置する方向との関係に応じて、供給部12の各フィルタに設定されるカットオフ周波数Fcの値を決定するようにしてもよい。具体的には、制御部3は、サウンドビームLLが出力される方向と聴取者2000が位置する方向との角度が大きくなるほど、聴取者2000にグレーティングローブにより生じるサウンドビームが到達しやすくなるため、このグレーティングローブを抑えるために、カットオフ周波数Fcの値が低くなるように決定すればよい。また逆にサウンドビームLLが出力される方向と聴取者2000が位置する方向との角度が小さくなるほど、定位に影響がある帯域のグレーティングローブが聴取者に直接到達しにくくなるため、サウンドビームによる高指向性を最大限に利用できるように、カットオフ周波数Fcの値が高くなるように決定すればよい。ここでのカットオフ周波数Fcとは、ローパスフィルタ部12−LL、12−RLに設定されるカットオフ周波数Fc(第1の周波数)であり、ハイパスフィルタ部12−LH、12−RHに設定されるカットオフ周波数Fc(第2の周波数)は必ずしも、サウンドビームLLが出力される方向と、サウンドビームCが出力される方向との関係に応じて決められていなくてもよい。
変形例2の構成は、サウンドビームRLにも同様に適用される。したがって、供給部12の各フィルタに設定されるカットオフ周波数Fcが全て同じにならない場合もある。例えば、ハイパスフィルタ12−LHに設定されるカットオフ周波数Fcがハイパスフィルタ12−RHに設定されるカットオフ周波数Fcと異なっていてもよい。
【0044】
[変形例3]
上述した実施形態において、スピーカユニット2−Lの正面方向DLを回転移動させ、角度αLを変化させることができるスピーカ装置1Aとしてもよい。この場合には、スピーカ装置1Aは、図6に示す構成にすればよい。
【0045】
図6は、本発明の変形例3におけるスピーカ装置1Aの構成を説明する図である。図6に示すように、スピーカユニット2−Lには移動部25が接続されている。移動部25は、制御部3の制御により、スピーカユニット2−Lの正面方向DLを回転移動させる。制御部3は、サウンドビームLLが出力される方向に対応して移動部25を制御し、スピーカユニット2−Lの正面方向を、サウンドビームLLが出力される方向DL2に移動させる。すなわち、制御部3は、方向DL2と方向DAとのなす角が角度βLとなるように、移動部25を制御する。
このようにすれば、スピーカ装置1Aは、サウンドビームLLの出力方向と音LHの出力方向とを一致させることもできる。
変形例3の構成は、スピーカユニット2−Rにも同様に適用される。
【0046】
[変形例4]
上述した実施形態においては、スピーカユニット2−L、2−Rは、スピーカアレイ部20の両側に配置されていたが、この位置以外に配置されていてもよい。スピーカユニット2−L、2−Rは、例えば、スピーカアレイ部20の上部や下部に配置されていてもよい。そして、スピーカユニット2−L、2−Rの正面方向は、スピーカアレイ部20を構成するスピーカユニットの正面方向とは異なる方向になっていればよい。さらに、スピーカユニット2−L、2−Rの正面方向は、スピーカアレイ部20から出力されるサウンドビームの出力方向の制御可能範囲に含まれる方向であることが望ましい。
また、スピーカユニット2−L、2−Rは、いずれか一方が存在しなくてもよい。
【0047】
[変形例5]
上述した実施形態においては、スピーカアレイ部20を構成する複数のスピーカユニットは、1列に並んでいたが、2列以上に並んでいてもよい。
【0048】
[変形例6]
上述した実施形態における制御プログラムは、磁気記録媒体(磁気テープ、磁気ディスクなど)、光記録媒体(光ディスクなど)、光磁気記録媒体、半導体メモリなどのコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶した状態で提供し得る。また、スピーカ装置1は、制御プログラムをネットワーク経由でダウンロードしてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1,1RN,1RW…スピーカ装置、2−1,2−2,・・・,2−8,2−L,2−R…スピーカユニット、20…スピーカアレイ部、3…制御部、4…記憶部、5…操作部、6…インターフェイス、11,11−C,11−L,11−R…イコライザ部、12…供給部、12−C,12−LH,12−RH…ハイパスフィルタ、12−LL,12−RL…ローパスフィルタ、13,13−C,13−LH,13−LL,13−RH,13−RL…ディレイ部、14−C,14−LL,14−RL…指向性制御部、15−1,15−2,・・・15−8,15−L,15−R…加算部、16−1,16−2,・・・16−8,16−L,16−R…デジタルアナログ変化部、17−1,17−2,・・・17−8,17−L,17−R…アンプ部、18−L,18−R…レベル調整部、25…移動部、100…第1出力部、200…第2出力部、1000…部屋、2000…聴取者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスピーカユニットが並んで配置された第1スピーカユニット群を有し、供給されるオーディオ信号を、特定の方向に指向する音として当該第1スピーカユニット群から出力する第1出力手段と、
前記第1スピーカユニット群の正面方向とは異なる方向が正面方向となるように配置された第2スピーカユニットを有し、供給されるオーディオ信号を音として当該第2スピーカユニットから出力する第2出力手段と、
入力されるオーディオ信号を、第1の周波数より高い周波数帯域を減衰させた低周波数帯域のオーディオ信号と、第2の周波数より低い周波数帯域を減衰させた高周波数帯域のオーディオ信号とに分離して、当該低周波数帯域のオーディオ信号を前記第1出力手段に供給し、当該高周波数帯域のオーディオ信号を前記第2出力手段に供給する供給手段と
を具備することを特徴とするスピーカ装置。
【請求項2】
前記供給手段は、前記第2出力手段に出力する高周波数帯域のオーディオ信号に、前記低周波数帯域のオーディオ信号を、予め決められた割合で混合する
ことを特徴とする請求項1に記載のスピーカ装置。
【請求項3】
前記第1出力手段から出力される音の出力レベルと前記第2出力手段から出力される音の出力レベルとの関係は、前記第1出力手段から出力される音が指向する方向と前記第2スピーカユニットの正面方向との関係に応じて変化する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のスピーカ装置。
【請求項4】
前記供給手段は、前記第1出力手段から出力される音が指向する方向と当該音を到達させる位置との関係に応じて、前記第1の周波数を決定する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のスピーカ装置。
【請求項5】
前記第1出力手段によって出力される音が指向する前記特定の方向を設定する設定手段と、
前記第2スピーカユニットの正面方向を、前記設定手段によって設定された特定の方向に対応した方向に移動させる移動手段をさらに具備する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のスピーカ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−217042(P2011−217042A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82004(P2010−82004)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】