説明

スラリー、固体電解質層の製造方法および電極活物質層の製造方法

【課題】本発明は、硫化物固体電解質材料の分散性が向上し、均一性の高い製膜が可能なスラリーを提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明においては、硫化物固体電解質材料と、主鎖の炭素原子数が6以上であり、OH基が結合した上記主鎖中の炭素原子から数えて3番目までの位置の上記主鎖中の炭素原子にアルキル基の側鎖を有するアルコールとを含有することを特徴とするスラリーを提供することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化物固体電解質材料の分散性が向上し、均一性の高い製膜が可能なスラリーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラおよび携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。また、自動車産業界等においても、電気自動車用あるいはハイブリッド自動車用の高出力かつ高容量の電池の開発が進められている。現在、種々の電池の中でも、エネルギー密度が高いという観点から、リチウム電池が注目を浴びている。
【0003】
現在市販されているリチウム電池は、可燃性の有機溶媒を含む電解液が使用されているため、短絡時の温度上昇を抑える安全装置の取り付けや短絡防止のための構造・材料面での改善が必要となる。これに対し、電解液を固体電解質層に変えて、電池を全固体化した全固体リチウム電池は、電池内に可燃性の有機溶媒を用いないので、安全装置の簡素化が図れ、製造コストや生産性に優れると考えられている。
【0004】
このような固体電解質層に用いられる固体電解質材料として、硫化物固体電解質材料が知られている。また、硫化物固体電解質材料を湿式プロセスで塗工する溶媒として、例えば、非特許文献1には、トルエン、ヘプタン等の無極性溶媒を用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Taro Inada et al., “Silicone as a binder in composite electrolytes”, Journal of Power Sources 119-121 (2003) 948-950
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、トルエンやヘプタンのような無極性溶媒では、硫化物固体電解質材料を分散させても、硫化物固体電解質材料の沈降速度が速く、均一な塗工を行うことができないという問題がある。また、このような無極性溶媒のみを分散媒として用いた場合、分散剤等の塗工助剤を用いることができないという問題がある。本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、硫化物固体電解質材料の分散性が向上し、均一性の高い製膜が可能なスラリーを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明においては、硫化物固体電解質材料と、主鎖の炭素原子数が6以上であり、OH基が結合した上記主鎖中の炭素原子から数えて3番目までの位置の上記主鎖中の炭素原子にアルキル基の側鎖を有するアルコールとを含有することを特徴とするスラリーを提供する。
【0008】
本発明によれば、スラリーの分散媒として上記アルコールを用いることにより、硫化物固体電解質材料の分散性が向上し、均一性の高い製膜が可能なスラリーとすることができる。
【0009】
上記発明においては、上記アルコールが、2−エチルヘキサノールまたは2,6−ジメチル−4−ヘプタノールであることが好ましい。
【0010】
上記発明においては、上記硫化物固体電解質材料が、LiSおよびPを含有する原料組成物を用いてなるものであることが好ましい。Liイオン伝導性が高い硫化物固体電解質材料とすることができるからである。
【0011】
上記発明においては、上記原料組成物におけるLiSおよびPの割合が、モル比で、LiS:P=70:30〜80:20の範囲内であることが好ましい。安定な硫化物固体電解質材料とすることができ、上記アルコールとの反応を抑制することができるからである。
【0012】
上記発明においては、上記硫化物固体電解質材料が、LiIを含有することが好ましい。Liイオン伝導性が高い硫化物固体電解質材料とすることができるからである。
【0013】
また、本発明においては、硫化物固体電解質材料、および、主鎖の炭素原子数が6以上であり、OH基が結合した上記主鎖中の炭素原子から数えて3番目までの位置の上記主鎖中の炭素原子にアルキル基の側鎖を有するアルコールを混練し、固体電解質層形成用スラリーを調製する混練工程と、上記固体電解質層形成用スラリーを基板上に塗工し、固体電解質層形成用塗工膜を製膜する塗工工程と、上記固体電解質層形成用塗工膜を乾燥し、固体電解質層を形成する乾燥工程とを有することを特徴とする固体電解質層の製造方法を提供する。
【0014】
本発明によれば、固体電解質層形成用スラリーの分散媒として上記アルコールを用いることにより、混練工程で硫化物固体電解質材料の分散性が向上し、塗工工程で均一性の高い固体電解質層形成用塗工膜の製膜が可能となる。このため、均一な固体電解質層を得ることができる。
【0015】
また、本発明においては、電極活物質、硫化物固体電解質材料、および、主鎖の炭素原子数が6以上であり、OH基が結合した上記主鎖中の炭素原子から数えて3番目までの位置の上記主鎖中の炭素原子にアルキル基の側鎖を有するアルコールを混練し、電極活物質層形成用スラリーを調製する混練工程と、上記電極活物質層形成用スラリーを基板上に塗工し、電極活物質層形成用塗工膜を製膜する塗工工程と、上記電極活物質層形成用塗工膜を乾燥し、電極活物質層を形成する乾燥工程とを有することを特徴とする電極活物質層の製造方法を提供する。
【0016】
本発明によれば、電極活物質層形成用スラリーの分散媒として上記アルコールを用いることにより、混練工程で硫化物固体電解質材料の分散性が向上し、塗工工程で均一性の高い電極活物質層形成用塗工膜の製膜が可能となる。このため、均一な電極活物質層を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明においては、硫化物固体電解質材料の分散性が向上し、均一性の高い製膜が可能なスラリーを提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の固体電解質層の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図2】本発明の電極活物質層の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図3】実施例2および比較例2で得られた評価用電池の充放電測定の結果を示すグラフである。
【図4】実施例2および比較例2で得られた評価用電池の交流インピーダンス測定の結果を示すグラフである。
【図5】実施例3および比較例3で得られたスラリーの沈降速度測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のスラリー、固体電解質層の製造方法および電極活物質層の製造方法について、詳細に説明する。
【0020】
A.スラリー
まず、本発明のスラリーについて説明する。本発明のスラリーは、硫化物固体電解質材料と、主鎖の炭素原子数が6以上であり、OH基が結合した上記主鎖中の炭素原子から数えて3番目までの位置の上記主鎖中の炭素原子にアルキル基の側鎖を有するアルコールとを含有することを特徴とするものである。
【0021】
本発明によれば、スラリーの分散媒として上記アルコールを用いることにより、硫化物固体電解質材料の分散性が向上し、均一性の高い製膜が可能なスラリーとすることができる。
以下、本発明のスラリーについて、構成ごとに説明する。
【0022】
1.アルコール
まず、本発明におけるアルコールについて説明する。本発明におけるアルコールは、主鎖の炭素原子数が6以上であり、OH基が結合した上記主鎖中の炭素原子から数えて3番目までの位置の上記主鎖中の炭素原子にアルキル基の側鎖を有するものである。
【0023】
本発明におけるアルコールは、主鎖の炭素原子数が6以上であることを一つの特徴とする。主鎖の炭素原子数が6以上であることにより、水溶性が低いアルコールとすることができ、硫化物固体電解質材料との反応を抑制することができる。本発明において、主鎖とは、「OH基が結合した炭素原子を含む最長の炭素鎖」をいう。主鎖の炭素原子数は6以上であれば良いが、中でも、6〜10の範囲内であることが好ましい。主鎖の炭素原子数を10以下とすることで、常温で液体のアルコールとすることができるからである。また、上記アルコールの水分量は、硫化物固体電解質材料との反応性の観点から、より低いことが好ましく、具体的には、100ppm以下であることが好ましい。
【0024】
また、本発明におけるアルコールは、OH基が結合した主鎖中の炭素原子から数えて3番目までの位置の主鎖中の炭素原子にアルキル基の側鎖を有することを一つの特徴とする。なお、ここでは、OH基が結合した主鎖中の炭素原子を1番目の位置の主鎖中の炭素原子とする。アルキル基の側鎖がOH基の近くにあることで、立体障害となるため、硫化物固体電解質材料の溶解を防止することができる。本発明において、側鎖とは、「主鎖と結合した主鎖以外の炭素鎖」をいう。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基等を挙げることができる。また、上記アルコールは、上記アルキル基の側鎖を少なくとも1つ有していれば良く、複数有していても良い。
【0025】
本発明におけるアルコールは、分散効果(界面活性効果)を有するものである。ここで、分散効果とは、液体中に存在する粒子の沈降速度が、下記式(1)に示すストークスの式から得られる沈降速度よりも遅くなる効果をいう。本発明においては、上記アルコール中における硫化物固体電解質材料の沈降速度が遅くなることで、硫化物固体電解質材料の分散性が向上する。なお、式中、U:沈降速度、d:粒子径、ρ:粒子比重、ρ:液比重、η:粘度、g:重力加速度である。また、上記アルコールは、スラリーの分散媒として用いられるものであるが、分散剤としても機能するものである。
【0026】
【数1】

【0027】
また、本発明におけるアルコールは、硫化物固体電解質材料のアルコールへの分散前後で、硫化物固体電解質材料のLiイオン伝導度を大幅に低下させないものであり、通常、アルコール中に分散させた後の硫化物固体電解質材料のLiイオン伝導度を、アルコール中に分散させる前の硫化物固体電解質材料のLiイオン伝導度の1/10以下に低下させないものである。ここで、アルコール中に分散させた後の硫化物固体電解質材料のLiイオン伝導度は、スラリーを塗工し、乾燥させることにより得られる粉体をペレット状に成形したサンプルのLiイオン伝導度を測定することにより得られるものとする。
【0028】
このようなアルコールの具体例としては、2−エチルヘキサノール、2,6−ジメチル−4−ヘプタノール等を挙げることができる。なお、本発明におけるアルコールは、単一のアルコールであっても良く、複数のアルコールの混合物であっても良い。
【0029】
本発明のスラリーは、上記アルコールに加えて、例えば、ヘプタン、キシレン、トルエン等の従来の無極性溶媒を含有していても良い。本発明のスラリーに含まれる全溶媒に対する上記アルコールの割合としては、例えば、0.1重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましく、30重量%以上であることがさらに好ましい。なお、本発明のスラリーに含まれる溶媒が上記アルコールのみであっても良い。また、本発明のスラリーが結着材を含有し、上記アルコールに対する結着材の溶解性が低い場合、上述した無極性溶媒を併用することが好ましい。この場合、本発明のスラリーに含まれる全溶媒に対する上記アルコールの割合は、例えば、0.1重量%〜50重量%の範囲内であることが好ましく、30重量%〜40重量%の範囲内であることがより好ましい。
【0030】
2.硫化物固体電解質材料
次に、本発明における硫化物固体電解質材料について説明する。本発明における硫化物固体電解質材料は、硫黄(S)を含有し、かつ、イオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではない。ここで、本発明のスラリーがリチウム電池に用いられる場合、上記硫化物固体電解質材料として、例えば、LiSと、第13族〜第15族の元素の硫化物とを含有する原料組成物を用いてなるものを挙げることができる。
【0031】
上記第13族〜第15族の元素としては、例えば、B、Al、Si、Ge、P、As、Sb等を挙げることができる。また、第13族〜第15族の元素の硫化物としては、具体的には、B、Al、SiS、GeS、P、P、As、Sb等を挙げることができる。中でも、本発明においては、LiSと、第13族〜第15族の元素の硫化物とを含有する原料組成物を用いてなる硫化物固体電解質材料が、LiS−P材料、LiS−SiS材料、LiS−GeS材料またはLiS−Al材料であることが好ましく、LiS−P材料であることがより好ましい。Liイオン伝導性が優れているからである。なお、LiS−P材料とは、LiSおよびPを含有する原料組成物を用いてなる硫化物固体電解質材料であり、LiSおよびPを主原料として含むものであれば良く、さらに他の材料を含むものであっても良い。
【0032】
上記原料組成物に含まれるLiSは、不純物が少ないことが好ましい。副反応を抑制することができるからである。LiSの合成方法としては、例えば、特開平7−330312号公報に記載された方法等を挙げることができる。さらに、LiSは、WO2005/040039に記載された方法等を用いて精製されていることが好ましい。また、上記原料組成物は、LiS、および第13族〜第15族の元素の硫化物の他に、LiPO、LiSiO、LiGeO、LiBOおよびLiAlOからなる群から選択される少なくとも一種のオルトオキソ酸リチウムを含有していても良い。このようなオルトオキソ酸リチウムを加えることで、より安定な硫化物固体電解質材料を得ることができる。
【0033】
本発明における硫化物固体電解質材料は、架橋硫黄を実質的に含有しないことが好ましい。上記アルコールとの反応を抑えることができ、イオン伝導性が低下することを抑制することができるからである。架橋硫黄は反応性が高いため、上記アルコールと反応することで、硫化物固体電解質材料の劣化の原因となる。ここで、「架橋硫黄」とは、硫化物固体電解質材料の合成時に生じる−S−結合の硫黄元素をいう。「架橋硫黄を実質的に含有しない」とは、硫化物固体電解質材料に含まれる架橋硫黄の割合が、上記アルコールとの反応で影響を受けない程度に少ないことをいう。この場合、架橋硫黄の割合は、例えば、10モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましい。
【0034】
また、「架橋硫黄を実質的に含有しない」ことは、ラマン分光スペクトルの測定により、確認することができる。例えば、硫化物固体電解質材料が、LiS−P材料である場合、架橋硫黄を有するSP−S−PSユニット(Pユニット)のピークは、通常402cm−1に現れる。そのため、本発明においては、このピークが検出されないことが好ましい。また、PS3−ユニットのピークは、通常417cm−1に現れる。本発明においては、402cm−1における強度I402が、417cm−1における強度I417よりも小さいことが好ましい。より具体的には、強度I417に対して、強度I402は、例えば、70%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、35%以下であることがさらに好ましい。また、LiS−P材料以外の硫化物固体電解質材料についても、架橋硫黄を含有するユニットを特定し、そのユニットのピークを測定することにより、架橋硫黄を実質的に含有していないことを判断することができる。なお、「架橋硫黄を実質的に含有しない」ことは、ラマン分光スペクトルの測定結果以外にも、硫化物固体電解質材料を合成する際の原料組成比、NMRの測定結果を用いても確認することができる。
【0035】
また、上記硫化物固体電解質材料が、LiSを含有する原料組成物を用いてなるものである場合、上記硫化物固体電解質材料は、LiSを実質的に含有しないことが好ましい。「LiSを実質的に含有しない」とは、出発原料に由来するLiSを実質的に含有しないことをいう。LiSは、架橋硫黄と同様に反応性が高いため、含まれないことが好ましい。「LiSを実質的に含有しない」ことは、X線回折により確認することができる。具体的には、LiSのピーク(2θ=27.0°、31.2°、44.8°、53.1°)を有しない場合は、LiSを実質的に含有しないと判断することができる。なお、原料組成物におけるLiSの割合が大きすぎると、硫化物固体電解質材料がLiSを含む傾向にあり、逆に、原料組成物におけるLiSの割合が小さすぎると、硫化物固体電解質材料が上述した架橋硫黄を含む傾向にある。
【0036】
また、上記硫化物固体電解質材料が、架橋硫黄およびLiSを実質的に含有しない場合、通常、上記硫化物固体電解質材料は、オルト組成またはその近傍の組成を有している。ここで、オルトとは、一般的に、同じ酸化物を水和して得られるオキソ酸の中で、最も水和度の高いものをいう。本発明においては、硫化物で最もLiSが付加している結晶組成をオルト組成という。例えば、LiS−P系ではLiPSがオルト組成に該当し、LiS−SiS系ではLiSiSがオルト組成に該当し、LiS−GeS系ではLiGeSがオルト組成に該当し、LiS−Al系ではLiAlSがオルト組成に該当する。
【0037】
また、LiS−P系の硫化物固体電解質材料の場合、オルト組成を得るLiSおよびPの割合は、モル基準で、LiS:P=75:25である。LiS−Al系の硫化物固体電解質材料の場合も同様である。一方、LiS−SiS系の硫化物固体電解質材料の場合、オルト組成を得るLiSおよびSiSの割合は、モル基準で、LiS:SiS=66.7:33.3である。LiS−GeS系の硫化物固体電解質材料の場合も同様である。
【0038】
上記原料組成物が、LiSおよびPを含有する場合、LiSおよびPの割合は、モル換算で、LiS:P=72:28〜78:22の範囲内であることが好ましく、LiS:P=73:27〜77:23の範囲内であることがより好ましく、LiS:P=74:26〜76:24の範囲内であることがさらに好ましい。両者の割合を、オルト組成を得る割合(LiS:P=75:25)およびその近傍を含む範囲とすることで、上記アルコールとの反応性が低い硫化物固体電解質材料を得ることができるからである。なお、上記原料組成物が、LiSおよびAlを含有する場合も同様である。一方、上記原料組成物が、LiSおよびSiSを含有する場合、LiSおよびSiSの割合は、モル基準で、LiS:SiS=63:37〜70:30の範囲内であることが好ましく、LiS:SiS=64:36〜69:31の範囲内であることがより好ましく、LiS:SiS=65:35〜68:32の範囲内であることがさらに好ましい。両者の割合を、オルト組成を得る割合(LiS:SiS=66.7:33.3)およびその近傍を含む範囲とすることで、上記アルコールとの反応性が低い硫化物固体電解質材料を得ることができるからである。なお、上記原料組成物が、LiSおよびGeSを含有する場合も同様である。
【0039】
また、本発明における硫化物固体電解質材料は、LiIを含有することが好ましい。Liイオン伝導性が高い硫化物固体電解質材料とすることができるからである。また、本発明における硫化物固体電解質材料は、LiOを含有することが好ましい。硫化水素発生量が少ない硫化物固体電解質材料とすることができるからである。
【0040】
本発明における硫化物固体電解質材料は、硫化物ガラスであっても良く、その硫化物ガラスを熱処理して得られる硫化物ガラスセラミックスであっても良い。硫化物ガラスは、例えば、上記原料組成物に対して、非晶質化法を行うことにより得ることができる。非晶質化法としては、例えば、メカニカルミリング法および溶融急冷法を挙げることができ、中でも、メカニカルミリング法が好ましい。常温での処理が可能になり、製造工程の簡略化を図ることができるからである。メカニカルミリングは、原料組成物を、機械的エネルギーを付与しながら混合する方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、ボールミル、ターボミル、メカノフュージョン、ディスクミル等を挙げることができ、中でも、ボールミルが好ましく、特に、遊星型ボールミルが好ましい。所望の硫化物固体電解質材料を効率良く得ることができるからである。また、メカニカルミリングの条件は、所望の硫化物固体電解質材料を得ることができるように設定することが好ましい。一方、硫化物ガラスセラミックスは、例えば、硫化物ガラスを結晶化温度以上の温度で熱処理することにより得ることができる。すなわち、原料組成物に対して、非晶質化法を行い、さらに熱処理を行うことにより、硫化物ガラスセラミックスを得ることができる。なお、熱処理の条件によっては、架橋硫黄およびLiSが生成する可能性や安定相が生成する可能性があるため、本発明においては、これらが生成しないように、熱処理温度および熱処理時間を調整することが好ましい。
【0041】
硫化物固体電解質材料の形状としては、例えば、粒子形状を挙げることができ、中でも、真球状または楕円球状であることが好ましい。また、硫化物固体電解質材料が粒子形状である場合、その平均粒径は、例えば、0.1μm〜50μmの範囲内であることが好ましい。また、硫化物固体電解質材料は、Liイオン伝導性が高いことが好ましく、常温におけるLiイオン伝導度は、例えば、1×10−5S/cm以上であることが好ましく、1×10−4S/cm以上であることがより好ましい。
【0042】
本発明のスラリーにおける硫化物固体電解質材料の含有量としては、例えば、10重量%〜70重量%の範囲内であることが好ましく、40重量%〜50重量%の範囲内であることがより好ましい。
【0043】
3.スラリー
本発明のスラリーは、少なくとも上述したアルコールおよび硫化物固体電解質材料を含有するものであるが、必要に応じてその他の材料を含有していても良い。このような材料としては、例えば、結着材等を挙げることができる。結着材を含有することにより、本発明のスラリーを用いて形成される層に可撓性を付与することができる。さらに、本発明のスラリーは、電極活物質および導電化材を含有していても良い。電極活物質および導電化材を含有することにより、本発明のスラリーを用いて電極活物質層を形成することができる。また、本発明のスラリーは、上記アルコール以外の分散媒および分散剤を含有していても良い。
【0044】
本発明のスラリーは、例えば、全固体電池の固体電解質層を製造する際に用いることができる。上記スラリーを用いることにより、均一な固体電解質層を形成することができる。また、本発明のスラリーが電極活物質を含有する場合は、電池の電極活物質層を製造する際に用いることができる。上記スラリーを用いることにより、均一な電極活物質層を形成することができる。本発明のスラリーの製造方法としては、一般的なスラリーの製造方法と同様の方法を用いることができる。
【0045】
B.固体電解質層の製造方法
次に、本発明の固体電解質層の製造方法について説明する。本発明の固体電解質層の製造方法は、硫化物固体電解質材料、および、主鎖の炭素原子数が6以上であり、OH基が結合した上記主鎖中の炭素原子から数えて3番目までの位置の上記主鎖中の炭素原子にアルキル基の側鎖を有するアルコールを混練し、固体電解質層形成用スラリーを調製する混練工程と、上記固体電解質層形成用スラリーを基板上に塗工し、固体電解質層形成用塗工膜を製膜する塗工工程と、上記固体電解質層形成用塗工膜を乾燥し、固体電解質層を形成する乾燥工程とを有することを特徴とするものである。
【0046】
本発明によれば、固体電解質層形成用スラリーの分散媒として上記アルコールを用いることにより、混練工程で硫化物固体電解質材料の分散性が向上し、塗工工程で均一性の高い固体電解質層形成用塗工膜の製膜が可能となる。このため、均一な固体電解質層を得ることができる。
【0047】
図1は、本発明の固体電解質層の製造方法の一例を示すフローチャートである。図1においては、まず、硫化物固体電解質材料と、主鎖の炭素原子数が6以上であり、OH基が結合した上記主鎖中の炭素原子から数えて3番目までの位置の上記主鎖中の炭素原子にアルキル基の側鎖を有するアルコールとを準備する。次に、これらを混練し、固体電解質層形成用スラリーを調製する(混練工程)。続いて、固体電解質層形成用スラリーを基板上に塗工し、固体電解質層形成用塗工膜を製膜する(塗工工程)。さらに、固体電解質層形成用塗工膜を乾燥し、固体電解質層を形成する(乾燥工程)。
以下、本発明の固体電解質層の製造方法について、工程ごとに説明する。
【0048】
1.混練工程
まず、本発明における混練工程について説明する。本発明における混練工程は、硫化物固体電解質材料、および、主鎖の炭素原子数が6以上であり、OH基が結合した上記主鎖中の炭素原子から数えて3番目までの位置の上記主鎖中の炭素原子にアルキル基の側鎖を有するアルコールを混練し、固体電解質層形成用スラリーを調製する工程である。なお、上記硫化物固体電解質材料および上記アルコールについては、上記「A.スラリー」に記載したものと同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0049】
本工程により調製される固体電解質層形成用スラリーは、少なくとも上記硫化物固体電解質材料および上記アルコールを含有するものであるが、必要に応じて結着材等の他の材料をさらに含有していても良い。結着材としては、例えば、ポリビニリデンフロライド(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素含有結着材等を挙げることができる。
【0050】
上記固体電解質層形成用スラリーにおける上記硫化物固体電解質材料の含有量は、例えば、10重量%〜70重量%の範囲内であることが好ましく、40重量%〜50重量%の範囲内であることがより好ましい。また、上記固体電解質層形成用スラリーのその他の事項については、上記「A.スラリー」に記載した内容と同様である。
【0051】
本工程における混練方法としては、分散性の高いスラリーを得ることができれば特に限定されるものではなく、例えば、ディゾルバー、ホモミキサー、ニーダー、ロールミル、サンドミル、アトライター、ボールミル、バイブレーターミル、高速インペラーミル、超音波ホモジナイザー、振とう機等の一般的な方法を採用することができる。
【0052】
2.塗工工程
次に、本発明における塗工工程について説明する。本発明における塗工工程は、上記固体電解質層形成用スラリーを基板上に塗工し、固体電解質層形成用塗工膜を製膜する工程である。
【0053】
本工程に用いられる基板としては、例えば、フッ素系樹脂シート等の剥離可能なもの、および、電極活物質層等を挙げることができる。また、本工程において、固体電解質層形成用スラリーを塗工する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ドクターブレード法、ダイコート法、グラビアコート法、スプレー塗工法、静電塗工法、バー塗工法等の一般的な方法を採用することができる。また、本工程により製膜される固体電解質層形成用塗工膜の膜厚は、目的とする固体電解質層の厚さに応じて適宜選択されるものである。
【0054】
3.乾燥工程
次に、本発明における乾燥工程について説明する。本発明における乾燥工程は、上記固体電解質層形成用塗工膜を乾燥し、固体電解質層を形成する工程である。
【0055】
本工程において、固体電解質層形成用塗工膜を乾燥する方法としては、固体電解質層形成用塗工膜を劣化させるものでなければ特に限定されるものではなく、例えば、温風・熱風乾燥、赤外線乾燥、減圧乾燥、誘電加熱乾燥等の一般的な方法を採用することができる。また、本工程における乾燥雰囲気としては、例えば、Arガス雰囲気および窒素ガス雰囲気等の不活性ガス雰囲気、大気雰囲気、真空等を挙げることができる。また、本工程により形成される固体電解質層の厚さは、例えば、0.1μm〜1000μmの範囲内、中でも、0.1μm〜300μmの範囲内であることが好ましい。
【0056】
4.その他の工程
本発明の固体電解質層の製造方法は、上述した工程の他に、任意の工程を有していても良い。このような工程としては、例えば、圧縮工程等を挙げることができる。圧縮工程を有することにより、高密度の固体電解質層を得ることができ、イオン伝導性の向上および固体電解質層の薄膜化による容量増加を図ることができる。
【0057】
C.電極活物質層の製造方法
次に、本発明の電極活物質層の製造方法について説明する。本発明の電極活物質層の製造方法は、電極活物質、硫化物固体電解質材料、および、主鎖の炭素原子数が6以上であり、OH基が結合した上記主鎖中の炭素原子から数えて3番目までの位置の上記主鎖中の炭素原子にアルキル基の側鎖を有するアルコールを混練し、電極活物質層形成用スラリーを調製する混練工程と、上記電極活物質層形成用スラリーを基板上に塗工し、電極活物質層形成用塗工膜を製膜する塗工工程と、上記電極活物質層形成用塗工膜を乾燥し、電極活物質層を形成する乾燥工程とを有することを特徴とするものである。
【0058】
本発明によれば、電極活物質層形成用スラリーの分散媒として上記アルコールを用いることにより、混練工程で硫化物固体電解質材料の分散性が向上し、塗工工程で均一性の高い電極活物質層形成用塗工膜の製膜が可能となる。このため、均一な電極活物質層を得ることができる。
【0059】
図2は、本発明の電極活物質層の製造方法の一例を示すフローチャートである。図2においては、まず、電極活物質と、硫化物固体電解質材料と、主鎖の炭素原子数が6以上であり、OH基が結合した上記主鎖中の炭素原子から数えて3番目までの位置の上記主鎖中の炭素原子にアルキル基の側鎖を有するアルコールとを準備する。次に、これらを混練し、電極活物質層形成用スラリーを調製する(混練工程)。続いて、電極活物質層形成用スラリーを基板上に塗工し、電極活物質層形成用塗工膜を製膜する(塗工工程)。さらに、電極活物質層形成用塗工膜を乾燥し、電極活物質層を形成する(乾燥工程)。
以下、本発明の電極活物質層の製造方法について、工程ごとに説明する。
【0060】
1.混練工程
まず、本発明における混練工程について説明する。本発明における混練工程は、電極活物質、硫化物固体電解質材料、および、主鎖の炭素原子数が6以上であり、OH基が結合した上記主鎖中の炭素原子から数えて3番目までの位置の上記主鎖中の炭素原子にアルキル基の側鎖を有するアルコールを混練し、電極活物質層形成用スラリーを調製する工程である。なお、上記硫化物固体電解質材料および上記アルコールについては、上記「A.スラリー」に記載したものと同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0061】
本発明における電極活物質は、本発明により製造される電極活物質層が用いられる電池の伝導イオンの種類によって異なるものである。例えば、上記電極活物質層がリチウム二次電池に用いられる場合、電極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出する。また、本発明に用いられる電極活物質は、正極活物質であっても良く、負極活物質であっても良い。
【0062】
本発明に用いられる正極活物質としては、例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3等の岩塩層状型活物質、LiMn、Li(Ni0.5Mn1.5)O等のスピネル型活物質、LiFePO、LiMnPO等のオリビン型活物質等を挙げることができる。また、LiFeSiO、LiMnSiO等のSi含有酸化物を正極活物質として用いても良い。
【0063】
一方、本発明に用いられる負極活物質としては、例えば、金属活物質およびカーボン活物質を挙げることができる。金属活物質としては、例えば、In、Al、SiおよびSn等を挙げることができる。一方、カーボン活物質としては、例えば、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボン等を挙げることができる。
【0064】
電極活物質の形状としては、例えば、粒子形状を挙げることができ、中でも、真球状または楕円球状であることが好ましい。また、電極活物質が粒子形状である場合、その平均粒径は、例えば、0.1μm〜50μmの範囲内であることが好ましい。
【0065】
本工程により調製される電極活物質層形成用スラリーは、少なくとも上記電極活物質、上記硫化物固体電解質材料および上記アルコールを含有するものであるが、必要に応じて導電化材、結着材等の他の材料をさらに含有していても良い。導電化材の添加により、本発明により製造される電極活物質層の導電性を向上させることができる。導電化材としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンファイバー等を挙げることができる。なお、結着材については、上記「B.固体電解質層の製造方法」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0066】
上記電極活物質層形成用スラリーに含まれる上記電極活物質および上記固体電解質材料の割合は、重量比で、電極活物質:固体電解質材料=1:9〜9:1の範囲内であることが好ましく、電極活物質:固体電解質材料=2:8〜6:4の範囲内であることがより好ましい。また、上記電極活物質層形成用スラリーにおける固形分は、10重量%〜80重量%の範囲内であることが好ましく、40重量%〜70重量%の範囲内であることがより好ましい。ここで、固形分とは、上記電極活物質層形成用スラリーの重量に対する上記電極活物質および上記固体電解質材料の合計重量の割合をいう。また、上記電極活物質層形成用スラリーのその他の事項については、上記「A.スラリー」に記載した内容と同様である。
【0067】
本工程における混練方法については、上記「B.固体電解質層の製造方法」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0068】
2.塗工工程
次に、本発明における塗工工程について説明する。本発明における塗工工程は、上記電極活物質層形成用スラリーを基板上に塗工し、電極活物質層形成用塗工膜を製膜する工程である。
【0069】
本工程に用いられる基板としては、例えば、フッ素系樹脂シート等の剥離可能なもの、および、集電体等を挙げることができる。また、本発明により製造される電極活物質層が全固体電池に用いられる場合は、固体電解質層を基板として用いることもできる。本工程において、電極活物質層形成用スラリーを塗工する方法については、上記「B.固体電解質層の製造方法」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。また、本工程により製膜される電極活物質層形成用塗工膜の膜厚は、目的とする電極活物質層の厚さに応じて適宜選択されるものである。
【0070】
3.乾燥工程
次に、本発明における乾燥工程について説明する。本発明における乾燥工程は、上記電極活物質層形成用塗工膜を乾燥し、電極活物質層を形成する工程である。
【0071】
本工程において、電極活物質層形成用塗工膜を乾燥する方法、および乾燥雰囲気については、上記「B.固体電解質層の製造方法」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。また、本工程により形成される電極活物質層の厚さは、例えば、0.1μm〜1000μmの範囲内であることが好ましい。
【0072】
4.その他の工程
本発明の電極活物質層の製造方法は、上述した工程の他に、任意の工程を有していても良い。このような工程については、上記「B.固体電解質層の製造方法」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0073】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0074】
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。なお、特段の断りがない限り、各作業は、Arガス充填グローブボックス内またはArガス雰囲気下で実施した。
【0075】
[実施例1−1]
【0076】
(硫化物固体電解質材料の合成)
出発原料として、硫化リチウム(LiS)および五硫化リン(P)を用いた。まず、これらの粉末を、LiS:P=75:25のモル比となるように秤量し、メノウ乳鉢で混合した。次に、この混合物2gを45mlのジルコニアポットに投入し、脱水ヘプタン(水分量30ppm以下)4gを投入し、さらにジルコニアボール(φ5.5mm、53g)を投入し、ポットを完全に密閉した。このポットを遊星型ボールミル機(フリッチュ製P7)に取り付け、台盤回転数500rpmで、1時間処理および15分休止のメカニカルミリングを20回行った。さらに、LiOを6mol%添加後、上記と同じ条件でメカニカルミリングを行った。その後、得られた試料を、100℃に設定したホットプレート上でヘプタンを除去するように乾燥させ、硫化物固体電解質材料(硫化物ガラス、LiS−LiO−P)を得た。
【0077】
(スラリーの作製)
上記の硫化物固体電解質材料および2−エチルヘキサノールを、硫化物固体電解質材料:2−エチルヘキサノール=40:60の重量比となるように秤量し、混練することにより、スラリーを得た。
【0078】
[実施例1−2]
2−エチルヘキサノールの代わりに、2,6−ジメチル−4−ヘプタノールを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、スラリーを得た。
【0079】
[実施例1−3]
硫化物固体電解質材料を以下のように合成したこと以外は、実施例1と同様にして、スラリーを得た。
【0080】
(硫化物固体電解質材料の合成)
出発原料として、硫化リチウム(LiS)、五硫化リン(P)およびヨウ化リチウム(LiI)を用いた。まず、LiSおよびPを、LiS:P=75:25のモル比となるように秤量後、LiIが30mol%となるように、LiIを秤量し、これらをメノウ乳鉢で混合した。次に、この混合物1gを45mlのジルコニアポットに投入し、脱水ヘプタン(水分量30ppm以下)4gを投入し、さらにジルコニアボール(φ5.5mm、53g)を投入し、ポットを完全に密閉した。このポットを遊星型ボールミル機(フリッチュ製P7)に取り付け、台盤回転数500rpmで、1時間処理および15分休止のメカニカルミリングを40回行った。その後、得られた試料を、100℃に設定したホットプレート上でヘプタンを除去するように乾燥させ、硫化物固体電解質材料(硫化物ガラス、LiI−LiS−P)を得た。
【0081】
[比較例1−1〜1−7]
2−エチルヘキサノールの代わりに、エタノール、エチレングリコール、1−ブタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、2−メチルシクロヘキサノールおよびシクロヘプタノールをそれぞれ用いたこと以外は、実施例1と同様の工程を行ったが、硫化物固体電解質材料がそれぞれの溶媒(アルコール)に溶解してしまい、スラリーが得られなかった。
【0082】
[評価1]
(Liイオン伝導度測定)
実施例1−1〜1−3で得られたスラリーをステンレスまたはアルミ箔に塗工・乾燥することにより得られた粉体を掻き取り、φ11.28mm×0.5mmの円筒状に成形したサンプルに対して、交流インピーダンス法によるLiイオン伝導度(常温)の測定を行った。測定にはソーラトロン1260を用い、測定条件は、印加電圧5mV、測定周波数域0.01MHz〜1MHzとした。その結果を表1に示す。表1に示されるように、実施例1−1〜1−3で得られたスラリーから作製されたサンプルは、いずれも1×10−4S/cm以上の高いLiイオン伝導度を有することが確認された。
【0083】
【表1】

【0084】
[実施例2]
(正極活物質層の作製)
まず、正極活物質としてLiNi1/3Co1/3Mn1/3、硫化物固体電解質材料として先に合成したLiI−LiS−P、結着材として水素添加ブチレンゴムを用意し、これらの材料を正極活物質:硫化物固体電解質材料:結着材=66.2:33.3:0.5(重量比)となるように秤量後、固形分が70wt%となるようにヘプタン:2−エチルヘキサノール=60:40(重量比)の混合溶媒を添加し、正極活物質層形成用スラリーを得た。次に、このスラリーを、正極集電体であるSUS箔上に、目付量18.8mg/cmで塗工し、100℃で30分間乾燥を行った。最後に、得られた膜をセルサイズ(1cm)に切り抜くことで、正極活物質層を得た。
【0085】
(負極活物質層の作製)
まず、負極活物質としてグラファイト、硫化物固体電解質材料として先に合成したLiI−LiS−Pを用意し、これらの材料を負極活物質:硫化物固体電解質材料=50:50(重量比)となるように秤量後、固形分が62wt%となるようにヘプタンを添加し、負極活物質層形成用スラリーを得た。次に、このスラリーを、負極集電体であるCu箔上に、目付量20mg/cmで塗工し、100℃で30分間乾燥を行った。最後に、得られた膜をセルサイズ(1cm)に切り抜くことで、負極活物質層を得た。
【0086】
(評価用電池の作製)
まず、固体電解質層形成用材料として先に合成したLiI−LiS−Pを用意した。次に、固体電解質層形成用材料を1ton/cmの圧力でプレスし、固体電解質層を得た。続いて、固体電解質層の一方の表面に、上記の正極活物質層を配置し、1ton/cmの圧力でプレスした。さらに、固体電解質層の他方の表面に、負極活物質層を配置し、4.3ton/cmの圧力でプレスし、評価用電池を得た。
【0087】
[比較例2]
正極活物質層の作製において、ヘプタン:2−エチルヘキサノール=60:40(重量比)の混合溶媒の代わりに、ヘプタンのみを用いたこと以外は、実施例2と同様にして、評価用電池を得た。
【0088】
[評価2]
(充放電測定)
実施例2および比較例2で得られた評価用電池を用いて、充放電測定を行った。充放電条件は、電圧範囲2.5V〜4.55V、充放電電流0.1C、環境温度25℃とした。その結果を図3に示す。図3に示されるように、実施例2で得られた評価用電池では、比較例2で得られた評価用電池に比べて、放電末期(低SOC)の比容量が向上することが確認された。これは、実施例2の評価用電池が、比較例2の評価用電池よりも均一性の高い正極活物質層を有するためと考えられる。
【0089】
(交流インピーダンス測定)
実施例2および比較例2で得られた評価用電池を用いて、交流インピーダンス測定を行った。まず、評価用電池をSOC20%となるように充電した。充電条件は、上限電圧3.6V、充電電流0.1C、環境温度25℃とした。充電後、交流インピーダンス測定を行った。交流インピーダンス測定の条件は、電圧振幅10mV、測定周波数1MHz〜0.1Hz、25℃とした。その結果を図4に示す。図4に示されるように、実施例2の評価用電池では、比較例2の評価用電池に比べて、正極活物質層および固体電解質層の界面抵抗が小さくなることが確認された。これは、実施例2の評価用電池が、比較例2の評価用電池よりも均一性の高い正極活物質層を有するためと考えられる。
【0090】
[実施例3]
粒径が20μm〜40μmの硫化物固体電解質材料(硫化物ガラス、LiI−LiS−P)50mgを、2−エチルヘキサノール3mlに分散させ、スラリーを得た。なお、2−エチルヘキサノールの比重および粘度は、それぞれ0.843および9.6mPa・sであった。
【0091】
[比較例3]
2−エチルヘキサノールの代わりにヘプタンを用いたこと以外は、実施例3と同様にして、サンプルを得た。なお、ヘプタンの比重および粘度は、それぞれ0.686および0.41mPa・sであった。
【0092】
[評価3]
(沈降速度測定)
実施例3および比較例3で得られたスラリーを用いて、硫化物固体電解質材料の沈降速度の測定を行った。具体的には、分光光度計を用いて、スラリーの吸収率の経時変化を測定することにより、沈降速度を測定した。その結果を図5に示す。図5に示されるように、実施例3では沈降速度が1.9mm/hrであったのに対して、比較例3では沈降速度が720mm/hrであり、実施例3の沈降速度は、比較例3の沈降速度の1/300以下であることが確認された。このことから、2−エチルヘキサノールは、ヘプタンに比べて、硫化物固体電解質材料の沈降速度を十分に遅くすることができることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化物固体電解質材料と、
主鎖の炭素原子数が6以上であり、OH基が結合した前記主鎖中の炭素原子から数えて3番目までの位置の前記主鎖中の炭素原子にアルキル基の側鎖を有するアルコールと
を含有することを特徴とするスラリー。
【請求項2】
前記アルコールが、2−エチルヘキサノールまたは2,6−ジメチル−4−ヘプタノールであることを特徴とする請求項1に記載のスラリー。
【請求項3】
前記硫化物固体電解質材料が、LiSおよびPを含有する原料組成物を用いてなるものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のスラリー。
【請求項4】
前記原料組成物におけるLiSおよびPの割合が、モル比で、LiS:P=70:30〜80:20の範囲内であることを特徴とする請求項3に記載のスラリー。
【請求項5】
前記硫化物固体電解質材料が、LiIを含有することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載のスラリー。
【請求項6】
硫化物固体電解質材料、および、主鎖の炭素原子数が6以上であり、OH基が結合した前記主鎖中の炭素原子から数えて3番目までの位置の前記主鎖中の炭素原子にアルキル基の側鎖を有するアルコールを混練し、固体電解質層形成用スラリーを調製する混練工程と、
前記固体電解質層形成用スラリーを基板上に塗工し、固体電解質層形成用塗工膜を製膜する塗工工程と、
前記固体電解質層形成用塗工膜を乾燥し、固体電解質層を形成する乾燥工程と
を有することを特徴とする固体電解質層の製造方法。
【請求項7】
電極活物質、硫化物固体電解質材料、および、主鎖の炭素原子数が6以上であり、OH基が結合した前記主鎖中の炭素原子から数えて3番目までの位置の前記主鎖中の炭素原子にアルキル基の側鎖を有するアルコールを混練し、電極活物質層形成用スラリーを調製する混練工程と、
前記電極活物質層形成用スラリーを基板上に塗工し、電極活物質層形成用塗工膜を製膜する塗工工程と、
前記電極活物質層形成用塗工膜を乾燥し、電極活物質層を形成する乾燥工程と
を有することを特徴とする電極活物質層の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−199003(P2012−199003A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60877(P2011−60877)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】