説明

スライドドア式自動車のアッパーレール取付部構造及びその組付方法

【課題】 スライドドア開口部の高さを低くすることなく良好な乗降性を保持し、アッパーレールの取付精度を向上させるとともに溶接作業を簡単化して工数を低減し、さらに溶接応力を低減させて耐久性及び信頼性を向上させたスライドドア式自動車のアッパーレール取付部構造及びその組付方法を提供する。
【解決手段】 スライドドアを案内するアッパーレール8が装着されるアッパーレール取付部10をサイドボデーアウターパネル4及びサイドボデーインナーパネル5に連結してなるスライドドア式自動車のアッパーレール取付部であって、アッパーレール取付部10の上部を構成するアッパーカバー7と下部を構成するロアカバー6とを別個に製作し、サイドボデーアウターパネル4とサイドボデーインナーパネル5とを接合する前に、アッパーカバー7の下面にアッパーレール8を固定してから該アッパーカバー7をサイドボデーアウターパネル5に溶接接合している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライドドア式自動車に適用され、スライドドアを案内するアッパーレールが装着されるアッパーレール取付部をサイドボデーアウターパネル及びサイドボデーインナーパネルに連結して構成されたスライドドア式自動車のアッパーレール取付部構造及びその組付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図1はスライドドア式自動車の車体の側面図を示す。また、図6はアッパーレール取付部の横断面図(図1におけるA―A線断面図)である。
図1に示すように、スライドドア式自動車では、車体100の前後方向に移動するスライドドアをガイドするため、車体前後方向に沿って延設された3本のレール、すなわちスライドドア開口部2の上側のアッパーレール取付部に取付けられたアッパーレール8、スライドドア開口部2の後部パネルに取付けられたセンターレール18及びスライドドア開口部2の下部パネルに取付けられた下部レール28を備えている。
【0003】
このうち、上記アッパーレール8は、車両前方に向かって車両内側へと侵入して行くような形状となっていることから、図6に示すように、アッパーレール取付部200は車両内側に陥没した形状となっている。従来、このアッパーレール取付部200は、ドア側の開口高さ寸法C1が奥側の高さ寸法よりも大きい略台形状の断面形状となっている。
すなわち、図6において、3はルーフパネル、4はサイドボデーアウターパネル、5はサイドボデーインナーパネル、21はドリップレール、20はアッパーレール取付部200の陥没した形状を構成するカバーであり、該カバー20は上記のように、略台形状の断面形状に一体形成されている。
【0004】
上記カバー20は、上壁20a、下壁20b、該上壁20aの内側端部と下壁20bの内側端部との間に位置する縦壁20c、該上壁20aの外側端部に連続して形成されるフランジ部20d、該下壁20bの外側端部に連続して形成されるフランジ部20eからなり、上記フランジ部20dがサイドボデーアウターパネル4に溶接接合され、上記フランジ部20eがサイドボデーアウターパネル4とサイドボデーインナーパネル5に溶接接合されている。
そして上記アッパーレール8は、上記カバー20の縦壁20cにスポット溶接Sによって接合されている。
【0005】
なお、スライドドアを案内するアッパーレールが装着されるアッパーレール取付部を構成するカバーを車両内側に陥没した形状とし、該カバーに、スライドドアを案内するアッパーレールを装着したスライドドア式自動車のアッパーレール取付構造が、特許文献1や特許文献2等によって提供されている。
【特許文献1】実開昭58−172674号公報
【特許文献2】実公平7−37956号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図6に示されるような従来のアッパーレール取付構造にあっては、次のような解決すべき問題点がある。
すなわち、上記従来技術にあっては、アッパーレール取付部200におけるカバー20の形状が車両内側に陥没した形状となっていることから、カバー20のプレス加工時において加工性を向上させるため、図6(B)のように、カバー20の下壁20bの外側端部を下げて、カバー20のドア側の開口を図の破線のように車両高さ方向に広げて(入口高さC1)、略台形状の断面形状とする必要があった。
その結果、車両への乗降に使用されるスライドドア開口部2の高さD1が低くならざるを得ず、スライドドア開口部2が高さ方向に小さくなって、乗降性に影響を及ぼしていた。
【0007】
また、上記従来技術にあっては、アッパーレール取付部の組付時に、略台形状の断面形状に形成された1枚のカバー20のうち、該カバー20の外側端部に形成されたフランジ部20dをサイドボデーアウターパネル4に溶接接合するとともに、フランジ部20eをサイドボデーインナーパネル5に溶接接合するので、溶接位置の自由度が少なくなってアッパーレール8の取付精度が低下し易くなるとともに、溶接作業工数が多くなり、また1枚のカバー20の両端フランジ部20d,20eを溶接によって拘束することから、該カバー20とサイドボデーアウターパネル4及びサイドボデーインナーパネル5との溶接部に上記拘束による溶接応力が発生し易いという問題があった。
【0008】
一方、上記特許文献1及び特許文献2には、スライドドアを案内するアッパーレールが装着されるアッパーレール取付部を構成するカバーを車両内側に陥没した形状として該カバーにスライドドアを案内するアッパーレールを装着する手段が示されているにとどまり、上記のような2つの問題点を解決する手段は開示されていない。
【0009】
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、スライドドア開口部の高さを低くすることなく車両内側に陥没したアッパーレール取付部を構成可能として良好な乗降性を保持し、またアッパーレール取付部におけるアッパーレールの取付精度を向上させるとともに溶接作業を簡単化して溶接工数を低減し、さらにはアッパーレール取付部の溶接応力を低減させて耐久性及び信頼性を向上させたスライドドア式自動車のアッパーレール取付部構造及びアッパーレール取付部の組付方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記従来技術の有する課題を解決するために、本発明は、車体の側部パネルを構成するサイドボデーアウターパネル及びサイドボデーインナーパネルによりスライドドアで開閉される側部開口を形成し、前記スライドドアを案内するアッパーレールが装着されるアッパーレール取付部を前記サイドボデーアウターパネル及びサイドボデーインナーパネルに連結してなるスライドドア式自動車のアッパーレール取付部構造であって、前記アッパーレール取付部を、前記サイドボデーアウターパネルに溶接接合されるとともに前記アッパーレールが固着されるアッパーカバーと前記サイドボデーインナーパネルに溶接接合されるロアカバーとを溶接接合して構成している。
【0011】
そして、本発明において、前記アッパーカバーは、前記サイドボデーアウターパネルに溶接接合されるフランジ部と、該フランジ部に連設されて車体内側に延びるとともに下面に前記アッパーレールが固着される上壁とを備え、前記ロアカバーは、前記サイドボデーインナーパネルに溶接接合されるフランジ部と、該フランジ部に連設されて車体内側に延びる下壁とを備え、前記アッパーカバーの上壁の内側端部と前記ロアカバーの下壁の内側端部とを溶接接合している。
【0012】
また、本発明において、前記アッパーカバーの上壁の内側端部を下方に折り曲げて縦壁を形成するとともに、前記ロアカバーの下壁の内側端部を上方に折り曲げて縦壁を形成し、前記アッパーカバー側の縦壁と前記ロアカバー側の縦壁とを該アッパーカバー側の縦壁が車両外側になるように重ね合わせて溶接接合し、前記アッパーレール取付部を車体外側に開口した略コの字状断面に形成している。
【0013】
さらに、本発明において、前記アッパーカバーは前記サイドボデーアウターパネルに溶接接合されるフランジ部と、該フランジ部に連設され下面に前記アッパーレールが固着された上壁と、該上壁の内側端から下方に延設されて前記ロアカバーに溶接接合される縦壁とを備えるとともに、前記スライドドアに設けられた係止部材と当接されるストッパー部材を前記アッパーカバーの上壁及び縦壁に固定している。
【0014】
また、本発明は、以上のように構成されたスライドドア式自動車のアッパーレール取付部の組付方法に係り、
車体の側部パネルを構成するサイドボデーアウターパネル及びサイドボデーインナーパネルによりスライドドアで開閉される側部開口を形成し、前記スライドドアを案内するアッパーレールが装着されるアッパーレール取付部を前記サイドボデーアウターパネル及びサイドボデーインナーパネルに連結してなるスライドドア式自動車のアッパーレール取付部の組付方法であって、前記アッパーレール取付部の上部を構成するアッパーカバーと下部を構成するロアカバーとを別個に製作し、前記サイドボデーアウターパネルと前記サイドボデーインナーパネルとを接合する前に、前記アッパーカバーの下面に前記アッパーレールを固定してから前記アッパーカバーを前記サイドボデーアウターパネルに溶接接合している。
【0015】
そして、本発明において、前記サイドボデーアウターパネルと前記サイドボデーインナーパネルとを接合する前に、前記ロアカバーを前記サイドボデーインナーパネルに溶接接合してから前記ロアカバーの内側端部を前記アッパーカバーの内側端部に溶接接合している。
【発明の効果】
【0016】
上述の如く、本発明に係るスライドドア式自動車のアッパーレール取付部構造及びアッパーレール取付部の組付方法においては、アッパーレール取付部を、サイドボデーアウターパネルに溶接接合されるとともにアッパーレールが固着されるアッパーカバーとサイドボデーインナーパネルに溶接接合されるロアカバーとを溶接接合して構成することにより、従来技術のように単一のカバーのプレス加工のために入口高さを広げることが不要となり、アッパーレール取付部を車体外側に開口した略コの字状断面に形成して入口高さを従来技術よりも小さくできる。したがって、スライドドア開口部の高さを従来の構造よりも大きくすることが可能となり、乗員の乗降性の向上が図れる。さらに、アッパーカバーとロアカバーにて構成することによって、カバーの成形性及び部品精度が向上し、スライドドアの建付けの精度を向上させることができて、スライドドアのスムーズな動きを容易に確保できる。
【0017】
また、本発明によれば、アッパーレール取付部の上部を構成するアッパーカバーと下部を構成するロアカバーとを別個に製作しておき、前記サイドボデーアウターパネルと前記サイドボデーインナーパネルとを接合する前に、アッパーカバーの下面にアッパーレールを固定してから前記アッパーカバーをサイドボデーアウターパネルに溶接接合するとともに、ロアカバーをサイドボデーインナーパネルに溶接接合し、さらに前記ロアカバーの内側端部を前記アッパーカバーの内側端部に溶接接合してアッパーレール取付部を組付けているので、下面にアッパーレールを固定したアッパーカバーとサイドボデーアウターパネルとの溶接接合と、ロアカバーとサイドボデーインナーパネルとの溶接接合を、互いに溶接接合作業の影響を及ぼし合うことなく別々に行なうことができて、前記それぞれの溶接接合における溶接位置の自由度が広がって溶接作業が容易になり、溶接作業工数を低減できる。
【0018】
さらに、本発明によれば、下面にアッパーレールを固定したアッパーカバーとサイドボデーアウターパネルとの溶接接合、ロアカバーとサイドボデーインナーパネルとの溶接接合、及びアッパーカバーとロアカバーとの内側端部の溶接接合を行ってから、サイドボデーアウターパネルとサイドボデーインナーパネルとを溶接接合するので、サイドボデーアウターパネルとサイドボデーインナーパネルとの溶接接合の方向が車幅方向となって、溶接性が向上する。
【0019】
また、本発明によれば、アッパーカバーの下面へのアッパーレールの溶接接合を、ロアカバー及びサイドボデーインナーパネル側からの拘束や熱変形等の影響を受けることなく独立して行うことが可能となる。そのため、アッパーレールのアッパーカバーへの取付精度が上昇し、アッパーレールのアッパーカバーへの溶接接合時のアッパーレールの熱変形を抑制でき、かかるアッパーレールの熱変形に伴うスライドドアの作動不良の発生を防止できる。
また、本発明によれば、下面にアッパーレールを固定したアッパーカバーとサイドボデーアウターパネルとの溶接接合、及びロアカバーとサイドボデーインナーパネルとの溶接接合を、互いに溶接接合作業の影響を及ぼし合うことなく別々に行った後に、アッパーカバー及びロアカバーの内側端部同士を溶接接合するので、従来技術のような1枚のカバーの両端フランジ部をサイドボデーアウターパネル及びサイドボデーインナーパネルに溶接接合する手段に比べて溶接接合部の拘束及びかかる拘束による溶接応力が小さくなる。
【0020】
さらに、本発明によれば、アッパーカバー側の上壁に連設される縦壁とロアカバー側の下壁に連設される縦壁とを、アッパーカバー側の縦壁が車両外側になるように重ね合わせて溶接接合したことにより、スライドドアの開閉時に該スライドドアの係止部材に当接されるストッパー部材を経てアッパーカバーに加わる力を、2つの縦壁を重ね合せた面で受けることとなって、アッパーレール取付部の剛性が向上するとともに、スポット溶接時の溶接点の減少や補強の簡素化等によるアッパーレール取付部の組付コストの低減を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を図示の実施の形態に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態に係るアッパーレール取付部構造が適用されるスライドドア式自動車の車体の側面図、図2は本発明の実施形態に係るアッパーレール取付部の横断面図(図1におけるA―A線断面図)である。
本発明の実施形態に係るスライドドア式自動車の車体100の側部には、図1に示すように、車体前後方向に移動するスライドドアをガイドするため、上下に間隔を置いて3本のレールが車体前後方向に沿って延設されている。すなわち、スライドドア式自動車は、スライドドア開口部2の上側のアッパーレール取付部に取付けられたアッパーレール8、スライドドア開口部2の後部パネルに取付けられたセンターレール18及びスライドドア開口部2の下部パネルに取付けられた下部レール28をそれぞれ備えている。なお、1はスライドドア開口部2の車体前方側に設けられる前部ドア開口部、3は車体100の屋根を構成するルーフパネルである。
【0022】
本発明の実施形態に係るアッパーレール取付部10は、本発明の特徴部分を構成するものであり、図2に示すように、アッパーレール8が車両前方に向かって車両内側へと侵入して行くような形状となっていることから、当該アッパーレール取付部10は車両のサイドボデーに対して車両内側に陥没した形状となっている。
車体100の側部パネルは、サイドボデーアウターパネル4及びサイドボデーインナーパネル5によって構成されている。
【0023】
上記アッパーレール取付部10は、サイドボデーアウターパネル4に溶接接合されるとともに前記アッパーレール8が固着されるアッパーカバー7と、サイドボデーインナーパネル5に溶接接合されるロアカバー6とを溶接接合して構成されている。すなわち、アッパーレール取付部10のカバーは、アッパーカバー7及びロアカバー6という2つのカバー部材によって構成されている。
アッパーカバー7は、下面にアッパーレール8がスポット溶接S3により接合される上壁7aと、該上壁7aの車体外側になる外側端部を斜め上方内側に折り曲げて形成され、サイドボデーアウターパネル4の車体外側面にスポット溶接S4にて接合されるフランジ部7dと、上壁7aの車体の中央側になる内側端部を下方に折り曲げて形成された縦壁7bとにより構成されている。
また、ロアカバー6は、前記アッパーカバー7の上壁7aとほぼ平行に水平方向に沿って延び、外側端部寄りの部分がサイドボデーインナーパネル5の水平方向面にスポット溶接S1により接合される下壁6aと、該下壁6aの車体外側になる外側端部を下方に折り曲げて形成され、サイドボデーインナーパネル5の車体外側面に溶接接合されるとともに、サイドボデーインナーパネル5の車体外側面とサイドボデーアウターパネル4の車体内側面に挟まれて溶接接合されるフランジ部6dと、下壁6aの車体の中央側になる内側端部を上方に折り曲げて形成された縦壁6bとにより構成されている。
【0024】
そして上記アッパーレール取付部10は、アッパーカバー7の上壁7aの内側端部を下方に折り曲げて形成された縦壁7bと、ロアカバー6の下壁6aの内側端部を上方に折り曲げて形成された縦壁6bとを、アッパーカバー7側の縦壁7bが車体外側に位置するように重ね合わせてスポット溶接S2にて接合することにより、車体外側に開口した略コの字状断面に形成されている。
【0025】
本発明の実施形態のアッパーレール取付部10は、サイドボデーアウターパネル4に溶接接合されるとともに下面にアッパーレール8が固着されるアッパーカバー7と、サイドボデーインナーパネル5に溶接接合されるロアカバー6とを溶接接合して構成されているため、図2(B)に破線Bで示す従来技術のように単一のカバーのプレス加工のため入口幅をC1のように広げることが不要となって、アッパーレール取付部10を、実線Aのように車体外側に開口した略コの字状断面に形成して、入口幅Cを従来技術よりも小さくでき、スライドドア開口部2の高さDを従来技術の場合D1よりも大きくすることが可能となる。これにより、乗員の乗降性が向上する。
【0026】
上記アッパーレール取付部10は、スライドドアを閉じる時に、比較的重量物であるスライドドアの動きを受け止めなければならず、スライドドアから力を受けることとなる。スライドドアからの力は、アッパーレール8及び後述するストッパー11を介して、アッパーカバー7に伝達される。この時、アッパーカバー7の車体外側になるフランジ部7dをサイドボデーアウターパネル4の車体外側に重ねてスポット溶接S4にて接合しているので、スポット溶接だけでなく面で力を受けることができ、スポット溶接の打点を減らすことや補強の簡素化が可能となる。さらに、スポット溶接S4では、ドリップレール21がフランジ部7dの車体外側に重ねられて溶接されている。つまり、フランジ部7dは、サイドボデーアウターパネル4とドリップレール21に挟まれて溶接されている。これによって、更なる剛性向上が図られている。なお、ドリップレール21は、ルーフパネル3から車両の側部へ流れてくる雨水を受け止めて、車両前後方向に流す樋状の部材であり、ルーフパネル3の下端部が重ね合わされて溶接されている。
同様に、ロアカバー6の車体外側になるフランジ部6dをサイドボデーインナーパネル5の車体外側に重ねてスポット溶接にて接合しているので、スポット溶接だけでなく面で力を受けることができ、スポット溶接の打点を減らすことや補強の簡素化が可能となる。さらに、アッパーレール取付部10の強度・耐久性の向上と、溶接作業を容易化することができ、生産性の向上となる。
また、図2に示すように、ロアカバー6のフランジ部6dを含む下部と、サイドボデーアウターパネル4と、サイドボデーインナーパネル5とが3枚重ねにて重ね合わされて接合されているため、スライドドアの開閉時に、ストッパー11、アッパーレール8、アッパーカバー7を経た当該接合部に加わる力を、上記3枚重ねの面で受けることとなって、アッパーレール取付部10の剛性が向上するとともに、スポット溶接時の溶接点の減少や補強の簡素化等によるアッパーレール取付部10の組付コストを低減できる。
さらに、上記3枚重ねの部位に隣接して、ロアカバー6の下壁6aがサイドボデーインナーパネル5の水平方向面にスポット溶接S1により接合されることから、ロアカバー6の下部と、サイドボデーアウターパネル4と、サイドボデーインナーパネル5とによる閉断面形成部が設けられることになるので、この部位の剛性が向上する。
【0027】
図3は本発明の実施形態に係るスライドドアのストッパー部近傍の部分拡大斜視図、図4は図3におけるB−B線断面図、図5は図3におけるC−C線断面図である。
図3〜図5において、11はスライドドアに設けられた弾性体からなる係止部材(図示省略)と当接されるストッパーである。スライドドア側の係止部材は、先端が細くなった円錐形状をしており、ストッパー11は、係止部材の先端を受け入れる孔を備えている。孔の周縁は、車両前方側(係止部材進入側と反対側)に曲げられている。スライドドア側の係止部材の先端がストッパー11の孔に挿入されることで、スライドドアと車体が係合し、スライドドアのアッパーレール8のスライド方向以外の動きを規制するとともに、スライドドア閉じ位置の位置決めを行っている。
図4及び図5に示されるように、上記ストッパー11を構成するストッパプレート11aは、アッパーカバー7の上壁7aにスポット溶接S6にて接合されるとともに、アッパーカバー7の縦壁7bにスポット溶接S7にて接合されている。
そして、上記のように、アッパーカバー7の縦壁7bとロアカバー6の縦壁6bとは、アッパーカバー7側の縦壁7bが車両外側になるように重ね合わせられて溶接接合されている。
【0028】
このようにアッパーカバー7側の上壁7aに連設される縦壁7bとロアカバー6側の下壁6aに連設される縦壁6bとを、アッパーカバー7側の縦壁7bが車両外側になるように重ね合わせて溶接接合した構成にすることにより、スライドドアの開閉時に、該スライドドアの係止部材に当接されるストッパー11を経てアッパーカバー7に加わる力を2つの縦壁6b,7bの重ね合せ面で受けることとなり、アッパーレール取付部10の剛性が向上するとともに、スポット溶接時の溶接点の減少や補強の簡素化等によるアッパーレール取付部10の組付コストを低減できる。
さらに、ストッパー11をアッパーカバー7の上壁7aと縦壁7bに固定したので、アッパーカバー7の剛性が向上するとともに、ストッパー11の剛性も向上する。また、アッパーレール8とストッパー11が、アッパーカバー7に取付けられているので、アッパーレール8とストッパー11の取付け位置の精度が向上し、容易にスライドドアのスライドをスムーズに行うことができる。
【0029】
次に、本発明の実施形態に係るアッパーレール取付部の組付方法について説明する。
先ず、上記アッパーレール取付部10の上部を構成するアッパーカバー7と下部を構成するロアカバー6とを別個に製作しておく。
そして、サイドボデーアウターパネル4とサイドボデーインナーパネル5とを接合する前に、アッパーカバー7の下面にアッパーレール8をスポット溶接S3にて接合し、その後、アッパーカバー7のフランジ部7dをサイドボデーアウターパネル4に溶接接合し、ロアカバー6の下壁6aをサイドボデーインナーパネル5にスポット溶接S1にて接合するとともに、ロアカバー6のフランジ部6dをサイドボデーインナーパネル5及びサイドボデーアウターパネル4に3枚重ねで溶接接合する。
次いで、アッパーカバー7の縦壁7bとロアカバー6の縦壁6bとを上記のような形態で重ね合わせてスポット溶接S2にて接合する。
【0030】
上記アッパーレール取付部10は、以上の方法で組付けるので、下面にアッパーレール8を固定したアッパーカバー7とサイドボデーアウターパネル4との溶接接合、及びロアカバー6とサイドボデーインナーパネル5との溶接接合を、互いに溶接接合作業の影響を及ぼし合うことなく別々に行うことができ、上記それぞれの溶接接合における溶接位置の自由度が広がって溶接作業が容易になり、溶接作業工数を低減できる。
また、下面にアッパーレール8を固定したアッパーカバー7とサイドボデーアウターパネル4との溶接接合、ロアカバー6とサイドボデーインナーパネル5との溶接接合、及びアッパーカバー7とロアカバー6との溶接接合を行ってから、サイドボデーアウターパネル4とサイドボデーインナーパネル5とを溶接接合するので、サイドボデーアウターパネル4とサイドボデーインナーパネル5とを溶接接合の方向が車幅方向となって、溶接作業性が向上する。
【0031】
また、アッパーカバー7の下面へのアッパーレール8の溶接接合を、ロアカバー6及びサイドボデーインナーパネル5側からの拘束や熱変形等の影響を受けることなく独立して行うことが可能となるため、アッパーレール8のアッパーカバー7への取付精度が上昇し、アッパーレール8のアッパーカバー7への溶接接合時のアッパーレール8の熱変形を抑制でき、かかるアッパーレール8の熱変形に伴うスライドドアの作動不良の発生を防止できる。
さらに、下面にアッパーレール8を固定したアッパーカバー7とサイドボデーアウターパネル4との溶接接合、及びロアカバー6とサイドボデーインナーパネル5との溶接接合を、互いに溶接接合作業の影響を及ぼし合うことなく別々に行った後に、アッパーカバー7及びロアカバー6の内側端部同士を溶接接合するので、従来技術のような1枚のカバーの両端フランジ部をサイドボデーアウターパネル4及びサイドボデーインナーパネル5に溶接接合する手段に比べて溶接接合部の拘束及びかかる拘束による溶接応力が小さくなる。
【0032】
以上、本発明の実施の形態につき述べたが、本発明は既述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態に係るアッパーレール取付部構造が適用されるスライドドア式自動車の車体を示す側面図である。
【図2】(A)は本発明の実施形態に係るアッパーレール取付部の横断面図(図1におけるA―A線断面図)、(B)は作用説明図である。
【図3】本発明の実施形態に係るスライドドアのストッパー部近傍の部分拡大斜視図である。
【図4】図3におけるB−B線断面図である。
【図5】図3におけるC−C線断面図である。
【図6】従来のアッパーレール取付部の横断面図、(B)は作用説明図である。
【符号の説明】
【0034】
1 前部ドア開口部
2 スライドドア開口部
3 ルーフパネル
4 サイドボデーアウターパネル
5 サイドボデーインナーパネル
6 ロアカバー
6a 下壁
6b 縦壁
6d フランジ部
7 アッパーカバー
7a 上壁
7b 縦壁
7d フランジ部
8 アッパーレール
10 アッパーレール取付部
11 ストッパー
11a ストッパプレート
100 車体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の側部パネルを構成するサイドボデーアウターパネル及びサイドボデーインナーパネルによりスライドドアで開閉される側部開口を形成し、前記スライドドアを案内するアッパーレールが装着されるアッパーレール取付部を前記サイドボデーアウターパネル及びサイドボデーインナーパネルに連結してなるスライドドア式自動車のアッパーレール取付部構造であって、前記アッパーレール取付部を、前記サイドボデーアウターパネルに溶接接合されるとともに前記アッパーレールが固着されるアッパーカバーと前記サイドボデーインナーパネルに溶接接合されるロアカバーとを溶接接合して構成したことを特徴とするスライドドア式自動車のアッパーレール取付部構造。
【請求項2】
前記アッパーカバーは、前記サイドボデーアウターパネルに溶接接合されるフランジ部と、該フランジ部に連設されて車体内側に延びるとともに下面に前記アッパーレールが固着される上壁とを備え、前記ロアカバーは、前記サイドボデーインナーパネルに溶接接合されるフランジ部と、該フランジ部に連設されて車体内側に延びる下壁とを備え、前記アッパーカバーの上壁の内側端部と前記ロアカバーの下壁の内側端部とを溶接接合したことを特徴とする請求項1に記載のスライドドア式自動車のアッパーレール取付部構造。
【請求項3】
前記アッパーカバーの上壁の内側端部を下方に折り曲げて縦壁を形成するとともに、前記ロアカバーの下壁の内側端部を上方に折り曲げて縦壁を形成し、前記アッパーカバー側の縦壁と前記ロアカバー側の縦壁とを該アッパーカバー側の縦壁が車両外側になるように重ね合わせて溶接接合し、前記アッパーレール取付部を車体外側に開口した略コの字状断面に形成したことを特徴とする請求項1または2に記載のスライドドア式自動車のアッパーレール取付部構造。
【請求項4】
前記アッパーカバーは前記サイドボデーアウターパネルに溶接接合されるフランジ部と、該フランジ部に連設され下面に前記アッパーレールが固着された上壁と、該上壁の内側端から下方に延設されて前記ロアカバーに溶接接合される縦壁とを備えるとともに、前記スライドドアに設けられた係止部材と当接されるストッパー部材を前記アッパーカバーの上壁及び縦壁に固定したことを特徴とする請求項1に記載のスライドドア式自動車のアッパーレール取付部構造。
【請求項5】
車体の側部パネルを構成するサイドボデーアウターパネル及びサイドボデーインナーパネルによりスライドドアで開閉される側部開口を形成し、前記スライドドアを案内するアッパーレールが装着されるアッパーレール取付部を前記サイドボデーアウターパネル及びサイドボデーインナーパネルに連結してなるスライドドア式自動車のアッパーレール取付部の組付方法であって、前記アッパーレール取付部の上部を構成するアッパーカバーと下部を構成するロアカバーとを別個に製作し、前記サイドボデーアウターパネルと前記サイドボデーインナーパネルとを接合する前に、前記アッパーカバーの下面に前記アッパーレールを固定してから前記アッパーカバーを前記サイドボデーアウターパネルに溶接接合することを特徴とするスライドドア式自動車のアッパーレール取付部の組付方法。
【請求項6】
前記サイドボデーアウターパネルと前記サイドボデーインナーパネルとを接合する前に、前記ロアカバーを前記サイドボデーインナーパネルに溶接接合してから前記ロアカバーの内側端部を前記アッパーカバーの内側端部に溶接接合することを特徴とする請求項5に記載のスライドドア式自動車のアッパーレール取付部の組付方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−38768(P2007−38768A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−223600(P2005−223600)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】