説明

スポンジロール及びその製造方法

【課題】高い耐久性を有し、単純な製造方法により製造することができる、定着ロール等の定着用ロールとして好適なスポンジロール及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】スポンジロールは、金属製芯金と、金属製芯金を被覆する発泡シリコーンゴム層とを有し、発泡シリコーンゴム層中の芯金側領域の平均セル径が、外側領域の平均セル径よりも小さい。また、スポンジロールの製造方法は、金属製芯金を、湿式シリカ及び発泡剤を含む付加硬化型発泡シリコーンゴム組成物で被覆し、これを加熱してシリコーンゴム組成物を発泡硬化させる工程を含むスポンジロールの製造方法であって、加熱工程が、金属製芯金を選択的に加熱する芯金加熱工程と、シリコーンゴム組成物側から加熱する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡シリコーンゴムから成るスポンジ層を有するスポンジロール及びその製造方法に関する。本発明のスポンジロールは、複写機、プリンタ、ファクシミリ等の定着部に使用される、定着用ロール等に好適である。
【背景技術】
【0002】
最近の複写機、プリンタ、ファクシミリ等の定着部では、ロール定着方式として定着ロールと加圧ロールを圧接し、得られたニップの間に未定着トナーが付着した用紙を通すことによりトナーを溶融圧着して定着させている。近年、複写機等の定着部では、ウオーミングアップ時間の短縮のために、熱容量の小さい定着ベルトを用いたベルト定着方式が使われている。このベルト定着方式は、定着ロールと加熱ロールとの間に張設された定着ベルトと、加圧ロールとのニップの間に未定着トナーが付着した用紙を通す事によりトナーを溶融圧着して定着させている。
【0003】
最近では、更なるウオーミングアップ時間の短縮の要求から、ベルト定着方式の定着ローラや加圧ローラを低熱容量化するために、定着ロールや加圧ロールの弾性層にスポンジを用いたスポンジロールが使用されている。従来のスポンジロールは芯金と、該芯金上に形成された発泡シリコーンゴム層から主として成り、必要に応じてさらにこの発泡シリコーンゴム層の上に接着剤層を介してPFA(テトラフロロエチレン-パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体)チューブを被せて離型性を高めたもの等が用いられている。
【0004】
ところが、最近の複写機等は、通紙速度のさらなる高速化が求められ、ニップの幅を増加させ定着速度を早くするために、スポンジロールには大きな荷重がかかるようになった。そのためスポンジロールの発泡シリコーンゴムの気泡(セル)のつぶれ(セル破壊)や、芯金界面剥がれが生じやすくなった。そのため、複写速度増大の要求に応えるためには、高荷重下で連続運転しても、セルがつぶれにくく、芯金界面剥がれが生じにくい、高耐久のスポンジロールが求められるようになった。
【0005】
発泡シリコーンゴム製のスポンジロールにおける、発泡シリコーンゴムと芯金との接着性を改善するため、発泡シリコーンゴムを2層構造とし、芯金側の層の発泡度を低く、外側の層の発泡度を高くした定着用ロールが知られている(特許文献1)。しかしながら、特許文献1記載の定着用ロールは、低発泡性の未硬化シリコーンゴム組成物と、高発泡性の未硬化シリコーンゴム組成物をそれぞれ準備し、芯金上に2層同時押出することにより製造するため、製造工程が複雑になる。また、低発泡シリコーンゴムと、高発泡シリコーンゴムとはもともと別のシリコーンゴム組成物に由来するから、それらの間には明確な界面が存在し、この界面での接着性も問題になる。特許文献1以外にも、発泡シリコーンゴム部分を2層構造にした公知技術(特許文献2〜5)が知られているが、いずれも各層は異なる未硬化組成物に由来するものであり、上記した問題がある。
【0006】
【特許文献1】特開2002-189368号公報
【特許文献2】特開2002-189369号公報
【特許文献3】特開2003-156960号公報
【特許文献4】特開2002-156857号公報
【特許文献5】特開平8-267460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、高い耐久性を有し、単純な製造方法により製造することができる、定着ロール等の定着用ロールとして好適なスポンジロール及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、シリコーンゴム組成物の硬化のための加熱を、芯金を選択的に加熱する高周波誘導加熱工程と、炉中で加熱する炉内加熱工程により行なうことにより、発泡シリコーンゴム層中の芯金側の領域のセル径を、発泡シリコーンゴム層中の外側のセル径よりも小さくすることができ、かつ、このような構成とすることによりスポンジロールの耐久性を高めることができることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、金属製芯金と、該金属製芯金を被覆する発泡シリコーンゴム層とを有し、前記発泡シリコーンゴム層中の芯金側領域の平均セル径が、外側領域の平均セル径よりも小さいことを特徴とするスポンジロールを提供する。また、本発明は、金属製芯金を、湿式シリカ及び発泡剤を含む付加硬化型発泡シリコーンゴム組成物で被覆し、これを加熱して該シリコーンゴム組成物を発泡硬化させる工程を含むスポンジロールの製造方法であって、該加熱工程が、該金属製芯金を選択的に加熱する芯金加熱工程と、該シリコーンゴム組成物側から加熱する工程とを含む、スポンジロールの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のスポンジロールは、発泡シリコーンゴム製であるから低熱容量であり、従来の発泡シリコーンゴム製スポンジロールよりもセルがつぶれにくく、芯金界面剥れが生じにくい等、高耐久であり、定着用ロールとして用いた場合、複写速度の増大の要求等に応える上で有利である。一方、本発明のスポンジロールの製造方法は、例えば定着ロールの場合、従来の一般的な発泡シリコーンゴム製定着ロールの製造方法において、芯金の選択的加熱工程が付加されるだけであり、発泡シリコーンゴム層を2層構造にする公知技術のように、2種類の未硬化発泡シリコーンゴム組成物を準備してそれらを共押出するという複雑な工程も必要ない。このように、本発明のスポンジロールは、耐久性が高く、単純な製造方法により製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
上記の通り、本発明のスポンジロールは、金属製芯金と、該金属製芯金を被覆する発泡シリコーンゴム層とを有し、前記発泡シリコーンゴム層中の芯金側領域の平均セル径が、外側領域の平均セル径よりも小さい。
【0012】
ここで、「芯金側領域」とは、発泡シリコーンゴム層の横断面において、芯金外周面と接する面から、芯金外周面に被覆した発泡シリコーンゴム層の厚みの1/2までの領域を言い、発泡シリコーンゴム層中の「外側領域」とは、発泡シリコーンゴム層の横断面において、上記芯金側領域の外側に位置する、芯金側領域の外側境界面から前記発泡シリコーンゴム層の外周面までの領域を言う。好ましい態様では、芯金側領域中の平均セル径(直径)は、60〜120μm、さらに好ましくは70μm〜110μmであり、外側領域中の平均セル径は110〜180μm、さらに好ましくは130〜160μmである。また、芯金側領域及び外側領域の厚さは、1mm以上であることが好ましい。なお、セルの平均径(直径)は、ロールの発泡シリコーンゴム層の断面の顕微鏡写真を撮影し、セルを無作為に100個以上選んでその直径を実測し、平均値を算出することにより算出することができる。この操作は、市販の画像処理装置を用いて容易に行なうことができる。
【0013】
本発明のスポンジロールのシリコーンゴム層は、発泡時における芯金側領域と外側領域の加熱条件が異なり、芯金側領域の平均セル径が、外側領域の平均セル径よりも小さい。しかし、製造時に芯金を被覆する未硬化発泡性シリコーンゴム組成物は、単一の組成を有する単一の組成物でよく、特許文献1のように発泡度の異なる2層を形成するために組成の異なる2種類の未硬化発泡性シリコーンゴム組成物を用いる必要はない。このため、製造工程が単純化されると共に、層間の界面が存在せず、該界面における接着性の問題も生じない。なお、金属製芯金を単一の組成を有するシリコーンゴム組成物で被覆し、発泡硬化させたものは、発明における「単一の組成を有する」という構成要件を満足する。シリコーンゴム組成物をある同一の組成に調整した、調整後の放置時間の異なる2つ以上のシリコーンゴム組成物を芯金領域と外側領域とに被覆する場合や、工程の都合等により、発泡硬化工程までに時間があき、組成物表面からの成分の揮散等に起因して、組成物表面近傍と金属製芯金近傍で組成が若干変化する場合なども考えられるが、このような場合のシリコーンゴム組成物を芯金に被覆し、発泡硬化させた場合には、組成物は「単一の組成を有する」と解釈する。もっとも、発泡時における芯金側領域と外側領域の加熱条件が異なるのであれば、芯金側領域と外側領域の組成を変えてもよい。
【0014】
発泡シリコーンゴム層の厚さは、特に限定されず、定着用ロールの場合には複写機等のサイズ等により適宜設定され、何ら限定されないが、定着ロールの場合、通常、2mm〜10mm程度、好ましくは3mm〜7mm程度、加圧ロールの場合、通常、3mm〜10mm程度、好ましくは3mm〜7mm程度、塗布ロールの場合、通常、3mm〜10mm程度、好ましくは3mm〜7mm程度である。
【0015】
上記の通り、本発明のスポンジロールは、金属製芯金と、該金属製芯金を被覆する発泡シリコーンゴム層とを少なくとも含む。該金属製芯金は、従来から汎用されているものと同じでよく、鉄製、ステンレス製、アルミニウム製等の芯金を用いることができる。これらのうち、後述する高周波誘導加熱により温度が容易に上昇する鉄製及びステンレス製のものが好ましい。芯金の直径は、複写機等のサイズ等により適宜設定され、何ら限定されないが、通常、8mm〜30mm程度である。
【0016】
発泡シリコーンゴム層は、金属製芯金上に直接形成してもよいが、発泡シリコーンゴム層と金属製芯金との接着性の向上、芯金の防錆等のために、金属製芯金上にリン酸塩皮膜のような接着性防錆用皮膜や、接着性の酸化ケイ素層のような被覆層や皮膜層を設けても良いし、金属製芯金上やこれらの被覆層や皮膜層上にプライマ−を塗布した後に、その上に発泡シリコーンゴム層を形成してもよい。この場合のプライマーも、従来からこの用途に常用されているものでよいが、ゴムのり系のプライマーが好ましく、例えば、信越化学工業社製プライマーNo.28(商品名)を好ましい例として挙げることができる。プライマーは、1種類用いればよいが、2種以上を組み合わせて用いることも可能である。
【0017】
本発明のスポンジロールの製造に用いる未硬化発泡性シリコーンゴム組成物は、好ましくはシリコーンゴムとして付加硬化型シリコーンゴムを含む。付加硬化型シリコーンゴムは、過酸化物硬化型シリコーンゴムと並んで代表的なシリコーンゴムであり、それ自体は周知であり種々市販されている。なお、付加硬化型シリコーンゴムとは硬化剤に、付加反応系の硬化剤を用いたシリコーンゴムの事であり、過酸化物硬化型シリコーンゴムとは硬化剤に、過酸化物反応系の硬化剤を用いたシリコーンゴムのことである。付加硬化型シリコーンゴムは、不飽和結合を含むポリオルガノシロキサンから主として成り、熱硬化時に、硬化剤であるハイドロジェンポリシロキサンと付加反応して架橋され、シリコーンゴムになる。本発明においては、通常の、市販されている付加硬化型シリコーンゴムを用いることができる。本発明の効果(すなわち、後述のようにセル径がシリコーンゴム層の厚さ方向に変化し、耐久性が高まるという効果)は、付加硬化型シリコーンゴムを用いた場合に容易に得ることができる。
【0018】
本発明のスポンジロールの製造に用いる未硬化発泡性シリコーンゴム組成物は、発泡剤を含む。発泡剤としては、特に限定されないが、アゾ系有機発泡剤が好ましい。アゾ系有機発泡剤は、アゾ結合(-N=N-)を含む有機化合物から成る発泡剤である。アゾ系有機発泡剤としては、種々のものが公知であり、市販されているが、環境汚染防止の観点から、シアノ基(-CN)を含まない、いわゆるノンシアン発泡剤が好ましい。このような、シアノ基を含まないアゾ系有機発泡剤の例として、ジメチル-1,1'-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)(信越化学工業社製KE-P-26(商品名)等)、アゾジカルボンアミド、アゾビスホルムアミド等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。未硬化発泡性シリコーンゴム組成物中の発泡剤の含量は特に限定されないが、通常、組成物全量100重量部に対して1重量部〜5重量部、好ましくは1.5重量部〜3重量部である。なお、発泡剤は、1種類用いればよいが、2種以上を組み合わせて用いることも可能である。
【0019】
本発明のスポンジロールの製造に用いる未硬化発泡性シリコーンゴム組成物は、好ましくは増量剤として湿式シリカを含む。本発明の効果を発揮するためには、未硬化発泡性シリコーンゴム組成物が湿式シリカを含むことが好ましい。湿式シリカは、通常、湿式シリカとシリコーンゴムとの適合性(なじみ)を高めるためのウェッターと共に用いられる。湿式シリカとウェッターは、シリコーンゴムの増量剤として常用されているものであり、湿式シリカとウェッターを含む未硬化発泡性シリコーンゴム組成物が市販されている(下記実施例参照)。未硬化発泡性シリコーンゴム組成物中の湿式シリカの含量(ウェッターとの合計含量)は特に限定されないが、通常、組成物全量に対して10重量%〜50重量%、好ましくは20重量%〜40重量%である。また、未硬化発泡性シリコーンゴム組成物は、本発明の効果に悪影響を与えない範囲で、例えば着色剤等の添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤の含量は、特に限定されないが、通常、組成物全量100重量部に対して10重量部以下、好ましくは5重量部以下である。
【0020】
本発明のスポンジロールは、定着用ロールとして用いるのに好適である。本発明において、「定着用ロール」とは、複写機、プリンタ、ファクシミリ等の定着部を構成する部品であって回転するものを言う。すなわち、定着ロール、加圧ロール、離型用の油を塗布する塗布ロール等を意味する。定着ロールには、離型のための定着ベルトを架けて用いるものと定着ベルトを架けないものとがあるが、それらのいずれもであってもよい。また、同様に、定着ロールを押圧し、定着ロールとの間で紙を搬送する加圧ロールも、定着ロールに定着ベルトを架ける場合も架けない場合も包含される。
【0021】
本発明のスポンジロールは、特に定着用ロールとして用いる場合、離型性を高めるために、現在汎用されている発泡シリコーンゴム製定着用ロールと同様、発泡シリコーンゴム層が、接着剤層を介して該発泡シリコーンゴム層に固着されたPFAチューブにより被覆されていてもよい。PFAチューブ自体は周知であり、市販品を用いることができる。PFAチューブの膜厚は、特に限定されないが、通常、30〜100μm程度である。また、PFAチューブを発泡シリコーンゴム層に固着する接着剤も、従来から汎用されているものを用いることができ、例えば自己接着型一液低温硬化(low-temperature vulcanizing、LTV)シリコーン接着剤等を用いることができるがこれに限定されるものではない。
【0022】
本発明のスポンジロールは、金属製芯金を、湿式シリカ及び発泡剤を含む付加硬化型発泡シリコーンゴム組成物で被覆し、これを加熱して該シリコーンゴム組成物を発泡硬化させる工程を含むスポンジロールの製造方法であって、該加熱工程が、該金属製芯金を選択的に加熱する芯金加熱工程と、該シリコーンゴム組成物側から加熱する工程とを含む方法により製造することができる。この製造方法は、上記した特定の未硬化発泡性シリコーンゴム組成物を用いること及び後述する高周波誘導加熱工程を有することを除き、基本的に従来のスポンジロールと同様である。すなわち、好ましくは、次のようにして製造することができる。
【0023】
先ず、芯金に所望によりプライマーを塗布する。次に、上記した未硬化発泡性シリコーンゴム組成物を押出機から押出すこと等により、前記芯金を未硬化発泡性シリコーンゴム組成物で被覆する(プライマーを用いる場合にはプライマー層を介して被覆する)。ここまでは従来のスポンジロールの製造方法と同様である。
【0024】
次に、未硬化発泡性シリコーンゴム層が形成されたロールの芯金を選択的に加熱する。選択的な加熱は、例えば、芯金をヒーターと接触させたり、芯金に通電したりすることによっても行なうことができるが、高周波誘導加熱によることが簡便で好ましい。高周波誘導加熱は、例えば、未硬化発泡性シリコーンゴム層が形成されたロールを高周波誘導加熱装置の加熱コイルの内側に置き、高周波を放射することにより行なうことができる。高周波誘導加熱装置は、市販品を用いることができ、高周波により芯金を加熱することができるものであればよい。芯金の最高到達温度は、好ましくは150℃〜230℃、さらに好ましくは160℃〜210℃程度である。加熱開始から上記最高到達温度に達するまでの時間は、特に限定されないが、通常、10秒〜2分間程度、好ましくは20秒〜90秒程度である。最高到達温度に達するまでは、一定の出力で加熱することもできるし、途中で出力を変更してもよい。上記最高到達温度に上記時間で到達するためには、高周波誘導加熱装置の出力は、特に限定されないが、通常、500W〜5000W程度である。最高到達温度に達した時点で高周波誘導加熱を停止してよい。加熱停止後、芯金は放冷により徐々に冷却されて室温に至るが、加熱停止後数分間は、余熱により100℃以上の温度が保たれ、この間にも発泡硬化は進行する。
【0025】
上記高周波誘導加熱により、芯金が加熱され、未硬化発泡性シリコーンゴム組成物層のうち、芯金に接触している部分及びその近傍が加熱されて、発泡硬化が起きる。芯金に接触している部分及びその近傍では、通常の発泡炉内での加熱よりも平均セル径の小さな発泡シリコーンゴム層が得られる。これは、おそらく、上記未硬化発泡シリコーンゴム組成物層の芯金に接している部分及びその近傍の加熱速度は通常の炉内での加熱速度よりも早いので、発泡剤の分解速度よりも未硬化シリコーンゴムの硬化速度が速くなるためであると考えられる。一方、未硬化発泡性シリコーンゴム組成物の外表面に近い領域までには熱があまり伝わらず、発泡硬化はほとんど起きない。
【0026】
次に、シリコーン組成物の側からシリコーン組成物を加熱し、シリコーンゴムを発泡硬化させる。シリコーンゴム側からの加熱方式としてシリコーンゴムを加熱することができればどのような方法でもかまわないが好ましくは、芯金の選択加熱工程後のロールを炉内で加熱することにより行なうことができる。炉内で加熱する以外に遠赤外線方式や、熱風を吹き付けるような方式であっても構わない。炉は、通常、電気炉が用いられる。この炉内加熱工程は、従来と同様、2段階に分けて行なうことが好ましい。1段階目(一次硬化)は、特に限定されないが、好ましくは180℃〜220℃の温度で20分〜2時間程度、2段階目(二次硬化)は、特に限定されないが、好ましくは190℃〜230℃の温度で7時間〜15時間程度行なわれる。
【0027】
炉内加熱工程により、発泡硬化が完全に行なわれる。発泡シリコーンゴム層中の芯金側領域では、高周波誘導加熱の際に発泡硬化が行なわれる。高周波誘導加熱により硬化も進行するため、後の炉内加熱工程においては、セルがほとんどあるいは全く成長しない。これに対し、発泡シリコーンゴム層中の外側領域では、高周波誘導加熱の際に熱がほとんど伝わらず、発泡硬化がほとんど起きていないので、後の炉内加熱工程において、通常の発泡シリコーンゴムとほぼ同程度に発泡する。このため、芯金側領域のセルは、外側領域のセルに比べて小さくなる。そして、このようにセル径が、芯金側領域のセルが小さくなるように発泡シリコーンゴム層の厚さ方向で変化していることにより発泡シリコーンゴム層の耐久性が高くなり、芯金との接着も良好である。
【0028】
所望により、上記で得られたロールに、さらに、周知の方法により接着剤を塗布し、PFAチューブに挿入してPFAで被覆された定着ロールとすることもできる。この場合、接着剤の塗布に先立ち、発泡シリコーンゴム層表面を研磨することが好ましい。
【0029】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0030】
1. 定着ロールの製造
市販の付加硬化型の未硬化シリコーンゴム組成物(信越化学工業社製「NT-522U」、ビニルポリシロキサン約70重量%、湿式シリカとウェッターを約30重量%含む)100重量部に、市販の第1の硬化剤(信越化学工業社製「C-25A」(商品名)、ハイドロジェンポリシロキサン(微量の白金触媒を含む))を上記未硬化シリコーンゴム組成物に対して0.5重量部、市販の第2の硬化剤(信越化学工業社製「C-25B」(商品名)、約95重量%のハイドロジェンポリシロキサンと約5重量%の湿式シリカを含む)を上記未硬化シリコーンゴム組成物に対して3.0重量部、市販のアゾ系有機発泡剤(ジメチル-1,1'-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)(信越化学工業社製KE-P-26(商品名))を上記未硬化シリコーンゴム組成物に対して2.4重量部、及び市販の着色剤(信越化学工業社製KE-カラーBR(商品名))を上記未硬化シリコーンゴム組成物に対して0.5重量部添加して未硬化発泡性シリコーンゴム組成物を調製した。
【0031】
直径13mm、長さ320mm(A3サイズ用)の鉄製芯金をブラスト処理してメッキを剥がし、プライマー(信越化学工業社製「プライマーNo.28」(商品名))を塗布した。プライマーを塗布した該芯金に上記未硬化発泡性シリコーンゴム組成物を常法によりロール状に押出成形し、芯金の周囲を上記未硬化発泡性シリコーンゴム組成物で被覆した。上記未硬化発泡性シリコーンゴム組成物の厚さは約5.5mmであった。
【0032】
得られたロールを市販の高周波誘導加熱装置のコイルの内側に置き、40秒間高周波誘導加熱した。この際、芯金の温度を、芯金に熱電対をスポット溶接し、チャートすることにより測定した。芯金の中央部の最高到達温度は約180℃であった。約5分後、ロールを電気炉に入れ、200℃で40分間加熱して一次硬化した。その後ロールを電気炉に入れ、210℃で10時間加熱して二次硬化した。室温まで放冷した後、発泡シリコーンゴム層の外表面を、ロールの直径が25mmになるように研磨した。次いで、市販の自己接着型一液LTV(信越化学工業社製「KE-1880」(商品名))を塗布し、肉厚30μmのPFAチューブに挿入して本発明の定着ロールを得た。得られた定着ロールは、外径が25mm、発泡シリコーンゴム層の厚さが6mm、ロール上で発泡シリコーンゴム硬度が36〜38度(ASKER C(商品名)硬度計2.94Nの負荷で測定)、製品硬度が51〜53度(ASKER C(商品名)硬度計9.8Nの負荷で測定)であった。
【0033】
2. 定着ロールの特性
(1) セル径
実施例1で作製した定着ロールの発泡シリコーンゴム層のセル径を測定した。発泡シリコーンゴム層を部分的に切断してその横断面を露出させた。横断面の顕微鏡写真をとり、画像処理装置にて白黒2値化し、セル(黒く写る)の直径を測定した。測定領域は、芯金との界面から3mmまでの芯金側領域と、それよりも外側の(外表面まで)外側領域中のセル径(直径)を測定した。その結果、芯金側領域では、平均セル径が87.3μm(測定セル個数566個)、標準偏差が35.2μmであった。一方、外側領域では、平均セル径が145.1μm(測定セル個数338個)、標準偏差が56.5μmであった。このように、芯金側領域中の平均セル径は、外側領域中の平均セル径よりも明らかに小さかった。また、目視によっても、芯金に近い部分のセル径が小さく、芯金から遠い部分のセル径が大きいことが確認出来た。
【0034】
(2) 芯金との接着性
実施例1で作製した定着ロールの発泡シリコーンゴム層の軸方向の中央部及び両端部を、それぞれ軸方向に20mm、周方向に5mmの大きさの部分を残して他の部分を切除し、上記領域の部分だけが芯金に接着しているようにした。これらの部分を、芯金の半径方向にストログラフを用いて500mm/分の条件で引っ張り、接着強度を試験した。その結果、接着強度は、中央部が77.0N、両端部が74.5Nと83.5Nであり、芯金と発泡シリコーンゴムの接着力は実用上十分な程度であった。
【実施例2】
【0035】
1. 定着ロールの製造
直径18mm、長さ320mmの鉄製の芯金を用い、未硬化シリコーンゴムの厚さを4.5mmとして、実施例1と同様な操作を行い、定着ロールを製造した。ただし、PFAチューブによる被覆は行なわなかった。得られた定着ロールの外径は28mm、発泡シリコーンゴム層の厚さは5mm、ロール上で発泡シリコーンゴムの硬度が37〜38度(ASKER C(商品名) 硬度計2.94Nの負荷で測定)であった。得られた発泡シリコーンゴム層の芯金領域と外側領域のセル径は実施例1とほぼ同じ平均セル径であり、目視によっても、芯金に近い部分のセル径が小さく、芯金から遠い部分のセル径が大きいことが確認出来た。
【0036】
2. 耐久性試験
1で作製した定着ロールについて連続空回転試験により耐久性を試験した。連続空回転試験は、実機と同様に、定着ロールと加熱ロールの間に金属製の定着ベルトを張設し、加圧ロールと接触させながら加圧ロール、定着ロール及び加熱ロールを回転させ、定着ロールの発泡シリコーンゴム層が破壊されるまでの時間を測定した。発泡シリコーンゴム層が破壊されたか否かは、硬度の低下及びシリコーンスポンジと芯金の剥がれを基準とした。加圧ロールは、外径27mm、ゴム厚1mm、ゴム硬度82度 (ASKER C(商品名)硬度計を用い9.8Nの負荷で測定)であり、主駆動は加圧ロールとし、線速150mm/秒、圧力21.0kgf/片側、ニップ巾7.5〜8.5mm、面圧1.50kgf/cm2であった。また、加熱ロールは、1日のうち8時間加熱し、16時間は加熱しなかった(室温)。その結果、発泡シリコーンゴム層破壊までの時間は484時間であった。
【0037】
比較例1
高周波誘導加熱を行なわなかったことを除き、実施例2と同様にして定着ロールを作製した。この定着ロールの発泡シリコーンゴム層の断面を観察したところ、セルの大きさは発泡シリコーンゴム層の厚さ方向にほぼ均一であった。また、得られた定着ロールについて、実施例2と同様に耐久試験を行なったところ(ただし、圧力は16.2kgf/片側、ニップ巾は7.3〜8.7mm、面圧は1.27kgf/cm2とした)、発泡シリコーンゴム層破壊までの時間は240時間であった。
【0038】
実施例2の耐久性試験結果と、比較例1の耐久性試験結果を比較すると、発泡シリコーンゴム層破壊までの時間が実施例2の方が2倍以上長かった。これにより芯金の高周波誘導加熱工程を加えることにより、発泡シリコーンゴムの耐久性が大幅に向上することが明らかになった。
【0039】
比較例2
市販の過酸化物硬化型の未硬化シリコーンゴム組成物(信越化学工業社製「X-30-3017U」、ポリシロキサンの他に乾式シリカ、湿式シリカとウェッター含む)100重量部に、市販の第1の硬化剤(信越化学工業社製「C-24」(商品名)、p-メチルベンゾイルパーオキサイド約50重量%にジメチルシリコーンオイルを含む)を上記未硬化シリコーンゴム組成物に対して0.8重量部、市販の第2の硬化剤(信越化学工業社製「C-3」(商品名)、ジクミルパーオキサイド)を上記未硬化シリコーンゴム組成物に対して3.0重量部、市販のアゾ系有機発泡剤(アゾビスイソブチロニトリル(AIBN 50重量%含有)(信越化学工業社製KE-P-13(商品名))を上記未硬化シリコーンゴム組成物に対して2.5重量部、及び市販の着色剤(信越化学工業社製KE-カラーBR(商品名))を上記未硬化シリコーンゴム組成物に対して0.5重量部添加して未硬化発泡性シリコーンゴム組成物を調製した。
【0040】
上記未硬化発泡性シリコーンゴム組成物を用いることを除き、実施例1と同様にして定着ロールを作製した。この定着ロールの発泡シリコーンゴム層の断面を観察したところ、セルの大きさは発泡シリコーンゴム層の厚さ方向にほぼ均一であった。
【0041】
この結果から、シリコーンゴムとして過酸化物硬化型のシリコーンゴムを用いた場合には、芯金の高周波誘導加熱を行っても、発泡シリコーンゴム層内におけるセル径は厚さ方向に変化しないことが明らかになった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製芯金と、該金属製芯金を被覆する発泡シリコーンゴム層とを有し、前記発泡シリコーンゴム層中の芯金側領域の平均セル径が、外側領域の平均セル径よりも小さいことを特徴とするスポンジロール。
【請求項2】
前記発泡シリコーンゴム層が単一の組成を有する請求項1記載のスポンジロール。
【請求項3】
前記芯金側領域の平均セル径と前記外側領域の平均セル径の相違は、前記芯金側領域と前記外側領域の発泡時の加熱条件を異ならすことにより生ぜしめたものである請求項1又は2記載のスポンジロール。
【請求項4】
前記シリコーンゴムの発泡時の加熱工程が、前記金属製芯金を選択的に加熱する芯金加熱工程と、該シリコーンゴム組成物側から加熱する工程とを含む請求項3記載のスポンジロール。
【請求項5】
前記発泡シリコーンゴム層の芯金側領域中の平均セル径が60〜120μm、外側領域中の平均セル径が110〜180μmである請求項1ないし4のいずれか1項に記載のスポンジロール。
【請求項6】
前記芯金側領域中の平均セル径が70μm〜110μmであり、前記外側領域中の平均セル径が130〜160μmである請求項5記載のスポンジロール。
【請求項7】
前記発泡シリコーンゴム層の横断面の芯金側領域の厚さが1mm以上である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のスポンジロール。
【請求項8】
定着用ロールである請求項1ないし7のいずれか1項に記載のスポンジロール。
【請求項9】
金属製芯金を、湿式シリカ及び発泡剤を含む付加硬化型発泡シリコーンゴム組成物で被覆し、これを加熱して該シリコーンゴム組成物を発泡硬化させる工程を含むスポンジロールの製造方法であって、該加熱工程が、該金属製芯金を選択的に加熱する芯金加熱工程と、該シリコーンゴム組成物側から加熱する工程とを含む、スポンジロールの製造方法。
【請求項10】
前記芯金加熱工程が、高周波誘導加熱により行なわれる請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記シリコーンゴム組成物側から加熱する工程が、炉内加熱方式又は遠赤外加熱方式により行なわれる請求項9又は10記載の方法。
【請求項12】
前記炉内加熱方式又は遠赤外加熱方式が、一次加熱段階と二次加熱段階の2段階に分けて行なわれる請求項11に記載の方法。


【公開番号】特開2007−170473(P2007−170473A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−366275(P2005−366275)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(000227412)シンジーテック株式会社 (99)
【Fターム(参考)】