説明

スポット溶接部の検査方法及び検査装置

【課題】熱影響部の影響を受けることなくスポット溶接部の良否を正確に検査すること。
【解決手段】超音波探触子10が、スポット溶接部4の外側の板材である上板2の複数の送波位置から上板2を伝搬する超音波信号を送波し、超音波探触子20が、上板2の複数の受波位置において、少なくとも伝搬経路にスポット溶接部を含む超音波信号を受波する。そして、演算装置34が、超音波探触子20によって受波された超音波信号の伝搬時間を算出し、算出された伝搬時間に基づいてスポット溶接部4の良否を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接部の良否を検査するためのスポット溶接部の検査方法及び検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両の車体は、数千点にも及ぶスポット溶接によって組み立てられる。スポット溶接部の良否は、車体の強度や耐久性に直接影響を及ぼす。このため、スポット溶接部の良否を検査することは極めて重要な作業である。そこで、従来までは、タガネ検査によってスポット溶接部の良否が検査されていた。タガネ検査とは、スポット溶接された金属板間にタガネを差し込み、スポット溶接部がタガネによって剥離するか否かを確認することにより、スポット溶接部の良否を検査する検査方法である。しかしながら、このような検査方法によれば、タガネを差し込んだ際にスポット溶接部がタガネによって破壊され、スポット溶接部の良否を正確に検査できないことがある。また、スポット溶接部が破壊された車体は製品として利用できないために、車体の製造コストが増加する。このため、近年、特許文献1に開示されているような、超音波を利用してスポット溶接部の良否を非接触で検査する検査方法が提案されている。
【0003】
特許文献1記載の検査方法は、スポット溶接部が、溶融凝固組織であるナゲットが形成されている融着溶接部と、金属板間の界面が局所的に溶着しているだけであってナゲットが形成されていない界面溶着溶接部のどちらであるのかを判定するものである。具体的には、この検査方法では、2枚の金属板をスポット溶接することによって形成されたスポット溶接部を検査する場合、始めに、一方の金属板表面上の複数の送波位置から複数方向へ向けて一方の金属板中を伝搬する超音波を送波する。次に、一方の金属板表面上の複数の受波位置において一方の金属板中を伝搬してきた超音波を受波する。そして、受波された超音波の減衰を検出することによって、スポット溶接部におけるナゲットの有無を検出する。なお、スポット溶接部が融着溶接部と界面溶着溶接部のどちらであるのかを判定するものではないが、スポット溶接部に形成されたナゲットの大きさを測定する発明として、特許文献2に開示されているようなものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−71422号公報
【特許文献2】特開2007−232525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、スポット溶接時には、スポット溶接時に加わる熱によって金属板の金属組織が元の金属組織から変化した熱影響部が融着溶接部及び界面溶着溶接部の周囲に形成される。この熱影響部では結晶粒が粗大化するために、熱影響部を伝搬してきた超音波は減衰する。しかしながら、特許文献1記載の検査方法は、この熱影響部による超音波の減衰を考慮していない。このため、特許文献1記載の検査方法によれば、熱影響部によって超音波が減衰しているのにも係わらず、ナゲットが形成されていると誤判定する可能性がある。具体例を図6(a),(b)に示す。図6(a),(b)はそれぞれ、特許文献1記載の検査方法を用いて融着溶接部と界面溶着溶接部とを評価した結果を示す。図6(b)に示すように、界面溶着溶接部の評価結果からは、実際にはナゲットが形成されていないのにも係わらず、図6(a)に示す融着溶着部の評価結果と同様の径Δdを有するナゲットが形成されていると判定される。このため、図6(a),(b)に示す評価結果によれば、熱影響部によって超音波が減衰しているのにも係わらず、界面溶着溶接部にナゲットが形成されていると誤判定してしまうことになる。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、熱影響部の影響を受けることなくスポット溶接部の良否を正確に検査可能なスポット溶接部の検査方法及び検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るスポット溶接部の検査方法は、複数の板材を重ね合わせてスポット溶接することによって形成されたスポット溶接部の良否を検査するスポット溶接部の検査方法であって、スポット溶接部の外側の板材の複数の送波位置から板材を伝搬する超音波信号を送波する送波ステップと、スポット溶接部の外側の板材の複数の受波位置において、少なくとも伝搬経路にスポット溶接部を含む超音波信号を受波する受波ステップと、前記受波ステップにおいて受波された超音波信号の伝搬時間を算出し、算出された伝搬時間に基づいてスポット溶接部の良否を判定する判定ステップと、を含む。
【0008】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るスポット溶接部の検査装置は、複数の板材を重ね合わせてスポット溶接することによって形成されたスポット溶接部の良否を検査するスポット溶接部の検査装置であって、スポット溶接部の外側の板材の複数の送波位置から板材を伝搬する超音波信号を送波する送波手段と、スポット溶接部の外側の板材の複数の受波位置において、少なくとも伝搬経路にスポット溶接部を含む超音波信号を受波する受波手段と、前記受波手段によって受波された超音波信号の伝搬時間を算出し、算出された伝搬時間に基づいてスポット溶接部の良否を判定する判定手段と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るスポット溶接部の検査方法及び検査装置によれば、超音波信号の伝搬時間に基づいてスポット溶接部の良否を判定するので、熱影響部の影響を受けることなくスポット溶接部の良否を正確に検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の一実施形態であるスポット溶接部の検査装置の構成を示す模式図である。
【図2】図2は、融着溶接部及び界面溶着溶接部を示す断面模式図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態である評価処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】図4は、図3に示すステップS1の処理を説明するための模式図である。
【図5】図5は、図3に示す評価処理の実験例を示す図である。
【図6】図6は、特許文献1記載の検査方法を用いて融着溶接部と界面溶着溶接部とを評価した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態であるスポット溶接部の検査装置及び検査方法について説明する。
【0012】
〔検査装置の構成〕
始めに、図1を参照して、本発明の一実施形態であるスポット溶接部の検査装置の構成について説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態であるスポット溶接部の検査装置の構成を示す模式図である。図1に示すように、本発明の一実施形態であるスポット溶接部の検査装置1は、上板2と下板3との2枚の金属板をスポット溶接することによって形成されたスポット溶接部4の良否を検査するための装置である。検査装置1は、超音波探触子10と、超音波探触子20と、スイッチ回路30,31と、超音波送受信器32と、A/D変換器33と、演算装置34とを備える。超音波探触子10,超音波探触子20,及び演算装置34はそれぞれ、本発明に係る送波手段,受波手段,及び判定手段として機能する。
【0014】
超音波探触子10と超音波探触子20とは、スポット溶接部4の外側の板材である上板2の表面上に対向配置されている。超音波探触子10及び超音波探触子20と上板2との間には図示しない接触媒質が介在している。超音波探触子10は、樹脂くさび11に複数の超音波振動子12〜12からなる振動子アレイ12が貼り付けられた構造を有する。超音波探触子10は、超音波振動子12〜12から送波された超音波信号を上板2表面に対して斜め方向に入射する。
【0015】
超音波探触子20は、樹脂くさび21に複数の超音波振動子22〜22からなる振動子アレイ22が貼り付けられた構造を有している。超音波探触子20は、上板2中を伝搬してきた超音波信号を超音波振動子22〜22で受波する。なお、超音波振動子12〜12及び超音波振動子22〜22の個数Nとしては、例えば4、8、16、32等の個数を用いることができる。本実施形態では、超音波振動子の個数Nは16個とする。また、本実施形態では、上板2側に超音波探触子10と超音波探触子20とを配設したが、下板3又は上板2と下板3との両方に超音波探触子10と超音波探触子20を配設してもよい。また、本実施形態では、複数の超音波振動子によって振動子アレイを構成したが、1つの超音波振動子を走査することによって超音波信号を送波/受波するようにしてもよい。
【0016】
スイッチ回路30は、超音波信号を送波する超音波振動子を超音波振動子12〜12の中で切り替える。スイッチ回路31は、上板2中を伝搬してきた超音波信号を受波する超音波振動子を超音波振動子22〜22の中で切り替える。超音波送受信器32は、超音波振動子12〜12に超音波信号を送信すると共に、超音波振動子22〜22が受波した超音波信号を増幅出力する。A/D変換器33は、超音波送受信器32によって増幅出力された超音波信号をアナログ/デジタル変換する。演算装置34は、後述する評価処理を実行することによって、スポット溶接部4が、ナゲットが形成されている融着溶接部とナゲットが形成されていない界面溶着溶接部のどちらであるのかを判定する。
【0017】
〔スポット溶接部の検査方法〕
次に、図2乃至図4を参照して、スポット溶接部4が、ナゲットが形成されている融着溶接部とナゲットが形成されていない界面溶着溶接部のどちらであるのかを判定する際の検査装置1の動作について説明する。
【0018】
〔融着溶接部と界面溶着溶接部との違い〕
始めに、図2を参照して、融着溶接部と界面溶着溶接部との違いについて説明する。図2(a),(b)はそれぞれ、融着溶接部及び界面溶着溶接部を示す断面模式図である。図2(a)に示すように、融着溶接部ではナゲットR1が形成されている。これに対して、図2(b)に示すように、界面溶着溶接部ではナゲットR1は形成されていない。また、融着溶接部及び界面溶着溶接部の周囲には、スポット溶接時に加わる熱によって金属組織が元の金属組織(母材組織)から変化した熱影響部R2が形成されている。熱影響部R2の一部では結晶粒が粗大化しているために、熱影響部R2を伝搬してきた超音波は減衰する。従って、超音波の減衰に基づいてスポット溶接部の良否を判定した場合、熱影響部R2によって超音波が減衰しているのにも係わらず、ナゲットが形成されていると誤判定する可能性がある。そこで、検査装置1は、以下に示す評価処理を実行することによって、スポット溶接部4が融着溶接部と界面溶着溶接部とのどちらであるのかを判定する。以下、図3に示すフローチャートを参照して、評価処理を実行する際の検査装置1の動作について説明する。
【0019】
〔評価処理〕
図3は、本発明の一実施形態である評価処理の流れを示すフローチャートである。図3に示すフローチャートは、オペレータによって評価処理の実行が指示されたタイミングで開始となり、評価処理はステップS1の処理に進む。なお、評価処理の開始タイミングは、所定時間毎に自動的に開始されるよう設定されていてもよいし、評価処理の途中でエラーが検出された場合に自動で再度開始されるように設定されていてもよい。
【0020】
ステップS1の処理では、スイッチ回路30が、図4に示すように、超音波振動子121から超音波信号Wを送波し、スイッチ回路31は超音波振動子121から送波された超音波信号Wを超音波振動子221,22によって受波する。超音波振動子221,22によって受波された超音波信号Wは、超音波送受信機32によって増幅出力された後、A/D変換器33によってA/D変換されて演算装置34で記憶される。次に、スイッチ回路30は、超音波振動子12から超音波信号Wを送波し、スイッチ回路31は超音波振動子12から送波された超音波信号Wを超音波振動子22,22によって受波する。超音波振動子22,22によって受波された超音波信号Wは、超音波送受信機32によって増幅出力された後、A/D変換器33によってA/D変換されて演算装置34で記憶される。この過程を超音波振動子12から送波された超音波信号Wが超音波振動子22,22によって受波されるまで、超音波信号Wを送波する超音波振動子を順次変更して行なう。
【0021】
次に、スイッチ回路30は、超音波振動子12から超音波信号Wを送波し、スイッチ回路31は超音波振動子12から送波された超音波信号Wを超音波振動子22によって受波する。超音波振動子22によって受波された超音波信号Wは、超音波送受信機32によって増幅出力された後、A/D変換器33によってA/D変換されて演算装置34で記憶される。
【0022】
次に、スイッチ回路30は、超音波振動子12から超音波信号Wを送波し、スイッチ回路31は超音波振動子12から送波された超音波信号Wを超音波振動子22,22によって受波する。超音波振動子22,22によって受波された超音波信号Wは、超音波送受信機32によって増幅出力された後、A/D変換器33によってA/D変換されて演算装置34で記憶される。次に、スイッチ回路30は、超音波振動子1210から超音波信号Wを送波し、スイッチ回路31は超音波振動子1210から送波された超音波信号Wを超音波振動子22,2210によって受波する。超音波振動子22,2210によって受波された超音波信号Wは、超音波送受信機32によって増幅出力された後、A/D変換器33によってA/D変換されて演算装置34で記憶される。この過程を超音波振動子1216から送波された超音波信号Wが超音波振動子2215,2216によって受波されるまで、超音波信号Wを送波する超音波振動子を順次変更して行なう。これにより、ステップS1の処理は完了し、評価処理はステップS2の処理に進む。なお、前記の超音波送受信では1箇所の超音波振動子から送信される超音波を、原則として2箇所の超音波振動子で受信していたが、本発明はこれに限るものではなく、例えば、1箇所の超音波振動子から送信される超音波を、1箇所の超音波振動子のみで受信するようにしてもよいし、全ての超音波振動子で受信して記憶しておき、ステップS2以降の処理で有用な信号のみを抽出して使用してもよい。
【0023】
ステップS2の処理では、演算装置34が、ステップS1の処理によって記憶された各超音波信号Wについて、超音波信号Wの送波時間と受波時間との差分値を算出することによって超音波信号Wの伝搬時間を算出する。これにより、ステップS2の処理は完了し、評価処理はステップS3の処理に進む。
【0024】
ステップS3の処理では、演算装置34が、スポット溶接部4が含まれない伝搬経路(例えば図4に示す超音波振動子12と超音波振動子22とを結ぶ伝搬経路や超音波振動子1216と超音波振動子2216とを結ぶ伝搬経路)を伝搬してきた超音波信号の伝搬時間を基準伝搬時間として算出する。そして、演算装置34は、ステップS1の処理によって記憶された各超音波信号Wについて、ステップS2の処理によって算出された伝搬時間と基準伝搬時間との差分値を基準伝搬時間に対する遅れ時間として算出する。これにより、ステップS3の処理は完了し、評価処理はステップS4の処理に進む。
【0025】
ステップS4の処理では、演算装置34が、ステップS3の処理によって算出された遅れ時間の中の最大値を最大遅れ時間として抽出する。これにより、ステップS4の処理は完了し、評価処理はステップS5の処理に進む。
【0026】
ステップS5の処理では、演算装置34が、ステップS4の処理によって算出された最大遅れ時間が所定の判定値以上であるか否かを判別する。判別の結果、最大遅れ時間が所定の判定値以上である場合、演算装置34は評価処理をステップS6の処理に進める。一方、最大遅れ時間が所定の判定値未満である場合には、演算装置34は評価処理をステップS7の処理に進める。なお、演算装置34は、超音波信号Wの伝搬時間の最大値を算出し、算出された最大値に基づいてステップS5の判定処理を実行するようにしてもよい。
【0027】
ステップS6の処理では、演算装置34が、ナゲットが存在するために超音波信号Wの伝搬時間が所定の判定値以上になったと判断し、スポット溶接部4はナゲットが形成されている融着溶接部であると判定する。これにより、ステップS6の処理は完了し、一連の評価処理は終了する。
【0028】
ステップS7の処理では、演算装置34が、ナゲットが存在しないために超音波信号Wの伝搬時間が所定の判定値未満になったと判断し、スポット溶接部4はナゲットが形成されていない界面溶着溶接部であると判定する。これにより、ステップS6の処理は完了し、一連の評価処理は終了する。
【0029】
以上の説明から明らかなように、本発明の一実施形態であるスポット溶接部の検査方法及び検査装置では、超音波探触子10が、スポット溶接部4の外側の板材である上板2の複数の送波位置から複数方向へ向けて、上板2を伝搬する超音波信号を送波し、超音波探触子20が、上板2の複数の受波位置において、少なくとも伝搬経路にスポット溶接部4を含む超音波信号を受波する。そして、演算装置34が、超音波探触子20によって受波された超音波信号の伝搬時間を算出し、算出された伝搬時間に基づいてスポット溶接部4の良否を判定する。このような構成によれば、超音波信号の伝搬時間に基づいてスポット溶接部4の良否を判定するので、熱影響部の影響を受けることなくスポット溶接部4の良否を正確に検査することができる。
【0030】
なお、演算装置34は、遅れ時間が所定の判定値以上となっている超音波信号Wの伝搬経路からナゲット径を算出するようにしてもよい。このとき、全ての遅れ時間が所定の判定値未満である場合には、演算装置34は、ナゲット径を0と算出する。また、演算装置34は、振幅が所定値以下の超音波信号Wについてはその遅れ時間を算出しないようにすることによって、ノイズなどの影響によって誤った遅れ時間をスポット溶接部4の良否判定に用いることを抑制することが望ましい。
【0031】
また、演算装置34は、超音波信号Wの減衰が大きい伝搬経路が多い場合には、ナゲットが十分に生成されていると判断し、伝搬時間による判定に係わらずスポット溶接部4はナゲットが形成されている融着溶接部であると判定するようにしてもよい。これにより、減衰が大きく、超音波信号Wを精度よく検出できない場合であっても、スポット溶接部4の良否を正確に判定することができる。
【0032】
また、演算装置34は、超音波信号Wと基準とする超音波信号Wとの相互相関演算処理や周波数解析処理を行い、相互相関演算処理や周波数解析処理の結果と超音波信号Wの伝搬時間とに基づいて、スポット溶接部の良否を判定してもよい。これにより、超音波信号Wの干渉などによって超音波信号Wの伝播時間を抽出することが困難な場合であっても、スポット溶接部4の良否を正確に判定することができる。相互相関演算処理については、例えば特開2008−286792号に開示されている。
【0033】
〔実験例〕
最後に、評価処理の実験例を示す。
【0034】
図5(a),(b)は評価処理の実験例を示す図である。本実験では、超音波送受処理は、樹脂くさび11,21をポリスチロール、超音波振動子の配列方向における幅を0.8mm、超音波信号の上板2表面に対する入射角を25.4°として行った。また、検査対象として、上板2の板厚が2.0mm、下板3の板厚が2.0mmの2枚の鋼板を重ねてスポット溶接して作製された2つのサンプルを用いた。2つのサンプルのうち、一方のサンプルは融着溶接部のサンプルであり(図5(a))、他方のサンプルは界面溶着溶接部のサンプル(図5(b))である。また、図5(a),(b)中、符号Wは超音波信号を示し、線分Lは超音波信号Wの最速受波時刻を示す直線であり、線分Lmaxは超音波信号Wの最遅受波時刻を示す直線である。
【0035】
図5(a)と図5(b)の比較から明らかなように、融着溶接部のサンプルにおける線分Lと線分Lmaxとの時間差(0.185μs)は界面溶着溶接部のサンプルにおける線分Lと線分Lmaxとの時間差(0.029μs)より大きい。このことから、融着溶接部のサンプルでは、界面溶着溶接部のサンプルと比較して、超音波信号Wの受波時間に大きな遅れが生じていることがわかる。従って、影響部の影響を受けることなくスポット溶接部4の良否を正確に検査することができる。
【0036】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0037】
1 検査装置
2 上板
3 下板
4 スポット溶接部
10,20 超音波探触子
11,21 樹脂くさび
12,22 振動子アレイ
12〜12,22〜22 超音波振動子
30,31 スイッチ回路
32 超音波送受信器
33 A/D変換器
34 演算装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の板材を重ね合わせてスポット溶接することによって形成されたスポット溶接部の良否を検査するスポット溶接部の検査方法であって、
前記スポット溶接部の外側の板材の複数の送波位置から板材を伝搬する超音波信号を送波する送波ステップと、
前記スポット溶接部の外側の板材の複数の受波位置において、少なくとも伝搬経路にスポット溶接部を含む超音波信号を受波する受波ステップと、
前記受波ステップにおいて受波された超音波信号の伝搬時間を算出し、算出された伝搬時間に基づいてスポット溶接部の良否を判定する判定ステップと、
を含むことを特徴とするスポット溶接部の検査方法。
【請求項2】
前記判定ステップは、前記スポット溶接部を含まない伝搬経路を伝搬してきた超音波の伝搬時間を基準伝搬時間として算出し、該スポット溶接部を含む伝搬経路を伝播してきた超音波の伝搬時間と該基準伝搬時間との差を遅れ時間として算出し、算出された遅れ時間に基づいて該スポット溶接部の良否を判定するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載のスポット溶接部の検査方法。
【請求項3】
前記判定ステップは、前記受波ステップにおいて受波された超音波信号の伝搬時間の最大値又は前記遅れ時間の最大値に基づいて、前記スポット溶接部の良否を判定するステップを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のスポット溶接部の検査方法。
【請求項4】
前記判定ステップは、前記受波ステップにおいて受波された超音波信号と基準とする超音波信号との相互相関演算処理を行い、相互相関演算処理の結果と前記受波ステップにおいて受波された超音波信号の伝搬時間とに基づいて、前記スポット溶接部の良否を判定するステップを含むことを特徴とする請求項1〜3のうち、いずれか1項に記載のスポット溶接部の検査方法。
【請求項5】
複数の板材を重ね合わせてスポット溶接することによって形成されたスポット溶接部の良否を検査するスポット溶接部の検査装置であって、
前記スポット溶接部の外側の板材の複数の送波位置から板材を伝搬する超音波信号を送波する送波手段と、
前記スポット溶接部の外側の板材の複数の受波位置において、少なくとも伝搬経路にスポット溶接部を含む超音波信号を受波する受波手段と、
前記受波手段によって受波された超音波信号の伝搬時間を算出し、算出された伝搬時間に基づいてスポット溶接部の良否を判定する判定手段と、
を備えることを特徴とするスポット溶接部の検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−93307(P2012−93307A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242455(P2010−242455)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【Fターム(参考)】