説明

スルホン酸化合物の脱水方法

【課題】スルホン酸化合物の水溶液から、工業的に有利に水を除く方法を提供すること。
【解決手段】粉体を含む疎水性有機溶媒へ、スルホン酸化合物の水溶液を供給し、水を蒸発させることによって該スルホン酸化合物を析出させることを特徴とするスルホン酸化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルホン酸化合物の水溶液を工業的に有利な方法で脱水する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
スルホン酸化合物は一般的に水に易溶であり、疎水性有機溶媒での抽出が困難な場合が多い。よって、溶媒等に水を用いてスルホン酸化合物を調製後、禁水反応に使用する場合、脱水操作が必要とされる。
【0003】
水に溶解しているスルホン酸化合物を脱水して疎水性有機溶媒に置換する場合、例えば、
(1)水留去による濃縮乾固後、疎水性溶媒を加える。
(2)晶析してスルホン酸化合物を析出させた後、濾過、次いで乾燥し、疎水性有機溶媒を加える。
等の方法が挙げられるが、(1)は工業的規模で実施する際には極めて困難な操作であり、(2)は、濾過操作自体が工業的には不利な作業となる上に、濾液にスルホン酸化合物をロスすることが多い。
【0004】
一方、特許文献1では、スルホン酸化合物の水溶液を、酢酸ブチル等の疎水性有機溶媒存在下で、溶媒の一部を蒸発させ、共沸により脱水しながら結晶を析出させている。しかしながらこの方法では、スルホン酸化合物が水と凝集物を生成し、スケーリング等を引き起こすことがある(本明細書中の比較例を参照)。以上の状況から、工業的により有利なスルホン酸化合物の脱水方法の提供が必要とされている。
【特許文献1】特開平8−325262号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、工業的に有利なスルホン酸化合物の脱水方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の目的を達成するために、水に溶解しているスルホン酸化合物の脱水方法について鋭意研究を続けてきた。その結果、スルホン酸化合物の水溶液を、粉体を含む疎水性有機溶媒中へ供給し、水を蒸発させながら晶析すると、スケーリング等を引き起こすことなく操作性良く脱水できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
粉体を含む疎水性有機溶媒へ、スルホン酸化合物の水溶液を供給し、水を蒸発させることによって該スルホン酸化合物を析出させることを特徴とするスルホン酸化合物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、スルホン酸化合物の水溶液を、工業的規模で実施しやすいプロセスで容易に脱水することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、スルホン酸化合物の水溶液について説明する。
【0010】
本発明のスルホン酸化合物は、常温・常圧において水に溶解するものである。その構造は、分子内に一つ以上のスルホン酸基を有するものとし、スルホン酸基は塩の形でも良い。塩の形としては、アルカリ金属塩、4級アンモニウム塩が好ましく、特に、Li塩、Na塩、K塩の形が好ましい。
【0011】
スルホン酸化合物の具体例としては、例えば、下記式(1)

(式中、Aは、水素原子、アルカリ金属又は4級アンモニウムを表わす。Rは、フッ素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、炭素数2〜20のアシル基又はシアノ基を表わす。ここで、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基及びアシル基は、フッ素原子、シアノ基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基及び炭素数6〜20のアリールオキシ基からなる群から選ばれる少なくとも一つの基で置換されていてもよい。R1が複数の場合、Rは同一の基であってもよいし、異なる基であってもよい。また、結合位置が隣接する2つのR1が結合して環を形成していてもよい。
は塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表わす。kは0〜3の整数を表わす。)
で示されるジハロビフェニル化合物が挙げられる。
【0012】
Aは、水素原子、アルカリ金属又は4級アンモニウムを表わし、好ましくはアルカリ金属であり、ナトリウムが特に好ましい。
【0013】
は、フッ素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、炭素数2〜20のアシル基又はシアノ基を表わす。
【0014】
ここで、炭素数1〜20のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、2,2−ジメチルプロピル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、2−メチルペンチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−イコシル基等の直鎖状、分枝鎖状もしくは環状の炭素数1〜20のアルキル基が挙げられる。
【0015】
炭素数1〜20のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、2,2−ジメチルプロポキシ基、シクロペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、2−メチルペンチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、n−ノニルオキシ基、n−デシルオキシ基、n−ウンデシルオキシ基、n−ドデシルオキシ基、n−トリデシルオキシ基、n−テトラデシルオキシ基、n−ペンタデシルオキシ基、n−ヘキサデシルオキシ基、n−ヘプタデシルオキシ基、n−オクタデシルオキシ基、n−ノナデシルオキシ基、n−イコシルオキシ基等の直鎖状、分枝鎖状もしくは環状の炭素数1〜20のアルコキシ基が挙げられる。
【0016】
炭素数6〜20のアリール基としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、3−フェナントリル基、2−アントリル基等が挙げられる。炭素数6〜20のアリールオキシ基としては、フェノキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基、3−フェナントリルオキシ基、2−アントリルオキシ基等の前記炭素数6〜20のアリール基と酸素原子とから構成されるものが挙げられる。
【0017】
炭素数2〜20のアシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ベンゾイル基、1−ナフトイル基、2−ナフトイル基等の炭素数2〜20の脂肪族もしくは芳香族アシル基が挙げられる。
【0018】
かかる炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアリールオキシ基及び炭素数2〜20のアシル基は、フッ素原子、シアノ基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基及び炭素数6〜20のアリールオキシ基からなる群から選ばれる少なくとも一つの基で置換されていてもよく、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基及び炭素数6〜20のアリールオキシ基としては、前記したものと同様のものが挙げられる。
が複数の場合、Rは同一の基であってもよいし、異なる基であってもよい。また、置換位置が隣接する2つのR1が結合して環を形成していてもよい。
【0019】
は塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表わし、塩素原子が好ましい。kは0〜3の整数を表わし、好ましくは、kは0を表わす。
【0020】
かかるジハロビフェニル化合物(1)の具体例としては、4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジナトリウム、4,4’−ジブロモビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジナトリウム、4,4’−ジヨードビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジナトリウム、4,4’−ジクロロ−3,3’−ジメチルビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジナトリウム、4,4’−ジブロモ−3,3’−ジメチルビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジナトリウム、4,4’−ジヨード−3,3’−ジメチルビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジナトリウム、4,4’−ジクロロ−3,3’−ジメトキシビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジナトリウム、4,4’−ジブロモ−3,3’−ジメトキシビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジナトリウム、4,4’−ジヨード−3,3’−ジメトキシビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジナトリウム、4,4’−ジクロロビフェニル−3,3’−ジスルホン酸ジナトリウム、4,4’−ジブロモビフェニル−3,3’−ジスルホン酸ジナトリウム、4,4’−ジヨードビフェニル−3,3’−ジスルホン酸ジナトリウム、4,4’−ジクロロ−2,2’−ジメチルビフェニル−3,3’−ジスルホン酸ジナトリウム、4,4’−ジブロモ−2,2’−ジメチルビフェニル−3,3’−ジスルホン酸ジナトリウム、4,4’−ジヨード−3,3’−ジメチルビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジナトリウム、4,4’−ジクロロ−2,2’−ジメトキシビフェニル−3,3’−ジスルホン酸ジナトリウム、4,4’−ジブロモ−2,2’−ジメトキシビフェニル−3,3’−ジスルホン酸ジナトリウム、4,4’−ジヨード−2,2’−ジメトキシビフェニル−3,3’−ジスルホン酸ジナトリウム等が挙げられ、ナトリウムがリチウム、カリウム、セシウム、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、トリエチルベンジルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム等に置き換わっていても良いし、ナトリウム等の塩型ではなくスルホン酸型であっても良い。
【0021】
スルホン酸化合物の水溶液は、通常、スルホン酸化合物濃度が1〜60重量%の範囲であり、好ましくは5〜35重量%である
【0022】
式(1)で示されるジハロビフェニル化合物の水溶液の調製方法としては、例えば、Polymeric Materials;Science&Engineering 2003,89,438-439、あるいはBull.Soc.Chim.Fr.,4,49(1931),1047等の公知の方法に準じて製造される。
かかるジハロビフェニル化合物(1)は、例えば、
式(2)

(式中、A、X、R及びkは前記と同じ意味を表わす。)
で示されるジアゾ化合物と式(3)

CuX (3)

(式中、Xは前記と同じ意味を表わす。)
で示されるハロゲン化銅とを反応させることによって得ることができる。
【0023】
疎水性有機溶媒は、例えば、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素系溶媒、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル系溶媒、ジエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテルなどのエーテル系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン系溶媒などが挙げられ、好ましくは芳香族炭化水素系溶媒、さらに好ましくはトルエンである。かかる疎水性有機溶媒はそれぞれ単独もしくは2種以上を混合して用いられ、その使用量はジハロビフェニル化合物(1)に対して通常0.5〜100重量倍、好ましくは1〜20重量倍の範囲である。
【0024】
本発明における「粉体」は、以下の条件全てを満たすものが有効である。
(1)水に対して化学反応を起こさない。
(2)上記の疎水性有機溶媒に難溶性又は不溶性である。
【0025】
上記(1)関して、粉体と水が接触したときに、水分子が別の分子に変化する場合、「水に対して化学反応を起こす。」とする。また、上記(2)関して、疎水性有機溶媒に対する粉体の溶解度が、20℃において0.5重量%以下の場合、「疎水性有機溶媒に難溶性又は不溶性」とする。
【0026】
「粉体」は上記条件に当てはまるものであれば特に問わないが、具体例としては、シリカゲル、酸化アルミニウム、合成ゼオライト類(モレキュラーシーブス等含む)等の水吸着性化合物、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化バリウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化セシウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、臭化バリウム、沃化リチウム、沃化ナトリウム、沃化カリウム、沃化セシウム、沃化マグネシウム、沃化カルシウム、沃化バリウム、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸セシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の無機塩、ベンゼンスルホン酸リチウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸カリウム、トルエンスルホン酸リチウム、トルエンスルホン酸ナトリウム、トルエンスルホン酸カリウム、4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジリチウム、4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジナトリウム、4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジカリウム等のスルホン酸塩、ベンゼンカルボン酸リチウム、ベンゼンカルボン酸ナトリウム、ベンゼンカルボン酸カリウム、トルエンカルボン酸リチウム、トルエンカルボン酸ナトリウム、トルエンカルボン酸カリウム、ビフェニル−2,2’−ジカルボン酸ジリチウム、4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジカルボン酸ジリチウム、4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジカルボン酸ジナトリウム、4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジカルボン酸ジカリウム等のカルボン酸塩等が例示され、好ましくはシリカゲル、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジナトリウムが例示され、特に硫酸マグネシウムが好ましい。
【0027】
かかる粉体はそれぞれ単独又は2種以上を混合して用いられ、その使用量はスルホン酸化合物に対して通常0.1〜50重量%、好ましくは0.5〜10重量%の範囲である。
【0028】
粉体の粒径が細かいほど、操作性良く脱水できる傾向にある。かかる粒径は、6メッシュ(JIS)の篩をパスできるサイズであり、10メッシュ(JIS)の篩をパスできるサイズが好ましく、20メッシュ(JIS)の篩をパスできるサイズが特に好ましい。メッシュ数は、1平方インチ当たりの篩の目の数を表し、「メッシュ(JIS)」は、JIS Z 8801−1966に規定されている標準篩によるものである。
【0029】
次に、スルホン酸化合物を析出させる方法について説明する。
【0030】
粉体を含有する疎水性有機溶媒へ、スルホン酸化合物の水溶液を供給し、水を蒸発させる方法としては、常圧又は減圧蒸留によって疎水性有機溶媒と水を同時に蒸発させる方法が好ましい。より具体的には、疎水性有機溶媒が蒸発している状態のところへスルホン酸化合物の水溶液を供給すると、良好なマス性状でスルホン酸化合物を析出させることができる。蒸留を継続していると疎水性有機溶媒が不足する場合があるが、その場合は、留出量見合いで疎水性有機溶媒を適時追加することが好ましい。
【0031】
蒸留時の内温は、使用する疎水性有機溶媒により異なるが、通常0〜250℃の範囲であり、30〜120℃の範囲が好ましい。
【0032】
蒸留後の残存水量は、少ないほど好ましいが、本発明では、ジハロビフェニル化合物(1)に対して通常、0.05〜20重量%の範囲であり、0.1〜10重量%の範囲が好ましく、これらの水量は留出液量を適宜調節することにより、制御できる。
【0033】
次に、本発明で得られるジハロビフェニル化合物(1)をクロロ化剤と反応させることによって、式(4)

(式中、R、X及びkは前記と同一の意味を表わす。)
で示される酸クロライド化合物を得る製造方法について説明する。
【0034】
式(4)で示される酸クロライド化合物としては、例えば、4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジクロリド、4,4’−ジブロモビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジクロリド、3,3’−ジメチル−4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジクロリド、5,5’−ジメチル−4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジクロリド、6,6’−ジメチル4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジクロリド、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジクロリド、5,5’−ジメトキシ−4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジクロリド、6,6’−ジメトキシ−4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジクロリド、3,3’−ジフェニル−4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジクロリド、3,3’−ジアセチル−4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジクロリド、5,5’−ジアセチル−4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジクロリド、6,6’−ジアセチル−4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジクロリド、4,4’−ジクロロビフェニル−3,3’−ジスルホン酸ジクロリド、4,4’−ジブロモビフェニル−3,3’−ジスルホン酸ジクロリド、2,2’−ジメチル−4,4’−ジクロロビフェニル−3,3’−ジスルホン酸ジクロリド、5,5’−ジメチル−4,4’−ジクロロビフェニル−3,3’−ジスルホン酸ジクロリド、6,6’−ジメチル4,4’−ジクロロビフェニル−3,3’−ジスルホン酸ジクロリド、2,2’−ジメトキシ−4,4’−ジクロロビフェニル−3,3’−ジスルホン酸ジクロリド、5,5’−ジメトキシ−4,4’−ジクロロビフェニル−3,3’−ジスルホン酸ジクロリド、6,6’−ジメトキシ−4,4’−ジクロロビフェニル−3,3’−ジスルホン酸ジクロリド、2,2’−ジフェニル−4,4’−ジクロロビフェニル−3,3’−ジスルホン酸ジクロリド、2,2’−ジアセチル−4,4’−ジクロロビフェニル−3,3’−ジスルホン酸ジクロリド、5,5’−ジアセチル−4,4’−ジクロロビフェニル−3,3’−ジスルホン酸ジクロリド、6,6’−ジアセチル−4,4’−ジクロロビフェニル−3,3’−ジスルホン酸ジクロリド等が挙げられ、4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジクロリド及び4,4’−ジブロモビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジクロリドが好ましい。
【0035】
クロロ化剤としては、塩化チオニル、三塩化リン、五塩化リン、オキシ塩化リン、塩化シアヌル等が挙げられ、塩化チオニル、オキシ塩化リン、五塩化リンが好ましい。使用されるクロロ化剤の量は、ジハロビフェニル化合物(1)に対して、0.5〜20モル倍であり、好ましくは2〜10モル倍である。
【0036】
反応促進剤として、N,N’−ジメチルホルムアミド等のアミド系化合物を添加しても良い。かかるアミド系化合物の使用量としては、ジハロビフェニル化合物(1)に対して、1〜200mol%であり、好ましくは10〜100mol%である。
【0037】
反応は、式(1)で示されたジハロビフェニル化合物を析出させた後に実施されるが、式(4)で示される酸クロライド化合物が溶解する溶媒を追加しても良い。かかる溶媒としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素溶媒等が挙げられ、トルエンがより好ましい。溶媒の使用量は、通常1〜100重量倍、好ましくは5〜20重量倍である。反応温度は、通常0〜250℃であり、好ましくは50〜120℃である。反応時間は、通常0.5〜48時間である。
【0038】
反応終了後、反応混合物を水に注ぎ込むと、余剰のクロロ化剤等をクエンチできる。この時、水にアルカリ化合物を加えておくと、クロロ化剤を効率的に取り除くことができる。かかるアルカリ化合物としては、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム等の弱アルカリ性化合物が好ましい。上記の水クエンチ後、式(4)で示される酸クロライド化合物を含む溶液を濃縮することによって該酸クロライド化合物を単離できる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
実施例に記載の4,4’−ジクロロ−2,2’−ビフェニルジスルホン酸ジナトリウム及び4,4’−ジクロロ−2,2’−ビフェニルジスルホン酸ジクロリドの含量は、n−オクチルベンゼンを内部標準物質として用いるLC法(LC−IS法)により測定した。
【0041】
標準品となる4,4’−ジクロロ−2,2’−ビフェニルジスルホン酸ジナトリウムは、以下の方法で合成し、その純度を100%として実施例の4,4’−ジクロロ−2,2’−ビフェニルジスルホン酸ジナトリウムの含量を測定した。
【0042】
「1」:2,2−ジメチルプロパノール25.2gをテトラヒドロフラン200mLに溶解させた。これに、0℃で、n−ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.57M)151.6mLを滴下した。その後、室温で1時間攪拌し、リチウム(2,2−ジメチルプロポキシド)を含む溶液を調製した。4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジクロリド40gをテトラヒドロフラン300mLに溶解させて得られた溶液に、0℃で、調製したリチウム(2,2−ジメチルプロポキシド)を含む溶液を滴下した。その後、室温で1時間攪拌、反応させた。反応混合物を濃縮した後、残渣に、酢酸エチル1000mL及び2mol/L塩酸1000mLを加え、30分攪拌した。静置した後、有機層を分離した。分離した有機層を飽和食塩水1000mLで洗浄した後、減圧条件下で溶媒を留去した。濃縮残渣を、シリカゲルクロマトグラフィ(溶媒;クロロホルム)により精製した。得られた溶出液から溶媒を、減圧条件下で留去した。残渣を、70℃でトルエン500mLに溶解させた後、室温まで冷却した。析出した固体を濾過により分離した。分離した固体を乾燥し、4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジ(2,2−ジメチルプロピル)の白色固体31.2gを得た。
「2」:上記「1」で合成した4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジ(2,2−ジメチルプロピル)の方法に準じて合成した4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジ(2,2−ジメチルプロピル)(20.0g、38.2mmol)と臭化ナトリウム(8.25g、80.2mmol)にN−メチル−2−ピロリドン(80.0g)を加え、120℃で2時間攪拌した。反応混合物をアセトニトリル(400.0g)に注加し、析出した固体を濾過で単離し、20gの水に溶解した後、再度アセトニトリル(400.0g)に注加した。析出した固体を濾過し、アセトニトリルで洗浄した後、乾燥することによって4,4’−ジクロロ−2,2’−ビフェニルジスルホン酸ジナトリウム12.31g(収率75%)を得た。
【0043】
標準品となる4,4’−ジクロロ−2,2’−ビフェニルジスルホン酸ジクロリドは、Bull.Soc.Chim.Fr.,4,49(1931),1047に記載の方法で合成し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。その純度を100%として実施例の4,4’−ジクロロ−2,2’−ビフェニルジスルホン酸ジクロリドの含量を測定した。
【0044】
LCの分析条件は、以下の通りとする。
<分析条件>
LC測定装置:LC−10AT(株式会社島津製作所製)
カラム:L−Column ODS(5μm,4.6mmφ×15cm)
カラム温度:40℃
移動相:A:0.1%n−テトラブチルアンモニウムブロミド水溶液
B:0.1%n−テトラブチルアンモニウムブロミドアセトニトリル溶液
グラジエント:0min B=30%
20min B=90%
35min B=90%
35.1min B=30%
45min STOP TOTAL分析時間 45分
流量:1.0mL/分
検出波長:254nm
【0045】
実施例に記載の水の含量は、カールフィッシャー装置により測定した。
【0046】
[製造例1]
「4,4’−ジクロロ−2,2’−ビフェニルジスルホン酸ジナトリウムの水溶液の調製」


Bull.Soc.Chim.Fr.,4,49(1931),1047を参考にしながら、以下のように調製した。2,2’−ベンジジンジスルホン酸(350.0g、1016.4mmol)に水(605.1g)を加え、撹拌しながら10℃で36%の亜硝酸ナトリウム水溶液(460.1g、2337.7mmol)を滴下し、1時間攪拌した。反応混合溶液に、10℃で35%の塩酸(327.3g、3141.9mmol)を滴下し、1時間撹拌した(溶液(1)とする)。別途、塩化銅(I)(166.03g、1677.0mmol)を35%の塩酸(587.0g)に溶解させて10℃に冷却した(溶液(2)とする)。溶液(1) を溶液(2)に滴下し、1時間撹拌し、50%水酸化ナトリウム水溶液450gを加えて、pH0.5程度まで中和し、食塩93gを加えて溶かした。この溶液に、トルエン315gと2−プロパノール1258gを加え、室温で30分撹拌して抽出した。水層に再度トルエン377gと2−プロパノール1132gを加え、室温で30分撹拌して抽出した。それぞれで抽出した油層を併せ、炭酸ナトリウム140gを加えて、残存した銅化合物を析出させ、濾過した濾液を1130gまで濃縮した。得られた溶液には、4,4’−ジクロロ−2,2’−ビフェニルジスルホン酸ジナトリウム293.8g(687.7mmol、収率68%)と水324.3gが含まれていた。
【0047】
[実施例1]
「4,4’−ジクロロ−2,2’−ビフェニルジスルホン酸ジナトリウムの脱水」
トルエン200gと35メッシュ(JIS)篩をパスした硫酸マグネシウム0.20gを110℃に加熱し、よく攪拌した。そこへ製造例1で得られた4,4’−ジクロロ−2,2’−ビフェニルジスルホン酸ジナトリウムの溶液76.9g(該ビフェニルジスルホン酸ジナトリウム26%、水28.7%含有)とトルエン800gを5時間かけて同時に滴下し、内容物が231gになるまでトルエン及び水を蒸留した。得られたスラリーには水0.69g(該ビフェニルジスルホン酸ジナトリウムに対し3.45%である。)が含まれていた。
【0048】
[実施例2]
「4,4’−ジクロロ−2,2’−ビフェニルジスルホン酸ジナトリウムの脱水」
トルエン150gと段落番号[0041]に記載の標準品となる70メッシュ(JIS)篩をパスした4,4’−ジクロロ−2,2’−ビフェニルジスルホン酸ジナトリウム0.75gを110℃に加熱し、よく攪拌した。そこへ製造例1で得られた4,4’−ジクロロ−2,2’−ビフェニルジスルホン酸ジナトリウムの水溶液76.9gとトルエン600gを5時間かけて同時に滴下し、スラリーが178gになるまでトルエン及び水を蒸留した。得られたスラリーには水0.59g(該ビフェニルジスルホン酸ジナトリウムに対し2.84%である。)が含まれていた。
【0049】
[実施例3]
「4,4’−ジクロロ−2,2’−ビフェニルジスルホン酸ジナトリウムの脱水」
トルエン150gと26メッシュ(JIS)篩をパスした食塩0.75gを110℃に加熱し、よく攪拌した。そこへ製造例1で得られた4,4’−ジクロロ−2,2’−ビフェニルジスルホン酸ジナトリウムの水溶液76.9gとトルエン600gを5時間かけて同時に滴下し、スラリーが185gになるまでトルエン及び水を蒸留した。得られたスラリーには水0.55g(該ビフェニルジスルホン酸ジナトリウムに対し2.75%である。)が含まれていた。
【0050】
[実施例4]
「4,4’−ジクロロ−2,2’−ビフェニルジスルホン酸ジナトリウムの脱水」
トルエン150gと10メッシュ(JIS)篩をパスしたシリカゲル0.75gを110℃に加熱し、よく攪拌した。そこへ製造例1で得られた4,4’−ジクロロ−2,2’−ビフェニルジスルホン酸ジナトリウムの水溶液76.9gとトルエン600gを5時間かけて同時に滴下し、スラリーが175gになるまでトルエン及び水を蒸留した。得られたスラリーには水0.53g(該ビフェニルジスルホン酸ジナトリウムに対し2.65%である。)が含まれていた。
【0051】
[実施例5]
「4,4’−ジクロロ−2,2’−ビフェニルジスルホン酸ジナトリウムの脱水」
トルエン150gと35メッシュ(JIS)篩をパスした硫酸バリウム0.75gを110℃に加熱し、よく攪拌した。そこへ製造例1で得られた4,4’−ジクロロ−2,2’−ビフェニルジスルホン酸ジナトリウムの水溶液76.9gとトルエン600gを5時間かけて同時に滴下し、スラリーが180gになるまでトルエン及び水を蒸留した。得られたスラリーには水0.55g(該ビフェニルジスルホン酸ジナトリウムに対し2.75%である。)が含まれていた。
【0052】
[実施例6]
「4,4’−ジクロロ−2,2’−ビフェニルジスルホン酸ジクロリドの合成」
実施例1で得られた4,4’−ジクロロ−2,2’−ビフェニルジスルホン酸ジナトリウム3.0g(7.0mmol)を含むスラリー35.0gに、N,N’−ジメチルホルムアミド0.51g(7.0mmol)と塩化チオニル6.68g(56.2mmol)を加えて60℃で1時間保温した。反応混合物を21gの水に注ぎ込み、水層を除去した。次いで5%炭酸水素ナトリウム水溶液21g加え、50℃で2時間撹拌した後に水層を除去し、濃縮して4,4’−ジクロロ−2,2’−ビフェニルジスルホン酸ジクロリドを含むトルエン溶液29gを得た。得られた溶液には、4,4’−ジクロロ−2,2’−ビフェニルジスルホン酸ジクロリド2.74g(6.53mmol、収率93%)が含まれていた。
【0053】
[比較例1]
トルエン200gを110℃に加熱し、よく攪拌した。そこへ製造例1で得られた4,4’−ジクロロ−2,2’−ビフェニルジスルホン酸ジナトリウムの水溶液76.9gとトルエン800gを5時間かけて同時に滴下したところ、4,4’−ジクロロ−2,2’−ビフェニルジスルホン酸ジナトリウムが水アメ状になり、撹拌不能なマス性状へと変化した。
【0054】
以上のことから、疎水性有機溶媒と粉体へ、スルホン酸化合物の水溶液を供給し、水を蒸発させることによってスルホン酸化合物を脱水する方法は、工業的製法の観点から優れていると言える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体を含む疎水性有機溶媒へ、スルホン酸化合物の水溶液を供給し、水を蒸発させることによって該スルホン酸化合物を析出させることを特徴とするスルホン酸化合物の製造方法。
【請求項2】
粉体が無機塩である請求項1に記載のスルホン酸化合物の製造方法。
【請求項3】
粉体が水吸着性化合物である請求項1又は2に記載のスルホン酸化合物の製造方法。
【請求項4】
粉体が水和物を形成する化合物である請求項1〜3のいずれかに記載のスルホン酸化合物の製造方法。
【請求項5】
粉体が硫酸マグネシウムである請求項1〜4のいずれかに記載のスルホン酸化合物の製造方法。
【請求項6】
粉体の使用量が、スルホン酸化合物の総量に対して10重量%以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のスルホン酸化合物の製造方法。
【請求項7】
粉体の粒径が、6メッシュ(JIS)の篩をパスできるサイズであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のスルホン酸化合物の製造方法。
【請求項8】
疎水性有機溶媒が、炭化水素系有機溶媒である請求項1〜7のいずれかに記載のスルホン酸化合物の製造方法。
【請求項9】
スルホン酸化合物が、式(1)

(式中、Aは、水素原子、アルカリ金属又は4級アンモニウムを表わす。Rは、フッ素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、炭素数2〜20のアシル基又はシアノ基を表わす。ここで、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基及びアシル基は、フッ素原子、シアノ基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基及び炭素数6〜20のアリールオキシ基からなる群から選ばれる少なくとも一つの基で置換されていてもよい。R1が複数の場合、Rは同一の基であってもよいし、異なる基であってもよい。また、結合位置が隣接する2つのR1が、結合して環を形成していてもよい。
は塩素、臭素又はヨウ素原子を表わす。kは0〜3の整数を表わす。)
で示されるジハロビフェニル化合物である請求項1〜8のいずれかに記載のスルホン酸化合物の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の式(1)で示されるジハロビフェニル化合物が、式(2)

(式中、A、X、R及びkは請求項7で定義したと同じ意味を表わす。)
で示されるジアゾ化合物と式(3)

CuX (3)

(式中、Xは塩素、臭素又はヨウ素原子を表わす。)
で示されるハロゲン化銅とを反応させて得られるものである請求項9に記載のスルホン酸化合物の製造方法。
【請求項11】
得られるスルホン酸化合物の含水率が、10%以下である請求項1〜10のいずれかに記載のスルホン酸化合物の製造方法。
【請求項12】
請求項9又は10に記載の脱水方法で得られた請求項9に記載の式(1)で示されるジハロビフェニル化合物とクロロ化剤とを反応させることを特徴とする式(4)

(式中、R、X及びkは請求項9で定義したと同じ意味を表わす。)
で示される酸クロライド化合物の製造方法。
【請求項13】
クロロ化剤が、塩化チオニル、オキシ塩化リン又は五塩化リンである請求項12に記載の酸クロライド化合物の製造方法。

【公開番号】特開2009−161493(P2009−161493A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−1933(P2008−1933)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】