説明

スラストころ軸受

【課題】転動体が径方向に移動しても保持器のポケットに衝突することがなく、保持器の損傷を防止することができ、また、軸受の負荷容量を大きくすることのできるスラストころ軸受を提供する。
【解決手段】環状部に設けた複数のポケット14にそれぞれ転動体1が保持された保持器10と、転動体1が転走する環状板部21を備えた軌道輪20とを有し、軌道輪20の環状板部21の内径側及び外径側又はいずれか一方の全周に保持器10が軸方向に移動したときに係止する係止部23a,23bを設け、この係止部23a,23bに転動体1の端面をガイドするガイド部24a,24bを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車の変速機やエアコン用コンプレッサの回転部分などに設けられて、スラスト荷重を支持するスラストころ軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のスラストころ軸受に、保持器の鍔部の外周又は内周を軌道輪の円筒部の内周面でガイドして、保持器とこれに保持されたころの径方向の位置を決めるようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】実開平5−94527号公報(第4−5頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のスラストころ軸受によれば、保持器の鍔部の径方向の寸法を小さくすると、回転軸がスラストころ軸受に偏心して取付けられていたり、回転軸が高速回転した場合に、ころが径方向に付勢され、保持器の径方向に移動してポケットの径方向端部に衝突し、ポケットが変形したり摩耗が大きくなったりするおそれがあった。
また、複数の軸受の内外径が同寸法の場合、保持器の鍔部の径方向の寸法をある程度確保する必要があるため、ころの軸方向の長さを短くせざるを得ず、このため、軸受の負荷容量を大きくすることができないという問題があった。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、軸受の負荷容量を大きくすることができ、また、転動体がポケット内を径方向に移動しても保持器のポケットに衝突することがなく、保持器の損傷を防止することができるスラストころ軸受を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るスラストころ軸受は、環状部に設けた複数のポケットにそれぞれ転動体が保持された保持器と、前記転動体が転走する環状板部を備えた軌道輪とを有し、前記軌道輪の環状板部の内径側及び外径側又はいずれか一方の全周に前記保持器が軸方向に移動したときに係止する係止部を設け、該係止部に前記転動体の端面をガイドするガイド部を設けたものである。
【0007】
また、本発明に係るスラストころ軸受は、環状部に設けた複数のポケットにそれぞれ転動体が保持された保持器と、前記転動体が転走する環状板部の内径側及び外径側の全周にフランジ部が設けられ、前記保持器が収容される軌道輪とを有し、前記軌道輪の内径側及び外径側のフランジ部又はいずれか一方のフランジ部の全周に、前記保持器が軸方向に移動したときに係止する係止部を設け、該係止部に前記転動体の端面をガイドするガイド部を設けたものである。
【0008】
また、本発明に係るスラストころ軸受は、環状部に設けた複数のポケットにそれぞれ転動体が保持された保持器と、前記転動体が転走する環状板部の内径側の全周にフランジ部が設けられた第1の軌道輪と、該第1の軌道輪と対向して配置され前記転動体が転走する環状板部の外径側の全周にフランジ部が設けられ、前記第1の軌道輪との間に前記保持器が収容された第2の軌道輪とを有し、前記第1、第2の軌道輪に設けたフランジ部又はいずれか一方のフランジ部に、前記保持器が軸方向に移動したときに係止する係止部を設け、該係止部に前記転動体の端面をガイドするガイド部を設けたものである。
【0009】
また、本発明に係るスラストころ軸受は、上記の保持器の環状部の周方向に所定の間隔で、該環状部の内径側鍔部から外径側鍔部に至るポケットを設けたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るスラストころ軸受によれば、保持器に内径側鍔部から外径側鍔部に至る径方向に長いポケットを設けたので、このポケットに収容して保持されるころの軸方向の長さを長くすることができ、これにより、負荷容量の大きいスラストころ軸受を得ることができる。
また、上記の係止部にころのガイド部を設け、ころが径方向に移動したときはその端面がガイド部に衝接するようにしたので、保持器が損傷することがない。
さらに、軌道輪の内径側及び外径側又はいずれか一方に全周にわたって係止部を設けたので、保持器が軸方向に移動しても軌道輪から抜け出すことがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[実施の形態1]
図1は本発明の実施の形態1に係るスラストころ軸受の要部を示す断面説明図、(図2のA−A断面)、図2は一部を省略した図1の平面図、図3は一部を省略した図1の分解斜視図である。
図において、1は転動体である針状ころ(以下、単にころという)、10は複数のポケット14にそれぞれころ1を保持する保持器、20は保持器10と非分離に設けられた軌道輪である。
【0012】
保持器10は例えば炭素鋼板の如く弾性を有する金属板をプレス加工により円環状に形成したもので、外周に設けられた環状部11には、波打ち屈曲部12が形成されている。この波打ち屈曲部12は、軸方向の一方の側に均等に張出した内径側張出し部12a及び外径側張出し部12bと、両張出し部12a,12bの間において他方の側に張出した中間張出し部12cとからなっており、内径側張出し部12aの内径側と外径側張出し部12bの外径側には、中間張出し部12cの柱部と同一平面上に位置する内径側鍔部13aと外径側鍔部13bが設けられている。
【0013】
そして、環状部11には、周方向に所定の間隔で、内径側鍔部13aから波打ち屈曲部12を経て外径側鍔部13bに至る径方向に長い複数のポケット14が設けられており、このポケット14の幅w1は、ころ1の軸方向の長さLより若干長く、軸方向の高さhはころ1の外径dより低く形成されている。また、各張出し部12a,12b,12cには、ポケット14に向けて抜け止め爪15a,15b,15cが対向して設けられており、各対向する抜け止め爪15a〜15cの間隔は、ころ1の外径dより若干狭く形成されている。
【0014】
軌道輪20は、例えば保持器10と同じ金属板をプレス加工により円環状に形成したもので、ころ1の軌道面となる環状板部21の内径側端部及び外径側端部には全周にわたって軸方向にほぼ直角に折曲げられたフランジ部22a,22bが形成されており、フランジ部22a,22bの先端部には、環状板部21とほぼ平行に、互いに対向して内側に折曲げられて係止部23a,23bが設けられ、係止部23a,23bの対向面によりガイド部24a,24bが形成されている。
【0015】
この軌道輪20の環状板部21の内のり幅w2は、保持器10の環状部11の幅wより広く、ガイド部24a,24bの間隔w3はころ1の軸方向の長さLより若干広く、かつ、保持器10の環状部11の幅wより狭く形成されている。また、フランジ部22a,22bの高さh1は、スラストころ軸受1を組立てたときに、そのガイド部24a,24bがころ1の中心部近傍に位置するようになっている。
【0016】
上記のように構成したスラストころ軸受において、ころ1は、保持器10の各ポケット14にそれぞれ無理嵌めされて収容され、抜け止め爪15a〜15cにより抜け出すことなく、ポケット14内に転動自在に保持される。
そして、ポケット14にころ1が保持された保持器10の環状部11を、フランジ部22a,22bを弾性変形させて軌道輪20の環状板部21と係止部23a,23bとの間に収容する。なお、保持器10を軌道輪20に取付けたのち、そのポケット15のころ1を収容してもよい。
【0017】
このとき、ころ1の外周は軌道輪20の環状板部21の軌道面に当接し、その両端面はガイド部24a,24bと若干のすき間を隔てて対峙する。また、保持器10の内径側鍔部13a及び外径側鍔部13bの大部分は、軌道輪20の係止部23a,23bに覆われている。
【0018】
次に、上記のように構成した本実施の形態に係るスラストころ軸受の作用を説明する。
例えば、軌道輪20が固定部(ハウジング)に取付けられ、ころ1上に回転軸が設置された場合、スラストころ軸受及び回転軸が正常な位置に設置されていれば、回転軸の回転に伴ってころ1は軌道輪20の軌道面に沿って転走し、回転軸の軸力を支持する。
【0019】
若し、回転軸が偏心しており、回転軸の回転に伴ってころ1が外径方向又は内径方向に変位すると、図4(図4はころ1が外径方向に変位した場合を示してある)に示すように、ころ1の端面が軌道輪20の係止部23bのガイド部24bに衝接する。これにより、フランジ部22bが僅かに弾性変形し、ころ1による押圧力を吸収する。このとき、ころ1の端面はポケット14の端部には当接せず、また、保持器10の外径側鍔部13bの端部は軌道輪20のフランジ部22aに当接しないので、保持器10が摩耗や変形したり破損したりすることがない。
【0020】
本実施の形態によれば、保持器10の外周面(内周面)を、軌道輪20のフランジ部22a,22bの内周面(外周面)でガイドする必要がないので、内・外側鍔部13a,13bの寸法を小さくすることができる。これにより、ポケット14の径方向寸法を大きくすることができるため、これに収容されるころ1の長さを長くすることができて、スラストころ軸受の負荷容量を大きくすることができる。
【0021】
また、上記の係止部23a,23bの対向面にガイド部24a,24bを設け、ころ1が径方向に移動するとその端面がガイド部24a又は24bに衝接し、保持器10のポケット14の端部には当接しないようにしたので、内径側鍔部13a、外径側鍔部13bの径方向の寸法が小さい場合でも保持器10が変形したり摩耗したりすることがない。
さらに、軌道輪20の内径側及び外径側に全周にわたって軸方向にフランジ部22a,22bを設け、このフランジ部22a,22bの先端部を、保持器10の内径側鍔部13a及び外径側鍔部13bの端部より内側に折曲げて、全周にわたって係止部23a,23bを設けたので、ころ1はこの内周面に端面を当接して円滑にガイドされつつ相対運動を行うことができる。また、ころ1を保持する保持器10が軸方向に移動しても係止部23a,23bに阻止されて、軌道輪20から抜け出すことがない。
【0022】
上記の説明では、軌道輪10の内径側及び外径側の全周に設けたフランジ部22a,22bにそれぞれ全周にわたって係止部23a,23b及びガイド部24a,24bを設けた場合を示したが、内径側のフランジ部22a又は外径側のフランジ部22bのいずれか一方のみに係止部23a又は23b及びガイド部24a又は24bを設けてもよく、また、フランジ部22a,22bを内径側又は外径側のいずれか一方のみに設けてもよい。
【0023】
[実施の形態2]
図5は本発明の実施の形態2に係るスラストころ軸受の要部の断面説明図である。なお、実施の形態1と同じ構造又は同じ機能の部分にはこれと同じ符号を付し、説明の一部を省略する。
本実施の形態は、第1の軌道輪20aと第2の軌道輪20bを対向して配置し、両軌道輪20a,20bの間にころ1を保持した保持器10を収容したものである。
【0024】
保持器10の環状部11には、内径側張出し部12aと中間張出し部12cからなる波打ち屈曲部12が設けられており、内径側張出し部12aの内径側には鍔部13aが設けられている。また、中間張出し部12cの外径側は、内径側張出し部12aの柱部と同じ高さ位置において外径方向に平坦(以下、平坦部12dという)に延設され、その外周側に鍔部13bが設けられている。そして、内径側鍔部13aから内径側張出し部12a、中央張出し部12c、平坦部12dを経て、外径側鍔部13bに至る径方向に長いポケット14が設けられている。
【0025】
また、第1の軌道輪20aは、環状板部21aの内径側の軸方向にフランジ部22a、係止部23a及びその端面にガイド部24aが設けられており、第2の軌道輪22bは、環状板部21bの外径側の軸方向で、第1の軌道輪20bのフランジ部22aと反対方向に、フランジ部22b、係止部23b及びその端面にガイド部24bが設けられている。
【0026】
上記のようなスラストころ軸受は、第1、第2の軌道輪20a,20bの間に、軸方向の長さがポケット14の径方向の長さより若干短かいころ1が保持された保持器10が収容される。このとき、ころ1の外周は第1、第2の軌道輪20a,20bの環状板部21a,21bの軌道面に当接し、保持器10の鍔部13a,13bの大部分は係止部23a,23bに覆れている。また、ころ1の両端面は僅かなすき間を隔てて両軌道輪20a,20bのガイド部24a,24bと対峙し、ころ1の両端面と保持器10のポケット14の端部とは、これより大きいすき間を隔てて対峙する。
【0027】
本実施の形態に係るスラストころ軸受は、例えば、第1の軌道輪20aがハウジングに、第2の軌道輪20bが回転軸に装着されて、回転軸の軸力を支持するようになっており、その作用、効果は実施の形態1の場合とほぼ同様である。
【0028】
上記の説明では、第1の軌道輪20aの内径側、第2の軌道輪20bの外径側に設けたフランジ部22a.22bに、それぞれ係止部23a,23bを設けてその端面をガイド部24a,24bとした場合を示したが、いずれか一方のフランジ部22a又は22bの係止部23a若しくは23b、及びガイド部24a若しくは24bを省略してもよい。
【0029】
また、保持器10の内径側鍔部13aから外径側鍔部13bに至るポケット14を設けた場合を示したが、ポケット14の一方の側又は両側が内径側鍔部13a又は外径側鍔部13bに至らない場合であってもよい。
さらに、上記の説明では、針状ころを有するスラストころ軸受の場合を示したが、これに限定するものではなく、通常のスラストころ軸受にも本発明を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態1に係るスラストころ軸受の要部の断面説明図である。
【図2】一部を省略した図1の平面図である。
【図3】図1の分解斜視図である。
【図4】実施の形態1の作用説明図である。
【図5】本発明の実施の形態2に係るスラストころ軸受の要部の断面説明図である。
【符号の説明】
【0031】
1 ころ(転動体)、10 保持器、11 環状部、13a 内径側鍔部、13b 外径側鍔部、14 ポケット、20,20a,20b 軌道輪、21,21a,21b 環状板部、22a,22b フランジ部、23a,23b 係止部、24a,24b ガイド部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状部に設けた複数のポケットにそれぞれ転動体が保持された保持器と、前記転動体が転走する環状板部を備えた軌道輪とを有し、
前記軌道輪の環状板部の内径側及び外径側又はいずれか一方の全周に前記保持器が軸方向に移動したときに係止する係止部を設け、該係止部に前記転動体の端面をガイドするガイド部を設けたことを特徴とするスラストころ軸受。
【請求項2】
環状部に設けた複数のポケットにそれぞれ転動体が保持された保持器と、前記転動体が転走する環状板部の内径側及び外径側の全周にフランジ部が設けられ、前記保持器が収容される軌道輪とを有し、
前記軌道輪の内径側及び外径側のフランジ部又はいずれか一方のフランジ部の全周に、前記保持器が軸方向に移動したときに係止する係止部を設け、該係止部に前記転動体の端面をガイドするガイド部を設けたことを特徴とするスラストころ軸受。
【請求項3】
環状部に設けた複数のポケットにそれぞれ転動体が保持された保持器と、前記転動体が転走する環状板部の内径側の全周にフランジ部が設けられた第1の軌道輪と、該第1の軌道輪と対向して配置され前記転動体が転走する環状板部の外径側の全周にフランジ部が設けられ、前記第1の軌道輪との間に前記保持器が収容された第2の軌道輪とを有し、
前記第1、第2の軌道輪に設けたフランジ部又はいずれか一方のフランジ部に、前記保持器が軸方向に移動したときに係止する係止部を設け、該係止部に前記転動体の端面をガイドするガイド部を設けたことを特徴とするスラストころ軸受。
【請求項4】
前記保持器の環状部の周方向に所定の間隔で、該環状部の内径側鍔部から外径側鍔部に至るポケットを設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスラストころ軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−144762(P2009−144762A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320532(P2007−320532)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】