説明

スルホン化芳香族ポリイミド及び該ポリイミドよりなる電解質膜

【課題】耐加水分解性、耐熱性、強度の大きいスルホン化ポリイミドであって、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ヂメチルスルホキシド等の溶媒に可溶な加工性の優れたスルホン化ポリイミドを得る。また該ポリイミドを用いた電解質膜、特に燃料電池用電解質膜を提供する。
【解決手段】下記式(1)よりなるスルホン化ポリイミド
【化27】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なスルホン化芳香族ポリイミドに係る。また該ポリイミドよりなる陽イオン交換体、特に電解質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリイミドは、一般にオキシジアニリンのような芳香族ジアミンとピロメリット酸無水物のようなテトラカルボン酸二無水物との重縮合により得られ、ジアミン残基と酸無水物残基との間の電荷移動相互作用に基づく強い分子間相互作用のため、薄膜形成能に優れ、機械的強度、耐熱性、耐溶剤性、そして化学的安定性に優れるので、スーパエンジニアリングプラスチックス、層間絶縁材料等の電子材料あるいは中空糸気体分離膜などで利用されている。これらの優れた特性は、イオン交換膜や燃料電池用の電解質膜においても必要なものであり、特にスルホン酸基(スルホ基ともいう)やリン酸基のようなイオン交換基を有するポリイミドは良好な燃料電池用電解質膜などとして期待される。しかし、ポリイミドは、酸性水溶液中でイミド環が加水分解し易い欠点があり、スルホン化ポリフェニレンやスルホン化ポリエーテルスルホンなど、他のスルホン化芳香族炭化水素系高分子に比べて大きな弱点であり、その解決が重大な課題である。
【0003】
そこで1,4,5,8‐ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTDA)からの六員環イミド環を有するポリイミドがフタル酸無水物からの五員環イミド環より耐加水分解性に優れているとの提案がなされ(非特許文献1)、例えば、特許文献1では、NTDAと次記化学式(5)〜(7)で示されるスルホン化ジアミンおよび非スルホン化ジアミン(たとえば、オキシジアニリン)との共重合ポリイミド膜が燃料電池用の電解質膜として優れていると開示されている。しかし、これらのスルホン化ポリイミド膜の耐水性は十分なものではなく、特許文献2では、化学式(8)で示されるスルホン化ジアミンからのスルホン化共重合ポリイミド膜がさらに優れた耐水性を有することを開示している。これは、電子吸引性のスルホ基がアミノ基の結合しているフェニル環から離れたフェニル環に結合しているのでアミンの塩基性が高く、イミド環の耐加水分解性が増すためである(例えば、非特許文献2)と考えられる。
【0004】
【化5】

【0005】
【化6】

(但し、DはO、S、CH、またはC(CF等、R〜Rは水素原子またはアルキル基、そして、Arはスルホ基を有する芳香環残基)
また、化学式(9)で示されるω‐スルホアルコキシ基を有するジアミン(非特許文献3、特許文献3)及び化学式(10)で示されるスルホフェノキシ基を有するジアミン(非特許文献4と5)の合成とそのポリイミドの合成並びにそれらの物性が報告され、これらの側鎖型スルホン化ポリイミド膜はミクロ相分離構造を有し、優れた高温耐水性を有することが明らかにされている。
【0006】
【化7】

これらはいずれも、酸無水物として1,4,5,8‐ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTDA)を用い、これと重縮合させるスルホン化ジアミンの化学構造を変えて、得られるスルホン化ポリイミド膜の耐水性及びその他の特性を改善しようとしたものである。しかし、NTDAを一方の構成単位とするスルホン化ポリイミドでは、膜の高温耐水性とプロトン伝導性に優れるものは、膜がメタクレゾールなどのフェノール系溶媒にしか溶解せず、該溶媒は蒸気圧が低く、キャスト成形に不向きであり、加工性に問題があるばかりでなく、毒性があるため、取扱上も不便であった。膜の作製加工性に問題があった。そこで、高温耐水性を保持したまま、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン(NMP)やヂメチルスルホキシド(DMSO)等の極性を有するアプロチックソルベントに可溶で、製膜加工性に優れたスルホン化ポリイミドの開発が望まれていた。
【0007】
本発明者らは敍上の課題を解決するため、鋭意研究を重ねた結果、特定のジナフタレンテトラカルボン酸二無水物をポリイミドの一方のモノマーとして用いた場合、耐熱性の高い、すなわち、100℃の温度条件下でも高い機械的強度を保ち、しかも経時的劣化の少ない、DMAc等の溶媒に可溶で製膜加工性に優れる陽イオン交換膜、特に燃料電池用電解質膜に適するスルホン化ポリイミド膜を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は式(11)で示されるジナフタレンテトラカルボン酸二無水物を一方のモノマーとして用いた新規なスルホン化ポリイミドに関する。
【0009】
【化8】

ナフタレン骨格を有するテトラカルボン酸二無水物としては、NTDA以外にも多くのものが知られており、これらと芳香族ジアミンや芳香族テトラミンからのポリイミドやポリピロロンも合成されている。例えば、特許文献4、非特許文献6〜9。しかしそれらのポリマーは、いずれも、スルホン酸基をその構成モノマーに含んでおらず、耐熱性高分子として開発されたものであり、スルホン酸基が導入された場合のポリマーの性質は全く不明であり、その用途も何ら予想し得なかった。
【特許文献1】特表2000‐510511
【特許文献2】特開2003‐64181号公報
【特許文献3】特開2004‐155998号公報
【特許文献4】EP0047069
【非特許文献1】ポリマー 第42巻 5097‐5105頁(2001)
【非特許文献2】ジャーナル メンブラン サイエンス 第230巻 111‐120頁(2004)
【非特許文献3】ジャーナル マテリアルズ ケミストリー 第14巻 1062‐1070頁(2004)
【非特許文献4】トランザクション マテリアルズ リサーチ ソサイアティ ジャパン 第29巻 2541‐2546頁(2004)
【非特許文献5】ポリマー プレプリント、ジャパン、第54巻 1751−1752頁(2005)
【非特許文献6】マクロモレキュールズ 第16巻、522−526頁(1983)
【非特許文献7】アクタ ポリメリカ 第39巻 460−464頁(1988)
【非特許文献8】ジャーナル ポリマー サイエンス ポリマー ケミストリ 第35巻 539−545頁(1997)
【非特許文献9】ポリマー 第33巻 190−193頁(1992)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記技術背景に鑑み、高い機械的強度、耐熱性、耐久性を有し、且つ種々の溶媒に可溶で成形加工性に優れるポリイミド系陽イオン交換体、特に各種電気化学反応、なかでも燃料電池用等の電解質膜に用いた場合、優れた効果を期待できるポリイミド系イオン交換体を提供するにある。
【0011】
本発明者らはその目的のため、特定のジナフタレンテトラカルボン酸二無水物、すなわちフレキシブルなカルボニル基、エーテル基、フタロイル基、アリルエーテル基などを介して2個のナフタレン環が結合したジナフタレンテトラカルボン酸二無水物とスルホン化芳香族ジアミン及び、必要に応じて非スルホン化ジアミンから合成した新規なスルホン化ポリイミドを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明はそれぞれ次に示す態様よりなる。
【0013】
(1)本発明は、下記式(1)に示される構造単位よりなるスルホン化芳香族ポリイミド(以下単にスルホン化芳香族ポリイミドともいう)である。
【0014】
【化9】

【0015】
また、m、nは整数で、mとnの比すなわちm/n=100/0〜5/95である。)
(2)更に本発明の態様は、下記式(2)で表されるスルホン酸基を有するポリイミドである。
【0016】
【化10】

(3)本発明は、また前記(1)項の態様において、下記式(3)で示される単位と式(4)で示される単位がランダムに結合したスルホン酸基を有するポリイミドである。
【0017】
【化11】

(但し、各式中のX、=N−Ar−、及び=N−Ar−は、前記(1)項に同じ。)
(4)本発明の別の態様として、前記(1)項に示されるポリイミドにおいて下記式(3)で示される単位と式(4)で示される単位とがそれぞれシークエンス化したブロック共重合体であるスルホン酸基を有するポリイミドである。
【0018】
【化12】

(但し、各式中のX、=N−Ar−、及び=N−Ar−は、(1)項に同じ。)
(5)本発明の更に別の態様は、前記(1)〜(4)項のいずれかの項に記載されたスルホン酸基を有するポリイミドよりなるイオン交換体でもある。
【0019】
(6)更に本発明の別の態様は、前記(5)項に記載のイオン交換体よりなる電解質膜でもある。
【0020】
(7)更にまた本発明の別の態様は、前記(6)項に記載の電解質膜よりなる燃料電池用電解質膜である。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、一方の構成要素としてジナフタレンテトラカルボン酸二無水物を使用するため、その高い反応性により、高分子量のポリイミドが得られること、またこの特殊なジフナフタレンテトラカルボン酸二無水物残基を含むポリイミドであるため、耐加水分解性、耐熱性強度などの物性において、NTDA残基を含むポリイミドの場合と同等又はそれ以上の性質が得られるうえ、DMSOやDMAc等の極性を有するアプロティック溶媒に可溶であり、キャスト製膜が容易となり、得られた膜状物は触媒電極用のイオノマー等として好適に使用される。更に本発明のスルホン化ポリイミドは、主鎖が柔軟性に富み、ガラス転移温度が適度に低いため、加工性に優れ、薄膜形成能が大きい。このため、可撓性の大きい電解質膜となり、しかも強靭なため、燃料電池用電解質膜に好適に使用し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、下記式(1)の化学構造を持つスルホン化ポリイミドである。
【0023】
【化13】

【0024】
これらの中でも、カルボニル基、及びフタロイル基などの電子吸引性基が、ジナフタレンテトラカルボン酸二無水物のジアミンとの反応性及び得られたスルホン化ポリイミドの高温耐水性を向上させるので好ましい。
【0025】
また、前記式中=N−Ar−で表されるスルホン化ジアミンとしては、芳香族環に直接又は置換基を介して間接的にアミノ基が2個結合しており、且つ該芳香族環に直接又は置換基を介して結合している別の芳香族環や脂肪族基にスルホン酸基が結合したスルホン酸基を有する芳香族ジアミンであればよく、例えば前記化学式(5)〜(10)に示したジアミン、或いは次の一般式(12)で示されるジアミン等が好適にしようされる。
【0026】
【化14】

[但し、Rは水素又は電子吸引性基、Ar、Arはアルキレン基又は次の(a)〜(d)に示す基のいずれかの基、
【0027】
【化15】

(但し、Qは、−O−、−CO−、−SO−、−CH−、−CF−、−C(CH−、−C(CF−から選ばれる基)、Yはスルホン酸基を有し、且つ更に置換基を有することある芳香族炭化水素基である。]
また、=N−Ar−で表される非スルホン化ジアミンとは、芳香族又は脂肪族ジアミンであり、前記化学式(5)〜(12)のうち、スルホン酸基を除いた化学構造を有する基又はブチレンジアミンやヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン等が何ら制限なく使用し得る。
【0028】
これらの非スルホン化ジアミンは、全く用いなくてもよいが、得られるイオン交換体のイオン交換容量や含水率を調節したり、膜状に成形した場合の膨潤性(伸び)を抑える目的などで用いるのが好ましい。一般に前記式(1)におけるm/nは100/0〜5/95の範囲で用いられる。
【0029】
また、本発明により得られるスルホン化芳香族ポリイミドは、イオン交換体として用いられるため、固体状で適当な強度を有するのに必要な分子量を有する。一般に極限粘度0.5g/dL以上であれば、十分な強靭性のある電解質膜が得られる。
【0030】
更に非スルホン化ジアミンは、その一部をトリアミンやテトラミンに置き換えて使用することにより得られるポリイミンを分岐又は架橋させることが可能となる。
【0031】
従って、用途によっては非スルホン化ジアミンの1〜20%程度をトリアミンやテトラミンに置き換えて使用してもよい。
【0032】
但し、3価以上のアミンを多量に用いることは、得られるスルホン化ポリイミドの柔軟性を阻害し、溶媒への溶解性を減ずるので好ましくない。
【0033】
本発明のスルホン化ポリイミドを得る方法は、特に限定されない。一般に前記式(11)で示されるジナフタレンテトラカルボン酸二無水物とスルホン化ジアミン及び必要に応じて非スルホン化ジアミンとを公知の重縮合手段によって重縮合すればよい。通常は酸又はアルカリ触媒の存在下で脱水縮合させればよい。
【0034】
得られたスルホン化ポリイミドは、フェノール系溶媒に限られず、DMSO、DMAc、NMPといった極性を有するアプロティックソルベントに可溶であるため、流延法やキャスト法によって製膜等の成形が可能となり、極めて加工性に優れている。
【0035】
以下に実施例を示す。
【0036】
また、本発明における評価方法は以下のとおりである。
【0037】
[吸水率、Water uptake]
膜サンプル約100mgを乾燥して乾燥重量Wdを測定した後、30℃で2〜5時間水に浸漬した。膜サンプルを水から取り出し、素早く表面に付着した水をティシュペーパーでふき取り、膨潤時の膜重量Wsを測定した。吸水率(Water uptake; WU)を次式から求めた。
WU={(Ws‐Wd)/Wd}×100 %
[耐水性]
膜厚30〜40μmの膜サンプルを130℃加圧下熱水に96時間浸漬した後、膜形状・強度の観点から、次の3段階で評価した。I:膜形状を保持していない。II:ピンセットで膜を取り出し、そのまま180度に折り曲げると膜は破断した。III:180度に折り曲げても膜は破断しなかった。また、加圧水浸漬処理した膜を風乾後、50℃水中でプロトン伝導度を測定し、プロトン伝導度の観点から、次の3段階で評価した。i:処理によりプロトン伝導度は20%以上低下した。ii:5〜20%低下した。iii:実験誤差(±5%)範囲内で変化しなかった。
[プロトン伝導度]
プロトン伝導度測定セルに膜シート(1.0cm×0.5cm)と4枚の白金黒電極板をとりつけ、温度制御した水中また温度・湿度制御したチャンバー内にセットし、日置電気(株)製のLCRメーター(HIOKI3552‐80)を用いて、100Hzから100kHzの周波数範囲で複素インピーダンス法により電気抵抗Rを測定し、プロトン伝導度σを次式から計算した。
s=d/(t R)
ここで、dは2電極間距離(0.5cm)、tとwは、室温で70%RHにおける膜シートの厚さと幅である。水中でのプロトン伝導度の計算には、水中でのtとw値を用いた。
[メタノール透過係数]
液々透過測定セルの供給側セル(容量350ml)と透過側セル(容量100ml)の間にフッ素ゴムのシール板を介して膜シートをはさみつける。膜の供給側に30wt%メタノール水溶液を入れ、透過側に蒸留水を入れ、ガスクロマトグラフを用いて、任意の時間間隔での供給側と透過側の液組成を測定し、メタノール透過係数Pを求めた。なおPの計算には膨潤膜厚を用いた。
【0038】
なお、以下の実施例において用いる略語は次のとおり。
NTDA:1,4,5,8、‐ナフタレンテトラカルボン酸二無水物
KDNTDA:4,4‘−ケトンジナフタレン−1,1’,8,8‘−テトラカルボン酸二無水物
IPDNTDA:4,4‘−イソフタロイルジナフタレン−1,1’,8,8‘−テトラカルボン酸二無水物
TPDNTDA:4,4‘−テレフタロイルジナフタレン−1,1’,8,8‘−テトラカルボン酸二無水物
ODNTDA:4,4‘−オキシジナフタレン−1,1’,8,8‘−テトラカルボン酸二無水物
1,3−DOPDNTDA:4,4‘−(1,3−ジオキシフェニレン)ジナフタレン−1,1’,8,8‘−テトラカルボン酸二無水物
BAPBDS:4,4’‐ビス(4‐アミノフェノキシ)ビフェニル3,3’‐ジスルホン酸
BSPB:2,2’‐ビス(3‐スルホプロポキシ)ベンジジン
BSPOB:2,2‘−ビス(4−スルホフェノキシ)ベンジジン
BAPB:4,4’‐ビス(4‐アミノフェノキシ)ビフェニル
BAPBz:1,3‐ビス(4‐アミノフェノキシ)ベンゼン
HMDA:1,6−ヘキサメチレンジアミン
TEA:トリエチルアミン
DMSO:ジメチルスルホキシド
NMP:N‐メチルピロリドン
DMAc:ジメチルアセトアミド
【実施例1】
【0039】
スルホン化ポリイミドKDNTDA‐BAPBDS
(1)4,4‘−ケトンジナフタレン−1,1’,8,8‘−テトラカルボン酸二無水物(KDNTDA)の合成
スキム1に示すルートで、KDNTDAを合成した。まず、アセナフテンを塩化アルミニウムを触媒とし、1,1,2,2−テトラクロルエタンを溶媒とし、塩化アセチルと反応させて、4−アセチルナフテン(AAN)を合成した。これを、苛性ソーダ水と臭素を反応させて合成したNaBrOで酸化して4−アセナフテンカルボン酸とし、次いで、塩化チオニルでカルボン酸クロリド(ANCC)とした。AANとANCCをフリーデルクラフト反応させて4,4‘−ジアセナフチルケトン(DANK)を合成した。これを酢酸溶液中で重クロム酸カリで酸化して、4,4‘−ケトンジナフタレン−1,1’,8,8‘−テトラカルボン酸(KDNTA)とし、次いで無水酢酸で脱水してテトラカルボン酸二無水物KDNTDAを得た。
【0040】
【化16】

(2)スルホン化ポリイミドKDNTDA‐BAPBDS
乾燥した100mlの四口フラスコ中で2.112g(4.0ミリモル)の4,4’‐ビス(4‐アミノフェノキシ)ビフェニル3,3’‐ジスルホン酸(BAPBDS)と1.4mlのトリエチルアミン(TEA)を32mlのm‐クレゾールに加えて溶かし、次いで、1.688g(4.0ミリモル)のKDNTDAおよび0.68gの安息香酸を加え、窒素ガス雰囲気下で混合物を80℃で4時間そして180℃で20時間攪拌した。重合反応液を80℃まで冷却後、10mlのm‐クレゾールを加え希釈後、多量のアセトンに投入し、析出した固体を濾別し、アセトン洗浄後乾燥した。得られた生成物の溶液粘度ηSP/c(溶媒:1wt%のLiCl含有DMSO;0.5wt%)は1.3dl/gであった。生成物をDMSOに溶解し、ガラス板上に流延し、80℃で10時間乾燥して、TEA塩型のスルホン化ポリイミド膜を得た。これをメタノールに2日間浸漬し、次いで1M硫酸溶液に3日間浸漬しプロトン交換した後、水洗し150℃で1時間、180℃で1時間真空乾燥してプロトン型のスルホン化ポリイミドKDNTDA‐BAPBDS(13)膜を得た。この膜の特性評価結果を表1に示す。
【0041】
【化17】

【実施例2】
【0042】
スルホン化ポリイミドKDNTDA‐BSPB
特開2004‐155998に記載されている方法で、2,2’‐ビス(3‐スルホプロポキシ)ベンジジン(BSPB)を合成した。BAPBDSの替わりに、1.840g(4.0ミリモル)のBSPBを用い、実施例1と同様にして、TEA塩型のスルホン化ポリイミドNTDA‐BSPBを得た。得られた生成物の溶液粘度ηSP/c(溶媒:1wt%のLiCl含有DMSO;0.5wt%;35℃)は1.5dl/gであった。生成物を実施例1と同様にして製膜し、プロトン型のスルホン化ポリイミドKDNTDA‐BSPB(14)膜を得た。この膜の特性評価結果を表1に示す。
【0043】
【化18】

【実施例3】
【0044】
ランダム共重合スルホン化ポリイミドKDNTDA‐BAPBDS/BAPBz(2/1)‐r
スルホン化ジアミンとしてBAPBDSを用い、非スルホン酸ジアミンとして1,3‐ビス(4‐アミノフェノキシ)ベンゼン(BAPBz)を用いた。乾燥した100mlの四口フラスコ中で1.690g(3.2ミリモル)のBAPBDSと1.1mlのTEAを35mlのm‐クレゾールに加えて溶かし、次いで、0.467g(1.6ミリモル)のBAPBzを添加して溶かした後、2.026g(4.8ミリモル)のKDNTDA及び0.82gの安息香酸を加え、窒素ガス雰囲気下で混合物を80℃で4時間そして180℃で20時間攪拌した。重合反応液を80℃まで冷却後、10mlのm‐クレゾールを加え希釈後、多量のアセトンに投入し、析出した固体を濾別し、アセトン洗浄後乾燥した。得られた生成物の溶液粘度ηSP/c(溶媒:1wt%のLiCl含有DMSO;0.5wt%;35℃)は2.3dl/gであった。生成物をDMSOに溶解し、ガラス板上に流延し、80℃で10時間乾燥して、TEA塩型の共重合スルホン化ポリイミド膜を得た。これをメタノールに2日間浸漬し、次いで1M硫酸溶液に5日間浸漬しプロトン交換した後、水洗し150℃で1時間、180℃で1時間真空乾燥してプロトン型のランダム共重合スルホン化ポリイミドKDNTDA‐BAPBDS/BAPBz(2/1)‐r膜(15)を得た。この膜の特性評価結果を表1に示す。
【0045】
【化19】

【実施例4】
【0046】
ランダム共重合スルホン化ポリイミドKDNTDA‐BAPBDS/BAPB(3/1)‐r
非スルホン酸ジアミンとして4,4’‐ビス(4‐アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)を用い、BAPBDS/BAPBの仕込みモル比を3/1として、実施例3と同様にして、TEA塩型のスルホン化ポリイミドKDNTDA‐BAPBDS/BAPB(3/1)‐rを得た。得られた生成物の溶液粘度ηSP/c(溶媒:1wt%のLiCl含有DMSO;0.5wt%;35℃)は2.0dl/gであった。生成物を実施例3と同様にして製膜し、プロトン型のランダム共重合スルホン化ポリイミドKDNTDA‐BAPBDS/BAPB(3/1)‐r膜(16)を得た。この膜の特性評価結果を表1に示す。プロトン伝導度の温度依存性を図1に示す。
【0047】
【化20】

【実施例5】
【0048】
シークエンス化共重合スルホン化ポリイミドKDNTDA‐BAPBDS/BAPBz(2/1)‐s
乾燥した100mlの四口フラスコ中で1.690g(3.2ミリモル)のBAPBDSと1.1mlのTEAを21mlのm‐クレゾールに加えて溶かし、次いで2.026g(4.8ミリモル)のKDNTDAおよび0.82gの安息香酸を加え、窒素ガス雰囲気下で混合物を80℃で4時間そして180℃で5時間攪拌した。溶液を室温まで冷却し、0.467g(1.6ミリモル)のBAPBzとそして14mlのm‐クレゾールを加え、80℃で4時間、180℃で20時間攪拌した。重合反応液を80℃まで冷却後、10mlのm‐クレゾールを加え希釈後、多量のアセトンに投入し、析出した固体を濾別し、アセトン洗浄後乾燥した。得られた生成物の溶液粘度ηSP/c(溶媒:1wt%のLiCl含有DMSO;0.5wt%;35℃)は1.5dl/gであった。生成物をDMSOに溶解し、ガラス板上に流延し、80℃で10時間乾燥して、TEA塩型の共重合スルホン化ポリイミド膜を得た。これをメタノールに2日間浸漬し、次いで1M硫酸溶液に5日間浸漬しプロトン交換した後、水洗し150℃で1時間、180℃で1時間真空乾燥してプロトン型のシークエンス化共重合スルホン化ポリイミドNTDA‐BAPBDS/BAPBz(2/1)‐s膜を得た。この膜の特性評価結果を表1に示す。
【実施例6】
【0049】
シークエンス化共重合スルホン化ポリイミドKDNTDA‐BAPBDS/HMDA(3/2)‐s
乾燥した100mlの四口フラスコ中で0.950g(1.8ミリモル)のBAPBDSと0.61mlのTEAを10.7mlのm‐クレゾールに加えて溶かし、次いで0.987g(2.34ミリモル)のKDNTDAおよび0.400gの安息香酸を加え、窒素ガス雰囲気下で混合物を80℃で4時間そして180℃で5時間攪拌した。溶液を室温まで冷却し、0.139g(1.20ミリモル)の1,6−ヘキサメチレンジアミン(HMDA)、0.279g(0.66ミリモル)のKDNTDA、0.113gの安息香酸そして9mlのm‐クレゾールを順次加え、80℃で4時間、180℃で20時間攪拌した。重合反応液を80℃まで冷却後、6mlのm‐クレゾールを加え希釈後、多量のアセトンに投入し、析出した固体を濾別し、アセトン洗浄後乾燥した。得られた生成物の溶液粘度ηSP/c(溶媒:1wt%のLiCl含有DMSO;0.5wt%;35℃)は2.4dl/gであった。生成物をDMSOに溶解し、ガラス板上に流延し、80℃で10時間乾燥して、TEA塩型の共重合スルホン化ポリイミド膜を得た。これをメタノールに2日間浸漬し、次いで1M硫酸溶液に5日間浸漬しプロトン交換した後、水洗し150℃で1時間、180℃で1時間真空乾燥してプロトン型のシークエンス化共重合スルホン化ポリイミドNTDA‐BAPBDS/HMDA(3/2)‐s膜(17)を得た。この膜の特性評価結果を表1に示す。
【0050】
【化21】

【実施例7】
【0051】
シークエンス化共重合スルホン化ポリイミドKDNTDA‐BSPOB/BAPB(3/1)−s
上記の非特許文献5に記載の方法で、2,2‘−ビス(4−スルホフェノキシ)ベンジジン(BSPOB)を合成した。酸二無水物としてKDNTDAを、スルホン化ジアミンとしてBSPOBを、非スルホン化ジアミンとしてBAPBを用い、実施例5と同様にして、TEA塩型のスルホン化ポリイミドKDNTDA‐BSPOB/BAPB(3/1)‐sを得た。得られた生成物の溶液粘度ηSP/c(溶媒:1wt%のLiCl含有DMSO;0.5wt%;35℃)は2.5dl/gであった。生成物を実施例5と同様にして製膜し、プロトン型のシークエンス化共重合スルホン化ポリイミドKDNTDA‐BSPOB/BAPB(3/1)‐s(18)を得た。この膜の特性評価結果を表1に示す。プロトン伝導度の温度依存性を図1に示す。
【0052】
【化22】

【実施例8】
【0053】
ランダム共重合スルホン化ポリイミドIPDNTDA‐BAPBDS/BAPB(3/1)‐r
上記の非特許文献7に記載の方法と同様に、アセナフテンとイソフタロイルクロリドのフリーデルークラフトアシル化反応、得られた4,4‘−イソフタロイルジアセナフテンのテトラカルボン酸への酸化、そしてその酸二無水物への脱水の三段階プロセスにより、4,4‘−イソフタロイルジナフタレン−1,1’,8,8‘−テトラカルボン酸二無水物(IPDNTDA)を合成した。
【0054】
酸二無水物としてIPDNTDAを用い、実施例3と同様にして、TEA塩型のスルホン化ポリイミドIPDNTDA‐BAPBDS/BAPB(3/1)‐rを得た。得られた生成物の溶液粘度ηSP/c(溶媒:1wt%のLiCl含有DMSO;0.5wt%;35℃)は1.8dl/gであった。生成物を実施例3と同様にして製膜し、プロトン型のランダム共重合スルホン化ポリイミドIPDNTDA‐BAPBDS/BAPB(3/1)‐r膜(19)を得た。この膜の特性評価結果を表1に示す。
【0055】
【化23】

【実施例9】
【0056】
ランダム共重合スルホン化ポリイミドTPDNTDA‐BAPBDS/BAPB(3/1)‐r
上記の非特許文献7に記載の方法により、4,4‘−テレフタロイルジナフタレン−1,1’,8,8‘−テトラカルボン酸二無水物(TPDNTDA)を合成した。
【0057】
酸二無水物としてTPDNTDAを用い、実施例3と同様にして、TEA塩型のスルホン化ポリイミドIPDNTDA‐BAPBDS/BAPB(3/1)‐rを得た。得られた生成物の溶液粘度ηSP/c(溶媒:1wt%のLiCl含有DMSO;0.5wt%;35℃)は1.6dl/gであった。生成物を実施例3と同様にして製膜し、プロトン型のランダム共重合スルホン化ポリイミドTPDNTDA‐BAPBDS/BAPB(3/1)‐r膜(20)を得た。この膜の特性評価結果を表1に示す。
【0058】
【化24】

【実施例10】
【0059】
ランダム共重合スルホン化ポリイミドODNTDA‐BAPBDS/BAPB(3/1)‐r
上記の非特許文献7に記載の方法により、4,4‘−オキシジナフタレン−1,1’,8,8‘−テトラカルボン酸二無水物(ODNTDA)を合成した。
【0060】
酸二無水物としてODNTDAを用い、実施例3と同様にして、TEA塩型のスルホン化ポリイミドODNTDA‐BAPBDS/BAPB(3/1)‐rを得た。得られた生成物の溶液粘度ηSP/c(溶媒:1wt%のLiCl含有DMSO;0.5wt%;35℃)は2.1dl/gであった。生成物を実施例3と同様にして製膜し、プロトン型のランダム共重合スルホン化ポリイミドODNTDA‐BAPBDS/BAPB(3/1)‐r膜(21)を得た。この膜の特性評価結果を表1に示す。
【0061】
【化25】

【実施例11】
【0062】
ランダム共重合スルホン化ポリイミド1,3-DOPDNTDA‐BAPBDS/BAPB(3/1)‐r
上記の非特許文献7に記載の方法により、4,4‘−(1,3−ジオキシフェニレン)ジナフタレン−1,1’,8,8‘−テトラカルボン酸二無水物(1,3−DOPDNTDA)を合成した。
【0063】
酸二無水物として1,3−DOPDNTDAを用い、実施例3と同様にして、TEA塩型のスルホン化ポリイミド1,3−DOPDNTDA‐BAPBDS/BAPB(3/1)‐rを得た。得られた生成物の溶液粘度ηSP/c(溶媒:1wt%のLiCl含有DMSO;0.5wt%;35℃)は2.0dl/gであった。生成物を実施例3と同様にして製膜し、プロトン型のランダム共重合スルホン化ポリイミド1,3−DOPDNTDA‐BAPBDS/BAPB(3/1)‐r膜(22)を得た。この膜の特性評価結果を表1に示す。
【0064】
【化26】

(比較例1)
【0065】
ランダム共重合スルホン化ポリイミドNTDA‐BAPBDS/BAPBz(2/1)‐r
テトラカルボン酸二無水物として、1,4,5,8、‐ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTDA)を用い、実施例3と同様にして、共重合ポリイミドを得た。得られた生成物の溶液粘度ηSP/c(溶媒:m‐クレゾール;0.5wt%;35℃)は2.8dl/gであった。生成物をm‐クレゾールに溶解し、実施例3と同様に製膜して、プロトン型のランダム共重合スルホン化ポリイミドNTDA‐BAPBDS/BAPBz(2/1)‐r膜を得た。この膜の特性評価結果を表1に示す。
(比較例2)
【0066】
ランダム共重合スルホン化ポリイミドNTDA‐BSPB/BAPBz(2/1)‐r
スルホン化ジアミンとしてBSPBを0.96g(2.0ミリモル)用い、非スルホン酸ジアミンとしてBAPBzを0.292g(1.0ミリモル)用いる以外、比較例1と同様にして、ランダム共重合スルホン化ポリイミドNTDA‐BSPB/BAPBz(2/1)‐r膜を得た。この膜の特性評価結果を表1に示す。
(比較例3)
【0067】
パーフルオロスルホン酸系の電解質膜
パーフルオロスルホン酸系の電解質膜(D社製、厚み50μm)を用いた。この膜の特性評価結果を表1に示す。
評価結果まとめ
(1)実施例1〜11のスルホン化ポリイミド膜はTEA塩型でm−クレゾール以外にDMSOやDMAcなどの溶媒に可溶であり、これらの溶媒からキャスト製膜できた。また実施例2と4を除いて、プロトン形でもDMSOに可溶であり、プロトン形でキャスト製膜できる。これに対して、比較例1と2のNTDAからのスルホン化ポリイミドは、TEA塩型でDMSO等の極性を有するアプロチックソルベントに不溶であり、m−クレゾールからキャスト製膜しなければならなかった。
【0068】
(2)実施例3〜9のKDNTDA、IPNTDAそして TPNTDAからの共重合スルホン化ポリイミド膜は、NTDAからのスルホン化共重合ポリイミドと同様の高温耐水性を示した。
【0069】
(3)比較例1と2にくらべて、本特許での共重合スルホン化ポリイミド膜は、低いIECを考慮すると、同じレベルの高いプロトン伝導度を有した。(表1と図1)
(4)本特許でのスルホン化ポリイミド膜は100℃以上の高温でもプロトン伝導度は低下せず、高いプロトン伝導度を有する。(図1)
(5)以上の結果より、本特許でのスルホン化ポリイミド膜は、高温PEFC用の高分子電解質膜として好適である。
【0070】
(6)本特許でのスルホン化ポリイミド膜は、比較例3のパーフルオロスルホン酸系膜に比べて、メタノール透過係数が非常に低く、メタノール透過係数に対するプロトン伝導度の比φ(φ=σ/P)が4倍以上大きく、直接メタノール型燃料電池用の高分子電解質膜として好適である。
【0071】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、TEA塩型だけでなく、プロトン形でもDMSO、DMAc等の溶媒に可溶であり、製膜加工性に優れ、しかもプロトン伝導性が高く、耐熱性が高く、機械的強度が大きい固体電解質であるポリイミドで、陽イオン交換体として、また各種電解用隔膜等とした場合、ガス及び液体に対するバリヤー性が大きく、特に燃料電池用電解質膜として優れた性質を有する。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】プロトン伝導度の温度依存性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるスルホン酸基を有するポリイミド。
【化1】

【請求項2】
下記式(2)で表されるスルホン酸基を有するポリイミド。
【化2】

【請求項3】
請求項1に示されるポリイミドにおいて、下記式(3)で示される単位と式(4)で示される単位がランダムに結合したスルホン酸基を有するポリイミド。
【化3】

(但し、各式中のX、Ar、及びArは、請求項1に同じ。)
【請求項4】
請求項1に示されるポリイミドにおいて下記式(3)で示される単位と式(4)で示される単位とがそれぞれシークエンス化したブロック共重合体であるスルホン酸基を有するポリイミド。
【化4】

(但し、各式中のX、Ar及びArは、請求項1に同じ。)
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかの項に記載されたスルホン酸基を有するポリイミドよりなるイオン交換体。
【請求項6】
請求項5に記載のイオン交換体よりなる電解質膜。
【請求項7】
請求項6に記載の電解質膜よりなる燃料電池用電解質膜。

【図1】
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【公開番号】特開2007−126610(P2007−126610A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−322615(P2005−322615)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】