説明

スルホニル化ジフェニルエチレンジアミン、その製造方法、及び移動水素化触媒での使用

式(I)のジアミンは、式中、Aが水素、又は飽和もしくは不飽和C1-C20アルキル基、又はアリール基であり、Bが置換もしくは非置換C1-C20アルキル、シクロアルキル、アルカリル、アルカリル、又はアリール基、又はアルキルアミノ基であり、かつX、X2、Y、Y2、又はZの少なくとも1つがC1-C10アルキル、シクロアルキル、アルカリル、アラルキル、又はアルコキシ置換基である。該キラルジアミンは、移動水素化反応の使用に適した触媒を製造するのに使用することができる。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアミン及び特に置換ジフェニルエチレンジアミン、及びそれから誘導された触媒に関する。該触媒は、その生成物が、例えば、精薬製品もしくは医薬品中間体の製造に使用される化学中間体、又は試薬として有用な、不斉水素化反応を促進するのに有用である。
【背景技術】
【0002】
触媒不斉水素化により、水素分子の活性化は、キラル金属錯体に影響を与える。しかし、有機分子もまた、移動水素化として知られるプロセスにおいて、適切なキラル触媒の存在下で、水素共与体として適用され得る。イソプロパノール、又はギ酸などの水素共与体が、従来、カルボニル基の還元のために、[(スルホニル化ジアミン)RuCl(アレーン)]種の触媒と共に用いられている。この技術により、触媒不斉水素化に強力な補体が供給される。実際、移動水素化は、アセチレンケトン、及び環状ケトンなどの、水素化が困難な基質であるケトンの不斉還元に特に適している。
【0003】
従来、移動水素化触媒のスルホニル化ジアミン成分は、スルホニル化ジフェニルエチレンジアミン(Dpen)、及び1、2-シクロへキサンなどの、シクロアルキル-1、2-ジアミンに限られていた。例えば、移動水素化は、[(トシル-ジフェニルニエチレンジアミン)RuCl(アレーン)]触媒を使用して、10-ヒドロキシ-ジヒドロ-ジベンズ-[b、f]-アゼピン(WO2004/031155を参照されたい)などの医薬品に適用されてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のスルホニル化ジアミン成分は、有用であるが、一連の望ましい基質全てに対して、均等に効果的ではない。よって、さらなる活性、選択性、又は安定性を持つ触媒を提供する移動水素化触媒の使用に適した、ジアミンの範囲を広げる必要がある。1個以上の置換基をジフェニルエチレンジアミンのフェニル環に導入し、かつスルホン酸特性を変化させることによって、ジアミン成分の立体的、及び電子的性質が効果的に適合されることがわかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
したがって、本発明は、式(I)のジアミンを提供する。
【化1】

式中、Aは水素、又は飽和もしくは不飽和C1-C20アルキル基、又はアリール基であり;Bは置換もしくは非置換C1-C20アルキル、シクロアルキル、アルカリル、アルカリル、又はアリール基、又はアルキルアミノ基であり、かつX、X2、Y、Y2、又はZのうち少なくとも1つがC1-C10アルキル、シクロアルキル、アルカリル、アラルキル、又はアルコキシ置換基である。
【0006】
さらに、本発明は、式(I)のジアミンを製造する方法を提供する。該方法は、式(II)の置換ジケトンから置換スピロイミダゾールを形成すること、該置換スピロイミダゾールを還元し置換ジアミンを形成すること、任意に、該置換ジアミンを鏡像異性的に豊富な形に分割すること、及び該置換ジアミンをスルホニル化することを含む。式中、X、X2、Y、Y2、及びZは、上記の通りである。
【化2】

また、本発明は、式(I)のジアミンの反応生成物、及び触媒活性金属の適切な化合物を含む触媒を提供する。
【0007】
式(I)中、Aは水素、又は飽和もしくは不飽和C1-C20アルキル基、又はアリール基である。該C1-C20アルキル基は、分岐、又は適鎖であってもよく、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソ-プロピル、n-ブチル、イソ-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル、エチルヘキシル、イソ-オクチル、n-ノニル、n-デシル、イソ-デシル、トリデシル、オクタデシル、及びイソ-オクダデシルであってもよい。該アリール基は、非置換もしくは置換フェニル、ナフチル、又はアントラシルフェニルであってもよい。適切な置換基は、ヒドロキシ、ハロゲン化物(例えば、F、Cl、Br、I)、C1-C20アルコキシ、アミノ、アミド、ニトリル、及びチオールである。好ましくは、Aが、水素、メチル、エチル、プロピル、又はフェニルである。最も好ましくは、Aが、水素である。
【0008】
式(I)中、Bは、任意に鏡像異性的に豊富な置換ジアミンのスルホニル化により導入される。さまざまなスルホニル化化合物を、式(I)のスルホニル化ジアミンの特性を変えるために使うことができる。よって、Bは、例えば上記のような、置換もしくは非置換C1-C20アルキル、シクロアルキル、アルカリル、アルカリル、又はアリール基、又は、アルキルアミノ基であってもよい。「アルキルアミノ」とは、Bが、式-NR'2であってもよいことを意味し、式中、R'は、例えば、メチル、シクロヘキシル、又はイソプロピルであるか、或いは、窒素が、アルキル環状構造の一部を形成している。フルロアルキル、又はフルオロアリール基を使用することができ、例えば、Bは、p-CF3-C、C、又はCFCFCFCF3、又はCF3であってもよい。好ましくは、Bはアリール基である。該アリール基は、非置換もしくは置換フェニル、ナフチル、又はアントラシルフェニル、或いはピリジルなどのヘテロアリール化合物であってもよい。適切な置換基は、上記に示したようなC1-C20アルキル、トリフルオロメチル、ヒドロキシル、ハロゲン化物(例えば、F、Cl、Br、I)、C1-C20アルコキシ(特にメトキシ)、アミノ、アミド、ニトリル、ニトロ、及びチオールである。よって、Bは、例えば、o-ニトロフェニル、p-ニトロフェニル、トリクロロフェニル、トリメトキシフェニル、トリイソプロピルフェニル、o-アミノフェニル、ベンジル(-CH6)、2-フェニルエチル(C46)、フェニル(C6)、トリル(p-CH-C64)、キシリル((CH3)63)、アニシル(CH3O-C64)、ナフチル、又はダンシル(5-ジメチルアミノ-1-ナフチル)であってもよい。好ましくは、Bがトリルであり、かつ塩化トシル(塩化p-トルエンスルホニル)と共に、スルホニル化が行われるのが好ましい。
【0009】
本発明のジアミンは2個の不斉中心を持ち、それぞれ、少なくとも1つの置換基X、X2、Y、Y2、又はZを有するフェニル環を持つ。該置換基X、X2、Y、Y2、又はZは、C1-C10アルキル、シクロアルキル、アルカリル、アラルキル、又はアルコキシ基である。式中、X、X2、Y、Y2、又はZが、C1-C10アルキル、シクロアルキル、アルカリル、アラルキル、又はアルコキシル置換基ではないX、X2、Y、Y2、又はZが結合しているフェニル環において、炭素原子の価数を満たすために、X、X2、Y、Y2、又はZが、水素原子となることが理解される。
【0010】
それゆえに、少なくとも1つのX、X2、Y、Y2、又はZは、独立して、メチル、トリフルオロメチル、エチル、n-プロピル、イソ-プロプル、n-ブチル、イソ-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、シクロペンシル、ヘキシル、シクロヘキシル、エチルヘキシル、イソ-オクチル、n-ノニル、n-デシル、又はイソ-デシルなどのC1-C10アルキル基;ベンジル、又はエチルフェニルなどのアルカリル基;フェニル、トリル、又はキシリルなどのアリール基;又は、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソ-プロポキシ、n-ブトキシ、イソ-ブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ、シクロペントキシ、ペントキシ、ヘキソキシ、シクロヘキソキシ、エチル-ヘキソキシ、イソ-オクトクシ、n-ノノキシ、n-デコキシ、又はイソ-デコキシなどのC1-C10アルコキシ基であってもよい。
【0011】
好ましくは、各フェニル環は、1個以上の置換基を持つ。該フェニル環を、1個以上の位置で置換することができる、すなわち、該環は、1、2、3、4、又は5置換されていてもよい。フェニル環上の置換基は、オルト位(X、X2)、メタ位(Y、Y2)、又はパラ位(Z)にあってもよい。しかし、該置換基が、フェニル基のメタ位にあると、該置換基はアミノ基への電子的影響を最小にし、生成ジアミンの合成を促進することができる。それゆえに、一実施態様において、該置換ジアミンが1、2-ジ-(メタ位置換フェニル)エチレンジアミンである。1個以上の置換基が存在する場合は、同一のものが望ましい。例えば、一実施態様では、Y、Y2が、水素であってもよく、X、X2、及びZは、同じアルキル、シクロアルキル、アルカリル、アラルキル、又はアルコキシ置換基が好ましい。他の実施態様において、X、X2、及びZが水素であってもよく、かつY、及びY2が、同じアルキル、シクロアルキル、アルカリル、アラルキル、又はアルコキシ置換基であることが好ましい。好ましい実施態様において、X、X2、Y、及びY2が水素であり、ZがC1-C10アルキル、シクロアルキル、アルカリル、アラルキル、又はアルコキシ置換基である。特に望ましい実施態様において、X、X2、Y、及びY2が水素であり、Zがメチルである。特に好ましい別の実施態様において、X、X2、Y、及びY2が水素であり、Zがメトキシである。
【0012】
本発明の置換ジアミンは、式(II)の置換ジケトンから従来製造され得る。式中、X、X2、Y、Y2、及びZは、上記の通りであり、スピロイミダゾールを経由して、その後ジアミンに還元され、スルホニル化される。
【化3】

【0013】
式(II)の置換ジケトン(ベンジル)は、商業的に入手可能であり、又は式(III)の置換ベンズアルデヒドから、ベンゾイン縮合、続いて、該生成置換ベンゾインの酸化により、容易に製造され得る。式中、X、X2、Y、Y2、及びZは、上記の通りである。置換ベンズアルデヒドは、商業的に入手可能であり、又は公知の置換反応を使用して合成され得る。ベンゾイン縮合反応は、よく知られており、通常、シアン化ナトリウムの存在下、適切な溶液中で、置換ベンズアルデヒドを反応させることにより行われる(Ideらの論文、Org. React. 1984、4 269-304を参照されたい。)。酢酸銅、及び硝酸アンモニウムを用いて、容易に、該置換ベンゾインを酸化して該ジケトンにすることができる(Weissらの論文、J. Am. Chem. Soc、1948、3666を参照されたい。)。
【0014】
酢酸、酢酸アンモニウム、及びシクロヘキサノンを用いて、式(II)の置換ジケトンを処理し、かつ加熱還流することにより、スピロイミダゾールを形成することができる。該スピロイミダゾールの溶液と、リチウムワイヤー、及び液体アンモニアとを、―60℃下で混合し、該混合溶液を、エタノール、及び塩化アンモニウムで処理し、かつ該混合溶液を室温まで温めると、生成置換ベンゾインを置換ジアミンに還元することができる。該置換ジアミンをスルホニル化して、本発明の置換ジアミンを提供することができる。
該置換ジアミンは、その後、所望の塩化スルホニル、すなわちCl-SO-B、及びトリエチルアミンなどの塩基とともに、適切な溶液中で、該置換ジアミンを処理することにより、スルホニル化される。
【0015】
該置換ジアミン中の窒素原子は、キラル中心に結合しており、該置換ジアミンはキラルである。該ジアミンは、ホモキラル、すなわち、(R、R)もしくは(S、S)であってもよく、該ジアミンは、1個の(R)及び1個の(S)中心を有してもよい。好ましくは、該ジアミンは、ホモキラルである。該ジアミンをラセミ混合物として使用することができるが、該アミンは、好ましくは、鏡像異性的に豊富である。キラル酸の使用、又は当業者に公知の他の方法によって、該キラル置換ジアミンを分割することができる。式(I)のスルホニル化ジアミンを分割することができるが、好ましくは、該スルホニル化ステップの前に該置換ジアミンを分割する。例えば、該置換ジアミンを、適切な溶液中で、ジトルオイル酒石酸、又はジベンゾイル酒石酸などの、キラルカルボン酸で処理することができる。該分割置換ジアミンは、好ましくは、鏡像異性体過剰率(ee%)>70%、更に好ましくは、>90%を有する。
【0016】
よって、該経路は、鏡像異性的に豊富な置換1、2-ジフェニルエチレンジアミンの、効率的でコスト効率のよい製造方法を提供する。該経路は、好ましい例として、以下の通りであり、式中、A、X、X2、Y、及びY2が水素であり、Bが、例えば、p-CH-C65、かつZがC1-C10アルキル、シクロアルキル、アルカリル、アラルキル、又はアルコキシ置換基である;
【化4】

【0017】
不斉移動水素化反応に適した触媒を、本発明の置換スルホニル化ジアミンと触媒活性の金属化合物とを反応させて、製造することができる。該金属化合物は、好ましくは、Ru、Rh、Ir、Co、Ni、Fe、Pd、又はPtから成るリストから選択された金属の化合物である。好ましい化合物は、Ru、Rh、及びIrの化合物であり、特に、Ru、又はRhの化合物である。適切なRu、又はRhの化合物は、[MX(アレーン)]化合物であり、式中、M=Rh、又はRuであり、かつX=ハロゲンであり、更に好ましい化合物は、[RuCl(アレーン)]である。アレーン化合物は、任意の適切な芳香族分子であり、ベンゼン、及びシクロペンタジエン、例えば、ベンゼン、ペンタメチルシクロペンタジエン、及びパラシメン(4-イソプロピルトルエン)である。水素化触媒製造に特に適した金属化合物は、[RhCpCl](式中、Cpは、CpMe)、[RuCl(ベンゼン)]、及び[RuCl(p-シメン)]である。
【0018】
該触媒は、温和な条件下(例えば、大気圧で0から80℃)で、適切な溶液中に、該ジアミン、及び該金属化合物を、単に混合するだけで製造され得る。適切な溶媒は、炭化水素、芳香族炭化水素、塩素化炭化水素、エステル、アルコール、エーテル、及びDMFなどである。必要に応じて、該反応を移動処理(ex-situ)法で行い、かつ該生成触媒を、例えば、真空下で溶媒を除去して、単離することができる。或いは、その場(in-situ)法、すなわち、水素化される基質、及び水素源の存在下、さらに該反応物質の金属化合物、及びジアミンを混合させて、該触媒を形成することができる。これらは、適切な溶媒で希釈することができる。
【0019】
本発明の該キラル触媒は、移動水素化反応に適用することができる。概して、カルボニル化合物、又はイミン、水素源、塩基、及び溶媒を、その場(in-situ)法で形成することができる該触媒の存在下で混合する。好ましい水素源は、イソプロパノール、又はギ酸(又はギ酸塩)である。該触媒は、さまざまなカルボニル化合物を該対応するキラルアルコールに、及びさまざまなイミンを対応するキラルアミンに還元するために使用され得る。該反応を、標準的な移動水素化条件下、当業者に公知のさまざまな適切な溶媒中で行うことができる。例えば、該反応を、0℃から75℃で、エーテル、エステル、又はジメチルホルムアミド(DMF)中で行うことができる。水が存在してもよい。ギ酸とともに、トリエチルアミン、DBU、又は他の第三級アミンなどの塩基が、好ましく使用される。イソプロパノールとともに使用される該塩基は、好ましくは、t-BuOK、KOH、又はiPrOKである。
【実施例】
【0020】
本発明は、下記の実施例により例示される。
(実施例1)ジアミン配位子の形成
(1)スピロイミダゾールの形成(1から2)
【化5】

【0021】
a)Z=メチル(CH):市販のジケトン1a(ジメチルベンジル 11.9g、50mmol)、及び酢酸アンモニウム(27g、350mmol)を含むフラスコに酢酸(70ml)を加えた。シクロヘキサノン(5.3ml、51.5mmol)を加え、該反応混合物を還流で1時間から4時間加熱した。室温まで冷却した後、該混合物を水に注ぎ、一晩置いて、結晶化させた。該結晶をろ過して回収し、減圧下で乾燥させた。酢酸エチル/へキサンから、再結晶化して、2回の収穫において、8.22及び3.32gの2aを与えた。全収量11.54g、73%になる。
【0022】
b)Z=メトキシ(CHO):市販のジケトン1b(ジメチルベンジル 18.9g、70mmol)、及び酢酸アンモニウム(37.7g、490mmol)を含むフラスコに酢酸(100ml)を加えた。シクロヘキサノン(7.45ml、72.1mmol)を加え、該反応混合物を還流で1時間から4時間加熱した。室温まで冷却した後、該混合物を水に注ぎ、一晩置いて、結晶化させた。該結晶をろ過して回収し、減圧下で乾燥させた。イミダゾール2bの収量は、19.22g、79%。酢酸エチル/へキサンからの結晶化により、さらに精製することができる。
【0023】
(II)還元(2から3)
【化6】

a)Z=メチル(CH):アンモニアガスを、アルゴン雰囲気下、―78℃で、無水THF(50ml)中のスピロイミダゾール2a(6.95g、22mmol)の溶液にゆっくりと凝縮させた。反応混合物の容積が約2倍になると、該ガスの流れは止まった。温度が―60℃を超えないように確かめながら、リチウムワイヤー(0.62g、88mmol)をゆっくり加えた。30分から60分間撹拌した後、エタノール(2.6ml)を加えて、30分から60分後、塩化アンモニウム(6.2g)を加えた。該混合物を、室温まで温め、水(約100ml)、及びMTBE(約100ml)を加えた。該層を分離して、該水層を、約100mlのMTBEで、2回抽出した。該合わせた有機層を、ブラインで洗浄して、真空下で蒸発させた。生成オイルを、MTBEで溶解し、10%のHClを加えた(2-3eq.。)該二相混合物を30分から90分間撹拌し、水で希釈した。該層を分離して、該有機層を水で抽出した。該合わせた水層をジクロロメタンで洗浄して、その後、ph>10まで、水性KOHで中和させた。粗ジアミンをジクロロメタンで抽出した(3回)。該合わせた有機抽出液を乾燥させ(NaSO)、蒸発させて、オイル、又は固体物を与えた。ラセミジアミン3aの収量は、ジアステレオ異性体の19:1混合物として、4.96g、94%であった。酢酸エチル/へキサンからの結晶化により、さらに精製することができる。
【0024】
b)Z=メトキシ(CHO):アンモニアガスを、アルゴンの下、―78℃で、無水THF(40ml)中のスピロイミダゾール2b(6.96g、20mmol)の溶液にゆっくりと凝縮させた。反応混合物の容積が約2倍になると、該ガスの流れは止まった。温度が―60℃を超えないように確かめながら、リチウムワイヤー(0.56g、80mmol)をゆっくり加えた。30分から60分間撹拌した後、エタノール(2.4ml)を加えて、30分から60分後、塩化アンモニウム(2.8g)を加えた。該混合物を、室温まで温め、水(約100ml)、及びMTBE(約100ml)を加えた。該層を分離して、該水層を、約100mlのMTBEで、2回抽出した。該合わせた有機層を、ブラインで洗浄して、真空下で蒸発させた。生成オイルを、MTBEで溶解し、10%のHClを加えた(2-3eq.)。該二相混合物を30分から90分間撹拌し、水で希釈した。該層を分離して、該有機層を水で抽出した。該合わせた水層をジクロロメタンで洗浄して、その後、ph>10まで、水性KOHで中和させた。粗ジアミンをジクロロメタンに抽出した(3回)。該合わせた有機抽出液を乾燥させ(NaSO4)、蒸発させて、オイル、又は固体を与えた。ラセミジアミン3bの収量は、ジアステレオ異性体の19:1混合物として、4.69g、86%であった。酢酸エチル/へキサンからの結晶化により、さらに精製することができる。
【0025】
(III)ジアミンのキラル分割
【化7】

a)ジアミン3aの分割。メタノール中のジトルオイル酒石酸で塩を生成し、かつメタノールから結晶化すると、最初、94%eeで、(R,R)4aを与えた。さらに1回、結晶化すると、>99%に増加できる。
【0026】
b)ジアミン3bの分割。メタノール中のジトルオイル酒石酸で塩を生成し、かつメタノールから結晶化すると、最初、74%eeで、(S,S)4bを与えた。さらなる結晶化により、eeを増加させることができる。メタノール中ジベンゾイル酒石酸で塩を生成し、かつメタノールから結晶化すると、最初、98%eeで、4bを与えた。
【0027】
(IV)モノスルホニル化ジアミンの合成
【化8】

a)トシル-5a(Z=CH、B=4-CH-C)。トリエチルアミン(210μl、1.5mmol)を、無水ジクロロメタン(8ml)中のジアミン4a(180mg、0.75mmol)の溶液に加え、該溶液を、0℃に冷却した。無水ジクロロメタン(4ml)中の塩化トシル(塩化p-トルエンスルホニル、148mg、0.77mmol)の溶液をゆっくり加えた。該混合物を30分から120分間、0℃で撹拌し、1時間から24時間かけて室温まで温めた。水を加え、該層を分離した。水層をジクロメタンで2度抽出し、合わせた有機層をブラインで洗浄し、乾燥させ(NaSO)、かつ蒸発させた。粗モノスルホン化ジアミンは、カラムクロマトグラフィで精製できる。カラムクロマトグラフィによる精製物により、白色固体として270mgのTs-5a(91%)を与えた。
【0028】
b)トシル-5b(Z=OCH、B=4-CH-C)。トリエチルアミン(190μl、1.3mmol)を、無水ジクロロメタン(8ml)中のジアミン4b(175mg、0.65mmol)の溶液に加え、該溶液を、0℃に冷却した。無水ジクロロメタン(5ml)中の塩化トシル(塩化p-トルエンスルホニル、1428mg、0.67mmol)の溶液をゆっくり加えた。該混合物を30分から120分間、0℃で撹拌し、1時間から24時間かけて室温まで温めた。水を加え、該層を分離した。水層をジクロメタンで2度抽出し、合わせた有機層をブラインで洗浄し、乾燥させ(NaSO)、かつ蒸発させた。粗モノスルホニル化ジアミンは、カラムクロマトグラフィで精製できる。カラムクロマトグラフィによる精製により、白色固体として270mgのTs-5b(91%)を与えた。
【0029】
(実施例2)移動化水素触媒の製造
無水イソプロパノール中、[Ru(p-シメン)Cl](0.5eq.)トリエチルアミン(2eq.)、モノスルホン化ジアミン(1eq.)5bの混合物を、不活性雰囲気下、70℃から90℃で、1時間から4時間加熱した。室温まで冷却した後、減圧下で該溶液を濃縮し、オレンジ色の固体をろ過して回収した。該固体を脱気水で洗浄し、その後、少量のメタノールを、減圧下でさらに乾燥させた。熱メタノールからの沈殿/結晶化によりさらに精製することができる。
【0030】
(実施例3)不斉移動水素化に対するモノスルホン化ジアミン5の使用
ケトン混合物に関する移動水素化触媒の試験
ジアミン5を有する移動水素化触媒を、その場(in-situ)法で製造し、DMF中のケトンの予備成形混合物に関して実験をした。無水DMF中の[Ru(p-シメン)Cl](0.0025mmol)、又は[RhCpCl](0.0025mmol)モノスルホン化ジアミン(0.0055mmol)5を、不活性雰囲気下(アルゴン)で、10分間、40℃で加熱した。DMF中の5種のケトンの溶液(0.5mL、計1mmol、各0.2mmol)を加えて、(各基質に対して、S/C40)、続いて、ギ酸/トリエチルアミンの1/1混合物0.6mL、及びDMF1mLを加えた。該反応物を、60℃で一晩(20時間)加熱して、CGで分析した(ChiraDex CBカラム、10psi He、100℃で12分間、その後、1.5℃/分で180℃まで、その後、5℃/分で200℃まで)。
参考として、該ジアミンの実験は下記の通りである;
【化9】

【表1】

【0031】
該結果は、該環状ケトンに対して、特に高い変換率、及び鏡像異性体過剰率を得ていることを示しており、すなわち、該ケトンがα-テトラロンなどの環状構造の一部になっている。
【0032】
(実施例4)TsDAENの活性 対 TsDPENの活性
不斉移動水素化の(S,S)-TsDAENの活性、対、従来の(S,S)-TsDPENの活性を、α-テトラロンを基質として用いて試験した。15mmolスケ-ルで、S/C 500/1で、[RuCl(p-シメン)]を金属前駆体として、かつ60℃でDMFを溶液として使用して、該反応を行った。1当量のトリエチルアンモニウムギ酸塩を反応の開始時に加え、反応の経過中、さらにHCOOHを加えて、該pHを8.2に維持した。下記に示す結果では、(S,S)-TsDAENの方が、(S,S)-TsDPENより活性であることを示している。
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)のジアミン
【化1】

(式中、Aは、水素、又は飽和もしくは不飽和C1-C20アルキル基、又はアリール基であり、Bは、置換もしくは非置換C1-C20アルキル、シクロアルキル、アルカリル、アルカリル、又はアリール基、又はアルキルアミノ基であり、かつX、X2、Y、Y2、又はZの少なくとも1つがC1-C10アルキル、シクロアルキル、アルカリル、アラルキル、又はアルコキシ置換基である。)。
【請求項2】
Aが水素である、請求項1記載のジアミン。
【請求項3】
Bが置換又は非置換アリール基である、請求項1、又は2記載のジアミン。
【請求項4】
、X、Y及びYが水素であり、かつZがC1-C10アルキル、アルカリル、シクロアルキル、アラルキル、又はアルコキシ置換基である、請求項1から3のいずれか1項記載のジアミン。
【請求項5】
Zがメチルである、請求項4記載のジアミン。
【請求項6】
Zがメトキシである、請求項4記載のジアミン。
【請求項7】
前記ジアミンがホモキラルである、請求項1から6のいずれか1項記載のジアミン。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項記載の式(I)のジアミンを製造する方法であって、
a)式(II)の置換ジケトンから置換スピロイミダゾールを形成すること、
b)該置換スピロイミダゾールを還元し、置換ジアミンを形成すること、
c)任意に、該置換ジアミンを鏡像異性的に豊富な形に分割すること、
及び、
d)該置換ジアミンをスルホニル化すること、
を含む、前記方法:
【化2】


【請求項9】
請求項1から7のいずれか1項記載の(I)のジアミンの反応生成物、及びRu、Rh、Ir、Co、Ni、Fe、Pd又はPtからなるリストから選択された金属の化合物を含む、触媒。
【請求項10】
前記金属化合物が[MX(アレーン)]である、請求項9記載の触媒
(式中、M=Rh又はRuであり、かつX=ハロゲンである。)。
【請求項11】
移動水素化反応を行うための、請求項9、又は10記載の触媒の使用。
【請求項12】
前記移動水素化反応を、環状ケトン上で行う、請求項11記載の触媒の使用。

【公表番号】特表2008−520639(P2008−520639A)
【公表日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−542126(P2007−542126)
【出願日】平成17年11月1日(2005.11.1)
【国際出願番号】PCT/GB2005/050190
【国際公開番号】WO2006/054115
【国際公開日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(503003843)ポルテラ・アンド・シーエー・エスエー (6)
【Fターム(参考)】