説明

スペクトルで群化されたナノ−サイズのスイッチを有するRF電力増幅器

本発明は、
− 複数のナノ−サイズの結合要素(2;41;51)を備える結合配列(1)であって、
結合要素(2;41;51)が、Nの数の副配列(SA...SA)に群化され、各副配列(SA...SA)が、各副配列(SA...SA)の結合要素(2;41;51)の機械的自励振動の、
・特定の共振周波数(f...f)、および
・特定の減衰
を表し、
各副配列(SA...SA)の結合要素(2;41;51)に対して、機械的自励振動を刺激するための刺激手段が存在する、結合配列(1)と、
− 増幅されるRF信号のスペクトル成分、すなわち前記特定の共振周波数に相当する周波数(f...f)における振幅(c...c)および位相(Φ...Φ)、の評価に基づいて、信号処理ユニット(22)によって計算されたパルスの形状およびタイミングを有する刺激パルスによって、刺激手段を制御するための信号処理ユニット(22)と
を備える無線周波数(=RF)電力増幅器(20)を説明する。本発明のRF電力増幅器は、とりわけ高いRF周波数において、高い効率および高い線形性を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線周波数(=RF)電力増幅器に関する。デルタ・シグマ変調器(delta sigma modulator)に基づくスイッチング・モード(switched mode)RF電力増幅器は、例えば、M.Iwamotoら、Electronics Letters、2000年6月8日、Vol.36、No.12、1010〜1012頁によって知られている。
【背景技術】
【0002】
第3世代(「3G」)以降の無線通信システムは、高いピーク対平均比(peak to average ratio)を特色として備えるRF(無線周波数)出力信号を生み出す変調フォーマットを使用する。そのような信号の増幅は、送信器ライン・アップに対して、特に、圧倒的に最大の割合のエネルギーが消費される、RF電力増幅器の最終段に対して、電力の効率および直線性に高い要求を課す。
【0003】
いわゆるスイッチング増幅器(switched amplifier)は、高い線形性と同時に、100%の理論電力効率を有する。スイッチング増幅器は、例えばM.Iwamoto、上記参照、から知られる。M.Iwamotoは、帯域通過デルタ−シグマ変調器(BPDSM)が、1ビットA/D(アナログからディジタルへの)変換を行い、トランジスタ・ベースのスイッチング増幅器に供給される高速パルス列(fast pulse sequence)を生成する、S級増幅器を開示する。スイッチング増幅器の出力信号は、再構成を目的とする帯域通過フィルタに供給される。
【0004】
しかし、スイッチング増幅器の概念の物理的実現は、例えば、トランジスタ・ベースのスイッチング・デバイスおよび再構成フィルタの寄生成分(the parasitics)によって引き起こされる損失および信号歪みを伴う。スイッチング電界効果トランジスタにおける寄生ゲート静電容量および非ゼロのオン抵抗、コンポーネント間のデバイスの不整合、およびフィルタ損失が、例として挙げられる。
【0005】
加えて、デルタ−シグマ変調器を使用する場合、制限された符号化効率(coding efficiency)に起因して、効率が低減されることが多い。とりわけBPDSMベースのS級増幅器の場合に、再構成フィルタに対して、困難なストップ・バンド(stop band)における終端要求(termination requirement)、およびさらには伝送帯域における低挿入損失が、良好なS級性能を達成するために保証される必要がある。
【0006】
トランジスタ・ベースのスイッチング・デバイスをナノ−スイッチ配列に置き換え、それにより、元々、アナログ信号の増幅用のデバイスとして設計されてきたトランジスタの、アナログ的性質によって引き起こされる不利点を回避することが、提案されてきた。そのような配列のナノ−スイッチは、帯域通過デルタ−シグマ変調器の高速パルス列と全く同様にスイッチングされる。しかし、再構成フィルタは、なお必要であり、歪みおよび損失を結果としてもたらし、符号化効率は、依然としてBPDSMによって制限される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M.Iwamotoら、Electronics Letters、2000年6月8日、Vol.36、No.12、1010〜1012頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、とりわけ高いRF周波数において、高い効率および高い線形性をもたらすRF電力増幅器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、本発明によって、
− 複数のナノ−サイズ結合要素(coupling element)を備える結合配列(coupling array)であって、
結合要素が、Nの数の副配列(sub-array)に群化され、各副配列が、その結合要素の機械的自励振動(self-oscillation)の
・特定の共振周波数(resonance frequency)、および
・特定の減衰
を表し、
各副配列の結合要素に対して、機械的自励振動を刺激するための刺激手段が存在する、結合配列と、
− 増幅されるRF信号のスペクトル成分、すなわち前記特定の共振周波数に相当する周波数における振幅および位相、の評価に基づいて、信号処理ユニットによって計算されたパルスの形状およびタイミングを有する刺激パルスによって、刺激手段を制御するための信号処理ユニットと
を備える無線周波数(=RF)電力増幅器によって達成される。
【0010】
本発明の基本的な考え方として、RF出力信号は、ナノ−サイズの結合要素によって生成されたその周波数成分を構成することによって生成され、結合要素は、それらの共振周波数それぞれにおける機械的振動子(oscillator)として働く。励振されると、各結合要素は、その共振周波数で振動し、振動中のその結合の変化によって、対応する周波数成分が、外部から印加される電源電圧(電力を供給する)を変調することによって生成されうる。このことが、固有の周波数アップ・コンバージョンをもたらす。
【0011】
本発明の結合配列におけるナノ−サイズの結合要素の自己共振(self-resonance)の利用が、高い効率のRF増幅器を実現するための、全く異なる革新的な(disruptive)手法を可能にする。出力信号は、ナノ−サイズの結合要素(「スイッチ」)の、制御下で起動された(controlled triggered)自励振動によって生成されるスペクトル信号成分の組合せによって生成される。これらの結合要素は、複数の副配列に群化され、それらの結合要素の特定の物理的パラメータ(幾何学的寸法、材料、懸架器(suspension))によって特徴付けられ、物理的パラメータは、明確に定義された周波数および減衰において、自己共振を定義する。同じ副配列のすべての結合要素は、製作公差(manufacturing tolerance)の限界内で、同じ共振周波数および同じ減衰を有する。この概念は、とりわけ、ディジタル/アナログ変換器(帯域通過デルタ−シグマ変調器など)およびアップ・コンバージョン・モジュールを省略することによって、現在利用可能な送信器構造を圧倒することを可能にする。
【0012】
本発明は、スイッチング増幅器の利点、すなわち高効率、ディジタル制御、広帯域動作、および細分化された周波数帯域(fragmented frequency band)の効率的な並列動作を、アナログ増幅器の利点、すなわち非理想性(nonideality)および整合損失(matching loss)を伴う再構成フィルタの簡素化、さらには回避と組み合わせる。本発明によって、外部の再構成フィルタが、それに関連する、スイッチング電力増幅器内の整合回路と共に、簡素化されてよく、さらには回避されてよい。S級スイッチング増幅器とは違って、本発明のデバイスは、シグマ・デルタ変調または類似の変調を伴わない。本発明のデバイスは、100%の符号化効率を特色として備える。このことによって、本発明のデバイスは、線形性を維持しながら改良される、送信器ライン・アップのエネルギー効率に貢献する。加えて、副配列の数を増すことによって、支援される信号帯域幅は大きくなることができ、とりわけディジタル/アナログ変換器によって制限されない。
【0013】
一般に、各結合要素は、第1の可動部分と、対向する第2の部分とを備え、第2の部分に相対的に第1の可動部分が機械的に発振する(振動する)ことができる。第2の対向部分もまた可動であってよいことに留意されたい。2つの部分の間隔または重なりは、結合要素の結合の程度を確定し、その程度は、結合要素の機械的自励振動の間に変化する。典型的には、結合要素の非振動状態(休止状態(home state))において、結合は弱い(好ましくはほぼゼロである)。好ましくは、結合要素は、結合要素の前記2つの部分が、それらの結合がその最大値にある緊密な結合状態においてさえ、空間的離隔を保持し、それゆえ摩耗を低減するように設計される。結合は、典型的には、電子放射またはトンネル効果(tunnelling effect)に基づいており、このことが、結合要素の部分の間隔または重なりに対する、結合の連続的依存性(continuous dependency)をもたらす。
【0014】
本発明による単一の結合要素は、典型的には、1μm以下の最大寸法を有する。結合要素の可動部分は、典型的には、800nm以下の最大寸法を有する。また、結合要素の寸法は、結合要素またはその可動部分が作られる材料に関連して選択される。一般には、高出力のRF出力信号を生成することを可能にするために、一副配列当たり数百または数千もの結合要素が存在することに留意されたい。
【0015】
典型的には、各結合要素は、圧電性被覆(piezo-electric coating)など、個別の刺激手段を有するが、(例えば、刺激手段が、結合要素の共通懸架器において働くときに)同じ副配列の複数の結合要素に対して共通の刺激手段を有することも可能である。
【0016】
本発明のRF電力増幅器は、例えば、モバイル通信ネットワーク、とりわけモバイル電話通信(telephony)ネットワークの基地局(base station)内で、送信器配置の一部として使用されてよい。本発明は、BTSおよびユーザ端末装置、防衛システム、家庭用電化製品、ならびにソフトウェア・ラジオおよびコグニティブ・ラジオ用途(software-Defined-Radio and Cognitive Radio applications)における無線送信器のために、特に使用されてよい。
【0017】
本発明のRF電力増幅器の非常に好ましい一実施形態では、RF電力増幅器は、Nの数の刺激インパルス発生器(stimulating impulse generator)を備え、刺激インパルス発生器のそれぞれは、副配列の刺激手段を制御し、刺激インパルス発生器は、信号処理ユニットによって制御される。インパルス発生器は、信号処理ユニットの刺激パルスを増幅することができ、かつ/または信号処理ユニットの刺激パルスを、接続される副配列の刺激手段の必要性に適応させることができる。インパルス発生器は、例えば圧電ドライバ(piezo driver)として実現されてよい。
【0018】
他の好ましい一実施形態では、電力増幅器は、信号処理ユニットによって結合配列のRF出力信号を分析するためのフィードバック・ループを備える。フィードバック・ループによって、刺激パルスのタイミングおよび形状が、増幅される信号の真の(増幅された)再構成を得るように最適化されうる。
【0019】
非常に好ましい一実施形態では、刺激手段は、圧電素子、とりわけ結合要素または結合要素の一部の上の圧電性被覆、を備える。圧電素子によって、制御電圧パルスが、単純な手段によって機械的刺激に変換されうる。本発明による圧電性被覆は、第1のリード(reed)など、結合要素の第1の部分の平らな片面被覆であってよく、印加された電圧が、結合要素の第1の部分に、例えばその上面の被覆が圧電的に収縮させられる(電歪(electrostriction))場合は上方への、曲がりを引き起こす。機械的刺激の後、結合要素は、その共振周波数で自由に振動する(揺動する)。結合要素の第1の部分の、第2のリードなど、結合要素の対向する第2の部分との結合は、2つの部分の間隔によって左右され、自励振動の間に変化し、それゆえ、前記共振周波数の周波数成分を有する信号を生成することを可能にする。
【0020】
好ましい一実施形態は、結合要素が、平行して対向し、部分的に重なる2つのリードを備えることを提供する。リードは、その共振周波数が容易に計算できる、単純な振動子である。とりわけ、ナノ−サイズのリードは、費用効率の高いリソグラフィ・プロセス(lithographic process)によって生産されてよい。
【0021】
この実施形態の好ましい他の発展形態では、2つのリードは、緊密な結合状態においてさえも空間的離隔を保持するように設計される。このことが、摩耗を低減させる。他の種類の結合要素に対しても、非接触の緊密な結合を有することが好ましいことに留意されたい。
【0022】
別の実施形態では、結合要素は、結合面に対向して配列された膜を備え、機械的自励振動の間に、膜と結合面との間の間隔が変化する。膜と結合面とは、電子の放射面および受信面(またはその反対)として働くことができる。膜によって、より大きな重なり面積が実現可能であり、より高い信号出力の生成が可能になる。膜材料は、所望の共振周波数に対して適切に選択される必要があることに留意されたい。
【0023】
さらに、一実施形態では、結合要素は、
− 第1の結合面がねじれ部(torsion unit)の周囲の一部だけを覆うねじれ部と、
− ねじれ部を少なくとも部分的に収容する覆い(jacket)と
を備え、覆いは、覆いの内周の一部だけを覆う第2の結合面を備える。結合面は、それぞれ、電子の放射面または受信面として働く。ねじれ部の休止状態において、結合は、通常、弱い。ねじれ部は、その一端によって、覆いに対して回転方向に揺動することができ、他端は固定されたままである。ねじれ部および覆いによって、低結合状態(例えば、休止状態)と高結合状態との間の結合の程度は、特に強力に変化されうる。
【0024】
本発明のRF電力増幅器の有利な一実施形態では、同じ副配列内の結合要素は、同じ物理的な寸法と特性とを有し、それゆえ、同じ機械的共振周波数を特色として備える。各副配列内の同等に設計された結合要素を選択することによって、設計は非常に簡単であってよく、鋭い共振が実現されうる。また、結合要素の同等の設計が、同じ機械的自励振動の減衰をもたらすことに留意されたい。
【0025】
また、本発明の範囲内には、遠隔通信システム内、とりわけモバイル通信ネットワークの基地局内で、本発明のRF電力増幅器を使用することが存在する。本発明のRF電力増幅器は、とりわけ、モバイル電話通信において使用されてよい。
【0026】
さらに、細分化されたトランシーバ構成(fragmented transceiver architecture)において、本発明のRF電力増幅器を使用することが有利である。前記細分化されたトランシーバ構成は、とりわけ、遠隔通信システム用途において使用されてよい。細分化されたトランシーバ構成において、いくつかのRF電力増幅器が並列に使用され、各RF電力増幅器は、それ自体の周波数間隔を取り扱う。副配列は、すでに、特定の周波数に対して特化されているので、本発明の電力増幅器が異なる周波数帯域だけを対象として協働することは、非常に簡素であり、効率的である。
【0027】
本発明の範囲内には、また、
− 増幅されるRF信号のスペクトル成分、すなわち異なる周波数における振幅および位相を分析するステップと、
− 複数のナノ−サイズの結合要素を備える結合配列に電源電圧、とりわけ直流電源電圧を印加するステップであって、
結合要素が、Nの数の副配列に群化され、各副配列が、各副配列の結合要素の機械的自励振動の、
・増幅されるRF信号の周波数成分に相当する特定の共振周波数、および
・特定の減衰
を表す、ステップと、
− 増幅されるRF信号のスペクトル成分に応じて、副配列の結合要素の機械的自励振動を刺激するステップと
を有する、RF信号を増幅するための方法が存在する。結合配列は、本発明による上で説明された種類であってよい。本発明の方法によって、RF信号の増幅が、高い効率および高い線形性で行われうる。方法は、増幅されるRF信号の周波数成分を生成するために、ナノ−サイズの結合要素の自己共振を利用する。
【0028】
本発明の方法の好ましい変形形態では、機械的自励振動は、同様に、結合配列のRF出力信号に応じて刺激される。それゆえ、(増幅される)RF信号の再構成において、より良好な正確さが達成されうる。
【0029】
増幅利得が、刺激される、各副配列の結合要素の小部分(fraction)によって調節される変形形態が、さらに好ましい。この変形形態によって、本発明の増幅方法の増幅利得は、設定が単純である。さらに、増幅利得の前記設定は、非常に線形であり、効率的である。典型的には、増幅されるRF入力信号の出力は一定である。この変形形態に対して、同じ副配列の各結合要素または少なくとも結合要素の群は、個別に制御可能な刺激手段を装備されることに留意されたい。
【0030】
他の利点が、説明および添付の図面から引き出されうる。上記および下記の特徴は、個々に、または任意の組合せにおいて集合的に、本発明によって使用されてよい。記述される実施形態は、包括的な列挙として理解されるものではなく、本発明の説明のための例示的性質を有するものである。
【0031】
本発明が、図面の中に示される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1a】スイッチング・リードに基づく結合要素を有する本発明のRF電力増幅器の結合配列を概略的に示す図である。
【図1b】休止状態にある図1aの結合要素を示す図である。
【図1c】増加された結合の歪んだ状態における図1aの結合要素を示す図である。
【図2】送信器配置内に一体化された、図1aに示される結合配列に匹敵する結合配列に基づく、本発明のRF電力増幅器の一実施形態を概略的に示す図である。
【図3】圧電性被覆を有する、図1aの実施形態のスイッチング・リードを概略的に示す図である。
【図4】膜に基づく、本発明のRF電力増幅器のための結合要素を概略的に示す図である。
【図5】ねじれ要素および覆いに基づく、本発明のRF電力増幅器のための結合要素を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1aは、本発明のRF電力増幅器のための結合配列1を、概略的斜視図で示す。
【0034】
結合配列1は、複数のナノ−サイズの結合要素2を備え、ここにおいて、結合要素2のそれぞれは、第1のスイッチング・リード3aおよび第2のスイッチング・リード3bが、互いに離れて向かい合って配列されながら、それらの自由端の領域においていくぶん重なっている(より詳細には図1b、図1cを参照のこと)。もう一方のリード3a、3bから離れて面するリード3a、3bの端部がそれぞれ懸架器4a、4bに固定され、ここにおいて、結合配列1の片側の全リード3a、3bに対してそれぞれ共通の懸架器4a、4bが使用される。リード3a、3bは、それらの自由端が、それらの最短寸法に対して垂直に、すなわち図1aにおいて上下に、振動することができる。
【0035】
結合要素2は、副配列SA〜SAに群化される。図1aの概略図では、各副配列SA〜SAが3つの結合要素2を有する4つの副配列SA〜SAとして、簡素化のために示されるが、実際の実施においては、ずっと多くの(通常は一千以上の)副配列およびずっと多くの(通常は数千の)一副配列当たりの結合要素が存在する。副配列の数N、および一副配列当たりの結合要素2の数は、必要な帯域幅、必要な周波数分解能、必要な信号出力電力、および結合接点の電気的特性によって決まる。
【0036】
各副配列SA〜SA内で、結合要素2は、(製作公差の限界の中で)同じ物理的な寸法および特性を有し、それゆえ同じ共振周波数f〜fおよび同じ減衰を表す。示された例では、リード3a、3bの長さは、第1の(前の)副配列SAから最後の(後の)副配列SAにかけて増加し、結合配列1にハープ状の設計を与える。
【0037】
結合要素(「スイッチ」)の各副配列(または群)は、
【0038】
【数1】

(E=ヤング率、ρ=比質量、d=リードの厚さ、L=リードの長さ、ω=2πf)で与えられる固有共振周波数を表すので、その周波数成分ω、n=1...Nから所期の(wanted)RF出力信号を構成するために、複数のNの副配列(図1aには、それらのうちの4つだけ、すなわちSA〜SAが示される)が存在し、ここで、Nは、増幅されるRF入力信号の中の、離散的周波数成分のビン(bin)の数である。この方法では、構造の自励振動周波数が、RF搬送波において中心に置かれるので、周波数のアップ・コンバージョンが、本来的に実行されることに留意されたい。
【0039】
結合要素2は、極めて短い(ultra-short)電気パルスによって起動されて自励振動に至ることができ、その自励振動は、接触リード(contact reed)の適切な圧電活性被覆(piezo-active coating)(図3参照)によって可能にされる圧電変換を介して、機械的刺激インパルスに変換される。
【0040】
結合要素2のリード3a、3b(図1の楕円の印と比較)の振動が、図1bおよび図1cに示される。
【0041】
図1bでは、リード3a、3bの休止状態(歪まない状態)が示される。図示の例では、左のリード3aが、定電圧電源(図示せず)の負極に接続され、右のリード3bが、定電圧電源の正極に接続される。歪まない状態では、リード3a、3bは、比較的大きな隙間G1によって離隔され、したがって、リード3aと3bとの間の電界強度は、比較的低い。その結果、リード3aからリード3bへのほんのわずかの(実質的に無視できる)電子放射電流が、存在する。図1bでは、対向する(隣接する)リードへの著しい電子のトンネル現象(electron tunneling)が、所与の電圧で発生する可能性のある、リード3a周りの領域5aも、同様に示される。リード3bは領域5aの外にあるので、リード3aからリード3bへの著しいトンネル現象の電流は、やはり存在しない。要するに、図1bの歪まない状態では、ほんのわずかの、実質的にゼロの、リード3aと3bとの結合が存在する。
【0042】
図1cは、歪んだ状態にあるリード3a、3bを示し、リード3a、3bは、互いにそれらの自由端で接近しており(リード3aの自由端が下方に曲がり、リード3bの自由端が上方に曲がる)、この接近した状態は、リードのそれぞれの自励振動の間に到達する(ここにおけるリード3a、3bは、同じ周波数で、180°に固定された位相シフトで振動することに留意されたい)。残る隙間G2は、G1に比べて比較的小さく、通常、ほんの数ナノメートル程度である。比較的小さい隙間G2によって、リード3aと3bとの間の電界強度は、増加した。その結果、図1bの歪まない状態に比べて、増加した、リード3aからリード3bへの電子放射電流が存在する。電子放射電流を増加させるために、リード3aおよび/または3bは、低いかまたは負の電子親和力の材料(例えば、ダイアモンド)で作られるかまたは被覆されてよい。さらに、著しい電子のトンネル現象が、リード3aから対向するリードに対して発生する可能性のある、リード3a周りの領域5bが、リード3bに向かって下方に曲げられており、それにより、リード3bの自由端が、今や、領域5bの中にあり、それゆえ、著しいトンネル現象の電流が、リード3aからリード3bまで流れる。要するに、図1cの歪んだ状態では、リード3aと3bとの間に良好な結合が存在し、それゆえ、2つのリード3aと3bとの間に、供給電圧および対応する電流(power current)のそれぞれに対する良好な導電性が存在する。
【0043】
図2は、本発明のRF電力増幅器20の電気的配置(electrical setup)の例示的一実施形態を示す。
【0044】
RF電力増幅器20は、増幅されるRF入力信号のスペクトル成分(すなわち、周波数f...f、振幅c...cおよび位相Φ...Φ)についての情報21を受信する信号処理ユニット22を備える(本発明によって、信号処理ユニット内に一体化された分析ユニットを有することも可能であり、分析ユニットは、信号処理ユニットに直接供給される、増幅されるRF入力信号のスペクトル成分を同定することに留意されたい)。この情報21によって、信号処理ユニット22は、刺激パルスに対するパルス形状およびタイミングを計算する。図示の例では、この情報が、刺激インパルス発生器IG...IGに送出され、1つの刺激インパルス発生器IG...IGは、結合配列1の各副配列SA...SAに対応する。刺激インパルス発生器IGは、それぞれ、信号処理ユニット22からのパルス形状およびタイミングの情報に基づいて、それらの個別の副配列SAに対する刺激パルスを生成する。刺激パルスの振幅がスペクトル成分の出力を確定し、タイミングがスペクトル成分の位相を確定する。パルス形状およびタイミングの計算は、ベースバンド・レベル(baseband level)のスペクトル入力情報、RF出力信号の帰還された試料(fed back sample)(帰還ループ23参照)、および基準クロック24に基づく。副配列SA...SA内の結合要素の共振周波数f...fは固定され、RF入力信号の分析されたスペクトル成分の周波数に対応する。図示の例では、RF出力信号が、アンテナ・ネットワーク25に供給される。
【0045】
ここでは直流(dc)電源電圧である、電源入力26に印加される電源電圧(電力)は、結合配列1を通して導かれ、結合配列1内に組み込まれた結合要素の副配列SA−SA内の結合に応じた抵抗に面する。副配列SA−SAは、電気的に並列に接続される。
【0046】
一例として、本発明のRF電力増幅器20は、1MHzと50MHzとの間の分解された周波数間隔に対して、1kHzと50kHzとの間の均等段階の周波数分解能を充当することができる。増幅されるRF入力信号の中心周波数は、典型的には、500MHzと10GHzとの間である。例えば、50kHzの周波数分解能および50MHzの幅に対して、結合配列1は、約1000の副配列を備え、すなわちN=1000である。
【0047】
図3は、例として、図1aに示されるようなリード3aの層構造(被覆構造)を、概略的斜視図で示す。結合接点31(図1aの懸架器4aの一部であってよい)の上に、リード3aが一端(左端)において装着され、他端(右端)は、結合接点31から離れて自由に延びる。
【0048】
ここにおいて、リード3aの基本構造(base structure)は、電子放射を支援する層(または被覆)35(「放射層」)および圧電活性の層(または被覆)32である。放射層35は、放射層35を電圧源(図示せず)に電気的に接続するために結合接点31に直接取り付けられ、かつ他のリードに面する(例えばリード3b、図1bと比較)。放射層35および圧電活性層32は、酸化物層など、絶縁層34aで離隔される。圧電活性層32の頂部上に、別の絶縁層34bおよび金属被覆(metalization)37が存在する。
【0049】
圧電活性層32は、その左端(露出端)において第1の圧電接点(piezo contact)33aを介して電気的に接触可能であり、その右端(被覆端)において、上部絶縁層34bを貫通して達する第2の(窓)接点33bを介して、電気的に接触可能である。第2の(窓)接点33bは、金属被覆37を介して結合接点31の領域内の金属被覆接点36に電気的に接続され、それにより、外部圧電電圧源に直接接続される領域、すなわち第1の接点33aおよび金属被覆接点36は、良好に連絡可能であり、リード振動中の歪みに曝されない。
【0050】
圧電性被覆32の両端に電圧を印加することによって、圧電性被覆32は、例えば収縮されてよく、一方、放射層35はその元の長さのままであり、その結果、リード3aは、その自由な右端において上方に曲げられる。電圧の印加が終了した後、リード3aは、その共振周波数で振動し、共振周波数で変化する結合を生じる。リード3aは、とりわけ、付加層上の被覆として放射層および圧電活性層の両層を堆積させるため、および/またはリード3aの機械的特性(支配的比質量による共振周波数など)をより良好に調節するために、付加層を備えてよいことに留意されたい。圧電多層構造が、単一の圧電活性層32の代わりに採用されてよいことにも留意されたい。本発明による結合要素、ここではリード3a、の共振周波数は、典型的にはGHzの領域にあることに留意されたい。
【0051】
図4は、単純な膜ベースの結合要素41を示す。結合要素41は、堅い結合面43に対向して配列された膜42を備える(あるいは、結合面43は、別の可動膜上に実現されてよいことに留意されたい)。膜42は、その共振点(resonance)において、結合面43に対して、例えば矢で示されるやり方で振動することができる。その結果、結合要素41を通って流れる電流(電気的接点44a、44b参照)は、膜42の共振周波数に相当する周波数で振動する。自励振動を起動するために、膜42は、圧電性被覆(図示せず)を有する。
【0052】
図5は、ねじれ部52および覆い53に基づく、他の結合要素51を示す。固定台54上に、(ここでは棒状の形状の)ねじれ部52、およびねじれ部52を取り巻く覆い53が、それらの下端で固定される。ねじれ部52が、より具体的にはねじれ部52の上端が、歪みに際してその垂直軸周りに捻転され(弾性的に回転され)てよく(矢55参照)、ねじれ部52は、その共振周波数におけるねじり振動を表す。ねじり振動は、2部のねじり推進(impulsion)(駆動)56a、56bによって起動されてよい。
【0053】
ねじれ部52の外面上に、ねじれ部の周囲の約三分の一を覆う、第1の結合面57が存在する。さらに、覆い53の内面上に、内面の周囲の約十分の一を覆う、第2の結合面58が存在する。第1の結合面57および第2の結合面58は、ここでは、ほぼ同じ面積の大きさを有する。結合面57、58は、電力源およびRF信号出力(接点44a、44b参照)に接続される。振動中、2つの結合面57、58は、それらの重なり(および間隔)を変化させ、それゆえ、結合は、ねじれ振動の共振周波数で変化する。
【0054】
提案される本発明は、従来技術のRF電力増幅器構造と比較して、高い効率および高い線形性の電力増幅器を実現し、さらに、D/A変換器およびアップ・コンバージョン・モジュールをもはや必要としない。そのうえ、再構成フィルタは、本発明のRF電力増幅器によって、必要とされない。単に副配列の数を増やすだけで、大きな信号帯域幅が、より容易に支援されうる。加えて、細分化されたトランシーバ構造(細分化された周波数帯域の並列動作)が、効率を低下させることなく実現可能となり、このことは、従来の、例えばAB級動作に基づく、広帯域増幅器において真実である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のナノ−サイズの結合要素(2;41;51)を備える結合配列(1)であって、
前記結合要素(2;41;51)が、Nの数の副配列(SA...SA)に群化され、各副配列(SA...SA)が、その結合要素(2;41;51)の機械的自励振動(self-oscillation)の
特定の共振周波数(f...f)、および
特定の減衰
を表し、
各副配列(SA...SA)の前記結合要素(2;41;51)に対して、機械的自励振動を刺激するための刺激手段が存在する、結合配列(1)と、
増幅されるRF信号のスペクトル成分、すなわち前記特定の共振周波数に相当する前記周波数(f...f)における振幅(c...c)および位相(Φ...Φ)、の評価に基づいて、信号処理ユニット(22)によって計算されたパルスの形状およびタイミングを有する刺激パルスによって、前記刺激手段を制御するための信号処理ユニット(22)と
を備える無線周波数(=RF)電力増幅器(20)。
【請求項2】
Nの数の刺激インパルス発生器(IG...IG)を備え、各刺激インパルス発生器(IG...IG)が、一副配列(SA...SA)の前記刺激手段を制御し、前記刺激インパルス発生器(IG...IG)が、前記信号処理ユニット(22)によって制御される、請求項1に記載のRF電力増幅器(20)。
【請求項3】
前記信号処理ユニット(22)によって前記結合配列(1)のRF出力信号を分析するための帰還ループ(23)を備える、請求項1に記載のRF電力増幅器(20)。
【請求項4】
前記刺激手段が、圧電素子、とりわけ圧電性被覆(32)を結合要素(2;41;51)の上、または結合要素(2;41;51)の一部の上に備えることを特徴とする、請求項1に記載のRF電力増幅器(20)。
【請求項5】
結合要素(2)が、2つの平行な、対向する、かつ部分的に重なるリード(3a、3b)を備えることを特徴とする、請求項1に記載のRF電力増幅器(20)。
【請求項6】
前記2つのリード(3a、3b)が、緊密な結合状態においてさえ、空間的離隔を保持するように設計されることを特徴とする、請求項5に記載のRF電力増幅器(20)。
【請求項7】
結合要素(41)が、結合面(43)に対向して配列された膜(42)を備え、機械的自励振動の間、前記膜(42)と前記結合面(43)との間の間隔が変化することを特徴とする、請求項1に記載のRF電力増幅器(20)。
【請求項8】
結合要素(51)が、
第1の結合面(57)がねじれ部の周囲の一部だけを覆うねじれ部(52)と、
前記ねじれ部(52)を少なくとも部分的に収容する覆い(53)とを備え、
前記覆い(53)が、前記覆いの内周の一部だけを覆う、第2の結合面(58)を備えることを特徴とする、請求項1に記載のRF電力増幅器(20)。
【請求項9】
同じ前記副配列(SA...SA)内の前記結合要素(2;41;51)が、同じ物理的な寸法および特性を有し、それゆえ同じ前記機械的共振周波数(f...f)を特色として備えることを特徴とする、請求項1に記載のRF電力増幅器(20)。
【請求項10】
遠隔通信システムにおける、とりわけモバイル通信ネットワークの基地局における、請求項1に記載のRF電力増幅器(20)の使用。
【請求項11】
細分化されたトランシーバ構造における、請求項1に記載のRF電力増幅器(20)の使用。
【請求項12】
増幅されるRF信号のスペクトル成分、すなわち異なる周波数(f...f)における振幅(c...c)および位相(Φ...Φ)を分析するステップと、
複数のナノ−サイズの結合要素(2;41;51)を備える結合配列(1)に電源電圧、とりわけ直流電源電圧を印加するステップであって、
前記結合要素(2;41;51)が、Nの数の副配列(SA...SA)に群化され、各副配列(SA...SA)が、各副配列(SA...SA)の結合要素(2;41;51)の機械的自励振動の、
増幅される前記RF信号の周波数成分(f...f)に相当する特定の共振周波数(f...f)、および
特定の減衰
を表す、ステップと、
増幅される前記RF信号の前記スペクトル成分に応じて、前記副配列(SA...SA)の前記結合要素(2;41;51)の機械的自励振動を刺激するステップと
を有する、RF信号を増幅するための方法。
【請求項13】
前記機械的自励振動が、同様に、前記結合配列(1)のRF出力信号に応じて刺激される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
増幅利得が、刺激される各副配列(SA...SA)の結合要素(2;41;51)の一部によって調整されることを特徴とする、請求項12または13に記載の方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−507866(P2013−507866A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533567(P2012−533567)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【国際出願番号】PCT/EP2010/064717
【国際公開番号】WO2011/045193
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(391030332)アルカテル−ルーセント (1,149)
【Fターム(参考)】