説明

スリーブ管の固定方法

【課題】特に壁厚が大きい場合であっても、貫通孔を形成するためのスリーブ管を型枠間に簡単かつ確実に固定できる方法を提供する。
【解決手段】表面から突出するピン材13を備えた封止具10を用いて、ピン材13が外側に突出するように、スリーブ管の一方の開口端21を封止する。次に、ピン材の先端を第1型枠31の内表面の所望の位置に押し当てるとともに、スリーブ管の他端22を叩いてピン材13を食い込ませ、これにより、スリーブ管20を第1型枠31表面上に固定する。そして、スリーブ管20を、線材42を用いて配筋41に固定し、最後に、スリーブ管の開口他端22に第2型枠32を押し当てて、第1および第2の型枠31、32を締結する。両型枠31、32間にコンクリートを流し込んで、コンクリートが乾燥・固化後に型枠および封止具を除去すると、貫通孔を有するコンクリート壁が完成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貫通孔を有する壁を、スリーブ管を利用してコンクリート打設によって成形する場合に、当該スリーブ管を型枠に対して所望の位置に、簡単かつ確実に固定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、貫通孔を有するコンクリート壁を打設成形する場合には、配筋を間に延在させて対向する平板状の2枚の型枠の間に、円筒状のスリーブ管をその両端面を各型枠の内面に当接させた状態で固定し、この状態で両型枠の間にコンクリートを流し込んでいる。
【0003】
その場合に、スリーブ管を所望の位置に固定するための方法が特許文献1に開示されている。
特許文献1に開示された固定方法においては、まず、第1型枠にスリーブ管取付具を固定し、この取付具に対してスリーブ管を固定して自立させる。そして、第1型枠表面上で自立したスリーブ管の端部開口を閉鎖した上で第2型枠を押し当てて、この状態で第1および第2の型枠を締結している。
【0004】
特許文献1においては、第1型枠の表面上にスリーブ管を自立させる必要があるが、これを弾力性のある調整ピースだけで行っているので、スリーブ管自体の寸法が長くなると安定して自立させるのが困難となる。すなわち、昨今、耐震性に対する要求が高くなり、壁厚も増大する傾向がある。壁厚が増大すると、配筋はシングルからダブルとなり、そこに貫通孔を規定するスリーブ管自体も長くなり、特許文献1の固定方法では十分に対応しきれない場合もでてくる。
【0005】
一方、特許文献2には、入子式に伸縮可能なスリーブ管を用いた固定方法が開示されている。
特許文献2の方法では、対向する2枚の型枠間に、まず縮めた状態のスリーブ管を配置する。その後、スリーブ管を伸長させることで、型枠間にスリーブ管を固定している。この方法だと、型枠間の距離の長い場合(壁厚が大きい場合)にも対応できるというメリットがある。
しかし、型枠間の距離が大きい場合には、壁の強度を高めるため複数の配筋が型枠間に配置されるので、これが邪魔となって、スリーブ管の固定作業が面倒になる。特に、下水処理施設の沈澱池に採用される有孔タイプの整流壁等、多数の貫通孔を設ける必要がある場合にはなおさらである。
【0006】
【特許文献1】特許第3046551号公報
【特許文献2】特許第2877866号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の事情に鑑みて創案されたものであって、特に壁厚が大きい場合であっても、貫通孔を形成するためのスリーブ管を型枠間に簡単かつ確実に固定できる方法を提供することをである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の固定方法は、貫通孔を有するコンクリート壁を形成すべく、配筋を間に延在させて対向する第1および第2の型枠の間の所望の位置に、スリーブ管を固定する方法であって、次の工程を含んでいる。
(1)「表面から突出するピン材を備えた封止具」を用いて、ピン材が外側に突出するように、スリーブ管の一方の開口端を封止する。
(2)ピン材の先端を第1型枠内表面の所望の位置に押し当てるとともに、スリーブ管の他端を叩いてピン材を食い込ませ、これにより、スリーブ管を第1型枠の表面上に固定する。
(3)スリーブ管を、線材を用いて配筋に固定する。
(4)スリーブ管の開口他端に第2型枠を押し当てて、第1および第2の型枠を締結する。
【0009】
上記工程(4)においては、スリーブ管の開口他端に第2型枠を押し当てる前に、当該開口他端を封止しておいてもよい。その場合、上記スリーブ管の「線材による固定」と「開口他端の封止」は、いずれを先に行ってもよい。
【発明の効果】
【0010】
上記本発明の固定方法によれば、スリーブ管を持って、その一端に固定した封止具の表面から突出するピン材先端を第1型枠の所望位置に押し付けて位置決めができるので、複数の配筋が入り組んでいる場合(特に壁厚が大きい場合)でも、その隙間を通して簡単にスリーブ管の位置決めが可能である。
しかも、第1型枠の表面から最も離れたスリーブ管の他端を叩くことで、スリーブ管を固定できるので、この叩き工程も、入り組んだ配筋に邪魔されることなく、簡単かつ確実に行うことができる。
【0011】
また、スリーブ管の一端を固定するだけでなく、スリーブ管を線材で配筋に吊り下げたり、結び付ける等して固定しているので、スリーブ管が短い場合は勿論、長い場合であっても、安定してその姿勢を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施形態を添付の図面を参照して以下に詳細に説明する。図1に概略的に示したコンクリート壁1は、下水処理施設の沈澱池に建造される整流壁であって、上下左右に隣接する多数の貫通孔2が壁面に形成されている。本発明の方法は、このような多数の貫通孔を有するコンクリート壁を打設成形する際に、スリーブ管を所望の位置に固定するのに好都合である(ただし、本発明は、貫通孔が1つの場合にも適用可能である)。以下、その工程を順を追って説明する。
【0013】
≪封止具:図2≫
まず、スリーブ管の開口端を封止するのに使用する封止具の一例を説明する。図2は、封止具10を上面および下面側から見た斜視図である。封止具10は、円形平板状のプレート材11から突出する円筒壁12を備え、円筒壁12の反対側の面にはピン材(ネイル)13が等間隔で3本配置されている。
本発明の方法においては、最初に、スリーブ管20の一方の開口端21に、封止具10をピン材13が外部に突出するように取り付け、当該開口端を封止する(図3参照)。
【0014】
なお、封止具は、図示したものに限らず、スリーブ管の開口端を封止でき、その場合に外部にピン材が突出するように構成されていればよい。ピン材の本数も適宜変更可能である。
【0015】
≪第1型枠の内表面にスリーブ管の一端を固定する工程≫
スリーブ管20の一端21に固定した封止具10の表面から突出するピン材13を第1型枠31の内表面上の所望の位置に押し当てた状態で、スリーブ管20の他端22を叩いてピン材13を食い込ませる。図4(a)は、ピン材13が食い込んだ後の状態を示す要部断面図である。このようにして、スリーブ管20は、第1型枠31の表面上に固定される。
【0016】
図4(a)〜(c)は、壁厚が大きく、ダブル配筋が施された場合の施工工程を示しており、スリーブ管20も、シングル配筋の場合と比べて長くなっている(なお、図4においては、水平方向に延びる配筋の図示は省略している)。このような場合でも、スリーブ管20の他端22付近を持って、入り組んだ配筋41をよけながら、封止具10から突出するピン材13を、第1型枠31の表面上の所望位置に簡単に押し当てることができる。すなわち、位置合わせが簡単かつ確実である。
また、スリーブ管20の他端22を叩いてピン材13を食い込ませる方式であれば、入り組んだ配筋41に邪魔されることなく簡単に作業することができる。
【0017】
≪線材を用いてスリーブ管を配筋に固定する工程≫
特にスリーブ管20が長い場合、一端21を固定しただけでは不安定である。一方、型枠間には配筋41が存在するので、この配筋41にスリーブ管20を固定することで、スリーブ管20を安定させることができる。
線材42を利用して、スリーブ管20を任意の配筋41に固定する。固定は、吊り下げたり、縛り付けたり、任意の形態で行うことができる。図5は、スリーブ管20を配筋41に吊下げ固定した例を示している。なお、図5では、第1型枠31上に2つのスリーブ管20を固定して示しているが、スリーブ管20は、形成する貫通孔2(図1参照)の数だけ対応する位置に固定される(複数であっても、1つであってもよい)。
この後、スリーブ管20の他端22を封止する。または、他端20を封止した後に、線材42でスリーブ管20を配筋41に固定してもよい。
【0018】
≪スリーブ管の他端開口を封止した上で、第2型枠を押し当てて締結する工程≫
図4(b)に示したように、スリーブ管20の他端開口22を封止する。なお、スリーブ管20の開口を封止するのは、コンクリートミルクがスリーブ管内に流入すると、コンクリート躯体部分に豆板(俗にいう“ジャンカ”)が生じ、仕上がりが悪くなるので、これを防止するためである。
他端22の封止は、適当なシート状材料、あるいは任意の封止具を用いて行うことができる。ただし、図2に示した封止具10を使うことが好ましい(図4(b))。ピン材13が存在することで、第2型枠32への固定が良好となるし、また、スリーブ管20の両端を同じ封止具10で封止することで、部品の取り揃えが単純化できるというメリットがある。
なお、図4(b)中に線材42は現れていないが、実際には、図5に示したように、線材42を用いて、スリーブ管20は配筋41に固定されている。
【0019】
次に、図4(c)に示したように、第1型枠31上に固定したスリーブ管20および配筋41を間に挟み込むように、第2型枠32を第1型枠31に対向させて配置する。両型枠31、32間の間隔は、セパレータ44(図5参照)で一定に維持される。そして、外側から不図示のフォームタイを使用する等して、両型枠31、32を締結する。
【0020】
最後に、両型枠31、32間にコンクリートを流し込む。コンクリートが乾燥・固化後に型枠および封止具を除去すると、図1に示したような多数の貫通孔を有するコンクリート壁が完成する。
【0021】
≪スリーブ管の他端開口を封止することなく、第2型枠を押し当てて締結する別例≫
以上に説明した例では、スリーブ管20の他端開口22を、ここに第2型枠32を押し当てる前に封止している。しかし、場合によっては、他端開口22を封止することなく直接第2型枠32を押し当てて、両型枠31、32を締結してもよい。その場合には、結果的に、第2型枠32をもって他端開口22が封止されることとなる。
特に、スリーブ管の他端開口22を規定する切断端面の仕上がりがよく、セパレータ44(図5)およびフォームタイ(不図示)の精度が高い場合等には、第2型枠32を圧接することで他端開口22を十分良好に封止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の方法を利用して建造されたコンクリート壁を示す斜視図。
【図2】本発明の方法に使用する封止具を示す上下斜視図。
【図3】本発明の方法における工程を説明する斜視図。
【図4】本発明の方法を利用した工事手順を概略的に説明する説明図。
【図5】第1型枠の内表面に固定されたスリーブ管を示す斜視図。
【符号の説明】
【0023】
1 コンクリート壁
2 貫通孔
10 封止具
11 プレート材
12 円筒壁
13 ピン材
20 スリーブ管
21 スリーブ管の一端
22 スリーブ管の他端
31 第1型枠
32 第2型枠
41 配筋
42 線材
44 セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔(2)を有するコンクリート壁(1)を形成すべく、配筋(41)を間に延在させて対向する第1および第2の型枠(31、32)の間の所望の位置にスリーブ管(20)を固定する方法であって、
表面から突出するピン材(13)を備えた封止具(10)を用いて、ピン材(13)が外側に突出するように、スリーブ管の一方の開口端(21)を封止する工程と、
ピン材の先端を第1型枠(31)内表面の所望の位置に押し当てるとともに、スリーブ管の他端(22)を叩いてピン材(13)を食い込ませ、これにより、スリーブ管(20)を第1型枠(31)表面上に固定する工程と、
スリーブ管(20)を、線材(42)を用いて配筋(41)に固定する工程と、
スリーブ管の開口他端(22)に第2型枠(32)を押し当てて、第1および第2の型枠(31、32)を締結する工程と、を含む固定方法。
【請求項2】
上記スリーブ管の開口他端(22)に第2型枠(32)を押し当てる前に、当該開口他端(22)を封止する、請求項1記載の固定方法。
【請求項3】
上記スリーブ管の開口他端(22)を封止するために、表面から突出するピン材を備えた封止具を用いることを特徴とする、請求項2記載の固定方法。
【請求項4】
上記スリーブ管の両端(21、22)を同じ封止具(10)を用いて封止することを特徴とする、請求項3記載の固定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−84787(P2009−84787A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−251951(P2007−251951)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(591112430)二三産業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】