説明

セグメントリングの継手構造

【課題】セグメントリングの脚部における軸力を確実に伝達可能であるとともに、曲げモーメント及びこれにより生じる応力を分散させて、セグメントリングの強度を向上させることが可能なセグメントリングの継手構造を提供する。
【解決手段】シールドトンネルに構築された扁平セグメントリング2の断面視斜め下方に位置するトンネル脚部K1における扁平セグメントリング2の継手構造10であって、側壁部セグメント22の接合端部22aに、接合端部22a外側に向かって突出してトンネル方向に延在する凸曲面11aを有する雄継手11を設け、脚部セグメント21の接合端部21aに、接合端部21a内側に向かって凹んでトンネル方向に延在する凹曲面12aを有する雌継手12を設け、雄継手11の凸曲面11aの曲率を雌継手12の凹曲面12aの曲率よりも僅かに大きくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド工法によって構築されたセグメントリングを補強するセグメントリングの継手構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、道路、鉄道などの用途で施工されるシールドトンネルは、プレキャスト床版を設置している。そして、一般的に、トンネルの断面は、円形断面で施工されている。しかし、円形断面のうち実際に利用されるスペースは、上下部分を除いた内空断面であることが多いことから略横長のトンネル空間を形成させた略楕円形状或いは馬蹄形状などの異形断面(以下、これらを「扁平トンネル」と記述する)のトンネルが施工される場合が増えている。
【0003】
このような扁平トンネルに構築される扁平セグメントリングには、内部鉄筋を配設したコンクリートセグメント又は合成セグメントが用いられており、断面円形のセグメントリングと比較して外方からの土圧やセグメントの自重によって上下方向の圧縮力が作用することになる。とくに、扁平セグメントリングに作用する曲げモーメントは、断面の斜め下方に位置するトンネル脚部近傍においてトンネル外側に向けた応力が集中して最大曲げモーメントが発生する。
【0004】
従来の扁平セグメントリングにおいては、このような曲げモーメントを減少させる方法として、扁平セグメントリングに大きな強度をもたせることが行なわれ、例えば鉄筋量を多くしてセグメントの厚さ寸法を大きくしてセグメントの強度を上げていた。
ところが、セグメントの厚さ寸法を大きくすることは、セグメントが高価になるうえ、トンネルの掘削断面が大きくなるといった欠点があり、経済的ではなかった。
【0005】
そこで、扁平セグメントリング自体の強度を上げることなく、上述した扁平による曲げモーメントに対応した構造が、例えば特許文献1、特許文献2に提案されている。
この特許文献1に記載の構造は、扁平トンネルの内空側において、水平方向に引張力を受けもち略水平方向に配置された弦材をなす補強部材(第1補強部材)を設けることで、セグメントに水平方向に圧縮力を与えるものである。
さらに、縦方向(上下方向)に圧縮力を受けもち該縦方向に配置された棒状の補強部材(第2補強部材)を設けることで、扁平セグメントリングに作用する集中応力を減少させている。
【0006】
一方、特許文献2に記載の構造は、特許文献1に記載の構造の特徴に加え、より曲げモーメントを小さくさせることで扁平セグメントの厚さ寸法を小さくすることを可能とするものである。
この特許文献2に記載の構造によれば、扁平セグメントリングの断面視斜め下方に位置するトンネル脚部に、扁平セグメントリングのセグメント間を周方向に連結するヒンジ継手を設け、さらにトンネル脚部から底盤部までのセグメント厚さ寸法を扁平セグメントリングの上方部より大きくすることで、応力の集中を緩和させるとともに曲げモーメントを小さくさせる。
【特許文献1】特許第2520034号公報
【特許文献2】特開2007―239367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、扁平セグメントリングには、上述のようにトンネル脚部付近にトンネルの外側に向けた応力が集中して最大曲げモーメントが発生するが、この曲げモーメントの値は、トンネル施工時や地震発生時等のトンネル自体に外力が加わる場合に特に大きなものとなる。
この際、上記従来の扁平セグメントリングのトンネル脚部においては、コンクリートからなるセグメントの接合面同士が直接的に接触して連結される構造とされているため、当該セグメントに直接的に応力が生じるとともに曲げモーメントを十分に分散することができず、場合によってはセグメントの連結箇所にクラック等が生じるおそれがあった。また、扁平セグメントリングにおいては、このような大きな曲げモーメントが生じた場合であっても、周方向の軸力を確実に伝達できることが望まれる。
なお、扁平セグメントリングのみならず、断面円形をなす円形セグメントリングについても、上記同様の問題点及び要望があった。
【0008】
この発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、扁平状又は円形状をなすセグメントリングの軸力を確実に伝達可能であるとともに、セグメントに作用する応力及び曲げモーメントを分散させて、セグメントリングの強度を向上させることが可能なセグメントリングの継手構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、この発明は以下の手段を提案している。
即ち、本発明に係るセグメントリングの継手構造は、シールドトンネルに構築されたセグメントリングの断面視斜め下方に位置するトンネル脚部におけるセグメントリングの継手構造であって、前記トンネル脚部で連結される一方のセグメントの接合端部に、該接合端部の外側に向かって突出してトンネル方向に沿って延びる凸曲面を有する雄継手が設けられるとともに、他方のセグメントの接合端部に、該接合端部の内側に向かって凹んでトンネル方向に沿って延びる凹曲面を有し前記雄継手と連結される雌継手が設けられ、前記雄継手及び前記雌継手は、鋼材又は硬質樹脂から形成されており、前記雄継手の前記凸曲面の曲率が前記雌継手の前記凹曲面の曲率よりも僅かに大きくされていることを特徴としている。
【0010】
このような特徴のセグメントリングの継手構造によれば、両セグメントは雄継手の凸曲面と雌継手の凹曲面とが線接触することでセグメントリング周方向の軸力が伝達されることになり、両セグメントの接合面同士が直接的に接触するのを避けてこれらセグメントに応力が集中するのを防止することができる。
また、当該雄継手及び雌継手の線接触部に生じる応力は、雄継手及び雌継手の厚みに応じて分散されて両セグメントに伝達されるため、これら両セグメントに生じる応力を低減させることが可能となる。
さらに、セグメントに曲げモーメントが作用した際には、両セグメントが凸曲面及び凹曲面に沿って揺動することによって曲げモーメントによる力を逃がし、応力の集中を緩和させることができる。
また、大きな圧縮力が作用した際には、雄継手の凸曲面が広がるように撓むことによって当該雄継手の凸曲面と雌継手の凹曲面とが面接触することになり、これら雄継手及び雌継手に生じる応力を分散させることができる。さらに、このように面接触した場合、セグメントリング周方向の軸力をより確実に伝達することが可能となる。
なお、上記セグメントリングには、断面略楕円形状或いは馬蹄形状などの異形断面をなす扁平セグメントリングや断面円形をなす円形セグメントリングが含まれる。
【0011】
また、本発明に係るセグメントリングの継手構造においては、前記雄継手及び前記雌継手が、前記鋼材又は前記硬質樹脂に代えて、繊維補強高硬度コンクリート、セラミック及び鋳鉄のいずれかから形成されているものであってもよい。この場合であっても、上記同様の作用効果を奏する。
【0012】
また、本発明に係るセグメントリングの継手構造においては、前記雄継手及び前記雌継手を、それぞれ前記一方のセグメント又は前記他方のセグメントに対して固定するインサートが設けられていることを特徴としている。
【0013】
このような特徴のセグメントリングの継手構造によれば、雄継手及び雌継手がそれぞれ両セグメントに強固に固定一体化されることになるため、両セグメントの接合端面に生じるせん断力に対向して、雄継手及び雌継手をセグメントに保持することが可能となる。
【0014】
また、本発明に係るセグメントリングの継手構造は、前記一方のセグメント、前記雄継手、前記雌継手及び前記他方のセグメントを連続して貫通するように一定の曲率で延びて、前記一方のセグメント及び前記他方のセグメントの内周面にそれぞれ開口する曲がり孔と、該曲がり孔に挿入されて該曲がり孔の開口部にてそれぞれ締結固定される曲がりボルトとが設けられたものであってもよい。
【0015】
このような特徴のセグメントリングの継手構造によれば、曲がりボルトによって雄継手及び雌継手がそれぞれ両セグメントに強固に固定一体化されることから、より耐震性を向上させることが可能となる。
【0016】
さらに、本発明に係るセグメントリングの継手構造においては、前記雄継手及び前記雌継手が、円管状の部材を該円管の軸線方向に分割することで形成された瓦状をなしていることを特徴としている。
円管状の部材に簡易な加工を施すことのみもって雄継手及び雌継手を構成することができるため、加工容易性及び生産性を担保することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るセグメントリングの継手構造によれば、二つのセグメントを凸曲面を備えた雄継手と凹曲面を備えた雌継手とによって接合することにより、軸力を確実に伝達することができるとともに、応力や曲げモーメントを分散させてセグメントリングの強度を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態である扁平セグメントリングの継手構造について、図1から図4に基づいて説明する。
図1は本発明の実施の形態に係る扁平セグメントリングを示す断面図、図2は扁平セグメントリングの断面形状の構成を示す説明図、図3は扁平セグメントリングの脚部付近を示す拡大図、図4は本実施形態の扁平セグメントリングに係る継手構造の拡大図である。
【0019】
図1に示すように、本実施の形態による扁平セグメントリングの補強構造1は、道路、鉄道、共同溝などに採用されるトンネルであって、シールド工法によって地山内に延設された断面馬蹄形状(以下、この形状を「扁平」と称する)をなす扁平セグメントリング2に適用される。扁平セグメントリング2は、湾曲した複数の内部に鉄筋を配設したコンクリートセグメント20が環状に組み合わされて構築されている。
【0020】
ここで、馬蹄形状をなす扁平セグメントリング2の詳細構成について図面に基づいて説明する。
図2に示すように、扁平セグメントリング2の断面形状は、それぞれが所定位置に円心を有する4つの円の円弧の一部を繋いた形状に設計されたものであり、略上半部の円弧領域の一部を形成する半径R1の中円2Aと、底盤部の円弧領域の一部を形成する半径R2の大円2Bと、側部から底盤部にかけて断面視左右斜め下方に位置する円弧領域の一部を形成する半径R3の小円2C、2Cとから構成されている。この小円2C、2Cの円弧領域を、「トンネル脚部K1、K2」として以下説明する。
【0021】
次に、図1に示すように、扁平セグメントリング2の補強構造1について説明する。
各トンネル脚部K1、K2の領域には、扁平セグメントリング2の周方向に配置されるセグメント20、20間を連結する継手構造10が設けられている。ここで、この継手構造10の下方側に配置されたセグメントを脚部セグメント21とし、同じく上方側に配置されたセグメントを側壁部セグメント22とする。
【0022】
そして、扁平セグメントリング2は、断面視で左右に位置する脚部セグメント21、21から底盤部23に向かうにしたがってセグメントの厚さ寸法が大きくなっている。
また、図1に示すように、扁平セグメントリング2には、脚部セグメント21、21の内空側の間を略水平方向に延在させて水平方向に引張力を受けもつPC鋼材30(水平補強部材)と、水平方向の圧縮力を受けもつ床版40とが設けられている。
【0023】
次に、継手構造10の詳細構成について図面に基づいて説明する。
図3及び図4示すように、継手構造10は、側壁部セグメント22の下端接合面22aに埋設されている雄継手11と、雄継手11と対向する位置で脚部セグメント21の上端接合面21aに埋設されている雌継手12とから構成されている。
【0024】
雄継手11は、例えば鋼材や硬質樹脂等からなる円管状の部材が縦方向に分割されることにより形成された瓦状をなしており、当該瓦状の外周面である凸曲面11aが上記下端接合面22aの外側を向くように、かつ当該凸曲面11aがトンネル方向(紙面に直行する方向)に延在するように埋設されることによって、側壁部セグメント22に取り付けられている。これによって、雄継手11の凸曲面11aの頂部は、トンネル方向に延在することになる。
なお、この雄継手11は、上記鋼材や硬質樹脂に代えて繊維補強高硬度コンクリート、セラミック、鋳鉄等から形成されていてもよい。
【0025】
また、雄継手11が下端接合面22aに埋設された際には、側壁部セグメント22内の鉄筋(図示省略)に固定されたインサート13が雄継手11の内周面11bに連結されることによって、当該雄継手11が側壁部セグメント22に対して強固に固定されている。
【0026】
雌継手12は、雄継手11と同様に、例えば鋼材や硬質樹脂等からなる円管状の部材が縦方向に分割されることにより形成された瓦状をなしており、当該瓦状の内周面である凹曲面12aが、脚部セグメント21の上端接合面12aの外側を向くように、かつ当該凹曲面12aがトンネル方向に延在するように埋設されることによって、脚部セグメント21に取り付けられている。これによって、雌継手12の凹曲面12aの底頂部は、トンネル方向に延在することになる。
また、この雌継手12についても、雄継手11と同様に、上記鋼材や硬質樹脂に代えて繊維補強高硬度コンクリート、セラミック、鋳鉄等から形成されていてもよい。
【0027】
なお、雌継手12の凹曲面12aの曲率と、雄継手11の凸曲面11aの曲率とを比較すると、雄継手11の凸局面11aの方が雌継手12の凹曲面12aよりも僅かに大きなものとなるように形成されている。
【0028】
また、詳しくは図4に示すように、雌継手12が脚部セグメント21の上端接合面21aに埋設された際には、脚部セグメント21内の鉄筋(図示省略)に固定されたインサート14が雌継手12の外周面12bに連結されることによって、当該雌継手12が脚部セグメント21に対して強固に固定されている。
【0029】
そして、上記のような雄継手11の凸曲面11aが雌継手12の凹曲面12aに嵌り込むことによって雄継手11と雌継手12が連結される。この際、上記のように凸曲面11aと凹曲面12aの曲率が異なることから、雄継手11の凸曲面11aの頂部のみが雌継手12の凹曲面12aの頂底部に当接する。したがって、雄継手11と雌継手12とは互いに線接触することになり、当該接触部を介して扁平セグメントリング2の周方向の軸力が伝達される。
なお、このように雄継手11及び雌継手12によって側壁部セグメント21と脚部セグメント22とが連結された際には、当該雄継手11と雌継手12とが接触する以外は、側壁部セグメント22の下端接合面22aと脚部セグメント21の上端接合面21aが接触することはなく、一定の隙間15が形成されている。これにより、側壁部セグメント21と脚部セグメント22との軸力は当該雄継手11及び雌継手12のみを介して伝達されることなる。
【0030】
図1に示すように、床版40は、予め工場などで製造されるプレキャスト製であり、略長方形状をなし、トンネル軸方向に連結され、その長手方向をトンネル軸方向に直交させる方向に配置させ、扁平セグメントリング2の底盤部23に設けられた支柱3上に所定の高さとなるように載置させている。
そして、図3に示すように、床版40には、その長手方向に貫通した挿通孔41が形成され、その挿通孔41に円筒形状のシース管42が挿入され、そのシース管42内にPC鋼材30が挿通されている。このようにPC鋼材30を床版40に内蔵させた構成とすることで、トンネル空間を有効に使うことができる。
【0031】
また、図1及び図3に示すように、脚部セグメント21の内周面21bと床版40の側面40a(すなわち、脚部セグメント21、21側の面)との間には、鋼材などからなる圧縮伝達部材50が設けられている。扁平セグメントリング2に略水平方向の圧縮力が作用するとき、この圧縮力が圧縮伝達部材50を介して床版40に伝達される作用をなしている。さらに、圧縮伝達部材50は、床版40の側方下端部40b、40bを下方より支持するように、横方向中心に向けて張り出して形成されている。
【0032】
さらに図3に示すように、PC鋼材30は、雄ネジを形成させた両端部30a、30aを床版40の両側面40a、40aより突出させ、PC鋼材30の両端部30a、30aを脚部セグメント21、21に一体となるように固定させている。
つまり、脚部セグメント21、21には、床版40を所定の位置に設置した状態で、PC鋼材30と同軸となるように棒状の異形鋼材61が埋設されている。この異形鋼材61は、雄ネジが形成された端部61aを、脚部セグメント21の内周面21bを切り欠いて形成させた切欠部(図示省略)で露出させている。
【0033】
そして、異形鋼材61とPC鋼材30とを連結させる手段として、円筒形状のカップラー62が設けられている。このカップラー62は、内面に雌ネジを形成させ、一方の内面に異形鋼材61の端部61aを螺合させ、他方の内面にPC鋼材30の端部30aを螺合させている。このように、両トンネル脚部K1、K2において、PC鋼材30と異形鋼材61とを螺合させた状態でカップラー62を締め付けると、異形鋼棒61とPC鋼材30とを均一に締め付けることができ、PC鋼材30に水平方向の引張力を受けもたせることができる。
【0034】
そして、水平方向に引張力を負担させたPC鋼材30によって扁平セグメントリング2に水平方向の圧縮力が発生するが、この圧縮力を上述した床版40によって受けもたせることができる。このように、床版40は、PC鋼材30を補強する効果を有し、PC鋼材30に与える圧縮力を抑制することができる。
【0035】
次に、本実施形態に係る扁平セグメントリング2の作用について継手構造10の作用を中心として説明する。
扁平セグメントリング2には、その断面形状が扁平であることから土圧やセグメント自重により上下方向にトンネル断面が潰れるようにして圧縮力が作用し、トンネル脚部K1、K2付近にトンネルの外側に向けた応力が集中して最大曲げモーメントが発生し、特にトンネル施工時や地震発生時等の外力が加わる場合には曲げモーメントの値は大きなものとなる。
なお、このトンネル脚部K1、K2付近には、セグメントリング2を外周側に張り出すように撓ませる、いわゆる負のモーメントが作用する。
【0036】
ここで、本実施形態における継手構造10においては、扁平セグメントリング2に上下方向の圧縮力が作用したときには、脚部セグメント21の雌継手12と側壁部セグメント22の雄継手11とが、それぞれの凸曲面及び凹曲面に沿って揺動し、当該凸曲面11a及び凹曲面12aにおける線接触箇所をずらすように相対移動する。これにより、扁平セグメントリング2の外周側の隙間15を大きくさせ、反対に内周側の隙間15を小さくさせるように作用し、曲げモーメントによる力を適宜逃がして応力の集中を緩和させることが可能となる。
【0037】
また、トンネル脚部K1、K2の所定位置において、PC鋼材30を設け、このPC鋼材30に、扁平セグメントリング2を内空側に引っ張る方向(水平方向に圧縮力を作用させる方向)に引張力を受けもたせことでより、トンネル脚部K1、K2付近に作用する負の曲げモーメントさらに小さくさせることができる。さらにこれに加え、曲げモーメントが大きなトンネル脚部から底盤部までの扁平セグメントリング2の厚さ寸法をその上方部より大きくしておくことで、より曲げモーメントを小さくさせることができる。
【0038】
一方、本実施形態に係る扁平セグメントリングの継手構造10においては、トンネル脚部K1、K2における側壁部セグメント21及び脚部セグメント22とは、雄継手11の凸曲面11aと雌継手12の凹曲面12aとが線接触することによってセグメントリング周方向の軸力が伝達され、両セグメント21、22の上端接合面21aと下端接合面22aが直接的に接触することはない。したがって、トンネルへの圧縮力や曲げモーメントによる応力が直接的に両セグメント21、22に生じることはなく応力が集中するのを防ぐことができるため、クラック等の発生を抑制することが可能となる。
【0039】
また、雄継手11及び雌継手12の接触部より生じる応力は、当該雄継手11及び雌継手12の厚みに応じて分散されて側壁部セグメント22又は脚部セグメント21に伝達されるため、これら両セグメント21、22に生じる応力をより低減させることが可能となる。
【0040】
さらに、より大きな圧縮力がトンネルに作用した際には、当該圧縮力及びこれによる曲げモーメントにより、鋼材又は硬質樹脂等からなる雄継手11の凸曲面11aが広がるように撓むことによって、当該雄継手11の凸曲面11aと雌継手12の凹曲面12aとが線接触から面接触に移行する。
これによって、連結箇所に生じる応力をより分散させることができ、両セグメント21、22に伝達されて生じる応力をより低減させることが可能となる。さらに、このように雄継手11及び雌継手12が面接触した場合、扁平セグメントリング2周方向の軸力をより確実に伝達することが可能となる。
【0041】
また、雄継手11及び雌継手12はそれぞれインサート13、14によって側壁部セグメント21又は脚部セグメント22に強固に固定一体化されているため、曲げモーメントにより当該雄継手11及び雌継手12に生じるせん断力に対抗することができる。
【0042】
さらに、雄継手11及び雌継手12が、鋼材や硬質樹脂等からなる円管状の部材を該円管の軸線方向に分割することで形成された瓦状をなしているため、上記円管状の部材に簡易な加工を施すことのみをもって雄継手11及び雌継手12を製作することができるため、加工容易性及び生産性を担保することができる。
【0043】
上述のように、本実施形態に係る扁平セグメントリング2の継手構造10によれば、脚部セグメント21と側壁部セグメント22とを、凸曲面11aを備えた雄継手11と凹曲面12aを備えた雌継手12とによって連結することにより、軸力を確実に伝達することができるとともに、応力や曲げモーメントを分散させて扁平セグメントリング2の強度を向上させることが可能となる。
従って、たとえ施工時や地震発生時等にトンネルに大きな圧縮力が作用し、これによってトンネル脚部K1、K2に大きな曲げモーメントが発生したとしても、コンクリートセグメント20にクラック等の損傷を発生させずしてトンネル構造を維持することが可能となる。
【0044】
以上、本発明の実施形態の扁平セグメントリング2の継手構造10について詳細に説明したが、本発明の技術的思想を逸脱しない限り、これらに限定されることはなく、多少の設計変更等も可能である。
例えば、雄継手11及び雌継手12の厚みは、図3及び図4に示す比較的厚みの大きなものから、図5に示すような比較的厚みの小さなものまで適宜選択可能である。
【0045】
また、扁平セグメントリング2の継手構造10の変形例として、例えば図6に示すような構成であってもよい。
即ち、図6における継手構造10においては、上述の構成に加えて、側壁部セグメント22の内周面22b及び脚部セグメント21の内周面21bに、それぞれ切欠部71、71が形成されている。そして、この2つの切欠部71、71を連通するようにして側壁部セグメント22、雄継手11、雌継手12及び脚部セグメント21を連続して貫通する曲がり孔72が穿設されている。この曲がり孔72は一定の曲率でもって滑らかな円弧を描くように形成されており、その円弧の頂部付近が雄継手11及び雌継手12を通過するように構成されている。
さらに、この曲がり孔72には、該曲がり孔72と等しい曲率を有する曲がりボルト73が挿入されており、該曲がりボルト73の両端はそれぞれ切欠部71、71から突出した状態で固定ナット74及び座金75等の締結手段により締結固定されている。
以上のような構成の変形例の継手構造10においては、曲がりボルト73によって、雄継手11及び雌継手12がそれぞれ両セグメント21、22に強固に固定一体化される。これにより、耐震性を向上させることが可能となる。
【0046】
さらに、上端接合面21a及び下端接合面22aにおける雄継手11及び雌継手12のが設けられる範囲は上記実施形態に限定されず、例えばこれら上端接合面21a及び下端接合面22a全体を範囲とするものや、図3、図4及び図5よりも小さな範囲に設けられているものであってもよい。
【0047】
また、本実施形態においては、側壁部セグメント22に雄継手11が、脚部セグメント21に雌継手12が設けられた構成とされているが、これとは逆に、脚部セグメント21に雄継手11が、側壁部セグメント22に雌継手12が設けられた構成であってもよい。
【0048】
さらにまた、上記説明した継手構造10は、扁平セグメントリング2のみならず、断面略円形のトンネル空間を形成する円形セグメントリングにも適用可能である。この場合であっても、上記同様に、軸力を確実に伝達させるとともに応力や曲げモーメントを分散させて円形セグメントリングの強度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施の形態に係る扁平セグメントリングを示す断面図である。
【図2】扁平セグメントリングの断面形状の構成を示す説明図である。
【図3】扁平セグメントリングの脚部付近を示す拡大図である。
【図4】本実施形態の扁平セグメントリングに係る継手構造の拡大図である。
【図5】雄継手及び雌継手の厚みが比較的薄い場合の継手構造の拡大図である
【図6】変形例の扁平セグメントリングの継手構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0050】
2 扁平セグメントリング(セグメントリング)
10 継手構造
11 雄継手
11a 凸曲面
12 雌継手
12a 凹曲面
13、14 インサート
20 コンクリートセグメント(セグメント)
21 脚部セグメント(セグメント)
21a 上端接合面(接合端面)
22 側壁部セグメント(セグメント)
22a 下端接合面(接合端面)
K1、K2 トンネル脚部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールドトンネルに構築されたセグメントリングの断面視斜め下方に位置するトンネル脚部におけるセグメントリングの継手構造であって、
前記トンネル脚部で連結される一方のセグメントの接合端部に、該接合端部の外側に向かって突出してトンネル方向に沿って延びる凸曲面を有する雄継手が設けられるとともに、
他方のセグメントの接合端部に、該接合端部の内側に向かって凹んでトンネル方向に沿って延びる凹曲面を有し前記雄継手と連結される雌継手が設けられ、
前記雄継手及び前記雌継手は、鋼材又は硬質樹脂から形成されており、
前記雄継手の前記凸曲面の曲率が前記雌継手の前記凹曲面の曲率よりも僅かに大きくされていることを特徴とするセグメントリングの継手構造。
【請求項2】
前記雄継手及び前記雌継手が、前記鋼材又は前記硬質樹脂に代えて、繊維補強高硬度コンクリート、セラミック及び鋳鉄のいずれかから形成されていることを特徴とする請求項1に記載のセグメントリングの継手構造。
【請求項3】
前記雄継手及び前記雌継手を、それぞれ前記一方のセグメント又は前記他方のセグメントに対して固定するインサートが設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のセグメントリングの継手構造。
【請求項4】
前記一方のセグメント、前記雄継手、前記雌継手及び前記他方のセグメントを連続して貫通するように一定の曲率で延びて、前記一方のセグメント及び前記他方のセグメントの内周面にそれぞれ開口する曲がり孔と、
該曲がり孔に挿入されて該曲がり孔の開口部にてそれぞれ締結固定される曲がりボルトとが設けられたことを特徴とする請求項1又は2に記載のセグメントリングの継手構造。
【請求項5】
前記雄継手及び前記雌継手が、円管状の部材を該円管の軸線方向に分割することで形成された瓦状をなしていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のセグメントリングの継手構造。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−43458(P2010−43458A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−207794(P2008−207794)
【出願日】平成20年8月12日(2008.8.12)
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【出願人】(000198307)石川島建材工業株式会社 (139)
【Fターム(参考)】