説明

スラグからのフッ素溶出抑制方法

【課題】フッ素を含有する、転炉を使用したプロセスで発生したスラグからのフッ素の溶出を、安価にかつ確実に、平成3年環境庁告示46号に規定された基準値である0.8mg/L以下に抑制する。
【解決手段】CaO/SiOが1.5以上2.5以下であるとともにフッ素を含有する、転炉を使用したプロセスで発生したスラグを、出滓温度から500℃まで3℃/min以下の冷却速度で冷却することで、このスラグ中のフッ素含有鉱物相を、水和反応性の大きい(2CaO・SiO・CaF相、(3CaO・SiO・CaF相、3CaO・SiO―CaF相はなく、水和反応性の小さい3CaO・2SiO・CaF相および2CaO・SiO―CaF相とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラグからのフッ素溶出抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転炉を用いた溶銑の精錬においては、溶銑予備処理スラグまたは転炉スラグの生成や転炉内での反応を促進するため、蛍石(主成分はCaF)を使用する場合がある。この際には、フッ素を多く含んだ溶銑予備処理スラグまたは転炉スラグが生成する。転炉を用いた精錬で副生する溶銑予備処理スラグまたは転炉スラグは、コンクリート用骨材や土工用材等の用途で広く再利用されている。ところが、フッ素を多く含有する溶銑予備処理スラグまたは転炉スラグを土工用材等として再利用する場合には、溶銑予備処理スラグまたは転炉スラグからのフッ素の溶出が環境上問題となる。
【0003】
スラグからのフッ素の溶出についての試験方法が平成3年環境庁告示46号に規定され、フッ素の溶出濃度は基準値として0.8mg/L以下であることが規制された。したがって、フッ素の溶出濃度がこの基準値を満たすことができないスラグは、土工用材等に使用することができず、スラグの再利用が制限される。したがって、これまでにも、スラグからのフッ素の溶出を抑制するための発明が多数開示されている。
【0004】
特許文献1には、フッ素を含有する転炉スラグにセメント物質および硫酸根を含む粉末を添加混合して、添加物から生成する化合物中にフッ素を固定することにより、スラグからのフッ素の溶出を抑制する発明が開示されている。
【0005】
特許文献2には、溶融状態のフッ素を含有する鉄鋼スラグを溶解炉から排滓する前に、あるいはスラグ鍋から排滓した後に、シリカ、シリカ・マグネシア系物質またはマンガン鉱石の1種以上からなる改質材を添加し、スラグ成分を調整することで、スラグからのフッ素の溶出を抑制する発明が開示されている。
【0006】
特許文献3には、酸化精錬時の精錬容器内の溶銑にフッ素を含有する製鋼スラグとSiOおよび酸化鉄を投入し、精錬後に発生するスラグ成分を調整することで、スラグからのフッ素の溶出を抑制する技術が開示されている。
【0007】
特許文献4には、電気炉、あるいはスラグ鍋中に石灰およびフェロシリコン合金を添加し、スラグ成分を調整することで、スラグからのフッ素の溶出を抑制する発明が開示されている。
【0008】
さらに、特許文献5には、炭素系固体還元剤充填型の乾式還元炉で生成する、酸化鉄をほとんど含まないスラグを急冷し非晶質とすることによって、スラグからのフッ素の溶出を抑制する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−316143号公報
【特許文献2】特開2000−355711号公報
【特許文献3】特開2005−8935号公報
【特許文献4】特開2005−163147号公報
【特許文献5】特開2002−53905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1〜4により開示された発明では、添加剤を使用する必要があり添加剤のコストが嵩むことや、添加剤を均一に混合することに技術的な困難性がある。
また、これらの発明では、添加剤を使用して、フッ素を含有するスラグの成分についてフッ素の溶出濃度を低減する範囲を規定することがなされている。しかしながら、本発明者らの検討結果によれば、これらの発明に基づいても、スラグの冷却速度が大きい場合には十分にフッ素の溶出濃度を抑制できないという課題があることが判明した。
【0011】
特許文献5により開示された発明が対象とするスラグは、例えば酸化鉄をほとんど含まずにCaO/SiOが低いといったように、溶銑予備処理スラグまたは転炉スラグとは成分が大きく異なるため、フッ素の溶出挙動も異なる。本発明者らの検討結果によれば、この発明を溶銑予備処理スラグおよび転炉スラグに適用して、溶銑予備処理スラグおよび転炉スラグが非晶質となるように急冷すると、却ってフッ素の溶出が増大することが判明した。
【0012】
本発明は、従来の技術が有するこのような課題に鑑みてなされたものであり、フッ素を含有するスラグからのフッ素の溶出を、安価にかつ確実に、平成3年環境庁告示46号に規定された基準値である0.8mg/L以下に抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、CaO/SiOが1.5以上2.5以下であるとともにフッ素を含有する、転炉を使用したプロセスで発生したスラグを、出滓温度から500℃まで3℃/min以下の冷却速度で冷却することを特徴とするスラグからのフッ素溶出抑制方法である。この本発明により、フッ素を含有する、転炉を使用したプロセスで発生したスラグからのフッ素の溶出を、安価にかつ確実に抑制することができる。
【0014】
この本発明において「転炉を使用したプロセスで発生したスラグ」は、溶銑の転炉装入前に混銑炉や取鍋さらには転炉等を用いた予備処理操業により生成される溶銑予備処理スラグや、炉を用いた上吹き操業、底吹き操業または上下吹き操業等により生成される転炉スラグを含む。
【0015】
この本発明では、「転炉を使用したプロセスで発生したスラグ」のAl濃度が5%以上(本明細書では特に断りがない限り「%」は「質量%」を意味する)であることにより、フッ素の溶出抑制効果は向上するので、好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、フッ素を含有する、転炉を使用したプロセスで発生したスラグからのフッ素の溶出を、安価にかつ確実に、上述した基準値である0.8mg/L以下に抑制することができる。このため、フッ素を含有する、転炉を使用したプロセスで発生したスラグの土工用材への再利用が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係るスラグからのフッ素溶出抑制方法を実施するための形態を、以下に説明する。
本発明が対象とする、フッ素を含有する、転炉を使用したプロセスで発生したスラグの組成は、CaO:35%以上55%以下、SiO:14%以上36%以下、Al:0%以上8%以下である。
【0018】
転炉を使用したプロセスで発生したスラグの組成は、当然のことながら、例えば操業法や溶鋼組成等の各種要因により、変動する。しかし、多くの場合にこのスラグは、フッ素を例えば0.2%以上3.5%以下程度含有する。
【0019】
また、転炉を使用したプロセスで発生したスラグに含まれるフッ素は、例えばCaF、CaF(PO、3CaO・2SiO・CaF、(2CaO・SiO・CaF、(3CaO・SiO・CaF、または、11CaO・7Al・CaF等として存在するが、いずれの鉱物相が存在するかは、スラグ組成、操業法さらにはスラグ冷却条件といった各種要因により、変動する。
【0020】
本発明では、CaO/SiOが1.5以上2.5以下であるとともにフッ素を含有する、転炉を使用したプロセスで発生したスラグを、出滓温度から500℃まで3℃/min以下の冷却速度で冷却することによって、このスラグからのフッ素の溶出を、平成3年環境庁告示46号に規定された基準値である0.8mg/L以下に抑制できる。さらに、この条件に加えて、転炉を使用したプロセスで発生したスラグのAl濃度が5%以上であると、フッ素の溶出抑制効果がさらに向上する。
【0021】
このスラグは、溶銑の転炉装入前に混銑炉や取鍋さらには転炉等を用いた予備処理操業により生成される溶銑予備処理スラグや、炉を用いた上吹き操業、底吹き操業または上下吹き操業等により生成される転炉スラグを含む。溶銑予備処理スラグの出滓温度は1250℃以上1450℃以下程度、転炉スラグの出滓温度は、1550℃以上1650℃以下程度である。
【0022】
本発明者らは、CaO/SiOが様々な値を有するとともにフッ素を含有する、溶銑予備処理スラグまたは転炉スラグを、出滓温度から500℃までを様々な冷却速度で冷却して得られた溶銑予備処理スラグまたは転炉スラグに対して、X線マイクロアナライザーを用いたX線回折を行って確認した結果、以下のことが判明した。
【0023】
溶銑予備処理スラグまたは転炉スラグのCaO/SiOを1.5以上2.5以下とするとともに、冷却速度を3℃/min以下とすることによって、スラグ中のフッ素含有鉱物相が、水和反応性の大きい(2CaO・SiO・CaF相、(3CaO・SiO・CaF相、3CaO・SiO―CaF相ではなく、水和反応性の小さい3CaO・2SiO・CaF相、2CaO・SiO―CaF相となるため、スラグからのフッ素の溶出を、上述した基準値である0.8mg/L以下に抑制することができるようになる。
【0024】
本発明者らが行った基礎試験によれば、(2CaO・SiO・CaF相からのフッ素の溶出濃度は6mg/Lであるのに対し、3CaO・2SiO・CaF相からのフッ素の溶出濃度は0.9mg/L、2CaO・SiO―2%CaF相からのフッ素の溶出濃度は1.5mg/Lである。このように、溶銑予備処理スラグ又は転炉スラグ中のフッ素含有鉱物相を、(2CaO・SiO・CaF相、(3CaO・SiO・CaF相ではなく3CaO・2SiO・CaF相および2CaO・SiO―CaF相とすることにより、フッ素の溶出濃度が大幅に低減することができるようになる。
【0025】
さらに、3CaO・2SiO・CaF相とともに、溶銑予備処理スラグまたは転炉スラグ自身から溶出したフッ素を固定する効果を有する12CaO・7Al相が生成するため、さらにフッ素の溶出濃度を低減することができるようになる。
【0026】
CaO/SiOが2.5を超えると、フッ素が溶出しやすい(2CaO・SiO・CaF相、(3CaO・SiO・CaF相、3CaO・SiO―CaF相が生成されやすいため、フッ素溶出を十分に抑制できない。
【0027】
また、出滓温度から500℃までの冷却速度が3℃/minを超えると、フッ素が溶出しやすい(3CaO・SiO・CaF相、3CaO・SiO―CaF相が生成されやすい上に、スラグ中のフッ素含有鉱物相が細かくなり、周囲の溶液との接触面積が大きくなって水和反応性がより大きくなるため、フッ素溶出を十分に抑制できない。
【0028】
フッ素を含有する、転炉を使用したプロセスで発生したスラグのCaO/SiOを1.5以上2.5以下とする手段は、特定の手段には制限されないが、例えば石灰添加量を調節したり、あるいは溶銑予備処理工程前の脱珪スラグの除去量を調節したりすることが例示される。
【0029】
また、出滓温度から500℃までの冷却速度を3℃/min以下とするには、スラグヤードで土塁を作り、その中にスラグを流し込んで保温しながら冷却することが例示される。
【0030】
これらの条件に加えて、フッ素を含有する、転炉を使用したプロセスで発生した溶銑予備処理スラグまたは転炉スラグ中のAl濃度を5%以上とすると、12CaO・7Al相が生成し、フッ素の溶出濃度がさらに低減される。また、2CaO・SiO2・Al2O3相が生成するため、水和反応性の大きい(2CaO・SiO2)2・CaF2相、(3CaO・SiO2)3・CaF2相、3CaO・SiO2―CaF2相の生成を抑制できる。さらに、スラグ融点が下がり、滓化性が向上するため、水和反応性(f−CaOの減少)、および反応表面積(ポーラス状を解消)がともに小さくなり、フッ素の溶出抑制効果がさらに向上する。
【0031】
溶銑予備処理スラグまたは転炉スラグ中のAl濃度を5%以上とするには、アルミナ耐火物廃材や二次精錬スラグをAl源として添加することが例示される。
このようにして、本実施の形態により、フッ素を含有する、転炉を使用したプロセスで発生したスラグからのフッ素の溶出を、安価にかつ確実に抑制することができるようになる。
【実施例1】
【0032】
次に、実施例を参照しながら、本発明をより具体的に説明する。
表1における本発明例1〜3、および比較例1〜4は、表1に示す成分を有する転炉スラグに対して、1〜105℃/minの冷却速度で冷却して得られたものである。これらに対して、H3年環境庁告示46号に準拠したフッ素溶出試験を行った。
【0033】
冷却速度の調整は、実験室において電気炉で温度調節を行うことによって実施し、熱電対で転炉スラグの温度測定を行い、1500℃から500℃までの平均冷却速度を算出することにより、冷却速度とした。
【0034】
また、表1における比較例3、4は、溶銑予備処理後転炉から溶銑予備処理スラグを少量採取し、空冷した。温度測定は熱電対を用いた。
フッ素溶出濃度の結果を表1に合わせて示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1における本発明例1〜3は、いずれも、フッ素溶出濃度の基準値≦0.8mg/Lを満足している。
これに対し、比較例1は、CaO/SiOは2.4と、本発明の範囲内であるものの、冷却速度が105℃/minと本発明で規定する範囲の上限を大きく超えるため、フッ素溶出濃度の基準値≦0.8mg/Lを満足できない。
【0037】
比較例2は、冷却速度は2.5℃/minと本発明の範囲内であるものの、CaO/SiOが3.0と本発明で規定する範囲の上限を超えるため、フッ素溶出濃度の基準値≦0.8mg/Lを大幅に超過した。
【0038】
さらに、比較例3、4は、冷却速度が35℃/minと本発明で規定する範囲の上限を超えるとともにCaO/SiOも2.6と本発明で規定する範囲の上限を超えるため、フッ素溶出濃度の基準値≦0.8mg/Lを超過した。
【0039】
しかしながら、比較例3は比較例4よりAl濃度が高く、5%を超えているため、フッ素溶出濃度が小さい。このことからも、Al濃度を5%以上とすると、より確実にフッ素溶出を抑制できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaO/SiOが1.5以上2.5以下であるとともにフッ素を含有する、転炉を使用したプロセスで発生したスラグを、出滓温度から500℃まで3℃/min以下の冷却速度で冷却することを特徴とするスラグからのフッ素溶出抑制方法。
【請求項2】
前記転炉を使用したプロセスで発生したスラグのAl濃度が5質量%以上であることを特徴とする請求項1記載のスラグからのフッ素溶出抑制方法。

【公開番号】特開2011−37644(P2011−37644A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183757(P2009−183757)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】