説明

スポット溶接の検査方法及び検査装置

【課題】ワークに対する超音波の入射角やワーク温度の変化による影響を受けることなく、溶融部の大きさを正確に推定する。
【解決手段】予め、溶融部の大きさVと凝固時間Tに関する相関データを作成しておく。まず、センサ2からワークに横波の超音波を入射し、溶融部からの反射波をセンサ2で検出する。次いで、反射波を検出する場合、ワークWへの溶接電流の通電を停止する第1の時刻tを検出し、溶融部からの反射波の強度が所定値まで低下する第2の時刻tを検出する。透過波を検出する場合、ワークWの下側の電極チップ1に、溶融部からの透過波を受信するセンサを設け、第2の時刻tとして溶融部からの透過波の強度が所定値まで増加するときを用いる。そして、第1及び第2の時刻t,tの差を溶融部の凝固時間Tとし、その凝固時間Tを相関データと照合して溶融部の大きさを推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接中のワークに横波の超音波を入射して溶融部の大きさを推定する検査方法及び検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の検査方法として反射法と透過法が知られている。
【0003】
反射法は、予め、反射波の強度の最大値と溶融部の大きさに関する相関データを取っておき、溶融部からの反射波の強度をモニターしながら溶接を行なう。反射波の強度は、溶融部が成長するのにともなって増加し、溶融部が凝固するのにともなって減少するので、反射波強度の最大値を相関データと対応させて溶融部の大きさを求める。
【0004】
なお、反射波強度の最大値からではなく、超音波のワーク中の伝播時間から溶融部の大きさを求める方法も提案されている。この方法では、まず、超音波が溶融部で反射してセンサに戻って来るまでの時間を計測する。一方、溶接電流値や通電時間などからワークの温度を推定し、ワーク中の音速を求める。そして、音速と伝播時間の関係よりセンサから溶融部までの距離を求め、ワークの肉厚から溶融部の厚さを求める。
【0005】
透過法は、予め、透過波強度の最小値と溶融部の大きさに関する相関データを取っておく。そして、ワークを透過する超音波の強度をモニターしながら溶接を行なう。透過波の強度は、溶融部が成長するのにともなって減少し、溶融部が凝固するのにともなって増加するので、透過波強度の最小値を相関データと対応させて溶融部の大きさを求める。
【0006】
なお、透過波の減衰量から溶融部の大きさを求める方法も提案されている(特許文献1参照)。この方法は、超音波の透過率からワーク中の音速を求め、その値からワークの温度を求め、その値からワークの融点に達した時刻を求める。そして、融点到達時からの透過率の減衰量を求め、その値と対応する溶融部の大きさを相関データより求める。
【0007】
【特許文献1】特許第3644958号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、いずれの方法でも、電極チップの傾きによって、超音波がワークに垂直に入射しなくなると、反射波と透過波の強度が低下してしまい、溶融部容積の判定精度が悪くなる。また、超音波の伝播時間から溶融部の厚さを求める場合、ワークの温度や伝播時間の測定誤差が溶融部容積の判定精度に大きな影響を及ぼすという問題がある。
【0009】
なお、ワークが亜鉛メッキ鋼板の場合、亜鉛の融点は鉄の融点よりも低いため、鉄の溶融が始まった時には、亜鉛は既に溶融している。つまり、溶融したメッキ層で超音波が反射してしまうため、透過波も母材溶融部からの反射波も検出できなくなり、いずれの方法による検査も不可能になる。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑み、ワークに対する超音波の入射角やワーク温度の変化による影響を受けることなく、溶融部の大きさを正確に推定することができるスポット溶接の検査方法及び検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明のスポット溶接の検査方法として、溶融部の大きさの推定に、溶融部からの反射波を利用する第1検査方法および溶融部からの透過波を利用する第2検査方法がある。
【0012】
本発明のスポット溶接の第1検査方法は、スポット溶接中のワークに超音波を入射して溶融部の大きさを推定する方法であって、ワークに横波の超音波を入射して溶融部からの反射波を検出する工程と、ワークへの溶接電流の通電を停止する第1の時刻を検出する工程と、溶融部からの反射波の強度が所定値まで低下する第2の時刻を検出する工程と、第1の時刻と第2の時刻との差を溶融部の凝固時間とし、その凝固時間を、溶融部の大きさと凝固時間とに関する相関データと照合することにより溶融部の大きさを推定する工程とを備えたことを特徴としている。
【0013】
かかる構成によれば、溶融部の大きさが大きくなると、それに応じて反射波の強度が大きくなる。溶接電流の通電を停止した時には、溶融部の大きさが最大となる。溶接電流の通電を停止した後、溶融部の凝固が進行すると、それに応じて反射波の強度が小さくなる。溶融部の凝固が終了した時には、反射波の強度は所定値まで低下している。ワークに対し超音波が斜めに入射すると、溶融部からの反射波の強度が低下するが、溶融部の凝固に要する時間は変化しない。つまり、ワークへの溶接電流の通電を停止する第1の時刻と溶融部からの反射波の強度が所定値まで低下する第2の時刻とを検出し、第1の時刻と第2の時刻との差を溶融部の凝固時間とし、その凝固時間を相関データと照合して溶融部の大きさを推定することにより、ワークに対する超音波の入射角変化の影響を受けることなく、溶融部の大きさを正確に求めることができる。
【0014】
亜鉛メッキ鋼板を溶接する際には、超音波が溶融メッキ層で反射し、母材溶融部からの反射波を検出できなくなる。また、反射波の検出に用いるセンサの径が溶融部の最大径より小さい場合、溶融部におけるセンサ径を超える端部からの反射波を検出できなくなる。したがって、これらの場合、上記のようにワークへの溶接電流の通電を停止するときを第1の時刻として用いることが有効である。
【0015】
第1検査方法では、溶融部からの反射波の強度が最大になる時を第1の時刻として用いることができる。すなわち、本発明のスポット溶接の他の第1検査方法は、スポット溶接中のワークに超音波を入射して溶融部の大きさを推定する方法であって、ワークに横波の超音波を入射して溶融部からの反射波を検出する工程と、溶融部からの反射波の強度が最大になる第1の時刻を検出する工程と、溶融部からの反射波の強度が所定値まで低下する第2の時刻を検出する工程と、第1の時刻と第2の時刻との差を溶融部の凝固時間とし、その凝固時間を、溶融部の大きさと凝固時間とに関する相関データと照合することにより溶融部の大きさを推定する工程とを備えたことを特徴としている。
【0016】
かかる構成によれば、溶融部の大きさが最大になると、反射波の強度が最大値に達する。ワークに超音波が斜めに入射すると、反射波の強度は低下するが、その値が最大値に達する時刻は変化しない。つまり、反射波の強度が最大値に達する時刻を始期として凝固時間を求めればよい。かかる構成は、亜鉛メッキ鋼板を用いない場合やセンサの径が溶融部の最大径以上の場合に有効である。
【0017】
本発明のスポット溶接の第2検査方法は、スポット溶接中のワークに超音波を入射して溶融部の大きさを推定する方法であって、ワークに横波の超音波を入射して溶融部からの透過波を検出する工程と、ワークへの溶接電流の通電を停止する第1の時刻を検出する工程と、溶融部からの透過波の強度が所定値まで増加する第2の時刻を検出する工程と、第1の時刻と第2の時刻との差を溶融部の凝固時間とし、その凝固時間を、溶融部の大きさと凝固時間とに関する相関データと照合することにより溶融部の大きさを推定する工程とを備えたことを特徴としている。
【0018】
かかる構成によれば、溶融部の大きさが大きくなると、それに応じて透過波の強度が小さくなる。溶接電流の通電を停止した時には、溶融部の大きさが最大となる。溶接電流の通電を停止した後、溶融部の凝固が進行すると、それに応じて透過波の強度が大きくなる。溶融部の凝固が終了した時には、透過波の強度は所定値まで増加している。ワークに対し超音波が斜めに入射すると、溶融部からの透過波の強度が低下するが、溶融部の凝固に要する時間は変化しない。つまり、ワークへの溶接電流の通電を停止する第1の時刻と溶融部からの透過波の強度が所定値まで増加する第2の時刻とを検出し、第1の時刻と第2の時刻との差を溶融部の凝固時間とし、その凝固時間を相関データと照合して溶融部の大きさを推定することにより、ワークに対する超音波の入射角変化の影響を受けることなく、溶融部の大きさを正確に求めることができる。
【0019】
亜鉛メッキ鋼板を溶接する際には、超音波が溶融メッキ層で反射し、母材溶融部からの透過波を検出できなくなる。また、透過波の検出に用いるセンサの径が溶融部の最大径より小さい場合、ワークの溶融部に対応する部分におけるセンサ径を超える端部からの透過波を検出できなくなる。したがって、これらの場合、上記のようにワークへの溶接電流の通電を停止するときを第1の時刻として用いることが有効である。
【0020】
第2検査方法では、溶融部からの透過波の強度が最小になる時を第1の時刻として用いることができる。すなわち、本発明のスポット溶接の他の第2検査方法は、スポット溶接中のワークに超音波を入射して溶融部の大きさを推定する方法であって、ワークに横波の超音波を入射して溶融部からの透過波を検出する工程と、溶融部からの透過波の強度が最小になる第1の時刻を検出する工程と、溶融部からの透過波の強度が所定値まで増加する第2の時刻を検出する工程と、第1の時刻と第2の時刻との差を溶融部の凝固時間とし、その凝固時間を、溶融部の大きさと凝固時間とに関する相関データと照合することにより溶融部の大きさを推定する工程とを備えたことを特徴としている。
【0021】
かかる構成によれば、溶融部の大きさが最大になると、透過波の強度が最小値に達する。ワークに超音波が斜めに入射すると、透過波の強度は低下するが、その値が最小値に達する時刻は変化しない。つまり、透過波の強度が最小値に達する時刻を始期として凝固時間を求めればよい。かかる構成は、亜鉛メッキ鋼板を用いない場合やセンサの径が溶融部の最大径以上の場合に有効である。
【0022】
本発明のスポット溶接の検査装置として、本発明の第1検査方法を用いる第1検査装置および本発明の第2検査方法を用いる第2検査装置がある。
【0023】
本発明のスポット溶接の第1検査装置は、スポット溶接中のワークに超音波を入射して溶融部の大きさを推定する装置であって、溶融部の大きさと凝固時間とに関する相関データを記憶する記憶手段と、ワークに横波の超音波を入射して溶融部からの反射波を検出するセンサと、ワークへの溶接電流の通電を停止する第1の時刻と、溶融部からの反射波の強度が所定値まで低下する第2の時刻とを検出する検出手段と、第1の時刻と第2の時刻との差を溶融部の凝固時間とし、その凝固時間を相関データと照合することにより溶融部の大きさを推定する判定手段とを備えたことを特徴としている。かかる構成では、本発明の第1検査方法と同様な作用・効果を得ることができる。
【0024】
本発明のスポット溶接の第2検査装置は、スポット溶接中のワークに超音波を入射して溶融部の大きさを推定する装置であって、溶融部の大きさと凝固時間に関する相関データを記憶する記憶手段と、ワークに横波の超音波を入射する超音波発生手段と、溶融部からの透過波を検出するセンサと、ワークへの溶接電流の通電を停止する第1の時刻と、溶融部からの透過波の強度が所定値まで増加する第2の時刻とを検出する検出手段と、第1の時刻と第2の時刻との差を溶融部の凝固時間とし、その凝固時間を相関データと照合することにより溶融部の大きさを推定する判定手段とを備えたことを特徴としている。かかる構成では、本発明の第2検査方法と同様な作用・効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、反射波や透過波の強度からではなく、溶融部の凝固時間から溶融部の大きさを推定しているので、ワークに対する超音波の入射角の変化や、ワーク温度の変化による影響を受けることなく、溶融部の大きさを正確に推定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
(1)第1実施形態
以下、本発明の第1実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明に係る第1実施形態の検査装置のブロック図を示している。図1において、符号1はスポット溶接ガンの電極チップで、ワークWに超音波を入射するセンサ2を内蔵している。電極チップ1からワークWへの溶接電流およびその通電時間は、溶接タイマ(図示略)により制御される。センサ2は超音波送受信器3からのパルス信号を受けて横波の超音波を発生し、その反射波を電気信号に変換して超音波送受信器3に戻す。反射波の信号は超音波送受信器3で増幅されて検出手段4に送られる。
【0027】
検出手段4は、反射波の強度が最大になる第1の時刻と、反射波の強度が所定値まで低下する第2の時刻とを検出し、その信号を判定手段5に送る。判定手段5は、第1及び第2の時刻の差から溶融部の凝固時間を求め、これを記憶手段6の相関データと照合し、凝固時間と対応する溶融部の大きさを求める。記憶手段6には、溶融部の大きさと凝固時間に関する相関データが記憶されている。なお、溶融部の大きさとは、溶融部の直径や容積のことをいう。
【0028】
次に、反射波の強度から溶融部の大きさを推定する方法について、図2,9を参照しながら詳細に説明する。図2は、反射波強度と溶接電流の経時変化を示す図である。図9(a)〜(d)は、スポット溶接中のワークに横波の超音波を入射している状態の遷移を示す概略図である。
【0029】
まず、図1に示すように、ワークWを電極チップ1,1で挟んで加圧し、時刻tで溶接電流の通電を開始する。図2において、実線Aは溶接電流の変化を示している。ワークWでの溶融部発生前には反射波は観察されないが(図9(a))、溶接電流の通電によってワークWが発熱溶融すると、時刻tで溶融部Lからの反射波が観察される。溶融部Lの大きさが大きくなると、それに応じて反射波の強度が大きくなる。図2において、実線Bは反射波の強度変化を示している。溶融が進むと、センサ2から溶融部Lまでの距離が小さくなり、反射波の出現時間は短くなる。図2において、点線Cは反射波の出現時間を示している。なお、反射波の出現時間とは、センサ2から発信された超音波が溶融部Lで反射し、センサ2に戻って来るまでの時間をいい、図2上段の反射波形図でtで示されている。図2では、時間tを、各入射波に対応する反射波の立ち上がりまでの時間としているが、これに限定されるものではない。たとえば、各反射波の強度のピーク時や、各反射波の立ち上がりとその消失との中間の時点までの時間を時間tとしてもよい。図2下段の反射波強度と溶接電流の経時変化を示す図では、反射波の観測時刻を、反射波の送信時刻に時間tを足し合わせたものとしている。
【0030】
時刻tで溶接電流の通電を停止すると、溶融部Lの凝固が始まり凝固部Mが生成され、反射波の強度は減少に転じる。つまり、通電停止の時刻tで溶融部Lの大きさと反射波の強度が最大になる(図9(b))。溶融部の凝固が進行すると(図9(c))、それに応じて反射波の強度が小さくなる一方、反射波の出現時間は長くなる。溶融部の凝固が終了する時刻tでは、反射波が消失し、その強度がゼロになる(図9(d))。
【0031】
溶融部Lの凝固時間は、反射波の強度が最大になる時刻tを始期(第1の時刻)とし、反射波の強度がゼロになる時刻tを終期(第2の時刻)として算出すればよい。ただし、時刻tを終期とすると、ノイズの影響により計測誤差を生じ易くなる。そこで、ゼロよりも若干大きい閾値を設定し、反射波の強度が閾値まで達した時刻t(第2の時刻)を凝固時間の終期としてもよい。
【0032】
この場合、凝固時間Tは真の値(t−t)よりも若干短くなるが、相関データの作成に際し、以上の値(t−t)を凝固時間として採用しておけば、溶融部の判定精度に対する影響は殆どない。
【0033】
なお、センサ2は、ワークWにおけるセンサ径を超える部分からの反射波を検出することができないから、溶融部Lからの反射波強度の検出限界はセンサ2のセンサ径に規定される。すなわち、図9(a)〜9(d)に示すように、センサ径が溶融部Lの最大径以上の場合、センサ2は、溶融部Lの全ての部分からの反射波を検出することができるので、センサ2は反射波強度の最大値を検出することができる(図2の実線B、図3の破線B)。したがって、この場合、上記のように反射波の強度が最大になる時刻tを始期(第1の時刻)として用いることができる。
【0034】
一方、図10(a),10(b)に示すように、センサ径が溶融部Lの最大径より小さい場合、センサ2は、溶融部Lにおけるセンサ径を超える両端部からの反射波を検出することができない。この場合、通電時に溶融部Lの径がセンサ径に一致する前と通電終了後の冷却中に溶融部Lの径がセンサ径に一致した後では、センサ径が溶融部Lの最大径以上の図3の破線Bに示す場合と同じ変化を示すが、通電時に溶融部Lの径がセンサ径に一致してから通電終了後の冷却中に溶融部Lの径がセンサ径に一致するまでは、図3の実線B’に示すように反射波の強度が一定となる。このように反射波の強度には、センサ径を超える溶融部の径の変化が反映されない。したがって、この場合、溶接電流の通電を停止する時刻tを凝固時間Tの始期としている。溶接電流の通電停止時には溶融部Lの大きさが最大に達しているので、この時を凝固時間Tの始期として用いることができる。この場合、通電終了後の冷却中に溶融部Lの径がセンサ径に一致する時刻tを用い、凝固時間Tを(t−t)としてもよい。
【0035】
そして、凝固時間Tを相関データと照合して溶融部の大きさを推定する(図5参照)。
【0036】
溶融部の大きさと凝固時間に関する相関データは、次のようにして作成する。
【0037】
多数のワークに対し溶接条件(電流値や通電時間など)を変えてスポット溶接を行い、その都度、溶融部の凝固時間Tを計測し記録しておく。溶接されたワークの破壊検査を行い、溶融部の垂直及び水平断面から溶融部の大きさVを求める。そして、溶融部の大きさと凝固時間Tを対応させて相関データを作成する。
【0038】
いま、電極チップ1の傾きによって、超音波がワークに対して斜めに入射すると、反射波の強度が低下するが、反射波の強度が最大になる第1の時刻tは変化しない。一方、閾値の付近では反射波の強度差は殆ど生じないため、反射波の強度が閾値に達する第2の時刻tの差は無視できるほど小さくなる。図6において、超音波が斜めに入射した場合の反射波強度を一点鎖線で示してある。つまり、溶融部の凝固に要する時間Tは変化しないので、ワークに対する超音波の入射角変化の影響を受けることなく、溶融部の大きさを正確に推定できる。また、ワークの温度変化の影響を受けることもない。
【0039】
ところで、ワークが亜鉛メッキ鋼板の場合、亜鉛の融点は鉄の融点よりも低いため、まず、ワーク間のメッキ層が溶融し、次いで、母材の溶融が始まる。このため、図4(a)に示すように、溶接電流の通電を開始すると、まず、ワーク間の溶融メッキ層からの反射波Dが生じる。
【0040】
ワーク間のメッキ層はやがて蒸発してなくなるが、それと前後して母材の溶融が始まる。通電電流値が高く、溶融部が大きいと、電極チップ1側へ熱が伝わり、電極チップ1側のメッキ層が溶けることがある。この場合、図4(b)に示すように電極チップ1側のメッキ層からの反射波Eが発生し、母材へ超音波が入射しなくなってしまう。このため、母材溶融部から反射するはずの反射波Bの強度のピークを検出することが不可能になる。
【0041】
そこで、溶接電流の通電を停止する時刻tを凝固時間Tの始期としている。つまり、溶接電流の通電停止時には溶融部の大きさが最大に達しているので、この時を凝固時間Tの始期として用いることができる。
【0042】
時刻tで電極チップ1側のメッキ層からの反射がなくなると、母材溶融部からの反射波Bが現れるので、凝固時間Tの終期は、通常のワークの場合と同様、反射波Bの強度が閾値まで低下する時刻tにすればよい。凝固時間Tから溶融部の大きさを推定する方法は上述のとおりである。
【0043】
(2)第2実施形態
第2実施形態は、溶融部の大きさの推定に溶融部からの反射波の代わりに溶融部からの透過波を利用する以外は、第1実施形態と同様である。図7は、本発明に係る第2実施形態の検査装置のブロック図を示している。なお、第2実施形態では、第1実施形態と同様な構成要素には同符号を付し、その構成・作用の説明は省略する。
【0044】
第2実施形態では、図7に示すように、ワークWの下側の電極チップ1に、溶融部からの透過波を受信するセンサ7を設ける。センサ7は、たとえばセンサ2と同一径を有するとともに、ワークWに対してセンサ2とは対称な位置に配置されている。センサ2(超音波発生手段)は、超音波送受信器3からのパルス信号を受けて横波の超音波を発生する。センサ7では、溶融部からの透過波を受信し、その透過波を電気信号に変換して超音波送受信器3に戻す。透過波の信号は超音波送受信器3で増幅されて検出手段4に送られる。
【0045】
検出手段4は、透過波の強度が最小になる第1の時刻と、透過波の強度が所定値まで増加する第2の時刻とを検出し、その信号を判定手段5に送る。判定手段5は、第1及び第2の時刻の差から溶融部の凝固時間を求め、これを記憶手段6の相関データと照合し、凝固時間と対応する溶融部の大きさを求める。
【0046】
次に、透過波の強度から溶融部の大きさを推定する方法について、おもに図7,8,9(a)〜(d)を参照しながら詳細に説明する。図8は、透過波強度と溶接電流の経時変化を示す図である。なお、図9(a)〜(d)では、センサ7の図示を省略している。
【0047】
まず、第1実施形態と同様にワークWを電極チップ1,1で挟んで加圧し、時刻tで溶接電流の通電を開始する。図8において、実線Aは溶接電流の変化を示している。ワークWでの溶融部L発生前は、超音波はワークWにより反射されないから、この時の透過波の強度は最大である(図9(a))。溶接電流の通電によってワークWが発熱溶融すると、溶融部Lで超音波が反射されるから、時刻tで溶融部Lからの透過波が減少する。溶融部Lの大きさが大きくなると、それに応じて透過波の強度が小さくなる。図8において、破線Fは透過波の強度変化を示している。
【0048】
時刻tで溶接電流の通電を停止すると、溶融部Lの凝固が始まり凝固部Mが生成され、透過波の強度は増加に転じる。つまり、通電停止の時刻tで溶融部の大きさが最大、透過波の強度が最小になる(図9(b))。溶融部Lの凝固が進行すると(図9(c))、それに応じて透過波の強度が大きくなる。溶融部Lの凝固が終了する時刻tでは、透過波の強度が再び最大となる((図9(d))。
【0049】
溶融部Lの凝固時間は、透過波の強度が最小になる時刻tを始期(第1の時刻)とし、透過波の強度が最大になる時刻tを終期(第2の時刻)として算出すればよい。ただし、時刻tを終期とすると、ノイズの影響により計測誤差を生じ易くなる。そこで、透過波の最大強度よりも若干小さい閾値を設定し、透過波の強度が閾値まで達した時刻t(第2の時刻)を凝固時間の終期としてもよい。
【0050】
この場合、凝固時間Tは真の値(t−t)よりも若干短くなるが、相関データの作成に際し、以上の値(t−t)を凝固時間として採用しておけば、溶融部の判定精度に対する影響は殆どない。
【0051】
なお、センサ7は、ワークWにおけるセンサ径を超える部分からの透過波を検出することができないから、溶融部Lからの透過波強度の検出限界は、第1実施形態の反射波の場合と同様に、センサ7のセンサ径に規定される。すなわち、センサ径が溶融部Lの最大径以上の場合、センサ7は、ワークWにおける溶融部Lに対応する全ての部分からの透過波を検出することができるので、センサ7は透過波強度の最小値を検出することができる(図8の破線F)。したがって、この場合、上記のように透過波の強度が最小になる時刻tを始期(第1の時刻)として用いることができる。
【0052】
一方、センサ径が溶融部Lの最大径より小さい場合、センサ7は、ワークWにおけるセンサ径を超える溶融部Lの両端部に対応する部分からの透過波を検出することができない。この場合の透過波強度の曲線は、センサ径が溶融部Lの最大径以上の場合の図8の破線Fに示す曲線を時間軸方向に向けて下方に平行移動したような曲線となり(図8の実線F’)、通電時に溶融部Lの径がセンサ径に一致してから通電終了後の冷却中に溶融部Lの径がセンサ径に一致するまで、透過波の強度がゼロとなる。このように透過波の強度には、センサ径を超える溶融部の径の変化が反映されない。したがって、この場合、溶接電流の通電を停止する時刻tを凝固時間Tの始期としている。溶接電流の通電停止時には溶融部Lの大きさが最大に達しているので、この時を凝固時間Tの始期として用いることができる。この場合、通電終了後の冷却中に溶融部Lの径がセンサ径に一致する時刻tを用い、凝固時間Tを(t−t)としてもよい。
【0053】
そして、第1実施形態と同様に凝固時間Tを相関データと照合して溶融部の大きさを推定する(図5参照)。
【0054】
いま、電極チップ1の傾きによって、超音波がワークに対して斜めに入射すると、透過波の強度が低下するが、透過波の強度が最小になる第1の時刻tは変化しない。一方、閾値の付近では透過波の強度差は殆ど生じないため、透過波の強度が閾値に達する第2の時刻tの差は無視できるほど小さくなる。つまり、溶融部の凝固に要する時間Tは変化しないので、ワークWに対する超音波の入射角変化の影響を受けることなく、溶融部の大きさを正確に推定できる。また、ワークの温度変化の影響を受けることもない。
【0055】
ところで、ワークが亜鉛メッキ鋼板の場合、反射波を利用した第1実施形態と同様、溶接電流の通電を停止する時刻tを凝固時間Tの始期としている。つまり、溶接電流の通電停止時には溶融部の大きさが最大に達しているので、この時を凝固時間Tの始期として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係る第1実施形態の検査装置のブロック図。
【図2】反射波強度と溶接電流の経時変化を示す図。
【図3】反射波強度のセンサ径と溶融部の最大径との関係への依存性を示す図。
【図4】図2に溶融メッキ層からの反射波を加えた図。
【図5】溶融部の大きさと凝固時間に関する相関データを示す図。
【図6】電極チップの傾きが反射波強度に及ぼす影響を説明する図。
【図7】本発明に係る第2実施形態の検査装置のブロック図。
【図8】透過波強度と溶接電流の経時変化を示す図。
【図9】センサ径が溶融部の最大径以上の場合、スポット溶接中のワークに横波の超音波を入射している状態の遷移を示す概略図であり、(a)は通電前の状態、(b)は通電終了時の状態、(c)は冷却中の状態、(d)は冷却終了時の状態を示す図。
【図10】センサ径が溶融部の最大径より小さい場合、スポット溶接中のワークに横波の超音波を入射している状態の遷移を示す概略図であり、(a)は通電終了時の状態、(b)は冷却中の状態を示す図。
【符号の説明】
【0057】
1…電極チップ、2,7…センサ、3…超音波送受信器、4…検出手段、5…判定手段、6…記憶手段、A…溶接電流、B,B’…反射波強度、F,F’…透過波強度、L…溶融部、M…凝固部、W…ワーク、t…第1の時刻、t…第2の時刻

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スポット溶接中のワークに超音波を入射して溶融部の大きさを推定する方法において、
前記ワークに横波の超音波を入射して前記溶融部からの反射波を検出する工程と、
前記ワークへの溶接電流の通電を停止する第1の時刻を検出する工程と、
前記溶融部からの前記反射波の強度が所定値まで低下する第2の時刻を検出する工程と、
前記第1の時刻と前記第2の時刻との差を前記溶融部の凝固時間とし、その凝固時間を、溶融部の大きさと凝固時間とに関する相関データと照合することにより前記溶融部の大きさを推定する工程とを備えたことを特徴とするスポット溶接の検査方法。
【請求項2】
スポット溶接中のワークに超音波を入射して溶融部の大きさを推定する方法において、
前記ワークに横波の超音波を入射して前記溶融部からの反射波を検出する工程と、
前記溶融部からの前記反射波の強度が最大になる第1の時刻を検出する工程と、
前記溶融部からの前記反射波の強度が所定値まで低下する第2の時刻を検出する工程と、
前記第1の時刻と前記第2の時刻との差を前記溶融部の凝固時間とし、その凝固時間を、溶融部の大きさと凝固時間とに関する相関データと照合することにより前記溶融部の大きさを推定する工程とを備えたことを特徴とするスポット溶接の検査方法。
【請求項3】
スポット溶接中のワークに超音波を入射して溶融部の大きさを推定する方法において、
ワークに横波の超音波を入射して溶融部からの透過波を検出する工程と、
前記ワークへの溶接電流の通電を停止する第1の時刻を検出する工程と、
前記溶融部からの前記透過波の強度が所定値まで増加する第2の時刻を検出する工程と、
前記第1の時刻と前記第2の時刻との差を前記溶融部の凝固時間とし、その凝固時間を、溶融部の大きさと凝固時間とに関する相関データと照合することにより前記溶融部の大きさを推定する工程とを備えたことを特徴とするスポット溶接の検査方法。
【請求項4】
スポット溶接中のワークに超音波を入射して溶融部の大きさを推定する方法において、
ワークに横波の超音波を入射して溶融部からの透過波を検出する工程と、
前記溶融部からの前記透過波の強度が最小になる第1の時刻を検出する工程と、
前記溶融部からの前記透過波の強度が所定値まで増加する第2の時刻を検出する工程と、
前記第1の時刻と前記第2の時刻との差を前記溶融部の凝固時間とし、その凝固時間を、溶融部の大きさと凝固時間とに関する相関データと照合することにより前記溶融部の大きさを推定する工程とを備えたことを特徴とするスポット溶接の検査方法。
【請求項5】
スポット溶接中のワークに超音波を入射して溶融部の大きさを推定する装置において、
溶融部の大きさと凝固時間とに関する相関データを記憶する記憶手段と、
前記ワークに横波の超音波を入射して前記溶融部からの反射波を検出するセンサと、
前記ワークへの溶接電流の通電を停止する第1の時刻と、前記溶融部からの前記反射波の強度が所定値まで低下する第2の時刻とを検出する検出手段と、
前記第1の時刻と前記第2の時刻との差を前記溶融部の凝固時間とし、その凝固時間を相関データと照合することにより前記溶融部の大きさを推定する判定手段とを備えたことを特徴とするスポット溶接の検査装置。
【請求項6】
スポット溶接中のワークに超音波を入射して溶融部の大きさを推定する装置において、
溶融部の大きさと凝固時間に関する相関データを記憶する記憶手段と、
前記ワークに横波の超音波を入射する超音波発生手段と、
前記溶融部からの透過波を検出するセンサと、
前記ワークへの溶接電流の通電を停止する第1の時刻と、前記溶融部からの前記透過波の強度が所定値まで増加する第2の時刻とを検出する検出手段と、
前記第1の時刻と前記第2の時刻との差を前記溶融部の凝固時間とし、その凝固時間を前記相関データと照合することにより前記溶融部の大きさを推定する判定手段とを備えたことを特徴とするスポット溶接の検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−248457(P2007−248457A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−31795(P2007−31795)
【出願日】平成19年2月13日(2007.2.13)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】