説明

スラスト軸受

【課題】スラスト軸受にウェーブワッシャで与える予圧の狂いを防止する。
【解決手段】軌道盤2の幅面に、ウェーブワッシャ5の各山部6とラジアル方向に引っ掛かるようにスラスト方向の高低差をもったワッシャ受け部7を形成することにより、ウェーブワッシャ5と軌道盤2との間の相対的なラジアル方向の位置ずれを防止した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スラスト軸受の予圧に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スクロール圧縮機の公転スクロール部材を自転不能に支持したり、様々な軸をハウジングに対して回転自在にスラスト方向に支持したりするため、スラスト軸受が使用されている(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【0003】
スラスト軸受の回転精度を高めるため、スラスト方向に予圧を与えることがある。従来、ウェーブワッシャ(波形座金とも称される)でスラスト方向の軸受内部すきまを除去する予圧を与えることが実施されている。ウェーブワッシャは、軸又はハウジングと軌道盤との間に挟まれ、スラスト方向に圧縮された状態に配置される。そのウェーブワッシャの反発力によって当該軌道盤がスラスト方向に押されるので、予圧が与えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−33811号公報
【特許文献2】特開2007−309352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のウェーブワッシャの配置構造は、図9(a)に示すように、軸受中心軸に垂直な軌道盤91の背面及び軸又はハウジングの側面92によってウェーブワッシャ93をスラスト方向に挟むだけなので、図9(b)に示すように、使用中にウェーブワッシャ93がラジアル方向にずれ動くことがある。こうなると、ウェーブワッシャ93がラジアル方向の一方向に片寄るため、予圧が均等にかからなくなる問題がある。
【0006】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、スラスト軸受にウェーブワッシャで与える予圧の狂いを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を達成するため、この発明は、軌道盤とスラスト方向に重ねたウェーブワッシャの反発力でスラスト方向に予圧を与えるスラスト軸受において、前記軌道盤の幅面に、前記ウェーブワッシャの各山部とラジアル方向に引っ掛かるようにスラスト方向の高低差をもったワッシャ受け部が形成されている構成を採用した。
【0008】
ウェーブワッシャは、スラスト方向に高低差をもって周方向に進む波形座金であり、複数の山部をスラスト方向に押すことで反発力を生じる。予圧を与える使用中、それら各山部を軌道盤の幅面で押すため、その幅面にスラスト方向の高低差を付けることで、各山部とラジアル方向に引っ掛かるワッシャ受け部を形成することができる。各山部が軌道盤のワッシャ受け部にラジアル方向に引っ掛かるので、ウェーブワッシャと軌道盤との間の相対的なラジアル方向の位置ずれを防止することができる。したがって、予圧の狂いを防止することができる。
【0009】
例えば、前記ワッシャ受け部は、軸受中心軸と同軸の円錐面からなるとよい。軸受中心軸と同軸の円錐面で前記ウェーブワッシャの各山部とラジアル方向に引っ掛かるので、ウェーブワッシャと前記軌道盤とのラジアル方向位置ずれを防止することができる。また、ウェーブワッシャの配置に際し、円周方向の向きを定める必要がない。なお、この発明において、円周方向は、軸受中心軸回りの円周方向をいう。
【0010】
前記各山部が前記円錐面と同じ勾配に形成された前記ウェーブワッシャを備えているとよりよい。円錐面のワッシャ受け部にしても各山部が面接触するので、予圧時の接触安定性がよい。
【0011】
なお、この発明において、一般的なウェーブワッシャ(スラスト方向に概ね垂直な板面で接するもの)を採用することも可能である。この種のものは、円錐面にスラスト方向に重ねると、ウェーブワッシャの各山部の内径側又は外径側のみとワッシャ受け部とが接触するので、接触圧力が高くなる。
【0012】
前記ワッシャ受け部と前記各山部とは、前記軌道盤の軌道のスラスト方向投影域で接触するように形成されている場合に好適である。軌道盤の幅面と各山部との接触箇所がウェーブワッシャの反発力の伝達部になる。予圧を与える際は、軌道のスラスト方向投影域に反発力を伝達させると、内部すきまの除去に効率がよい。予圧付与中、円錐面のワッシャ受け部と各山部とが面接触するため、前記のように各山部の内径側又は外径側のみで接触する場合よりも接触圧力が低下し、ひいては、軌道の変形を緩和することができる。
【0013】
前記ワッシャ受け部は、円錐面以外にも様々な形態に形成することができる。
【0014】
例えば、前記ワッシャ受け部は、前記ウェーブワッシャの各山部をスラスト方向に受ける円環状平面と、当該円環状平面の全周からスラスト方向に沿って突き出た段差面とからなるものでもよい。円環状平面で各山部をスラスト方向に受けるので、前記軌道盤に対する各山部のスラスト方向位置が安定する。これら山部がスラスト方向に沿った段差面にラジアル方向に引っ掛かるので、引っ掛かりを前記円錐面よりも安定させることができる。また、円環状平面及び段差面が全周にあるので、ウェーブワッシャの配置に際し、円周方向の向きを定める必要がない。
【0015】
前記ワッシャ受け部は、円周方向に亘って一定溝幅の溝からなるものでもよい。両側の溝壁を前記ウェーブワッシャの各山部とのラジアル方向引っ掛りに利用することができる。また、ウェーブワッシャの配置に際し、円周方向の向きを定める必要がない。
【0016】
前記ワッシャ受け部は、ラジアル方向幅の相異なる複数種類のウェーブワッシャの各山部とラジアル方向に引っ掛かるように形成されていることも好ましい。ウェーブワッシャのラジアル方向幅は、ウェーブワッシャの内外径差で決まる寸法であり、そのウェーブワッシャの反発力に影響するパラメータである。ウェーブワッシャの内外径の少なくとも一方が相異なれば、ラジアル方向幅が相異なるものとなる。このような複数種類のウェーブワッシャに対応可能なワッシャ受け部なので、反発力の異なるウェーブワッシャの中から選択して予圧力を調整することができる。
【0017】
この発明は、例えば、転動体が玉からなるスラスト軸受に適用することができる。
【0018】
なお、ウェーブワッシャで予圧を与えることができる限り、この発明をスラストころ軸受に適用することも可能である。
【発明の効果】
【0019】
上述のように、この発明は、軌道盤と軸又はハウジングとの間に同軸に配置されたウェーブワッシャの反発力でスラスト方向に予圧を与えるスラスト軸受において、上記構成を採用したことにより、予圧の狂いを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態に係るスラスト軸受の断面図
【図2】第1実施形態の変更例を示す断面図
【図3】第1実施形態の他の変更例を示す断面図
【図4】第1実施形態のさらに他の変更例を示す断面図
【図5】第2実施形態に係るスラスト軸受の断面図
【図6】第3実施形態に係るスラスト軸受の断面図
【図7】第3実施形態の変更例を示す断面図
【図8】第4実施形態に係るスラスト軸受の断面図
【図9】(a)は従来例の正常な予圧状態のスラスト軸受を示す断面図、(b)は従来例のウェーブワッシャがラジアル方向にずれ動いた様子を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
この発明の第1実施形態に係るスラスト軸受を図1に基づいて説明する。第1実施形態は、軌道盤1、2間に単列の転動体3を組み込んだスラスト軸受になっている。スラスト軸受は、軌道盤2と、軸受中心軸に垂直なハウジングの側面4との間に同軸に配置されたウェーブワッシャ5の反発力でスラスト方向に所定の予圧を与えるようになっている。
【0022】
軌道盤2の幅面には、ウェーブワッシャ5の各山部6とラジアル方向に引っ掛るようにスラスト方向の高低差を付けたワッシャ受け部7が形成されている。ワッシャ受け部7は、軸受中心軸と同軸の円錐面からなる。このようなワッシャ受け部7は、旋削加工で簡単に形成することができる。
【0023】
スラスト軸受(ウェーブワッシャ5を含む)は、図1の断面を鏡面とした対称形のものとなっている。ウェーブワッシャ5は、その断面上でピークを現した山部6を円周方向等配の3箇所にもっている。山部6は、軸又はハウジングの側面4とスラスト方向に接触する谷底部8からスラスト方向に軌道盤2側へ高さをもったウェーブワッシャ部分をいう。
【0024】
ハウジングの側面4と、軌道盤2とでウェーブワッシャ5をスラスト方向に挟む際、ワッシャ受け部7が軸受中心軸と同軸の円錐面なので、ウェーブワッシャ5の円周方向の向きを定める必要がない。そして、スラスト軸受を所定のスラスト荷重が負荷された状態に取り付けると、軌道盤2とスラスト方向に重なるウェーブワッシャ5の各山部6は、円錐面からなるワッシャ受け部7に押し付けられ、ラジアル方向に引っ掛かる接触状態になる。ウェーブワッシャ5の各山部6の反発力は、ワッシャ受け部7に接触している円周方向等配の3箇所で軌道盤2の幅面に伝達される。このため、スラスト方向の予圧は、円周方向に均等に与えることができる。ワッシャ受け部7と各山部6とは、軌道盤2の軌道9のスラスト方向投影域で接触するように形成されているので、スラスト方向内部すきまの除去に効率がよい。ウェーブワッシャ5が軌道盤2に対してラジアル方向にずれ動こうとしても、円周方向等配の3箇所で生じている各山部6とワッシャ受け部7との引っ掛かりがその挙動に対する抵抗となるので、ウェーブワッシャ5と軌道盤2との間の相対的なラジアル方向の位置ずれが防止される。したがって、前記均等な予圧が狂うことはない。
【0025】
ウェーブワッシャ5、ワッシャ受け部7の形態は、図示例のものに限定されず、上記均等な予圧付与、各山部とワッシャ受け部とのラジアル方向の引っ掛かりによるウェーブワッシャのラジアル方向位置決めが可能な限り、自由に定めることができる。
【0026】
ワッシャ受け部7は、そのラジアル方向幅D1−d1をウェーブワッシャ5のラジアル方向幅D2−d2よりも幅広に形成されている。円錐面のワッシャ受け部7の最小内径d1(図示例だと円錐面大径端)がウェーブワッシャ5の内径d2よりも小さく、最大外径D1(図示例だと円錘面小径端)がウェーブワッシャ5の外径D2よりも大きいので、ウェーブワッシャ5の他に、ウェーブワッシャ5の内径d2のみを小径に変更したもの、ウェーブワッシャ5の外径D2のみを大径に変更したもの、ウェーブワッシャ5の内径d2及び外径D2を変更したものを採用することもできる。これら反発力の異なる複数種類のウェーブワッシャの中からいずれかを選択し、予圧力を調整することができる。
【0027】
図示例は、ワッシャ受け部7が軌道盤2の内径側の面取りと、外径側の面取りとの間に亘って形成されているので、軌道盤2の内外径を最大限に活かしてウェーブワッシャの選択幅を拡大することができるが、いずれか片側の面取りからラジアル平面に沿った円環状平面部を形成し、軌道盤2の座りを良くしてもよい。
【0028】
また、図1に示すように、ワッシャ受け部7は、各山部6の内径側とラジアル方向に引っ掛かるものに限定されず、図2に示すように、各山部6の外径側とラジアル方向に引っ掛かるように形成することもできる。
【0029】
また、図1例は、軌道盤2をハウジング軌道盤としているが、図2や図3に示すように、軸軌道盤とする軌道盤1の幅面に円錐面のワッシャ受け部7を形成することもできる。また、図4に示すように、軌道盤1、2の双方に円錐面のワッシャ受け部7を形成することもできる。
【0030】
第2実施形態を図5に基いて説明する。なお、以下、第1実施形態との相違点を述べるに留める。図示のスラスト軸受は、各山部11がワッシャ受け部7を成す円錐面と同じ勾配に形成されたウェーブワッシャ12を備えている。各山部11の板面がワッシャ受け部7と面接触するので、図1、図2に示すように各山部6が内径側又は外径側のみと接触する場合よりも予圧時の接触安定性がよい。
【0031】
ワッシャ受け部7と各山部11とは、軌道盤2の軌道9のスラスト方向投影域Aで面接触する。このため、予圧付与中、図1、図2に示すように各山部6が内径側又は外径側のみと接触する場合よりも接触圧力が低下し、ひいては、軌道9の変形を緩和することができる。
【0032】
第3実施形態を図6に基いて説明する。軌道盤1に形成されたワッシャ受け部21は、ウェーブワッシャ5の各山部6をスラスト方向に受ける円環状平面22と、円環状平面22の全周からスラスト方向に沿って突き出た段差面23とからなる。円環状平面22で各山部6をスラスト方向に受けるので、軌道盤1に対する各山部6のスラスト方向位置が安定する。これら山部6がスラスト方向に沿った段差面23にラジアル方向に引っ掛かるので、その引っ掛かりを図1等の円錐面のワッシャ受け部7よりも安定させることができる。円環状平面22及び段差面23が円周方向全周に亘るワッシャ受け部21なので、ウェーブワッシャ5の配置に際し、円周方向の向きを定める必要がない。
【0033】
ラジアル平面に沿った円環状平面22と、円環状平面22の周縁から全周に亘ってスラスト方向に突き出た段差面23とからなるワッシャ受け部21なので、軌道盤1の幅面に切削加工で容易に形成することができる。
【0034】
ワッシャ受け部21のラジアル方向幅は、円環状平面22のラジアル方向幅に相当する。段差面23が各山部6の内径側と引っ掛かる。円環状平面22の外径がウェーブワッシャ5の外径よりも大きい。したがって、ウェーブワッシャ5と内径が同じで外径が異なる他のウェーブワッシャを採用し、予圧力を調整することができる。円環状平面22を軌道盤1の片側の面取りに連続するように形成しているので、軌道盤1の外径を最大限に活かして、他のウェーブワッシャの外径選択幅を広げることができる。
【0035】
図示例は、各山部6の内径側が段差面23とラジアル方向に引っ掛かるように形成されているが、図7に示すように、各山部6の外径側が段差面23とラジアル方向に引っ掛かるように形成することもできる。
【0036】
なお、図示例は軸軌道盤とする軌道盤1にワッシャ受け部21を形成したが、ハウジング軌道盤とする軌道盤2の幅面にワッシャ受け部21を同様に形成することも可能である。
【0037】
第4実施形態を図8に基いて説明する。図示のように、第4実施形態のワッシャ受け部31は、円周方向に亘って一定溝幅の溝からなる。ワッシャ受け部31の溝底面32は、第3実施形態の円環状平面に相当し、両側の溝壁側面33は、同段差面として利用することができる。したがって、両側の溝壁側面33を、それぞれウェーブワッシャ5の各山部6とラジアル方向に引っ掛る部位として利用することができる。また、円周方向に亘って一定溝幅なので、ウェーブワッシャ5の配置に際し、円周方向の向きを定める必要がない。なお、図示例は、軸軌道盤とする軌道盤1にワッシャ受け部31を形成したが、ハウジング軌道盤とする軌道盤2にワッシャ受け部31を同様に形成することも可能である。
【0038】
この発明の技術的範囲は、上述の各実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載に基く技術的思想の範囲内での全ての変更を含むものである。例えば、転動体3として玉を単列に組み込んだスラスト軸受を例示したが、この発明は、複列スラストころ軸受、スラストころ軸受に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0039】

1、2 軌道盤
3 転動体
4 側面
5、12 ウェーブワッシャ
6、11 山部
7、21、31 ワッシャ受け部
8 谷底部
9 軌道
22 円環状平面
23 段差面
32 溝底面
33 溝壁側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道盤(1、2)とスラスト方向に重ねたウェーブワッシャ(5、12)の反発力でスラスト方向に予圧を与えるスラスト軸受において、
前記軌道盤(1、2)の幅面に、前記ウェーブワッシャ(5、12)の各山部(6、11)とラジアル方向に引っ掛かるようにスラスト方向の高低差をもったワッシャ受け部(7、21、31)が形成されていることを特徴とするスラスト軸受。
【請求項2】
前記ワッシャ受け部(7)は、軸受中心軸と同軸の円錐面からなる請求項1に記載のスラスト軸受。
【請求項3】
前記各山部(11)が前記円錐面と同じ勾配に形成された前記ウェーブワッシャ(12)を備えている請求項2に記載のスラスト軸受。
【請求項4】
前記ワッシャ受け部(7)と前記各山部(6、11)とは、前記軌道盤(1、2)の軌道(9)のスラスト方向投影域(A)で接触するように形成されている請求項3に記載のスラスト軸受。
【請求項5】
前記ワッシャ受け部(21)は、前記ウェーブワッシャ(5)の各山部(6)をスラスト方向に受ける円環状平面(22)と、当該円環状平面(22)の全周からスラスト方向に沿って突き出た段差面(23)とからなる請求項1に記載のスラスト軸受。
【請求項6】
前記ワッシャ受け部(31)は、円周方向に亘って一定溝幅の溝からなる請求項1又は5に記載のスラスト軸受。
【請求項7】
前記ワッシャ受け部(7、21)は、ラジアル方向幅の相異なる複数種類のウェーブワッシャ(5、12)の各山部(6、11)とラジアル方向に引っ掛かるように形成されている請求項1から6のいずれか1項に記載のスラスト軸受。
【請求項8】
転動体(3)が玉からなる請求項1から7のいずれか1項に記載のスラスト軸受。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載のワッシャ受け部(7、21、31)が形成された軌道盤(1、2)。
【請求項10】
請求項3に記載のワッシャ受け部(7)に用いられたウェーブワッシャ(12)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−19487(P2013−19487A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153808(P2011−153808)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】